奏物語   作:ラトリラ

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忍野メメ。

 

通りすがりらしいおっさんは、そう名乗った。

 

あの後、このおっさんはギロチンカッター達に何かを言い、彼らを帰した。

 

しかし、チャラいおっさんだな・・・・・・。

 

 

「不完全燃焼だ。良い感じだったのに」

 

「いやはや。結果的に邪魔しちゃったのは悪かったと思うよ。だからその事については謝らせてもらおうか、如月くん」

 

 

キスショットの手足を取り戻すという目的を果たせず、挙げ句手の内を一つ向こうに晒すことになってしまった。

 

忍野メメ──

 

このアロハ服の男が、僕の敵・・・・・・つまり、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの敵でなければ、いいんだけど。

 

 

「そう警戒するなよ、如月くん。そんなぎらぎらした眼ェしちゃってさ。元気いいなぁ、何かいいことでもあったのかい?」

 

 

言いながら、忍野はアロハ服の胸ポケットから煙草を取り出して、口にくわえた──何故か、火をつけずに、ただ、くわえただけである。

 

 

「まあ、とりあえず帰ろうぜ、如月くん」

 

「帰ろうって」

 

「あの学習塾の廃墟にだよ」

 

 

当たり前のようにそう言って、忍野は歩き出した。

 

 

「ちょちょちょ、ちょっと待った! おい、おい! 忍野、お前、なんでそんな事──知ってんだ?」

 

「ん? そりゃ知ってるよ──何せ、あの子にあの場所を教えたのは、僕なんだからね」

 

 

忍野が言うには、キスショットが僕の身体を引きずって、随分と困った顔をしていたから教えたんだそうだ。

 

そんな事で教えるんだなぁ。

 

見た目幼女だっただろうに。

 

よく、教える気になったよな、普通なら、通報一択だろうに。

 

 

「お前──何者なんだ?」

 

「僕かい? あるときは謎の風来坊、あるときは謎の旅人、あるときは謎の放浪者、あるときは謎の吟遊詩人、あるときは謎の高等遊民」

 

 

全部、謎じゃないか?

 

 

「あるときは女声の最低音域」

 

「・・・・・・あるときはアルト?」

 

「あるときはある。ないときはない」

 

「ただの開き直りになっちゃったよ」

 

 

なんてね、と。

 

はぐらかすように肩をすくめ、

 

 

「僕はただの、通りすがりのおっさんだよ」

 

 

すかした調子で、忍野は言う。

 

やはりチャラい。

 

というか、僕の常識では上から降ってきた人のことを、通りすがりとは言わない。

 

そして彼もまた、何かしらの専門家だと言う。忍野が言うには吸血鬼ではなく、もっと専門が広いらしい。

 

道中はこのくらいしか教えてはくれなかった。キスショットも一緒の方が効率がいいらしい。

 

恐らく、通りすがりと言ったが、遠くから見ていた──おそらく、そして、奴らが僕に接触したのを確認して、声をかけるつもりだったのだろう。

 

しかし、予想以上に僕が善戦をするものだから、出るタイミングを見計らっていたのだろう。

 

何が目的かは相変らず分からないけれど、ただ者では無いとは思うけれど、悪いやつではないとも思うのだ。

 

敵か味方か分からない以上、必要以上になれ合うつもりもない。しかし、どうすることもできない上に、本拠地も知られているのだから、大人しく共に行動した方が良い。

 

僕は怪しみながらも忍野と一緒に帰るのであった。

 

 

「おお! 帰ったか!」

 

 

学習塾跡の二階に帰り着くと、キスショットは喜色満面、むしろ待ちかねたといった感じの表情を僕に向けた。

 

さて、僕の舌先三寸、手八丁口八丁、嘘八百が火を噴くぜ。

 

と、意気込んだところで、あるじ様によってブレーキがかけられた。

 

 

「ん・・・・・・? 後ろの奴は・・・・・・見覚えがあるな?」

 

「酷いなぁ。その程度の認識かよ」

 

 

忍野は苦笑する。

 

 

「この秘密基地を教えてやったのは僕じゃないか。ハートアンダーブレード──怪異殺しちゃん」

 

「ああ・・・・・・そうか。あの時の」

 

 

キスショットは頷いた。

 

どうやら忍野の言っていたことは嘘ではないらしい。

 

 

「それで? どうじゃったのじゃ?」

 

「吉北産業」

 

「ちゃんと説明するのじゃぞ?」

 

「ぼ──」

 

「三行で説明しよう、等と考えるではないぞ?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

だから、何で吸血鬼がネットスラングまで知ってるんだ、しかも、僕の前世の。

 

吉北産業はオリジナル性の高いものだから、今北産業をよく知っていないと対応できないはずだったのに。

 

なんで知ってるんだ。

 

・・・・・・まあ、いいや。

 

 

「えっと・・・・・・じゃあ、聞いてくれ」

 

「うむ」

 

 

面倒だから、正直に話すことにした。

 

ドラマツルギー、エピソード、ギロチンカッター、三人を同時に相手する羽目になったこと。

 

とりあえず、手合わせしてみて、手応えを感じたこと。

 

そして、良いところで忍野に邪魔をされたこと。

 

それを淡々と話した。

 

ちなみに忍野はその間、学習机を集めて、何をしているのかと思えば、どうやらベッドを作っているらしかった。

 

え?

 

寝る気なのか?

 

 

「ふむ。・・・・・・我が従僕の言うておることに偽りはないのか、小僧。何か弁明があるのであれば、聞いてやらんこともない」

 

「いやいや、あれはただ、町中で迷惑も考えずにやんちゃしてる人たちがいたから注意しようと思ったんだよ。大人なら当然のことだろ?」

 

「・・・・・・確かに」

 

「むぅ。現代はそうじゃったの」

 

 

人に迷惑をかけちゃあいけない。

 

フィクションと違って、この星その辺りはきっちりしてるから。

 

 

「しかし、もし小僧が邪魔せねば、従僕が勝っていたのではないのか」

 

「キスショット、残念だがそう上手くは行かない。こっちは向こうの手札を見るために挑発して、対応するために手札(カード)を一つ切った。僕はあの場では、彼等を一度撤退させる必要がどうしてもあったんだ」

 

「ほう、何故じゃ」

 

「準備不足」

 

 

これ一つに限る。

 

 

「今日は元々様子見のつもりだったし、キスショットの言う通り、一人一人を相手にした場合だけ、僕はごり押しでもあいつ等に勝てたかもしれない、けど、三人同時に襲ってきてくれたお陰で、向こうも油断していた、だから、ゆっくり観察できた。これから先は、一人ずつ相手にする場合のみ、こっちは最低限の手の内を晒すことになるけど、常にあいつ等の優位に立てると思う」

 

 

流石に三人同時だと、手の内をバンバン晒しながら戦わなくちゃあジリ貧で、判定負け。みたいなことになるかもしれない。

 

それに。

 

 

「これはあいつ等に出会った瞬間組み立てた作戦だから、穴があってもおかしくない。それに三人まとめてだったら、フルパワーのお前がやられたんだろ? だったら、これからも先、連携された状態じゃ、お前の眷属で、主人に力で劣る僕が、あの三人に勝てるわけがないだろ」

 

「馬鹿野郎お前うぬは勝つぞお前!!(天下無双)」

 

 

だからなんでそんなネタを知ってるんだ。

 

この吸血鬼。

 

「例のアレ」は僕の前世での履修科目(趣味)なんだけど!?

 

 

「・・・・・・その言い方じゃあ、僕は負けることになるんだけど」

 

「負けると言うより屈するじゃな」

 

「分かってるんなら言うなよ」

 

「ネタ振りではないのか」

 

「この状況でネタを振ると思うか」

 

「うぬも案外余裕なのじゃなと」

 

 

そんな訳があるか。結構こっちも限界なんだよ。

 

っていうか、本当にどこで知ったんだ?

 

 

「余裕なんてない。こっちはあいつ等がどこでどう襲いかかってくるか、三人が纏めてくるのかばらけてくるのか、そんな事を考えなくちゃあいけないんだ」

 

「それは、大変じゃのう」

 

「他人事かよ。準備不足で挑む羽目になったのもそうだけど。アイツが邪魔しなきゃ、最初から最後まで僕のペースで操れた」

 

「小僧はとんでもないものを盗んでいったのう」

 

 

お前は銭●警部まで知っているのか。

 

どんな吸血鬼だ。

 

 

「ああ、そうだ。そうだった。僕が君達に手を貸そう。元々あの戦いに水を差したのは僕だ。如月くんも頑張ってたしね。だから僕が責任をとろう」

 

 

唐突に、忍野はそう言った。

 

キスショットの言葉に反応したのだろうか。

 

責任を取る?

 

 

「どういうことだ? 忍野。お前は僕達のことを助けてくれるのか?」

 

「いいや、助けない。僕は君達の手伝いをするだけだよ。正確に言うなら、バランスをとるだけだよ。だって僕の専門はバランサーだからね」

 

 

バランス。一体何のバランスを取っているんだろう。

 

僕達と、あちら側の?

 

 

「具体的には忍野は何をするんだ?」

 

「交渉をするんだよ。彼らと勝負についてのね」

 

 

続けて忍野はこう言った。

 

 

「如月くんは確かに強い。でも、今自分でも言ってた通り、流石に吸血鬼退治の専門家を三人同時に相手にするのは難しい。だから僕が間を取り持って、一対一の勝負にする。そうすれば、君だって勝ちやすいだろ?」

 

 

キスショットは何も言わない。

 

どうやら決定権は僕に委ねられているようだ。

 

 

「ああ、でも勿論、僕も仕事だからタダってわけにはいかないよ。何せ旅から旅の放浪者だからね、路銀は大切なのさ。そうだな──二百万円くらいでどう?」

 

「にひゃ!?」

 

「言葉に、できない・・・」

 

「ある時払いの催促なしだ。それくらいは要求しないと──それはそれでバランスが取れないものでね」

 

「・・・・・・で、でも」

 

 

高校生で借金持ちはヤバい。

 

何がヤバいって、もしそうなったのを妹が知ったらお金にかこつけて何を迫ってくるか。

 

っていうか、キスショット。

 

お前何歌ってんだ。

 

小田●正まで知ってるとか、僕と同じ転生者なのか?

 

 

「おい、従僕」

 

「・・・・・・なんだよ、キスショット」

 

「儂は人間の貨幣は用意できん──二百万円という借金がどの程度のものなのかもよく分からんが、その金額をうぬは背負うことができるか」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「心配するな。この小僧のスキルは本物じゃ──いかに弱体化しても、それくらいのことは分かる」

 

「信用は──できるのか」

 

「するしかないであろう。中立じゃというこやつを信じるほかない」

 

「二百万円なんて金はないけど・・・・・・ある時払いの催促なし、ついでに保証人も担保もいらないって言うんだったら・・・・・・僕が背負うよ」

 

 

お金も、行動も、全部僕がやらなくちゃあいけないけど、それでもこうするのだと、決めたのだから。

 

 

「じゃ、決っまり~。はっはー。まいどあり~なんつって」

 

 

忍野は軽い口調でそう言った。

 

 

「僕も今日から、ここで寝泊まりすることにするから。よろしくね。というか、元々僕は、この町に来て以来、この場所には目をつけていたんだよね。義を見てせざるは勇なきなりと、ハートアンダーブレードに譲ったけれど、やっぱこの町にここ以上の廃墟はなかったや。とりあえず、どうする? 明日からの前途に対して気合いを入れるために、円陣でも組んでみよっか?」

 

 

寝転がったまま、最高に気合いのない姿勢でそんな事を言う忍野だったが──勿論、僕もキスショットも、そんな言葉に乗っかったりはしなかった。

 

時刻はまたも、いつの間にか零時を過ぎていて。

 

日付は、三月二十九日へと変わっていた。

 

明日と言えば──既に今日は明日なのである。

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