なに、魔剣を創る力だって!? 作:髪滅具《脱色剤》の担い手
「えっ」
「えっ」
思わず天使っぽい人と一緒に声を上げた。
なんで庇ったんだろう、とか、そういう理由で驚いた訳じゃない。男が女を命がけで守る理由って言えば、まぁ、うん。一つしかないよね。
でもそれはさておき、キミ誰? いつからいたの?
『最初からずっといたわ、マスター。誰なのかは、私にも分からないけれど。』
「────かはッ」
「あー・・・大丈夫?」
『主要臓器の殆どを錬金水銀で穿ったから、そう長くはないでしょうね。マスター、介錯してあげたら?』
盛大に吐血して倒れこんだ少年に気を取られている隙に、際どいカッコのおねいさんはどこかへ消えてしまった。
時折痙攣すらしている少年の側にしゃがみ、手近な棒でツンツンしてみる。
「・・・ん?」
流れ出る血液も、零れ落ちている臓腑も、人間のそれと全く同じ。
だが、微かに感じる気配だけが、僕が最も切り伏せてきたヒトのそれとは微妙に違っている。・・・微かに、魔力の反応があるのか。
「人間が持ってていい種類の魔力じゃないと思うんだけど、コレ。」
質も量も、お粗末なものだ。この少年の魔力がこの世界のデフォルトなら、Sランク魔剣2人で世界人口の鏖殺が可能だ。たまたま今日の秘書魔剣だったから使ったが、アルギュロスはオーバーキル過ぎた。
とまぁそれはさておき、この少年が持っている魔力・・・これは人間というより魔物に近い。整然とした、知性によって制御された魔力とは程遠い、粗いオド。
「魔剣使いには向いてないな。・・・『魔剣創造』の手掛かりにはならなそうだな。放置でいっか。」
『死ぬわよ? ・・・あなたが構わないのなら、それでいいのだけれど。』
別にいいでしょ。知らんけど。
そんな感じで公園を出ようとした時だった。
『・・・?』
二条の光が空を裂いて落ちてくる。・・・さっきから何度となく見た、光の槍だった。
それぞれ僕と瀕死くん(仮)の頭を狙って飛翔するそれは、その両方が白銀の大楯で弾かれて消える。
「なんなのさ、面倒くさい。」
指を弾いて合図を出す。
・・・ちなみに脳内会話ができるので意味はない、どころか「今から何かしら起こりますよ」と主張しているようなものなので、こちらに不利ですらある。
でも、これをやると魔剣たちのテンションが上がる。何故かは知らんけど。
『・・・秘密よ。あの子も、みんなも同じ。』
さいで。
・・・で、落とした?
『えぇ。・・・どうも、ソレはあの羽虫と敵対しているみたいね?』
「そうらしいね。・・・天使ほど強靭じゃなくてよかった。」
半身を錬金水銀で吹き飛ばされた男性の体が、10メートルほど上空から落ちて湿った音を立てた。
天使であれば、錬金水銀どころかアルギュロス本来の力────厄竜の力を込めた水銀で織った疑似魔剣でも中々落とせない。魔剣で直接攻撃する分には一撃なのだが、間接攻撃だと効きづらいのだ。天使擬きさんが天使ほど強くないのが分かったので、今後は積極的に喧嘩を売って情報収集に勤しみましょう。天使が居るなら神も然り。そして全知だったり全能だったりする神様なら、きっと『魔剣創造』のことも知っているでしょう。さぁ、れっつカチコミ。
「ドーナシークを一撃で倒すとは、中々の使いt」
・・・? アルギュロス、なんか言った?
『・・・何も。』
「そう? では気を取り直して・・・」
神・・・或いはそれに類する存在の抹消は、簡単そうに見えて難しい。
単なる超越存在を殺すだけなら、文字通りただ殺すだけでいい。が、万が一『上位存在』を便宜上そう呼んでいるだけの”神”ではなく、信仰に依って存在する定義上の”神”だった場合は面倒だ。信仰のもとになる存在を────人間と天使を皆殺しにする必要があるからだ。
『神』であればなんだって殺すバールのようなものやロンギヌスを使えば一撃だが。それでも、奴らは創造神として信仰されていたり、不死不滅の存在として信仰されていたりして、時に非常に殺しにくくなる。
ので(順接)
「全員纏めて狂死しろ。」
天使も信仰者も神も。この世界の法則さえも。全部ぜんぶぜぇぇんぶ、狂わせて、消して、救済してあげよう。
「顕現せよ、ジャガーノート=ルナ。」
大きく手を広げて魔力を放出する。すると、少し離れたところに大きな魔法陣が現れた。
鮮血の色をしたそれは、僕の知る魔力とはまた違った性質のようで、バチバチとスパークしている。
『・・・一応言っておきますけど、私じゃないですからねー?』
「分かってるよ。というか何で出てこないの?」
僕のことが嫌いならそう言ってくれ。どこが嫌いなのか教えてくれたらそこを直すし、死ねと言うなら死なない限り死んでやる。
『・・・マスターさん、私の狂気を制御できるんですかー?』
「いや?」
制御できるならそれは狂気とは呼ばない。怒りとか悲哀とか、そのレベルだ。怒りは短い狂気らしい。古事記にもそう書いてる。知らんけど。
『だからですよー。・・・それと、絶対に死なないでくださいねー?』
分かってるよ。冗談だって。今の僕が霊獣化でもしようものなら、まぁ確実に世界の三つ四つは滅ぼせる怪物になるだろうからね。ロールお嬢様にブチ殺されるのも、リディにギャン泣きされるのも御免だ。特に前者。あの人絶対痛めつける殺し方するもん。腕から捥ぐとかそんなかわいいレベルで済まないもん・・・。
『あははー、死ねると思ってるんですかー? 救われてるなー。』
こっわ。何が一番怖いって確かに言われてみればそう簡単に死ねそうにないこと。その辺どう思うよ、イミテーション。
『そうねぇ・・・。ねぇ魔剣使い、あなたが一番恐れることってなにかしら?』
「君たちが居なくなること。」
即答した。
愛ゆえに・・・とは口が裂けても言えない。いやそれは嘘。冗談でならいくらでも言える。
『そう。なら、ロールお嬢様は
「・・・そっか。」
僕から魔剣を奪うというのなら、いくらロールお嬢様でも容赦は出来ない。・・・まぁ本気で殺しにかかっても多分負けるけど。3:7で負ける。ちな7が負けで3が相打ち。
『それから、冗談でも”愛していない”なんて言わないで頂戴。あなたがどう思おうと、私たちはそれを”愛”だと思っているのだから。』
「あいあい。なにらしくないコト言ってんの。」
僕のこれは愛なんて綺麗なモノじゃないよ。独占欲とか支配欲とか、そんな感じの、薄汚いドロドロしたやつだ。
『・・・』
なんスかその『仕方ない人ね』みたいな溜息。
・・・まぁいい。とにかく神殺しだ。戦争だ。そう気持ちを切り替えた瞬間だった。
「私のテリトリーで、随分と好き勝手してくれたようね?」
赤い、凄まじく攻撃的な魔力が僕に向けて殺到した。