奏物語   作:ラトリラ

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英霊エミヤ。錬鉄の英雄。投影魔術を用い、多くの名剣、魔剣を模造する贋作者(フェイカー)

 

人々を救うために世界と契約し死後「抑止の守護者」となったとある平行世界の衛宮士郎の未来の姿である。

 

「全てを救う」という理想を追い求め続けて限界にぶつかった彼は「英霊になれば、きっと全てを救えるはず」と、死後に「守護者」となる契約を世界と交わしその人々を救った。

 

 

僕が何故、唐突に彼の話をしたのかというと、僕は中学生になると、周りの人間関係の変化に合わせるようにとある活動を始めたのだ。

 

「正義の味方」である。

 

幼少期より道場に通い身に付けた合気道を使って、近所のトラブルを解決して回った。しかし相手の力を利用する合気道では悪漢等を倒す際でも、投げる・固めるといった技が主。つまるところこちらからは何もできないのだ。お陰で挑発スキルが上がった。

 

正当防衛を狙えるという点では、受動的な武道は利点だ。しかし、どうせなら格好良くこちらから攻撃を仕掛けたいと悪い病気が鎌首をもたげる。そこで僕は転生前から意識していた(というよりは妄想していた)とある策を実行することにした。

 

その策を実行するために、僕は日常生活の中で家族の体の動きを観察。どこにどう力が入っているのかなど、重心や筋肉の動きを、意識せずとも見えるように訓練をした。

 

実戦でその観察眼を使用して、僕はその成果をすぐに知ることになる。もちろん僕は剣術なんて知らないし、空手なんて使えないから、打撃系はさっぱりだが、人の体の動きや力の入れ方を見極めれば、どこにどう入れればダメージになるのかがよく分かるようになった。

 

まさか身体中の筋肉をずっと緊張させておくことが出来るわけがない。

 

 

悪い病気が鎌首をもたげたと言ったが、実際その通りであった。

 

当時を振り返ると、なにやってるんだ僕は。と顔を覆いベッドの上を転げ回りたい。

 

それほど最悪で。

 

どうしようもなく中二病だった。

 

だが、僕のそれの質が悪いところは、妄想がファンタジーではなく、現実に可能なもので、なおかつそれを実行できる力が僕にはあったのだ。そのせいで、僕は誰にも止められないまま、自分の設定という名の現実に酔い、正義を成していた。

 

もし僕が中学生の僕がいる時代に戻れたなら、そいつを殴ってでも止めているだろう。「正義の味方」を目指した若い自分を止めにいくとか、まさにエミヤシロウである。

 

そんな目を覆いたくなるような過去の話も、今は現在の話なのだ。現在進行形で僕は正義の味方なのだ。

 

悪漢は倒し、困っている人には手をさしのべ、僕は町を巡っていた。

 

そうだ。だから老倉育にも手を差し伸べた。原作なんて物は僕の辞書には存在しない。存在しないとか言っておきながら、黒歴史を残すなんて愚行を犯してしまっているのだが、そこには触れないでいただきたい。以前にも言ったが、ここは僕が、如月奏音が生きる世界で、阿良々木暦が青春を過ごす世界ではないのだから。

 

キッカケは「正義の味方」になっていた僕が、案の定下がった成績──赤点と呼ばれる点数まで下がりかけた──を何とかするために、老倉に数学を教えてもらっていたことだ。

 

数学と言えば、僕は伝説の数学者、アルキメデスを思い浮かべる。彼は古代ギリシアの数学者であり、物理学者であり、技術者であり、発明家であり、天文学者である。そして古典古代における第一級の科学者であった。

 

その活躍は、その歴史は伝聞による物が多く、より正確な、綿密な情報は残ってはいやしないけど、それでも、それでもなお、彼の生み出した見つけた数式・発見は後世に大きな影響を残している。

 

彼の死は、ローマ兵の憤慨によるものであり、その原因もアルキメデスが数式を解いていたからである。ローマ兵が入ってきた時、アルキメデスは砂に描いた図形の上にかがみこんで、何か考えこんでいた。

 

ローマのマルクス・クラウディウス・マルケッルス将軍がシラクサを占領し、そこに居を構えているという彼を才能を認めて仲間に引き入れたかった。しかし、アルキメデスの家とは知らないローマ兵が、家に乗り込み名前を聞いたが、没頭していたアルキメデスが無視したので、兵士は腹を立てて彼を殺したという。

 

アルキメデス(そんな馬鹿の)最期の言葉は「図をこわすな!」だったともいう。人としてあるべき生への執着はないのだろうか。あったとしても残されていないだけなのだろうか。

 

さて、そんな人間味のない数式馬鹿の話は横にいて、今はただの数学好きの少女の話である。老倉育──彼女の家庭不和は僕の両親が解決した。そして一時期僕の家に僕の両親の手によって避難してきていたこともあって、以前と同様、否、これからは僕の家に居を構える事になる。

 

家族のように接しなさい。と、親は僕にそう言った。が、精神年齢30近い僕からすれば、彼女も「そだ()ちゃん」と、まるで姪っ子を呼ぶかのような感覚で呼んでしまう。だが、どうやら──それは両親からすれば正しい呼称だったのだろう。確かに僕は家族である妹二人をちゃん付けで呼ぶ、だから、故に、僕の両親はその呼び方を家族のように、と認識したのだろう。

 

その真相は、僕からすれば妹に対しても、親戚の子を相手にしている気分になるからだけど。

 

さて、ここまでの話を要約するとしよう。流石にダラダラと、長々と、熟々(つらつら)と語りすぎたようである。

 

要するに僕は、自らの正義感で突き進み「正義の味方」ごっこをして、そのついでで、幼馴染みの女の子を助けたのである。

 

流石中学生の僕。黒歴史を量産して、未来の僕を苦しめようとしてくる。恐らく未来の僕は今頃ベッドで転げ回っていることだろう。正義の味方なんて、戦隊ヒーローに憧れるような、現実を見ていない夢(個人の感想だ)、を達成しようとしているなんて。

 

そういえば英霊エミヤは信じ続けた唯一の理想にすら裏切られ、拒絶する事も許されず、数え切れないほど殺戮を続けた末に彼の信念も遂に磨耗し、かつての理想に絶望してしまう。

 

僕もいつか理想に絶望してしまうときが来るのだろうか。抱き続けた理想に裏切られて、心が磨耗してしまう日が来るのだろうか。理想を抱いたまま溺死する日が来るのかもしれない。

 

 

舞台挨拶にも満たない自分語りはこのくらいにして、そろそろ本筋に入ることにしよう。鬼に出会った僕の、なんて事の無い地獄の始まりだ。

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