厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
サブタイの訳は「鉄血のオルフェンズ」。
武力を盾に各国に要求を呑ませて、各国の持つ戦力と技術を独占したギャラルホルンは、指導力を発揮していくにあたって、組織内の整理に取り掛かった。
セブンスターズによる合議制で組織全体の方針を取り決めて行くとした上で、新しい局を創設させ、それぞれが分担してギャラルホルンの担うべき職務を行っていくコトとしたのである。
具体的には、直接的に武力を行使する統制局、統制局を監視し監督、調査する監査局、経理及び人事を行う総務局、各地で警察として働く警察局の四つの部門に組織を大別。この他にも士官学校を設立して、新規の人材育成や訓練を行う体制を構築した。
統制局から独立した戦力として、セブンスターズ各家に直属部隊が配された他、ギャラルホルン設立に貢献した名家にも直属部隊が就いた。特殊な例として、名家ナディラ家の直属部隊はギャラルホルン内部に向けて武力を行使し、断罪する内部統制部隊「オレルス」として機能するコトとなった。
また、地球外縁軌道統制統合艦隊と月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」が創設され、こちらはセブンスターズの家門が直接指揮を取り、統制局とは異なる指揮系統を有する。地球外縁軌道統制統合艦隊司令にはセブンスターズ第一席のカロム・イシューが、月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」の司令にはセブンスターズ第四席ドワーム・エリオンが任命され、副司令にセブンスターズ第五席ケニング・クジャンが就任した。
特に、月からコロニー群、火星に至るまでの圏外圏を職域とするアリアンロッドは、ギャラルホルンとして表立って武力を振るう艦隊となる。地球外縁軌道統制統合艦隊がセブンスターズ第一席とは言えイシュー家一家門であるのに対し、エリオン家とクジャン家が司令官として並び立つのもその為だ。
アリアンロッドを通じてギャラルホルンの権威を示すべく、全長がハーフビーク級宇宙戦艦の二倍にもなる今までに無い巨大な戦艦「スキップジャック級大型戦艦」が、艦隊旗艦として用意された。
これ以外に、各地に支部が用意されるコトとなった。地球本部はヴィーンゴールヴを本部施設とし、セブンスターズ第二席フェンリス・ファリドが指揮を取るコトが決まった他、将来的には火星支部の設置も決定している。
名家ザルムフォート家は月・火星間の往還航路の管理、名家ウォーレン家はモビルアーマーの本拠地だった月の調査と周辺コロニーの管理を任された。
このようにして組織内の役割分担を行ったギャラルホルンにとって、大きな問題は技術の独占状態の維持――特にエイハブ・リアクターの技術管理だ。
火星独立戦争は、エイハブ・リアクターを巡って発生した。実際に製造出来るかはともかく、万が一にでも技術が流出する事態は避けねばならない。そこでギャラルホルンは、太陽圏にエイハブ・リアクター製造プラントを建造し、全ての技術と製造を管理するコトとした。
また、モビルスーツの建造技術も独占しつつ、簡素な設計のヴァルキュリア・フレームを素体とし、量産に特化しながらヘキサ・フレームやロディ・フレームに
地球圏の国は全て解体され、四大経済圏と呼ばれる四つの巨大な経済圏として再編された。
ヨーロッパ、アフリカ、中東及び西アジアを領域とする「アフリカンユニオン」と、東アジア及び東南アジア、南アジアとオーストラリア大陸の「オセアニア連邦」、北アメリア南と中央アメリア及び南アメリアの「STRATEGIC ALLIANCE UNION」――通称「SAU」に、ユーラシア及び北アメリア北の「アーブラウ」。以上の四つである。
なお、北極圏とグリーンランド、南極大陸はどの国にも属さない地域として扱われる。
金星は今まで通り、罪人の流刑地として定義。
木星圏はMAにより十国体制成立以後の開拓が全てパーになった為、今後の開発が課題として残る。
火星独立戦争とMAの攻勢によって甚大な被害を被ったコロニー群は、今後四大経済圏とギャラルホルンにより再構成が開始される予定だ。
大戦の引き金となった火星については、地球圏が落ち着き次第、扱いについて協議が行われる手筈となっている為、しばらくは現地での自治が認められる。
そして、M.U.0053年は三月二日。
火星代表としてヴィーンゴールヴを訪れたレヒニータ・悠那・バーンスタインと、地球の四大経済圏代表の四名は、ギャラルホルンが策定した終戦宣言に調印した。地球と火星の代表五名に加え、ギャラルホルンを束ねるセブンスターズ七名の名も記されるコトとなった。
同日午後――地球と火星の代表五名が同席する場にて、ギャラルホルンはいよいよ世界に向けて、終戦宣言を発する。
場所はギャラルホルン地球本部「ヴィーンゴールヴ」内に新しく建設された最重要施設、「バエルの祭壇」。その名の通り、英雄アグニカ・カイエルの魂が宿る機体「ガンダム・バエル」を祀る為の場所であり、セブンスターズのガンダム・フレームが納められる場所でもある。
円形の祭壇の中心に立つバエルの前に、ギャラルホルンのマークが描かれた大旗とセブンスターズ各家の家紋が描かれた旗が掲げられ、四大経済圏の代表と火星代表の計五名が、旗の前に用意された椅子に腰掛ける。セブンスターズは第二席から第七席の六名が代表五名を挟むように横に並び、その真ん中に置かれた演説台の前には第一席たるカロム・イシューが立ち、台の上には計十三名の名が記された宣言の原本が立てて置かれている。
『―――これより、ギャラルホルンを代表し、全世界に向けて宣言する。私はカロム・イシュー。ギャラルホルンを合議制により指揮する「セブンスターズ」の第一席を預かる者である』
静粛に支配された祭壇で、カロムは口を開く。
ギャラルホルンの象徴として、修復と共に左肩に角笛の紋章を刻まれた「ガンダム・バエル」を背とする宣言は、ギャラルホルンの管理する惑星間レーザー通信網「アリアドネ」を通じ、地球圏全域は勿論のコト、金星や火星、木星圏にまで届いている。
『私たちは世界中の戦力を統合し、今まさに世界唯一の軍事組織となった。これからは「ギャラルホルン」が世界秩序維持の為、悲惨な戦争を二度と起こさせない為に、持ち得る全ての力を以て努める』
今を生きる全ての人間が、宣言に耳を傾ける。
戦争を経て、多くの人々の命が奪われ、多くの人々が傷付いた。大戦の影響を受けなかった者はおらず、大戦によって全ての人間が少なからず変化させられ、取り巻く環境も変化した。
『ギャラルホルンの創設者は、アグニカ・カイエルだ。彼は私たちの背に在る「ガンダム・バエル」を駆り、最前線で
アーブラウ領内のとある街の酒場で、顔を包帯で隠した女性――ファビアン・モンタークは、ギャラルホルンの宣言を目にしていた。彼女はアメリア軍がギャラルホルンに吸収されると同時に、軍を辞める決断をしたのである。
彼女は手に持つグラスを口に運び、死んで行った同僚たちの顔を思い浮かべ、自らの顔の傷を左手の指でなぞった。
『彼は最期の最後まで戦い、私たちの――人類の未来を、己が身命と引き換えに切り開いた。私たちギャラルホルンは、彼の意志を受け継ぎ、世界平和の為に、世界平和と秩序維持の為だけに武力を振るうと誓う』
金星に向かう船の中で、金元・カーゾンは宣言を聞き届ける。着いたばかりの新造のコロニーで、和弘・アルトランドは手に持つ通信機を見る。
最早、ギャラルホルンには何の関わりも無い身だが――その宣言からは、かつて仲間だった者たちの並々ならぬ覚悟を感じ取っていた。
『世界は四つの経済圏に分割され、経済の立て直しと衝突の回避を目指す。治安維持は私たちギャラルホルンが行い、戦争の火種も私たちギャラルホルンが摘み取る。――もう誰も、戦争によってその命を散らすコトが無いように』
火星の都市「クリュセ」の一角に在る病院で、ナーサティヤ・アシュヴィンはベッドが並ぶ病室のテレビを眺める。彼の側のベッドに横たわる、両足と左手を失った黒髪に青い瞳の青年も、同じように宣言の様子を観ていた。
『十三年にもなる今回の大戦は火星独立戦争に始まり、MAという人類の殺戮をプログラムされた無人兵器を相手にした生存競争という様相を呈した。私たちギャラルホルン――旧ヘイムダルは、天使の名を冠するMAに対抗する為に、悪魔の名を冠するMS「ガンダム・フレーム」を造り上げた。
悪魔の名を持つ機体と、悪魔と契約した人類が、天使を狩る戦争――私たちギャラルホルンは、今回の大戦を「厄祭戦」と名付けた』
天使が齎した、人類史上最悪の災厄。
悪魔による、天使を狩る大いなる祭。
多くの人命を奪い去った、世界大戦。
『あまりにも多くのモノを、私たちは失った。
しかし、私たちはそれを乗り越え、平和を手に入れた。人類総人口の四分の一もの犠牲を経て、私たちは今、ここに立っている』
火星の小さな村で、クレイグ・オーガスは宣言を聞きながら、赤い土煙の舞う空を見上げる。夕焼けの赤い空は霞がかっていて、彼にもの哀しさを感じさせた。
『私たちがこれから迎えるのは、全く新しい時代。全く新しい世界秩序の下で、私たち人類は、新しい旅を始める。戦争の無い、平和な未来に向かって』
ギャラルホルンに集った者たちは、世界各地で整列した状態で、宣言を胸に刻む。これから成さねばならない役目の大きさと重さを感じ、失って来た仲間たちに想いを馳せながら。
『故に私たちギャラルホルンと四大経済圏は、今ここに宣言する! ギャラルホルンと四大経済圏の成立を! 全く新しい時代、「Post.Disaster.」の幕開けを!
十三年もの凄惨なる大戦――厄祭戦の終結を!』
P.D.0001年、ヴィーンゴールヴ宣言。
ギャラルホルンが世界に向けて発布し、四大経済圏と火星が受け入れた、厄祭戦の終戦宣言である。
これを以て、地球圏と圏外圏に戦火を巻き起こした、人類史上最多の犠牲者を出した惑星間戦争――「厄祭戦」は、終焉を迎えるコトとなった。
長きに渡る戦争は今、ようやく終わった。
英雄アグニカ・カイエルと、その魂が宿るMS「ガンダム・バエル」の威光の下、ギャラルホルンが世界に終戦を発したコトで、世界は安寧の日々を取り戻したのである。
(――アグニカ。貴方が切り開いた人類の未来は、私たちが必ず守ってみせる)
セブンスターズは、その決意を新たにする。
いや、それは他のギャラルホルンの者たちも、等しく同じだっただろう。
多くの人々の平穏を、変わらぬ安寧を守る為に、角笛は吹き鳴らされる。例え、自らの望みを叶える為に戦いを選んだ者たちの全てを、踏みにじるコトになろうとも。ギャラルホルンが、その在り方を変えるコトは無い。
彼らは世界秩序を維持する為に、英雄アグニカ・カイエルの使命を実現させ続ける為に、その手に握る銃の引き金を引き続けるのだ。
ガンダム・バエルはただ静かに、彼らが眼前で発した宣言を聞き届けた。
そこに良いも悪いも無い。善悪は無い。
「―――やっと会えたな、バエル」
数百年の時を経て――憤怒に身を焦がす男が、己の眼前に現れる、その日まで。
◇
夕焼けの空の下で、銃声が鳴り響いた。
暗い路地裏に、男が倒れる。その下には血溜まりが生まれ、男はしばらく痙攣した後、絶命した。
頭から血を流す銀髪金眼の少年は、呆然とその光景を見ていた。男を撃ち殺したのは、もう一人――黒髪蒼眼の、小柄な少年だった。
「―――!」
殺された男は、人身売買を生業とする者だった。彼に捕らわれた銀髪の少年は、同じように捕まっていた黒髪の少年と、暗い部屋の中で出会った。
何も喋らない黒髪の少年を、男は気味悪がったのか、少年は身体のあちこちを殴られていた。銀髪の少年は男に抵抗したせいで、全身に傷を付けられていたのだが。
このまま男の良いようにされたら、ヒューマンデブリとしてゴミのような価格でゴミのような奴らの下に売り捌かれるというコトが、銀髪の少年には分かっていた。だから、銀髪の少年は黒髪の少年に話しかけ、一緒に脱出しようと持ちかけたのだ。
黒髪の少年は、銀髪の少年と同じく、孤児だというコトだった。分かるコトは、自分の名前だけ――それは、銀髪の少年も全く同じだった。
話してみると、黒髪の少年は時おり微笑を浮かべた。そのコトが銀髪の少年にとっては意外であり、同時に親近感を抱かせた。
男が出かけるコトの多い夕方に、二人は部屋からの脱出を試みた。
隠し持っていた針金で部屋の鍵を開け、脱出には成功したのだが――建物の外に出たところで、ちょうど帰って来た男に見つかってしまった。
銀髪の少年は殴り飛ばされたが、黒髪の少年は男から銃をスリ、男に突きつけた。
しかし、男は速やかにもう一丁の銃を懐から取り出し、セーフティを外そうとする。銀髪の少年は思わず、黒髪の少年に引き金を引くよう命令し――その通りに、黒髪の少年は男を撃ち殺したのである。
「―――ねぇ」
拳銃の反動で、小柄な黒髪の少年は後ろへ吹っ飛ばされた。尻餅を付きながら、黒髪の少年は振り向いて銀髪の少年を見上げて。
「次はどうすればいい?」
と、銀髪の少年に問いかけた。
銀髪の少年は啞然としつつ、黒髪の少年を見下ろす。男から流れて来た血溜まりに足を浸しながら、黒髪の少年は微かな笑顔を浮かべ、期待に満ちた目で銀髪の少年に視線を向ける。
クソ野郎とは言え、今しがた人を一人、撃ち殺したというのに。この少年は、微笑んでいるのだ。
「―――」
銀髪の少年はこの時、無垢な黒髪の少年に恐れを抱いた。人を殺したというのに、この少年は何とも思っていない。必要だから、言われたから殺ったのだと――きっと、この少年にとっては、殺人すらもただそれだけの話でしかないのだ。
「……オルガ?」
しかし、銀髪の少年は恐れの他にももう一つ――こうも思った。
コイツと一緒なら、負ける気がしない。
この少年となら、何だって出来る。この少年がいれば、こんなクソ溜めの中からでも成り上がって、クソみたいな世界でも生きていけるだろう。
「―――決まってんだろ」
だから、銀髪の少年は歯を見せて、不敵な笑顔を浮かべる。そして、手を差し出して応えるのだ。
「行くんだよ」
「……どこに?」
「ここじゃない、どっか――俺たちの、本当の居場所に」
黒髪の少年はキョトンと、銀髪の少年の差し出した手を見上げる。
「それって、どんなとこ?」
「え? うーん……分かんねぇけど、すげぇとこだよ! 飯がいっぱい有ってよ、寝床もちゃんと有ってよ! 後は――えっと、後は……」
疑問符を浮かべる黒髪の少年の前で、銀髪の少年は考え込んだが、とにかくと言わんばかりに満面の笑顔を浮かべて。
「見てみなけりゃ分っかんねぇ! 行ってみなけりゃ分かんねぇよ!」
自分の右手を、差し出し直した。
黒髪の少年はなおもキョトンとしたまま、銀髪の少年が放った言葉を繰り返す。
「……見てみなけりゃ?」
「そうだよ! どうせこっから行くんだからよ!」
笑いながら、銀髪の少年は粋がって言う。
黒髪の少年も破顔し、自らの手を伸ばして。
「そうか。オルガに着いて行ったら、見たコトないモノ――いっぱい見れるね」
三日月は確かに、オルガの手を握り返した。
「ああ。だから行くぞ!」
Final Episode「Iron-Blooded Orphans」をご覧頂き、ありがとうございました。
そして、終章「未来 -The Return of Stability-」はこれにて終了。
本作「厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-」も、完結を迎えるコトとなります。
原作の三百年前を舞台とした、厄祭戦を戦った英雄たちの物語――皆様に少しでも楽しんで頂けたのなら、作者としてそれ以上の喜びはございません。
なお、この最終話の後には、作者が一話から作品を振り返り、作者なりの解釈であったり、解説や裏設定、裏話を書いたりする「後書き」を付けようと思っております。
この中にはヴィーンゴールヴ宣言後の火星分割を描いた「断章 支配 -The Will to be Suppressed-」も含まれますので、もしよろしければご覧下さい。
後書きと断章は読まずとも問題はございませんが、もしかしたら疑問が晴れたり、踏まえると本編が違って見えたりする……かも? みたいな?
ちなみに、断章こと火星分割編ではその名の通り、本編でも扱ってきた火星の諸問題が一旦の終わりを迎えるので、その辺りが気になる方は是非。
終章までで断章に向けて伏線も張ってるので、「アレ? これ何の伏線だったの?」って思った箇所が有った方も是非是非。
後書きと断章は、当初の想定よりかなり長くなってしまったので、複数に分けて投稿致します。
最終話投稿の翌日に「後書き Ⅰ」と「後書き Ⅱ」、その次の日に「断章」、更に次の日に「後書き Ⅲ」を掲載し、本作の更新を終了とさせて頂きます。
最後に。
この作品をお読み下さった全ての皆様に、心から御礼申し上げます。皆様の応援のおかげで、ここまで辿り着くコトが出来ました。
本当にありがとうございました。
【挿絵表示】