トリプルP!~Produce"Poppin'Party"~   作:Lycka

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新たに☆10評価頂きました roxzさん有難うございます!
まさかこんなにも早く評価バーに色が付くとは思いもしませんでした。
例の如く、評価バーの赤色を見て数分ニヤニヤしてました。

今回長くなってしまいましたが、前回のアンケートを元に一括で投稿することにしました。


では、23話ご覧下さい。


Produce 23#一緒なら怖くない

 

 

「......ん、朝か」

 

 

 

俺にしては珍しく目覚ましが鳴る前に起きることができた。自分の携帯のタイマーをリセットしておこうと思い、枕の横に腕を伸ばそうとしたが何故か動かなかった。もう片方の腕も同じく動かなかった為どうする事も出来ずに数分が経過していた。

 

 

ゴソゴソ 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......令香?」

 

 

 

 

俺の足元の布団が膨れ上がってドンドン上へ迫ってきていた。こうやって令香に起こされた経験があったが故に、咄嗟に令香の名前が出てしまった。そういう面を客観的に見てみると、あまり動じていない事自体に疑問を浮かべるのだろうか。それに慣れてしまっている俺が異常なのか。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、布団から顔を出したのは残念ながら令香では無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、起きてたのね」

 

 

 

 

 

 

「千聖さんが何で布団から出てくるんですか」

 

「こういうの憧れてたのよ」

 

 

 

令香かと思ったのだが、中身は千聖さんだった。確かに映画やドラマでは良くあるシーンかもしれないが、実際に行動に移すこと無いでしょうよ。せめて憧れるだけで済ませといて下さい。

 

 

 

 

「令香かと思っておもわず抱き締めそうでしたよ」

 

 

「今からでも遅くないのよ?」

 

「腕動かないので遠慮しときます」

 

「将来の為に取っておくということね」

 

 

 

意味不明な事を千聖さんは言っているが無視。この人の感性どうなってんだよ。一つ歳下の後輩にモーニングコールで布団から出てくるとか......。千聖さん、口には出しませんけどめっちゃ可愛いです惚れそうです。

 

 

 

「......こういうことだったのか」

 

 

 

 

 

千聖さんが布団を少しめくってくれたお陰で腕の部分が露わになった。そこには、俺の腕にしがみついて未だ寝息を立てている彩と日菜がいた。なんだか甘えられているようで非常にキュンとくる。追加で腕に柔らかい二つのお山の感触も伝わってきて正直たまらん。意識すればするほど感覚が研ぎ澄まされていくような気がした。

 

 

 

 

「この子達も表立っては平然を装ってたけど、実はかなり怖がってたのよ」

 

「やっぱそうですよね」

 

 

 

 

 

やはり自分ももしかして、と思うのは当然だろう。俺はまだ犯人の姿を見てはいないが、実際麻弥とイヴがその危険に晒されているわけだからな。昨日の夜のトランプで少しは気が紛れたかと思ったがそう簡単にはいかないらしい。

 

 

 

 

 

「......千聖さんも無理しなくていいんですよ」

 

 

 

「やっぱり分かるのね」

 

「はい、何しろ専属マネージャーですから」

 

「なら、私も少しだけ甘えさせて貰うわね」

 

 

 

 

 

そう言って、千聖さんが俺の胸の辺りに顔を乗せ目を閉じた。ダイレクトに千聖さんの心音が伝わってくる。千聖さんだって一人の女の子だ。どれだけ"白鷺千聖"が女優としての演技が上手かろうとライブでの演奏が上手かろうとその事実だけは揺るがない。それは他のみんなにも言えることだ。

 

 

 

 

 

「......もう少しだけ寝るか

 

 

 

 

 

千聖さんからもすぐに寝息が聞こえてきたので、周りのみんなも起こさないような小さな声で一人呟きながら再度眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、日菜と麻弥は二人固まって登校してくれ」

 

「私と彩ちゃんとイヴちゃんと宗輝君で登校ね」

 

 

 

二度寝をしたのは良いものの、結局令香にすぐ起こされてしまった。なんでも"令香のお兄ちゃんレーダーに反応があったんだよ!"と言って急いできたらしい。そのレーダーの探知方法は些か謎だが、あながち間違いでは無いので困る。

 

 

 

 

そして兄限定で働くという点については、もはやヤンデレの域にまで達していると俺は思うんですけど?俺将来後ろから刺されたりしないよね?因みに、レーダーのアンテナは令香のアホ毛。

 

 

 

 

 

「何かあったらすぐ連絡くれ」

 

「了解しました」

「無くても連絡するねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ私達も行こっか!」

 

「なんか新鮮な気分ね」

 

「俺もそう思いますよ」

 

 

 

朝から5人と一緒にご飯を食べて、支度してから一緒に登校する。今までは香澄や明日香だったポジションに、今日はパスパレのみんながいる。理由はどうあれこうしてみんなと登校できることに嬉しさを感じている俺がいる。やはり、俺はみんなのことが好きなんだと改めて実感する。

 

 

 

「何か考え事ですか?」

 

 

 

 

そう言ってイヴが横から顔を覗かせる。フィンランド人とのハーフな彼女、顔立ちは美しく華奢な身体ではあるが心の何処かに確固たる信念を持っている。そんな素敵な彼女が困っているのなら、俺は何を放り出してでも助けてやりたい。単純にそう思った。

 

 

 

 

「いんや、ただ幸せだなーって思っただけ」

 

「なるほど、それなら私も幸せですよ!」

 

「イヴが幸せなら俺は満足だよ」ナデナデ

 

 

 

 

秘技・無意識撫で撫でを使ってしまった。イヴやひまりみたいな無邪気な笑顔を向けられると、どうにも令香と同じ様な反応をしてしまう。しかも気持ちいいと高評価を受けている。これが世に聞くお兄ちゃん補正というやつだろうか。

 

 

 

「あら、見せつけてくれるわね」

 

「宗輝君、私は?」

 

「......はぁ、やりゃあ良いんだろ」ナデナデ

 

 

 

 

 

 

やはり俺は頼まれると断れない性格らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~花咲川~

 

 

 

 

 

学校に着き、彩と千聖さんとは一旦お別れ。各自自分のクラスへと向かっていく。イヴとは教室が近いので一緒に向かっていたが、その途中でおたえと出会ったのでそこでお別れした。かく言う俺は......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宗輝、おはよう!」

 

 

「こころか、おはようさん」

 

 

 

 

 

現在、異空間に捕まっております。まぁクラスが近いから大体は朝出会うんだけどな。しかし、今は俺一人な訳で。つまり、助けてくれる人がいないってこと、わかる?

 

 

 

「今日の放課後は空いてるかしら?」

 

「いや、今日はちょっと厳しいかな」

 

「なら明日はどう⁉︎」

 

「明日もー、ちょっと無理っぽいかな」

 

 

 

 

誰か!俺に救いの手を差し伸べてくれ!悪気は全く無いのだが、マネージャーの仕事とかパスパレの件があって今はどうしても手が離せない。しかし、このまま断り続けるのも俺の心が痛む。

 

 

 

 

 

「なんで無理なの?」

 

「まぁ、あれだ。そのー、なんていうか」

 

 

 

そんな可愛く上目遣いで見つめないでくれ!後からならいっぱい遊んでやるから。

 

 

 

 

 

 

「宗輝にも予定があるでしょ?」

 

 

 

そんな時、女神が降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら美咲、おはよう」

 

 

「おはようこころ。宗輝、そうなんでしょ?」

 

「おう、ちょっとやることあってな」

 

「なら仕方ないわね。美咲、今日はウチに集合だからミッシェルに伝えといてね!」

 

「分かったよ、伝えとく」

 

 

 

その返事を聞いて満足したのか、こころは自分のクラスへと戻っていってしまった。やはり、こころの扱いでは美咲に遠く及ばないな。

 

 

 

 

「ありがとう美咲、お前は女神の生まれ変わりだな」

 

「褒めても何も出ないよ。相変わらず断るの下手だね」

 

「あんなに可愛らしくお願いされるとどうにもな」

 

 

 

 

 

その流れで美咲と話しながら自分のクラスへと向かう。しかし、また厄介な奴に捕まってしまう。いや、同じクラスだから仕方ないんだけどね。

 

 

 

「むーくん!おはよー!」

 

「うおっ!ビックリしたー。何でそんなにテンション高いんだよ」

 

「むーくん遅い!」

 

「こいつ今日めっちゃ朝早かったんだからな」

 

 

 

 

香澄の後ろから有咲が疲れた顔をしてやってくる。その感じだと有咲の家に行って一緒にきたんだな、ご苦労さん。今日は念の為事前に朝起こしに来るなと連絡しておいて正解だった。あの状況にこいつを加えると何が起こるかわからん。まさにまぜるな危険状態である。

 

 

 

 

「すまんがあと数日香澄の相手を頼む」

 

「はぁ⁉︎今日だけでも疲れてんのに無理だーっ!!」

 

「そんなこと言わずにさ、頼むよ有咲」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~有咲フィルターON ~

 

 

「そんなこと言わずにさ」

 

 

「頼むよ、あ・り・さ❤︎」キリッ

 

 

~有咲フィルターOFF ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで言うならやってやらなくもねーけどな!!」///

 

 

 

 

 

流石は有咲、チョロインの名は伊達ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「イヴ〜、帰るぞ〜」

 

「少々お待ちを!」

 

 

 

 

いつもと変わらず授業を終え、件の問題を解決させる為イヴを迎えに来ていた。少し様子を見ようと思ってはみたものの、やはりこのままイヴや麻弥に嫌な思いをさせる訳にはいかない。解決できるのなら今すぐにでも、という結論に至った。

 

 

 

 

 

 

「あれ、むーくんだ。イヴちゃん迎えに来たの?」

 

「すまんなはぐみ、今日は相手してやれん」

 

 

 

「むっくん何処か行くの?」

 

「何処にもいかねぇよ。ポピパは今日は蔵練だろ、早く行ってこい」

 

「はーい」

 

 

 

 

はぐみとおたえに見つかり話しかけてくるが、適当に流しておく。そうこうしている間にイヴの帰宅準備も済んだようで、クラスメイトにお別れの挨拶を交わしながらこちらへ近づいてくる。

 

 

 

 

 

「忘れもんないか?」

 

「筆箱ヨシ、教科書ヨシ......大丈夫です!」

 

「よっしゃ、じゃあ帰るとするか」

 

 

 

彩と千聖さんには二人で帰ってくれと連絡しておいた。一応日菜と麻弥にも気をつけるように連絡だけ入れておいた。

 

 

 

 

「イヴ、本当に大丈夫か?」

 

「......大丈夫、だと思います」

 

 

 

俺のこの問い、それは今日犯人を捕まえるためのある()()に起因している。作戦というのも、ただ最近痴漢されたという電車に二人で乗り込むだけなのだが、俺としてはもうイヴにそんな目にあってほしくない。でもこれくらいしないと犯人は辞めないし他の人がターゲットになる可能性だってある。苦渋の決断をし、この作戦をイヴに伝えたところ了承を得た。

 

 

 

 

「嫌だったら辞めてもいいんだぞ?イヴが囮みたいなことする必要は無い。考えればもっと良い案があるかもしれない」

 

「......本当は怖いです。痴漢されて何もする事が出来なくて凄く怖かったです」

 

 

 

 

やはりそうだろう、イヴがこんな役を望んでやる訳が無い。警察に言えば良いだけの話。しかし、そうすればライブが無くなってしまう事態にもなりかねない。パスパレの今後がかかっている大切なライブ。それを痴漢魔などに邪魔されたく無い。犯人を早く捕まえたい想いと、イヴを危険に晒したく無い想いで未だに俺は葛藤していた。

 

 

 

 

 

 

 

「でも......、ムネキさんが一緒なら怖くないです!」

 

 

 

 

 

 

心の何処かでイヴも闘っている。そんな中この提案に乗ってくれた。俺と一緒なら大丈夫だと言ってくれた。そんな彼女を、俺は何があっても守り抜こうと決意した。

 

 

 

 

「......イヴ、絶対に俺が守ってやるからな」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

そして、俺たちは駅へと向かった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここって......俺も時々乗ってるところじゃねぇか」

 

「......この駅にはあの日からは乗ってないです」

 

 

 

 

 

学校を後にして、俺とイヴと二人で例の駅に到着。イヴの口から出たあの日とは、当然の事ながら痴漢された日であろうことが簡単に読み取れる。そりゃ痴漢されて乗り続けるのは流石にキツイわ。俺が女の子でも無理、ていうか俺が女の子だったらその場で撃退してそう。

 

 

 

痴漢なんてどんな状況であっても必要の無い行為だからな。万が一人を殺さなくちゃいけない状況があったとしても、痴漢しなきゃいけない状況なんてあるわけないだろ。人間には立派な理性っていうもんがあるんだからそれを正常に働かせれば何も問題ないはず。それが出来ない奴らが残念ながらこの世には沢山いる。だからイヴみたいな被害者が後を絶たないんだろう。こうやって真面目に一生懸命にやってる奴らがバカみたいな思いをするのが一番許せない。

 

 

 

 

 

「イヴ、最終確認だ。今から乗るけど大丈夫か?」

 

「......」

 

 

 

そう聞いてもイヴからは返事が返ってこなかった。実際、この状況を目の当たりにするとフラッシュバックしてくるのだろう。もしかしたら今日も、なんてもしもの話を考え出すと止まらなくなるのは良くあることだ。

 

 

 

 

 

 

もう一度確認しようと思ったところで、突然イヴからの熱い抱擁を食らう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しだけ、このままでいいですか?」

 

 

「......電車に乗ったら他人のフリだからな」ナデナデ

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後に、電車が到着して二人で乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

~一駅通過~

 

 

 

 

 

 

 

電車に乗り一駅を通過したが、今のところ問題は無さそう。現在、俺たちはなるべく扉の近くに陣取っている。イヴは扉から外を眺めていて、俺はイヴが見える位置であくまで他人のフリをしていた。犯人の特徴が一切分からないこの状況下で常に警戒しておかないといけない為、既に疲れ始めていた俺とイヴ。まだ何駅かあるので犯人が現れるのをジッと待つ。

 

 

 

 

 

 

~3駅通過~

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから2駅が過ぎ、合計で3駅通過していた。未だ犯人が現れる気配が無い。俺は出て行く人と入ってくる人を大体見張っていたのだが、あまり不審に思う人は見かけない。時間も時間な為、仕事帰りのサラリーマンが多い印象を受ける。年齢幅も中々のもので、中年太りのおっさんがいれば新入社員っぽい若手の人もいる。見ていると、やはりどの人も疲れ切った顔をしている。

 

かくいう俺も、気を配り監視していたので少し目がシバシバしてきた。これを知っているのは香澄か明日香、それと令香くらいだろうが、一応俺はコンタクトレンズを使用している。その為、乾燥には弱いのだ。

 

 

 

 

「イヴ、もう少しだけどいけそうか?」

 

 

 

そんな乾燥には負けていられず、少し移動して小さな声でイヴに確認を取ってみる。すると、イヴが首を縦に振ってくれた。それを確認して俺は元いた場所へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~目的地前~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、何も起こらないまま目的地へ到着しようとしている。何も起こらないのが一番良いのだが、今回の目的を果たすことなく神経だけを削ってしまった。イヴを見てみると心なしか安心した顔をしている。こうやって俺が毎日一緒に付いて帰る事が出来れば良いが、残念ながらそれは叶わない。バイトもあるし今はマネージャーとしての仕事もある。事情を話せばokを貰えんこともないと思うが問題を先送りにするだけだ。解決にはならない。

 

 

 

 

今日はもう大丈夫だろうと少し気を抜いてしまったが、イヴの身体が不自然に動いたのを俺は見逃さなかった。

 

 

 

「......ッ!!」

 

 

 

 

 

先程までは確実にいなかったであろう人物を見つける。その人物の手が、イヴの下半身の方へ伸びているのが見えた。俺はコイツが犯人だろうと確信を持ったが、すぐに行動を取らず自分の携帯の録画機能をONにした。

 

 

 

 

「......」グスッ

 

「(すまん、イヴ。到着まで我慢してくれ......)」

 

 

 

 

 

イヴが今にも泣き出しそうな顔をしているのが見える。しかしこの犯人、巧みに全員の視線を受けずに痴漢をしている。恐らく常習犯で手慣れしているのだろう。唯一、俺の角度からしか触っているところが見えなかった。俺は今すぐにでも殴りかかりたい気持ちを抑えて、電車の到着を待った。

 

 

 

 

 

 

 

~目的地~

 

 

 

 

 

 

 

俺とイヴが降りる駅まで電車が到着。アナウンスが聞こえて、扉が開く。そのタイミングで俺は犯人の腕を掴んだ。

 

 

 

「......イヴ、先に降りててくれ

 

「.......」ダッ

 

 

 

俺が小声でそう伝えると、イヴは先程までの恐怖から逃げるようにして走っていった。

 

 

 

「ちょっと付いて来い」

 

「......」

 

 

 

 

意外にも犯人が抵抗する様子は無く、電車を降りて少し人目のつかない場所へと移動した。

 

 

 

 

 

「お前、何で痴漢なんかしたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「......イヴたんは僕の嫁だ」

 

「は?んなわけ無いだろ。もしかしてそれが理由か?」

 

 

 

 

いきなり訳の分からないことを言い出す犯人。というか、この発言前にも何処かで聞いたことあるような気がする。......分かったわ、羽丘にいた時のリレーカーニバルで見に来てた奴だ。

 

 

 

 

 

「もしかしなくともリレーカーニバル来てたよな?」

 

「イヴたんの応援に行くのは当たり前だ」

 

「なぁ、そのイヴたんって呼ぶのやめてくれ。普通に腹立ってるから癪に触る」

 

 

 

 

 

あまり反省をしていない様子の犯人を目にして、段々とイライラゲージが上がっていくのが自分でも分かる。こういう奴がいるから今の時代オタクが生きにくくなってるんだと思う。

 

みんなにはバレていないが俺も実はアニメや漫画をよく見る。全く見ない人からすればオタクと言われてもおかしくないレベルにまで最近は成長している。なるべくリアルタイムで視聴を心掛け、出来なければ録画。最悪レンタルして土日家に篭って鑑賞会、なんてこともザラだった。ここ一年間でアニメや漫画などの創作物の素晴らしさは理解したつもりだ。それ故に、コイツの行動が一段と許せないのかもしれない。種類は違えどアイドルオタクもオタクな訳で、好きだからといって何でも許されるわけではない。頭の中で色々な妄想を働かせるのは良いが、それが度を越してしまうと今回みたいな事になりかねない。

 

 

 

 

 

 

「いつからやってたんだ」

 

「......始めたのは最近」

 

「何で痴漢なんかするんだよ」

 

「それはイヴたんが僕の......」

 

「だからイヴは嫁じゃねぇっつの」

 

 

 

 

さっきからコイツ同じことしか言えないのか。ここまでくると重症だぞ。それに周りチラチラ見てるし逃げようとでも思ってんのか?

 

 

 

 

「言っとくけど、携帯で一部始終撮ってるから」ハイ

 

「け、消せ!今すぐ消せよ!」

 

「ダメだ、消すわけないだろ」

 

「許してくれ、お願いだ!」

 

「......今回は俺も大事にはしたくないが、かと言って痴漢を見逃すわけにもいかねぇ。俺と一緒に近くの交番まで来てもらうぞ」

 

 

 

 

交番、という言葉が出た瞬間犯人の顔が徐々に青ざめていくのが分かる。やっと罪の意識が出てきたらしい。今や痴漢なんて殺人と並ぶ程の重罪だぞ。それを分かってやる奴もいるがコイツは好きという感情が行き過ぎたが故の行動。まだ更生できるチャンスはある。

 

 

 

 

「......一つだけ聞いてもいいか?」

 

「急になんだよ」

 

 

「お前はイヴたんの何なんだ」

 

 

 

 

 

頭の中をその言葉が巡る。前にもこんなことあったなぁ。"お前はその女にとって何だよ"だっけか?詳しくは覚えてないけど、そんなの決まってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヴにとっての俺は分からんが、俺にとってイヴは大切な人で大好きな奴だ。イヴが困ってんなら助けてやるし、イヴに危険が及びそうなら守ってやりたい。アイツと一緒にいるといつも笑顔になれるんだ。だから、今まで笑顔にしてくれた分お返ししないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~side change ~

 

 

 

 

 

 

 

 

「......はぁはぁ、ムネキさんは無事でしょうか」

 

 

 

私は電車の扉が開くと同時に一目散に走って駅の外まで出てしまった。まさか本当に来るとは思ってなかった。触れられた瞬間、気が動転しそうになった。最後の駅に着くまでずっと我慢していた。どうやらムネキさんが犯人を捕まえてくれたみたいで少し安心した。

 

 

 

 

「どこにいるのでしょうか」

 

 

 

そんな独り言を言いつつも周りを見渡している。近くを通りかかった子供に少し変な目で見られてしまったが、今はそれどころではなかった。

 

 

 

「あ、ムネキさん見つけま......」

 

 

 

 

そう声を掛けて近寄ろうと思いましたが、そんな雰囲気ではありませんでした。犯人と思しき人物とムネキさんが何やら話しているみたいで、遠くて内容はハッキリとは聞こえません。危険を承知の上でもう少し近づいていこうと思ったその時、犯人の口から思いがけない言葉が出てきました。

 

 

 

 

 

「お前はイヴたんの何なんだ」

 

 

 

 

 

ムネキさんが私にとって何なのか......。そんな言葉を聞いたのは初めてでした。それを聞いてムネキさんは黙って考えている様子。私も頭の中で答えを出そうと必死に考えていた。"私にとってのムネキさん"とは。いつも明るく接してくれる隣のクラスの男の子。今や私達の専属マネージャーまでやってくれていて、面倒くさいと言いつつも結局誰よりも面倒見の良いムネキさん。彼の良いところばかりが浮かんできて考えるのを邪魔してくる。そんな想いと闘っていると、ふとムネキさんが言葉を発する。

 

 

 

 

「イヴにとっての俺は分からんが、俺にとってイヴは大切な人で大好きな奴だ」

 

 

 

 

 

ムネキさんにとって、私が大切な人で大好きな人?少し理解するのに時間がかかってしまう。今まで同じクラスの子に可愛いとかキレイとかは何度も言われた。花咲川は男子生徒がほぼいないから告白なんてイベントもない。だけど、大好きなんて初めて言われた。胸が熱くなるのを感じる。しかし、その言葉には続きがあった。

 

 

 

 

 

「イヴが困ってんなら助けてやるし、イヴに危険が及びそうなら守ってやりたい。アイツと一緒にいるといつも笑顔になれるんだ。だから、今まで笑顔にしてくれた分お返ししないとな」

 

 

 

 

 

なんだか最後の方はムネキさん自身に言い聞かせている様にも感じられた。私がムネキさんを笑顔に?ただ私はみんなが楽しく出来たら良いなと思っていつも生活している。アヤさんは私から見ても少し抜けていて、チサトさんは女優との両立も出来ているしっかり者で、ヒナさんは天才で、マヤさんは機械に詳しい頼れる先輩で。そんなパスパレにムネキさんも加わって新たなスタートを迎えようとしている。そんな中私は何か役に立てているのかな......。

 

 

 

 

 

「うおっ、イヴそこに居たのか」

 

「......イヴたん」

 

 

 

考えることに夢中で周りが見えてなかった私を先に見つけてくれたのはムネキさんだった。その隣には犯人を連れている。もう話し合いが終わったのでしょうか何処かへ向かっているようにも思えた。

 

 

 

 

「あの、ムネキさん......」

 

「後で話は聞くから、取り敢えず交番に行こう」

 

 

 

それから程なくして、交番に着き事情を説明して犯人の身柄が警察へと引き渡された。その説明の中で、ムネキさんは今回の件は出来るだけ伏せておいて下さいとお願いしていた。その理由は何となく察することが出来た。

 

 

 

 

 

「結局は警察頼りになっちゃったな」

 

「......はい」

 

「ごめんなイヴ、怖かっただろ。最初から警察に頼れば良かったな」

 

「いえ、ムネキさんは悪くないです!悪いのは私で......」

 

 

 

言いかけたところをムネキさんからデコピン?をされて思わず声を上げてしまう。

 

 

 

 

 

 

「イヴは何も悪くないだろ。彩といいイヴといい何でそんな考え方なんだよ」

 

「でもムネキさんは守ってくれるって言ってくれました。だけど、私は何も出来てません!」

 

「聞かれてたのかよあれ、普通に恥ずかしいんだけど」

 

 

 

少し恥ずかしそうに頭をかいているムネキさん。その姿を見て何だか可愛らしいと思ってしまった。

 

 

 

 

「聞いてたのなら話が早い。イヴ、困ってんなら頼ってくれ。怖いのなら助けを求めてくれ。俺が出来る限り守ってやるし助けてやる」

 

 

「......はい」

 

 

私はただ黙って聞くことしかできなかった。そうすることが今やるべき事だと思ったから。

 

 

 

 

「だからな、泣かないでくれ」ギュ

 

「へ?」ポロポロ

 

 

 

突然ムネキさんに抱き寄せられる。どうやら、私はいつのまにか泣いていたらしい。ムネキさんの暖かい声、暖かい想いが全て伝わってきて私の感情は爆発してしまった。

 

 

 

 

 

「......怖かったです!何度も何度も泣きながら耐えました!それでも怖くて怖くて逃げ出したくて投げ出したくて嫌になって!」

 

 

「そうだな、イヴは頑張ったよ」ナデナデ

 

 

 

「でも、ムネキさんと一緒なら大丈夫でした。ムネキさんがいれば必ず守ってくれる気がして、隣を歩いてても歩幅を合わしてくれたりして」

 

 

 

「これからもずっと守ってやるから」

 

 

「私は、私は......」

 

 

 

「......おやすみ、イヴ」

 

 

 

私の意識はそこで途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

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「......ん、あれ、ここは?」

 

 

 

 

次に私が目を覚まして最初に見たのは見知らぬ天井。確か交番近くの公園にいたような気がする。

 

 

 

 

「お、起きたかイヴ」

 

「ムネキさん?何でムネキさんがいるんですか?」

 

「何でって、ここ俺の家」

 

「何で私はムネキさんの家に?」

 

「泣き疲れて寝てたんだよ。イヴの家知らなかったから俺の家に連れてきたんだ。令香にちょっと誤解されたけどな」

 

 

 

 

レイカさんとはムネキさんの妹さんのことだ。それにしても誤解ってなんだろう。少し気になったので恐る恐る聞いてみることにした。

 

 

 

 

「誤解ってどんな?」

 

「"お兄ちゃんが遂に女の人攫ってきた!"って言われた。イヴの顔見てるはずなんだけどな。まぁあの時は寝てたし顔も見えなかったから仕方ないけど」

 

「それは誠にすみませんでした!」

 

 

 

 

私はすぐにベッドから起き上がり頭を下げる。しかし、聞こえてきたのはムネキさんの笑い声だった。

 

 

 

 

「あはははは!イヴはやっぱりそうこなくちゃな」

 

「あれ、私何か変なことしましたか?」

 

「いんや、ありがとなイヴ。いつも俺たちを笑顔にしてくれて」

 

「そ、そんなことないですよ!」

 

「何言ってんだよ、聞いてなかったのか?」

 

 

 

 

勿論聞いてなかったわけじゃない。でも、未だに信じられない。私がみんなのことを笑顔にしているなんてことはないはず、そう自分で決めつけかけていた。

 

 

 

 

「俺だけじゃないんだよ、イヴに救われてんのは」

 

「え?」

 

「彩だって千聖さんだって、麻弥や日菜もそうだ。他のバンドの奴らもそうだぞ」

 

「私はそんなつもりは......」

 

「あーややこしい!要はこういうことだ!」ダキッ

 

 

 

 

またしてもムネキさんにいきなり抱き寄せられる。今度はさっきより少し強めだったが気にならなかった。それよりも、またムネキさんに抱きしめられた事を嬉しく思っている自分がいることに少し驚いた。

 

 

 

 

「どういうことなんでしょう?」

 

「みんな、イヴの事が大好きだって事だ。勿論、俺もだぞ」

 

 

 

瞬間、身体中が熱くなっていくのを感じる。他の誰でもない、ムネキさんだからこその感情が芽生えてくる。

 

 

 

 

 

ムネキさんにとって私は大切な人で大好きな人。

 

 

なら、私にとってのムネキさん。

 

 

 

それは—————————-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムネキさんは、私にとっての白馬の王子様です!」

 

 

 

 

 

 

「イヴさん、そこはアメリカ風なんですね」

 

 

「はい!誰がなんと言おうと白馬の王子様です!」チュ

 

 

「お、おい!いきなりほっぺにキスは卑怯だぞ!」

 

 

「スキあり、です!」ニコッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言って顔を赤くして照れているムネキさん。カッコいいところもあり可愛らしいところもある。まだまだ私が見つけられていない魅力も沢山ある。それは、これから見つけていけばいい。

 

 

 

 

 

だってこの人は、私にとっての白馬の王子様だから!

 

 

 

 

 

 

 

 






アニメのイヴの忍々!ってところキュンときません?
少なくとも私はきましたよ、はい。

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