厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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本日、2019年4月7日はファーストガンダムの初放送からちょうど四十年となる日です。
誠におめでたく、とても凄いコトであります。
四十年もの間、作り続けられているシリーズは滅多に無いと思います。
これからの展開も楽しみだぜ…!


タイトルは「天の雷(ドンナースターク)作戦」と呼んで下さい。
何故タイトルの所にルビを振らないのかって?
行の収まりが悪くなって、私が気になるからです。

それと、この世界の飛行機(モビルプレーン)の主武装はビーム兵器です。
本編で書きたかったんですが、その隙が無かったので此処に書いておきます。


#04 天の雷作戦

 地球最大の海「太平洋」の、どの国の領海でもない海域――「公海」。

 そのただ中には、一つの建物が浮かんでいる。

 

 「カイエル家」が所有する海上移動式研究施設「ヴィーンゴールヴ」。

 

 北欧神話に登場する女神の神殿の名を冠する施設に、ちょうど今、月面都市「ヴェルンヘル」から一人の科学者が帰還した。

 専用のシャトルが滑走路に着陸し、開いた密閉扉から男が現れ、白衣を海風に靡かせる。

 

「お疲れ様です、マヴァットさん」

「うーむ、今帰ったーぞ――だが、悠ー長に立ちー話をしーている情ー勢ではなくーなった。

 リシャール、研究ー所の移ー動を停止ーさせたーまえ。これーから先、しばらーくはどこーかの都市ーに近ー付くべきーではない」

 

 本拠地に帰還するコトが出来たマヴァット・リンレスは、出迎えに出た技術部顧問のリシャール・ワグネに対し、そう指示をした。

 これを受けて、リシャールは頷く。

 

「火星独立軍が一気に勝負を決めるつもりなら、間違い無く主要都市を狙う――と言うコトですね?」

「その通ーり。私はニューヤーク狙いーと見ーている」

 

 リシャールは一礼し、研究所の操舵室へ向かって行った。残されたマヴァットの下に、二人の子供がやって来る。

 九歳の男の子と女の子――ディヤウス・カイエルの子アグニカ・カイエルと、マヴァット・リンレスの子スヴァハ・リンレスである。

 

「マッドサイエンティスト、父さんは?」

「誰ーがマッドサイーエンティストだこのー野郎。――ディヤーウスはまだ、月ー面都市に残ーっている。やるーコトが有るーらしいからーな」

 

 蒼い瞳を向けてくる親友の息子に自分の認識を改めるよう言っていると、自身の愛娘が黄金に輝く瞳をマヴァットに向けて来た。

 

「お父さん。みんなが慌てていたんだけど――どうしたの?」

 

 その美しく可愛らしい瞳が汚されるコトが無いように、と願いつつ、マヴァットは左手をその小さな頭に乗せて言う。

 

「大ー丈夫だ。スヴァハが心ー配するーコトなんーて何ーも無い」

 

 そう、何もない。この子達が巻き込まれるようなコトなど、有ってたまるモノか。

 マヴァットは青空を見上げて、そこに在る月を視界に収め。

 

(ディヤウス。無事ーでいてーくれよ)

 

 火星独立軍に制圧されたらしい月面都市「ヴェルンヘル」に残った、ディヤウス・カイエルの身の安全を願うのであった。

 

 

   ◇

 

 

 「火星独立軍がドルトコロニー群を、地球に向けて発進させた」――この知らせが届いた時、各国首脳達は身が総毛立つような絶望感に襲われた。

 セレドニオ・ピリーの宣戦布告から、まだ二日も経っていない。地球側が火星独立軍への対策を打ち出すよりも早く、火星独立軍は月面都市「ヴェルンヘル」とドルトコロニー群を制圧し、必勝作戦を実行に移したのである。

 

 アメリア合衆国の首都「ニューヤーク」はマンハッタン島に在る、十国会議の会議場に集っている首脳達は、真剣な表情で議論を交わしていた。

 十国会議開催時期の最中に火星独立軍が戦線布告をしたのは、十国による合同対処が容易く行える状況下でなお自分達の作戦を成功させるコトで、各国政府への国民からの信頼を一気に失わせる為だ。そんなコトになれば、首脳陣は国内での政府への信頼回復と国外政策、更に火星独立軍への対処と「エイハブ・リアクター製造計画」を同時に行わねばならなくなる。

 すると一つ一つへの注目度は下がり、火星独立軍によりのびのびとした行動を許してしまう可能性が有るし――何より、政治家として死ぬコトになる。

 

「『コロニー落とし』――ふざけやがって…ッ!」

「だが現実に行われている。対応をすぐに決定して軍を派遣しなければ、火星独立軍に『阻止限界点』を越えられる」

 

 コロニーが地球の重力に引っ張られ始め、地球に落下するコトが確定する絶対地点――それが「阻止限界点」である。

 ここを超えられては、軌道を修正するコトは不可能。コロニーを破壊するコトでしか、コロニー落としを阻むコトが出来なくなる。地球に向かっているコロニーには、住民達が暮らしているままだ。破壊すれば、彼らを皆殺しにするコトになる。

 理想は、それまでに火星独立軍を打ち破るコトだが―――

 

「なりふり構っていられる状況ではなかろう。私はこの場で、水素爆弾の戦線投入を視野に入れた『コロニー落下阻止作戦』の実施を提案する」

『―――!』

 

 イングランド統合連合国首相、チャーリー・デイビスのその提案は、常ならば一蹴されるモノだが――コロニーが地球に迫っているこの状況下では、非常に合理的かつ確実性の高い手段であると評価せざるを得ない。

 人類の持つ核爆弾(水素爆弾)は、全て合わせれば数万発にもなる。確かに核兵器の火力が有れば、コロニー群の完全破壊も夢物語ではない。

 

「地球に向かって来ているコロニーは七基。予測落下地点は此処『ニューヤーク』と『デトロイト』、『ロンドン』『マドリード』『パリ』『リスボン』『ダカール』の七都市。

 全てが落下すれば、実に数十億もの人名が失われる上、地球経済、環境への打撃は計り知れん。加えて、ドルトコロニーは核パルスエンジンを積んでいる――落下を許せば、核による汚染もセットで付くぞ」

 

 特にニューヤークは、現在十国会議が行われているだけでなく、「アメリア合衆国」の首都だ。同様に今、ロンドンは「イングランド統合連合国」の、ダカールは「サハラ連邦共和国」の首都となっている。十国中三国の首都が同時に壊滅するコトになれば、その影響は最早想定すら出来ない。

 「永久不可侵条約」で核エネルギーは禁じられたが、ドルトコロニー群は条約締結前に建造されているので、それを形成するスペースコロニーには「核パルスエンジン」が搭載されている。

 それを分かった上で、火星独立軍はドルトコロニー群を占領し――地球艦隊をすぐに戦線へ送るコトが出来る「マスドライバー」が存在する月面都市「ヴェルンヘル」を制圧したのだ。

 

「ひとまず、迎撃艦隊を衛星軌道上に展開させる必要が有る。地球からも艦隊を宇宙(そら)に上げ、万が一の為の水素爆弾を移動させなければならん」

「それならば、『ジブラルタル』のマスドライバーを無条件解放しよう。(ワン)国家主席、『香港(ホンコン)』のマスドライバーはどうですかな?」

「ジブラルタル同様、解放する。四の五の言っていられるような状況ではないからな」

 

 コロニーの落下まで、後七十二時間と少し。その間に迎撃戦力を軌道上に展開し、コロニーを逸らすか破壊せねばならない。当然、その間には火星独立軍艦隊の妨害も入るだろう。火星には原子力発電が残っているので、もしかすると核を持っている可能性も有る。

 簡単な作戦ではないが――やらなければ、十数億もの人名が失われるのだ。

 

「コロニーについて、公表は?」

「しない――と言いたい所だが、ごまかし切れるわけは無かろうよ。ただ、万が一落下したとしても都市シェルターにいれば問題無い、と報道すべきだ」

 

 地球の大都市は、ほぼ例外無く核攻撃にも耐えられるシェルターとして造られている。その安全性は一般市民達に大きな信頼を得ているので、コロニーが墜ちても問題無いと言う報道に疑問を抱く者は少ないだろう。

 なお、実際にはコロニーの落下に耐えられないが――数十億の人間がパニックになれば、都市の統治システムは崩壊する。避難させるにしても、七都市に住む数十億の人間を全て移動させるのに、どれだけの時間を要するコトか。

 そうなれば、迎撃作戦の実行にも影響が出てしまう為、これくらいは必要不可欠な情報統制と言えるだろう。

 

「ここからが勝負だ。火星独立軍の出鼻を(くじ)くコトが出来れば、戦局はこちらに傾く。奴らの作戦の成功を許せば、大勢(たいせい)が決着する。

 一か八かの賭けになる――艦隊指揮を行う者達の健闘を、期待するとしよう」

「それと、一つ私に提案が有るのだがね」

 

 話が纏まった時、挙手を以て発言を始めたのは、「アフリカン共和国」のベンディル・マンディラ大統領――他国の表向きだけのモノではなく、本当の意味で全ての国と友好的な関係を築き上げている、ここに集った十人の中でも一目置かれる人物だ。

 

「万が一迎撃艦隊がしくじった場合、どうするかを決めよう。

 ―――どうせ、キミ達は持っているだろう? 戦局を一撃でひっくり返し得るデタラメ兵器を。一国につき少なくとも一つは、な?」

 

 

   ◇

 

 

 コロニーの大気圏突入まで、残り六時間。

 地球衛星軌道上の「コロニー落下阻止限界点」では、十国の連合艦隊が横陣を敷いていた。そこに迫るコロニー群には、火星独立軍の第三艦隊が張り付いている。

 

 地球軍の連合宇宙艦隊、火星独立軍の第三艦隊を構成するのは主に「ジェラルドフォード級宇宙戦艦」「エンタープライズ級宇宙戦艦」の、二種の宇宙戦艦である。

 「ジェラルドフォード級宇宙戦艦」は最新鋭の宇宙戦艦であり、百機近いモビルプレーン、モビルワーカーを搭載出来る他、艦隊の旗艦に用いられる。

 「エンタープライズ級宇宙戦艦」は宇宙艦隊の主力を担う艦種で、性能はジェラルドフォード級に劣るものの、コストが抑えられている為に量産に向いている。

 なお、両方とも完全な無人運用を可能としている――が、今回の戦場では型に捕らわれない柔軟な状況対処が必要とされる為、地球軍は旗艦となるジェラルドフォード級宇宙戦艦「ピーター」にオペレーターと司令官の五人。火星独立軍はいざとなれば人間の手のみで運用出来るよう、各艦に二十人ずつが乗っている。こういった状況での的確な対処には、まだまだ技術発展の余地が有ると言える。

 

 火星独立軍の第三艦隊はジェラルドフォード級が一隻、エンタープライズ級十九隻の二十隻。

 対する地球軍連合艦隊はジェラルドフォード級二十隻、エンタープライズ級百隻の百二十隻。

 両者には実に、六倍近い戦力差が有る。

 

 地球軍は月面都市「ヴェルンヘル」を占領した火星独立軍第二艦隊、絶賛地球へ侵攻中の火星独立軍第一艦隊の警戒もしなければならない為、この戦場に揃えられたのは百二十隻に止まった。

 

「キャロル・メイヒュー総司令。艦のレーダーが、コロニー群の陰に潜む火星独立軍の艦隊を捕捉しました」

 

 地球軍連合艦隊を率いるのは、「アメリア合衆国」宇宙軍所属の中将であるキャロル・メイヒュー司令官だ。冷静沈着さと的確な状況判断力を買われて、彼は此処に立っている。また、主力艦が五発ずつ搭載する核ミサイルの発射権、その全てを担う。

 

 オペレーターから報告を受けたキャロルは、更なる情報を得るべく問い返す。

 

「射程圏内までどれくらいだ?」

「後三分、と言う所でしょう」

「分かった――MPを全機発進させろ。その後の陣は常通り、AIに任せる」

 

 勝敗が物量で決められる無人戦争の特性上、地球軍の勝利は揺るぎない。火星独立軍第三艦隊を殲滅するのは容易い――が、問題はその後にコロニーを止められるかだ。

 何せ、数億トンにもなる人類史上最大級の超巨大建造物だ。それを七つ、無傷で止めねばならないのだから、火星独立軍の排除に時間を掛けるコトは出来ない。

 用意された核爆弾で地球への影響が無いほどに破壊出来るのは、五つまで(対外的にこれが限界だった)。最低でも二つはコロニーに装備されたエンジンを使って、軌道を逸らさねばならない。

 それ以前に、上層部からは出来る限り無傷でコロニーを止めろとの命令が下っている。核の使用が条約で禁止されているコトも有り、極力使うなとも。

 コロニーの中に、何万もの人間がいるコトも忘れてはならない。

 

「全く、無茶を言ってくれる。あんな命令が無ければ、即刻核を撃ち込んで敵艦隊を壊滅させられるモノを…」

「司令、コロニー内には十数万の人が今なお閉じ込められています。それは――」

「…冗談ではないぞ。地球の七都市に住む数十億の人命と、ドルトコロニーに住む十数万の人命。どちらを取るかと言われれば、地球の数十億を取るしか有るまい?」

 

 一方で火星独立軍第三艦隊は二手に分かれ、第六コロニーを挟み込む形でそれぞれ一列に展開していた。戦場のセオリーから外れた、不自然な陣形だ。

 

「敵艦隊より、MPの出撃を確認!」

「やはり、そう来るだろうな」

 

 火星独立軍第三艦隊を率いるエメリコ・ポスルスウェイト中将は、部下の報告を聞いて敵が予測通りの行動を取ったコトを確認し――ほくそ笑む。

 

 阻止限界点まで残り四時間半、コロニーの大気圏突入まで六時間。

 

 確かに火星独立軍の第三艦隊を破り、コロニーの進路を変更するには充分な時間だ。だが―――

 

「予定通りだ。全艦による三百秒間の艦砲射撃の後、MP部隊を順次出撃させる! 全門解放、撃ち方始め!」

 

 そんな行動を予測しないほど、火星独立軍は迂闊ではない。シミュレーション通りに動いてくれた地球軍に、エメリコは感謝すら覚えていた。

 

 全艦が一斉射撃を開始する。

 狙ったのはMP部隊の内、第六コロニーを挟み込むように機動するモノ。小回りが利くとは言え、二十隻の戦艦からの面制圧とすら言える集中砲火にはひとたまりも無い。

 次々とMPが直撃を受けて爆発する一方で、狙われなかったMP達は第六コロニーの直上を滑るように、火星軍艦隊に突き進んで来る。

 

「MP部隊出撃、応戦! 対空砲火もやらせろ!」

 

 火星軍艦隊からMPが飛び立ち、向かってくる地球軍のMP部隊との混戦を開始する――が、如何せん数が違い過ぎる。双方の消耗は変わらないハズなのに、火星軍が押し込まれる。

 そもそもの分母が、火星軍三桁に対し地球軍は四桁。物量で勝敗が決まるAIによる戦争で、これほど絶望的な差は無い。

 

 戦闘開始から二時間を越えた頃、地球軍に動きが有った。

 

「地球軍の艦隊が、第一、第二コロニーに接触しました! システム権限が奪取されています!」

「ほう、存外早かったな。と言うコトはやはり、艦隊を分散させたか」

 

 火星軍二十隻に対し、地球軍百二十隻。これほどの物量差なら、地球軍は戦力を分散させても何の問題も無い。

 しかし――この場に於いて、それは判断ミスだ。それによる対応の遅れが、火星軍に取っての好機となる。

 

「第五コロニーの移動を開始しろ!」

 

 エメリコの指示が下ると、第五コロニーは一側面の方向転換用ノズルを吹かして、横側への移動を開始し――それぞれのMP部隊が交戦する第六コロニー、第五コロニー間の空間を狭め始めた。

 コロニーとコロニーの壁で挟み込み、MPを一網打尽とする作戦だ。

 

「第五コロニー、移動開始! 第六コロニーに接近しています!」

「何? 此処でコロニーを移動させるだと―――、まさか外壁と外壁をサンドイッチみたく打ち合わせて、MP部隊を全滅させるつもりか!?」

 

 地球軍のMPは機動方向を変え、コロニーの間から脱しようとする――が、火星軍のMPはその場に留まって横側から地球軍のMPを狙うし、それをかいくぐったとしても艦砲射撃に落とされる。第六コロニーを挟み込むように縦一列で艦隊を配置したのは、MPをコロニーで押し潰して全滅させる為。

 地球軍を率いるキャロルは思う――まずい、と。

 

(ここでMP部隊が壊滅するのは、非常にまずい。艦隊戦をするコトになる。負けるコトは無くとも、間違い無く一隻二隻は被害を受け――核で破壊出来るコロニーの数が減る…!)

 

 かと言って、MP部隊の救出は絶望的。数にかまけて一気に押し潰そうと、全機を放出させた数十分前の自分の指揮を、キャロルは恨んだ。

 MP部隊の救出は放棄する。だが、このまま指を咥えて見ているわけにも行かない。

 こう判断した上で、キャロルは叫ぶ。

 

「第五、第六コロニーに核を放て! 十発ずつだ! 敵艦隊もろとも、コロニーを破壊しろ!!」

 

 艦隊戦に持ち込まれれば、それなりに敵艦隊の殲滅にも時間が掛かる。そうなれば――コロニーに阻止限界点の突破を許す可能性が有る…!

 

「敵艦隊、核を撃ちました! 第五、第六コロニーが目標です! 着弾まで百三十秒!」

「ほう、なかなか対応が早い。全艦、出来る限り核ミサイルを撃ち落としながら、第六コロニーを離脱しろ。同時に、特攻部隊を出せ」

 

 火星軍の艦隊が砲撃をしつつも、第六コロニーから離れて行く。

 艦砲射撃で幾らかは撃ち落とせるが、それでも核ミサイル十発と共に放たれたミサイルの数は百発以上――迎撃はしきれない。被害を受ける艦も少なくはないだろうが、それまでに出せるだけの特攻部隊を出させておく。

 

「着弾します! 衝撃注意!!」

 

 艦砲射撃をすり抜けた核ミサイルが、二つのコロニーに命中して行く。核爆発が連続して起き、コロニーを焼いて行く。

 狭間のMP部隊を巻き込みながら、第五コロニーと第六コロニーが分解を起こして核の炎の中へと消える。

 

「第五コロニー、第六コロニーの崩壊を確認」

 

 細かく分解されてはいないが、コロニーの阻止限界点到達まで二時間半を残した状況だ。ここまで細かくなれば、地球への影響は無い。

 だが、進路を変更させれば落下を阻止出来る場所で、二つのコロニーを破壊出来る分の核ミサイルを撃ちきったのは痛い。第一コロニー、第二コロニーに張り付いた艦隊が進路を変更させられたなら、元も取れるのだが。

 

「敵MP部隊が、第一、第二コロニーに直行しています!」

「何…!? 分断した艦隊を狙うのか…!」

 

 地球軍が、非常にまずい状況に置かれているのは変わり無い。ここでもキャロルは、冷や汗を流すコトとなった。

 

 第一コロニー、第二コロニーの進路変更を担当している艦隊は、まだ核ミサイルを一発も放っていない。進路変更が確実になり次第、戦線に復帰する予定だったからだ。

 この艦隊を減らされると、破壊出来るコロニーの数が減る。

 

「MW隊を出撃させ、迎撃に当たらせろ! また、第三、第七コロニーに核を八発ずつ斉射! 外壁を削れ!!」

 

 第四コロニーには残存した敵艦隊が集結している為、キャロルは核の発射を見送った。

 艦隊の一部が核を放ち、あるいは第一、第二コロニーの進路変更作業を行っている艦隊の援護に出る。

 

「特攻部隊と敵の迎撃部隊が交戦開始! 第三、第七コロニーにも核が撃たれました!」

「構うな、コロニーは進めるだけ進ませろ。特攻部隊は被害を気にするな、一隻に一機当たれば落とせる」

 

 エメリコが言った側から、特攻部隊の内の一機が敵艦の側面に衝突し―――()()()()()()()()()()()()()()()

 一隻だけではない。次から次へと、特攻部隊が突撃するごとに核が爆発し、戦艦を落としていく。

 

「―――特攻部隊に、核を搭載するとは…!」

「第二コロニーの進路が変わります! 艦隊が最後にやってくれました! 第一コロニーは、核爆発で進路が歪みました! 核を二発も撃てば、地球への落下コースを外れます!」

「第三、第七コロニーには八十八パーセントの核が命中!」

「良し!!」

 

 キャロルがガッツポーズする中、エメリコは歯を食いしばる。

 阻止限界点まで、後一時間半――にも関わらず、七つの内三つが落下コースから外れ、残った四つの内三つは損傷させられた。

 と、この時――火星独立軍第三艦隊に、月面都市ヴェルンヘルの制圧をしていた火星独立軍第二艦隊から、通信が入った。

 

『随分苦戦していますね。生きていらっしゃるか心配していましたが、まだお元気そうですな』

「ああ。最悪に近い状況なのは否定出来ないが」

 

 第二艦隊司令官、デイミアン・リスター少将からの通信。その憎たらしい薄笑いを見返して、エメリコは状況の感想を正直に述べた。

 

『地球軍はどうやら、百発近くもの核を持ち出しているようですからね。主要艦が一隻につき五発、核を保有しているのでしょう。

 その内、放たれたのは四十発弱。撃沈させた艦の分を計算に入れても、恐らくは後六十発ほど、彼らは核を残しています。残りのコロニーを破壊するには、充分な数かと』

 

 チッ、とエメリコは舌打ちした。最大限足掻いてはみているが、結局地球軍の計算通りだ。

 

『そう悲観するモノでも有りませんよ、エメリコさん。地球軍に核使用を禁止する改元条約を自分から破らせ、十数万にも及ぶ地球種を見捨てさせただけでも、一泡吹かせたと言えます』

「だが、『天の雷(ドンナースターク)』作戦の目的は、コロニーを落とすコトだ。それが達成出来なければ意味は無い」

『本命の第四コロニーはほぼ無傷ですし、何より私が間に合うコトが出来ました。充分ですよ』

 

 目を細めて、エメリコは正面モニターに映るデイミアンを見据え、核心を問うた。

 

()()()()()()()()()()()?」

『勿論です。だからこそ、私は貴方に通信しているのです。予定通り、艦を手動操縦に切り替えて下さい』

 

 エメリコはブリッジの一席に座る操舵手に目配せし、デイミアンの通信が途切れるのを待つ。デイミアンは最後に、こう言い残した。

 

 

『でないと――()()()()()()()




第四話「天の雷(ドンナースターク)作戦」をご覧頂き、ありがとうございました。

コロニー落としも、いよいよ大詰めです。
今回の戦闘、非常に分かり辛い気がします(ダメじゃねぇか)
MSもMAも出て来ないので戦闘は素早く簡潔にやってますが、実際の時間は結構経ってます。
すんません、本当に分かり辛くてすんません…。
一応、戦略図を付けときます。

【挿絵表示】


それと、一つ補足を。
「無人兵器が普及してるのに何故、人間が指揮官として前線へ出ているのか?」と思われた方もいると推測しますが、これは別に「機械では予測外の事態への対応能力が不足しているから」と言うだけでは有りません。
落ちているコロニーには多くの人が残っており、地球を守る為とは言え、それを核と言う破壊兵器によって虐殺するのは問題になります(人を殺すコトが目的でなくとも)
現場指揮官がいると、その責任を被せられるから――と言うのがもっぱらの所です。


《オリジナル設定》
ヴィーンゴールヴ
・原作ではギャラルホルン地球本部として登場。
・元々カイエル家の移動研究所だった、と言うのはオリジナル設定です。

核爆弾(水素爆弾)
・原作には未登場。
・本作の核爆弾=水素爆弾。現実に存在した(する?)ツァーリ・ボンバ以上の威力を持ちます。
・条約での禁止もオリジナル設定。

マスドライバー
・原作には未登場。

都市シェルター
・存在自体がオリジナル設定。
・核攻撃にも耐えられるように作られており、大都市に隔壁が覆い被さるような形が主ですが、都市自体を地下に埋めていたりする所も(場所次第)

エンタープライズ級宇宙戦艦
・オリジナル戦艦。
・ジェラルドフォード級ほどの性能ではないが、生産性が高く、宇宙艦隊の主力を担う。


《新規キャラクター》
リシャール・ワグネ
・ディヤウス、マヴァットの下で働く技術者。
・後に「ヴァルキュリア・フレーム」を設計する。

アグニカ・カイエル
・本作の主人公。
・ディヤウス・カイエルの子。まだショタ。

スヴァハ・リンレス
・本作のヒロイン。
・マヴァット・リンレスの子。まだロリ。

キャロル・メイヒュー
・アメリア合衆国中将で、連合軍総司令官。
・無人化で無能軍人が増える中、現場での指揮能力を持つ割と優秀な人。




次回「墜ちし空」
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