なに、魔剣を創る力だって!? 作:髪滅具《脱色剤》の担い手
本来は無色透明で、正も負も、陰も陽も、あらゆる性質を持たない絶対中性的な上位元素。魔力を学術的に定義するとこうなるらしい。
故に、生まれつきにしろ訓練で獲得したにしろ、『性質を持った魔力』というのは珍しい。ありえないという訳ではないが。僕の魔力は燃焼と物質化に特化しているし、冥獣は破壊特化、あのクソ野郎は『歪める』なんていう趣味の悪い魔力だった。
そして、僕に向けて飛来し、水銀の盾に受け止められた魔力は────『破滅』の力を帯びていた。
雷のように空気中をジグザグに走った赤い魔力が、水銀の盾と共に消滅する。それだけで、その魔力が天使さん(仮)の槍とは比較にならないモノだと分かるだろう。・・・厄竜としての力も極化も開放していないアルギュロスではあるが、その防護を貫いたのは称賛に値する。
というか、魔力特性が一撃消滅だとすると・・・コレ食らったら終わりのオワタ式なのでは??
「えぇ・・・きっつ。ちょっと本気で行こうか。」
『賛成。じゃあ、魔力を貰うわね。』
素性能のアルギュロスでは防げない。ならどうするか。簡単な話、僕が魔力を供給して、力をブーストしてやればいい。
「
『わたしはあなたの武器。付き従い、貴方の道を切り開くモノ。』
解放した魔力と魔鍵の力が、不可視の圧力となって周囲を蹂躙する。魔力防護のかかっていない遊具や木々は薙ぎ倒され、立ち込めていた暗雲が薄い結界と共に吹き散らされる。夕暮れから夜に変わっていた空には、どっちつかずな半月が浮かんでいた。
「
『殲滅────開始。』
白銀色のモノリスが大きく輝き、三対の翼を広げた。空気中から流れ出した水銀が武器の形を取り、魔法陣から現れた『敵』に切っ先を向けた。
「悪魔ではない。天使とも堕天使とも違う。かといって、人間ではそれだけの力は持てないでしょう・・・貴方、何者なの?」
「魔剣────いや、魔鍵使い。666番目の災厄。具現化した終末────あるいは、愛に溺れた臆病者。」
『厨二乙www』
うるさいぞアイギス。めちゃめちゃイイ振りだったんだから乗らなきゃ損でしょ。せっかく大層な肩書貰ってるんだから。最初以外を認める気はないけど。・・・まぁブラフにしちゃイイ感じなんじゃないの。
「666番目の災厄? 偽名にしては随分と畏れ知らずね。まぁいいわ。ここが何処か、誰の領地か。それはお分かりかしら?」
「知らないよ。世界ごと斬らないように細心の注意を払ってたんだから、座標とか気にしてられないっつの。つかおねーさん誰?」
魔法陣から現れたのは、赤い髪と爆乳が特徴的なおねいさんだった。とても綺麗な人ではあったが────魔力の質が悪すぎる。とても人間とは思えなかった。あれでは魔剣の起動どころか、触れただけで拒否反応を起こした魔剣に消し飛ばされかねない。
・・・まぁ、あの攻撃的な魔力を流し込まれた魔剣が消滅しないかは賭けだが。最低Aランクはないと。
「そう。じゃあ冥途の土産に教えてあげる。私の名前────」
要らないよ。これから死に逝く奴の名前なんぞ。
そう言わんばかりに食い気味に、アルギュロスが水銀の武器を射出した。ちなみに僕の意思は介在していない。
「────へぇ?」
総28の具現化した死が、空から殺到する雷撃に撃墜されていく。電流というより高威力の物理攻撃のようなそれは、防御のついでのように僕も狙い、白銀の鎧で防がれた。
「・・・っと」
被弾1。・・・アルギュロス?
『あなたには当たっていないでしょう?』
おっと、そう来たか。では審議役のライブラさん、ジャッジを。
『ギルティです! マスター、さぁ、再抽選ですよ!』
平等に行きましょう、えぇ。 などと言いつつ、ライブラが『出撃する魔剣決定ルーレット』なるものを持ち出してくる姿を幻視する。やめとけやめとけ、ラストリゾートの独壇場だ。と思ったが、その気になればルナやらアダマスやらはいくらでもチートが出来る。・・・実力だし平等ってことにしとくか。じゃあルーレット、GO!! ・・・あ、ジエンドとかアブソリュートとかエアとか、その辺は省いといてね。
『・・・それは平等ではありません。』
うるさいやい。世界が滅んでもいいと仰る?
『えぇ。この世界が滅ぼうが、抑止力が動こうが、あなたには関係のないことでしょう?』
それはそう。・・・ただ、それだと『
『・・・はぁ。分かりました。けど、ちゃんとみんなに説明しておいてくださいね。』
あいあい。今度ね。・・・で、ルーレット結果は? チート使ったヤツは抜いて。ついでにラストリゾートも抜いて。
『えー・・・』
不満そうな声を聴きつつ、結果発表を待つ。
『裁定です。・・・一位、ラストリゾート以下上位20名全員、不正行為により失格とします!』
『・・・理由を聞こうか。』
『あなたとアマテラスさんに関しては当然です! 一回被弾したら交代のルールなんですから、それくらい待ちましょうよ! ルーレットやジャンケンの度に神意使ってまで望む結果を創らないでくれます!? ・・・ちょっと聞いてますか、イザナギさん!?』
『もー、うるさいよー、怒んないでよライブラー。』
『す、すみません・・・って、あなたも失格ですからね、原罪さん! なに勝手に顕現しようとしてるんですか!』
やべーのを省き忘れてたな。・・・で、結局誰が出てくるの?
『わたしだよー相棒!』
は? チェンジ。君も除外対象だよカオス。というか出てくるだけで世界に影響が出る子たちは基本全アウトです。
『それってどんな人のことですかー? イデアは大丈夫ですよねー?』
いや普通にダメですけど?
『というか、イデアさんは40位でしょう!? 裁定に従ってください!』
で、21位誰よ? ・・・カオスだっけ。じゃあ22位は?
『はーいっ。私だよ、マスター!』
ノートゥング、か。・・・ふむ? 出てきただけで世界が壊れたりしないし、チート疑惑もないな。よし。
「じゃあ、
掲げた右手に魔力が渦巻く。それは次第に凝固し、物理的実体を持っていく。
それは、剣だった。白銀の刃にピンク色の装飾が施された、煌びやかな剣だ。腹には輝く宝玉が二つ埋め込まれ、柄には絡みつく蛇のような意匠。・・・だが、その要素から想起される儀礼用の装飾品とは思わせない、溢れ出る殺意。傷口を広げ殺傷力を高めるためと思しき、鋭い棘のある刀身。刃を伸ばしただけのハンドガード。総じて、暴虐の化身という言葉が似合う、暴力装置であった。
魔剣ノートゥング。魔剣グラムのベースとも、それそのものとも言われる神造兵装。悪竜ファーヴニルを殺したとされる武器。
・・・ところで、同じく竜殺しの魔剣に『アスカロン』という武器がある。曰く、アスカロンは竜を殺すためにのみ存在する剣であり、その解体までもを一本でこなす。鱗を剥ぎ、肉を切り、筋を裂き、骨を砕き、臓物を引きずり出す。その全工程を、一本で、だ。
ノートゥングの能力はその真逆。多様性・汎用性は限りなくゼロ。それはただ敵をなるべく残虐に殺すために存在する。
その在り方の、なんと忠実なことか。
「あぁ、とても綺麗だ。だから君が好きだよ、ノートゥング。」
月光を反射させ、白銀の刃が煌めく。
「お待たせ、お姉さんたち。」