けものフレンズR [Resurrection]   作:A.Unno

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第一話「であい その3」

「――それで、その〈いし〉っていうのはどんなものなの?」

 

 まずはアルマーちゃんとセンちゃんが〈じじょうちょうしゅ〉をするらしい。あたしはとなりに座って、スケッチブックにその絵を描くお仕事だ。イエイヌちゃんはかわいい担当なのでまだ出番がない。

 

「えっと……あれはこの前、海辺で散歩していたときに見つけたのです。上のほうがちょっと丸っこくて、下の方は長細くて、ぎざぎざなのです」

「う、うーん、まるでイメージがわかないや、あたし……」

 

 スケッチブックへ言われたとおりに描いてはみるものの、なんだかほんとうにあるのかなあって感じの形になっている。あやしいキノコみたいな絵になってしまった。探偵の二人は、根気よくまた質問をしている。

 

「大きさはどのぐらいかな?」

「重さはどのぐらいですか?」

「ううん、てのひらと同じぐらいの大きさです。重さもそんなになかったかもです。ほら、ラッコのフレンズってみんな〈いし〉でものを叩くのが好きなので、手で持てないサイズはNGなのです。でも、今朝気づいたらなくなってて……」

 

 なるほどねえ、とアルマーちゃんがわかったようなわかってないようなセリフを言った。腕を組んでいるセンちゃんは、ううん、と悩んだすえ、「あっ」と声を上げる。

 

「もしかして、〈ゆうえんち〉の近くのあそこにあるんじゃないですか」

「んん、ああそうか、それはあるかもね、センちゃん!」

「なにか当てがあるの?」

 

 とあたしが聞くと、となりのイエイヌちゃんが「――ああ、あそこですね」とあいづちを打った。どうやら、このあたりに住んでいるフレンズちゃんたちには有名な場所らしい。

 

「パーク・セントラルには〈ゆうえんち〉があるんです。ちょうど、かんらんしゃがあるところなんですよ」

「へえ、行ってみたいな」

 

 今から近くに行きますよ、とセンちゃんが言う。探偵ふたりの推理によると、ラッコちゃんの言うような〈いし〉がたくさん集まっている場所があるのだという。

 

「さて、着いたね」

 

〈わすれものセンター〉から歩いて少しの森の中に、一ヶ所だけ開けた場所があった。そこには、いわゆるガラクタが大量に山を作っていた。ちょっとやそっとの量ではない。フレンズが縦に三人ぐらい並んだぐらいの高さがある。

 

「こ、この中から探すんですか……」

 

 イエイヌちゃんがちょっとあとずさっている。いくら五人もいるとはいえ、ちょっとこの量は気おくれするのもとうぜんだ。

 

「わたしたちの推理が正しければ、ラッコさんは、この近くの砂浜で〈いし〉を拾ったんだと思うんだよねえ」

「そうなのです。たしかに、この近くの海辺はよく散歩するのです……でも、これは」

「ムリなのでは……?」

「あきらめてどうするんです、きっとこの中にこそ〈いし〉が!」

 

 わーっとセンちゃんが果敢に挑んでいく。話しかたに似合わず、意外と熱血担当なのかもしれない。対照的にアルマーちゃんは、もう一回ラッコちゃんに話を聞いている。

 

「ううん……さっきの話では、なくしたのもこのあたりってことだったけど」

「はい、昨日はめずらしく陸で寝てたのです。だから海に落としたってことはないと思うのです」

「ひとりでに〈いし〉が動くわけないもんね……本当にここにあるのかな」

「すくなくとも、ラッコさんが拾ったのはこの山から転がってきたものなのでは」

「ふへえ……とても見つかりそうにないのです……」

 

 突っ走っちゃったセンちゃんが戻ってきて、へろへろ、と地面に崩れ落ちる。いろいろがさがさやっていたみたいだけど、この山を前には歯が立たないみたいだ。

 なにかいい手はないかな――そう思っていると、

 

「しっかしこの山、特徴的な匂いがしますね……」

 

 鼻をつまみながら、イエイヌちゃんが言った。そのとき、頭の奥でなにかが、ぱっとひらめいた。イエイヌちゃんなら、ここから見つけ出せるかもしれない。

 

「ねえ、イエイヌちゃん。ちょっと思いついたんだけど」

「はい、なんでしょう」

「ラッコちゃんと、このがらくた山の匂いが一緒にする方をたどれば、もしかして見つかるんじゃないかな?」

「はあ、なるほど」

「うん? どういうことかな」

 

 四人とも首をかしげているので、あたしはなんとなく頭に浮かんだアイデアを整理してみる。

 ここ最近ずーっと肌身離さず持っていたという〈いし〉なら、それにはきっとラッコちゃんの匂いがついているはずだ。さらにその〈いし〉がこのがらくた山の出身なら、そこの匂いもたぶん残っている。ということは、それらふたつが同時にする方向をたどれば、その〈いし〉がある近くまで行けるはずだ。

 

「なるほど、そういうことなのですか」

「このままやみくもに探すよりはいいかもしれません。――やってもらえますか、イエイヌ」

 

 ようし、まかせてください、とイエイヌちゃんは張り切って――ラッコちゃんの首筋の匂いを嗅ぎ始めた。

 

「うわあ、なんか恥ずかしいのです」

「ふむふむ……海の匂いともまた違った感じですね……ふむふむ……」

「行けそう?」

「なんとか辿れそうです。とりあえず、ここから離れた方がよさそうですが」

 

 イエイヌちゃんの嗅覚は思った以上にするどくて、迷う様子もなくずんずん進んでいく、がらくた山を中心に円を描くように歩き回って、とくに匂いの強い方を探してみるらしい。ぐるぐると何周か歩いてみて、イエイヌちゃんは突如「こっちですね」とさらに陸のほうへと歩き始めた。

 

「むっ? 海じゃないの?」

「ああ、話だとがらくた山より陸の方には行ってなかったそうですが」

「たしかに……わたし、あんまり海から離れた場所にはいかないのです」

「まあまあ、イエイヌちゃんを信じてみようよ」

 

 そんなあたしたちのおしゃべりを背に、イエイヌちゃんはどんどん森の奥へと進んでいく。その行く手には、またあの赤い車輪――かんらんしゃがあった。ということは、これ、ゆうえんちの方へ向かってるのかな。

 

「むむむ……このあたりで匂いが途切れているような気がしますね……」

「ええ、こんな森のなかで?」

「わたし、来たことないのです……」

「す、すみません、わたしの力不足のようで……」

 

 ちょっとだけ、探偵の二人はうたがっているようだった。でも、イエイヌちゃんはいつだって真面目だ。今回だってそう。だから、もしこのあたりで途切れていたなら、本当にこのあたりにいるはずだ。申し訳なさそうにしているイエイヌちゃんのためにも、こんどはあたしが頑張らなきゃ。

 

「ん、なにしてるの?」

「このあたりを探してみようって思って」

 

 草むらをかき分けはじめると、アルマーちゃんが不思議そうに聞いてきた。するとすぐに、イエイヌちゃんが待ってください、と止めに来る。

 

「きっとわたしの勘違いですよ。やっぱり、戻ったほうが――」

「まってください、あれ!」

 

 なにか見つけたらしいセンちゃんが、かんらんしゃの方を指さしている。その先にいたのは、水色で、尻尾があって、耳もあって、でも小さくてかわいいらしい――二本足のいきものだ。

 あれがボスか!

 

「あのボス、なんか頭の上に乗っけてますね。じゃぱりまんじゃなくて……なんだろ、あれ」

「ああっ、あっちから匂いがします!」

 

 とっさに、イエイヌちゃんはボスに向かって走りはじめた。あわててあたしたちもそのあとを追っていくと、ボスもこちらに気が付いたようだ。

 

「………………」

 

 こちらを向いたまま、ボスは固まっている。その目はあきらかにあたしを見ているけど、なにも言わない。しばらく見つめ合っていると、イエイヌちゃんが「これなのでは?」と何かをボスから取り上げた。

 それはたしかに手のひらサイズで、丸っこい頭に、細長くてギザギザしたみぞがついている。

 

「そうか、〈いし〉ってネジのことだったんだ……」

「あーっ! これです! よかったあ、ついに見つかったのです」

「でも、なんでこれをボスが?」

「たしかに……」

 

 みんな一様にボスを見つめていたけど、ボスはやっぱり何も言わない。しゃべれないタイプの子なのかな、なんて思っていると、突然ピコピコという音をボスが発し始める。

 

「……検索中、検索中。パーク内アーカイブに該当なし。所与条件より推論的演算開始……対象を、ヒトに準ずるものとして識別。一般接客対応プロトコルを適用します」

「な、なんかボスが急に変なこと言い始めたよ」

「ぜんぜんわからない……」

 

 全員で急にしゃべりだしたボスに戦々恐々としていると、ピコピコという音が急に止んだ。すると、くるくると周りを見回して、またあたしの方を向く。

 

「――はじめまして。ボクはラッキービーストだよ。よろしくね」

「あ、こんにちは。あたしはともえっていうの。よろしくね」

「えっ……」

「うそ……」

「ボス……」

「「「しゃべれるのーっ!?」」」

「えっえっ、どうしてみんな、そんなに驚いてるの?」

 

 聞いたところによると、ボス――ラッキービーストさんはフレンズにはまったく口をきいてくれないらしい。実は噂の〈かばんさん〉だけには、しゃべってくれることもあったそうだ。ということは、ヒトにしか反応してくれない、ってことなのかな。

 

「どうしてネジを集めてるの?」

「――これは、〈はいざい〉だからね。壊れた観覧車を直すために集めてるんだ」

「なるほど、じゃあ〈いし〉はもともと、かんらんしゃのパーツだった、ってことでしょうか。だから、ボスが集めちゃったんですね」

「ラッキーさん。もしよかったら、このネジ、もらっていってもいいかな?」

「かまわないよ。代わりはいくつかあるからね」

「よかった! ラッコちゃん、これで安心して寝られるよ!」

 

 ラッコちゃんのねむたそうだった目がぱああっと明るくなって、「ありがとうなのですー!」と言ってあたしに抱きついてきた。空気を含んだ毛皮はふわふわで、もふもふに包まれている感じがする。ああ、図鑑にのってた通りだ……!

 

「イエイヌさんもありがとうなのです! おかげで今日はよく眠れそうなのです」

「いえいえ。わたしはみなさんのお手伝いをしただけですから」

 

 ちょっと謙遜しているイエイヌちゃんに、容赦なくラッコちゃんは抱きついている。探偵のふたりは、さっき少し疑ってしまったことを気にしているのかその様子を見守っていた。

 

「あ、あの、さっきはうたがってごめんね」

「わたしも、申し訳ないです。――本当に、鼻のよく利くフレンズなんですね」

「そんな、ぜんぜん気にしてないですから。大丈夫ですよ」

 

 イエイヌちゃんはくすぐったそうに笑っていて、いっしょに探偵をやらないかと誘ってくる二人に困っていた。

 

「困ります、わたしはともえちゃんの――」

「おともだち、だもんね」

 

 うう、と弱りきった表情がかわいくて、またちょっといじわるをしたくなってしまう。やっぱりまだ、イエイヌちゃんは〈しゅじゅうかんけい〉というやつに憧れがあるみたいだった。ヒトとけものって、どっちが上というものでもないと思うんだけれどな。

 

「あっ、そういえば。おふたりはよろしいのです?〈たんてい〉のおふたりにご依頼があったんじゃないです?」

 

 ラッコちゃんの台詞で、そうだった、と探偵コンビは思い出したようだった。でも、もうその必要はなくなっていた。

 

「大丈夫。わたしたち、ラッキーさんを探してたの」

「かんらんしゃを直していたから、この辺にあまりいなかったんですね」

 

 見つかってよかった、と思って足元のラッキーさんを見ると、やっぱりまた、あたしを見つめていた。なんだろ、あたしのことそんなに好きなのかな。

 

「ともえ、キミはなにが見たい?」

「ちょっと行きたいところがあるんだ。だからバイクを直そうと思ってたんだけど……」

「わかった。ボクにまかせて。でもその前に、ちょっと待っててね」

 

 そういうと、ふたたびラッキーさんはなにかピコピコ音をたてはじめた。よく見ると、おなかのあたりが緑色に光っている。なにか、あたしたちには聞こえないけどお話し中なのかもしれない。そう思って待っていると、いつのまにかもういったい新しいラッキーさんが現れた。

 

「――――――」

 

 新しいラッキーさんも同じ水色のデザインで、一見すると見分けがつかない。ふたりでなにか、話し合っているみたいだった。けっきょく新しいほうのラッキーさんが荷物を引き受けて、さっきまでのラッキーさんがこっちにやってくる。

 

「お待たせ。行こうか」

「なになに、バイクって?」

「お見送りをさせてほしいのです」

 

 けっきょく、みんなでさっきのバイクのところまで戻ってきた。実は、ラッコちゃんは〈ばす〉を海で見たことがあったらしい。これと似てるけど、ちょっと〈まんまる〉の数とかが違うみたい。

 

「ボクがいれば、ジャパリバイクは動かせるよ」

「やったあ!」

 

 さっきまでと違って、バイクはすぐにどるる、と電源が入った。これで、歩かずに図書館に行くことができそう。サイドカーに乗っているイエイヌちゃんも、「やりましたね!」ととってもうれしそうで、なんだかこっちもわくわくしてくる。

 見送りに来てくれた子たちも、みんなバイクに興味津々みたいだ。ラッキーさんが「じゃあ、そろそろ行こうか」と言うので、あたしたちはお別れをすることにした。

 

「じゃあ、またなのです。〈いし〉見つけてくれてどうもありがとうなのですー!」

「いえいえ、またいつかー!」

「何か依頼があったら、わたしたちのところまでー」

「うん! センちゃんもまたね」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 空はだんだん暗くなってきていて、もう夕暮れが始まりそうな時間だ。あたしたちはみんなに手を振りかえすと、オレンジ色になった道をまっすぐに走りはじめた。バイクに乗って風を受けると、立ち止まっているときはまた違った感触がある。

 となりのイエイヌちゃんに笑いかけると、向こうも満面の笑みで楽しんでるみたいだった。

 

「うふふっ」

 

 つぎはどんなフレンズに会えるのかな、たのしみ。

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