トリプルP!~Produce"Poppin'Party"~   作:Lycka

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更新大幅に遅れてしまい申し訳無い。
遅れた理由は多々ありますがご容赦願います。

今回過去一の文字数.......
厨二展開多数......

これからも暖かく見てやって下さい。

それでは、36話ご覧下さい。


Produce 36#漆黒の狂宴

 

 

 

 

 

本日は快晴、空を見上げると雲一つない青空。どこまでも澄み渡り青一色に染め上げられたそれは、何処か天然バンドメンバーの愛用ギターを彷彿とさせる。半袖を着ていても少し汗ばんでしまう様な外気温にうんざりしながらも、今日も今日とて日は回る。

 

 

 

色々あった七夕祭りから数日、特に何の変哲も無い日々を過ごしている。朝香澄と令香にダイブで起こされるところから始まり、学校ではポピパメンツ、こころやはぐみと言った問題児や花音先輩や燐子先輩達癒し系キャラの人達とも話したりして、学校生活もとい青春を謳歌しているように感じる。

 

 

 

 

「むーくん聞いてる?」

 

「すまん、ちょっと考え事してた」

 

「また風邪引かれたら困るしちゃんと休みなよ」

 

「沙綾こそ最近は頑張ってるって聞いてるぞ」

 

 

 

 

沙綾の情報はやまぶきベーカリーに行く度に千紘さんから共有してもらってる。勿論、純や紗南達も貴重な情報源だ。やれ朝早く起きてパンの仕込みやってるとか練習無い日は大体店の手伝いしてる事だったりだとか。まだライブの予定とかは無いから基本的に練習は出来る時に出来るだけやるスタイル。

 

 

 

「まーたお母さんでしょ」

 

「仕方ねぇだろ、千紘さんの方から教えてくれるんだよ」

 

「でも前はむっくんから......」

 

「おたえ、うさぎのしっぽパン2つで手を打とう」

 

「やっぱり何でもないや」

 

「おたえお前上手いこと飼い慣らされてんぞ」

 

 

 

おたえは扱い易くて助かる。やまぶきベーカリー人気パンの一つであるうさぎのしっぽパン。案外早く売り切れる為朝早くに行くか取り置きでもしないと中々食べられない代物だったりする。いつもって訳じゃないけどな。

 

 

 

「午後の授業体育2時間だっけ?」

 

「バレーボールとかめんどくせぇ〜」

 

「有咲ちゃんとやらなきゃダメだよ!」

 

「私達は2時間共移動教室だから早めに戻ろっか」

 

「うん、じゃあまた放課後だね」

 

 

 

どうやら沙綾とりみりんは移動教室らしい。あれもあれでめんどくさいからなぁ。1つ目の授業と2つ目の授業の教室が真反対とか時々あるからな。あーだこーだ駄弁りながら歩いてると着いたらすぐ授業開始のチャイムが鳴ったりしてやる気無くす。しかも時間割とか決まってるから週1でやってくるんだよなぁ。

 

 

 

「なら俺らも着替えあるし戻るか」

 

「じゃあねおたえ!」

 

「また放課後〜」

 

「有咲姫、教室までご案内致します」

 

「はいはい、良きに計らえよ〜」

 

 

 

このやり取りも何十回とやってきただろう。最初は周りの生徒に変な目で見られてたけど最近は何故か暖かい目線を感じる。別に俺と有咲はそういう関係じゃないからね?

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「お帰りお兄ちゃん」

 

「ただいま我が愛しの妹よ」

 

「また有咲さんとお姫様ごっこしてたでしょ」

 

 

 

 

令香にはバレバレらしい。結局体育の時間ずっと有咲とお姫様ごっこしてたからな。水と言われれば水分補給の手伝いをして、熱いと言われたら仰いで風を送る。どうやら俺は意外と尽くすタイプの人間らしい。

 

 

 

「母さん達は?」

 

「お父さんと一緒に買い物に出かけたよ」

 

「なら夕飯はもうちょっと後になりそうだな」

 

「お腹空いたなら令香作ろうか?」

 

 

 

何て良くできた妹なのだろうか。兄がお腹を空かせているのを見計らって自ら晩御飯を作るという殊勝な考え。俺はお前が妹で本当に良かったよ。

 

 

 

「いや、夕飯まで部屋で時間潰すわ」

 

「夕飯出来たら呼びに行くね」

 

「いつもさんきゅーな」

 

「それは言わないお約束でしょ」

 

 

 

 

何か熟年夫婦みたいで憧れるシチュエーション。だかしかし相手は妹、愛が芽生えているとは言うものの家族愛というものである。いくら好きだと言っても超えてはいけない一線は存在する。

 

 

 

 

宣言通り自分の部屋で時間を潰すと言ったものの、時間を潰せるような物がなくて困っている。ゲームはリビングに置いてあるし漫画でも読み直すか?既に数十回は読み漁ったであろうラブコメや学園モノ、最近では異世界転生モノも多いと聞く。

 

 

 

「流行りのアニメでもあこに聞いてみるか」

 

 

 

自分の携帯の連絡先を開き目的の人物の電話番号を調べる。確か前に巴と一緒に登録しておいたはず。ところが、神がかったタイミングで電話しようとしていたあこから着信アリ。これって運命ってやつ?

 

 

 

「もしもし、どうしたんだあこ?」

 

『宗輝ってNFOやってたっけ?』

 

「んー、最近忙しくてやれてないけどな」

 

 

 

 

 

あこの言うNFOという言葉。"Neo Fantasy Online"というこれまた流行りのMMORPGゲームである。内容はファンタジー寄りでギルドやら何やらも盛り沢山のPCゲー。あこに伝えた通り、最近は忙し過ぎてあまりIN出来ていないのだ。偶に気が向けばログインボーナスだけでも取ってる感じ。あと定期的にアプデが入る為INしておかないと後々面倒な事になる。

 

 

 

 

『今から入れたりする?』

 

「入れるっちゃ入れるが、何かあるのか?」

 

『今三人限定の特殊なイベントやってて人数が足りないの』

 

「それで俺に白羽の矢が立ったと」

 

 

 

 

どうやら数集めで俺に声が掛かったらしい。三人パーティー限定となると自ずと難易度は上がってくる。戦闘向けなタンクやウィザード、補助的な役割を担うヒーラー等役職が限られてくる為、簡単にクリアさせてはくれないだろう。多分もう一人は燐子先輩で決定だろう。

 

 

 

「分かった、今からINするから待っててな」

 

『ありがと!確認出来たら通話かけるね!』

 

「まぁ今も通話してるけど......って切りやがったな」

 

 

 

俺のつまらんネタは別に聞かなくても良いけどさ。とにかくINしてみるか。この間はいつやったっけな?正直、装備とか一世代ぐらい前だろうから役に立つか分からんな。

 

 

 

「ヘッドホンどこやったっけな」

 

 

 

 

PCを起動させている間にヘッドホンを探す。前に置いたところを覚えていなかった為、手当たり次第に探していくと案外簡単に見つかった。タイミング良くPCも起動出来た様なのでNFOのアイコンをクリックしログインする。自分のプレイヤーネームである"(かがやき)"。そしてキャラクターが映し出されゲームが始まる。ついでにあこと燐子先輩との通話も開始。

 

 

 

「もしもし、宗輝入れた?」

 

「おう、前にINした時からアプデ入ってなくて助かった」

 

「宗輝君、こんにちわ」

 

「燐子先輩もやってたんですね」

 

 

 

 

通話も無事繋がったところで、集合場所である旅立ちの村に向かう。何やらチャットが凄い速度で流れているが何かあったのだろうか?多分何処ぞのパーティーがチャット機能を全体にしているのを忘れて会話でもしているのだろう。俺もその経験あるから分かるが意外と気付かないものである。やれ夕飯何食べただの今日の学校しんどかっただの聞きたくもない事を聞かされる側になると気にならないけど。

 

 

 

 

「到着、二人は何処にいるんだ?」

 

「あこはりんりんと一緒にいるよー」

 

「あこちゃんは"聖堕天使あこ姫"、私は"RinRin"です」

 

「聖なる天使か堕ちた天使かハッキリしろよ」

 

「こっちの方がなんかカッコいいじゃん!」

 

 

 

俺からすれば多分あこは聖なる天使側だと思うけどな。聖堕天使とかごちゃ混ぜな設定に加えて姫も付いてきてる。まぁ厨二病な点を堕天使の部分とすると全て合点がいくってもんだ。あこは天使で堕天使で姫だからな。因みに燐子先輩は女神。

 

 

 

「見つけた、ちょっと遠いな」

 

「ゆっくりで大丈夫ですよ(*´꒳`*)」

 

「あこ達もまだ準備出来てないから」

 

 

 

旅立ちの村にいるプレイヤー一覧を開き、先程燐子先輩から伝え聞いたプレイヤーネームを検索する。確かに"聖堕天使あこ姫"の近くに"RinRin"というプレイヤーがいる。この二人で間違い無いだろう。俺は村の入り口、二人は村の奥の方で準備しているとの事なのでダッシュで向かう。

 

 

 

 

「それよかさっきからチャットがうるさいけど、特殊イベントか何かの話で盛り上がってんのか?」

 

「あこ達もチャット見てないから分かんない」

 

「ちょっと確認してみるね」

 

 

 

 

流石は燐子先輩、こういう時にすぐ行動に移せるのは良いことだ。まぁ現実(リアル)では少し難しいだろうけど。燐子先輩もそういう自分を変えたくて生徒会長になったらしいし、俺も生徒会に入っては無いけど出来る限りサポートしていこう。

 

 

 

 

「あ、あこちゃん大変だよΣ(゚д゚lll)」

 

「どうしたのりんりん、珍しく声が大きいよ?」

 

「何かあったんですか?」

 

 

 

あこの言う通り、珍しく燐子先輩が声を荒げて驚いた様な反応をしている。どうやらチャットで何かあったっぽいな。さっきから凄い速度でチャットが流れていたのでそれが原因だろう。

 

 

 

 

 

 

「......伝説(レジェンド)が旅立ちの村にいるらしいです」

 

「えぇ⁉︎う、嘘でしょりんりん⁉︎」

 

「なぁ、そのレジェンド?って誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『......え?』

 

 

 

 

 

 

二人共まるで知っているのがさも当たり前の様な反応。もしかして俺が居ない間に伝説(レジェンド)が誕生してる感じですか?数ヶ月離れていたとはいえ早すぎる気もする。イキリプレイヤー曰く、何よりも重要なのは"情報"らしい。その点において言えば俺はまだまだということなのだろう。

 

 

 

 

「宗輝は伝説(レジェンド)の事知らないの?」

 

「知ってたら俺も驚いてるだろ」

 

「あの有名な伝説(レジェンド)をですよ(・・?)」

 

「そんなに有名なんですか?」

 

 

 

「当たり前ですよ!そもそも、その伝説(レジェンド)という名前の由来はそのプレイヤーの功績を称えてのギルドからの公式命名なんです!例えば、超高難易度クエストをソロでクリアしたり、激レアアイテムや装備を沢山所持していたり、伝説級のモンスターを討伐したりと様々な場面で活躍されてます!私もファンの一人として是非お会いしてみたい方なんですよ!あ、でももう一人......」

 

 

 

 

燐子先輩が興奮気味に饒舌に話し始めた。面と向かって話す時は、目を合わす事すら躊躇っていたあの燐子先輩が。普段静かな人がこうやって話してくれると、何だか気を許してくれているみたいで嬉しくなってくる。自分でも嫌われてはいないとは思っている。もし燐子先輩に嫌われているのだとしたらどうしよう。取り敢えず三日間程は枕を濡らして引き篭もるのは確定だろうな。

 

 

 

 

 

「あれ、ちょっと待ってください。ソロクリアとか伝説級とかってまさか☆9クエストとか黒龍(ブラック・ドラゴン)の事だったりしませんか?」

 

「やっぱり宗輝知ってるじゃん」

 

「......先の展開が読めたぞ」

 

 

 

近未来のAIもビックリの先読み速度。燐子先輩の口から出てきた"ソロクリア"や"伝説級"とかのワードが出てきたから怪しいとは思ってたけど。せめて間違いであって欲しいけど、最終確認は行っておこう。

 

 

 

「宗輝君、どうしたの?」

 

「あのー、もしかしてそのプレイヤーの名前は"輝"だったりします?」

 

『そうだけど、それがどうしたの?』

 

 

 

 

見事にシンクロする二人に真実を告げよう。

 

 

 

 

「それ、俺」

 

「何言ってんの宗輝」

 

「いやだから、その伝説(レジェンド)プレイヤーは俺なのよ」

 

「そういう嘘はいけないよ宗輝君」

 

 

 

まぁこうなるわな。最初から信じてもらえるとは思ってなかったけど。これどうすりゃ証明出来るんだ?

 

 

 

「じゃあメニュー開いて"称号"の欄見てよ」

 

「ほい、開いたぞ」

 

「その称号欄の中に"伝説(レジェンド)"だったり"黒龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)"の称号はありますか?」

 

 

 

 

燐子先輩の言う"伝説"や"黒龍殺し"の称号だけでは飽き足らず"暗殺者(アサシン)"や"剣王(ブレード・マスター)"、"魔法皇(オーバー・ウィッチ)"や"無頼騎士(グロリアス・ナイト)"とか言う厨二病地味た称号までバッチリ手にしている。

 

 

 

 

「物的証拠として写メ撮って送りますね」

 

「え、本当にあるじゃん」

 

「......む、む、宗輝君が、あの伝説(レジェンド)?」

 

 

 

 

この後滅茶苦茶質問攻めされた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

伝説(レジェンド)が俺であるという事実が判明し、ようやく二人と合流。周りに数多くのプレイヤーが居るが気にしないでおく。まさか俺がそんな風に呼ばれていたとは全く知らなかった。道理で伝説なんて言われてもピンとこない筈だ。

 

 

 

「因みに今の装備は何?」

 

「ん、これは黒狼(ブラック・ウルフ)の素材で作った防具(コート)

 

「モンスターの中でも黒種は強敵揃いなの知ってる?」

 

「中級冒険者じゃ歯が立たないとも言われてるよ」

 

 

 

こうやって話を聞いてると自分が如何に異質なものなのか漸く自覚する事が出来る。だとしても燐子先輩はウィザードで装備も充実しているし、あこもネクロマンサーで武器も中々良いものを装備している。二人共上級と言っても差し支えない実力だろう。このクエスト俺じゃなくても良くね?

 

 

 

 

「取り敢えず特殊イベントやらを進めるか」

 

「今回の特殊イベントの名前は"漆黒の狂宴"」

 

「討伐のターゲットは"狂人(バーサーカー)"らしいです」

 

「如何にもって感じのターゲットですね」

 

 

 

 

どうやら今回の"漆黒の狂宴"という特殊イベントは三人限定パーティーでしか受注できないらしく、難易度も☆7と超高難易度に届きはしないが間違いなく苦戦を強いられるだろう。

 

 

 

「パーティーバランスを考えると俺は補助役に回った方が良いのか?」

 

「あことりんりんで攻撃するから宗輝は補助お願い!」

 

「一応、私も補助系魔法は使えるので他の職業でも構いませんよ」

 

「んー、こう職業があり過ぎるのも困る」

 

 

 

職業選択欄がびっしり埋め尽くされている。最初は初級クラスの剣士だったり武闘家だったりしか選べないが、ほとんどの上級職を解放しているのでこういう時に困る。燐子先輩がウィザードで補助も出来るらしいから俺はタンク役にでも回るか。

 

 

 

「これ選んどきゃ大丈夫だろ」

 

「"守護聖騎士"って何?」

 

「"守護聖騎士"はクルセイダーって言ってタンク役の上級職だよあこちゃん」

 

「装備も適正装備に変更しとくか」

 

 

 

現在装備しているものは"守護聖騎士(クルセイダー)"の適正装備ではない為変更が必要となる。特殊な加工が施されたレアメタルをふんだんに使った白銀の鎧。単に防御力が高いだけでは無く、アンデット系の耐性も高い為今回のクエストに持ってこいだ。それに、魔の力を封じ込めた緋色の盾。相手の魔力を吸って自分の物へと変換することのできる優れもの。自分の魔力を他人へと譲渡する特技も持ち合わせている為、これで燐子先輩の魔力切れも心配ないだろう。

 

 

 

 

「じゃあ準備出来たし行くか」

 

「あこちゃん、宗輝君、頑張ろうねo(≧▽≦)o」

 

 

 

 

旅立ちの村からワープポイントを通り目的地へと向かう。本来であれば歩きや馬車等で向かうのだが、今回の特殊イベントの仕様でワープポイントでしか向かえない様になっているらしい。目的地には沢山のパーティーがクリアの為に集結していた。

 

 

 

「やっぱ多いなぁ」

 

「みんなクリア報酬狙いでしょ」

 

「今回は特殊イベントなだけあって報酬が豪華なんですよ」

 

「それって何が貰えるんですか?」

 

「職業毎に報酬が変わる特殊報酬型で、例に出して言えば"ネクロマンサー"であれば"狂刃(リッパー・ナイフ)"という攻撃した相手に一定確率で麻痺や毒の状態異常を付与することの出来る短剣が貰えますね」

 

 

 

 

なるほど、その職業毎に適した報酬が貰えるって訳だな。まぁそれくらいの報酬が無いとクリアする意味も無いもんな。

 

 

 

「因みに私の"ウィザード"の場合"狂宴の衣"という装備しているだけで状態異常になりにくくなり、且つ各属性耐性もアップする防具が手に入りますよ」

 

「じゃあ俺の職業は何が貰えるんだろうな」

 

「上級職の報酬は運営からも知らされて無いよ」

 

 

 

 

クリアしてからのお楽しみってことにしとこう。話を聞く限りでは結構レアな装備が手に入りそうだからクリアするに越した事は無いだろう。まだどういう敵なのかハッキリと分からない為、最大限の注意は必要だろう。HP回復ポットも一人3つずつでも持っておいて損は無さそうだな。一応、俺もヒーラーのスキルで回復魔法は使えるがそこまで効果は期待できそうに無いし。

 

 

 

 

「そろそろ始まりますね」

 

「クエスト開始と同時にまたワープか」

 

 

『クエスト開始まで残り1分です』

 

 

 

 

女性の声でアナウンスが聞こえてくる。時間になるとワープで一斉にスタートする仕組みらしい。かと言って全員同じ場所にワープはせず、各パーティー別々にワープしてそれぞれクエスト開始。見た感じ周りのパーティーもそこそこだったのでみんなクリア出来るだろう。

 

 

 

 

『それでは、クエストを開始します』

 

 

 

 

 

 

アナウンスと共に全てのパーティーが光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

~狂宴の館~

 

 

 

 

 

 

「如何にもなステージだな」

 

「狂宴の館だってさ」

 

「取り敢えず補助魔法かけとくね」

 

 

 

今回の特殊イベントステージである狂宴の館に到着。いつ戦闘が始まってもおかしくない為、燐子先輩が基礎能力を底上げする補助魔法をいくつかかけてくれる。この効果は永続的な効力を持たない為、効果が切れる度に掛け直す必要があるのが注意点。

 

 

 

 

「早速お出ましか」

 

「ザコ敵だけど平均的にレベルが高いよ!」

 

 

 

 

先程、周りの草むらから飛び出してきたのは狼族(ワーウルフ)。基本的にはザコ敵なのだが、今回のイベントで敵にブーストがかけられておりレベルが総じて高く設定されていた。狼族(ワーウルフ)は攻撃力が高いモンスターなので被弾するとボス戦に影響が出てしまう可能性もある。

 

 

 

「守りは俺に任せて二人は隙を突いて攻撃な」

 

「我が力、存分に楽しむが良い!」

 

「分かりました!」

 

 

 

 

俺とあこが前線、燐子先輩が一つ引いた位置で魔法で援護という布陣を取る。ヒットアンドアウェイで少しずつ数を減らしていく作戦だ。幸い3匹と多くはない。敵は様子を伺う事無く一直線にこちらへ向かってくる。あこの前に立ちはだかり盾で攻撃を凌ぎ、僅かに生まれた隙にあこが攻撃を叩き込む。

 

 

 

「とりゃあ!!」

 

「あこちゃん援護するよ!」

 

 

 

 

あこが大鎌(サイス)を振りかざし敵を切りつけた後に、燐子先輩が唱えた炎熱魔法が降り注ぐ。見事に全弾命中し一匹目を仕留める事が出来た。それを見かねた二匹が同時に襲いかかってくるが同じ様にして二匹を仕留める。

 

 

 

 

「燐子先輩ナイス援護、あこも切り込み役ご苦労さん」

 

「宗輝君が引き付けてくれてたからだよ」

 

「我が力思い知ったか......ねぇりんりん、さっきのあこのばーんってやつカッコよかった⁉︎」

 

「凄くカッコ良かったよあこちゃん」

 

 

 

 

戦闘が終わり一息つく二人。どうやらこのイベントでは敵にも基礎能力向上の魔法がかけられているらしく、何から何まで至れり尽くせりのクエストである。その分経験値や報酬が豪華だから良しとしよう。

 

 

 

 

「確かにこれは中級者じゃキツそうだな」

 

「取り敢えずもう一回補助魔法かけとくね」

 

「ありがとりんりん!」

 

 

 

ボス戦の最中に効力が切れてしまってはいけないので燐子先輩が補助魔法を重ね掛けする。先程の炎熱魔法に加えて2度の詠唱で魔力も少し減ってきたところと見た。

 

 

 

 

「燐子先輩、魔力切れを起こすといけないので俺の魔力分けときますね」

 

「そんなスキルあるんですか?」

 

「すみません、先に謝っときますね」

 

「へ?......ッ!!」

 

 

 

 

本当にこの仕様には疑問しか浮かばない。この俺の魔力を分けるスキル、無条件で分けられれば良いものの対象者に触れなければならないという意味不明な条件付き。たかがネットのPCゲーで何言ってるんだって話だが相手が如何せん燐子先輩。俺も今の今までソロでやってきた為このスキルは初めて使う。ただでさえ現実(リアル)では余り人と接する事を得意としない燐子先輩だからこそ先に謝っておこうと思った。

 

 

 

 

「よし、このくらいでどうですか?」

 

「......」

 

「あれ、りんりんどーしたの?」

 

 

 

 

急に燐子先輩が喋らなくなってしまった。やはりいきなり身体に触れるのはよろしくなかったのだろう。雰囲気を悪くしないよう個人チャットで謝っておこうと思った矢先、燐子先輩からのチャットがくる。

 

 

 

 

『......宗輝君、ありがとうね(〃ω〃)』

 

 

 

 

 

少し恥ずかしかったのだろうかチャットでお礼される。俺も次からはちゃんと断りを入れてからやろう。

 

 

 

「じゃあ中に入りますかね」

 

「深淵なる館、我ら三人で見事攻略して見せようぞ!!」

 

『頑張ろうね(`・ω・´)』

 

 

 

流石にボス戦では話してくださいよ燐子先輩。チャット打つのがどれだけ早くてもボス戦でチャット対応はNGです。ソースは俺。偶々居合わせたパーティーと協力して高難易度クエストに挑んだが、意思の疎通がままならないのでアッサリと俺以外全滅。それ以来完全にソロプレイヤーとして動いているのは内緒の話。

 

 

 

 

 

 

~狂宴の館・室内~

 

 

 

 

 

 

「中は少し暗いな」

 

「りんりんお願い!」

 

 

 

物凄く古い扉を開けて狂宴の館とやらの中へと歩を進める。見た限り初っ端から戦闘開始という雰囲気では無かったので一安心だ。燐子先輩が辺りを明るくする魔法をかけてようやく周りがしっかりと見えてきた。そして、奥の方から歩いてくる人影が一つ。

 

 

 

 

『ようこそ我が館へ』

 

「......あこ、燐子先輩」

 

「アイツ滅茶苦茶強いよ」

 

「レベル表示が???ですね」

 

 

 

基本的に未だ出会ったことのない強敵や、自分より遥かにレベルが上回る敵は今回のように???で表示される。俺はほぼレベルはカンストしている為、今回は前者なのだろうと予測できる。万が一に備えてあこと燐子先輩には臨戦態勢を取ってもらった。

 

 

 

『まずは自己紹介を、我が名は狂人(バーサーカー)。分かりやすく説明するなら"切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)"とでも名乗っておこうか」

 

 

 

切り裂きジャック。またはジャック・ザ・リッパーなんて呼ばれている。それは実際に起きた連続殺人魔の異名。その悪魔のような所業は一時期世間を、世界を震撼させた。そんな奴をモチーフにした作品は数多く存在する。コイツもその一人って訳だ。人型のクエストボスで人語も話せるとかもう完全に人間じゃん。

 

 

 

「あの短刀(ナイフ)には気をつけた方が良いな。さっきみたいに俺とあこで前線を、燐子先輩は補助魔法中心に隙があれば攻撃魔法を!」

 

「分かった!」

 

「後ろからは任せて!」

 

 

 

『では早速』

 

 

 

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)短刀(ナイフ)を両手に構えた刹那、姿が消える。俺たちが陣形を整えるのを待っていた風にも見えたのだがその理由にも納得できる。これでは中級どころか上級者でも一歩間違えば即全滅すらありえるだろう。

 

 

 

「あこ!左から来るぞ!」

 

「了解!......ッ!!」

 

 

 

鉄と鉄がぶつかり合うような鈍い音が館に鳴り響く。俺の予想通り左から距離を詰めてきたのに対し、あこは何とか大鎌(サイス)で攻撃を受け止め鍔迫り合う形を取る。

 

 

 

「燐子先輩、今です!」

 

「うん、分かった!」

 

 

 

あこが動きを封じているのを見計らい、燐子先輩へ魔法攻撃を仕掛けるよう伝える。燐子先輩が放ったのは先程の炎熱魔法の上位。魔力のブーストもかかっており威力は充分。だがしかし、ヤツの頰をかすめて背後の壁に激突し霧散する。

 

 

 

『成る程、貴方達はお強いようだ』

 

「☆7の高難易度クエストボスがそれ言うか」

 

『ええ、なので確実に仕留めます』

 

 

 

先程とは明らかに違う殺気を放ちだす切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)。その動きは洗練されており、とてもじゃないがあこや燐子先輩には対応する事は難しいとさえ思えた。

 

 

 

「ッ!!あこ後ろだッ!!」

 

「え?」

 

『......遅い』

 

 

 

俺の索敵スキルに反応したコンマ数秒後、ヤツはあこの背中へと短刀を突き刺し素早く退いた。攻撃をまともに食らったあこは、その場に膝をつき動かなくなってしまう。

 

 

 

「あこちゃん大丈夫⁉︎」

 

「HPはまだ大丈夫そうだが、見事に麻痺毒を仕込まれたな」

 

「......ごめんね宗輝」

 

「何言ってんだ、お礼なら咄嗟に防御魔法かけてくれた燐子先輩にしろよ」

 

 

 

完全詠唱では無かったものの、燐子先輩は俺の声と同時に防御魔法をあこに重ね掛けしていた。そのお陰であこは大事に至らなかったと言える。

 

 

 

「しっかし、攻撃されると確定で状態異常付与とかキツイな」

 

「何か策は無いでしょうか......」

 

『そろそろ宜しいですか』

 

「......燐子先輩、あこ、俺に策がある。今から内容を送るんで確認して下さい。その間、俺が時間稼ぎしとく」

 

 

 

 

実はこのクエストを受注する前からいくつか策を練っておいた。相手の詳細までは分からなかった為、適切と言えるかは微妙なところだ。内容をオープンチャットからパーティーチャットへと切り替えて二人へ送信する。その間に俺はアイツの相手だな。

 

 

 

「待たせたな、今度は俺が相手だ」

 

『あの伝説(レジェンド)が相手とは光栄ですね』

 

「その台詞をモンスターに言われるとは思わなかったぞ」

 

 

 

それ以降、言葉を交わす事無くぶつかり合う。俺の手には緋色の盾、相手は状態異常を確定で付与してくる二本の短刀。毎度ギリギリのラインで受け止めたり受け流したりの攻防が約5分。

 

 

 

『流石は守護聖騎士(クルセイダー)と言ったところです』

 

「一応、剣も使えるんだが今は防御で手一杯なんでな」

 

『......他の二人が見当たりませんね』

 

 

 

周りを見渡すと、確かにあこと燐子先輩が姿を消している。しかし、これは俺立案の立派な作戦。ここで気付かれて邪魔されては困るのだ。

 

 

 

「周りを気にしてる暇は無いぞ!」

 

『そのようですね』

 

 

 

俺は緋色の盾から青色の宝玉が埋め込まれている剣へと装備を変更し攻撃へシフトチェンジする。流石の反応速度で余裕で対応してくる辺り、☆7クエストという事を嫌でも実感させられる。因みに☆9の超高難易度は制限付きだったり、敵にバフ掛かってたりと明らかに不利な状況の物も存在する。それに比べりゃまだ簡単な部類だと思っておこう。

 

 

 

「知ってるか?実はこれ聖剣だったりするんだぜ」

 

『それは興味深いですね』

 

「バルムンク......つっても知るわけないか」

 

 

 

 

この手にしている"バルムンク"という聖剣。俺がNFOガチ勢の頃にドイツ神話系イベントで手に入れた物。聖剣というだけあって魔を滅する力は桁違いだ。先程から鍔迫り合いの連続だが、その都度ダメージを確実に与えている。

 

 

 

『宗輝君準備出来ました(`・ω・´)』

 

 

 

燐子先輩からチャットが飛んでくる。どうやら二人共準備万端らしいな。

 

 

 

 

「隙あり!食らえ全拘束(フルバインド)ッ!!」

 

『なっ!!』

 

 

 

鍔迫り合いで相手の短刀を吹き飛ばし両腕を抑えて拘束魔法で捉える。この全拘束(フルバインド)は拘束魔法の上位で、相手に直接触れないと唱えられないが効果は絶大。イエスキリストよろしく磔の刑に処されている切り裂きジャック。その様子を見て俺の背後からあこと燐子先輩が姿を現わす。

 

 

 

『一体何処へ隠れていたのだ』

 

「手品のタネは簡単さ、要はアンデットプレイと魔法とのコラボってところだ」

 

「我は大魔姫あこなるぞ!!」

 

 

 

 

そこまで複雑な事は戦いの最中には出来ない。あこのネクロマンサー故の利点と燐子先輩のウィザードの利点を組み合わせただけのこと。アンデットプレイで攻撃を受けたあこの気配を消し、燐子先輩の隠密魔法(ブラインドカーテン)という姿を短時間消す魔法を使用して二人共が隠れる。その間気付かれないように俺が戦闘、二人は回復と攻撃の準備。そして準備が整ったので相手を拘束。三人で一斉攻撃で終わりだ。

 

 

 

「今から俺があいつから奪った魔力全部燐子先輩に譲渡します」

 

「えぇ?だ、大丈夫なの?」

 

「りんりんならやれるよ!!」

 

 

 

俺が最初から攻撃しなかったのもその為だ。わざと防御に専念することで魔力を吸収する盾で少しずつ相手の魔力を吸収し自分の物へと変換する。それを最後に燐子先輩に譲渡することで威力アップを計った。我ながら完璧な作戦だと思うよ。もっと褒めてくれても良いんだよ?

 

 

 

「燐子先輩!炎熱魔法の最上位魔法を唱えて下さい!」

 

「は、はい!」

 

「我ら三人の結束の力、とくと味わえ愚か者!!」

 

 

 

 

 

 

 

極大灼熱魔法(インフェルノ)!!』

 

 

 

 

 

 

 

『......見事だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

後に語られる事になる三人パーティー。狂宴の館を敵丸ごと吹き飛ばしてしまう大惨事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-数日後-

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

「令香、部屋に入る時はノックをだな」

 

「パソコン貸してよ!」

 

 

 

 

いきなり部屋に入ってきてパソコンを貸せと強請るか小娘。可愛いから全部許してやろう。これが父さんとかだったらちょっとキレそう。

 

 

 

 

結局、あの日は無事クエストをクリアして報酬もゲット。流石に最後はやり過ぎた感あったけど。あこは念願の狂刃(リッパー・ナイフ)、燐子先輩は狂宴の衣を手に入れて満足そうにしていたので良しとしよう。かくいう自分はまさかまさかの称号のみ。端的に言えば報酬は無かった。何で俺だけ報酬ないのん?運営さんこれは何かのバグですか?

 

 

 

 

「あれ、お前NFOやってたの?」

 

「お兄ちゃんが居ない間やってたよ」

 

「へぇ、データ見せてくれよ」

 

 

 

令香がログインし自分のキャラの画面へと移行する。そこにあったのはやはりお馴染みの展開。

 

 

 

 

NFOには伝説(レジェンド)に勝るとも劣らないプレイヤーがもう一人存在する。

 

 

 

そのプレイヤーの名は......

 

 

 

 

「......この"零"はお前だよな?」

 

「何言ってんの、当たり前じゃん」

 

 

 

 

プレイヤーネーム"零"

 

 

 

ギルドから命名される二つ名は"戦女神(ヴァルキュリア)"

 

 

「キラぽんのしっぽが100......少なくなってきたなぁ」

 

「......流石俺の妹だな」

 

 

 

 

 

俺の妹が完璧すぎて困ってます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~To Be Continued~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗輝「毎度お馴染みのおまけコーナー」

 

 

宗輝「今回のゲストは沙綾とツンデレ有咲姫だ」

 

 

有咲「ツンデレなんかじゃねーし!!」

 

 

沙綾「姫の部分は否定しないんだね」

 

 

宗輝「二人共、今月ハロウィンだけど何かやるのか?」

 

 

沙綾「蔵でポピパーティーするよ」

 

 

宗輝「何それ聞いてない」

 

 

有咲「香澄が言い忘れてるだけだろ」

 

 

沙綾「有咲が一番楽しみにしてるもんね」

 

 

有咲「んなっ!!そういう沙綾だってこの前のコスプレ衣装楽しそうに選んでただろ!」

 

 

宗輝「コスプレ衣装?」

 

 

沙綾「その日はみんなでコスプレしようって決めてるの」

 

 

宗輝「待てよ、誰が何のコスプレするか当てるから」

 

 

有咲「はっ、当てられるもんなら当ててみな」

 

 

宗輝「有咲は意表を突いて赤ずきん」

 

 

有咲「何で当てられるんだよ!!」

 

 

宗輝「んー、愛故に?」

 

 

沙綾「じゃあ私は?」

 

 

宗輝「沙綾は何か魔女っぽいよな」

 

 

沙綾「因みに純と紗南にも当てられたよ」

 

 

宗輝「当てたご褒美とか無いのかな〜」

 

 

有咲「ご褒美つってもな〜」

 

 

宗輝「じゃあその日みんなで写真撮ろうぜ」

 

 

有咲「そのくらいなら、まぁ良いかな」

 

 

沙綾「香澄は何着ると......」

 

 

宗輝「キョンシー」

 

 

有咲「スゲェ食い気味に答えたな」

 

 

宗輝「いや、普通に考えてキョンシーだろ」

 

 

沙綾「普通なんだね......」

 

 

宗輝「あー!!ハロウィンが楽しみ過ぎる!!」

 

 

 

 

 

 

宗輝の香澄への愛は案外重い?

 

 

 

 

 

 

 

-End-





今回はNFO特別編として見て頂けると幸いでございます。
尚、NFO関連について"そんな設定ない"や"勝手に魔法作るな"等のマジレスはご遠慮願います。

マジで考えるの一苦労しましたからねw
今までで一番時間かかりましたね。


ps
今から主は、滅茶苦茶な可愛さを振りまく赤ずきん有咲を追って30連します。探さないで下さい。

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