厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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【速報】第一章、これが最終話
次回からは第二章に突入か

アグニ会幹部の一人は、不穏なサブタイトルを引っさげたこの話が、第一章の最終話だと明らかにした。
たったの五話で章が移り変わると言う異常事態。
当のアグニ会幹部は、「章タイトル決めでは、『presage flower』や『lost butterfly』、『spring song』などと付けないよう頑張った」などと意味不明な供述をしており、捜査の進展が待たれます。


なんて茶番はさておき。
第一章のラストなのはマジです。
早くね?(お前が言うな)
まあ、四章五章辺りで長大化が予測されますので、一章くらい短くても良いよネ(開き直り)

そんな訳で今回、コロニー落としがひとまず決着。
それではどうぞ。


#05 墜ちし空

「―――う…」

 

 全身を貫く痛みを受けて、私は目蓋をゆっくりと持ち上げる。目蓋の隙間から純白の光が差し込み、その眩しさで私は思わず顔をしかめた。

 それから眩しさに目を慣らしながら、私は目を見開く。そこに移ったのは、蛍光灯と白い天井。

 

「あ、痛ッ…!?」

 

 身体を起こそうとするが、全身に再び鋭い痛みが来る。あまりにも痛かったので、私は起こしかけた身体をベッドに倒した。

 

「ここ、は…」

 

 枕に頭を任せたまま、周囲を見回す。それで、自分が治療機に入れられているコトを知った。

 

「――、そう言えば…火星独立軍は!?」

 

 自分がセレドニオ・ピリーに蹴り飛ばされて意識を失ったコトを思い出し、再び身体を起こそうとする――が、やはり痛みで失敗した。

 

『あまり暴れるな、レヒニータ姫。外へ出るのが遅くなるぞ?』

 

 そこに、老人の声がした。しわがれた、けれど私に起き上がっては行けないと思わせる――どことない威厳の有る声。

 気付けば、治療機の側には一人の老人が立っている。

 

「貴方、は…?」

『キミの治療を任された、ナーサティヤ・アシュヴィンと言う者だ。完治するまでそこから出す気は無いぞ』

 

 その名前は、私にも覚えが有った。

 火星を巡って、マトモに医療を受けられない子供達を無償で治療している年配の医師――その老人の名前が、ナーサティヤ・アシュヴィンだ。

 

「火星独立軍は…『コロニー落とし』は、どうなりましたか――?」

『今、その「天の雷(ドンナースターク)」作戦が大詰めらしい。コロニーは以前として四つ、地球への落下コースに乗っておる』

「…ッ――!」

 

 自分の無力さに腹が立ち、思わず歯を食いしばった。

 止められなかった。何も出来なかった。

 

 それ以前に――私は知らなかった。

 彼らがそれほどまでに、苦しんでいたコトを。彼らがこれほど、地球の人々を恨んでいたコトを。

 

 セレドニオの言う通り、私は何も知らない小娘だった。綺麗事で人々を扇動し、人々の心を知ったつもりになっていた―――ただの小娘でしかない。

 

『何も出来なかった――そうやって、自分を責める必要は無いぞ?』

「え…?」

 

 虚を突かれて、私はナーサティヤ医師の方を見る。ナーサティヤ医師は微笑んだまま、こう続けられた。

 

『人は、一人では何も出来ない。そう言うモノだ。どんな賢者だろうと、一人で出来るコトなどたかが知れておる。それはキミも、セレドニオの奴も変わらない。

 だが、二人でなら二倍のコトが出来る。三人では三倍のコトが、四人では四倍のコトがな。人が集まれば集まるほど、人はより大きなコトをするコトが出来る。だから人はムラを作り、町を作り、都市を作った。より多くの人を集めて、世界をより良くする為にな。そう言う善意と言う名の願いが集まれば、世界は発展していく。

 地球の「改元条約」もそうだ。人が無闇に死なないように、と作ったゲームが「決闘」であり、足並みを揃える為に毎年毎年飽きもせずやっているのが「十国会議」だ。そう言う意味では、地球の支配体制はしっかり固まっていると思えるな』

 

 しかし、と言って、表情を厳しくしてナーサティヤ医師は続ける。

 

『永遠に良く在り続けるコトは出来ない。何故かは分からんが、世界はそう言う風に作られておる。こればかりは何人が集まろうとどうしようもない、この宇宙が誕生してから変わらぬルールだ。

 誰かが何かを得る為に、誰かが何かを失わねばならない。理不尽で残酷なコトだが、それが現実だ。地球の経済発展の為に、火星の労働者達は犠牲になった』

 

 コストが掛かるからと機械は用いられず、劣悪な環境の中で数多の労働者達は倒れて行った。火星への移民が始まってからずっと、そこに住む人々は全ての利権を地球に奪われて来たのだ。

 

『人間には知性が有り、感情が有る。動物達のように、この理不尽な現実をただ受け入れるコトは出来ない。それが人間と言う種族の、最大の矛盾と言えるだろう。なまじ知性と感情を得たが故に、道理の通らない理不尽を赦せなくなった。

 その結果が今だ。セレドニオ達の怒りは確かに正しく、その復讐には道理が有り、理解も出来る。頭ごなしに否定するコトは出来ないし、そんな権利を持つ者はこの世界のどこにもいない』

 

 私はふと、シーツを握りしめていた。

 ナーサティヤ医師の言葉は、ある意味ではこの世の真理だ。確かに事実を述べているし、その言葉には否定出来ない理が有る。

 けれど――

 

「それでも――あんな方法、間違っています…!」

 

 肯定するわけには行かない。

 自分が苦しめられたからと言って、苦しめた人間と同じ場所に住む人間まで一緒に殺して良いハズが無い…!

 

『そうだ。多くの人が集っているとは言え、その集団のやるコトが正しいとは限らない。何故なら、そもそも人間自体が間違えるモノだからだ。そればかりは、どれだけ数が増えようと変わらない。

 人間は間違える。けれど、自分ではそれが間違いだと、分からない場合も多い。だから――他人が、間違いだと教える必要が有る』

 

 間違いを重ねに重ね――でも、そうやって人間は生きてきたと、ナーサティヤ医師は言う。

 

『レヒニータ・悠那・バーンスタイン。キミには力が有る。私のように、目の前の人間を一人救うだけの小さな力ではない。もっと大きな、目に映らない人間をも救う力が有る。

 まずは、自分の信じたコトをやってみたまえ。それがもし、間違っていたならば――キミを信頼し、キミが信頼する誰かが、キミにそう教えてくれるだろう』

「…私の、信じるコトを―――?」

 

 

   ◇

 

 

 地球に向かうスペースコロニーは、もう既に七つから四つへと減っていた。地球軍には水爆が六十発ほど残っている上、四つの内三つは損傷している。

 

「ここまでは計画通りだが――」

 

 地球軍艦隊を指揮するキャロル・メイヒュー中将は、座乗するジェラルドフォード級宇宙戦艦「ピーター」のブリッジで、火星軍の動きに目を見張らせていた。

 これまで火星軍は、モビルプレーン部隊へのコロニーによる質量攻撃、核を搭載したMP特攻部隊と立て続けに地球軍の予想に無かった手を打ち出し、地球軍に対応を強いてきた。次に何をしでかすか、分かったモノではない。

 

「――!? メイヒュー中将、艦隊左翼の『ヘンリー』からのリンクが途絶えました!」

「…何だと?」

「『アンジェリーク』、『ヘインズ』途絶! ――ッ、これは…次々と、艦隊とのリンクが途絶して行きます!」

 

 オペレーターからの報告に、キャロルは眉を(ひそ)める。だが、黙って見ているわけには行かない。

 

「原因を特定し次第、報告しろ!」

「第四コロニーが減速!」

「!?」

 

 キャロルはその時、火星軍の意図を図れずに一瞬思考を停止させた。

 ここで減速させる理由など、存在しないハズだ。これまで虚を突くと共に自分たちの優位になるよう戦況を動かして来た火星軍が、あんな意味の無いコトをするハズが無い。

 

「レーダー無効エリアが発生! 左翼から広がって来ています!」

「左翼艦隊、制御不能状態に陥った模様!」

「コロニーの動きが――、レーダーが!?」

「何だ――何が起きている!!?」

 

 ふと、艦が衝撃を受けて揺れた。同時にモニターが消失し、戦闘ブリッジが暗闇に包まれた。

 

 ()()()()()()()()

 

「モニター消失!! レーダーが効きま――、艦の制御が出来ていません!!」

「原因は!?」

「分かりません! 状況把握不能!! モニター回復の余地無し!」

「ええい…!」

 

 キャロルは歯を食いしばりながら、オペレーター達に指示を出す。

 

「戦闘ブリッジを解除! 通常ブリッジに戻し、窓のシャッターを上げろ!」

 

 戦闘ブリッジは艦にブリッジを収納した形態だが、通常ブリッジに戻せばブリッジの位置は上がって、窓から外を視認出来るようになる。

 艦から飛び出るので危険度は高くなるが、とにもかくにも状況を把握しなければならない。

 

「機械操作は不可能――手動操作に切り替え、ブリッジを戻します!」

「戻り次第、目で直接周囲の状況を確認し報告しろ!」

 

 艦が大きく揺れる。ブリッジが戻り、窓を塞いでいた鋼鉄のシャッターが開かれる。

 すかさず、キャロルは叫んだ。

 

「状況の確認を―――し…」

 

 その光景を、視認した瞬間。キャロルは、思考回路の何もかもが停止したコトを確認した。

 

 正面に見える艦の主砲が、デタラメに撃ち放たれている。艦正面のミサイル発射管から、核ミサイルが放たれて宇宙の彼方へと消えて行く。

 衝撃は艦が被弾して発したモノであり、その弾は周囲の艦が同じように暴走して砲台をデタラメに撃っているから。

 目の前には、四つのコロニーが迫っている。

 

「何だ、あれは――」

 

 艦の横側には、地球軍のモノではない艦艇がうっすらと見える。火星軍のモノだが、何かを運搬しているらしい。

 

 ふと、キャロルの脳内には、数ヶ月前の学会の様子が思い浮かんだ。

 

『エイハブ・リアクターから放たれるエイハブ・ウェーブには、通信を妨害し、コンピューターなどの精密機器を機能出来なくしてしまう弊害が有る』――そう述べていたハズだ。

 そのエイハブ・リアクターを提唱し建造した、エイハブ・バーラエナ当人が。

 

 

「そうか…『エイハブ・ウェーブ』――!!」

 

 

 キャロルはこの時、奇怪なリンク切断と艦が制御不能に陥った原因を感づき――それがどうしようもないコトだと、悟った。

 火星軍のやったコトは、そう難しいコトではない。

 

 月面都市「ヴェルンヘル」に存在するエイハブ・リアクターの試作品を艦隊によって持ち出し、戦場に持ち込んだ。

 

 それだけだ。それだけで、全ての艦の機能は停止させられた。()()()()()()()()()()()()()()()()、と言うだけで。

 

「成る程―――戦争も、エイハブ・リアクターによって、大きな方向転換を強いられるらしいな」

「キ、キャロル司令!! コロニーが、コロニーが艦の正面から近づいて来ます!!」

 

 正面から迫り来るコロニーを見たオペレーターが、分かりきったコトを報告した。キャロルは自分でも驚くほどに落ち着いた心で、オペレーターに聞く。

 

「回避は?」

「ダメです、艦の自動制御装置が完全に破壊されました!! 艦を動かせません!!」

「脱出は?」

「艦が損傷した為、機能が停止しています! 命令を受け付けません、脱出は不可能です!!」

 

 艦を操縦出来る操舵手は、この場にいない。無論のコト、手動で艦を制御出来る人材も。ブリッジを艦から離脱させるだけの簡易脱出すら出来なくなったのだから、生存するコトはまず不可能。

 

「『エイハブ・リアクター』――恐ろしい発明だ。今の人間が得て良いモノではないな」

「キャロル司令官!! 指示を!!!」

「艦の自動制御装置の回復作業に当たれ」

 

 オペレーター達は必死で目の前のキーボードを叩き出すが、もう無駄だ。エイハブ・ウェーブが真に精密機器を破壊してしまうなら、精密機器の究極とも言える戦艦の自動制御装置は、まとめて一挙に御陀仏確定である。

 火星軍は恐らく、艦の操縦を手動に切り替えている。だから、こんな作戦を実行出来るのだ。

 

「コロニーが衝突します!!!」

「うわああああああああ!!!」

 

 コロニーが、艦隊旗艦のジェラルドフォード級宇宙戦艦「ピーター」の正面に激突。艦首に残っていた核ミサイルが誘爆し、内部から爆散して行く。

 白い炎に蒔かれながら、キャロル・メイヒューは視界の端に映ったエイハブ・リアクターの光を恨めしげに見つめ――その意識を、永遠に失った。

 

 

「敵旗艦、撃沈を確認。第三コロニー、阻止限界点を越えます。第七コロニー、第一コロニーは二分後、第四コロニーは四分後に突破します」

「第四コロニーは予定通り、ニューヤークへの落下コースに乗っています。第一コロニーはロンドン、第三コロニーはパリ、第七コロニーはマドリードへ落下予定」

「他の敵艦は?」

「弾薬を撃ちつくし、沈黙しました」

 

 先ほどまで動いていた宇宙戦艦が自滅した光景を見て、火星独立軍第三艦隊司令のエメリコ・ポスルスウェイト中将は、思わず溜め息を吐いた。

 エイハブ・ウェーブの影響下では、現在存在する兵器が使用出来なくなる。戦艦もMPもMWも制御不能となり、マトモに戦うコトさえ出来ない。今回はその特性を利用するコトで圧倒的な戦力差を打ち破るコトが出来たが、これから戦争の形態は激変せざるを得なくなる。

 それらへの対応のコトを考えると、エメリコは頭が痛くなった。

 

「まあ良い――最大の障害は排除した。残存戦力を纏めて、ヴェルンヘルに凱旋するぞ」

 

 そう指示をして、エメリコは赤い炎に包まれようとしているコロニーを見据えた。

 

 

   ◇

 

 

 迎撃艦隊が壊滅した――その報告を受けた各国首脳達は、意識が遠のきそうになった。

 迎撃艦隊の壊滅。それは即ち、コロニー落下阻止作戦の失敗を意味する。

 

「コロニーは、どうなっている?」

「以前として四つが、地球への落下コースに乗っています」

 

 十人全員が、深い溜め息を漏らした。

 当然だ。条約を破ってまで水素爆弾を百発も戦場に投入し、十数万の人命を切り捨てて――防げたのは、七つ中三つだけなのだから。

 

「地上からの迎撃で、一つは確実に破壊出来る。だが、出来たとしても破片による被害は全世界に及ぶだろう」

「我々への信用が失われる事態は、最早――避けられぬようだな」

「数十億の人名がかかっている、と言うのに…」

 

 正攻法での阻止作戦は失敗。ならば、後は――

 

「先日決定した、もう一つの阻止作戦を実行せざるを得ない――だろう、アダムス大統領?」

「……我がアメリアが開発している兵器を、一つ使う。月面都市『ナスル』で開発されている、新型の衛星兵器を」

「――ほう。衛星兵器だったか」

 

 条約で明確に禁止されてはいないが、間違い無く国内外から批判を買う兵器――それが衛星兵器だ。なお、ここでの「衛星」は地球軌道上の人工衛星を指している訳では無く、地球の衛星である月のコトを指している。

 今の人類の科学力なら、月面から地球の地表に向けて攻撃するコトが出来る。防御も迎撃も不可能な月面からの地球都市攻撃――その為に造られる兵器を、総じて「衛星兵器」と呼ぶ。

 

 首脳陣は先日、迎撃艦隊がコロニー落としを阻止出来なかった場合、各国が極秘裏に開発している試作段階のデタラメ兵器を投入するコトを決定した。位置的な問題で、今回の作戦に使用出来るのは十国中二国のモノ。

 

「そうだ。かねてより開発していた、地球の地表を攻撃出来る超遠距離星間狙撃用大型荷電粒子砲――通称『イガルク・アリグナク』」

 

 イガルク・アリグナク。

 イヌイット神話の月神である「イガルク」と「アリグナク」の名を冠した、月面都市「ナスル」の周辺に設置された超遠距離狙撃用大型荷電粒子砲である。砲身の長さは実に二キロ近く有り、マスドライバー技術を応用して荷電粒子を加速させ、超高速超高熱のビームを撃ち出す。敵国都市の攻撃を想定した、衛星兵器だ。

 それならば、一撃でコロニーを一つ破壊出来る、とアダムス大統領は断言した。

 

「あらかじめ決められたコトだ、決定には従うさ」

 

 と言うのは、「オセアニア連邦国」のジェームズ・マルティナス総督。

 今回使用されるのは、「アメリア合衆国」と「オセアニア連邦国」の秘密兵器である。詳細は今この場で明かされているが、何にせよロクなモノではない。

 

「それで? どんなデタラメ兵器かね?」

「我が国独自ではなく、ディヤウス・カイエル博士の協力を得て試作したモノだが――『アルミニウスコロニー群』に設置されている、対宇宙居住地用特殊調整分子破壊砲。コードネームは『マサライ・ペレアイホヌア』」

 

 マサライ・ペレアイホヌア。

 ニューギニアはアラペシュ族の神「マサライ」とポリネシア神話の女神「ペレアイホヌア」の名を持つ、コロニーの破壊を目的として開発された分子破壊砲である。

 分子破壊砲とはその名の通り、目標物の分子構造を完全に破壊してしまう破壊兵器の究極とも言えるモノだ。マサライ・ペレアイホヌアの兵器構造は複雑怪奇かつ建造困難な代物である為、開発者のディヤウス・カイエルにしかマトモに整備出来ない。

 三年前に造られて以降、最低限の整備しかされていないが、ディヤウスは「整備無しだと五年で壊れる」と言っていたので撃てるハズだ。

 

「一回撃てば壊れる代物で、放たれた破壊ビームは相当な大きさの星にでもぶつからなければ進み続ける。当然地球にぶつける訳には行かんから、その上で射角を決定すると――」

 

 マルティナス総督はモニターの作戦図を叩いて、結論を導き出す。そして、苦い顔をした。

 

「『マドリード』に墜ちる第七コロニーにしか当てられない、か――出来ればニューヤーク行きの第四コロニーに当てたかったが、致し方有るまい」

「『イガルク・アリグナク』は、月面のナスルから狙う関係上、ロンドンへの第一コロニーにしか当てられん」

 

 ついでに言うなら、イガルク・アリグナクとマサライ・ペレアイホヌアは、試作段階の実験兵器だ。狙いは付けられるが、本当に発射出来るかは五分五分と言った所だろう。

 国家の信用以上に、まず不確定要素が大きく、兵器としての信頼性に欠ける。故にこそ、予備作戦に位置付けられたのだ。

 

「残りの第三、第四コロニーは地上での『核弾道ミサイル』で迎撃する。破片による被害は避けられんが、そのまま墜ちるよりはマシのハズだ」

「では、これで行こう。こればかりは火星独立軍も想定外だろうしな」

 

 コロニー群の大気圏突入まで、残り一時間半。

 十国会議によって、アメリア合衆国の超遠距離星間狙撃用大型荷電粒子砲「イガルク・アリグナク」と、オセアニア連邦国の対宇宙居住地用特殊調整分子破壊砲「マサライ・ペレアイホヌア」によるコロニー群への攻撃が決定した。

 

 

   ◇

 

 

 地球へ向かう、セレドニオ・ピリーが指揮する火星独立軍第一艦隊は、第二艦隊と第三艦隊が作戦を成功させたとの報を受けた。

 エイハブ・バーラエナとディヤウス・カイエルの身柄を確保し、「コロニー落とし」も幾つかは阻止されたものの本命は成功しようとしている―――セレドニオの、火星独立軍の狙い通り過ぎる展開だ。

 

「まさか、ここまで上手く事が運ぶとはな――」

 

 第二艦隊のデイミアン・リスターと第三艦隊のエメリコ・ポスルスウェイトは、セレドニオが絶対の信頼を置く優秀な人材だ。上手くやってくれるだろうとは思っていたが、実際にここまで上手く行き過ぎていると、逆に不安になる。

 

「…!? ヴェルンヘルの第二艦隊より、緊急通達です!」

「読み上げろ」

「は――月面都市『ナスル』の周辺、並びに『ラグランジュ5』に超高エネルギー反応を観測! コロニーを破壊出来る規模の、何かしらの兵器が起動した可能性が高い…とのコトです!」

 

 やはりか、とセレドニオは舌打ちする。あの金を有り余らせた地球種どもが、核を装備した艦隊だけに地球の運命を託すハズがない。

 セレドニオはそのまま、続きを読み上げさせる。

 

「阻止については?」

「数時間以内に止めるコトは不可能――と、デイミアン司令とエメリコ司令は推測している模様です」

 

 デイミアンとエメリコの推測は正しい。事実、セレドニオの予測とピッタリ重なる。

 月面都市「ナスル」には第二艦隊が攻撃を掛けられるが、どんな兵器が在るか分からない以上、無駄に損害を被る可能性が有る。

 「ラグランジュ5」の「アルミニウスコロニー」については論外。そもそも数時間以内には、火星軍のどの艦隊も辿り着けない。

 

「黙って見ているしか無い、か――だが」

 

 月面都市「ナスル」、アルミニウスコロニーから大気圏突入までの一時間半以内にコロニーを攻撃出来る兵器は、まず間違い無く遠距離砲撃型。真っ直ぐにしか飛ばないと仮定すると、射角的に狙えるのは第一コロニーか第七コロニーのみ。

 本命の第四コロニーが、攻撃を受ける可能性は低い。

 

「『ニューヤーク』には墜ちる。それなら、我々の勝利だ」

 

 セレドニオは、歯を見せて凶悪に笑う。

 ようやくだ。ようやく、忌々しい地球種(ゴミ)を排斥出来る。

 

(――見ていてくれ、アンジェリア。お前を散々苦しめ、俺達の娘を殺した地球種に、報復を与える時が来たのだ…!!)

 

 

   ◇

 

 

『月面都市「ナスル」より通告。超遠距離狙撃用大型荷電粒子砲「イガルク・アリグナク」、発射シークエンスを開始。荷電粒子照射まで三百秒、カウントダウンスタート』

『「アルミニウスコロニー」より。対宇宙居住地用特殊調整分子破壊砲「マサライ・ペレアイホヌア」、起動と同時に分子破壊粒子装填。発射まで三百秒』

 

『砲身へのエネルギー伝達開始。荷電粒子精製』

『目標設定。「イングランド統合連合国」経済特区「マドリード」への落下コースを取るドルト第七コロニー』

 

『荷電粒子砲、照準。「イングランド統合連合国」の「ロンドン」へと向かう第一ドルトコロニー』

『分子破壊粒子、活性化開始。砲身冷却用意』

 

『「イガルク・アリグナク」、エネルギー臨界。照射まで残り二十五秒』

『「マサライ・ペレアイホヌア」、発射準備完了。発射まで後二十五秒』

 

『二十』

『十五』

 

『十』

『五』

 

『四』

『三』

 

『二』

『一』

 

 

『『撃て(Fire)』』

 

 

 

 

   ◇

 

 

 地球へと落下する、四つのコロニー。

 その内の二つが突如として、破壊された。

 

 ロンドンへと落下するハズだった第一コロニーは、黄色の粒子ビームによって中央に大穴を空けられ、そこから各部の接合が解かれて空中分解した。

 マドリードへの落下コースを取っていた第七コロニーは、何の前兆も無く後部核パルスエンジンから前部へと消しゴムを掛けて行ったように分解され、消滅した。

 

「イガルク・アリグナク、マサライ・ペレアイホヌアは自爆――ですが、第一コロニーと第七コロニーを破壊しました!」

「報告ご苦労。続いて、地上基地にて核弾道ミサイル発射準備。第三コロニーと第四コロニーを破壊する」

 

 かくして、コロニーが大気圏を突破したタイミングを狙って、第三コロニーと第四コロニーへの核弾道ミサイル攻撃が実行された。

 

「第三コロニーは空中分解を確認! 続いて―――第四コロニーも崩壊します! が、破片が降り注いで来ます!!」

「総員、衝撃に備えろ!!」

 

 

   ◇

 

 

 その日―――地球が、大きく揺れた。

 地球に在る大国の最高権力者が集う「十国会議」が開催されていた「アメリア合衆国」の首都「ニューヤーク」他、地球上の七都市に対し、火星独立軍が「コロニー落下作戦」を慣行したのである。

 

 結果として、火星独立軍の目論見は失敗した。スペースコロニーは空中分解させられ、ニューヤークを主とする都市が壊滅する事態は回避された。

 しかし、地表にはコロニーの破片が降り注いだ。地球の彼方此方にはクレーターが残り、都市を守る核シェルターも少なからず破壊され、都市部にも破片は落下した。

 

 十国会議の開催期間中、十国が総力を上げて阻止作戦を行ったにも関わらず、実に一億人以上の死者が生まれ――怪我人なども含めれば、人的被害は二十億人にも及んだ。

 結果的に十国と十国会議は非難を免れずに信用を失い、火星独立軍の攻勢を勢い付ける形となった。

 

 M.U.0040年、一月。

 後に「厄祭戦」と呼ばれる人類史上最悪の宇宙大戦は、この瞬間に火蓋を切ったのである――




第五話「墜ちし空」をご覧頂き、ありがとうございました。
そして第一章「開戦 -open the certains-」、これにて終了です。

モビルスーツもモビルアーマーも出て来ない(オイ)序盤戦、お疲れ様でした――MSもMAも無いので、スピード重視で突っ走りました許して下さい。
ホントすいません、次章はモビルアーマー出す予定なので…(なおそれにより、人類は絶望の淵に叩き落とされる模様)


《オリジナル設定》
月面都市「ナスル」
・存在自体がオリジナル設定。
・場所は宇宙世紀時代の「グラナダ」と同じ。

イガルク・アリグナク
・言うまでもなくオリジナル設定の兵器。
・小説版「∀ガンダム」に出た「カイラス・ギリ」の超弱小版と思って下さい。再登場の予定は無し。

アルミニウスコロニー
・存在自体がオリジナル設定。
・場所はラグランジュ5(当のラグランジュ・ポイントの明確な場所は決めてない)で、オセアニア連邦国の植民地。

マサライ・ペレアイホヌア
・言うまでもなくオリジナル設定の兵器。
・分子破壊砲とか言うやべーやつですが、今のところ分子破壊砲に再登場の予定は有りません。
・発射される破壊粒子の奔流は針程度の細さでしかないので、規則的に動く奴にしか当たらないのが弱点。おかげで廃れた。


《新規キャラクター》
ナーサティヤ・アシュヴィン
・火星で恵まれない子供達の治療をしている医師。
・元々は地球生まれで、兄がいる。名前が強い。


《今回のまとめ》
・レヒニータさん、決意を新たにする
・エイハブ・リアクターの前では、現行兵器の一切が使えなくなってしまう模様
・地球に大被害(パルテノンが吹っ飛んだ?)




次章「誕生 -Broken Pointer-」
次回「天使の生誕」
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