厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
サブタイの意味は「最後の犠牲」です。
翌日。
ヘイムダルのガンダム・フレーム、そのパイロット達が再び、会議場に集った。
「―――揃ったな」
「ああ……決めるか」
個々が選ぶべきモノ。
アグニカ・カイエルが実現させると宣言した、戦争の終結――その為に如何なる手段をも是とし、アグニカの名を振りかざして
そして、その行為に加担するか否かである。
「我々が議決を取りましょう。ダスラさん」
「では――戦争を終わらせる者は、挙手したまえ」
ヘイムダル技術班リーダー、リシャール・ワグネに促され、最年長となるヘイムダル医療班リーダーのダスラ・アシュヴィンが、若者たちに問いを投げる。
それから数秒、服の衣擦れの音のみが議場に響いた。――そして、各々の結論が明らかとなった。
挙手したのは九人。
カロム・イシュー、フェンリス・ファリド、クリウス・ボードウィン、ドワーム・エリオン、ケニング・クジャン、ディアス・バクラザン、ミズガルズ・ファルク、シプリアノ・ザルムフォート、ウィルフレッド・ランドル。
残る二人――和弘・アルトランドと金元・カーゾンは、目を伏せるなり俯くなりしている。
これからの行いを是とするか否とするか――決断は、キッパリと分かれるコトになった。
「……なるほど。それが、君たちの選択か」
「ふむ――否定派の二人は、これからどうしますか? 多数決的に、ヘイムダルに居続ければ、少なからず加担するコトになりますが」
リシャールの質問に対し、和弘と金元はこう答えた。
「すまねぇ――俺には、決心が付けられない。俺はもう、人が死ぬところは見たくねぇ」
「人殺しはしない。俺はそんなコトの為に、マルコシアスに乗った訳じゃない」
二人の決断を責める者はいない。一晩考え抜いて決めた結論を否定する権利は、誰にも無い。
一方、二人に次いで、賛成に挙手したウィルフレッドが意見を述べた。
「俺は組織自体には残りたいが、戦いには参加しない。俺は元々ジャーナリストで、皆と違って戦闘訓練を受けてた訳でもない。生き残ったのも運が良かっただけだし、これ以上は勘弁してくれ。
――それに、戦うにせよヘイムダルは資金不足。俺のバティンは闇市場で売り捌いて、運営費の足しにでもしてくれ」
「……お前、そんなコトして良いのか?」
「ああ。
現在、全世界に戦火が広がっているコトから、正規ルートでない闇取引が横行している。出どころは分からなくとも、相当な金が動いているのだ。
モビルスーツやエイハブ・リアクターは高く売れるし、状態の良いガンダム・フレームともなれば、それこそ国家予算レベルの値段で取引される。それが有れば、しばらくは組織を動かせるだろう。
「俺はジャーナリストとしての仕事に戻るよ。ヘイムダルに残るのは、独自の情報網を使わせてほしいからだ。その代わり、これからもヘイムダルに協力は惜しまないし、組織内の権力は一つも要らない。ギブアンドテイクで行きたくてな」
「……随分と都合の良いコトだな、ウィル」
「お前たち、演説の原稿とか考えられないだろ? そういう政治的パフォーマンスが絡む仕事を、俺に投げてくれれば良い」
ぐ、と他の八人が押し黙る。そういう仕事に関して、ウィルフレッドに勝てる者はいない。
前線で戦わない代わりに権力は要らない、と言うのがウィルフレッドの答えだ。モビルアーマーとの戦闘で多くの仲間を失ったヘイムダルとしては、ありがたい申し出と言えるだろう。
「和弘と金元は、どうするつもりだ?」
「俺は――ヘイムダルを抜ける。グシオンは、バティンと一緒に売っ払ってくれて良い」
和弘も、迷い無く愛機を資金源とするように言った。なお、金元はこう告げる。
「俺も抜けるが、マルコシアスは貰っていきたい。俺は金星の方に行ってみたいからな」
「――確か、金星は犯罪者の流刑地になってるんだったか。治安が悪いから、マルコシアスを持って行きたいってコトだな?」
「勝手な言い分だな。仲間としては受け入れたいところだが、これからの組織のコトを考えると頂けない。和弘と比べても不公平だ」
クリウスの確認に金元が頷くと、シプリアノが難色を示す。和弘は真顔を崩さないが、金元自身も同意見らしく、「だよなぁ」と金元が言いかけた時、ダスラが口を挟む。
「不公平と言うなら、こうしたらどうだ?
和弘にはグシオンの売却額の幾らかを渡すが、金元は機体を持ってく代わりに無一文で出奔し、我々のやるコトにも一切干渉しない。和弘も、一人でやってくなら何をするにしても、元手の金は要るだろうからな」
「なるほど、それなら良いか。分かった」
金元はアッサリ受け入れた。他のメンバーも反対意見は出さない。
これからヘイムダルが担う役割を考えれば甘い対応だが、約束を違えるコトは無いだろうと判断しているのだ。万一ヘイムダルの邪魔に回ったとしても、全員でかかれば「ガンダム・マルコシアス」一機に出来るコトは無い。戦力比的にも、ギリギリ許容範囲内である。
「――そりゃ、そうしてくれるならありがてぇけどよ……良いのか、それで」
「資金源としては、バティンだけでもお釣りが来るでしょうからね。一割くらいまでなら、まあ問題は無いかと」
「いや、多分そんなに要らねぇよ?」
こうして、ひとまず二人との話がついた。
すると、ディアスがリシャールとダスラに問う。
「アンタ達は、どうするつもりだ?」
「ん? どうもこうも。これから、この組織が世界で唯一武力を有する組織になるんでしょう? ここを抜けて、兵器技術者に行くアテが有るとでも?」
「私もリシャール君と同意見だな。こんな年になって、新しい環境に放り込まれたくはない」
そう答えはしたものの、二人が残る理由はもう一つ――ヘイムダルの創設に携わり、パイロット達の成長を見守ってきた者として、最期までそれを見届けるのが使命であり、責任であるからだというモノが有った。
ヘイムダルの創設メンバーも相当少なくなってしまったが、大人になり過ぎた彼らには、一生をかけるべき責任が残されているのである。
「――ここからは、具体的な策か」
「そうだな……悪いが、和弘と金元は退室してくれると助かる。聞いても良いコトは無いだろう」
「ああ、分かった」
「すまねぇな」
二人が退室した後、議題は「組織のトップに誰がなるか」という、先送りにし続けていたモノになったが――以降、二時間もの議論を経ても、結論を出すコトは出来なかった。
そして結局、ドワームのこの意見が、ひとまずの結論となった。
「組織の運営は、我々で話し合って決める。特定勢力からの中立を保ち、公正な秩序維持組織で在り続けるには、これしかない」
幹部による合議制で、組織を統制する。
組織の
「幹部って、今ここにいる十人か?」
「私は含めないでくれ。どうせそう長生きはせん」
「では、私も辞退させて頂きます。我々のような老人が居座っては、旧態依然とするだけですからね」
「運営に関わるとなると、俺も無しだ」
ケニングが確認を取ると、速やかにダスラとリシャール、ウィルフレッドが辞退した。
「戦争の終結」を実現し、全世界で唯一の武装勢力となる以上、組織の大幅な体制変更は間違い無く必要となる。現在のヘイムダルの創設メンバーが、今後も居座り続けるべきではない。ウィルフレッドは戦いに参加しない身で組織に残る代わりに、権力は要らないとしたので、ここに混ざっては条件を違えてしまう。
「そもそも、アグニカ君が支持を得たのは、自らが戦い『四大天使』を倒した実績が有ったからだ。後ろで君たちを戦わせるしかなかった我々が、アグニカ君の意志を継ぐ新しいヘイムダルの中で、権力を握る訳には行かん」
「……特定勢力からの中立が必要と言うなら、俺も権力を握るのはまずいな。俺も除外してくれ」
と、二人に続いて辞退する意思を見せたのは、元火星防衛軍のシプリアノであった。
更に元を辿れば、シプリアノはヘイムダルから当時の火星独立軍に移籍した身だが――火星軍に身を置いた経歴の有る人間が、公正中立でなければならない組織の運営に直接関わるのは、地球からの反発を招くだろう。
「となると――組織運営を協議するのは、ダスラさんとリシャールさん、ウィルフレッドとシプリアノを除いた七人になるわね」
「そうなるな。……私たちの間の力関係は、どうしていくべきか」
「待てドワーム、順番を付ける必要が有るのか?」
「合議制とは言え、全員対等では有事の際の組織統制に支障を来すだろうからな。いざという時の為にも、指揮権の優劣は決めておくべきだろう」
「フェンリスの言う通りだな。とは言え、指揮権にあまり差が有りすぎるのも問題だ」
七人が組織の実質的なリーダーになるコトをカロムが確認すると、ドワームがその力関係に言及。クリウスの質問にフェンリスが答え、ミズガルズが同意しつつ問題提起する。
そして、ディアスがミズガルズの意見を受けて案を出す。
「じゃあ順番は決めときつつ、ガチでやり合ったら互いに怪我じゃ済まないってくらいの差で権力を有しておく、ってのはどうだ?」
「権力、でそれを言うと難しいな。武力が分かりやすいだろう。後々、全世界を手分けして見張らなければならないコトを考えれば、通常の軍に加えて、各人が自由に動かせる戦力をそれなりに持っておく必要もある」
「――まあ、その辺りの戦力の割り振りは、各国から戦力を軒並み吸い上げてからしかやれないな。
それより」
ドワームの提案をひとまず後回しにし、クリウスが一番の問題を挙げる。
「順番―――どうやって決めるんだ?」
こればかりは、話し合いで決めようと思ったら不毛な争いを招く恐れがある。誰もが納得する方法で決定しなければならない。
「くじ引きでもするか?」
「ジャンケンとか? あみだくじでも作るか」
「……仲間内ならそれでも良いが、今回ばかりはそうも行かないだろう。世界が納得するよう、客観的な数字と基準を設定して決めなければ、後の世の禍根となり得るからな」
フェンリスの言葉を受け、全員が唸る。
客観的な数字と基準――しかも世界が「まあそれなら」となるモノは、なかなか難しい。ついでに言えば、この順番を決定するモノが、そのまま七人の権威とならなければならない。
しばらく沈黙が議場を支配するも、ここで部外者にあたるシプリアノが、一つ意見を出した。
「MAの討伐数、とかどうだ?
それで多い順に並べて、相応の権威が要るなら討伐数を適当に『勲章』とか言って、それっぽい感じに変換すれば」
「……MAの討伐数に応じて授与される勲章、その数で順番を決めている――か。なるほど、それなら権威の証明にもなる」
ウィルフレッドが納得して頷く。
後から統制の為に無理矢理でっち上げたモノになってしまうが、そんなコトは後世への伝え方次第でどうとでもなる――と、ウィルフレッドは続けた。歴史とは古来より、勝者が自身に都合良く歪めて作られるモノだ。
「なら、私がこれから、各機のデータを漁って来よう。自分が何機撃破したかなんて、いちいち覚えていないだろう?」
「ええ、お願いします。絶対誰も覚えてないので」
「数年分の戦闘データを集計するコトになるから、今日中には出ないかも知れんが、許してくれ。暇な技術班メンバーとも協力して、出来る限り早く結果を出せるように努める」
リシャールが立ち上がり、各機に記録されたMA討伐数を調べるべく、議場を出てMSデッキに向かった。
「――で、勲章の名前はどうするんだ? まさかそのまま『勲章』なんて、捻りも何も無い名前にする訳には行かないだろう?」
「討伐勲章……十字勲章とかは聞いたコト有るな。どういうモノだったかは覚えてないが」
「戦功が有った者に授与されるモノだな。位も最も高いとされている」
「七人勲章とかどうだ?」
「ダサいな」
「何だと貴様」
「七人って言い方が良くないのよ。もうちょっとカッコ良い言い方を考えましょう」
「英雄十字勲章――とか、カッコ良くないか?」
「良いが、それだとアグニカと被るぞ」
「じゃあ却下にしてくれ。英雄はアグニカ特権だ」
「七人……
「
「
「可愛かったらダメじゃねぇか、威厳が無い」
「オイ、言っておくがお前らは一生、その勲章を背負うコトになるからな? ちゃんとカッコいい名前にしないと後悔するぞ」
それからしばらく、勲章の名前について言い合い――最終的な結論としては、ウィルフレッドとシプリアノが出したモノに落ち着いた。
「制服の胸章は星だから、『七星十字勲章』とでも呼べばいいじゃないか」
「それは良いな。七星十字勲章を持ち、組織を運営する七人の幹部――『セブンスターズ』とか」
「七星十字勲章……セブンスターズ……!」
「カッコ良くて、威厳も有るわね。私は賛成よ」
「異議無し」
かくして、MA討伐の戦功に応じて授与される「七星十字勲章」の数により、七人の順番を定めるコトとなった。
また、組織のトップに立つ七人を総称し――「セブンスターズ」と呼ぶコトが決定した。
「順番が出たら、それぞれの胸章の星の数をそれに合わせるというのはどうだ? 一番の奴は一つ、二番の奴は二つというように」
「ほう――それは面白いな。分かりやすい」
「いちいち作り変えるのは面倒ではないか?」
「かてぇコト言うなよドワーム。面倒だったら今後無くしちまえば良いしな」
とりあえず七星十字勲章とセブンスターズについてが決定したところで、ミズガルズが会議を本筋へ戻らせるべく口を開く。
「……そろそろ本題に戻るコトを薦めるぞ。
どうやって全世界の国々から軍を巻き上げて吸収し、唯一無二の武装勢力となるか――その具体的な手段を考える必要が有る」
「―――そうだな。失敗は赦されない。
アグニカの実現しようとした平和の為に、私たちはアグニカに全ての功罪を背負わせる。秩序維持の為の暴力装置として在らねばならない」
続くフェンリスの言葉で、全員が気を引き締め直した。
世界の光も闇も、全てを背負って人と戦う。
どれだけの血を流し、流させるコトになろうとも――何としても、この戦争を終わらせる。
彼らがした選択とは、彼らがすべき覚悟とはそういうモノだ。もう、彼らは単なる
彼らが最後に犠牲とするのは、流血を望まぬ人間アグニカ・カイエルの願いと――そうしたアグニカの優しさ、アグニカ・カイエルという個人をよく知る、自分自身の良心である。
「ああ――フェンリスの言う通りだな」
「うむ。……ディヤウスさんによって創られたヘイムダルも、変わる時が来ているのかもしれん」
ただ
戦争を未然に防ぎ、反抗する者の全てを武力を以て抑え、叩き潰す――英雄アグニカ・カイエルと「ガンダム・バエル」の下に、純粋な武力でその名を世界に轟かせる組織へと、ヘイムダルは生まれ変わろうとしていた。
「――この際だ。組織名も変えたらどうだ?」
「組織名を? ヘイムダルじゃなくて、新しい名前を付けようってのか?」
「ダスラさん……今から具体的な策を考えようって時に、何でそんなコトを?」
「すまんね。老人は言いたいコトをその場で言わないと、すぐに何が言いたかったのか忘れてしまうモノなのだよ。
一つ、思いついたモノが有ってな。ディヤウスさん――いや、アグニカ君なら、きっとこうするだろうと言える名前だったから、つい口を挟んでしまった」
そこまで言うのなら、と皆が続きを促す。
ダスラは一息吐き、新たなる組織の名を口にした―――
Episode.96「Last Sacrifice」をご覧頂き、ありがとうございました。
ダスラ・アシュヴィンは、一体どんな名前を提案したのか。原作を履修済みの方には、最早言うまでもないでしょう。
原作アニメは知らないけど読んでるという方は、近々本編に登場する時をお楽しみに。まあ、実は地の文でフライングした時が有るんですが。
《今回のまとめ》
・和弘、金元は参加しない選択に
・「七星十字勲章」とそれに基づく番付方式が決定
・ヘイムダルの新たなる組織名とは――?
次回「lay the Groundwork」