トリプルP!~Produce"Poppin'Party"~ 作:Lycka
今日からRoselia単独ライブですな(^^)
くれぐれも熱中症等にはお気を付けて下さいな。
主は忙しくて行けませぬ。Roseliaファンとして影ながら応援しております。
今回(も)長くなってしまいました。
先に謝罪をば。多分過去最高レベルだと思われます。
それでは、24話ご覧下さい。
『昨日、○○駅の○○行き電車で痴漢が......』
「あら、これ案外近いじゃない」
「令香、電車に乗るときは気をつけるんだぞ」
「はーい」
痴漢魔を捕まえてから1日が経った。昨日はイヴを送っていって晩飯を食べ風呂に入ってすぐに寝てしまった。自分自身でも気付かないくらい相当疲れていたんだろう。朝から大々的に報道されているが、誰が捕まえたとかは一切公表されていない。警察が捕まえたことになっていた。まぁ俺が警察に詳細な内容は伏せておいてくれとお願いしたからなんだけどな。
「今日はパスパレの人いないの?」
「毎日来られたらこっちが迷惑だ」
「なら、今日はれーかがお兄ちゃん独り占めできるね!」
「はいはい、登校するだけな」
朝ご飯を食べているのにこの妹ときたらずっと俺の横にいるのである。妹は朝ご飯を済ませているのにも関わらずだ。正直食べ辛くはあるのだがそこは我慢。ここで無闇に拒否してしまうと令香が傷付いてしまう可能性がある。何より父さんが何しでかすか分からん。まぁ大体は母さんが止めてくれるけどな。
家内カーストは俺>父さん>母さん>令香の順である。
***
あれから朝ご飯を終え、家を出ないといけない時間になった為二人で準備して家を出た。未だ夏期休暇中の両親はのんびりコーヒーを飲みながら見送ってくれた。父さんのザマァみろって顔は忘れない。帰ったら令香に父さんのこと無視するように言ってみよう。
「あ、あーちゃんとお姉ちゃんだ!」
「あ、本当だ」
二人でいつもの道を歩いていると香澄と明日香に出会った。令香が一目散に飛びついていった後を俺が付いて行く。
「令香ちゃんおはよう」
「れーかちゃんもむーくんもおはよ!」
「おう、おはよう」
「おはようであります!」
二人に抱きつきながらも敬礼のポーズを取る令香。こうして四人で登校するのは久し振りな気がする。少し声が大きかったのか周りの生徒に見られてしまうが当人達は知らぬ存ぜぬで話を進めている。かと思いきや明日香がこちらへやってきた。
「朝のニュース見た?」
「ん、痴漢のやつか?」
「そうそう、私昨日あの電車乗ってたんだよ」
「......マジで言ってんのか」
見つからなくて良かった......。どうやら友達と遊ぶのに電車を利用していたらしい。あのまま放置しておいたら明日香までもがターゲットにされるところだった。少し冷や汗をかいてしまう。
「明日香も何かあったら言えよ。お兄ちゃんが守ってやるからな!」ナデナデ
「宗輝はお兄ちゃんじゃないでしょ!」///
「何言ってんだよ、小さい頃はお兄ちゃんって言ってたぞ」
「えぇ⁉︎ほ、本当に?」
多分明日香は覚えていないだろうが、小さい頃は良くお兄ちゃんお兄ちゃんと言われたものだ。それこそ今の令香くらいにはベッタリだった気がする。それなのに段々とお兄ちゃん離れが始まって......。お兄ちゃん悲しいです。
「ま、それは置いといてだな。最近怪しい奴も出るって聞いてるから明日香も香澄も気を付けろよ」
『はーい』
香澄と令香が同時に抜けた声で返事をする。それを聞いて俺と明日香が同時にため息をついてしまう。あっちはあっちで、こっちはこっちでシンクロしてて何が何だか分からん。
「あれ絶対聞いてないね」
「明日香、お前が一番頼りだ」
「まぁそこは上手くやっとくよ」
~花咲川~
あれから明日香とは途中で別れ、俺と香澄と令香の三人で花咲川へ到着。中等部に行く令香を二人で見送ってから自分たちのクラスへと向かった。そして、やはり今日も出会う訳で。
「あら!香澄に宗輝じゃない、おはよう!」
「こころ〜ん、おはよ!」
「美咲〜、今日も助けてくれ〜」
俺はその場には居ない美咲の名前を呼んでみる。花咲川の異空間と戸山家の問題児を一緒にするなと何度言ったらわかるんだ。こうなればもう俺の手には負えんのだよ。
「宗輝は今日も予定があるって言ってたわね」
「あれ、むーくんそうなの?」
「おう、ポピパは今日も蔵練だろ」
「あ、むーくん聞いて聞いて!昨日有咲がね〜」
それからは、昨日の蔵練で有咲がお菓子一杯食べてたやらおたえが摩訶不思議な事を言いだしたりと、割とポピパあるあるな事を香澄が自慢げに話し続けていた。勿論、沙綾が差し入れでパン持ってきてくれたことやりみりんが相変わらずチョココロネ大好きなことも聞いた。香澄さん、言われなくても何度も目にしてるんですよ、有咲のお菓子以外はな!!
そう思っていたところで、丁度有咲がクラスへやってくる。
「おはよ〜」
「有咲おはよ!」
「......」
有咲はそのまま通り過ぎようとしていたので、俺は確かめるべく有咲のお腹を少しつまんでみた。
「えいっ」プニッ
「ひぇ!!お、お前ぇ!いきなり何してるんだよッ!」///
「有咲、お菓子の食べ過ぎは良くないぞ」プニプニ
「そうやって言いながら触るなぁー!!」///
存外、感触が良かったのでつい追加でぷにぷにしてしまった。何でこんなに女の子って柔らかいんだろうな。こればかりは生涯解き明かせない謎である。
「むーくん私もやりたい!」
「お、やってみるか」
「やらせるかバカぁ!!」
触って分かったのだが、まだ有咲は太り始めてはいないようだ。元々がスタイルいいから少しお菓子を食べてもそこまで影響がないんだろうか。かくいう俺も昔から食べても食べても太らない体質なのだ。積極的には運動なんてしてないのにな。女の子に非常に忌み嫌われる体質である。
「っていう茶番は置いといて」
「誰が茶番で女子のお腹触るんだよッ!!」
『はい、ナイスツッコミ!』
「あなたたち相変わらず仲が良いのね!」
「これは仲が良いとは言わねー!!」
朝から有咲の強烈なツッコミが聞けて満足である。結局朝のHRが始まる寸前まで有咲をいじってはツッコミを食らうという流れが数回続いた。前半は空気だったこころも後半戦からはドンドン割って入ってきた。流石は異空間と言ったところか。
そして、つつがなく授業も進みお昼休憩の時間となった。
「香澄〜有咲〜、中庭行くぞ〜」
「むーくん待って〜」
「香澄置いてくぞー」
香澄が一生懸命カバンの中のお弁当を探しているのに気付いていながらも、教室から出る俺と有咲。そしてその後を追ってくる香澄。三人でいつもの中庭へ向かっていたが、途中で人にぶつかられた、のではなく腕に抱きつかれてしまった。
その人物とは、意外にも教室から飛び出てきたイヴだった。
「イヴ、いきなり抱きついてきてどうしたんだ?」
「ムネキさん!一緒にご飯を食べましょう!」ダキッ
「お熱いねぇ」
「でも、市ヶ谷さんと付き合ってるんじゃなかったっけ?」
「私は3年の丸山先輩って聞いたわよ」
イヴのクラスから色んな憶測の混じった声が聞こえてくる。俺は有咲と付き合ってねぇし彩とも付き合ってねぇよ。お熱いねぇとかヒューヒュー言ってるやつやめろ。迷惑だろうが、主にイヴに対してな。俺は別に言われて嬉しいけどな。
「よし、じゃあ一緒に食べるか!」
「はい!好きな人だったら一緒に食べるのがキホンです!」
「おーっと、イヴさん何でこんなに近いのん?」
「これが愛情の印です!」チュ
「若宮さん大胆ね!」
「あれが修羅場ってやつね」
「私も行ってこようかしら」
前からこんなに距離近かったっけな。いや、今はそれどころではない。何なんだよさっきからこっちに聞こえるか聞こえんか分からんくらいの声で言ってるの。野次馬根性備わり過ぎだろ。お前らは2年E組の野次馬三人娘で決定な。
「分かった、分かったから一旦離れてくれイヴ」
「いえ、このまま中庭まで行きましょう!」
「なら私は左腕!」ダキッ
イヴが右手、香澄が左手にしがみ付いて離れなくなってしまった。客観的に見れば両手に花なんだろうけどな。実際、この状況になると自分が昆虫の止まり木になった気分だ。何だろう、そんなに悪くない。むしろ柔らかい感触と甘い香りが体験できてラッキーなのでは......
「何考えてるんだよお前は!」
「いってぇ!!何するんだよ有咲!」
「顔がニヤニヤしてたから良くないこと考えてただろ!」
有咲から愛のあるチョップを頂戴する。有咲には何でもお見通しみたいです。何故だろう、何処かの敏腕アラサープロデューサーが頭をよぎる。"私はその子よりは甘くないわよ?"なんて言うツッコミまで聞こえてきそうで怖い。これ以上は考えるのをやめておこう。
そうして、ポピパの5人と俺とイヴで楽しく騒がしくお昼ご飯を食べた。
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『気を付け、礼』
『ありがとうございました〜』
俺の苦手な数学の授業が終え放課後となった。数学が嫌いと言ってもそこまで酷い点を取るわけではない。テストでは今まで上位をキープし続けてきているし、何ならトップ争いに一時期乱入したこともある。それには勿論負けたわけですよ。だってね、有咲に勉強で勝てるわけないじゃんか。まぁ勉強以外でもほとんど負けてるんだけどな。
「......行くか」
今まで考えていた事を全て払拭するかのように、自分に言い聞かせるように、気合いを入れるようにして席を立つ。ここからはそんな甘い世界ではないことを今一度自覚する。昨日は何とかしてイヴの件を解決した。しかし、まだ問題は残っているのだ。麻弥がストーカーされてる疑惑である。
「今日も何処か行くの?」
「沙綾か、まぁちょっとした用事だ」
教室を出てすぐのところで沙綾に見つかってしまった。何も悪い事はしていないのだが何だかそういう気分になってしまう。
「あんまり無理しないでね」ギュ
言い方は悪くなってしまうが、適当に流して早いところ麻弥を迎えに行こうと思っていた矢先、沙綾に袖を掴まれてしまった。こういうところは鋭い沙綾。実際、前回のRoseliaのライブの手伝いの時や今回の専属マネージャーとしての手伝いをし始めてからというものやまぶきベーカリーへ足を運ぶことが出来ていない。予め沙綾や千紘さんには伝えているのだがやはり不安に思うところがあるのだろう。
「分かってる、約束だからな」
「うん、約束だよ」
沙綾と交わした
その後も少しだけ沙綾と他愛ない話をしてから、俺は花咲川を後にした。
~羽丘学園~
「あー!宗輝みっーけ!」
「げっ、めんどくさい奴に見つかった」
羽丘に着いて早々に日菜に見つかってしまった。いや、おかしいでしょう。俺まだ校門過ぎて校舎に向かってたところだよ?何で2階の窓から見つけられなきゃいけないのん?
「おーい、何で来たの?」
「今日は麻弥に用事があるんだよ」
当然の如く俺の方へやってくる日菜。とてもさっきまで2階にいたとは思えないスピード。しかし、今日は麻弥に用があるのだ。日菜には悪いが早いところケリをつけないといけないな。
「そういうことだから、今日は遊んでやれん」
「分かった!麻弥ちゃんが前に言ってたストー.......んぐっ⁉︎」
「日菜ちゃんちょーっとこっち来ようか?」
日菜の天才っぷりはどうやらこういうところまで発揮されるらしい。まだ周りに部活や居残りの生徒が沢山居る中でそれはNGだろ。危うくSNSなんかで拡散されるところだったぞ。最近のJKの拡散力を舐めてはいけない。噂好きの主婦並みには早い、若しくはそれ以上か。俺は日菜の口を押さえたまま校舎の裏へと向かった。途中で何人かに不審な目で見られてしまったが今は気にしないでおこう。決して如何わしい事をしているのでは断じて無い。
「日菜、何言おうとしてんだよお前は」
「ごめんごめん、つい口が滑っちゃった」
「ついで済む問題じゃねぇだろあれは」
つい、でこのストーカー紛いの事件が済むなら日本に警察なんて要らないだろう。
「でも当たってるんだよね?」
「まぁな、このまま麻弥に嫌な思いさせ続ける訳にもいかないしな」
「やっぱり宗輝は優しいねー」
「馬鹿か、こんなの当たり前だろ」
皆さんは知り合いの女の子がストーカー紛いの行為をされているとしたら手を差し伸べるだろうか。答えは勿論YESだと思う。流石に赤の他人からいきなり"ストーカーされてるの!助けてください!"と言われたら少し悩む。まず本当かどうか怪しいしな。しかし、今回は当の本人である麻弥からの情報。これに手を差し伸べないほうがおかしいと俺は思う。
「私がストーカーされてても助けてくれる?」
「助けるに決まってるだろ。日菜でも彩でも千聖さんでも、他のみんなだとしても俺は助けるよ」
「ふぅん、つまり宗輝はみんな大好きってことだね!!」
「そうだな、俺はみんなが.......って話の論点ズレてるぞ」
それに関しては否定出来ない。俺自身みんなのことが大好きなのは自覚している。しかし、それはあくまで"LIKE"であって"LOVE"では無いのだと思う。何故こんなに中途半端なのか。それは一重にこれまで俺がそういうのを避けてきたからだろう。多分好きと愛してるは違うよな?これ俺が間違ってんの?
「おーい、宗輝大丈夫〜?」
「ああ、大丈夫。日菜も一人で帰ると危ないから友達と帰るんだぞ」
「はーい」
少し考え過ぎて日菜がいることを忘れてしまっていた。一応日菜にも注意喚起を怠らなかったがあの返事だと少し不安になってしまう。まぁそこは日菜に任せといて大丈夫だろう。
それから日菜と別れて麻弥が待っている教室へと向かった。それまでの道でもひまりや友希那に出会ってしまったのだがそれは話すと長くなってしまうので省略しておこう。まぁ簡単に言うとすっごい抱きつかれた。それを止めに入ると思われたつぐみやリサまで参戦する始末。それを振り払う俺の気持ちも察してほしいものである。
「麻弥〜、迎えに来たぞ〜」
「スミマセン、少しだけ待ってください!」
「外で待ってるからな〜」
いかん、さっきモカに会ったせいか口調がモカっぽくなってる。これが俗に言う"モカってる"ってやつ?多分、いや絶対違うな。
「お待たせしました!」
「おう、そんなに待ってないけどな」
時間にして数分、ドアの横で壁にもたれかかる様にして待っていた。麻弥が鞄を抱えてヒョコッと顔を出してきたので俺も態勢を整える。
「あれ、さっき眼鏡してたよな?」
「今日は裸眼の気分なんですよ!」
「あー、それある」
これは眼鏡かコンタクトレンズを使っている人にしか分からないかもしれないが、目の疲れからくるのか時々裸眼にしたい気分になる。元々は裸眼だから裸眼にするっていう表現は間違ってるかもしれないけどな。少なくとも俺は同意できる内容だ。俺の場合はそこまで視力も悪くないから影響は無いけど。
「なら麻弥の眼鏡貸してくれ」
「へ?なんでですか?」
「そういう気分なんだよ」
そう言って俺は麻弥が普段身に付けている赤縁眼鏡を借りた。麻弥には気分だと嘘をついてしまったがバレてなさそうだし良いだろう。もしかすると犯人に俺の姿がバレてしまっている可能性も踏まえて変装がてら眼鏡を付けておこうとの判断だった。こんな彩みたいな変装方法じゃバレバレだけどな。
「宗輝君は眼鏡似合いますね」
「そうか?今までつけてなかったから分からんな」
「私が保証しますよ!」
「なら安心だ」
こうやって麻弥と笑い合いながら暮らせる日々に感謝だな。そんな麻弥の笑顔の為なら何だって出来る気がする。まぁ気がするだけかもしれんが。
それから、俺たち二人は羽丘を後にして麻弥の家へ向かっていた。イヴの時と同じように、近くを歩いてはいるがあくまでも他人のフリをしながら。ストーカーの犯人が釣れるのをじっと待っていた。
~数分後~
「(めちゃくちゃ暑いな今日......)」
羽丘を出て数分が経過した頃。季節は夏直前の7月。夕方になり少しは収まったと思われた暑さも不安と緊張のせいで余計に暑く感じてしまう。額からは少し汗も吹き出していて気持ちが悪い。鞄に入れていたハンカチで拭きながら歩を進めていた。
途中で自動販売機を見つけたので麻弥の携帯に連絡してから飲み物を買った。麻弥も同じく飲み物を買って歩きながらも器用に水分補給をしている。そんな中、麻弥から一通のメールが届いた。
From:麻弥
To:宗輝君
[本文]
この通りで以前は気配を感じました
–End–
本文がほんの少し書かれただけのこのメール。今の麻弥の心情を理解するのはこれだけで充分過ぎる程だった。前を歩いている麻弥を見てみると小刻みに手が震えているのが確認できる。これまたイヴの時と同じように今は我慢してもらうしかないと思い、俺は再度周りを警戒していく。
「(この辺りは道をグルグル回れるようになってんのか)」
少し歩いて分かったが、この辺りは道をグルグル回れる仕組みになっていた。それに気付き俺は慌てて麻弥についてくるようにメールを送る。これでもしかしたら罠にかかってくれるかもしれん。
それから同じ道を2.3周グルグルと回った。そして、不審に思った麻弥が近づいてくる。
「宗輝君、これは何を?」
「もうすぐすれば分かるさ。......ほら」
俺が指差したのは、今までグルグルと歩き回っていた道路。
「あれ、ここさっきまでは濡れてなかったですよね?」
「ああ、俺がさっき買った水を撒いておいたからな」
「あれ、でも足跡が.......」
そこまで口にした麻弥は何かに気付いた様子でハッとしている。俺たちは一度も後ろを振り返ってはいない。同じ道をグルグルと歩き回っているので少し不審にも思われるが、これは俺なりの立派なトラップであった。俺が水を撒いてから俺と麻弥はそこを通っていない。なら何故足跡があるのか。その答えに行き着くのにそう時間はかからなかった。
「麻弥、あと一回だけ一人で回ってきてくれ」
「はい、分かりました」
そう言って麻弥は一人でもう一度同じ道を歩いていく。かくいう俺は少し道を外れて様子を伺っていた。そして、麻弥が再度見えて通り過ぎると同時にそれは現れた。
「......」コソコソ
「......もうバレてるから出てこいよ」
「......ッ!!」
今までは壁に隠れていたのだが、観念して素直に出てきてくれたので助かる。しかし、ここで意外な真実を目にする。
「お前、リレーカーニバルに来てたよな?」
「何でそれをお前は知ってるんだよ⁉︎」
「いや、最近お前の友達見たから」
なんだよ、こいつら二人揃って犯罪予備軍だったのか。今にして思えばあの時もまぁまぁ危ない発言してたな、嫁だとか何だとか。
「んで、何で麻弥のストーカーなんでしてるんだ?」
「ス、ストーカーじゃない!ただ一緒に帰ってただけだ!」
「後ろからコソコソ覗きながらついていくのが最近では流行ってんのか」
「クソッ!!大体お前誰なんだよ⁉︎」
「只の麻弥の友達だよ」
見たところコイツは20代後半ってとこか。前のやつと同じぐらいの背丈で体格も同じ様なもんだな。言っちゃ悪いが少し太り過ぎだよ痩せろ。あとこのクソ暑い中長袖長ズボンはやり過ぎな。見てるこっちまで暑苦しい。
「麻弥ちゃんは僕の物だ!お前なんかに渡してたまるか!」
「麻弥は誰のものでもねぇよ」
「しかも、お前その眼鏡麻弥ちゃんのだろ⁉︎」
「いや今はそこ問題じゃないだろ」
「お前なんかが付けていい物じゃないぞ!」
それはそうかもしれんがお前も同じだってことに気付け。ていうか俺は麻弥に許可もらってんだから良いんだよ。流石に無断で使ったりするか。親しき仲にも礼儀ありって有名な言葉知らないのか。
「麻弥困ってるから付いて回るの辞めてくれ」
「だから付いて回ってなんか無い!お前に麻弥ちゃんの何が分かるんだよ!」
カッチーン、流石にそれは頭にきたわ。俺が麻弥の何が分かるか?ならお前にも同じこと言い返してやるよ。俺はやられたらやり返す主義なんでな。
「なら、お前は麻弥の何を知ってるんだよ」
「麻弥ちゃんは僕の好きな人で、麻弥ちゃんの好きな人は僕だ!」
「んなわけないだろ、いつお前のことを麻弥が好きって言ったよ」
「そ、それは、決まってることなんだよ!」
なーんかコイツの言い方イライラするんだよなぁ。前のやつのイヴたん呼びも中々だったが。コイツの場合言い回しとかそこらへんが癪に触る。妄想も大概にしとかないとこうなるぞ。画面の前のみんなはちゃんと分かってると思うけどな。
「それ以上言ってみろよ、警察に突き出してやるからな」
「......それだけはやめてくれ」
前のヤツほどじゃなくて助かる。もう警察沙汰なんて勘弁だからな。今回は証拠も何も無いが脅しだけで済んで良かった。
「じゃあ一つ良いこと教えといてやろう」
「な、何だよ」
一度深呼吸をして心を整える。
「俺も麻弥の事好きだから俺とお前はライバルだ。だから、セコいことなんかしてないで正々堂々麻弥にアタックしてみろ。その方が麻弥だって嬉しいはずだからな」
「お前なんかに負けないからな!」
「精々頑張ってくれ」
そうして、ストーカー紛いの事をしていた男は去っていった。
~大和宅~
「よし、着いた」
「......」
麻弥の家はそこまで遠くなかったのであれから数分で到着。家に着いたのは良いのだが、玄関の前で麻弥が固まってしまった。
「おーい、麻弥さーん。お家に着きましたよ〜」
「......やです」
「ん、何か言ったか麻弥」
「帰るの嫌です......」
「何で帰るの嫌なんだ?」
体調でも悪いのだろうか?あまり周りを気にしていなかったのだが、あの会話を麻弥が聞いていたとしたら気分を害していたとしてもおかしくはない。男の俺からしても腹が立っていたのだ。本人である麻弥が気分が悪くなるのはむしろ当然と言える。
「......怖いんです」ギュッ
「やっぱりまだ整理出来ないか」
「一人になると、怖いんです。また別の人がって考えだすと止まらなくなってしまって」
抱きついてきた麻弥は震えていた。もう日もほぼほぼ落ちていたので周りは薄暗い。そのせいであまりハッキリとは見えなかったのだが目の辺りが少し腫れているようにも見えた。やはり女の子では耐えられないところもあるだろう。しかし、こう泣きつかれてしまうと俺も弱る。
「大丈夫だ、俺が何度だって助けてやる。みんな麻弥が可愛いから寄ってくるんだよ」
「......私が可愛いからですか?」
「おう、俺は眼鏡掛けてフヘッてる麻弥が好きだ。真剣な表情でドラムを叩いてる時の麻弥も好きだ。眼鏡外してモデルの写真撮ってる麻弥も大好きだ」
「ちょっと、宗輝君やめてください恥ずかしい」///
麻弥は恥ずかしくなったのか俺の胸に顔を埋めていく。正直、それ物凄くキュンとくるのでやめて頂きたい。顔赤くしてモジモジしてる美少女が自分の胸に顔埋めてくるってどういうシチュエーションだよ。軽く気絶しそうだわ。
「つまりだな、怖くなったりしたら俺に言ってくれ。いつでも駆け付けてやる。麻弥は俺の大切な人だからな」
「......はい、分かりました!」
「いつもの麻弥に戻ってくれて助かる」ナデナデ
「ジブン一つ歳上のはずなんですけど......」///
「彩とか日菜とかに普段やってるからあまり気にはならないな」ナデナデ
そう言われてみればそうだな。今まで彩や日菜とかには頭撫でたことあったが麻弥にはなかったかも。まぁアイツらは歳上って感じしないし。今のところ千聖さんとか紗夜さんとかとかしか歳上オーラ感じないな。友希那はちょっとポンコツだし花音先輩はドジっ娘だし。まぁそういうところ全部含めて好きなんだけどな。
「よし、なら俺も帰るから」
「待ってください宗輝君!」
突然、麻弥が近づいてきてほっぺにキスをされる。
「これはお礼です!ちょっと少ないかも知れませんが」
「......ありがと、麻弥」
麻弥の意外な一面に驚きながらも、俺は麻弥に見送られながら家へと帰った。
~side change ~
「よし、着いた」
あれから数分、ジブンの家に着いた。でも、家に帰るのが嫌だった。それは先程の件も関係している。今回は宗輝君が追い払ってくれたが、また一人になった時に別の人が、と考えてしまうと止まらない。これは人間の悪い癖でありジブンの悪い癖でもある。悪い方悪い方へと考えてしまうのは小さい頃からの悪い癖。
「おーい、麻弥さーん。お家に着きましたよ〜」
宗輝君が目の前で手を振っている。さっきから微動だにしないジブンに気付いてもらおうとしているのか少し顔も覗かせている。
「.......やです」
「ん、何か言ったか麻弥」
ジブンでも驚いてしまった。これが思ったことが口に出てしまったということだろうか。しかし、一度出てしまったものは仕方がない。心の奥底にしまっていたジブンの想いを吐き出す。
「......怖いんです。一人になると、怖いんです。また別の人がって考えだすと止まらなくなってしまって」
ジブンでも制御が効かなくなってしまったその想いは止まらない。挙げ句の果てに宗輝君に抱きついてしまった。恥ずかしい気持ちもあったが今はそれどころではなかった。
「大丈夫だ、俺が何度だって助けてやる。みんな麻弥が可愛いから寄ってくるんだよ」
宗輝君にそう言われて一気に体温が上がるのを感じる。今までジブンは"美"という観点に対してあまり興味を示さなかったし気にすることもなかった。パスパレに入ってモデルのお仕事も少しづつ貰えるようになってからは意識していた。それでも、やはりジブンの悪い癖で謙遜してしまう部分が大きかった。なのに、宗輝君はこんなにもストレートに言ってくれる。それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「俺は眼鏡掛けてフヘッてる麻弥が好きだ。真剣な表情でドラムを叩いてる時の麻弥も好きだ。眼鏡外してモデルの写真撮ってる麻弥も大好きだ」
「ちょっと、宗輝君やめてください恥ずかしい」///
それでも追加攻撃を仕掛けてくる宗輝君。流石に恥ずかしすぎたので咄嗟に宗輝君の方へ身体を預けるような形で顔を埋めてしまう。恥ずかしい、恥ずかしいのにこんなにも嬉しくて嬉しくて。
「つまりだな、怖くなったりしたら俺に言ってくれ。いつでも駆け付けてやる。麻弥は俺の大切な人だからな」
「はい、分かりました!」
そうすると宗輝君が頭を撫でてくれた。彩さんや日菜さんにしているところは今まで何度も目にしてきたが、実際ジブンがされる側になると分かる。一つはとても気持ちいい事。そして、何故か分からないけど凄く安心感が得られるという事。でも、今はそれ以上に恥ずかしさが上回ってしまっていた。
「ジブン一つ歳上のはずなんですけど......」///
「彩とか日菜とかに普段やってるからあまり気にはならないな」ナデナデ
やはりこの人は卑怯だ。あんなにも嫌なことがあって、こんなにも恥ずかしいのに、どうしてこれほどまでに幸せなんだろう。抱きしめられて頭を撫でてもらって。今までに抱いてきたことのない感情が溢れてくる。それから数分はずっとそのままの状態で頭を撫で続けてくれた宗輝君。
「よし、なら俺も帰るから」
そう言って離れていったときの何とも言えない喪失感は消えてくれなかった。ここで終わらせてしまっては何も変わらない。今までと何も変えられない。勇気を振り絞って、ジブンから宗輝君にキスをする。突然の出来事に宗輝君は驚いた表情を見せてくれた。その後少し顔を赤くしながらも照れている様子を見て嬉しくなっているジブンがいる。やっぱり、宗輝君の事が好きなんだと嫌でも自覚してしまった瞬間だった。
「これはお礼です!ちょっと少ないかも知れませんが」
「......ありがと、麻弥」
今できるとびっきりの笑顔で宗輝君に微笑みかける。宗輝君もそっと微笑みながら応えてくれた。その一つ一つの仕草が今は堪らなく愛おしい。
その後、帰路に着く宗輝君を見えなくなるまで見送って家に戻った。
そして、先程までのジブンの行動を冷静になって思い返してみてベッドへダイブする。
「何であんな事言ってしまったんでしょうか......」///
こうして、部屋着である体操服に着替えてふと我に返って考えてみると恥ずかし過ぎて耐えられなくなる。枕に顔を埋めながらあの楽しかった時間を思い馳せる。
「やっぱり、宗輝君の事が......」
一つ歳下の彼、頼りになってカッコよくて。今まで男の人にそんな感情を抱いた事が無かったのに、急に意識してしまう。宗輝君のことを考えると楽しくて嬉しくて胸がキュンとなる。これが恋ということなのでしょうか。
分からない、ジブンにはまだ分からない。
けれど、それでもわかっている事がある。
宗輝君、君はジブンの——————-
「宗輝君はジブンの永遠のヒーローです!!」
みなさん、ドリフェス不安よな。
主、引きます。
(ネタも引くタイミングも遅いですが、無事水着千聖さんを迎えられたので満足してますごめんなさい)