厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
月姫リメイク初回限定版の予約も完了したので、後は待つのみ……。
サブタイの意味は「意志を継ぐには」です。
十国が混乱に陥り、世界中が緊張状態にあり、戦火が拡大しつつある中――ヘイムダルはオセアニア連邦国の庇護下で、沈黙を守り続けていた。
半年以上に渡ってヘイムダルが動かなかった――動けなかったのは、「モビルアーマーを撃滅する」という組織の存在目的を果たし終えたコトと、対MA戦で資金を使い切り、十国からの支援が無い状態の為に深刻な財政難に陥っているコト以上に、指導者アグニカ・カイエルが戦死したコトが、一番の要因となっている。
英雄アグニカ・カイエルの意志を受け継ぎ、組織を引っ張っていく。僅かな生き残りの者たちは、その中の誰にも、その重責を負うコトは出来ないと理解していた。ヘイムダルは、次なる指導者が決まっていないのである。
しかし、世界の現状を見て見ぬフリは出来ない――というのもまた、各人の共通意見だった。
M.U.0052年、七月五日。
ヘイムダル本部「ヴィーンゴールヴ」では、ガブリエル討伐作戦を生き延びたガンダム・フレームのパイロット達が、臨時十国会議の会場ともなった会議場に集っていた。顔ぶれは以下の通り。
「ガンダム・パイモン」のカロム・イシュー。
「ガンダム・アスモデウス」のフェンリス・ファリド。
「ガンダム・キマリス」のクリウス・ボードウィン。
「ガンダム・ベリアル」のドワーム・エリオン。
「ガンダム・プルソン」のケニング・クジャン。
「ガンダム・ヴィネ」のディアス・バクラザン。
「ガンダム・アモン」のミズガルズ・ファルク。
「ガンダム・ダンタリオン」のシプリアノ・ザルムフォート。
「ガンダム・バティン」のウィルフレッド・ランドル。
「ガンダム・グシオン」の和弘・アルトランド。
「ガンダム・マルコシアス」の金元・カーゾン。
以上の十一名である。
加えて、作戦中ヴィーンゴールヴの留守を守り、ヘイムダル創設時のメンバーでもある技術班リーダーのリシャール・ワグネと、同じく創設メンバーの一人である医療班リーダー、ダスラ・アシュヴィンも顔を出している。
「――現状を確認するぞ。
アメリアは南北に分裂して内戦状態、アラビアは滅亡して右派と左派に分かれての内戦、その他の国も独立運動や他国への侵略を継続中。
今や、改元後に出来上がった十国体制は、完全に崩壊したと言っていいだろう」
ドワーム・エリオンが、手元の端末を眺めながらそう述べ終えて、机上に端末を放り出した。
成立から僅か半世紀も経たずに、十国が等しい力を持ち、条約の下で互いに牽制し合いながらバランスを保ってきた地球の十国体制は、音を立てて崩れ去った。――そのきっかけは、ヘイムダルが主導したガブリエル討伐作戦での損害に差が出たからだろう。被害が大きかった国も有れば、比較的小さな国も有った。絶妙に均衡していた十国のパワーバランスが、軍事力という面で損なわれたのである。
「火星も統一には至っておらず、むしろ遠ざかっているとの報告がある。
まとめ役だったレヒニータ様の陣営も、月に遠征した火星防衛軍の全滅を受け、反感を買っているようだ。軍がいなくなったコトで、治安が急速に悪化しているらしい」
「地球から茶々を入れられないコトが、せめてもの救いかしら。良くも悪くも、今の地球の国々は、火星にかまけている暇が無い」
シプリアノ・ザルムフォートの報告に、カロム・イシューが意見を述べる。
――ガブリエル討伐作戦では、火星からの遠征艦隊は全てが撃沈した為、火星組の生き残りはヘイムダルが収容した。火星から参戦していたガンダム・フレームのパイロットは、シプリアノの他には和弘・アルトランド、金元・カーゾンだ。
「……それで、どうする?
俺たちはこれから、どうしていくんだ?」
という、クリウス・ボードウィンの言葉に、全員が黙り込む。
現状は把握出来る。オセアニアからも情報は貰えるし、伊達にLCSレーザー通信網「アリアドネ」を有している訳でもない。情報において、ことヘイムダルに勝てるところは早々ない。
問題は、これからヘイムダルがどうするべきか――という点だ。
「――解散する、というのも一つの手では?」
「! ウィルフレッド、それは……!」
「ヘイムダルがディヤウスさんによって結成されたのは、MAを根絶する為だった。そして今、ヘイムダルはその任を果たした。大国にも、誰にも文句を言われる筋合いは無い」
ウィルフレッド・ランドルの意見は、至極真っ当なモノだ。これに対し、ケニング・クジャンが反論する。
「だが、ヘイムダルはアグニカの下で、世界を先導したのだ。その世界の混乱に際し、知らぬ顔をして解散するのは、あまりに身勝手ではないのか?」
「ではどうすると? 今のヘイムダルに、あの時ほどの力が残されていないコトは分かるだろ?」
「……ウィルの言う通りだ。とにかく金が無い」
ディアス・バクラザンがひらひらと手を振りながら、深刻な表情で口にする。――ヘイムダルの資金は底が見えており、切り崩すだけの状態が続けば、後半年も保たない。
アリアドネや本部施設など、維持費もバカにならない。現状、ガンダム・フレームはパイロットを失った「ガンダム・バエル」も含めて完璧に修復してあるものの、最終決戦装備にするコトは出来なかったのだ。それで予備の資源や物資がかなり持っていかれた今、日々の生活すら危ういので、戦力を整えるコトなど、夢のまた夢だ。
世知辛い現実的な話に行きかけたところで、フェンリス・ファリドが議題を確認する。
「金の問題は後にしよう。今の議題は、これからヘイムダルはどうするか、という方針を決めるコトなのだからな」
「その前に、ヘイムダルのリーダーを――いや、すまねぇ。これは前に棚上げした話だった」
「方針を決めたなら、次はそれを話し合わなければならなくなるだろうが……さて、どうしたものか。
いや、
和弘の意見を拾い上げつつ、リシャールが改めて問題を机上に挙げた。
ヘイムダルはどうするか。――どうしたいのか。
「――ここにアグニカがいたら、何て言ってたんだろうな」
ミズガルズ・ファルクの呟きが、全員に重くのしかかる。ディヤウス・カイエルが掲げたヘイムダルの「MA殲滅」という方針は一切ブレるコト無く、それはアグニカ・カイエルに代表の地位が受け継がれた後も同様だった。彼らは常に舞台を整え、向かうべき道を示していた。
―――知らず知らず、アグニカに頼りきりになってしまっていたのだと。背負わせてしまっていたのだと、彼らはここに至ってようやく理解し、不甲斐なさと情けなさに身を焦がされる思いだった。
アグニカ・カイエルなら、どうするだろうか。
アグニカ・カイエルは、何を望んでいたのか。
「……アグニカは、人類の未来の為に――平和の為にと言っていた。あの場所を、月を人類最後の戦場にしようと」
終わらない戦いを終わらせる。
月を、人類が最後に血を流す場所にしようと――決戦の日、アグニカ・カイエルは宣言した。
しかし――その願いは果たされなかった。
他ならぬ人類の手で、人類は血を流し、多くの人が哀しみと苦しみと恐怖の中で、今を生きている。
「アグニカが望んでいた未来は、こんな
そのカロムの一言は、全員の代弁だった。アグニカの願いだっただけでなく、彼ら自身の想いでもある。
――必死に戦って、多くの仲間を犠牲にして。ようやく訪れた、MAのいない世界が、こんなモノであってたまるものか。アグニカが失意と絶望の先で使命を果たした結果が、こんなモノであっていいハズがない。
ハッキリ言い切れる。
「――それで、どうすると言うんだね?」
ダスラの問いに、クリウスとディアスが答えた。
「平和を、俺たちの手で取り戻す」
「アグニカの望んだ未来を、俺たちが実現する」
それが、アグニカ・カイエルの意志を継ぐ、ヘイムダルとしての責務であり、使命である。
アグニカ・カイエルが望み、実現しようとした未来の形を、悠久なる世界の平和を、ヘイムダルの手で実現させる。死んで行った、仲間たちの為にも。
ヘイムダルは、戦争を終わらせる英雄とならなければならない。
「……けど、どうやって、それを成し遂げるんだ? 今の俺たちに、一体何が出来る? この混乱にどう収拾をつけて、平和を築くんだ?」
和弘の疑問を受けて、再び議場が沈黙に包まれる。「戦争を終わらせ、平和を取り戻す」――言葉にするのは簡単だが、この理想をどうやって現実化させるのかが問題だ。
だが、その為の方策を思いついた者が二人いた。
「一つ――思いついた策がある」
「私もだ。……恐らく、これしか無い」
フェンリスとドワームが頷き合う。その場に集った全員が注目を向ける中、ドワームが
「戦争を行う者の全てを叩き潰し、各国が保有する全ての戦力と兵器を吸収し、我々が世界で唯一の武装勢力となれば良い。
秩序維持の為だけの組織へとヘイムダルを作り変え、中立的立場から戦争の火種となり得るモノ、秩序を乱す者の全てをひねり潰し続ける存在となる」
そうすれば、戦争は起きない。
ドワームはそのように断言してみせた。
「―――な」
絶句する声。
当然だ。ドワームの策は、いくらなんでも暴論に過ぎる。逆らう者の全てを平伏させ、あの国々からありとあらゆる兵器と戦力を取り上げて吸収するなど、成し遂げられるにせよ、どれだけの血が流れるコトになるか。何より、
「じ、じゃあフェンリス! お前は―――」
「ドワームと同意見だ。我々のみが圧倒的な力を有せば、戦争は発生しない。なおも生まれる火種は、大きくなる前に速攻で踏み潰せばそれで良い。
――武力を抑止力とし、我々の手で世界秩序を維持するのが、最も確実な手段だろうな」
それ以外の策は、私には出せないだろう――フェンリスは、そう断言した。
この場の者達のほとんどは、ヘイムダルに拾われてパイロットになった
なお、フェンリスとドワームの考えなら、実現は可能だ。ヘイムダルには、ガンダム・フレームが有る。反抗勢力がモビルスーツを持ち出して来たとしても、負けるコトなど有り得ない。唯一恐れるべきは
リシャールとダスラが目線を合わせて互いに細める一方、議論は進行していく。
「だ、だけどよ……! そんな強引で強権的なやり方で、あの国々を納得させられるのか!?」
「そうだ、支持を得られるかも分からない!」
「目的は国を滅ぼすコトでも、人を殺すコトでもない。当事者である国の政府や団体からは反発を受けるだろうが、起きてる戦争が終結して平和になるなら、一般人から反対されるとは考えにくいだろう」
「ああ。我々は、我々の目的の為に、最低限必要な手段を取るだけだ。一般人に害を為す訳ではない」
火星独立戦争を含めるなら、戦争が始まってもう十二年。国の疲弊による治安や経済状況の悪化、独立運動に民族運動、内戦は市民の生活に多大な影響を与えている。
どんな形であれ、戦争が終わってくれるのなら、大多数となる巻き込まれる側の人々は、ヘイムダルを歓迎するだろう。
「何より――我々には、絶対的な『
「……なるほど。確かにそうか」
フェンリスのこの言葉に、ドワームも頷く。
一方、和弘や金元は察すると同時に冷や汗を流し――和弘が震えた声で、二人の言う「錦の御旗」が何か、確認を取る。
「それって――『ガンダム・バエル』のコトか?」
「他に何がある?」
サラリと、フェンリスは問い返した。
英雄アグニカ・カイエルの駆ったMS――「ガンダム・バエル」。四柱の大天使、その尽くをひれ伏せさせ、世間ではアグニカと共に、ヘイムダルの象徴的な扱いを受けている白亜の機体。それはヘイムダルが戦争を終結させる為、人類に対して力を振るう大義名分となる。
英雄の名と、その魂が宿る悪魔の王の名の下に、ヘイムダルは
それが、「四大天使」ミカエルとの戦いの前、アグニカ・カイエル自らが行った「英雄宣言」の内容である。
戦争が終わっていない以上、ヘイムダルがこの宣言に従って戦争を終わらせる為に行動するのは至極当然。世界が既に許し、支持した行いだ。
「――フェンリス、ドワーム。
どうせお前たちは、それがどういう意味を持つのか、分かって言っているのでしょうね」
鋭いカロムの視線が、フェンリスとドワームに突き刺さる。二人はそれを受け止め、表情を険しくしながらも、肯定の意味を込めて視線を送り返す。
人類の平和が、英雄の望んだ未来。
一方、もう誰も傷付かず、血を流さないコトが、アグニカ・カイエルの願いだった。
アグニカ・カイエルと「ガンダム・バエル」の名の下で、平和の為に人類を殺し、歯向かうモノ全てを打ち砕いて叩き潰す。
秩序維持という目的の為に殺人を是とし、二つの名を大義名分として振りかざし、利用する。
それは―――アグニカ・カイエルという個人の願いを踏みにじり、英雄アグニカ・カイエルという単なる象徴として扱い、平和の為の殺戮と破壊の罪を背負わせるというコトだ。
平和の為とは言え、彼は絶対に、ヘイムダルが人間に刃を振るうコトを良しとしない。彼は、アグニカ・カイエルという男は、そういう人間だ。そんなコトは、ヘイムダルの人間であれば、誰しもが理解している。
理解していながら、世界平和と秩序維持を実現する為に、人殺しの大義名分としてアグニカの名を一生利用し続ける覚悟。アグニカの個人としての願いを無碍にし、その名を何万もの人の血で汚す覚悟。
本気で世界平和を取り戻し、世界秩序維持の為の暴力装置になろうと言うなら、
「そんな――そんな、コト……!」
「ッ―――!」
「どう、すれば……」
三度訪れた静寂。それは長く、重々しいモノだった。
全員が口を閉じて三十分ほどが経ったところで、ダスラが手を合わせ、音を鳴らす。
「今日はこれ以上顔を突き合わせても、埒が明かないだろう。日を置いて、会議を再開した方が良い」
「ええ――そうですね、明日また集まり、結論を出すべきでしょう。各自はそれまでに、よく考えておくコトです。
やるのか、やらないのか。自分が、ヘイムダルで在り続けるのか否かを」
次ぐリシャールの言葉で、会議は一旦解散となった。
自分は、自分たちはどうするべきか。
大きく重い選択が、突きつけられていた―――
Episode.95「to Inherit the Will」をご覧頂き、ありがとうございました。
人としてのアグニカの願いと、英雄としてのアグニカの望み。残された仲間たちは、果たしてどちらを選択するのか。
……まあ、アグニカが決戦時に言った「此処を人類が最後に血を流す場所にする」はもう既にアレなんですが、アグニカの率いたヘイムダルがそれに加担するかは、また別問題になりますから。
《今回のまとめ》
・ヘイムダルは戦争を終わらせ得る
・アグニカとバエルは「錦の御旗」足り得る
・どうする、ヘイムダル?
次回「Last Sacrifice」