厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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アニメのウマ娘を観て泣いた奴がここに一人。
トウカイテイオーちゃんマジイケメン。


サブタイの意味は「もう終わらせよう」です。


#99 Let's get this over with

 世界戦力の全てをギャラルホルンに統合し、世界を四大経済圏に分割し直す――ギャラルホルンの新世界体制案に異を唱える中華連盟共和国軍とギャラルホルンは、遂に刃を交えるコトになった。

 戦場は南シナ海、中連地方都市「マカオ」の沖合で、両者は開戦した。

 

『ギャラルホルンの艦隊を、二百キロ先に確認!

 エイハブ・ウェーブから、艦艇の数は四つほどと推測されます』

「モビルスーツ機甲師団、全機出撃。宇宙のダインスレイヴ隊にも通達せよ」

 

 中連軍を指揮するのは、MS機甲師団団長にして「ガンダム・フォルネウス」のパイロット、李子轩(リ・ズーシュエン)中将。子轩(ズーシュエン)は機体のコクピットから、そう命令を下した。

 

『やはり、中将自らがお出になるなど……』

「ガンダム・フレームは、文字通り一騎当千の戦力だ。MSの数ではまだこちらが勝るだろうが、その程度の優位は簡単にひっくり返される。こちらに使える手は全て使わねば、ギャラルホルンを打倒するコトは出来ん」

『――ち、中将! 宇宙艦隊が、ギャラルホルンの艦隊と接敵した模様です!』

「……何だと?」

 

 一方、中連軍のなけなしの宇宙艦隊とダインスレイヴ隊が展開する地球衛星軌道上では、地上に先立ってギャラルホルンの艦隊が攻撃を仕掛けた。

 

「最優先でダインスレイヴ装備の機体を叩き潰せ! 艦は後に我々が使う、撃沈は避けろ! 無力化し、投降させるのだ!」

 

 艦隊を指揮するケニング・クジャンが駆る「ガンダム・プルソン」を先頭に、MS隊がダインスレイヴ隊に襲いかかった。護衛のMSを叩きのめし、プルソンは次々とダインスレイヴ隊を撃破して行く。

 

『ダインスレイヴ隊、攻撃を受けています! 地上への砲撃は困難とのコト!』

「宇宙艦隊は敵の迎撃にあたらせろ。ダインスレイヴを使ってしまっても構わん」

『は!』

 

 ダインスレイヴを向けたところで、ガンダム・フレームが怖気づくコトなど無いだろうがな――と子轩(ズーシュエン)は思いつつ、口には出さない。

 そして、MS隊に慌てず指示を出す。

 

「全機、敵が射程内に接近して来るまで待機。基地及び艦隊からの砲撃は、敵が射程内に入り次第、順次開始せよ」

 

 対して、ギャラルホルンの艦隊は――進軍を停止させた。艦隊を指揮するドワーム・エリオンは、旗艦の艦橋(ブリッジ)に腕を組んで立ち、冷静に支持する。

 

「艦隊及びMS部隊はここで待機。まずガンダム・フレームが突撃して前線を切り崩し、その後に全軍で攻撃を行う。

 ――ガンダム・フレーム、全機出撃だ」

 

 ドワームの指示を受け、五機のガンダム・フレームが艦から飛び立ち、海面を滑ってマカオへの侵攻を開始した。

 カロム・イシューの「ガンダム・パイモン」、フェンリス・ファリドの「ガンダム・アスモデウス」にクリウス・ボードウィンの「ガンダム・キマリストルーパー」、ディアス・バクラザンの「ガンダム・ヴィネ」、ミズガルズ・ファルクの「ガンダム・アモン」――この一個小隊のみで充分と、ドワームは判断したのだ。

 なお、シプリアノ・ザルムフォートと「ガンダム・ダンタリオン」、アイトル・ウォーレンやその他戦力の大半はギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」に残っている。

 

『大胆な作戦だ。たった五機で蹂躙して来い、とはな』

「そこまでは言っていない。ただ、全て倒して来ても構わないと通達はした」

『ほう……私たちに出番は訪れるのかな』

 

 艦隊にはMS部隊の他、イシュメル・ナディラの「ガンダム・グレモリー」と、ドワームの愛機「ガンダム・ベリアル」が残る。とは言え、ドワームは未だ豪奢な軍服を着たままであり、出るとすればよほどの非常事態である。

 これは、ギャラルホルンの圧倒的な武力を世界に示す為の戦い――言わば、一種の見せしめだ。作戦指揮官を任されたドワームが自ら出なければならない状況にまで追い込まれた時点で、ギャラルホルンの敗北と言えよう。

 

『敵艦隊から、MS隊が出撃――一個小隊!?』

『エイハブ・ウェーブ照合……全て、ガンダム・フレームです!』

『急速に近づきつつあり! 間もなく、MS隊の射程圏内に入ります!』

「少数精鋭で仕掛けて来るか。だが――たった五機とは、舐められたモノだな。

 全機、砲撃用意! 遠くから削り倒すぞ!」

 

 フォルネウスが特殊KEP弾頭を装填した左手のレールガン「臥龍」を構えるのに続き、オーガ・フレームで構成された各隊もライフルを構え――子轩(ズーシュエン)の命令の下で、一斉射撃を開始した。

 

「撃てッ!」

 

 弾丸の雨が、ギャラルホルンの出したガンダム・フレーム部隊に襲いかかる。しかし、そんなモノは彼らにとって、問題にすらならない。

 互いに声がけするまでもなく、各自がスイスイと軽快に海面を滑り、当然のように全ての砲撃をかいくぐって距離を詰めて行く。

 

「射程圏内――仕掛けるぞ」

 

 回避行動を取りつつ、アモンがスナイパーライフル「ヒュルム」を構え、狙撃を開始。敵MS隊の持つライフルを正確に捉え、次々と破壊して行く。その間隔は二秒も無い。

 分かってはいたものの、子轩(ズーシュエン)は舌打ちする。やはり、こんなヌルい攻撃など通用しない。だが、次の策は有る。

 

「私は水中から攻撃を仕掛ける。MS隊は各小隊長の指揮の下、臨機応変に対応しろ。各艦は艦長の、基地は基地司令の命令に従い応戦だ」

『は!』

 

 弾切れを起こしたレールガンを手放し、フォルネウスは右手に持つショットガン「伏龍」と背にマウントした連結爆弾「チェーンマイン」を確認し、近接武器たる高周波振動ナイフを左手に持って、海へと飛び込んだ。

 元より、フォルネウスは海中戦を想定して開発されたMSである。ヘイムダルとの共闘で活かされるコトは少なかったが、ここに来ていよいよフル活用する場面が訪れた。

 

(皮肉だな――だが、手加減はせん)

 

 フォルネウスが海に消えたコトを視認し、一応小隊の指揮を預かるカロムは、全員に通達する。

 

「フォルネウスは私が止めるわ。貴方たちは陸のMS隊を相手になさい」

「了解」

「おう、しくじるなよ!」

「ヤバくなったら言えよ、カロム」

「無様に負けるコトは赦されない。分かっているのだろうな?」

「ナメるんじゃないわよ! これでもセブンスターズの第一席、モビルアーマーの撃破数はこの中でも最多なのだから、MS一機に遅れを取ったりはしないわ!」

 

 パイモンの眼前の海が持ち上がり、フォルネウスが左手でナイフを振って来る。カロムは凄まじい反応速度でパイモンに腰の刀を鞘から引き抜かせ、黄金の刀と振動する刃が激突したコトで、激しく火花が散った。

 

「パイモンの刀――折れるモノなら折ってみなさい!」

「今のを止めるか……! だが、(ここ)はフォルネウスの領域(テリトリー)だぞ」

 

 フォルネウスは素早く潜航し、パイモンの返す刀は水しぶきを斬り裂くに留まった。

 基本的には海上をホバーで進むパイモンと違い、海中で自在に動いて戦えるのが、フォルネウスの強みである。とは言え、近接武器がナイフしかない以上、刀を持つパイモンとマトモに近接戦をやれば、フォルネウスに勝ち目は無い。

 また、武装を刀しか持たないパイモンに弾切れは無いが、フォルネウスのショットガンには残弾の限りが有る。パイモンを破壊し得るチェーンマインも一回限り。短期決戦をしなければ、フォルネウスは敗北するだろう。

 

「ならば、これだ――!」

 

 フォルネウスはパイモンの足元に位置し、海中からショットガンを撃ち放つ。元々MAの子機(プルーマ)を掃除する為の武装であり、ナノラミネートアーマーを破壊する火力は無いが――パイモンは足元からのショットガンを受けて態勢を崩すと共に、ホバーを可能とさせていた脚部のエイハブ・スラスターに損傷を受けた。

 

「ッ、スラスターを……!?」

 

 攻撃を受けたパイモンはたちまち、海の中に引きずり込まれた。海中戦闘は可能でこそあるが、フォルネウスほど得手にしている訳ではない。何より、水の抵抗で刀が振りづらくなる。

 

「海流に振り回される――ならば!」

「何を……だが、もう終わりだ!」

 

 フォルネウスはもう一発ショットガンを撃ち、パイモンがコクピットのガードに入った瞬間、背中のチェーンマインを左手で振るう。敵に張り付いて爆発する連結爆弾は、パイモンに接触するや否や、爆発を引き起こす。

 爆発の光と煙に巻き込まれ、その中に消えて行くパイモンを、フォルネウスは見届けた。

 

「――こちらにも、意地というモノが有る。悪く思わないでくれ」

 

 さて、と他のガンダム・フレームの下へ急ごうとしたフォルネウスの眼前で――白い水泡の中から、パイモンが姿を現した。

 パイモンは刀を両手で振りかぶっており、フォルネウスも迫り来るパイモンにショットガンを向けたが、引き金が引かれるよりも速く、パイモンの刀がその銃身を両断する。

 

「ッ、バカな……!」

「間合いよ」

 

 何故、と思いつつ、フォルネウスは両手にナイフを握ってパイモンの刀に応戦するも、両腕を一閃の後に奪い取られる。

 とても海中にあるまじき、神速かつ威力に満ちた一閃――水の抵抗を一切感じさせぬ美しい技に、子轩(ズーシュエン)は思わず問いかけた。

 

「この、剣速は――!?」

「海流の方向は掴んだわ。なら下手に逆らわず、水の流れに合わせて刀を振れば良い」

 

 それだけよ、とカロムは言う。

 しかし、海に落ちてからの短時間で海流を把握し、チェーンマインを張り付かれる前に斬り捨て、高硬度レアアロイ製の銃身とフレームをも断ってみせるなど、尋常な技ではない。追随するガンダム・フレームと阿頼耶識、特殊超硬合金製の刀の性能だけでは成し得ない――カロム自身が武人であるからこそ可能な、他の誰にも出来ぬであろう離れ業。

 

「――京都では世話になったわね、子轩(ズーシュエン)中将。出来るなら、また貴方と肩を並べて戦いたかったわ」

「フッ……世話になったのは、こちらですよ。

 我々の意地で、手間をかけさせるコトになりましたが――どうか貴女たちが、望む未来を手に入れられますように」

 

 パイモンの刀が、フォルネウスのコクピットを貫いた。その切っ先は子轩(ズーシュエン)の心臓に達し、刀が引き抜かれると、契約者(パイロット)を失ったフォルネウスは、暗い海の底へと沈んで行く。

 闇に消えるフォルネウスを見届けて、パイモンは海上へと浮上し、進軍を再開した。

 

『―――「ガンダム・フォルネウス」、反応……消失』

 

 作戦指揮官を務めていた子轩(ズーシュエン)が戦死したコトで、中連軍の士気は大きく低下してしまった。そして、その決定的な変化を、ギャラルホルンの艦隊を指揮するドワームは見逃さない。

 

「全艦、全速前進! MS隊出撃! 敵軍を殲滅、基地を制圧せよ!」

 

 これが決め手となり、戦闘の勝敗は決着した。中連軍宇宙艦隊も降伏し、ギャラルホルンは大国の一つである中連の軍を、還付無きまでに叩きのめすコトに成功した形である。

 中連政府は戦闘の結果を受け、ギャラルホルンの勧告を受け入れると発表。これにより、ギャラルホルンと中連の戦いは終結した。

 

 ギャラルホルンはこの戦いで一つの大国を打ち負かし、その圧倒的な武力を世界に示した。

 

 

 この戦いの後、ユーラシア連邦とイングランド統合連合国、サハラ連邦共和国、アフリカン共和国、ラテンアメリア連邦共和国の五ヶ国が、一斉にギャラルホルンの支持を表明した。

 

 ただし、この時に五ヶ国は共同で、ギャラルホルンに対して声明を発表。内容は要約すると「賛同はするが、ギャラルホルンへの支援はいつでも打ち切れる。故に、ギャラルホルンはオセアニアと手を切って、真の意味で中立な組織として在れ」というモノであり、ギャラルホルンはこれを受け入れた。

 

 ユーラシアの支援を受けるアメリア連合国と、ラテンアメリアを後ろ盾とするアメリア合衆国も必然的に同意し、北アメリア大陸を二分する南北戦争はギャラルホルンの仲介の下で休戦。四大経済圏の構築の折に別の経済圏となるコトで、衝突を回避するというギャラルホルンの提案に賛同した。

 また、旧アラビア王国領域で衝突を繰り返していた旧王国派と独立派も休戦し、ギャラルホルンの仲介の下で和解が成されるコトになった。

 

 かくして、地球上の全ての戦力はギャラルホルンの下に集い、ギャラルホルンは世界最大にして唯一無二の軍隊として成立した。

 ギャラルホルンのみが圧倒的な武力を持ち、強大な抑止力となったコトで、地球上から銃声の音が消失させられたのである。

 

 世界からの賛同を得た後、ギャラルホルンはなおも残る反抗勢力や戦火の火種となる動きを叩き潰しつつ、正式に終戦を宣言する為の用意と、新しい世界体制の構築に取り掛かった。

 だが、新体制の構築とともに終戦を宣言する為には、戦いを始めた両者が同意する必要が有る。このあまりにも長い戦いの始まりとは一体、何であったか――それを見出す為には、時はM.U.0040年、実に十三年前にまで立ち返らなければならない。

 

 大戦の始まりは、火星独立戦争。

 最初は、地球と火星の惑星間戦争だった。

 

 ギャラルホルンが終戦を宣言する為には、地球だけでなく火星の賛同を得るコトが必須である。

 故にギャラルホルンは、火星にシプリアノ・ザルムフォート率いる使節団を派遣した。火星から終戦への賛同と、終戦宣言への署名を得る為に。

 

 

   ◇

 

 

 「四大天使」ガブリエル戦以後、地球では十国体制の崩壊による大混乱が発生したが、火星も安穏としてはいられなかった。火星防衛軍とレヒニータ・悠那・バーンスタインの下、火星は緩やかにまとまっていたが、それが解けたのである。

 原因は、レヒニータが月に派遣させた火星防衛軍の全戦力が、艦艇一隻たりとも帰って来なかったコトに有る。戦闘によって艦隊は全てが撃沈に追い込まれ、その為に火星軍の生き残りは地球圏に留まらざるを得ず、帰還したくても帰還出来なかった――という事情が有るが、そんなコトは火星にいて分かるハズも無い。

 軍隊がいなくなったコトで、火星全土での治安が急激に悪化した。社会不安から経済状況も悪化せざるを得ず、地球との交易は続いてこそいたものの、人々の生活も苦しくなってしまった。一部の富裕層は自ら護衛を雇うといったコトも出来たが、そういう形で自分の身を守るコトが出来る者は、本当に僅かである。火星に住む大半の人は、明日の安全も確約されない不安の中に叩き込まれた。

 

 こうした状況から、軍を丸ごと失うという失態を犯したレヒニータへの支持は少なからず低下してしまい、影響力も以前より小さくなってしまった。

 それでもレヒニータは、クリュセを中心に一定の影響力を確保しており、レヒニータの政策によりMAという最大の脅威を排除するコトが出来た――と、レヒニータを評価する声も多い。

 

 火星の内情が混乱する中、レヒニータはひとまずの治安回復の為、富裕層に闇市場で流通する銃火器を買い占めてほしいと提言。富裕層にとっても保身に繋がる為、この要請に協力する者は多く、一時的ではあるが、治安の更なる悪化は食い止められた。闇市場とは言え、富裕層の持つ金が流れたコトで、火星の経済にも多少の良い影響が広がった。

 しかし、各地で富裕層の影響力が拡大し、各地域が意見を違えて対立する構図が少なからず生まれるコトになった。レヒニータが仲介に回ったコトで、表面的な対立こそ起こらなかったものの、水面下での地域間の対立構造は出来上がりつつある。

 

 そんな中――多忙を極めるレヒニータの下に、地球から使節団が訪れた。

 

 

「お久しぶりです、レヒニータ様」

「――! 貴方は、防衛軍の……!」

「はい。シプリアノ・ザルムフォート大尉――今は『ギャラルホルン』の一員として戦っております」

 

 M.U.0053年、二月九日。

 レヒニータは、火星衛星軌道上の民間共同宇宙港「方舟」で、地球からの使節団を出迎えた。

 元火星防衛軍のシプリアノ・ザルムフォートを代表とする、ギャラルホルンの使節団――終戦の為、火星の賛同を()に来たのである。

 

「ギャラルホルン、というのは……?」

「この一年あまりで、地球では大きな変化が起こりました。ヘイムダルがギャラルホルンとなったコトも、その一つです。――詳しくは、後ほど落ち着いてから」

 

 「方舟」内の応接室で、レヒニータとシプリアノは机を挟んでソファーに座り、一息吐いたところで本題に入った。

 まずは地球で起きた変化について、シプリアノはレヒニータに説明した。長期に渡る大戦の結果、十国の力が低下し、改元後の半世紀の平和を実現した十国体制が崩壊したコト。世界が泥沼の戦火に包まれ、それを打破するべく、英雄アグニカ・カイエルの意志を継ぐヘイムダルは「ギャラルホルン」と名乗り、全戦力のギャラルホルンへの統合と四大経済圏の編成による新たな世界体制の構築を目指したというコト。そして、全世界の賛同を得て地球上の戦乱は終結し、現在では四大経済圏の形成と終戦宣言に向けて準備が進められているというコトを。

 火星にいては充分に入って来ない情報を咀嚼し、レヒニータは少し冷えた紅茶を一口飲んだ後、シプリアノに問うた。

 

「それで――貴方が火星に帰って来た……いえ、訪れた理由は何ですか?」

「ギャラルホルンと地球が現在、大戦の終結の為に動いているというコトは、先ほど申し上げた通りです。しかし、それは地球だけでは実現し得ません。

 この大戦は、火星の独立宣言と宣戦布告による火星独立戦争の勃発から始まりました。故に、大戦の終結を世界に向けて宣言する為には、地球と火星がそれぞれ合意し、宣言に調印する必要が有ります」

 

 それにあたり、とシプリアノは間を置いて。

 

 

「地球は貴女に、火星の代表として終戦宣言への署名を頂きたいと考えております。どうか我々とともに地球に赴き、宣言に参加して頂きたい。

 その見返りとして、地球は火星に、自治権の付与を約束する用意が有ります」

 

 

 と、レヒニータに告げた。

 レヒニータは思わず呆気に取られるも、すぐに咳払いをして平静を取り戻し、シプリアノに聞く。

 

「……何故、私なのですか?」

「火星防衛軍を創設させ、火星においてリーダーシップを発揮して来たのは貴女です。実際に火星独立軍を率いて宣戦布告を行ったのはセレドニオ・ピリーですが、彼は既に死亡しています。となれば、開戦時から『革命の乙女』として在り、今現在も多大な影響力を持つレヒニータ様こそが、火星代表と言える――地球の各勢力はそう考え、捉えています。

 私が火星を離れた一年のコトは分かりませんが、その認識は概ね火星においても共有されています。火星の代表者として、貴女以上の適任者はおりません。だからこそ、貴女に同道して頂きたい」

 

 無論、終戦に反対なされると言うのなら、その必要は有りませんが――と、シプリアノは言う。

 その点について、レヒニータは即座に否定する。レヒニータ自身に、終戦に反対するつもりは無い。穏健派である彼女にとって、地球側から終戦を申し出てもらえるコトは非常にありがたいコトだ。

 

「しかし、火星に住む人々が全員、私と同じ意見を持っている訳ではありません。それに、私は選挙で選ばれた訳でもない小娘です」

「ご謙遜を。選挙を行っても、貴女は過半数に支持されるでしょう。セレドニオを信奉する極右勢力は確かに存在していますが、少数派です。結果は覆りません」

 

 どうか、とシプリアノはレヒニータに迫る。

 レヒニータは目を伏せて少し考えたようだが、「分かりました」と返答した。

 

「ただ、私の一存ではなく、火星の皆さんのご理解を得なければなりません。出立には、少しお時間を頂くコトになるかもしれません」

「ええ――問題は有りません。どのみち、宣言の内容が定められるまでは、まだ数ヶ月の猶予が有ります。遅くとも今月末に発てば、充分間に合います」

 

 早速動き出すべく、レヒニータは席を立つ。その背中に、シプリアノは「それと」と声をかける。

 

「戦後の治安維持については、地球と同じく我々、ギャラルホルンが請け負います。宣言が発布され、レヒニータ様を火星に送らせて頂いた後、部隊を派遣させてもらうコトになるかと思いますが、どうかご了承下さい」

 

 シプリアノの言葉を受け、レヒニータはしばし考える。

 軍が力を失ったコトにより、治安が悪化した火星にとっては、ギャラルホルンの申し出はありがたいモノだ。各地で富裕層が力を得たとは言え、自警団として組織を整備して治安の回復を図るには時間がかかる上に、いたずらに富裕層の力を拡大させるコトになる。労働者として働く人々との格差につながり、地域間の争いにも結びつく可能性がある以上、全くのよそ者であるギャラルホルンが治安維持を担ってくれるなら、それは願ってもないコトだ。

 

「……分かりました。それなら心配は有りません」

 

 レヒニータは各所への連絡と対応をすべく、応接室を後にした。部屋に一人残されたシプリアノは、冷めきった紅茶を飲み干してから、左腕の袖を捲り、手首に付けた録音機を停止させ。

 

「―――新しい世界体制の為、とは言え……いくら何でも、これは(むご)すぎるだろう」

 

 窓から見える赤い星を眺めながら、そう呟いた。




Episode.99「Let's get this over with」をご覧頂き、ありがとうございました。

中連を叩きのめしたコトで、いよいよ世界がギャラルホルンに賛同しました。
火星にも話を通し、遂に終戦が目前。
そんな訳で、次回を以て本作は最終話となります。


《今回のまとめ》
・中連をギャラルホルンが撃破
・全世界の賛同を得て、地球の混乱が終息
・火星も巻き込み、長きに渡る大戦が終結へ向かう




次回「Iron-Blooded Orphans
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