奏物語   作:ラトリラ

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そして──

 

そして、そんな記憶も冷めやらぬ。その日の夜のことである。

 

夜。

 

僕はすっかり暗くなった町の中を、やはり徒歩で移動していた。午前中、自転車を使わず徒歩で学校の周りをうろついていたことに確たる理由はないが、今このとき、自転車を使っていないことには明白な理由がある。

 

ちなみに僕は移動手段を複数所持している。

 

一つは通学用のママチャリ──もう一つは、お気に入りのアクロスアーツバイクである。本当はもう一つ、空を駆ける自走シューズがあるのだが、あれを履くと異様に目立つので使いたくないのが本音。格好良いんだけどね。

 

そして後者の方は用がなくとも乗りたいくらいのフェイバリット自転車なのだが、しかし、今だけは乗るわけにはいかなかったのだ。厳重に鍵をかけて玄関の内側に保管してあるその自転車がなくなっていれば、僕が出かけたことを家族の誰かに気付かれてしまうから。

 

昔はともかく、今の僕は完全に放任されている。

 

頭脳面での成長が早かった僕は、一人にしても安心ということなのだろう。

 

だから二人の妹と違って、門限があるとか、夜間外出禁止ということは全くないのだが(もっとも妹達はそんなルールを守る気はさらさらないようだ)、そんな僕でも、家族に気付かれないように出かけたいときというのがあるのだ。

 

というか、ばれたら困るのだ。先の通り、両親は良い。僕のことなんか心配すらしないだろう。問題は二人の妹達だ。あいつらはヤバい。僕がこんな時間に出歩いてると知ったら血眼になって僕を探すだろう。

 

何故って、超が付くほどのブラコンだから。

 

特に下の妹がヤバい。上の妹はまだ僕のしょうもない誤魔化しを真面目に信じてくれるのだが、下の妹は病んでいるのでどうしようもない。こちらの言うことなんか聞きもせず、怒り狂ったジョーとなるのだ。

 

まあ、僕の部屋にかけられた厳重なセキュリティを突破し、その向こうに僕がいないことをあいつ等が知ればの話だが。

 

・・・・・・まさか靴まで見ないよな?

 

そんなわけで、僕は窓の外の景色がすっかり暗くなった頃、自分の部屋に『勉強中』のプレートをかけ、抜き足差し足忍び足で、こっそりと家を出たのだった。

 

この町唯一と言っていい大型書店で、予約した本をもらうために。

 

そしてそのミッションは既に果し、二冊の専門誌を購入、今はその後の帰路についているのであった。

 

午後のあの時、羽川のパンツは見えなかったけれど、見えていたとしても、何の感情も持たなかっただろう。僕は女子のパンツというものにそれだけ慣れていて、スカートに対しての夢というものは持ち合わせていない。

 

だって、僕に対する羞恥心をどこかに置き去りにした幼馴染(同級生)が下着同然の姿でうろついていたり、ある時は全裸を僕に見せてくるのである。慣れというのは恐ろしい。もし僕に幼馴染がいなかったら、羽川のパンツを見るのに必死になって、四ページほどにわたってその情景を語ったのだろうが、生憎僕は同級生のあれやそれについては知り尽くしている。何かが違うはずなのに、同じ認識をしてしまっているのだろう。

 

僕は何て枯れ果てた高校生なんだろう。小学校の頃はもうちょっと変態チックだったはずなんだけど。

 

 

「・・・・・・うわ、もうこんな時間か」

 

 

夜遅くに家を出て閉店間際の書店に飛び込んだとは言え、結構な時間になっていた。

 

──というか、日付が変わってしまっていた。

 

既に三月二十六日である。

 

たった今、この瞬間から春休みは始まっていた。

 

僕は携帯をポッケに仕舞い、足早に帰り道を急いだ。早く帰らねば──その大型書店は普通は自宅から歩くような距離ではない。というか、その書店は学校からそう遠くない位置にあるのである。自転車通学しているような距離を歩いているのに、ほとんど等しい。

 

時間はかかって当たり前。

 

周りは家を出た時よりも更に暗くなっている。これで車に轢かれでもしたら馬鹿馬鹿しい。

 

別に見てイヤらしい本を買ったわけではないけれど、今時本を買う人間も珍しいし、更に言えば四六時中一冊の本を持つためにブックホルダーを着けている僕は、もっと珍しい存在だろう。

 

事故に遭い、その後に荷物が見聞されて見ろ。

 

ほとんど白紙の古びた本に、表紙にアニメ調の女の子が書かれた専門誌。

 

人に伝えようとする努力を怠りがちなマスコミが流してみろ。僕はエロ本を買って車に轢かれた間抜けになってしまう。

 

・・・・・・まあ、こう言う意味のない一喜一憂は、むしろちょっと楽しいくらいだ。

 

これだけ暗いと確かに危ないけれど、とにかく田舎町だから、車の数自体が少ないし、ヘッドライトですぐにわかるのだ。基本的には杞憂のようなものである──しかし。

 

というか、ちょっと暗すぎないか?

 

現代人は夜目が利くとはいえ、電灯がないと困るのだ。

 

そう思って空を見上げると、原因が分かった。

 

街灯の明かりが消えているのだ。

 

五メートル間隔で設置されている街灯がほとんど明かりを灯していなかった──いや、ほとんどどころの話ではない、たった一本を除いてすべてが消えていた。

 

故障か。

 

しかし、ここまで大量の街灯が、一気に故障するなんて事はないだろう・・・・・・なら、停電かな? それだと、一本だけ点灯しているのはおかしいか。

 

そんな事を思いながら。

 

そんな事を思いながら、しかしあまり気にすることもなく、そういうこともあるだろう程度の認識で、僕は歩みを進めた。

 

日が昇るまでに帰らないとマズい、日が昇れば扉のセキュリティは自動で解除されるし、妹達が起しに来るのである。

 

 

「うぬ」

 

 

だから。

 

 

「おい・・・・・・そこの、うぬ。うぬじゃ」

 

 

だから、こんな風に声をかけられても、無視して先に──うぬ?

 

何だその古風な呼び方は?

 

 

僕は思わず声のした方向を見た。

 

見てしまった──そしてそのときこそ、僕は絶句した。

 

この辺で唯一点灯していた街灯の下。

 

その街灯に照らされて──『彼女』はいた。

 

 

「儂を・・・・・・助けさせてやる」

 

 

この田舎町にはとても似合わない綺麗な金髪。

 

整った顔立ち──冷たい眼。

 

シックなドレスを身にまとっている──そのドレスもまた、この田舎町には不似合いだ

 

しかし、不似合いの意味がそのドレスの場合だけは違う。

 

さぞかし立派で、格調高い服だっただろうドレスは見る影もない。

 

引き千切れ。

 

破れに破れて。

 

ぼろぼろの布切れのようだった。

 

 

「聞こえんのか・・・・・・。 儂を助けさせてやると、そう言うておるのじゃ」

 

 

『彼女』は──僕を睨みつける。

 

その鋭くも冷たい視線に僕は身の竦むような思いをするが──しかし同時に疑問を抱く。何故、睨むしかしないだろう。

 

ようやく目の前の現実にフォーカスがあった僕の目は、真実を捉えて僕に伝えてくる。

 

 

「・・・・・・・・・・・・っ!」

 

 

『彼女』には、その四肢がなかった。

 

右腕は肘あたりから。左腕は肩の付け根から。

 

右脚は膝のあたりから。左脚は太ももの付け根から。

 

それぞれ──()()()()()いる。

 

 

「お、おい──お前、大丈夫なのか」

 

 

嫌な予感がする。

 

僕の内なる何かが、本能と呼ぶべきか、過去の記憶と言うべきか、そう言ったところが止まれ、関わるなと警告を発している。

 

ただ、生まれて十八年。培ってきた善性が目の前の『彼女』に手を差し伸べようとする。

 

 

「す、すぐに、救急車を──」

 

 

先ほどポケットに仕舞い込んだばかりの携帯電派を取り出すが──手が震えて、ボタンが押せない。

 

そう言う時のための超科学だろうに、どうして携帯電話が廃止されたのかも忘れている。

 

っていうか、そもそも救急って何番だっけ?

 

117?

 

115?

 

あ、そうだ。119だ──

 

 

「きゅうきゅうしゃ・・・・・・そんなものいらんわ」

 

 

『彼女』は。

 

強い口調で──古くさい口調で、僕にそう語りかけてきた。

 

 

()()()()・・・・・・、()()()()()()()()

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

携帯電話の番号を押す指が──止まった。

 

そして。

 

僕は昼過ぎ、羽川と交わした会話を思い出す。

 

女の子の間だけで流れる噂。

 

何だっけ?

 

何を話したんだっけ?

 

夜。

 

夜とか、一人で歩いちゃ駄目だって──

 

 

「・・・金髪」

 

 

金髪。

 

金髪が──

 

街灯に照らされて、金髪は眩しいくらいだった──そして。

 

()()()()

 

見る影もない、どころではない。

 

影が、本当にないのだ。

 

 

「我が名は」

 

 

そして──『彼女』は言う。

 

 

「我が名は、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード・・・・・・鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼じゃ」

 

 

四肢を失った状態で。

 

それでも高飛車に構えて──言った。

 

開いた唇の中には──鋭い二本の牙が見える。

 

 

「うぬの血を、我が肉として呑みこんでやろう。じゃから──うぬの血を寄越せ」

 

「・・・・・・吸血鬼ってのは」

 

 

僕は息を呑みながら、言う。

 

 

「不死身のはずじゃ──ないのかよ」

 

「血を失い過ぎた。もはや再生もできぬ、変形もできぬ。このままでは──死んでしまう」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「取るに足らん人間如きが、我の血肉となれることを光栄に思え」

 

 

一体、何が起きているんだ?

 

どうして、僕の前にいきなり吸血鬼が現れて──いきなり死にかけているんだ?

 

存在しないはずの吸血鬼が存在していて。

 

不死身のはずの吸血鬼が死にかけている。

 

なんだ、この現実。

 

 

「お・・・・・・おい」

 

 

動揺のまま、口も利けずにいる僕に、『彼女』は眉を顰めたようだった。

 

 

「ど・・・・・・どうしたのじゃ。儂を助けられるのじゃぞ。こんな栄誉が、他にあると思うのか。何をする必要もない。──儂に首を差し出せば、後は全部、儂がやる」

 

「・・・・・・血、血って・・・・・・輸血とかじゃ、駄目なのか」

 

 

我ながら冷静さを欠いた質問である。

 

意味が分からない。

 

なんの冗談なんだろう。

 

『彼女』・・・・・・キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードもそう思ったのか、返事をしなかった。

 

どうしようもなく、目の前に残されたのは二つの選択肢だけだった。

 

鬼に喰われて死ぬか。

 

鬼から逃げて生きるか。

 

逃げるのは、簡単だ。

 

目の前のこの女は、僕を食べることで──生き残ろうとしているだけ。

 

だったら、四肢もなく無理矢理といった様子で襲いかからないところをみて、踵を返してしまえばもう、こいつと関わることはない。

 

そうだ。

 

逃げてしまえば良い。

 

どうして、助けようとなんかしたんだ。

 

お人好しにもほどがある。

 

こいつは人間じゃないんだ──人外。

 

人よりも上位の存在。

 

そんな事、言われずとも、視れば分かることだろう。

 

 

「どうした・・・・・・血を。血を寄越せ。早く・・・・・・早くするのじゃ。何をとろとろしておるのじゃ、こののろまが」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

こいつにとって、それは当たり前か。

 

よし。

 

覚悟は決まった。

 

一歩後ろに下がる。

 

大丈夫。

 

逃げられるはずだ・・・・・・逃げ切れるはずだ。

 

走ればいい。

 

それだけで、この現実を、否定できる。

 

そして。

 

僕は、もう片方の足も、後ろに下げ──

 

 

「う・・・・・・嘘じゃろう?」

 

 

その途端。

 

彼女の眼が──とても弱々しいものとなった。

 

先ほどまでの冷たさが、それこそ嘘のように。

 

 

「助けて・・・・・・くれんのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

ドレスはぼろぼろ。

 

腕も脚も無残に引き千切られ。

 

街灯に照らされても影もできない、化物。

 

しかし──僕は。

 

金色の髪を持つ、そんな彼女を美しいと思った。

 

綺麗だと思った。

 

心底──惹かれた。

 

そんな彼女から眼を逸らせなかった。

 

それ以上、足を動かすことはできなかった。

 

漫画の吸血鬼に、初恋なんてするんじゃあなかった。

 

 

「い・・・・・・嫌だよお」

 

 

それまでの高慢ちきな言葉遣いも崩れ──彼女は、髪の色と同じ、金色の瞳から──ぼろぼろと、大粒の涙を零し始めた。

 

子供のように。

 

泣きじゃくり始めたのだ。

 

 

「嫌だ、嫌だ、嫌だよお・・・・・・、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくないよお! 助けて、助けて、助けて! お願い、お願いします、助けてくれたら、助けてくれたら何でも言うこと聞きますからあ!」

 

 

痛いほどに──彼女は叫ぶ。

 

もはや、僕のことなど目に入らないように。

 

 

「死ぬのやだ、死ぬのやだ、消えたくない、なくなりたくない! やだよお! 誰か、誰か、誰か、誰かあ──」

 

 

吸血鬼を助けるやつなんて。

 

いるわけがない。

 

いくら泣き叫んだところで──心を動かされるな。

 

だって、死ぬんだぜ?

 

同じ人間のことでさえ、背負い込むのが嫌になったのに、まして化物のことなんて、重すぎて背負えるわけがない。

 

吸血鬼なんて背負い込んでみろ。

 

どれだけ──人間強度が下がることか。

 

 

「うわああああん」

 

 

流す涙が──血の色に変わり始めた。

 

死ぬのか。

 

血の涙を流して。

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・」

 

 

ついに、彼女の言葉は懇願のそれから謝罪のそれへと変わってしまった。

 

一体、何に謝っているのだろう。

 

一体、誰に謝っているのだろう。

 

けれど──見ていられなかった。

 

彼女がそんな風に、何ともしれぬ誰ともしれぬ存在に、そうやって謝る姿を。

 

多分。

 

彼女は、そんな事をしてはならない存在だ。

 

そんな無様な死に方を──するべき存在じゃない。

 

 

「────────チィッ!」

 

 

白銀に輝く魔法陣を出現させ、そこに叩き込むように買った本を入れる。

 

そしてそのまま、僕が死んだら、自らを燃やしてこの世から跡形もなく消えるんだ。という命令を、本の管理妖精に告げる。

 

そうだ。これから死ぬんだ。

 

僕の人間強度は、今、地に落ちた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

僕の眼からも、自然と、ぽろぽろと涙が零れていた。

 

両親。

 

二人の妹。

 

たった一人の幼馴染。

 

あとは、小学校の頃からの友人達。

 

毎日顔を合わせる家族はともかく、連絡すらろくに取らないくせに、こういう時にだけ走馬灯のように僕の脳裏をかすめるのだ。

 

こんなことになると分かっていたら、もっとちゃんと、話をしていたのに。

 

こっそり抜け出して、そのまま行方不明か。

 

僕が人間社会に戻れるかどうかは、これからの僕の選択にかかっている、人生にセーブポイントなんかない、あったら友好に使ってるさ。

 

どうなるか分からないんだ、今まで言えなかったことを言っておこう。

 

愛していたぜ、マイシスターズ。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

涙を拭う。

 

全部分かっている。

 

思い出したという表現は間違っていない。

 

これから巻き込まれるありとあらゆる物語。卒業までに一体どれだけの困難と、苦行を乗り越えれば良いのか僕にも見当がつかない。

 

そもそも、阿良々木パイセンのように助かる保障はどこにもない。

 

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。

 

彼女に喰われて死んでしまう可能性だってある。

 

だけど。

 

ここであいつを助けなかったら僕が後悔する。

 

ただ、それだけだ。

 

顔を上げる。

 

覚悟は決まった。

 

彼女は、もう泣いてはおらず。

 

また、何も叫んではいなかった。

 

もう、諦めてしまったかのようだった。

 

 

「諦めんな、馬鹿!」

 

 

僕は、そう呼び掛けながら、彼女に駆け寄って──彼女の前にかがみ込み、そして。

 

自ら首を、ぐいっと差し出した。

 

 

「あとは──全部、お前がやるんだろうが」

 

「・・・・・・え?」

 

 

彼女は──眼を見開く。

 

驚きがその顔を支配していた。

 

 

「い──いいの?」

 

「悪いに決まってんだろうが、この野郎──」

 

 

今更、踏みとどまらせるようなこと言うんじゃねえよ。

 

 

「い──いいか。確かに僕は吸血鬼が好きだけれど、それはあくまで漫画のキャラクターだからであって、お前みたいな、現実に存在する、化物のことじゃあないんだよ! 僕が好きなのは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルであって、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードじゃあないんだ!」

 

 

僕は叫ぶ。

 

思いのままに叫ぶ。

 

 

「だからといって、お前を見捨てて無理してまで生きてなきゃいけない理由なんか一個もないんだよ、自分の命を優先しなきゃいけない理由なんか一個もないんだよ、僕なんか死んでも世界には何の影響もないんだよ!」

 

 

美しくも。

 

綺麗でもない。

 

それが僕の人生なら。

 

この美しいものを生かすために──

 

僕は死ぬべきじゃないか。

 

それが結論だろう。

 

僕は取るに足らない人間ごときで。

 

吸血鬼は上位の生命──なんだろう?

 

遠回しに死ぬなと言われたことも今は忘れよう。

 

 

「──次の人生で、今度こそ上手くやる。要領の良い、人間関係をうまくかわせて、細かいことでいちいち罪悪感を抱かない。悩むこともなく無作為に行動できる、我を通すことに何の疑問も抱かないような、嫌なことは全部他人の所為にできる、そんな人間に生まれ変わってやる──だから!」

 

 

僕は言った。

 

せめて。

 

自分からそう言うことが、下位の存在としての誇りだった。

 

 

「僕がお前を助けてやる──僕の血を吸え」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「全部やる。一滴残さず──絞り尽くせ」

 

「・・・・・・あ」

 

 

彼女は。

 

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードは──勝手な推測ではあるが、多分、生まれて初めて、自分以外の存在に対して、礼を言った。

 

 

「ありがとう・・・・・・」

 

 

ざくり、と。

 

鋭い痛みが首筋に走り──僕は彼女に咬まれたことを自覚する。

 

途端に意識が消失していった。

 

最後くらい、格好つけても良いだろうか。

 

こうしてこの僕、如月奏音の、十七年と少しの短かった新しい人生は、あっけなく、前触れもなく終わりを迎えた──はずだった。

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