けものフレンズR [Resurrection] 作:A.Unno
「ふう、きょうも仕事しましたねえ」
「もう日が暮れてきたし、そろそろおしまいですかね」
〈わすれものセンター〉には、静けさが戻っていた。依頼が一気に解決して、アルマーもセンちゃんもようやく一息をついている。陽ももう沈みかけていて、あたりは一気に暗くなり始めていた。
「ん、この匂いは……?」
アルマーがなにかに気がついたらしく、窓に向かって鼻を近づける。なにか、嗅いだことのある匂いが近づいてきているような――と思った次の瞬間、いきなりふたつのシルエットが姿を現した。
「――おーい、いるですかー?」
「まったく、わたしたちに出向かせるとは。とんだ〈たんてい〉たちなのです」
「ああ、〈はかせ〉、それに〈じょしゅ〉」
オオコノハミミズクとワシミミズクのふたりが、窓の外から〈たんてい〉コンビになにやら文句を言っている。センちゃんが窓を開けると、「ふう」「お茶のひとつでも飲みたいのです」と、来てそうそう要求をし始めた。
「珍しいね。こんなところまで来るなんて」
「まったくなのです。しんりんちほーからここまではとっても長い道のりだったのです」
「おまえたちの報告がまだなので、わざわざ確認しにきてやったのですよ」
ん、報告? と言葉を反芻したところで、「あー!」とアルマーが立ち上がった。なにか思いだした様子の相棒に、センちゃんも少し慌てはじめる。博士たちはちょっとあきれた様子で、わちゃわちゃしている二人組を見守っている。
「え、えっ、なんでしたっけ」
「なんでしたっけではないのです。もしかして忘れていたのですか」
「ほら、あれだよ。残ってるかもしれない黒セルリアンの捜索」
「ああーそういえば!」
「そういえばではないのです。〈しま〉の下半分はおまえたちの持ち場だったはずなのです」
「ごめんごめん」アルマーがあやまりながら、ちょっと傷んだ地図を持ってくる。「これに目撃した子の話を書き入れたんだけど、ばらばらだったんだー」
「なんだ、終わってたならはやく持ってくればよかったのです」
「しごとは報告するまでなのですよ」
地図には点々とバツが書き記されていて、目撃者の名前と時間が添えられている。以前彼女たちを襲った黒セルリアンについて、博士とセルリアンハンターたちはその後も調査を進めていた。あれと同じものがまだ残っているのは、という不安は、この〈しま〉のフレンズたちに根強い。
「……ふむ。勘違いっぽいものばかりなのです」
「はずれなのでしょうか」
はかせたちは地図をしまうと、センちゃんが出してきたじゃぱりまんにぱくついた。もぐもぐ食べていると、いくらか機嫌が直ってくる。
「いやあ、ごめんね。今日はちょっといそがしかったから」
「そうなのですか?」
「そうなんですよ。ラッコの探し物をしたり、ヒトの子のお手伝いをしたり――」
「ヒト!? いまヒトと言ったのですか」
「くわしく聞かせるのです!」
じょしゅのミミちゃんが、センちゃんの言葉をさえぎった。「へ?」という顔をしている探偵二人に、博士たちは羽根を広げながら詰め寄る。あまりの剣幕に、思わず探偵コンビはふたりとも丸まってしまった。
「ひいい、なになに」
「いったいなんですかー!」
「いいから、話を聞かせるのです」
「どこで見たのですか」
「みなとの近くの森だよー」
「そうですそうですー」
「むむむ」
「いまはどこにいるのです」
「ばいく? に乗ってっちゃったし、わかんないよー」
「そうですそうですー」
「なんと、逃がしてしまったのですか」
「これはまずいのです。一度逃げられると、なかなかつかまえられないのです」
しばし見つめ合った後、はかせとじょしゅはふたりを助け起こした。
「仕事なのです」
「もうセルリアンはいいのです。明日からそのヒトの子を連れてくるのです」
「お仕事っ!?」
「やる気出てきましたよ!」
「……乗せやすくて助かるのです」
ぼそっ、というミミちゃんじょしゅの声に、センちゃんがぴくりと反応した。
「――なにか言いました?」
「な、なんでもないのです」
「それより、その子がどこから来たのか知りたいのです。この辺の建物、なのですか」
「たぶん、そうだと思うんだけど……」
「詳しいことはわからないんですが、イエイヌさんと一緒にいましたから。あの子のなわばりって、たしかセントラルでも、さばんな寄りの方じゃ」
「だいぶしぼれてきましたね、じょしゅ」
「きくかぎり、あそこではないかと。はかせ」
そう言うと、二羽はふわりと浮かんで、窓に足をかけた。いきなり去ろうとするはかせたちに驚いて、アルマーが「ちょっとまってー」と追いすがる。
「つれてくのはいいんだけど、どうするの」
「そうです。ともえさんは、わたしたちの依頼を助けてくれた恩人ですよ」
ちょっと警戒している様子のふたりを見て、はかせたちはちょっと首をかしげた。それから、「ふふふ」「なのです」と不敵に笑う。
「われわれの推測が正しければ、その子はきっと〈おたから〉をもっているはずなのです」
「すっごい〈おたから〉なのです。まちがいないのです」
「お、おたから!?」
「どんなおたからですか!?」
目を輝かせるたんていたちに、はかせは「それはいえないのです」ともったいぶったことを言う。
「つれてきてからのおたのしみ、なのです」
「おまえたちのはたらきに、きたいしてるのですよ」
それでは――と言い残して、音もなくはかせたちは飛び去っていく。見送ったアルマーとセンちゃんは、ようやく人心地ついてソファーに座った。
「おたからかあ……」
「ここでゲットすれば、きっとゆうめいになって依頼も倍増ですよ」
「そうだねえ。がんばろうセンちゃん」
「アルマーさんもですよ!」
ふふふ……と笑いあって、〈じむしょ〉は店じまいになった。