奏物語   作:ラトリラ

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004

ドラマツルギー。

 

エピソード。

 

ギロチンカッター。

 

それが、キスショットから身体の()()を奪った三人の名である──らしい。

 

ドラマツルギーという男は彼女の右脚を。

 

エピソードという男は彼女の左脚を。

 

ギロチンカッターという男は彼女の両腕を。

 

それぞれ──奪ったらしい。

 

だから彼女は、あんな瀕死の状態に陥ったのだ──瀕死どころか、僕の血を吸わなければ、確実にキスショットは死んでしまっていただろう。

 

何故と問うまでもなく、吸血鬼などの化物は淘汰されるのが宿命。

 

その三人は吸血鬼退治を生業とする専門家らしい。

 

 

「で、僕はどうすれば」

 

「うぬがその三名と()()()()()──儂の手足を取り戻してきてくれればよいのじゃ」

 

「えぇ・・・・・・?」

 

「GO」

 

「いや、GOじゃなくて。確証はあるのかよ」

 

 

厳格なのかおちゃらけているのかはっきりして欲しい。

 

 

「ふむ。まあ、心配になるのも無理はないが、うぬは既に我が眷属──余裕を持って相手をすれば、その三人とてうぬの敵ではない」

 

「ふーん」

 

 

そんなわけで──僕は、夜の街を歩いていた。

 

怖かったけれど、既に家には電話を入れてある。

 

運悪く、電話に出たのは妹だった。上の妹である。よく考えれば誰が出ても地雷なのだが、それでもマシな部類とは言いがたかった。雷が落ちるどころではない、核爆弾でも爆発したのかという爆音と共に、音が聞こえなくなった。

 

とりあえず、最低限、誤魔化しを含めた嘘百パーセントの捏造エピソードを、メールでリビングのパソコンに送ったのだが、コンマ数秒で下の妹から返信メールが届いた。内容は言いたくない。

 

あいつ等ここまでブラコンだったっけ。

 

発達した技術によって、ARも発達し、人間そのものが通信機器になることもできるのだが、それをやってしまうと妹達が場所を特定しそうなので、古い携帯電話を使用したのである。

 

その携帯はすでにうんともすんとも言わない。

 

着信で充電が切れた──その全てが妹達からだったのは気にしないでおこう。

 

体内通信も五月蝿いが無視しておこう。

 

キスショットの言葉を信じるのならば、こうやってダラダラと夜の街を歩いていたら向こうから寄ってくると言うことらしいのだが、羽虫という表現はまさに的確だ。

 

自分自身を囮にして、歩道のない道をてくてくと当てもなく歩いて──三叉路に差し掛かった、そのときだった。

 

 

「うん。どうしよう」

 

 

まず、正面右側から。

 

身の丈二メートルをゆうに超えるのではないかという、巨漢の男が──両腕にそれぞれ波打つデザインの刃がきらめく大剣を持ち、こちらに向かって歩いてきた。

 

あらかじめ聞いていた特徴と一致する。

 

あの男が、ドラマツルギー。

 

 

「お──おぉ」

 

 

キスショットから右脚を奪った男。

 

そして正面左側から。

 

ドラマツルギーと比べたわけではないが、随分と線の細い男が近付いて来ていた──幼さを残す顔立ちではあったが、人を殺せるくらいの鋭い目つきだった。巨大な十字架を肩に載せたままこちらへと寄ってくる。

 

聞いていた特徴と一致する。

 

あの男がエピソード。

 

キスショットから左脚を奪った男。

 

 

「ど──どうすれば」

 

 

更に、僕の後ろから。

 

神父風のローブを身に纏った、正面の二人とは対照的に、見た目さけは大人しそうな男が──ついてきていた。しかし、2人とは違い彼だけは武器らしい武器を持っていないようだ。

 

聞いていた特徴と一致する。

 

あの男がギロチンカッター。

 

キスショットから右腕と左腕──両腕を奪った男。

 

 

「──つうか、どうしようもねえ・・・・・・!」

 

 

吸血鬼退治の専門家。

 

ドラマツルギー、エピソード、ギロチンカッター。

 

その三人が──僕を中心に、集結していた。

 

まるであつらえたような三叉路である。

 

逃げ道もない──袋の鼠だった。

 

 

「あー? んんだよ。超ウケる。ハートアンダーブレードじゃねーじゃねーか。誰だこいつは?」

 

 

最初に、エピソードが口を開く。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 

エピソードのその言葉に、間に挟まった僕を無視して筋肉隆々の男、ドラマツルギーは応えたようだった。

 

何て言ったか知らないけど、残念なことに僕はマルチリンガルではないのだ。

 

 

「いけませんよ、ドラマツルギーさん。現地の仕事は現地の言葉で。基本です」

 

 

そんな僕を気遣ったわけでもないだろうが──ギロチンカッターはそう言った。

 

穏やかな口振りである。

 

神父ってあんなやついるんだ。

 

僕の中で神父のイメージは、アレクサンド・アンデルセンや言峰綺礼、ステイル=マグヌス、エンリコ・プッチで固まっちゃってるから。

 

 

「現地の仕事は現地の言葉で。基本です」

 

「・・・・・・・・・・・・っ」

 

 

何もできない。

 

何もさせてくれない。

 

チャンスを待とう。

 

 

「まぁ確かに、あなたの言う通りでしょうドラマツルギーさん。間違いなくこの少年、ハートアンダーブレードさんの眷属でしょうね──」

 

「マジかよ・・・・・・、あの吸血鬼は眷属を造らないのが主義じゃねえのか?」

 

 

不機嫌そうに──エピソードが呟く。

 

 

「昔、一人だけ造ったとも聞いていますがね」

 

「■■■・・・・・・、大方、私達に追い詰められ・・・・・・、やむを得ず、手足代わりになる部下を造ったということだろう」

 

 

ドラマツルギーが、今度は日本語で言った。

 

 

「ってえことは何かい? 存在力を失って、非常に探しにくくなっているハートアンダーブレードの行方は、このガキの身体に訊けばわかるってことかい?」

 

「そういうことになりますかね」

 

 

物騒なエピソードの言葉を、あっさりと首肯するギロチンカッター──そして、ドラマツルギーも、

 

 

「この少年を退治すれば、その褒賞はハートアンダーブレードとは別にもらえるのだろうな」

 

 

と、皮算用のようなことを言った。

 

まぁ、向こうのペースで来られたら、困るのはこっちだし。

 

引き込んでみるか。

 

 

「アッハッハッ。いいじゃねーか。そっこそこの腕のが三人・・・・・。実験動物は、多いに越した事ァねぇや」

 

 

煽りが通じるかわからねーから、とりあえずわかりやすく、こちらも殺す気だと言うことを教えておこう。

 

出し方がわからないから、殺すという単語を脳内で連呼しながら言ってやった。

 

 

「情報だけ吐いて死んでいけ。キスショットの手足、返してもらうぞ」

 

 

「「「っ!!!」」」

 

 

どうやら僕の初めての殺気は効いたらしく、三人は一斉に、僕に向かって飛び掛かってきた。

 

僕がいたのは三人の交差点。得物も、戦法もまるで違う三人が、我先にとほとんど同時に攻撃を仕掛けてくる。

 

恐らく早い者勝ちとでもルールを作っているのだろう、互いの攻撃を最低限邪魔しないように放たれた、その全ての隙間を縫うように攻撃をかわす。

 

ついでだから、三人同時に手足かすめて、体勢を崩させた状態で宙に浮かせる。

 

しかし、そこは一応専門家、すぐさま体勢を立て直して再び同時にきたものだから、

 

 

「りゃあぁああ!!」

 

「ぬっ。おお・・・・・・」

 

「くっ」

 

「うっ・・・・・・」

 

 

再び手足をかすめて、今度は少しはダメージが入るように、三人とも──地面にキスをさせてやった。

 

予想以上に力が出たことはさておいて、さすがはこう言ったことに慣れている専門家。すぐさま起き上がってきた。

 

まあ、起き上がれるようにはしておいたんだけど。

 

 

「はぁ!? 何だよこいつ、元は普通の人間じゃねーのかよ!?」

 

「・・・・・・だが、今の動きはただ者ではない」

 

「ドラマツルギーさんの言う通りです。彼は我々の想像より、ずっと強い。本気で戦いましょう」

 

「次から本気出すとか、予想以上とか。お前等僕を舐めすぎじゃあないか? そんな事だから、僕みたいなやつに良いようにされるんだよ。雑魚が」

 

 

煽り耐性が低かったのか、どうしてもキスショットの居所が知りたいのか、エピソードが十字架ぶん回して突っ込んできた。

 

恐らくどの意味でも本来の使い方と違うであろう、十字架を()()()()()足で弾き、驚愕に固まった身体を、かかと落としの要領で地面に叩き付けた。

 

そのまま顔を踏んでやろう。ついでにぐりぐりと踏みつけてみる。

 

ザマァミロ。

 

 

「こんなものか? もし、この程度だったとしたら・・・・・・青汁の百倍青臭い」

 

「・・・・・・ハートアンダーブレードの眷属よ。この期に及んでこういうことを言うのはおかしいかもしれんが、そこまでやるか?」

 

 

どうやら、ドラマツルギーを含めるこの三人、僕が元人間でありながらここまでやることに驚いているようだ。

 

でも、舐められるわけにはいかないから、悪役(ヒール)に徹しよう。

 

 

「あ? 何、お前。互いが互いを殺せる技能の持ち主に、老若男女なんて関係ないだろ。お前は自分を喰い殺しにきた化物を、雄雌子どもで対応を変えるのか?」

 

「先ほどまでのように、我々を投げ飛ばすだけでも十分だろう。彼の顔を踏む必要はない。そこまで仲間が大事か」

 

「・・・・・・仲間ァ~? おまえ、アレか? 最近の歌、よく聞く方か?」

 

「は? 歌?」

 

 

そう、歌である。

 

 

「『君は一人じゃないヨ』 『みんなで力を合わせれば』

 『いつも側にいるヨ』 『キミのためなら』なーんての並んだ歌多いだろ、最近。いや、確かにそうだよ。そりゃ人間一人じゃどうにもならない事も多いさ」

 

 

だけど、しかしだ。

 

 

「実際の話、ただのヘタレがつるむ言い訳になってると思わないか? そいつの貧弱さと、心細さを慰めるための「具」にしとるだけ──違うか? 仲間って呼び方の「家来」欲しいだけ──違うか?」

 

 

だから、僕は最後に、思いっきりゲスい顔で、

 

 

「僕は仲間なんぞ要らん! 友達もいねーけどな!」

 

「・・・・・・こいつ、悪人だな。しかも「極」が付く」

 

「間違いないですね。吸血鬼とか関係なしにセイバイすべきです。息をしていてはいけない人種な気がします」

 

 

さて、次はどう料理してやろうかと、そんな事を考えていた時だった。

 

 

「はっはー」

 

 

と、そんなお気楽な笑い声が、上から聞こえた。

 

 

「こんな住宅街で物騒なこと言って、剣やら十字架やら振り回して・・・挙げ句、手足をかすめただけで投げ飛ばすなんて、君たちは本当に元気がいいなぁ──」

 

 

アロハ服を着たおっさんが、突然上から、僕と三人の専門家達の間に割って入るように現れた。

 

 

「──何かいいことでもあったのかい?」

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