厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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今回から最終章、物語の完結も目前です。
どうか最後までよろしくお願いします。

章タイトルの訳は「安定の帰還」、サブタイの訳は「終わらない戦争」となります。


終章 未来 -The Return of Stability-
#94 War that Never Ends


 モビルアーマーとの戦いが終わった。

 十年にも及ぶ、人類の存亡をかけた殺人機械との戦争は、英雄アグニカ・カイエルによって「四大天使」ガブリエルが討ち果たされ、月面の製造プラントが自爆したコトで、終わりを迎えたのである。

 

 時にM.U.0052年、一月一日。

 人類は、天使に脅かされぬ未来を手に入れた。

 

 

 だが――MAがいなくなっても、戦争は終わらなかった。

 

 

 敵は消えた。しかし、人類は新たな敵を見出す。

 今度の敵は機械ではない――同じ、人類だ。

 自分の為に他人を虐げ、奪い取る。世界の混乱は、天使を滅ぼしてもなお、続いていく。

 

『この戦いを、最後の戦いにする。人類が、最後に血を流す場所は此処だ。此処を本当に、人類最後の戦場にする――いや、しなければならない!』

 

 アグニカ・カイエルが、決戦の際に告げた言葉。

 大切な人の、仲間の死に報いる為に。その死を無意味なモノにしない為に。誰も血を流さずに済む、人類の未来の為に戦った英雄の意志を無碍として。

 

 人類は、人類を殺すのだ―――

 

 

 

   ◇

 

 

 アメリア合衆国。

 北アメリア大陸全土を統治下に置く大国は、十年以上にもなる戦争で傾いた経済の立て直しを図り、速やかに動き出した。

 

『世界をリードする、誰よりも強いアメリアを取り戻す為に!』

 

 アメリア大統領ローガン・フローレスはこのように宣言し、その為の具体的な方策として、主要都市の多くと工業地帯を有するアメリア中南部の再建を掲げた。MAがいなくなった今、広い土地をフルに活用し、産業規模を急速に拡大させるコトを目標とする。その為に国家レベルの支援は惜しまないと。

 これに対し、北部からは反発の声が挙がった。特にエドモントン以北、改元前には別の国であったものの、隣国アメリアに強制併合された地域からだ。

 

「結局本土優先かよ、ナメやがって……!」

「共和党支持者が多いからだろ、選挙対策だよ」

「月への遠征軍が大打撃を受けた責任を取れ」

「共和党の失策のツケだろ、何で俺らが払わされるんだ!?」

 

 などと言った意見が多数出され、北部を支持基盤とする野党民主党からは反対意見が合衆国議会の下院、上院ともに提出された。

 しかし、与党共和党は強行。両院での予算審議を経て、復興予算の大半が中南部中心の産業に回されるコトが決定し、大統領命令の下で実行されるコトになった。

 北部でデモ行進が行われる中、それらを軍隊と警察によって鎮圧しながらの決定。北部の人々の怒りは頂点に達し――平和的だったデモが一転し、暴動へと変化するのに、そう時間はかからなかった。

 

 中南部の主要都市サンフランシスコで、北部の過激派勢力によるテロが発生した。

 

 ほぼ同時期に、首都ニューヤークの大統領官邸(ホワイトハウス)と合衆国議会の門前へデモ隊が詰めかけ、暴動に発展。中南部では北部派のテロに反対する南部派によるデモ行進が行われ、これも火に油を注ぐ事態になった。

 政府は警察と軍隊による鎮圧を行ったが、混乱に乗じて中南アメリアでは民族運動が活発化し、それに絡んだテロも発生。十年もの戦いで疲弊したアメリア軍は全土で発生した暴動を抑えきれず、また軍内にも同じように、北部派と南部派に分かれた意見の対立が発生していた。

 

 このアメリアの分断に目をつけたのが、隣国ユーラシア連邦とラテンアメリア連邦共和国だった。

 

 ユーラシア連邦はまず、南部派の過激勢力を煽動し、北部でのテロを発生させた。これにより北部派は南部派への反発を更に強め、報復を叫んで暴動とテロが活発化した。対して南部派も運動を強め、南北の対立は決定的なモノとなっていった。改元前の南部主導による強引な併合、領土拡大と半世紀に渡る冷遇に対する不満が一気に爆発したコトも原因であり、南北対立の根は相当深いと言える。

 次いでユーラシアは北部派に接触し、過激集団への支援を約束した。北部派が南部派と分かれ、新たな政府を立ち上げるのなら、ユーラシアはこれを国家として認可し、支援すると。

 これにより、北部派の中で独立の機運が高まり、遂に北部派は南部との決別を宣言した。

 

『南部の侵略者たちに媚び(へつら)う時代は、もうウンザリだ! 新たなる同志たちと結託し、我々は我々で、我々の行く道を決定していこう! 我々には、そうするだけの権利が有る!』

 

 エドモントンを首都とした、新しい政府の建設。

 「アメリア連合国」の独立宣言は、世界に衝撃をもたらした。

 

 この時、野党民主党の大半が北側に付き、アメリア軍内でも支持を公言した高官は少なくなかった。合衆国議会とアメリア軍も二分され、事実上空中分解した形だ。無論、その機能を十全に果たせる状況ではない。

 当然、南部寄りの与党共和党が主導する合衆国政府は独立を認めなかったが、前言通りユーラシアは認可する姿勢を取り、正式な国交をアメリア連合国と開始した。

 

『貴国の情勢は、僅かながら把握しております。北部派の背後にユーラシアがいるとなれば、此度の事態は明確な改元条約違反。これ以上良いようにさせては、貴国は愚か、条約に同意した他の国(われわれ)面子(メンツ)までもが丸潰れです。

 ―――よろしければ、お力をお貸し出来ますが』

 

 ここで関わって来るのが、ラテンアメリア連邦共和国だ。

 ラテンアメリアは中南アメリアで独立を目指していた民族運動を、自国の軍を出して制圧し、合衆国政府に支援の話を持ちかけた。

 合衆国政府の支持率は北部は愚か、南部でも低下していた。北部派によるテロや暴動を抑えられなかったコト、あまつさえ手を(こまね)き、連合国の独立などという暴挙を赦してしまったコトが原因だ。中南アメリアの混乱を鎮圧してもらったコトからも、合衆国政府はラテンアメリアの話に乗るしかなかったのである。

 

「同じ人間に銃を向けるなど……これでは、私たちは今まで、何の為に戦って来たと言うのですか。

 マリベルは。大佐は、准将は――一体、何の為に犠牲となったのですか!」

「モンターク大佐。命令を拒否するつもりか?

 部隊を率い、反乱分子を制圧するコトが、貴官に与えられた任務だ。貴官も軍人ならば、今やるべきコトは何か――分かっているだろう」

「ッ―――!」

 

 合衆国はラテンアメリアの支援を得て、北アメリア大陸中央の新国境線に軍を展開し、連合国もこれに対抗した。しばらくは睨み合いが続いたものの、連合国側のモビルスーツの投入と発砲により、全面的な武力衝突にまで発展した。

 以上が、アメリアの分裂から「南北戦争」に及ぶまでの経緯である。

 

(―――私たちの戦いは、こんなコトの為に有ったと言うのか……!)

 

 合衆国軍の前線基地に立つ紅蓮の機体――ヴァルキュリア・フレーム「グリムゲルデ」のコクピットで、戦場を見下ろしながら、ファビアン・モンターク大佐は仮面の下の表情を歪めるのだった。

 

 

   ◇

 

 

 アメリア以上に混迷を極めた地域も有る。中央、西アジア地方では、聖地エルサレムをめぐる対立が再発した。

 この地域を統べていたアラビア王国は、複数の民族、宗教が入り乱れる国だった。その中でもエルサレムは、三つの宗教の聖地が存在し、二つの民族が住む「火薬庫」と呼ぶに相応しい混乱の源である。故に、十国体制成立以降は、住民を全て移民させ、国が管理と維持を行う特別地域とされていた。

 

 紛争再発の原因は、当の国の弱体化に有った。

 

 特に「四大天使」ガブリエル討伐作戦において、軍最高司令官にして王位継承権を持っていた第一王子、ラティーフ・ビン・ナーイフが戦死したコトによる王室内の混乱。当作戦での王国軍旗艦撃沈、部隊艦隊の壊滅と軍上層部の死亡が主要因となった。

 王国軍の指揮系統は崩壊したと言っても過言ではなく、とても大がかりな部隊展開が出来る状況ではなくなった。各民族はその隙を突き、各地で独立運動を開始したのである。国にはそれを抑えるコトが出来ず、ナーイフ王家の求心力は低下する一方だった。

 元より王家が強大な軍事力を持つコトで反乱分子を抑え込む形で、アラビア王国は一ヶ国としてまとまりを見せていた。戦前から他国に対して無人兵器軍団を展開していたのは、その力を国内に示す意味合いが大きかったのである。王家から軍事力が失われれば、アラビアの支配地域がどうなるかなど、言うまでもないだろう。

 

 そして、このアラビア国内の混乱を、周辺諸国が見逃す道理は一つも無い。

 

 サハラ連邦共和国とイングランド統合連合国、サンスクリット連邦共和国の三ヶ国は密約を結び、連携してアラビア王国への侵攻作戦を開始した。

 まずはサイバー攻撃を仕掛け、アラビア国内の銀行や証券取引所、株式市場などのサーバーを一斉ダウンに追い込んだ。更にはMS部隊(エイハブ・リアクター)の派遣とサイバー攻撃による通信網の無力化も行い、恐慌をアラビア国内にもたらしたコトで、アラビア各地は大混乱に陥り、王家への反抗運動も発生し、王家の御膝下であるバグダードすら、治安が維持されなくなった。

 この時点で三国は、生き残りのガンダム・フレームを中心とするMS部隊とモビルワーカー部隊を、アラビアへと差し向けた。イングランドはイスタンブールを始めとする旧トルコ地域を占領。サハラはスエズ運河と件の聖地エルサレムを、サンスクリットはアブダビやドバイなど主要都市を制圧した。同時にアラビア国内の独立勢力に支援を行い、各地の戦闘を激化させたコトにより、王国は最早国としての体裁を成せなくなった。

 極めつけに、一つの事件が起きた。

 

 三ヶ国の支援を受けた極左勢力による王宮への襲撃事件と、それに伴う国王ムスタファ・ビン・ナーイフの暗殺。

 

 

 即ち――アラビア王国の滅亡である。

 

 

 十国の一角をなす大国が、三国による包囲網と侵攻、国内の民族独立運動によって倒れた。

 アラビア軍の残党と王家の生き残りはバグダードを脱出し、旧イラン地域に逃亡。アラビア国内は右翼を主とする王室派と、民族独立を訴える左翼を中心とする革命派に分断され、各地での武力衝突を際限無く繰り返すコトになった。

 

「――イシュメル様?」

「セグラ。……我々の戦いとは、何だったのだろうな。MAを殲滅した後も、戦争をし続ける為のモノだったのか?」

 

 片刃の折れたバトルアンカーを握る「ガンダム・グレモリー」を見上げながら、サンスクリットの派遣部隊を指揮するイシュメル・ナディラ大将は、自身の副官にしてお目付け役でもある「オルトリンデ」のパイロット、セグラ・ジジン大佐にそう漏らすのだった。

 前線基地の暗い空の下、闇夜の中に溶け込む愛機が、イシュメルの目には本物の死神のようにも見えた。

 

 

   ◇

 

 

 付け込む側に回った大国も、同時に付け込まれる側になり得る。

 アメリア合衆国への介入により分断を煽ったユーラシア連邦は、中央アジア地域を中華連盟共和国に攻められ、実効支配を許すコトとなった。

 アラビア王国を攻めたサハラ連邦共和国は、アフリカン共和国に反対側から攻められ、領土の幾ばくかを持っていかれるコトになった。

 また、各国では少なからず民族独立運動が発生しており、他国から略奪するだけでなく、自国内の混乱も抑え込んでいかなければならない。しかし、領土の広さと「四大天使」ガブリエル討伐作戦での損耗も相まって、軍の統制も完璧には程遠かった。世界全土が混乱に陥り、混乱終結の道は微塵も見い出せなくなっていた。

 

 そんな中、彼らは。

 英雄アグニカ・カイエルの意志を継ぐ組織は、ただ沈黙を守っており――とある一つの選択を、迫られるコトになった。




Episode.94「War that Never Ends」をご覧頂き、ありがとうございました。

MAとの戦いが終わろうとも、戦争は終わらない。
各地の混乱をご紹介する回となりましたが、最後の一文をお読み頂ければ分かる通り、終章全体の前フリとなる回でもあります。
説明主体になってしまったせいでセリフが少なく、もう小説と言うより社会系の新書みたいな感じになってしまいましたが、次回以降は元の感じに戻るので、どうかご安心下さいませ。
また、それにより次回は早めに出せるようにする予定。

一応、今回時点での世界地図を置いておきますが、より混乱を招く可能性も有るのでは……? と思わなくもない。

【挿絵表示】



《今回のまとめ》
・アメリアが南北に分裂
・アラビア王国☆滅☆亡☆
・全世界阿鼻叫喚の中、ヘイムダルは?




次回「to Inherit the Will」
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