霊界探偵小町ラディッツ(東国幻想郷シリーズ) 作:JAFW500/ma183(関ケ原雅之)
この作品は『ドラゴンボール』、『東方プロジェクト』の二つの作品を主に元ネタとしたクロスオーバーものです。
このシリーズでも、本編同様に「オリジナルキャラクター」・「オリジナル設定」が出ます。
東国戦遊志~紅~の第一幕と第弐幕の間に起こった話です。
(もしも、ラディッツが探偵になったら…。みたいなノリで見てもらえると嬉しいです。)
最後に、どこかでこのシリーズは動画化まで行けるかはまだわかりませんが、動画版のお便りこコーナーやこの話に彼やその仲間たちが出たときは、是非頑張っている彼らを応援してもらえると嬉しいです。
※今回出てくる地名は仮称と思ってみてくれると嬉しいです。(地名は適当につけただけです。)
霊界探偵 小町ラディッツ 真夏の夜の絶対零度
[newpage]
「ちょっと、ラディッツさん…。貴方なんてことをしてくれたのですか…。」
「………?」
閻魔様は浄玻璃の鏡を見て青くなっている。何かあったのだろうか。
「これに映っているの…。」
ラディッツは写真をのぞき込むと、見覚えのある髪形をした男が突っ立っている。長い後ろ髪につんつん頭、そしてスカウター。間違いない、これは俺だ。――――………ん?オレ?
「せっかく機会を与えたのに、なんで人殺しまで…。」
閻魔様の顔が見たことがないほど絶望に至っている。
「ま、まて…。これは――――」
<ラディッツの部屋>
「いっ………てえ…。ああ、クソっ…。」
全くとんでもない夢を見ちまった…。
「やっと、起きたか…。」
いつもの部屋だが、この声は知っている。
「小町か…。」
「世話が焼ける奴だね…。人殺しまでやらかすとは…。」
ちょっとまて、こいつ今物騒な単語を言わなかったか?
「エイプリルフールはもう少し後だ。取り合えず、ラディオのネタから――――」
そう言いかけた時、服の横に封筒がおかれていることに気付いた。ゆっくりと封を開け、中から手紙を出すとこう書かれていた。
確定証明書(控え)
――――罪人:ラディッツ
上記の者にかかる事件について、平成10年5月23日になされた免責の決定は平成10年6月10日に確定したことを証明致す。よって、本日より10日後の6月20日、阿鼻地獄行きの刑を執行する。
是非曲直庁最高裁判長:閻魔大王
「………あん?」
「あと、これがその刑罰を収めたビデオだって。」
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6月12日午前11時
「お………オレは行かんぞあんな地獄へ…。」
ラディッツは血の気が引いたきり、戻れていない。四季映姫の働きかけによりなんとか20日猶予が残してもらえたが、判決は覆っていない。そして、相手も悪いことに国会議員のご家族様ときた。本人に聞こうとしても死人に口なし。何とかして、この身の潔白を、閻魔様から集めた情報をもとに導きだした真実で示さなければならない。
「まあ、落ち込んでてもどうにもならないからさ、先のことより今を大切にしなよ。」
小町の言うとおりだ。先を見てもこの事件は解けない。この10日で解くということに全てを注がなければならない。
ラディッツは、丁度近くにあったベンチに座るとポケットからココアシガレットを取り出し、タバコを吸うのと同じように口にくわえた。路上喫煙禁止と書かれているから。
さて、一応取れた情報は次の通りだ。
・犯人はラディッツの姿をしていた。
・服にはシミが数か所付着。(本人の証言によるとコーヒーがかかったときに着いたものだと思われる。)
・死因は窒息死。
・現場には粉々に砕け散ったままのアジサイの花弁が残されている。
「あとは、これか…。」
手元にあるのはタイムカード。2枚のカードで、指定した時間の現場の状況が自由に映し出せるというものだった。但し、使えるのはそれぞれ1度のみで、それ以上使うことはできない。
「とりあえず、協力者のいる喫茶店へ向かうしかないか。」
ラディッツは、ココアシガレットを砕くと残った分をその箱に戻した。
「ここだね。」
やっと、目的地に着いた。
「呉三コーヒー店…。」
今回の協力者がここで待ち合わせを指定してきた。幻想ブン屋の射命丸文という者らしい。たまに、こっちの世界でしがない二流記者をしているんだとか…。
「どうも。」
「いらっしゃいませ。何名様で?」
「2人だよ。連れがここにいるって聞いてここに来たけど…。」
出迎えたのは、黒ひげを生やしたおっさんだった。歳は30~40といったところか。
「もしかして、娘と意気投合しているあちらの方ですか…?」
ゆっくりと視線をテレビの方に向ける。
「たった一つの真実見抜く体は子供頭脳は大人ですか…。」
「そうっすよ、このセリフに勝る名台詞といったら『じっちゃんの名に懸けて』ぐらいしかない!」
「いいセリフですね。ちょっと参考に………っと。」
新聞記者らしからぬ行動に目が点々となっているラディッツ。しかもちょっと待て、こいつ確か幻想郷にいた気が――
「あれ、小野塚小町さんと月を創ろうとしていた…大根伯爵さんでしたっけ?」
「ラディッツだ。」
「おおう、そうでした、そうでした。」
この記者、おそらくわざと名前を間違えやがった。しかも、どういう訳か記念すべき最初の仕事がばれている。何者なのか…。
「それでは、ごゆっくり。」
それぞれの手元に、頼んだ飲み物が置かれた。一通り自己紹介が終わり。本題に入る。
「さて、観念してもらいましょうか。冷徹斎さん♡」
「顔は冷徹でも、心まで冷徹になれん。」
「ジョーダンですよ。ジョークアヴェニューってことで一つ。」
やれやれな感じで始まった。まず、カードを切ったのはラディッツからだ。
「あと、20日だけ猶予がある。それまでに身の潔白を証明できれば戻れるが、出来なければ地獄最恐の苦痛を味わう旅になるだろう。」
「しかし、浄玻璃の鏡は真実を映す。あなたが映っている以上覆すことはほぼ不可能では?」
ラディッツは、コーラをちっと飲むとこう返す。
「いや、あれは自動でついてくる監視カメラみたいなものだ。あの鏡は裁く対象者本人の行動しか映せん。」
「ならば、犯人を挙げることができればあなたの勝ちになると………。」
「そういうことだ。但し、期限内ならな………。」
ラディッツの出せるカードはこれだけ。次は、射命丸側の番だ。
「一応、該当する記事は持ってきたので参考にでもしておいてください。」
手元に置かれた新聞を読み込んでいく。ラディッツは、メモを取り内容を整理していく。
5月23日
場所:雁坂峠
被害者:函南 悟(かんなみ さとる)
年齢:35歳
職業:県議会議員の秘書
発生時刻:午後10時ごろ
状況:喫茶呉三の帰りにて発生。片側一車線の道、下り坂のカーブにて曲がり切れずガードレールを突き破り10メートル下の崖に落下。全身を強く打って(原型をとどめないで)死亡。現場に残っていたバイクから、バイクのブレーキホースが切れ、事故に至ったと結論付けられた。
「なんじゃこりゃ?」
かなりざっくりとしか捜査が行えてないらしい。
「まあ、警察の方も頑張ったんですが本当に起こってしまった超常現象にどう説明したらよいものかとなりこうなってしまったんです。」
もっともな方法だっただろう。今回の相手は自分に完璧に化けることができる時点で人間じゃない。
「さて、今回はこんなものですかね。」
「悪いな。」
たった30分だったがある程度状況は揃った。まあ、この店主にもいろいろ伺うことになるだろうが、まずは現場から行くことにする。
[newpage]
[chapter:絶対零度]
<雁坂峠の事故現場付近>
「ここか…。」
非常線は張られ、事故に関連するものは回収されているが、普通でないスピードで突っ込んだのは分かる。ガードレールから崖までの距離は約30メートル。
「こりゃあ、思いっきり出したくなるのも分からなくはないね。」
小町が言っているのはスピードの方。峠からこの現場まで緩やかなカーブが連続しており、この直前は約600メートルに渡ってのストレートがある。運転手が気を抜いてしまうほどいい線形をしてやがる。しかし、この急カーブでその酔いは醒まされることになる。これでもかと警告を促す黄色と黒の何枚にもわたる「この先急カーブ」の看板。そして、間違ってぶつかっても飛び出さないようにするつもりらしく、シュウマイのような形をした土嚢がガードレールの外に積んである。もっとも、この被害者はそれを味わうことなく超えてしまったらしいが。
「まずは、事故当時の現場からか…。」
ラディッツは、閻魔から渡された3つのカードのうち1枚目を使った。
5月23日 事故現場付近
遠くからライトが一つこちらに向かってきている。おそらく、あれが函南悟が乗っているバイクだ。やはり、ほかの車と違いかなりのスピードが出ている約100km/h~120km/hといったところか。これでは、身を投げ出して脱出とはいかないわけだ。そんな速度で曲がれるはずもなく、黒い土嚢(通称:イカ墨シュウマイ)に衝突。自転車の前輪のブレーキだけを思いっきりかけて急停止したように、止まった反動で彼の体は宙を舞い。そのまま崖下に吹っ飛ばされた。と、ここまでなら事故で済んだわけだが、しばらくして一瞬、ひんやりとした風が辺りに舞った。
「!!」
ラディッツは、時間を少し巻き戻して崖下に降りて行った。
「やはり、俺か…。」
自分とうり二つの顔を持つ者が現れた。ただし、目つきが若干違う気がする。地球に着いたばかりのころと同じ、中途半端に強さが現れたような顔つきだった。おそらく、過去の自分をコピーでもしたのだろう。それとワイシャツを着ており、その服には広範囲にわたって飛び散ったコーヒーのシミの跡がある。コーヒーでもこぼされたのか?
「…。」
ゆっくりと、その足が彼の体に近づいていく。函南悟のほうは、まだ意識を保っている。しかし、逃げることができない。衝突の衝撃で手は、完全に使えなくなっており。足も曲がってはいけない方向に曲がっている。ヘルメットが衝撃を少し肩代わりしたおかげで頭は守れたらしいが、今回はそれがあだとなり、犯人にとどめをさされてしまったらしい。ヘルメットを開けてないので表情は見えないが悶絶という言葉がいいのかもしれない。その冷血斎は、片手で男の胸元の襟をつかむと自分の目の高さまで引き上げ、胸糞の悪い笑みを浮かべて迫った。
「メイドの土産にクイズでも出してやろう。答えれば、見逃してやる。」
「………ごふっ。」
すると、ポケットから紙切れを取り出しゆっくりと問題を読み上げた。
「20年後、祝日の数は合計でいくつになると思う?」
問題が無茶苦茶だ。第一に、この男首が変な方向に曲がっているから話せんだろう。
「時間切れだな。残念賞として永遠の休日をプレゼントしてやる。」
さっきまでぬるかった風が、ひんやりとした風に変わっていく。
「どうだ、アイスキャンデーみたいになっていく感じは?新鮮だろう。」
なるほど、能力で気道の水分を凍らせて息ができないようにしたらしい。ならば、あのバラバラになったというのは――
男の体が完全に固まった。すると、コピーはその両足を掴むと近くにあった岩に思いっきり彼の体を叩きつけた。
「砕け散れい!!」
ガラスのように体が砕け散った。血は完全に凍り切っており、凍ったままの臓物がはっきり見えるのが気分を悪くさせてくれる。
「………ふんっ。所詮この程度か、他愛ない。」
コピーは、全く動じることなくその場を後にしていく。残念だが、その真の顔を明かすことはできなかった。だが、ヒントとなるものが現場に散らされた。
「これは、凍ったアジサイの花びらだな…。」
最初のリストに載っていた粉々に砕け散ったアジサイの花びらはこれのことだった。だが、実際見てみるとかなり濃い赤色をしている。
「あとは、シミか…。」
ラディッツは、もう一度砕け散らされる直前まで巻き戻し、一時停止して被害者の服を調べた。
「たしかに、シミがついているな…。」
直接近づいて調べてみる。よく証言の通りコーヒーのものであることが分かった。一旦、携帯にそれらの証拠画像を収めるとタイムカードを解除し、現代に戻った。
「何かわかったかい?」
「薄っすらとだが、ヒントらしきものが残されていた。次は、喫茶店の方だな…。」
[newpage]
6月12日 金曜日の夕方
<呉三コーヒー店>
「函南悟さんですか…?」
喫茶店の主人がいなかったので、代わりに手伝いをしている娘さん(名前:海南 千代子)に聞くことにした。
「そう、5月23日(土)の夜なんだけどここで何かあったかなって?」
娘はちょっと考えるようなしぐさを取ると、こう返した。
「あれはたしか、コーヒーの挽き方を教えるのをやった日ですね。」
「挽き方か…。なら、当時の名簿とか残っているか?」
「え?………ええ、確かアンケートなら残っていますよ。」
運よく、アンケートがあったらしい。この辺で、コーヒーが飲める店はこの喫茶店ぐらいしかなく、これで、犯人が絞り込める。
「これですね。」
全部で10人いた。しかし、これでは絞り込めないのでもう一つ条件を追加することにした。
「事件当日、コーヒーをこぼした客はいましたか?」
彼女は、ばつの悪そうな顔をして話した。
「実は、あの日コーヒーを運ぼうとしていたんですが、ワックスを塗りなおしたばかりで足元が滑ってしまい…。」
「かけてしまったということかい?」
「そうです…。」
なるほど、ということはその人が犯人に該当することか…。
「その方の名前か顔は覚えていますか?」
「確か、掛けてしまったのは函南さんを含めた3人で…。このテーブルに座っていた人たちだったと思います。」
「赤倉道夫(あかくら みちお)、六日町信三(むいかまちしんぞう)か…。」
「これで全員?」
「まあ、ありえないですけどあとは、うちのマスターですね。」
ラディッツは手帳にその名を小さく付け足した。念のため。
「ただいま…。ってあなたは確か昨日の。」
マスターが帰ってきた。せっかくだ、一応話を聞くとしよう。
「申し遅れました。自分はこういうものです。」
ラディッツは、懐から急ピッチで作った名刺を出して彼に渡した。
「私立探偵の廿日市三郎(はつかいち さぶろう)ですか…。」
当たり前だが、霊界という文字は消してある。こんなことを表に出しても余計に変人にみられるだけだ。(もっとも、この髪形をしている時点で変人としか言いようがないが…。)
「そうです、函南悟さんの一件で調査を依頼され。当日ここに来ていたということで、寄らせていただきました。美味かったですよ、あのコーヒー。」
「あれは、私が一番初めにしっかりと成功したもので、私にとってのすべての始まりみたいなものですよ。」
ラディッツは、軽く相槌をとると一応、彼自身の当日の夜の行動を聞くことにした。
「失礼ですが、5/23。つまり、彼が亡くなった当日。あなたはどこにおりましたか?」
「ちょっと、ホタルがいないか見に行ってました。」
一瞬だが、彼の顔が曇った。もう少し、詳しくいってみるか。
「ホタルというとどこのホタルを?」
「あの………、下流にかかっている山本橋のホタルですよ。」
やはり、この男若干歯切れが悪い。だが、犯人だと決めつけるのはまだ早い。さて、どうする。これ以上深堀して聞くべきか………。
1:もう少し話を聞いてみる。
⇒2:ここで話を切る。
「そうですか、すいません。ご協力ありがとうございました。」
これ以上踏み込んでも、聞けそうもない。時間がないとはいえ、むしろ、深堀し過ぎて怒らせてしまったら新しい情報を聞き出すのが難しくなるだろう。感情程厄介なものはないのだから。
「まあ、またいつでも寄ってみてください。僅かながらですが、力になりましょう。」
「よろしく。」
ラディッツはそう返したあと手元にある小倉サンドをとろうとしたが残っていないことに気付いた。
「…。」
近くにあったメニュー表をざっと見るとマスターに向かってこう頼んだ。
「悪いが、イチゴサンドとこのコーヒーを貰えないか?」
「イチゴサンドですか…。」
その一瞬、彼の顔が曇ったように見えた。
「お~い、千代子。イチゴサンドをその辺の奴に頼んでおいてくれ。」
そう言い残すと、彼は買い出ししたものを奥の方へと運びにいった。そして、入れ替わるように娘さんが入ってきた。
「あの………、まさか叔父が犯人とかじゃあ…。」
「いや、そう簡単に疑うのは不可能な話だ。ところで、さっきの2人についてもう少し詳しく教えてくれ。」
「は…………、はい。」
やはり、彼を外に連れ出すべきだったか。ちょっとまずいことをしたかもしれん。
「あっ、そうだ千代子ちゃん。おじさん自慢のコーヒーを一杯ずつ貰えるかな?」
「……!はいっ。」
さっきの一言で、彼女の顔が明るくなった。
「悪い。助かった。」
「暗い時こそファローが必要なのさ。」
どうやら、まだまだ俺も青いらしい。
[newpage]
6月12日 金曜日の夜
<コーポ島本>
街道から一本裏の道沿いにある小さなアパートが今回の拠点。銀座通りという商店街が近くにあるが、このアパートにその喧騒は届かない。
「長い一日だったねぇ…。」
「あまり情報が取れんと思ったが、意外と集まったな。」
ラディッツは、聞き込んだ時につけたメモをもう一度開き、整理した。
赤倉道夫(あかくら みちお)
36歳。商店街にて自動車修理店のオーナーをやっているとのこと。彼の大学時代の同級生で、近いうちに市への進出を考えているらしい。毎週土曜日の夜に来店。
六日町信三(むいかまち しんぞう)
33歳。県立大学の助教授をやっているとのこと。こちらは後輩で、ツーリングが趣味らしい。最近は、月曜日に来店することが多い。(学会での発表がひと段落ついて落ち着いたのだとか。)
海南呉三(かいなん くれみつ)
34歳。呉三コーヒー店のオーナー。高校時代の親友だったとのこと。4年前にコーヒー店を開き、そこそこの人気を集めている模様。(店を構えているが、小さいのでまだ何とも言えない…。)
「明日は、この赤倉道夫だね。」
「今日は、ここまでだ。一旦、今日まで集めた情報で推理を組み立ててみるか…。」
ラディッツは、懐からシガレットを取り出すとそれを加え、説明を始めた。
[chapter:~Inference time(推理)~]
今日は、基本情報を抑えるために現場とコーヒー店で1日を費やした。
まず…被害者の名前は函南 悟(かんなみ さとる)。県議会議員の秘書で、仕事を終えて先生の事務所に戻る途中だった。
死亡推定時刻は…、午後10時頃。(通行者によって発見された。)
彼の死因は…、窒息死。それも、かなり低温で凍らされていた。万が一犯人と戦うことになったら気をつけるべきだろう。
「次は、犯人だな…。」
犯人の事件当時の格好は…、俺だった。但し、地球に来たばかりの頃の顔だったが。
現場に残していった花は…、かなり赤いアジサイの花だ。
「最後は、呉三コーヒー店だ…。」
オーナーの名前は…、函南呉三(かんなみ くれみつ)
5/23にコーヒー店で行われた催し会は…、コーヒーの挽き方だったな。
事件発生時刻ごろオーナーは何をしていたか…、ホタルを見に行ったと言っていた。ただ、歯切れが悪かったことと明日は休みになることからここに行ってみるのがいいだろう。
「まずは、山本橋からだ。」
ラディッツは、ココアシガレットのケースを懐に入れると仮眠をとることにした。
[newpage]
6月13日 土曜日 午後4時30分
<山本駅→雁淵温泉駅>
喫茶店から街道沿いに南へ1キロ付近、小さな橋がかかっている。この辺のパンフレットに載っているホタルの名所らしい。
「仕事でなけりゃあ、温泉にでも入ってゆっくりしていけたのにな…。」
「まあ、この仕事が終わったら一息つきにいこう。」
小町も考えていることは同じだ。あの商店街を抜けた先には天然温泉がある。近くを鉄道が通っているのでここに立ち寄る客が多い。小町は服装を変えれば大丈夫だが、一応身分証明書になるもの(まあ、かなり精巧に作ってあるので大丈夫だが)があるとはいえ、俺の場合その辺のゴロツキと間違われそうで危ない気がする。そして今回、子供に声を掛けたら逃げられた。やはり、子供や女性相手の場合、小町に頼ることになってしまうのがサイヤ人に生まれてしまった自分の哀しい宿命か…。
「んじゃ、まずはこっちが集めた情報からだ。」
小町が集めた情報によると、ホタルが見られるようになるのは先週からで5月に入ってから見れた例はほとんどなく。発生時間は夜の19時~21時らしい。つまり、あのおっさんはわざわざホタルが見にくい季節の時間帯にホタルを見に行ったことになる。かなり疑わしい。ならば、あの時間どこへ行っていたのか。
6月13日 土曜日 午後5時30分
<呉三コーヒー店>
一旦、アパートに戻り汗を洗い流したところで電話が入った。あのコーヒー店のオーナーからで、赤倉道夫が来店したので聞きにきたらどうだということらしい。昼は、小町に貸しを作ったので今度は一人で向かうことにした。小町は夕飯の準備だ。
「毎度、ありがとうございます。」
入って出迎えたのは、娘さんの方だった。どうやら、いつもの顔に戻れたらしい。俺は電話の件を伝えると赤倉さんの席に案内された
「廿日市君、早速…。」
「では、よろしくお願いします。」
こいつ、かなり稼いでいる気がする。腕には高級そうな腕時計がまかれ、スーツまでビシッと決めている。対面しているだけで生活の格の違いがひしひし伝わってくる。
「悪いねぇ。ちょっと、急だったものでこれぐらいしかなくて。」
「そうか…。いや、それでも十分だと思いますよ…。」
こみ上げる怒りを抑えつつ、互いに名刺の交換は終わった。いきなり本題に入っていく。
「赤倉さんは、確か亡くなられた函南さんの…。」
「同級生ですよ。せっかくまた会えたのにこうなってしまうとは…。」
暗い顔をしている。俺を見下していても友人は別らしい。無理もないか…。
「事件当日、ここで開かれたコーヒーの挽き方に出席されていたことに間違いはありませんか?」
「間違いないですね。ちょっと、アクシデントがありましたけど…。」
大体予想はつくがそのまま聞く。
「アクシデント?」
「ちょっとコーヒーがかかってしまいまして…せっかく決め込んだワイシャツがパーでしたよ。まあ、致命的に思えることでも私にとってはどうでもいいことですけど。」
クッソ…、この見下した目。この俺をコケにしていやがる。マスターが電話をかけてきたとき歯切れが悪かったがこういうことか。元々いた世界ならグーでこいつをぶっ飛ばしてやりたい。
「当日、ここへは何に乗ってきましたか?」
「車ですよ。愛知県の某有名会社が作っているクラウンでね。」
ちゃっかりいい車で来やがったか。だが、俺の乗ってきた宇宙ポッドが上だ。
ラディッツは、メモを取るとアリバイの方へ入る。
「この催しが終わった後、そのまま家に戻られたのですか?」
「いや、ちょっと街の事務所の方に。こう見えていろいろやることあるんですよ。上に行くほど大変。わかっていただけますか?」
今度は皮肉か。あのフリーザの野郎が働いている姿を見た覚えがない。まさか、副業で宇宙船警備員をしていたとでもいうのか、まあいい。
「それを証言できる方はいますか?」
「ノンノン。あそこにいたのは私一人だけだった。孤独もまた上に行くものにとっては背負うべきものなのさ。」
正論だな。一応、これを聞いて最後にするか。
「彼の死因とか聞かされていますか?」
「事故死だと聞いたよ。もっとも、あんな感じに終わる事故だとは思わないけど。」
やはり、車に精通しているためあの処理には納得いかないらしい。
「これで、終わりにします。ご協力ありがとうございました。」
「これぐらい容易いものさ。そうだ、お別れのしるしにこれでもどうかな?」
どこから用意したのか、アイスキャンディーの「がりがりバー」が渡された。
「あいつが好きだったアイスさ。あと、領収書はこれね。それじゃ、アディオス!!」
最後まで明るく、ダンディーな奴だった。だが、この領収書よく見たらレシートの裏面で手書きになっている。これが、最近流行りかけているリユースというものか…。いや、なんか違う気がする。
<コーポ島本>
さて、推理に入るか…。そう思い懐に手を伸ばしたがココアシガレットのケースがない。どこかで落としたのか…。
「…。」
仕方がないので、近くにあった最後までチョコたっぷりと書かれているトッポッキーで推理に入るとしよう。形が似ていればいいのかもしれない。
[chapter:~Inference time(推理)2~]
今日は、車の修理店のオーナーをやっている赤倉道夫の聞き込みと、呉三コーヒー店マスターの海南呉三についての証言を確認するため山本橋に足を運んだ。
「まずは海南呉三のほうからか…。」
彼がホタルを見に行った橋は…、山本橋だ。
証言によると日付は…、5/23の午後10時以降。
ホタルの光を見ることができる時期は…、6月上旬以降の夜7時~9時。
これは彼の証言と…、合致しない。
つまり彼は…、嘘をついている。
「最後は赤倉道夫だな…。」
彼の職業は…、自動車修理店のオーナー。
彼は函南さんの…、同級生。
事件当日彼は何に乗ってきたか…、そう、車だ。しかもクラウンでだ。
彼はコーヒー店を出た後…、事務所に寄った。
「これで全部か…。」
やはり、現時点では2人ともグレーだ。なにかカギがあればもう一歩行けるのだが…。
「ラディッツ、一つ気になったんだけど…。」
ふと、小町が話しかけてきた。
「この辺のアジサイたちみんな綺麗な赤色してないみたいだよ。」
ラディッツは、ここまでに言った場所を思い返してみた。確かにアジサイは咲いていた。しかし、現場に残されたような濃い赤色のアジサイは無かった。せいぜい頑張っても薄い青色で止まるものがほとんどだった。ならば、店で売っているものか…。
「小町、この辺にある花屋を地図で調べてくれ。」
「はいよ。」
さて、もう一つ何とかしなければならないものがある。
ラディッツは、部屋の玄関に置かれた大量のチラシを手にもって眺めている。
「近所にあるスーパーの特売セールのチラシは…っと。」
そう、お金の問題だ。コーヒー店の方は何とかなったが食費の方が圧迫し始めている。そんな時に救いの手を差し伸べる神様がこの特売チラシになるのだ。ただ、今日ここに入れられたのは1枚のみで、あとは全部選挙戦の立候補者の政策パンフレットしかない。どうやら、県議会議員を決める選挙らしい。
「そういえば…。」
ラディッツは、メモを開くと函南悟のところを見た。彼の職業は県議会議員の秘書だった。偶然といったら偶然なのかもしれないが、あのクイズからして何か引っかかる気がしてならない。
「見つかったよ~。」
どうやら、見つかったらしい。ラディッツは、小町の示した花屋の位置を確認するとメモを取った。
「全部で3つか…。」
見たところ全て商店街の中に位置している。これなら行けるだろう。
「よし、明日この3つの店を回って調べに行くぞ。」
「りょ~かい。」
[newpage]
6月14日 日曜日 午後0時30分
<3件目の花屋>
「そうですか…。」
「すみません。お力になれなくて…。」
「では、また。」
ダメだ。3件とも行ったが、どれもあれ程濃い色のアジサイをまだ売っていない。入荷は来週以降になるらしい。
「打つ手なしか…。」
もう一度メモ帳を見つめなおす。どこかにあるはずだ。この青いアジサイを手に入れる方法が…。
「あれっ、こんなとこで何やっているんですか?」
「ん?って、コーヒー店のオーナーの娘さんか。今日は、どこか行ってきた帰りかな?」
自転車に乗ってどこかへ行ってきた帰りらしい。前かごに植木鉢が一つ載せてある。
「そうなんですよ、面倒なことに学校の園芸部で集まって花の植え替えボランティアをやるってことになって…。休日なのに酷いと思いません?」
「お前もかい。」
何か分からない気もしない。かつてフリーザ軍にいた時に休む間もなく飛ばされ続けた年があった。戦闘中に眠りかけて死にそうになったが。まあ、帰ってくることはできた。
「ところで、良かったらこの植木鉢持って行ってくださいよ。もう、置けるスペースが無くって…。」
「そうか――――」
そう言いかけた時、アジサイについて一つ可能性が浮かんだ。手間はかかるが育てるという方法だ。おそらく、園芸部であるこいつなら何かヒントを持っているかもしれない。
「ちょっと、一つ聞いていいか?」
「はい?」
「このケータイに映っているアジサイを育てることはできるか?」
すると千代子は難しい顔をして答えた。
「できないことは無いけど、結構難しいっすよ。こんなに綺麗な色を付けさせるのは。」
どうやら、簡単にいかないものらしい。その後も話を聞いていくといくつか育てる条件があることが分かった。この辺の土では濃い青は育つが濃い赤になるのは難しい。そのため、赤玉土、腐葉土とかを買ってアルミニウムイオンを吸収させにくい土をつくらないといけないらしい。
「それじゃ、また~。」
結局、手元に植木鉢だけを持たされて行ってしまった。まあ、情報を貰ったお返しということで渡されたのだが、どうすればよいものか。
ラディッツの両手には花がない植木鉢が掴まされている。ここに花が植えてあれば両手に花ということになるのだろうが…。
[newpage]
6月14日 日曜日 午後5時30分
<呉三コーヒー>
電話が入ったのはついさっきのことだった。残った一人、六日町信三が来ると言うことだった。ラディッツは、先に席についてそいつを待つことにした。
「まともな奴だといいがな…。」
昨日会ったあの赤倉の顔がちらついた。流石にあんな奴がもう一人追加されたらストレスが溜まってしょうがない。
「いらっしゃいませ。」
「あの~、電話で予約しました六日町です。いつものコースでお願いします。」
かなり整った顔と茶色い髪をした奴が来店してきた。頼むから、名字だけ同じであってほしい。
「かしこまりました。それと、亡くなられた悟さんの件で私立探偵さんが一人お話を伺いたいと…。」
「うぇ!?私立探偵さんが?」
まあ、ましな方か…。
「どうも…。」
「ほぇ~、独特な髪形をしてるね。」
お前の茶髪と口癖も負けてない気がする。そう心では思いつつも何とか話に持ち込む。
「――――というわけでよろしくお願いします。」
「よろしくぅ、廿日市繁ぅ君。」
なんか、変なニックネームを付けられた。
「まず、事件当日、ここで開かれたコーヒーの挽き方に出席されていたことに間違いはないか?」
「間違いないね。ちょっち、コーヒーがかかったけど…。こんなのへーきへーき。」
「では、当日ここへはどのように?」
「電車。あと、駅からは歩きってとこかな♪」
「あれ、確かツーリングが趣味では?」
「ちょっと、バイクが故障しちゃっててね。直す暇がないからこれで来ちゃったのよう。この辺をブオンってマイウェイしたい気分だけどそうもいかないの。」
十分、口調がマイウェイを走っている気がするが突っ込まないでおこう。
「次に、ここを出た後そのまま自宅に帰ったか?」
「もち♪」
「で、それを証明できるものは?」
「ミケちゃん。うちの愛猫なのよ。」
やれやれ、どうやら証人なしといったところらしい。
「ご協力ありがとう、これで全部だ。」
「全く、固い喋りで疲れるねぇ。もっとリラックスして喋るといいよ♪んじゃ、バイビー♪」
お前はもう少しまともに喋れと言ってやりたいラディッツだった。
[newpage]
6月14日 日曜日 午後9時30分
<コーポ島本>
「――――なるほど。手がかりは赤いアジサイの育て方か…。」
「ただ、これで見るべきポイントが一つ増えたな。」
ラディッツは、メモ帳を開き今日の出来事を反芻することにした。
[chapter:~Inference time(推理)3~]
今日は、赤いアジサイについての手がかり探しと、六日町信三の基本情報を聞き出した。
「まずは六日町信三のほうからか…。」
彼は事件当日どうやって来たか…、そう、歩きと電車だった。本来ならばバイクで来るらしいが、バイクが壊れてしまったらしい。
コーヒーの挽き方を学んだあとどうしていたかというと…、家に帰ったらしい。だが、証人はいないのでアリバイなし。
「最後は、赤いアジサイのほうだな…。」
この付近一帯では、濃い色の赤いアジサイは普通に…、咲いていない。
この街の花屋では、あれと同じ濃さのアジサイは…、売っていなかった。
となれば、この方面で次に探るべきポイントは…、そうだ。アジサイを自分で栽培しているかということになる。彼らがいないときにでもお邪魔してみるか。
「明日はどうするんだい?」
「せっかくだ、あの2人の家の方へ行ってみよう。」
[newpage]
今日は、二手に分かれて調べることになった。ラディッツは赤倉さんの方へ、小町は六日町さんの方へ向かう。
6月15日 月曜日 午後0時30分
<赤倉道夫の自宅付近>
呉三コーヒー店から西へ約2キロ。寺に続く坂道の途中にその家は建っている。玄関付近はしっかりとカギがかけられており、フェンスも高く簡単に侵入できないようになっている。さらに、交番も近くにあり治安は問題ない。
メモを取り出したときだった。
「どうも、すみません。この辺の方ですか?」
いきなり後ろから声を掛けられた。服装からして警官であることは明らかだ。ラディッツは、名刺と身分証明のできるものを渡すと不審者でないということを分かってもらうことができ、適当に挨拶を済ませ、5/23の彼のことについて聞けるだけのことを聞いてみた。そして、いくつか情報が取れた。
・夜7時頃帰宅した後、花束を持って出かけたらしい。(中身は不明)
・帰ってきたのは午前2時ごろ、かなり疲れていたらしい。
・車はいつも離れた場所に置いている。(駐車スペースがないとのこと)
・ギターを弾くのが大好きで、大学生時代に一々店に行って注文して部品から取り寄せていたほどだとか…。(最近は時間がないのでそれも難しい。)
そして、今回気にしていたアジサイだが寺まで行けばある。ただ、咲いていたのは薄紅色で、ここから直接持っていくというのは薄い気がする。
6月15日 月曜日 午後0時30分
<六日町信三の自宅付近>
呉三コーヒー店から南西へ2.5キロ。寺の傍にこの家は建っている。ただ、あまり収入がよろしくないのかボロいアパートの一室を借りて生活をしているらしい。
「あんまり居心地のいい場所じゃないね。」
小町が言ったのは部屋の方ではない。近くにあるお墓の方だ。そこそこ供養しに来る者はいるらしいが、中には忘れ去られつつあるような墓がいくつか見える。
「まあ、近いうちにこうなっていくのかな。」
ふと、ボスがたまに行っていた無縁塚のことを思いつつさっきまでにとったメモを確認する。近くに住むお寺の住職と夜コンビニでバイトしている隣人のおばちゃんから話が聞けた。
・帰ってきたのは午後11時30分ごろ。
・知り合いか誰かの墓参りをよくしに来る。
・昨年、セイヨウ朝顔を育てたらしいが放置したせいで雑草みたいになっている。(色は覚えてないらしい。)
・プラモが大好きだったが、最近忙しくてなかなか作れないでいる。(当たり前です。)
そして、ここのアジサイだが紫色がほとんどだった。
6月15日 月曜日 午後6時30分
<コーポ島本>
「少なくとも、あの二人とアジサイの繋がりに近いものが見えてきたな。」
「だけど、あのコーヒー店のマスターのは見つからないままだね。」
「取り合えず、それぞれの情報を交換といくか。」
「了解。」
[chapter:~Inference time(推理)4~]
函南悟を殺したやつを見つけ出すのが今回の仕事、そして今日は赤いアジサイについて考えていた。
「まずは、赤倉道夫だな。」
赤倉道夫の家には赤いアジサイは無かったが、気になる情報が一つあったわけだが…、事件当日花束を抱えて家を出て行った。
「次は、六日町信三だね。」
彼もアジサイは無かったが、あるものを植えていた。それは…、アサガオだ。確か、アサガオと同じく土壌のpHによって色が変わる。だが、色の情報はない。そこまで珍しい色ではなかったということだろう。
「近いうちに、この2人の家に上がらせてもらうしかないな。」
「まあ、2人とも独身らしいから何とかなるかもね。」
スーパーで買ってきたもので、肉じゃがでも作ろうと立ち上がったその時、一本の電話がかかってきた。
「もしもし、私立探偵の廿日市三郎です。」
「ラディッツさん、ちょっと明日の夕方に会うことはできますか?」
この声…、確か初日に会った射命丸文とかいう奴だったな。
「どうした、そんなに慌てて…。」
「国会議員の秘書の方でも同じような殺され方をした人がいるらしいんです。」
[newpage]
どうやら、今回の事件は俺の潔白を証明するだけでは終わらないらしい。同じ魔の手が国会議員の秘書にまで届いたのだ。これは予想だけで終わって欲しいのだが、国の政治を揺るがす方に向かっている気がする。
6月16日 火曜日 午後5時30分
<呉三コーヒー店>
「――――ということです。」
話をまとめるとこうだ。この街から100キロ離れた県境の峠で事件は起こった。被害者は渋川隆雄。この県から選ばれた国会議員の秘書を務めていた。しかも、情報によるとその国会議員は最近立ち上げた新党の重役のポジションについているとのこと。そして、最初に殺された函南悟が秘書をやっていた県議会議員も同じ党に所属している。現在は野党になっている党だが、優秀な者たちが揃っており近いうちに与党に咲くとみられている。さらに、来週の県議選でも合間を縫ってその県議と国会議員がこの街で街頭演説をするらしい。おそらく、犯人もその機会を逃すはずがないだろう。
「思った以上に苦しい展開になったな。あの議員たちはそれでもこっちに来るんだろう。」
射命丸は重い顔でうなずいた。当たり前だろう、彼らを期待する者たちが大勢いるのだから、そう簡単に引けない状況にある。
「分かった、その日が来るまでに何とかして犯人にたどり着いてみよう。あと二人まで絞り込めた。」
結論から言うとマスターは関係ないと考えている。ここに来た時に娘さんの方から新しい証言を得た。彼は赤色が好みでないらしく(頑張っても赤紫までとのこと)、娘さんが庭で育てている花の色に赤色はない。ここで出されるメニューには赤色の入ったものが載っているが、他の店員がそれを作って出しているらしい。
「引き続きお願いしますよ、この事件の話題を記事にできるのは大きいんですから。」
彼女は、それだけ残すとさっさと事務所の方に戻っていた。やれやれ、向こうにとっちゃあそっちの方が大切らしい。まあ、この俺が地獄へ落ちても悲しむ奴は限られているが…。取り合えず、カウンターの方に行くとするか。水が無くなった。
「ちょっと、水を――――」
そう言いかけた時、カウンターの奥に置かれた写真たてが目に映った。
「これは、ちょっと前の写真だな…。」
ちょっとと言ってももう20年ぐらい前の写真だろうか。カラーではあるが画質が悪く輪郭がぼやけている。だが、かげりのないカラッとした夏のようないい笑顔だ。左から順に和服を着た男、修行装束で髪をそのまま下ろした感じの女性一人と、一番右にはポロシャツとジーンズという当時はやったらしいのだろう現代風の格好をした男がちょっと不満そうな顔で映っている。
「――――、………!」
よく見たら、この真ん中に映っている人に見覚えがある。今と感じが変わっているがあの博麗レイムという元巫女に似ている気がする。しかもこの風景、博麗神社から見た感じと同じだ。なぜ、この男は幻想郷に来たのか…。
「どうしたんすか?そんなに写真をまじまじと見ちゃって?」
あの娘さんが声を掛けてきた。俺は、その写真について聞いてみることにした。
「これっすか…、確か大学生だった時の5月に旅をして仲良くなった人たちと一緒に撮ったって言っていたかな。でも、それ以上聞いてもあんまり詳しくは話してくれなくて…。」
おそらく、あのホタルもこのことに関係しているだろう。帰ったらレイムに聞いてみる必要がありそうだ。
「そうか…。」
「あの…、やっぱりまだ疑ってますか?」
僅かに彼女の顔が暗くなった。
「いや、これであのホタルの謎が解った。それと、お前の叔父さん何か信念をもってこの店をやっているんじゃないか?」
最後の言葉は直観だ。俺があの世界で生きている内に思ったことだった。あいつが俺に稽古をつけた事、彼女の左隣に映っている男、そしてあのコーヒーのこと…。
「叔父は…、いつも客から注文を受けた料理に手を抜いたことは一度もなかった。なんで?って聞くと、いい顔をして楽しんでもらうためだっていってましたよ。」
あの幻想郷で少なからず彼を変えたものがあると考えてよさそうだ。そういえば、あの記者も幻想郷出身だったはず。もう一歩踏み込んで聞いてみよう。
「あと一つ聞きたい。あの新聞記者はいつからここに来始めたんだ?」
「確か、ここの店を開けた時、まず最初に入ってきたのが彼女だったはず。最初、叔父はびっくりしてましたよ、『どうしてここを知ったんだ』って。私がここで手伝いをしている時も、よくあのコーヒーを頼んで、叔父と話していたからよく覚えているんです。」
あのコーヒーか…。どうやら、レイムに聞く前にあの記者と話をしたほうがいいだろう。
「そうか。よかったらそのコーヒーを一杯貰えないか。」
「やはり探偵さんも気になりますか、叔父のこと?」
「マスターの娘がそこまで言うんだ、美味しいに決まっているだろう。」
するとその娘は、ちょっと顔を赤らめつつも嬉しそうに奥の調理場へ足を向けて行った。
6月16日 火曜日 午後9時30分
<コーポ島本>
俺はあのコーヒーを一杯貰い、ここに戻ってきた。ブラックだったがいい気持ちになれた気がする。
[chapter:~Inference time(推理)5~]
「小町は寝入ってしまったが、大きな進展があった。明日、彼女に内容を伝えれるように推理に移ろう。」
まず海南呉三についてだが…、結論から言うと犯人じゃない可能性が高い。
その理由が…、そう、彼は赤いものが好みではない。思い返すとあのイチゴサンドを頼んだ時も他の人に頼んでいた。
「ホタルについては、射命丸に聞いてみるとしよう…。今度は、犯人についてだ。」
今回殺された人物、渋川隆雄の職業は…、国会議員の秘書だった。
前回殺された人物、函南悟は…、県議会議員の秘書だった。
この二つが意味することは…、政治にかかわる人物の抹殺。
「あとは…。」
ダメだ、これ以上犯人を絞る資料が手元にない。
「ん…。あれ、帰ってたの?」
半分寝ぼけ気味で小町が起きてきた。たまにはこっちから何か作ろうと思ったがちょっと腹を持たせるものが欲しい。辺りを見回すと銀の袋が目に入った。
「小町、その銀色の袋に入ったものは何だ?」
彼女は、眠い目を軽く押しながら答えた。
「なんか、売れ残り品で安く売ってたんだよ。ドライフルーツっていうなんか果物を乾燥させたやつらしいよ…。」
その言葉に一つ引っかかったものがあった。アジサイだ。アジサイの花びらは水分を含んでいる。ならば、解凍したときにはしおれた状態で発見されるはずだ。しかし、最初に貰ったあのリストにはそれは書いてない。もう一度、警察が発見した時の時間まで巻き戻して一度調べてみるか。
「小町、早速だが明日の朝一番で現場に行くぞ。」
「…………?」
[newpage]
6月17日 水曜日 午前11時30分
<3件目の花屋>
「――――の方ですね。」
「分かりました。どうもありがとうございます。」
俺たちは足早にその店を後にした。
「やはり、彼の方で間違いないね。」
「ああ、それと現場で見たあのアジサイ…。やっと見えてきたな。」
まず、現場の方だが間違いない。あれは凍ったアジサイではなく、乾燥させたアジサイだった。そして、全体的に色がほぼ均一だったことから白と推測し、店に聞きまわってついに見つけた。
「ところで、色はどうする?白いのを見つけたとしてもあれ程濃い色にするのは簡単には行かないはずだ。塗るとしてもかなり手間がかかるし、それだけの時間が取れない。」
「いや、塗る以外にも方法はある。それは…、浸すという方法だ。」
「そうか、ならあっちの家に向かってみようか。」
俺は、目的の家にたどり着く間を使って推理を展開することにした。
[chapter:~Inference time(推理)6~]
まず、今回の事件だったがアジサイについて特徴があった。それは…、乾燥していたということだった。
次に、それぞれ趣味があった。
赤倉さんの趣味は…、そう、ギターを弾くことだった。
六日町さんの趣味は…、プラモ作りだったな。
今回、アジサイだが塗る以外に、むらがないように色を付ける方法があった。その方法とは…、浸けるという方法だった。
今、一番犯人に近い人物は…。
0、海南呉三(コーヒーのおっちゃん)
1、赤倉道夫(あの忌々しいクラウンのおっさん)
2、六日町信三(風格が伴わない助教授)
3、ミケちゃん(信三が飼っている猫、かわいいらしい。)
3、犯人はお前だ!(セリフだけかっこいいが、中身がない。)
6月17日 水曜日 午前11時30分
<さっき疑った人物の家>
ラディッツたちは目的の家に着くとドアに手をかけて回してみた。すると、カギはかかってなく、すんなりと中に入れた。
「これは…。」
中は綺麗にテーブルだけ残されていてもぬけの殻だった。そして、その上には青いバラと『挑戦状』と書かれた立派な紙が残されていた。
「読んでみるね。」
小町はゆっくりとその内容を読み上げた。
――――真実にたどり着いた探偵たちへ
昨日会話を盗聴していたが、正直に言うと君を舐めていた。まさか、こんなに早くけれども唐突にたどり着かれるとは思ってもいなかった。だが、一枚上手なのはこっちの方だ。5日後にある街頭演説を襲撃させてもらおう。君たち人間がいつも2面でしかとらえてない世界にもう一面新しい見方を教えてやる、このサリンをもって。ただ、空気の流れを読む者だけは助かるのがこの作戦のつらい所だが、当日、天は私に味方している。最高のショーを見せてやろう。特等席で待っている。
「どうする、交番にでも持っていくかい?」
「そうだな、もしかしたら何とかしてくれるかもしれん。」
それから、俺たちは交番である程度事情を説明したが考えが甘かった。取り合ってもらえそうにない。当たり前だ、最初の事件は事故として処理された挙句、前回の事件も事故として処理されかかっている。やはり、俺たちで場所を突き止めて、阻止するしかない。
[newpage]
[chapter:~Final stage:週末へのカウントダウン~]
6月18日 木曜日 午後9時30分
<平成、文々ジャーナル社>
ラディッツは小町を連れて射命丸を呼び出し、彼女の所属する新聞社の一角を借りて文章の解読を始めることにした。
「まずは、これだな。」
俺は、昨日のあの紙を広げた。
――――君たち人間がいつも2面でしかとらえてない世界にもう一面新しい見方を教えてやる、このサリンをもって。――――
「サリンですか…。」
「どんなものなんだ。」
すると、彼女はその内容について話し始めた。要約すると下のメモの通りだ。
サリンについて
・3年前にある宗教団体が起こしたときに使った化学兵器クラスの毒物劇薬。
・松本、東京地下鉄で撒かれた(それ以前にも未遂で何回かあったらしい)が、かなりの負傷者を出した。
・殺傷能力が高く、皮膚にかかった場合には確実に死に至るらしい。
・軽傷でも嘔吐、下痢、頭痛。重症になると全身痙攣、呼吸困難、呼吸筋麻痺といった命に係わる症状になりその後死亡となる。運よく生きていても後遺症が残るだろう。
2人の心に重い石がのしかかる。『あの内容の解読ができたか』にこの街の人々の命がかかっている。失敗すれば、この街の人々は死亡するだろう、そして俺や小町、そして映姫にも責任が及ぶのも避けられない上に、一生その十字架を背負うことになる。
「もう一度、その紙を見せてください。」
まず、硬直を破ったのは記者の射命丸文だ。
――――君たち人間がいつも2面でしかとらえてない世界にもう一面新しい見方を教えてやる、このサリンをもって。――――
(射命丸視点)
おそらく、この2面というのは地上で生きている人間からの視点を指しているだろう。彼らは多忙な日々を送っているため、ほとんど前か後か横しか見ていない。それとサリンの情報を集めると…、見えた!
「分かりました。この一文の意味が。」
「なんだって!?」
「意外と早いな。」
二人とも焦っている、こういう顔を見るたび天狗として生まれた事を誇りに思いつつ、記者としての働き甲斐というものを私の中に見出せるというもの。そう思いつつも私は彼女たちに内容を説明していく。
「まず、サリンの毒性と働いている時の状況を思い出すべきだったんです。いつも仕事をしている時、貴方たちは平面でしか周りを見ていない。つまり…。」
「空を見ろっていうことかい?」
「そういうことです♡」
なるほど、さすが三途の川の一番人気の死神だった。人を見る目に加えてヒントから答えを見抜く目を持っているとは…、この青い探偵が真実にたどり着けそうなのも彼女のおかげかしら?
こうして、射命丸文の番が終わった。つぎは小町ラディッツの方に筆は移る
(ラディッツ視点)
「こっちの文だな…。」
俺は、残りの半分の文章を任された。
――――ただ、空気の流れを読む者だけは助かるのがこの作戦のつらい所だが、当日、天は私に味方している。――――
まずは、分かるとこから切り崩していこう。
ラディッツは、その辺で売っていたタバコに火をつけると本気を出してかかった。
[chapter:~Inference time(推理)7~]
まず、空という単語が出たから上空散布型とみて間違いないだろう。それなら確実に人を殺すことができる。ならば、この『空気の流れ』が暗示していることは…、当然風向きを指している。
ラディッツは射命丸にその日の風向きを調べるように頼んだ。そして、彼女は事務所にあったコンピューターを使ってその向きをわり出した。
「当日、風は北から南に吹いてますね。」
なるほど、ならばそいつは雁坂峠方向にある山からだ。しかし、まずい。地図を家に置いてきてしまった。
「探し物はこれかい?」
その時、横からスッと地図が出された。
「これは…、お前、まさかここまで持ってきたのか?」
「一応。この文章の空気が読めるってのは二つ意味があって、一つ目が風向き、もう一つが雰囲気を感じ取れって思ってね。風なら、少なくともこの街の地図が必要じゃないかなって?」
やはり、こいつには思わないところで助けられてしまっている気がする。やはり、長い年月生きている彼女だからこそ見える世界があるらしい。
ラディッツはタバコをその場にあった灰皿に置くと外の空気を取り込みに隣にあるテラスへと向かった。
(小野塚小町視点)
「それじゃ、あとはあたいの番かな?」
手に地図を持つと雁坂峠のページを開け、検索を掛けた。キーワードはこの言葉だ。
――――最高のショーを見せてやろう。特等席で待っている。――――
[chapter:~Inference time(推理)7.5~]
最高のショーというのは…、サリンをばら撒くという話だったね。
当日の風向きは…、北から南。
「それじゃ、場所の特定といこうか。」
近くにある開けた場所は3つ
「おそらく、相手はあたいたちのことを調べたうえで挑戦状をたたきつけた。それに、もし飛ばすとしたら演説の邪魔にならず、目立たないように小型のものを使うだろう。他の人から変な目で見られずにそれが、出来るとしたらあの場所しかない。」
・雁淵スカイライダー(等高線の間隔が大きいことから、緩やかな斜面であるらしい。射命丸によると、街から一番離れている。)
・藤の宮テラス(一番の絶景ポイントとして名高い。休日になるとレジャーで訪れに来る人が多いのだとか。)
・黒田ダム(ダムの橋の上に道が通っている。人気が少ないが近くに高圧送電線が通っている。)
「ここだねッ!!」
あたいは、天狗の記者とテラスにいるラディッツにその場所をビシッと指で指した。
[newpage]
6月20日 土曜日 午前9時30分
ついに、街頭演説が始まった。与党の情けなさに失望した者たちが新しい光を求めるかのように演説者の前に詰め寄っている。その姿は、世紀末救世主を求めるあの漫画の絵とどこか構図が似てる気がする。
<藤の宮テラス>
今日は演説ということもあってか人がまばらな気がする。
「これなら、そう時間もかからないね。」
「そうだな――――」
俺がそう言いかけた時、その人物は見つかった。
「あれ、どうしたんですか。2人そろって。」
なるほど、どうやらあれ以降気づいてないらしい。盗聴マイクは机の下にあったままだが、あれ以上詳しいことは何も言ってない。
「ほらよ。」
俺は、手に持っていた熱々の缶コーヒーを投げ渡した。
「この暑いのに…缶コーヒーの熱いのときたか…。」
「冷気を操るお前にはこれで十分だ。」
その男は、嫌々片方のグローブを外すと一口だけつけてもう片方のグローブに持った。
「何を言いたいのですかな。」
「いいだろう。あの秘書2人を葬ったのはお前だと言いたいんだ、六日町信三。」
しばらくの間沈黙が続く。そして、彼はさっきと変わらぬ口調で返した。
「証拠は?」
「証拠はこの4つだ。」
ラディッツは小町に証拠を3つ示させた。
・部屋に残された挑戦状
・「信三」と書かれた濃い赤色の着色剤
・部屋に置いてあった白い西洋アジサイ
・プリザーブドフラワー初心者キッド
・携帯で撮った赤いアジサイの花びらと襲う瞬間を捉えた動画
「なるほど、それじゃ推理を聞かせてもらおうか。」
[chapter:~FINAL Inference (最後の証言)]
「まずお前は、コピーか何かして本人と入れ替わった。そして、同級生と呉三コーヒーで集まった後、雁坂峠に向かい殺す準備をして待っていた。そして、彼が崖下に転落した後、彼を氷漬けにしてそのまま叩き割ったということだ。」
「それで?」
「まあここからだ。それとさっきは悪かったな。これで口直しでもしとけ。」
ラディッツは、コンビニの袋からガリガリバーを取り出すと彼に投げ渡した。
「へぇ、イチゴ味のアイスキャンデーか…。」
「そう、その言葉が欲しかった。」
「…………?」
ラディッツは、動画カメラの再生ボタンを押して事件を再生させつつ説明した。
「引っかかったのはこの言葉だ。」
『「どうだ、アイスキャンデーみたいになっていく感じは?新鮮だろう。」』
「…………!!」
「そう、お前はアイスキャンディーではなく、アイスキャンデーと言っている。これが証拠1だ。」
一瞬、目を大きく開いたがすぐに平静に戻り反論した。
「アイスキャンデーなら、その辺の人でも言うだろう。そもそも何でおれにしぼられるんだ。」
ここで出すべき証拠は…、コーヒーの着いたワイシャツと千代子の証言と赤倉が俺に渡した『アイスキャンディー』という紙だ。
「なるほど…、だから俺に決めたってわけか。」
「不可能なものを除外して残ったものが真実ってやつだ。呉三さんは、赤いのが苦手。俺にイチゴサンドを出すとき他の人に頼んでいた。そして、赤倉さんは『アイスキャンディー』とメモを残した。それもその場でササっとな。そして、娘さんが運んだコーヒーがかかったのはあなたを含めた3人だ。もう、お前しかいないッ!」
その男の眉が少し吊り上がった。そして、まばたきの回数も増えた。
「へぇ~、中々いい推理だ。だが、憶測にすぎない。もっと直接的な物を見せてもらおうか。」
「これで崩れないか…、ならあたいが決めてやるか。」
小町は、その証拠になるものをめがけて指を思いっきり指した。
「そのコーヒー缶に着いた結露…。どう説明する気だい。」
「あっ…………!!」
この作戦は、小町が編み出したものだ。直接と間接の二方向から行くのが効果的だろうと提案したものだった。
「なるほど、結露は冬、つまり低温と高温の差が生まれた時に発生する。その缶コーヒーの表面の暖められた空気が彼の冷気によって一気に凍らされたということか。」
「そう、意外と生活の知識も道具になったりするもんさ。」
男は目で見えるほどに動揺している。だが、
「い…、いい考えだったな。俺の負けだな…。」
男は地面に手を突き、ひざまずいた。
「そうだ、俺は貴様を生け捕りにするほどやさしくはない。ここで死んでもらうぞ。」
幸いなことに近くに人はいない。ラディッツは、男に指を向けた。このまま脳天を貫いて終わらせる。
「ああ死ぬだろうね……。但し、お前たち二人がだッ!!」
「!?」
「危ないッ!!」
辺りは一気に凍った。しかし、
「とりあえず、一人だな…。」
不覚を取った。俺の足から下が凍らされて動けない。
「貴様…、一体何者だ…。」
すると、そいつは人間の顔をはがして名乗った。
「俺か…、俺はフリーザ軍の諜報部隊隊長のアイン・シュクリンだ。フリーザ様の命で外の世界でこうして人に化けて動き回っているのだ。」
なんか、変装していた方がましに気がする。だが、重要な言葉を聞いた。
「フリーザだと。」
「そうさ、この地球全てを支配下に置き新たな帝国を建設する。それが究極だ。」
「貴様が変装していた奴はどうした。」
「もう死んだ。俺の姿を運悪く見られたからな。だが、この世界でも殺しは行われているたかが一人死んだところで変わりはしないのさ。まあ、他にも入れ替わった奴は殺してきたが。」
「なら、サリンは…。」
「もちろん本物だ。あの新興宗教の連中のラボに侵入してこっそりと頂戴したのだ。俺たちの種族には毒は一切効かない。そして、このスイッチを押せばラジコンは勝手に飛ぶ。もう貴様らは終わりだ。」
ラディッツは腕時計を見た。まずい、あの国会議員が来るまであと5分しかない。しかも、住宅地がこの山のふもとまで迫っている。
「さて、まずは貴様からだ。」
どうする、このままでは身動きが取れない。
「ラディッツ、距離を縮めるからしゃがめ!!」
「!?」
飛び込んできた小町の振りかざした大鎌が相手の頭を狙った。しかし、その男は一気にしゃがんでそれをギリギリで避けた。
「ッ!!」
男は小町の脇腹に一撃を入れて退かせた。しかし、小町の狙いはそっちではない。
「!?」
「くらえッ!!」
ラディッツを男の下まで引き寄せるためだった。
「しまっ――――」
男の心臓にラディッツの渾身の一撃が入った。そして、手が凍る前に気弾で跡形も残さず消し飛ばした。
[newpage]
「とりあえず、終わったな。」
「まあ、人がいなかったのが幸いだったね。」
小町は、ちょっと横腹を抑えつつ立ち上がった。どうやら、喧嘩でやられるほどやわではないらしい。
「あっ、お前は。」
「どうも、いいネタ貰いましたよ。」
やれやれ、やっぱりこいつもいたか。まあ、丁度いい。あのことについて聞いてみるか。
「ネタをよこした代わりに、呉三のおっさんについて教えろ。」
「え!?なんでいきなりそんなことを…。」
俺は、彼女に千代子の証言と写真、そしてホタルのことを突き付けた。すると、彼女は、
「わかりました…。ラディッツさんが幻想郷を生きていくうえでおそらく必要になっていくことでしょう…。ただ、重い話になるので覚悟はしておいてくださいね。」
「その話、あたいもいいかい?」
「え、ええ、まあいいですけど。それより、大丈夫なんですか?もう今日の正午にラディッツさんの刑が執行されてしまうのでは?」
「「あっ………。」」
2人は手元の時計を見た。11時50分。あと10分しか時間がない。
「まあ、話は後日するんで頑張ってくださいね♡戻ってこれたらの話ですけど…。」
意味深な笑みを浮かべ風と共にその記者は去っていった。
「おい、小町。何とかして戻るぞ。」
「無理言わないでよ。距離と言っても直線しか行けないんだから。」
「ええい、ならばここに来た道の方は――――」
それから3日後、ラディッツの容疑は晴れた。そして、あのサリンも匿名の電話で警察が動き、回収した。だが、戦いは終わらない。フリーザがこの幻想郷にやってくる日は近いだろう。俺の心が晴れる日はいつになったらやってくるのだろうか…。雨が降り始めてきた中、俺と小町はその足を再び外の世界に向けた。そして、心は一段と石を積み重いものになって帰っていくのだった。