トリプルP!~Produce"Poppin'Party"~ 作:Lycka
思いつくまま書いてたら止まりませんでした、すみません。
長いの嫌な方居ましたら言ってください。
(今回のアンケートによろしくです)
それでは、18話ご覧下さい。
拝啓、父さん母さん、俺は今日初めて女の子とデートをします。
デートと言えばおおよその男の子や女の子からしたら普通に経験するもの。しかし、俺は今まで経験したことがない。デートどころか告白の一回もしたこともされたこともない。噂によると、鈍感残念系イケメンとか言われているらしい。なんだよそれ、ちょっとカッコいいじゃねぇか。
そんなこんなで、俺はバッチリキメて集合場所へ向かっていた。
***
俺の手にある携帯に映し出されている時間は9時手前。俺が朝弱いことを考慮してこの時間にしてくれた。やはり彩は優しい。俺も流石にデートには遅れないけどな。ちゃんと目覚ましかけて起きるし。ほ、本当に起きれるからな。
「集合時間は9時だったな」
少し急ぎ足で集合場所である近くの駅に向かう。前日にどんな服装で行けば良いか有咲や沙綾にアドバイスを貰い最終的に俺がチョイスした。髪型も珍しくセットしている。この姿をさっきメールで有咲に送ったら"そこらへんのやつよりかはカッコいいかもな!"と返ってきた。有咲に褒めてもらえて嬉しかったのか自然と笑みがこぼれてしまった。
「彩は.....いた、あそこだ」
駅に着いて彩を探していたが、すぐに見つかった。理由は簡単だ。芸能人で有名な彩、変装とまではいかなくとも少しは隠す努力をしてきてくれとお願いしていた。しかし、サングラスをかけているくらい。正直誰が見てもバレバレだろう。今日のデート大丈夫かな?
「彩、おはようさん」
「宗輝君!おはよう!」
「じゃあ行くか」
「うん、楽しみ!」
それから、二人で電車に乗り目的地へ向かっていた。電車は休日なのである程度空席ができていた。彩と二人で並んで座っていると今日の予定について彩が一人で何か喋っているのに気付く。
「遊園地に着いて遊んでから、お昼ご飯食べて.....」
「さっきから何独り言言ってんだよ」
「今日の予定の復習!楽しみ過ぎてあまり眠れなかったんだよ!」
そう言って楽しそうにはしゃいでいる彩を見ているとこっちまで楽しい気分になってくるな。かく言う俺も楽しみで仕方が無いんだが。この後の遊園地は主に絶叫系が人気らしい。お昼ご飯は彩が作ってきてくれているので何処かで一緒に食べることになる。
「お昼ご飯楽しみだから朝飯ちょっと抜いてきたわ」
「ほんと⁉︎なら、お昼はちょっと早めにしようか」
そんな話をしていると、目的地である遊園地の最寄駅に到着。改札を抜け駅前の広場へ出る。
「よし、こっちだ彩」
「えぇ⁉︎宗輝君場所分かってるの?」
「昨日の内に調べといたんだよ」
「もしかして私より楽しみだったり....?」
馬鹿野郎、女の子とのデートなのに下準備しない男子はいないぞ。中のアトラクションまで調べ尽くしてきている。お化け屋敷とか連れて行ったら面白そうだな。
それから歩くこと数分。流石最寄駅だけあってすぐに到着。
「じゃあチケット買ってから中に入るか!」
「待って宗輝君、写真撮ろうよ」
「おお忘れてた。ならあの看板のところで撮るか」
彩は自撮りが超上手い。スタイルと顔の良さも相まって一つの絵の様な出来上がり。俺が自撮りしたら只の証明写真にしかならねぇわ。最近のJKは凄い(語彙力)
「じゃあ撮るね!はい、チーズ!」パシャ
「どれどれ、見せてみ」
彩の携帯の画面には超絶美少女と超絶イケメンが映っていた。なんか耳とかヒゲも生えてるし。いつのまに俺は犬になったのん?
「なぁ、これ俺か?」
「そうだよ!すっごい盛れてるでしょ⁉︎」
「これを盛れてるって言うのか」
ガールズバンドのみんながちょくちょく声にしていたのは分かっていたが、実際の意味までは知らなかった。みんな可愛いからこんなことしなくても良いと思うんだけどな。
「よし、今度こそ行くか!」
「うん!遊びまくろう!」
入口の係員の指示に従いチケットを購入。今日は大目に財布に入れてきたのでここは俺が支払った。彩は自分の分だけでも払うと言ってくれたがここは譲れない。男にはそういうプライドがあるのだよ。小さくてどうでも良いんだけどね。
「最初はやっぱり....」
『ジェットコースターだろ(でしょ)!!』
ここで二人の声が重なる。
「お、流石彩、分かってんな」
「勿論、まずは絶叫系制覇だね!」
「では、ここで今日の意気込みを丸山さんお願いします」
「えっと.....怪我しないように頑張りましゅ!」
俺がおちょくる様にエアマイクを彩の口元へ差し出してリポーター風に話しかける。そして、いつもの如く彩が噛み噛みで答える。というより、さっきのは噛むところ無いだろ。しゅってなんだよ、狙ってやってんなら小悪魔過ぎるぞ。
「頑張りましゅ!...だそうです....」プッ
「もうー、笑わないでよ!」///
それから、一つ目のジェットコースターを乗り終えるまでそのネタでいじりまくった。
「今度は水の上のジェットコースター行こうぜ!」
「お、良いね!」
二つ目は水上を走るジェットコースター。
「これコース自体は短いけど高低差がめっちゃあるやつじゃん!」
「ちょっと怖い....で、でも、頑張る!」
三つ目は急上昇急降下するジェットコースター。
「これなんかグルグル回るんだってさ!」
「どっちが降りた時目が回ってないか勝負だね!」
四つ目はグルグル回るジェットコースター。
俺たちはありとあらゆる絶叫系マシンを次々に体験していった。
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「はぁ〜、ちょっと休憩するか〜」
「流石に疲れたね」
怒涛の絶叫系ラッシュで開始早々テンションマックスで乗っていった結果、園内の半分程度の絶叫系は制覇してしまっていた。恐るべし遊園地、今度あいつも連れて来よう。
「ちょっと早いけど、お昼にする?」
「そうだな、まだまだ時間はあるし」
ふと園内に設置されている時計を見ると11時を回っていた。到着したのが9時30分頃。大体1時間ちょっとは動きっぱなしだったということになる。そりゃ疲れるわな。
「じゃあどこか座れるところ行こうか」
「そうだな、あそこなんてどうだ?」
「うん、あっちで食べよっか」
あまり動きたくなかった俺は、すぐそこにある休憩出来るベンチで食べるように提案した。まぁ二人だけだから大丈夫だろう。
「じゃーん!二段弁当にしてきたよ!」
「おおー、すげー」
「なんか反応薄くない?」
感動しすぎて少し雑なリアクションになってしまった。普段は少しポンコツな彩だが、こういった面ではしっかり者。ぱっと見だが、ちゃんと栄養バランスが取れているし、色とりどりの野菜がいっぱい。しかも、俺の大好物の出し巻き玉子が沢山入っているところもポイント高い。
「もう食べても良いか?見てたらお腹空いてきたぞ」
「どうぞ召し上がれ!」
「ありがと。んじゃあ、頂きます!」
やはり、一番先に食べるのは大好物の出し巻き玉子。これが無いと始まらないんだよなぁ。
「んっ.....う、うめぇ!」パクパク
「ほんと⁉︎良かったぁ....」
「しかも俺の好きな味付けじゃん!」パクパク
俺は甘い味付けが一番好きなのだが、それが忠実に再現されている。お陰で箸が止まらない。一気に食べてしまうと勿体無いので少し残しておく。玉子を置いておいて他の物も口に運んでいく。
「彩はいっつもこの味付けなのか?」
「えーとね、今日のは香澄ちゃんに聞いたよ」
「ああ、そういうこと」
小さい頃からあいつと一緒に居るから知ってるのか。香澄の母さんの作る出し巻き玉子も絶品なんだよ。是非、あの味を香澄と明日香に作れるようになってほしいね。
「玉子だけじゃなくて他もめちゃくちゃ美味しいぞ」パクパク
「ありがとう宗輝君、じゃあ私も食べよっかな」
そう言って自分の分の弁当箱を取り出して食べ始めた彩。内容的には同じ様な物が入っていたが、ところどころ野菜が違っていたりと工夫されている。これ作るの大変だったろうな。もしかして朝早くから作ってたりする?
「これってもしかしなくとも、朝早くから作った?」
「うーん、まぁ7時くらいから作り始めたね」
「マジか、その時間まだ寝てるわ」
その話を聞いて少し申し訳ない気持ちが出てくる。お昼ご飯は彩に任せっきりになってしまっていた。
「なんかごめんな」
「謝らなくても良いよ!私が作りたくて作ってきたんだから!」
「いや、俺自身が許せない。なんか埋め合わせさせてくれ」
こんなことでしか埋め合わせができない自分が情けなくなる。もっと他の事でできたらいいんだけどな。
「じゃあさ......食べさせてほしいな」
モジモジしながら彩がそう言う。正直少し恥ずかしいがそんなことを言える立場では無い。別に嫌って訳じゃないしな。
「よし、任せとけ」
「えぇ!即答⁉︎」
「なんだよ、断られると思ってたのか?」
自分で言っちゃなんだが、俺は頼まれると断らないタイプだぞ。それが彩とかなら尚更だ。出来る限りのことはしてやりたい。
「いや、でも.....」
「彩.....口開けろ」
「えっ......」パクッ
彩が口を開けた少しの隙を逃すことなく、俺の弁当に入っていた出し巻き玉子を食べさせる。
「どうだ、美味しいか?」
「.....うん、すっごく美味しいよ!」
「なら良かった。ほれ、あーん」
俺は再び出し巻き玉子を取り、彩の口の前に持っていく。すると、彩が口を閉じてしまう。
「あれ、食べないのか?」
「だって、出し巻き玉子は宗輝君の好きなものでしょ?それは貰えないよ」
貰うも何も彩が作ったものなんだけどな。俺が玉子好きだから遠慮してんのか。
「あのな彩、俺は自分の好きなものは他の人にも好きになって欲しいんだよ。そうすりゃ好きが2倍3倍と増えてくだろ」
「私元々玉子焼き好きだよ?」
「なら他の人にも彩の作った玉子焼き好きになって貰うわ」
「なんでそーなるの⁉︎」
当たり前だろ。彩の作った玉子焼きってだけで一部の人間からしたらどれだけの付加価値がつくと思ってんだよ。俺はそんなの関係なく好きだけどな。
「ついでに彩の魅力についても全世界の人に知ってもらおうぜ」
「ついでとかのレベルじゃないよ!」
「だってさ、彩の魅力を知らないなんて人生半分くらい損してると思うぞ、割とマジで」
「そ、それは言い過ぎだって!」
いかん、彩の反応が一々新鮮なものなので少しばかり調子に乗ってしまった。単純にツッコミを入れてくれる奴らなんて限られてるからな。ガールズバンドの奴らで言うと有咲とか美咲とかそこらへんだな。ボケるのも偶には面白いかもな。
「彩は今好きな人とかいるのか?」
「どんどん話が逸れてってる.....うん、いるにはいるけど」
「マジかーいるのかー。彩はそいつにご飯とか作って食べさせたりしたいんだろ?」
「ま、まぁそうだね(現在進行形で実行中だよ〜!!)」
「そいつ超幸せもんだよなぁ。俺応援してるから頑張れよ!」
そうだろうとは思っていたが、やはり好きな人はいるのか。彩の手料理食べられるとかそいつ幸せ過ぎんだろ。場所変われよ。
「うん、頑張ってみるね!(何か複雑な状況....)」
その後も学校のことからバンドのことまで他愛ない話も織り交ぜながら楽しいお昼ご飯を終えた。
***
「よし、今度はお化け屋敷行ってみるか!」
「ねぇ、お化け屋敷はやめとかない?」
俺たちはお昼を回っても絶叫系アトラクションに挑み続けていた。既に時刻は午後3時。あまり遅い時間まではいられないので後一つか二つといったところ。そこで、俺的には本日のメインイベントであるお化け屋敷に行こうと提案した次第である。
「なんだよ、怖いのか?」
「べ、別に怖くなんか無いもん!」
「ならいけるよな?」ニヤッ
「むぅ〜、宗輝君の意地悪.....」
彩の反応を見ていると少しいじりたくなってくるのは認めよう。それが意地悪かどうかは置いといてな。
「お、ここだな。"恐怖の屋敷"だってさ」
「見て見て宗輝君!カップルで一緒に入ると中学生以下入場チケットが一枚無料だって!」
「なら尚更行かないとな」
「分かってるよ!カップルのフリだよね⁉︎」
なんでこいつはこんなにはしゃいでるんだよ。さっきまで怖がってたじゃんか。そんなにチケット欲しいなら買ってやるんだけどな。
「そんなにチケット欲しいのか?」
「いや、身内に中学生なんていないよ?」
「じゃあ何でそんなにはしゃいでるんだよ」
「んー、それは別にいいでしょ!」
プンプン、とかいう効果音が聞こえてきそうな感じで顔をぷくぷく膨らませている彩。なんだかハムスターみたいで可愛い。でもチケット貰ってどうするつもりだ?俺も別に中学生以下なんて......いたわ。すっかり忘れてた。
「なぁ、チケット要らないなら俺にくれないか?」
「ん?最初からそのつもりだったよ?」
「あ、そうなのね」
どこまでいってもお人好しの彩である。でもこいつは知らないはずなんだけどなぁ。もしかして香澄の仕業か?まぁ考え過ぎかも知れんが。
「なら、早速入ってみるか」
「うん!......恋人っぽくしなくちゃ」
そんなことより取り敢えず、今はお化け屋敷を楽しむか。
ガチャ
随分と古臭い扉を開けて中に入る。これも仕様なのかは微妙だが、蜘蛛の巣が所々に張り巡らせてある。"屋敷"というだけあって、床を歩くとキシキシ音がしたりするし、窓のカーテンは勝手にゆらゆら揺れてるし。中々拘っていることが見て取れる。
ガタン!
進んでいると、いきなり物音がして薄暗かった照明すら消えてしまった。辺りは真っ暗で何も見えない。手探りで壁を見つけて歩いていこうと思った矢先、彩が腕に飛びついてきた。
「ひっ!.....む、宗輝君、いる?」
「.......」
「ちょっと、宗輝君?え、本当に居ないの?」
「.......」
「うぅ.....むねきくぅん、怖いよぉ」グス
彩が恐怖のあまり泣き出しそうになってきたのでここでネタバラシ、というほどでも無いが無事を伝える。しかし、冷静に考えれば腕につかまっている時点で俺なの確定なんだけどな。俺じゃ無いとしたらそれこそ笑えない。
「大丈夫、いるよ。このくらいで泣くなよ」ナデナデ
「だってぇ.....怖かったもん」
落ち着かせる意味合いも込めて頭を撫でてやる。しかし、何でこいつらはこんなに頭撫でやすいんだ?頭撫でやすいっていうのもなんかおかしいけど。お陰で俺が頭撫でるのデフォみたいになってんだけど。まぁ役得だから良いんですけどね。
そのまま、彩が腕に張り付いた状態で奥へと進んでいく。少し歩きにくいのだが、女の子特有の柔らかい感触と甘い香りがするので良しとしよう。決してその為に離さないのでは断じて無い。ホントダヨ、ムネキウソツカナイモン。
「お、そろそろ出口じゃないか?」
「ほ、本当に?」
「ほら、明かりが見えてきた」
「......ひゃ!!」
いきなり彩が声を荒げて抱きしめていた力を強める。そして、俺の腕を強引に引っ張りながら出口へと向かっていった。
「いきなりどうしたんだよ」
「一番最後の奴怖かったんだよ!」
「最後の奴?なんのことだ」
「足掴まれたじゃん!」
「.......」
待てよ、俺は掴まれてないぞ。タイミングからして最後の一本道。俺が左側で彩が俺の右腕にしがみついていた時。右側の人にだけか?いや、
「マジで言ってんの?」
「.......」コクリ
今まで生きてきた中で、一番ゾッとした瞬間であった。
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「はぁ〜、なんかどっと疲れが出てきたな」
「叫び過ぎて喉がカラカラだよ〜」
お化け屋敷を出てから、少し離れた場所のベンチで休憩中。時計を見ると、もうすぐここを出ないといけない時間になっていた。
「ちょっと休憩してから帰るか」
「そうだね」
「俺飲み物買ってくるよ。彩は何が良い?」
「私はお茶が良いかな」
「りょーかい。そこで座って待っててくれ」
彩一人をベンチに座らせて自販機へ向かう。彩の分はお茶で良いとして、自分は何を飲もうか考えながら少し早足気味で到着。
「まぁ一緒でいいか」
小銭を入れてお茶のボタンを2回押す。取り出さずにボタンを押してしまったのが原因で、下に詰まってしまった。詰まっているのを取り出すのに少し時間が掛かってしまったが無事救出完了。1本ラベルが剥がれてしまったが、それは俺が貰うとしよう。味には影響ないんだけどね。
両手に花、というわけではなく両手にお茶を持って彩が待っている場所へ急ぐ。遠くから彩の姿が見える。しかし、そこにいたのは彩だけでは無かった。微かに聞こえる話し声に耳を傾けてみる。
「君.....?なら......」
「いや.....」
「.....いいじゃんか」
やはりあまり聞こえにくい。彩も困っている顔をしていたので名前を呼びながら自然な感じで近づいてみる。
「彩、待たせたな」
「あ、宗輝君.....」
「あ?お前誰だよ」
三人組のいかにもチャラそうな奴ら。その中でも一際目立ったリーダー的存在の奴が早速突っかかってくる。俺からしたらお前が誰なんだよ状態なんですけど。
「これ、彩の分のお茶な」
「......ありがと」
「おい!無視かよ!」
「何か用か?無いなら帰るけど」
出来るだけ関わりたく無かったんだけどなぁ。こういうタイプの奴嫌いだから。
「今、俺らがその子と遊んでたの。邪魔すんなよ」
「こんな奴より俺らと遊んだ方が楽しいぜ」
「そうだよ、こんな気取った奴よりは俺らの方がマシだと思うぜ」
「用は無さそうだし帰るぞ、彩」ガシッ
「えっ、う、うん」
少し強引に腕を引っ張り出口の方面へ向かう。しかし、それは叶わなかった。お茶を持っていたもう片方の手を一人の男に掴まれて動けなかったからだ。その反動でお茶を落としてしまう。
「何逃げようとしてんだよ、臆病者が」
「あーあ、お茶落としちゃったよ」
「話聞けよ!舐めてんのかお前」
「.....いや、帰ろうとしてたんだよ」
腕を掴んできた男とは違う奴が、俺が落としたお茶を遠くへ蹴飛ばしてしまった。少しイラッときてしまったが、ここでキレてしまってはこいつらと同レベル。落ち着け宗輝、平和に解決するんだ。
「大体、遊んでたじゃなくてナンパしてたの勘違いだろ」
「はぁ?偉そうな口聞きやがって」
「お前何様のつもり?その女のなんなの?」
彩にとっての俺。それはなんなのだろう。一瞬、それについて考えてしまう。しかし、試行錯誤するのは後回しだ。というより、こいつら彩のこと知らないのか?まぁ、興味がありそうな雰囲気では無いが。
「離してくれ、時間も無いし帰りたいんだよ」
「調子に乗りやがって!」ドコォ
「宗輝君!!」
腕を振り払って帰ろうと思ったが、振り払った男に一発殴られてしまう。それを見て彩が近づいて来る。
「大丈夫、なんとも無いから」
「でも、血が......」
彩に言われて気付いたが、既に唇から血が出てきていた。そこまでの量では無かったが、やはりチクッとして痛い。
「お前みたいな臆病者が調子にのるなよ!」ガシッ
「ぐっ.....」
「ちょっと!やめてよ!」
今度は違う奴に蹴りを入れられる。幸い、みぞおちには入らなかったがやはり痛い。そんな俺を見て、彩は男達に詰め寄っていた。
「大丈夫だから.....彩は離れてろ」
「でも許せないよ!なんでこんな事するの⁉︎」
「お前も黙ってろよ!」
リーダーの男が詰め寄った彩の腕を掴み右手を振り上げる。
それを見た瞬間、俺の中にあった
「......お前、今何やろうとしてたんだ」ガシ
「っ!こいついつのまに⁉︎」
「む、宗輝君?」
自分でも驚く程、低い声が出ていた。男の腕を掴み、力の限り握り締める。
「言ってみろよ......何やろうとしてたんだ」
「いってぇ!お、おい!お前らなんとかしろ!」
「離しやがれぇ!」
「おらぁ!」
二人同時に向かってくるが、一人はリーダー毎投げ飛ばし、もう一人は身を引いて躱す。
そして、内に秘めた想いを曝け出す。
「別に俺がいくら罵られようが殴られ蹴られようが関係ねぇ。俺はお前らみたいに喧嘩に自信があるわけでも無いし、臆病者かも知れねぇ。けどな......好きな女に手を出されて黙ってられる様な奴でもねぇんだよ!!」
-side change-
「宗輝君早く帰ってこないかなぁ......」
独り言でそんなことを言ってみる。実際は、心で思っていたことが勝手に口から出てきただけかもしれない。けれど、それは私の切実な願い。早く会いたい、早く会って話したい。今日は、一日中一緒にいたはずなのにそんな気持ちが溢れて出てくる。しかし、そんな風に想いを巡らせている最中に声を掛けられる。
「君一人?なら俺たちと遊ぼうよ」
三人組の男の人達だった。正直に言って、私はこういうタイプの男性は苦手だ。
「いや、二人で来てるので」
「嘘なんてつかなくてもいいじゃんか」
これはナンパというやつだろうか。自慢じゃ無いけど、私は一応芸能人な訳であって顔を知っている人は多い。でも、この人達は私の事を知っていない様に見える。
「ほらほら、行こうよ」
「(宗輝君、助けて〜)」
そんな私の思いが通じたのか、宗輝君がお茶を二本持って帰ってきた。
「彩、待たせたな」
「あ、宗輝君......」
「あ?お前誰だよ」
早速宗輝君に突っかかっていく。どうせさっき話した人って言っても聞いてはくれないだろう。
そこからは、宗輝君が適当に話を流して対応してくれていた。しかし、男達のボルテージは上がっていく一方。このままだと何かいけない事が起こりそうな気がしていたが、私にはどうすることもできなかった。
「用も無さそうだし、帰るぞ彩」
「え、う、うん」
そう言って、少し強引に私の腕を引っ張り出口の方は進もうとする宗輝君。しかし、それをリーダー格の男に止められる。一度止められはしたが、宗輝君はその男の腕を振り払って進もうとしていた。
そんな宗輝君へ、男の容赦の無い一撃。
「宗輝君!!」
「大丈夫、なんとも無いから」
宗輝君はそう言っているが、殴られた箇所から血が出てきている。私は鞄に入っていたハンカチを取り出そうと思い、急いで中を探す。しかし、間髪入れずにもう一人からお腹を蹴られてしまう。
「お前みたいな臆病者が調子にのるなよ!」
「ぐっ......」
宗輝君が辛そうな顔をしてその場にしゃがみ込む。流石に女の子の私でも、そこまでされると怒りで我を忘れてしまいそうだった。我慢できなかった私は、リーダーの男に詰め寄る。
「ちょっと!やめてよ!」
「お前は黙ってろよ!」
詰め寄ったのはいいものの、すぐに腕を掴まれてしまった。男はそのままもう片方の腕を振り上げる。これ以上宗輝君を傷付けさせたくなかった。宗輝君の苦しそうな顔を見たくなかった。
そして、私は覚悟を決めた。
しかし、男の振り上げた手は振り下ろされることはなかった。
「......お前、今何やろうとしてたんだ」ガシッ
「っ!こいついつのまに⁉︎」
宗輝君が私とリーダーの男との間に入ってきていた。いつもの宗輝君とは全然違った雰囲気を感じる。声色も明るいいつもの宗輝君とは違い、何か闇を感じさせる様な低い声。
「言ってみろよ......何やろうとしてたんだ」
「いってぇ!お、おい!お前らなんとかしろ!」
リーダーの指示で残り二人が一気に宗輝君に向かっていくが、一人はリーダーごと投げ飛ばされ、もう一人はヒラリと躱されてしまう。
「別に俺がいくら罵られようが殴られ蹴られようが関係ねぇ。俺はお前らみたいに喧嘩に自信があるわけでも無いし、臆病者かも知れねぇ......」
続けて、宗輝君がリーダーの男の胸ぐら掴んでこう叫ぶ。
「けどな......好きな女に手を出されて黙ってられる様な奴でもねぇんだよ!!」
私は、その言葉を聞いて自分の耳を疑ってしまった。
***
「怖い思いさせちゃったな......ごめん、彩」
「そんな......私のせいだよ」
あの後、宗輝君に気圧されて三人はすぐに何処かへ去っていった。真っ先に宗輝君の怪我の手当てをして、今は二人ベンチに座っている。
「何言ってるんだよ、彩のせいなんかじゃない」
「でも、宗輝君怪我しちゃった......」
「このくらい平気だよ、なんなら1日あったら治るさ」
そうは言うものの、やはり罪悪感は消えてくれない。あの時ああしていれば、こうしていれば、そんなたられば話を自分の中で駆け巡らせる。もっと良い方法があったはずなのに、私は何も出来なかった。
「ごめん......ごめんね宗輝君」
唐突に涙が溢れでてくる。泣きたいのは宗輝君のはずなのに。何もしていない私は、泣いて良いはずが無いのに。止め処なく涙が出てくる。
そんな私を、宗輝君はそっと抱きしめてくれた。
「彩......俺はな、正直言ってあの時怖かったんだ。やっぱ殴られると痛いし蹴られると辛いし。でもな、それ以上に嫌だったんだよ」
「......何が嫌だったの?」
私は、宗輝君から続いて言葉が出てくるのを待つ。
「彩にアイツが手を出そうとした時、自分が自分じゃない様に感じた。それほどまでに、彩が傷付けられるのが耐えられなかったんだ、怖かったんだ」
「何でそう思ったの?」
「さぁ、何でだろうな。彩は俺にとって大切な人だからかもな」
大切な人、そう聞いて胸が熱くなるのを感じる。
自分の好きな人、大好きな人からそう言われて嬉しくない女の子なんていないだろう。先程までの涙は何処へやら、少し浮かれつつある気持ちを抑えて宗輝君へ私の想いも伝える。
「私にとっても、宗輝君は大切な人だよ!」
「なんだよいきなり、告白か?」
「ち、違うよ!またそーやってからかってくるじゃん!」
「まぁ彩には好きな人がいるんだもんな。いつか、そいつと結ばれると良いな」ナデナデ
やはり、こういったところだけは鈍感な宗輝君。でも、今はこの関係で充分かもしれない。パスパレのみんなも宗輝君のこと好きっぽいし、他のバンドの子もそうだよね。ライバルが多過ぎるけど、これだけは負けないようにしなきゃ!
「宗輝君、ありがとね」チュ
アピールも兼ねて、宗輝君のほっぺにキスをする。それに気付いた宗輝君の慌てふためいた顔がなんとも可愛らしい。時々見せる子供っぽいところも大好きだよ。
「何してるんだよ⁉︎そーゆうことは好きな奴とだな.....」
「これは助けてもらったお礼だからいーの!」
私に彩りをくれた君。
そんな君が、大好きです。
こんな風になるんだろうなぁ、とか思いながら書いてました、はい。
宗輝君は、普段優しいけど怒らせると恐いタイプです。
Sっ気も相まって、通称黒宗輝がこれからちょくちょく出てくると思われます。
今回みたいに長くなったらどうするか迷ってます......
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そのまま出しても可
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長げぇ!二つに分けてけろ!
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任せるで御座候