厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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※第97話との同日更新になっております。お気をつけ下さい。

サブタイは「ギャラルホルン」と読みます。


#98 Gjallarhorn

「新たな世界秩序の構築の為に、貴国の有する武力の全てを差し出して頂きたく」

 

 オセアニア連邦国の連邦議会を訪れたドワーム・エリオンは、ソフィア・ナーゲン総督ら議員達に向けて、そう言い放った。

 そのメチャクチャな要求に、議員達は思わず唖然とした。ドワームが何を言っているのか、理解出来なかったのだ。

 

「た、戯言を抜かすな! 奴をつまみ出せ!」

「そうだ! そんなコト、出来る訳が無いだろう! 少しは考えてモノを言え!」

「無論、戯言などでは毛頭無い上に、考え抜いてのコトです。恒久的な世界平和の実現には、それが必ず必要となる」

 

 しかし、確固たる意思を持って、ドワームはそう断言した。議員達が反対意見を飛ばして否定する中で、ナーゲン総督は考え込むように口元に右手を当て、ドワームにその真意を問う。

 

「詳しく説明してもらえるかしら」

「ええ。じきに世界に宣言されますので、耳を傾けて頂きたい」

 

 ドワームは発言台の上にある電子端末を操作し、会議場の壁に設置された特大モニターに映像を映し出す。それは中継映像であり、アリアドネを通じてオセアニアだけでなく、全世界に向けてちょうど今まさに配信され始めたモノだ。

 

「アレは……!」

「アグニカ・カイエルの――!」

 

 画面に映し出されているのは、ヘイムダルの本部施設たる海上移動式メガフロート「ヴィーンゴールヴ」――その内部の祭壇らしき場所に立つ白亜のモビルスーツ、「ガンダム・バエル」の姿である。

 そして、そのバエルの前には、二人の人物が立っている。一人は白銀の髪を持ち、腰に赤鞘の日本刀を吊るす女性――カロム・イシュー。もう一人は空色のペリースを左肩にかける長身の男性、フェンリス・ファリドだ。

 

『この地球に住む、全ての人々に告げる!

 私たちは今この瞬間より、英雄アグニカ・カイエルの宣言に従い、行動を開始する!』

『アグニカ・カイエルはミカエル戦直前の宣言で、戦争の終結を実現すると約束した! しかし、それは全てのモビルアーマーを滅ぼしてもなお、未だに成されていない!

 何故か!? 人類が人類と争い、己が私欲と利益の為に他者を踏みにじり、殺し合い、戦い続けているからである!』

『戦争が始まって、もう十二年以上が経とうとしている! 誰もが苦しみ、血を流し、多かれ少なかれ様々なモノを失って来た! 元凶たるMAがいなくなってもなお、その凄惨な状況は続いている!

 もう終わらせなければならない! 私たちは戦争の終結の為、戦争を終結させ平和を維持し続けていく為にのみ、アグニカ・カイエルと「ガンダム・バエル」の名の下に、私たちの持つ力を振るうコトを宣言する!』

 

 カロムの言葉を皮切りに、二人は力強く言葉を発する。その言葉に迷いは無く、彼らは自らの意志と考えを世界に向けて発信していた。

 

『我々は崩壊した十国体制の代わりに、新たな世界体制の構築を提案する! 世界を四つの経済圏に分割するコトで、長期化した戦争で傾いた世界経済の立て直しが実現可能である!

 また、各国が持ち得る武力の全てを放棄し、我々のみが唯一無二の武装勢力となり、世界を外側から監視するコトによって、世界秩序の恒久的な維持を実現させるコトが出来る!』

『私たちは各経済圏の政治に一切関与せず、秩序維持組織としての役割のみを果たすと約束する! 今この時、私たちは各国並びに武装勢力に対して、自らが持つ全ての戦力と軍事技術の明け渡しを要求する次第である!』

 

 そして、フェンリスは一息吐き――高らかに、こう宣言した。

 

 

『もし、これを受けてもなお戦力を明け渡さず、我々の創る世界秩序を乱すと言うのなら――「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!』

 

 

 同時に、オセアニア連邦国連邦議会議場の開け放たれた扉から、武装した集団が侵入した。ドワームを取り囲むように並び、その集団は議員達にアサルトライフルを突きつける。

 議員達が狼狽する中、更に二人の人物が武装集団を引き連れ、議場に侵入して来る。

 

「……! き、貴様ら……!!」

「い、一体これはどういうコトだ!?」

「―――そう。どうしてヘイムダル……いえ、ギャラルホルンですか。他所の人間がこの議場に入れたのか、疑問に思ってはいたけれど」

 

 始めから()()()()だったのね、と。

 ナーゲン総督は、侵入して来た首謀者たち――オセアニア連邦国軍総司令官ヘーゼル・ブラッグと、MS部隊総隊長アイトル・ウォーレン准将に言った。

 

「ご協力頂き感謝します。ブラッグ司令、ウォーレン准将」

「ああ。まさかあんなクソみてぇな宣言に合わせて、こんなクソみてぇなコトをさせられるなんざ、クソほどにも思ってなかったがな」

「遠回りではありますが、これもオセアニアの為――と言っていたでしょう、司令」

 

 二人とドワームの会話を聞き、ナーゲン総督は眉をひそめる。――オセアニアの為、とアイトルが言ったコトが、引っかかったのだ。

 

「手荒な真似をお許し下さい。しかし、軍の行いはオセアニアの国益には背かないコトです。我々ギャラルホルンは軍の協力を得る代わりに、二つほど約束しました。

 一つ。国内の暴動鎮圧は、ギャラルホルンが担うというコト。オセアニア軍が丸ごとギャラルホルンに吸収され、戦力が膨れ上がったとなれば、武力を翳して暴徒達を無血のまま降伏させられる可能性も 低く有りません。そうでなくても、制圧は我々が保有するガンダム・フレームが担います。

 そしてもう一つは――オセアニア軍がギャラルホルンに加わる最初の軍になるコトで、アジア圏の統一はオセアニアを中心に行うというコト。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ナーゲン総督を始め、その言葉を理解した議員達は息を呑んだ。オセアニアを中心として、アジア圏に一つの経済圏を作り上げる――その意味の重さ、国益の大きさを瞬時に悟ったのである。

 

「我々の要求は二つ。

 ギャラルホルンに保有戦力と技術の全てを供出するとともに、資金的な援助を行うコト。そして、ギャラルホルンが提案する新しい世界体制に賛同し、実現の為に協力するコト。

 見返りとして、ギャラルホルンは反乱の鎮圧、秩序維持、エイハブ・リアクターに代表される技術を提供する」

 

 さあどうする、とドワームは問いかける。

 ナーゲン総督はため息を一つ吐き、両手を肘から持ち上げて答えた。

 

「貴方たちの勝ちよ。オセアニア連邦国は保有する軍と技術の全てを、ギャラルホルンに差し出すべきと考えるわ。ギャラルホルンの経済圏再編案にも同意しましょう。

 これから議決を取り、正式に決定するコトとします。それで構わないわね?」

「総督!? そんな、バカげたコトが許されるとでも……!」

「ここで条件を呑んでおけば、私たちは戦後体制において、非常に優位になります。全ての戦力がギャラルホルンに集中するとなれば、そう簡単に打破されるコトも無いでしょう。今後何十年にも渡って、我が国は他国より優位で在り続けられます。最初の前例となれば、世界的な大義名分も得られる。負担は決して軽く有りませんが、見返りも大きい。

 それに―――」

 

 ナーゲン総督は一息置いて、ドワームを鋭く睨みつけつつ、議員達を諭すように言葉を続ける。

 

「―――従わなければ、ギャラルホルンは史上最悪の敵となる。軍がギャラルホルン側についている以上、絶対に勝ち目の無い戦いです。多くの国民の命と主権を戦力と一緒に奪い取られ、戦後何十年も冷や飯を食わされたいと言うのなら、ギャラルホルンの要求を跳ね除けても構いませんが?」

 

 ぐ、と騒いでいた議員達が一斉に静まり返った。よほどの売国奴かアホでもない限り、ここでギャラルホルンの要求を跳ね除けるべきという結論は出せないだろう。

 

「我々への賛同を頂き、ありがとうございます」

「ただし。――戦力統合の失敗、などという下らないミスを犯し、世界に失態を晒すコトは絶対に赦しません。全戦力と技術を差し出す以上、ギャラルホルンの構想する世界体制は、何が何でも実現してもらわなければ困ります」

「――当然です。それでは」

 

 ドワームが軍服を翻し、議場を去る。それに合わせ、ヘーゼルとアイトルも議場を出て、兵たちも銃を下ろして議場を後にした。

 

「それで? クソみてぇな宣言したは良いが、こっからどうやってクソするつもりだ?」

「まずは中連を叩き潰し、従属させます。カロムが軍幹部との交渉に出向いたが、既に決裂している。中連は『自国こそが世界の中心だ』と考えている国なのだ、ハイそうですかと従うとも思えん」

「では、サンスクリットはどうするんだ?」

「サンスクリットでは、じきに軍のクーデターが発生するハズです。ちょうどオセアニアと同じようにして、我々の要求を呑ませる」

 

 ヘーゼルとアイトルの質問に、ドワームはこのように即答した。無論、オセアニア国内の混乱を鎮圧してからの話ではあるが――オセアニア軍はギャラルホルンに丸々吸収されるので、鎮圧にはそう時間もかからないだろう。

 

「ウォーレン准将。貴官はヘイム――ギャラルホルンとともに、中連相手にクソしろ。私はオセアニア国内でクソしておく」

「了解致しました。……いつ中連に仕掛ける?」

「オセアニア国内の暴動鎮圧が終わり次第、というコトになるかと。我々が鎮圧を終えるまでの間に、必要な処理を終わらせて頂きたい」

「良いだろう」

 

 全世界の戦力を統合し、大国にギャラルホルンの要求を呑ませる――簡単なコトではない。しかし、世界平和を実現する為に、ギャラルホルンはそれを何としても成し遂げなければならない。

 例え、世界に疎まれようと――ギャラルホルンは英雄アグニカ・カイエルの意志を継ぐ組織として、世界秩序を維持する装置となるのだ。その為にどんな犠牲を払い、払わせるコトになろうとも。

 

 

   ◇

 

 

 ギャラルホルンの宣言が成されるとほぼ同時、オセアニア国内で独立運動を訴える最大勢力が拠点とするパプアニューギニアに、ギャラルホルンの部隊が上陸していた。

 部隊と言っても、実際にはたった五機のガンダム・フレームである。しかし、現在では世界最高峰の戦力を有する小隊であるコトに間違いは無い。

 

「宣言が有った。ますはこの地域を制圧し、ギャラルホルンの力を示さねばならない!」

「オイオイ、降伏勧告を忘れるなよ?」

「第一歩、って訳か――やるしかねぇな」

「何、アーラの時点で私たちは殺人者だ。今更免れるコトもあるまい」

「ガンダム・フレームが出て来る可能性も有る、気は抜くなよ――行くぞ!」

 

 ケニング・クジャンの「ガンダム・プルソン」にクリウス・ボードウィンの「ガンダム・キマリストルーパー」、ディアス・バクラザンの「ガンダム・ヴィネ」とミズガルズ・ファルクの「ガンダム・アモン」、シプリアノ・ザルムフォートの「ガンダム・ダンタリオン」――あのガブリエル討伐作戦を生き延びたガンダム・フレームのみが集った、まさしく最強の小隊である。

 対する反抗勢力の主戦力はモビルワーカー、モビルスーツは二十機から四十機程度と推測されている。MWはともかく、本来ならMSの戦力差を覆すコトは難しいが――そもガンダム・フレームとは、MAとの圧倒的な戦力差を覆す為に開発されたモノである。「四大天使」の群に比べれば、たかが五十機にも満たないMS隊など、ものの数ではない。

 

 ギャラルホルンによる、最初の鎮圧作戦が開始された―――

 

 

   ◇

 

 

「―――始まったか」

 

 中華連盟共和国軍の李子轩(リ・ズーシュエン)中将は、ギャラルホルンの声明を聞き届け、そう呟いた。直後、子轩(ズーシュエン)の座る執務机の天板に設置された通信機が光り、中連上層部の者たちとの通信が開かれる。

 

『李中将、軍を動かす用意をしろ! 大至急だ!』

「なるほど……国は、ギャラルホルンに従わない方針なのですか?」

『従える訳が無いだろう! ギャラルホルンは、オセアニアと手を組んでいるのだぞ! 我々栄光ある中華連盟共和国は、奴らの不当な支配に屈したりはせん!』

 

 子轩(ズーシュエン)は「了解しました」と返答し、執務室に待機する部下に声をかける。

 

「MS機甲師団、全機出撃準備だ。ヘイムダル――いや、ギャラルホルンに我が国の領土を良いようにされる訳には行かん。私のフォルネウスも用意しておけ」

「は!」

 

 走って執務室を去る部下を傍目に、子轩(ズーシュエン)は椅子から立ち上がり、自らの背後に掲げられた中連の国旗を見上げた。

 間違い無く、全力の戦いになる。子轩(ズーシュエン)はそう確信していた。ギャラルホルンは宣言を実現させる為、全力で向かって来る。ならば、中連軍とて全力で立ち向かわなければならない。

 

「これが最後の戦争だ。悪いが、負けてやるコトはしないぞ――ギャラルホルン」

 

 

   ◇

 

 

 宣言の直後、各国政府にはギャラルホルンから、アリアドネを通じて正式な通達がされた。

 通達の内容は、ドワームがオセアニアの連邦議会て述べたような、ギャラルホルンの宣言への賛同と協力を求めるモノである。

 

 武力を持つ勢力は、その全てを技術とともにギャラルホルンに差し出し、支援する。

 ギャラルホルンは政治的な干渉を一切行わず、戦力は世界の治安及び秩序を維持する為に用い、自らが保有する高度技術を提供する。

 

 世界の今の半分以下、四つの大きな経済圏に分断し、その経済圏は軍を保持しない。政治的不干渉の姿勢から四大経済圏の外側に存在するギャラルホルンが、世界で唯一無二の巨大な武装組織となる。

 四大経済圏とギャラルホルンによって構築される新しい世界体制――それは経済不況に陥り、力を失った大国たちにとって、是非を容易に決めかねるモノだった。

 

 各国政府や議会は判断に迷い、経済が立て直されて民たちが豊かになるならとギャラルホルンに賛同する者たちと、軍や技術を軒並み差し出すなど出来ないとギャラルホルンに反対する者たちに分かれ、混沌とした。

 そんな中、一部の大国では、ギャラルホルンに差し出されるか否かがかかっている軍部が、独自の動きを見せていた。

 

「……これは一体、どういうつもりだ?」

「無論――ギャラルホルンの意見に賛同して頂き、協力するコトを宣言して頂く為です。拒否した場合には、ここで貴方を撃ち殺し、我々が実権を握った上でそうさせてもらう」

 

 サンスクリット連邦共和国では、軍によるクーデターが発生。イシュメル・ナディラ大将が率いるクーデター派の部隊が首都「カルカッタ」の大統領府を占拠し、独裁政権を敷いているアールシュ・パールシー大統領の身柄を抑えた。

 

『イシュメル様、制圧を完了致しました。MS隊に損害は有りません』

「ああ。ご苦労だったな、セグラ。

 しかし、私兵まで隠し持っていたとは」

 

 大統領府襲撃の数時間後、パールシー大統領の私兵たちが身柄奪還の為に動いたものの、イシュメルの副官セグラ・ジジン大佐の「オルトリンデ」を始めとするクーデター派のMS部隊に為す術もなく制圧され、奪還作戦は失敗に終わった。

 パールシー大統領に雇われた傭兵からなる私兵たちの練度も決して低くはなかったが、ガブリエル戦を生き延びた正規軍とは比較にならなかった。

 

「では――賢明な判断を望みます。国にとっても、決してリスクばかりの話ではない」

「ッ……!」

 

 オセアニアに引き続き、サンスクリットはギャラルホルンを受け入れた。その後、オセアニアに引き続きサンスクリットでも、国内の反抗勢力の一掃がギャラルホルンによって行われ――四大経済圏構築の為に、サンスクリットはオセアニアと合併するコトになった。

 アメリア連合国とアメリア合衆国、ユーラシア連邦、イングランド統合連合国、サハラ連邦共和国、アフリカン共和国、ラテンアメリア連邦共和国は国内への警戒から、宣言に対しての返答をすぐには出さず、ギャラルホルンを否定した中華連盟共和国へのギャラルホルンの対応を静観する構えを取った。

 

「中連軍、マカオ基地を観測! 多数のエイハブ・ウェーブ反応も確認!」

「全軍、第一種戦闘配置! 制圧を開始する!」

 

 そして、M.U.0052年は十一月二十一日。

 オセアニア、サンスクリットの保有する戦力の全てを吸収し、軍と呼ぶに足る規模の武力を有したギャラルホルンは、遂に中連軍との戦いの口火を切った。




Episode.98「Gjallarhorn」をご覧頂き、ありがとうございました。

ヘイムダルはギャラルホルンとなり、新しい世界体制の構築の為、本格的に動き出しました。
そのおかげで色々起きてますよ、という回でした。
何かもうゴッチャゴチャになってますが、次回以降のポイントは「ギャラルホルンは中連軍を叩きのめして、戦いを静観する他国に力を示すコトが出来るのか?」という一点にのみ有ります。
ここだけは把握しておいて頂ければ、と思います。


《今回のまとめ》
・ヘイムダルからギャラルホルンへ
・まずオセアニア、サンスクリットが賛意を示す
・ギャラルホルンを否定した中連軍との戦いへ




次回「Let's get this over with」
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