トリプルP!~Produce"Poppin'Party"~ 作:Lycka
先日初めて読み上げ機能を使った主です。
宗輝の名前が出てくる度に変な言い方するので面白かったです。
皆さんも是非機会があればお試し下さいな。
└固有名詞とかは上手くいかない仕様みたいです
それでは、59話ご覧下さい
~ライブ前日~
「クソねみぃ......」
「お兄ちゃんおはよー」
「おはよーさん」
本日は土曜日。眠たいながらも身体を起こし、部屋のカーテンを開けて朝の太陽の光を浴びる。こうやって光を浴びると身体が自然と起きるって何かで聞いたことある。実際目も覚めるし一日始まったなって感じするし。
「今日は一日中ライブの準備だっけ?」
「まぁな」
「頑張ってね〜」
「棒読み頑張れ頂きました」
そこはもっと気持ちを込めて"頑張ってね!令香の愛しのお兄ちゃん!"って感じで言って欲しかった。シスコン気持ち悪いだって?今更だから気にしても仕方ないからな。
「今日は香澄来てないんだな」
「有咲さんの家で練習するって言ってたよ」
「ほーん、というより何でお前が知ってんの?」
「あーちゃんに教えてもらった」
「何故そこで明日香」
香澄の情報を明日香から聞き出した令香に教えてもらった俺。この情報のバトンリレーのアンカーが俺なのは納得出来る。しかしながら、それまでの過程で二人挟んでいるのは何故だろう。純粋に香澄に何するか聞いとけば良かったな。
「まぁ良いや。夜はアレするから早めに帰るな」
「了解であります!」ビシッ
「んじゃ行ってくる」
最早今週何度目になるか分からないチュチュ宅。取り敢えず朝はライブハウスではなくチュチュ宅集合だったので、遅れないように集合時間5分前に到着。いつもの如くセキュリティを突破して中へ。セキュリティを突破と言っても強盗とか不法侵入じゃないから。
中へ入ると珍しくますきが一番に声をかけてくれた。一番近くに居たというのも理由に入るのかもしれないが珍しい事に変わりはない。一回演奏終わってから"あれ、お前来てたんだな"って言われた事あるくらいだからな。別に俺って存在感薄いとかないよね?
「何ボーッとしてんだ」
「あぁ、すまんすまん」
「貴方遅いわよ」
「遅いって言われてもな......まだ5分前だぞ」
「貴方以外は15分前には集まってたのよ」
小学校の時に5分前行動って習ったけど正確には20分前行動だったのかしら。そりゃみんなに比べたら遅いけどさ。みんなが早過ぎるから比較的俺が遅く感じるだけなんじゃないのかという正論は言わない。言ってもどうせチュチュに捻じ伏せられるだけだし。14歳に言葉で捻じ伏せられる17歳ってどういう事だろうな。
「因みにパレオはお泊まりです♪」
「え、なにそれ最強じゃん」
「眠たそうなチュチュ様は可愛かったです!」
「Shut up パレオ!そんな事より今はライブの準備に取り掛かるわよ」
「はいご主人様〜!」
というより確かに昨日パレオに誘われた気がする。その場でパッと断ったから忘れかけてたわ。流石に14歳二人と同じ所に泊まるのはやばい。間違いを起こす気はサラサラ無いのだが倫理的、道徳的にアウトだろう。というか一部のファンの人達に消されかねないぞ。
「私ははなちゃんの家に泊まったよ」
「楽しかったね」
「これは俺だけ仲間外れにされてるのか?」
「むっくんも今度泊まる?」
「機会があれば是非お願いするよ」
おたえママはおたえ以上に何考えてるか分からない人だが仕方ない。あの親あってのこの子というものだろう。おたえパパの心中お察しします。言わばおたえが二人いるようなもんだ。俺にはとてもじゃないが制御出来る自信がない。
「じゃあますきも誰かの家に泊まってたりする?」
「いや、帰ってからもGalaxyで練習してたぞ」
「デスヨネー」
いや、マジですんません。少しでも友人宅で宿泊して楽しんでたと思い込んでいた自分をお許し下さい。そうでないにしても俺と同じだと思ってたし。まさか帰ってからも熱心に練習してたとは想像もしてなかった。俺なんか1.2時間電話してただけだからな。
電話の内容も至ってシンプル。電話相手の一人目がこころ。やれ最近の出来事だの文化祭のライブの演出についてだの色々と駄弁っていたら数十分が経過していた。時間も遅かった為俺の方から切ろうとしたのだが、頑なに嫌がるので今日も電話をする約束を取り付けてやっと通話終了。かと思いきやつぐみから電話かかってきて文化祭の準備の進行具合とかの確認してくるし。終いにはモカと蘭の交互でどうでもいい内容で電話かかってくるし。お陰で少し寝不足だ。
「むっくんは何してたの?」
「へ?ま、まぁ?俺レベルになると夢の中でライブについて色々考えてたり?」
「
「宗輝さんの嘘を見抜くとは......流石チュチュ様です!」
「パレオ、近いわよ」
夢の中でライブ云々についてはあながち間違いでもないのだ。実際、昨日の夢はポピパのライブを客席から見ている夢だったからだ。香澄が空飛んでたりおたえが変な弾き方してたり。客席には空からチョココロネとかうさぎのしっぽパンが降り注いだりもした。沙綾の口から炎が出ていたのは流石に幻か何かだろう。
「というかライブの準備するんじゃないのか?」
「ほら!ますきもこう言ってる事だし準備始めようぜ!」
「......まぁ良いわ」
「取り敢えずどうするのチュチュ?」
「機材の搬入は業者に頼んでいるわ。私達もライブ会場へ行きましょう」
~ライブ会場~
チュチュの指示通り、都内某所にあるライブ会場へ足を運んだ俺達。なんでもここのライブハウスは有名になる為の登竜門的存在らしく、設備も中々に大きくここでライブする事が目標になることだってあるくらいだ(麻弥情報)
「結構広いんだな」
「初めて来たの?」
「名前くらいは打ち合わせ段階で聞いてたけど、実際来たのは初めてだったりするな」
「私とますきは何回か来たことあるよね」
「まぁな」
RASに来る前はサポートとして仕事に徹していたレイと、狂犬と呼ばれつつもその実力から様々なバンドのサポートをしてきたますき。二人の実力ならばこういう風なライブ会場でライブをした事もあるのだろう。ポピパのライブでもここ使えないか考えておくのが良さそうだな。
「ほら、さっさと準備始めるわよ」
「準備って何するのむっくん」
「お前らはライブステージの調整とかからだな」
「では皆さん行きましょう!」
それから間も無くして機材の搬入も終わり、本格的に明日のライブへ向けての準備が開始された。チュチュ以外の4人でライブステージへ立ち、それぞれの配置や照明の明暗、音の響きなど細かいところまでチュチュ指導で調整が進められる。
その間、俺はライブチケットの確認や会場へ入っているライブ関係者への挨拶回り、さらにはライブ会場の責任者とお手伝いさんとの当日スケジュールについての軽い打ち合わせを行う。チュチュやみんながRASのライブを最高で最強に盛り上げる為に頑張っている中、俺だけが椅子に座って休憩などありえないだろう。俺は自分に出来ることを精一杯やり切るだけだ。
「Oh!サイトウサン!」
「えーっと......誰だっけこの人」
「My name is Jack!」
「あぁ!何時ぞやのジャックさん!」
プロデューサー修行も兼ねての付き添いで出会ったジャックさん。ちょっと思い出すのに時間がかかってしまった。あれから色々な事があり過ぎて頭の片隅にでも追いやられていたのだろう。確かジャックさんは海外でも少し有名な人だったりした気がする。なんでも音楽評論家的な事をしてるらしい。そんな人との人脈を持つチュチュに今更ながら驚異的な何かを感じざるを得ない。
「タノシミニ、シテマスヨ!」
「是非楽しんでいって下さい」
というよりあの人日本語喋れたのな。まだちょっと片言っぽいのは置いておくにしても。前に会った時は完全にチュチュとの二人だけの会話みたいになってたから仲間外れ食らった気分だった。日本語の勉強でもしているのだろうか。そこら辺聞いとけば良かったかも。
「あれ?宗輝君?」
「......この状況で俺の事を君付けで呼ぶ。そして何より聞き覚えのある声......さてはまりなさん!?」
「正解、普通に振り返れば良いのに......」
せっせこライブに必要な小道具を運んでいる最中に振り返ればまりなさん発見。何故CiRCLEオーナーであるまりなさんがここにいるのだろうか。もしかしてCiRCLEの運営が厳しくなってこのライブハウスに勤めることになったのだろうか。そうすれば自ずと俺や他のバイトの子達もここで働く事になるよな。
「なんでまりなさんがここに?」
「なんていうか......招待されたから?」
「招待?」
チュチュの奴もしかしてライブハウスのオーナー達にまで招待状とか送りつけたのか。今回のライブでRASの力を見せつけると言ってたがここまでとは。熱心に海外メディアから付近のライブハウスオーナーまで至れり尽くせり状態だな。まぁそれくらい自信があるってことの裏返しなのだろう。それと同時におたえの事も認めてくれてるみたいに思えてなんか嬉しい。
「そうなの、RASのプロデューサーのチュチュって子から招待状が届いたの」
「俺はてっきりまりなさんが買収されたのかと」
「何でそーなるの!?」
「冗談ですよ」
「いつも冗談が重いよ!」
これくらいの軽口を言い合えるのはまりなさんくらいだろう。不思議とまりなさんとは歳の差を感じないのだ。しかし、絶対にまりなさんや何処ぞのプロデューサーの前で歳の話をしてはいけない。前者はキッツイ労働で後者は鉄拳制裁の罰が下る可能性大。女性に歳を聞くのはNGというのが一般常識らしいが、これは守っておいた方が身の為だと思う。俺の周囲の人が敏感でおかしいだけかも知れんけど。
「じゃあ俺は準備があるんで」
「頑張ってね宗輝君」
「ふぅ......これ運んで様子でも見に行くか」
一通り指示された物を運び終え次の指示を待機する様な形となった為、チュチュ達が未だ調整をしているので休憩がてら様子を見に行くことに。
「お邪魔しまーす」ガチャ
「そっちは終わった?」
「一通りな。だから休憩がてら見に来た」
「そう、まぁこっちももうすぐ終わるわ」
「どんな感じなんだ」
「私自ら調整してるのよ、完璧に決まってるじゃない」
チュチュの悪いところは歳上でも躊躇なくタメ語で話すところや自信過剰なところだと俺は思う。かと言っても取引先や打ち合わせではしっかりとした受け答えをしてるところを見ると、やはり何かを基準にして対応を変えているのだろう。まぁ当たり前っちゃ当たり前なんだけどな。この歳で大人とまともに話せる子なんてそうそう居ないと思うし。
「おたえ大丈夫かー?」
「うん、大丈夫」
「照明暗くないか?配線が足に引っかかりそうとかないか?」
「貴方ね......そこら辺はもう終わってるわよ」
「まぁ俺なりの最終確認ってやつだよ」
俺としてもチュチュの実力を疑っている訳ではないのだ。だがやはりウチのポピパメンツなだけあって心配な面が目立つ。こんなところで怪我でもされたら大変だ。おたえママに傷物にされたって伝われば責任取れとか言ってきそうで怖い。ああいう人が怒った時が一番怖いってそれ言われてるから。
それからもチュチュとなんやかんや話しながら調整をしていく。途中から暇だったのかますきがドラムを叩き始め、それにつられておたえやレイ、更にはパレオまでが演奏を始めてしまい既にステージどうこうの話ではなくなってしまった。こういう自由奔放なところもRASらしいと言えるのだろう。
***
『お疲れ様でした!』
窓から外を眺めると、既に街灯に灯りが点き様々な街路樹を暖かい光で照らしていた。ライブハウスにある時計は午後7時過ぎを指し示している。昼休憩、そして4時頃にも一度休憩を挟んだものの作業しっぱなしだった気もする。最後の2時間くらいは合わせの時間だったしそんなに疲れてはないんだけどな。
「それじゃあ明日は最高のライブにしましょう」
「はい!」
「楽しみだねはなちゃん」
「痺れさせてみせるよ」
明日の事も考慮して今日は早めに解散。丁度俺もやる事あったしありがたい。遅くなり過ぎたら令香の機嫌も比例して悪くなるから勘弁願いたい。お兄ちゃん気持ちはいつでもお家に置いてるんだけど。気持ちだけに気持ち悪いな。前言撤回、こんな面白くもない事考えてる時点で少し疲れてるのかもしれない。
「ますき、明日のライブ成功させような」
「お前は別にやる事ないだろ」
「ますきさん辛辣ぅ......」
「......まぁ準備とか手伝ってくれてありがとな」
お礼を言うますきの表情は少し照れているようにも見えた。まぁ誰だって素直にお礼を言うのは恥ずかしいだろう。俺だって恥ずかしい。
「俺もRASのファンとしてライブ楽しみにしてるよ」
「それじゃ私は帰るわ」
「ん、気を付けてな」ポンポン
「こ、子供扱いはやめて頂戴!」
「あいよ」
俺の手を振り払ってライブハウスを出て行くチュチュ。ライブの調整の時もそうだったのだが、時折チュチュが見せる不安げな表情。口ではああ言っててもやはり心配な面もあるのだろう。頼れる人生の先輩としての威厳を見せたかったのだが逆効果だったらしい。確かに中学生に頭ポンポンは無いわな。令香には未だせがまれる時があるけど。
「なら私達も帰ろっか」
「そうだな」
明日のライブに向けての意気込みや思いをそれぞれ想い描きながら、チュチュはいなかったのだが最後に円陣を組んでそこで解散となった。
「たっだいまー」
「お帰りお兄ちゃん」
「ご飯は?」
「温め直すから手洗いしてきて」
今日はエプロン姿の令香がお出迎え。ジャージという軽い服装にピンクの子供っぽいエプロン。それでいて違和感を感じさせない我が妹。控えめに言って可愛い、似合ってる。まぁこれ俺が中学生の時に裁縫の授業で作ったやつなんだけどな。古くなってきたから捨てろって言ったのに、頑なに捨てようとしないところを見ると大切にしてくれててありがたい。
楽器やその他機材、色々と今日は物を運んだりした為いつもより入念に手を洗っておく。風邪でもひいたら大変だからな。主に俺の体調云々ではなく周りの人の対応がだ。弦巻家の裏の力が働きそうになったりナース服で看病されかねない。俺の実体験からくる予想みたいなものだ。
「ご飯食べたら始めよっか」
「そだな」
「別にお兄ちゃんは休んでても良いんだよ?」
「バカ言え、あんな大荷物お前に任せられるか。それに俺だって関係無い訳じゃないしな」
そんな話をしつつもご飯を食べる手は止めない。明日のライブの為にも早く寝たい。でもやらなければならない事がある為早くご飯を食べたいのだ。俺は猫舌じゃないからスープは熱いままで飲めるし、ご飯だって食べるのは早い方だ。因みに令香は猫舌。スープを飲む時に熱い熱いと言いながらチビチビ飲む令香はなんだか小動物みたいで可愛らしい。
「ご馳走さん」
「お粗末様でした」
「片付けは後で俺がしとくから先に始めるか」
「うん」
俺達がやらなければならない事。それは海外へ行く為の荷造りである。面倒くさい事に父さん母さんは最後に日本を満喫すると言って二人でドライブに行ってしまった。荷造りを子供に任せる親というのもどうなのだろうか。
「お母さんからリストみたいなの貰ったよ」
「ならそれ見ながらやるか」
幸い、母さんが持っていくものをリストアップしてくれていたお陰でスムーズに作業が出来そうで安心する。
「んー、歯ブラシにドライヤーに化粧品。令香ー、化粧品って何処にあるか分かるか?」
「お母さんのは洗面台の中だと思うよ」
「それは母さんに任せるか」
男の俺はどの化粧品が母さんのでどれを持っていけば良いのかサッパリ分からん。帰ってきたら自分で入れるように言っておこう。変に触って怒られるのも癪だしな。
「......三脚にカメラって何撮ってくるつもりなんだよ」
「しばらく帰れないから持っていくらしいよ」
「そう言えば父さんがまた新しいカメラ買ったってはしゃいでたっけ」
父さんの意外な趣味の一つに写真撮影というものがある。そのオマケでドライブ好きというのもあるのだ。昔は母さんと二人で良くドライブして写真を撮ってたらしい。
しかし、やはり会えなくなると思うと寂しくなる。今までずっと一緒だったという事ではないのだが、物理的に気軽に会える距離では無くなる。電話くらいなら出来るのだろうが俺は直接会って話したいタイプだ。放っておいてもあっちから電話してきそうだけどな。
「......お兄ちゃんこれ」
「ん、何それ」
リストには無かったものの、既に荷物の中に入っていた物。それは俺や令香、そして香澄と明日香が写った一枚の写真立て。小さい頃は俺が写真を嫌っていた為、多分だけどみんなと俺が写ってる写真はこれだけなのだろう。それを大切に持っててくれた事に気付きウルっときてしまう。これが親心というものなのだろうか。
「......今からでも変えられるよ?」
「別に後悔とかは無いんだ。ちょっと寂しくはなるけどな」
「お兄ちゃん特有の強がりだね」
「お兄ちゃんだからな」
「何それ」フッ
ピンポ-ン
良い雰囲気のところでインターホンが鳴る。この事から両親が帰ってきたのでは無いのだろう。悪戯でわざわざインターホンを鳴らすようにも思えないし。しかしこの遅い時間に誰なのだろう。宗教のお誘いなら今すぐムーンウォークしてお帰り頂きたい。
「令香出てくるね」
「頼むわ」
令香が対応している間にも荷造りを少しでも進めておく。とは言ってもほぼ完成していると言っても良いくらいには仕上がっている。
「このバックも懐かしいなぁ。小学校の頃に俺が買ってもらったやつだし」
バタバタバタ
昔の思い出に浸っていると、なんだか玄関が騒がしい事に気付く。先程のインターホンの相手だろうか。もしかすると強引に家まで上がられたのだろうか。強盗?それとも壺の押し売り?いずれにしても令香が心配だ。
「令香?お客さんには丁重にお断りして帰って......」
「む"ーく"ん"!!」ギュッ
「ちょ!か、香澄!?」バタッ
インターホンの正体は強盗でも押し売りのセールスマンでもなく幼馴染。しかし号泣ダイブ付きの幼馴染ときてる。取り敢えず近所迷惑にもなりかねないから中に入れて話聞くか。
「香澄?何でそんなに泣いてるんだ?」
「む"ーく"ん"!!む"ーく"ん"!!」ギュッ
「香澄さん?どんどん力が強くなってきてません?......ちょ、待ってマジでキツイ」
今までの経験の中で一二を争うレベルで力が強い。肋骨の一本は軽く折れてしまいそうな勢い。流石にこのままだと俺が昇天しかねないので令香と二人がかりで力を緩める事に成功。
「香澄、泣いてる理由を教えてくれないか」
「置いて行っちゃやだよ!!」
「置いて行く?何の話だそれ」
「......もしかしてお兄ちゃん、お姉ちゃんには海外云々の話してないの?」
「おう」
「それが原因でしょ絶対」
え、どういうこと?香澄は俺が父さんと母さんと一緒に海外に行くと思ってるのか?残念ながら海外へ行くのは父さんと母さんの二人だけだ。確かに伝えなかった俺も悪いがそんなに号泣することなのか。
「待て、別に俺はついて行かないからな?」
「......でも今日の夜準備するって聞いたよ!」
「確かに準備はしてるけど父さんと母さんの分だ」
まだ二人分だから一日前でもギリギリ間に合ってるんだ。これが俺の分があったり令香の分があったりしたら絶対間に合ってないからな。それも見越してのドライブデートなのだろう。父さんや母さんはそこら辺頭を上手く回して俺達に厄介なもん押し付けてくるから解せない。
「本当?」
「本当だ、というより誰情報だよそれ」
「私だよ」ハァハァ
香澄に続き明日香まで登場。どうやら香澄を追って走ってきた様子。息が上がっていたり少し汗をかいているところを見るに間違い無いだろう。俺明日香には言ってなかったはずなんだけどな。
「何で明日香が知ってたんだ?」
「あーちゃんには令香が教えといたよ!」
「あ、そういうことね」
「宗輝教えてくれそうになかったし」
「まぁ聞かれなかったからな」
明日香ちゃん令香から教えてもらったのならちゃんと伝えてくれないと困ります。こうやって貴女の姉が現在進行形で俺に縋り付くように抱きついてきてるのが見えません?かれこれ5分くらいこの体勢だぞ。
「むーくん何処にも行かない?」
「おう、お前に何も言わずに行くわけ無いだろ」
「本当の本当?」
「本当の本当だ」
それから香澄を落ち着かせる為に頭を撫でてやったり膝枕してやったりと、至れり尽くせりで漸く解放される。そのタイミングで父さんと母さんが帰宅。香澄や明日香を見て大体の状況は察した様子。
「みんな集まってる事だし写真撮りましょう」
「えー、俺もう寝たいんだけど」
『ダメ!』
「あ、はい」
令香、香澄、明日香の三人から強制参加を命ぜられる。元はと言えばこの両親のせいで荷造りなんていう面倒くさい事をしなくてはならなくなったのだ。お小遣いをアップしてもらうのは必須事項としよう。
「は〜い、みんな近寄って〜」
「はいお兄ちゃん寄って!」
「寄っても何も俺が真ん中なんだけど......」
「宗輝文句言わない」
「むーくん前向いて!」
こうして母さんの指示通りにしていき、俺が真ん中であり得ないほどの密度でシャッターを切る。因みに撮影者は父さん。撮影なら任せろと意気揚々なのは良いがこの程度なら別に技術も何も要らないだろ。
荷造りの際に見つけた一枚の写真。まだ幼かった頃の四人が集まってみんなで笑っている写真。そして今さっき四人で新たに撮った写真。姿形は変われどあの頃のまま、四人の関係性は変わらずより仲良くなった。香澄は泣きすぎて目が赤くなっているがそれも良い味が出ていると父さんは言った。
「まぁこれで良かったかな」
「むーくん何か言った?」
「いんや何も、そういう事だからこれからもよろしくな」
「うん!むーくん大好き!」ダキッ
「だから何度も抱きついてくるなって!」
「えへへ〜」
「お姉ちゃん帰るよー」
「あっちゃんもおいでよ!」 「嫌だよ恥ずかしい」
香澄がいて明日香がいて令香がいて俺がいる。この何とも無い日常の為に、俺はいくらでも頑張れる気がする。そして、この日常を守りたいからこっちに残ったのだろう。他のみんなにもお礼言っとかないといけないな。
特に香澄。俺に理由をくれたお前には感謝してもしきれないほどだ。恥ずかしくて絶対に口には出せないけどな。だから、心の中だけでもお礼言っとくよ。ありがとな、香澄。
"宗輝より愛を込めて"
~To Be Continued〜
感想、評価よろしくお願い致します( ´∀`)