厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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気付いたら、三日が経ってました。
最近、本当に時の流れが早い…早くない?
…ハッ!?
『キング・クリムゾン』ッ!? まさかッ!


なんて、冗談はさておき。
今回から、第二章となる「誕生 -Broken Pointer-」となります。
何が「誕生」するかは、これからのお楽しみ(大体察されてるでしょうが)
「Broken Pointer」は「壊れた針」と言う意味で付けていたり。

最初の方はちょっと省略した所が有ります。
全部やってたらマジで終わらなさそうなんで…。


第二章 誕生 -Broken Pointer-
#06 天使の生誕


 火星独立軍が行った「コロニー落とし作戦」は、全世界に衝撃を与えた。人類史上類を見ない大量殺戮を是とした非人道的作戦を実行した火星独立軍に対し、地球の十国は共同声明を発表した。

 

『我々は一般市民を大量に虐殺し、今なお月面都市「ヴェルンヘル」を制圧支配し続ける火星独立軍との、全面戦争を決断致しました!

 コロニー落としなどと言う非道は、断じて赦されるべきではない! 地球を恐怖に陥れ、ドルトコロニーに住む者達の全てを犠牲とした火星独立軍の蛮行を、我々は全力を持って否定する!!』

 

 対する火星独立軍も再び演説し、地球軍に屈する意志を一切持っていないコトを明確にすると共に、地球の火星に対する強硬政策を批判した。

 

『地球が行わせていた悪辣な環境での強制労働で、多くの火星の民達が犠牲となった! 伝染病が蔓延し、休日は存在せず、賃金はゼロに等しい! それこそが非人道的な所行だ! 我々はただ、正当なる報復を行ったに過ぎない!

 我々は地球の支配から脱却すべく、地球への更なる武力行使を行う所存でいる! 先日の言葉を繰り返すが、我々の目的は火星の無条件独立! それが成されない限り、我々が止まるコトは無い!!』

 

 互いの主張は平行線のまま、コロニー落としからずっと宇宙の各地で小競り合いが起きており、地球軍と火星独立軍は拮抗している。

 本来なら物量で勝る地球軍が勝利する所だが、現在火星独立軍が占領する月面都市「ヴェルンヘル」には、多くの軍事工場や兵器開発施設が隣接している。そこに収められていた新兵器の戦線投入と艦隊戦力の増強により、数で劣る火星独立軍は地球軍と互角の戦いを繰り広げるコトが出来ていた。

 

 

 そして―――時はM.U.0042年。

 「コロニー落とし」から二年。火星独立軍は、一度は地球上まで拡大していた戦線の、月周辺までへの後退を余儀無くさせられていた。

 しかし、これは必然だ。元より戦力では圧倒的に火星独立軍が不利。それに加え、火星独立軍は本拠地である火星から距離が離れ過ぎている為、補給線を維持するコトが出来ない。月に隔離された火星独立軍は、月面都市「ヴェルンヘル」の資源を以てどうにか戦えているに過ぎない。

 火星独立軍はこの二年で、何度も地球に対し様々な方法で打撃を与えようとしたが、一度「コロニー落とし」をされた地球が火星独立軍が動くコトを許すハズが無く――「コロニー落とし」以来、火星独立軍は敗戦を重ねている。

 

 そんな窮地に追い込まれた火星独立軍は今、新たな兵器の開発を行わせていた。

 

 エイハブ・バーラエナとディヤウス・カイエル。世界でも有数の頭脳を持つ、天才と呼ばれ讃えられる研究者達に。

 

「ディヤウス君。どうかね?」

「最新型のコンピューターを採用しつつ、最新鋭の実験兵器を数多く搭載しました。単騎で戦局を覆し得る、最高の兵器として完成するでしょう」

「ふむ…」

 

 月面都市「ヴェルンヘル」に隣接する軍事工場で組み上げられている「それ」を前にして、ディヤウスとエイハブはそのスペックについて最終確認をする。我ながら凄まじいモノを造ったな、との恐れを抱きながら。

 開発開始から二年――エイハブとディヤウスの開発している兵器は、ようやく完成を迎える。最新の技術を惜しみもせず投入して、二人はこれを造り上げようとしていた――

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

(――果たしてこれは、この世界に在って良いモノなのか?)

 

 ディヤウスは、率先して開発を行っているわけではない。元々捕らえられ、強制的に造るよう命令されただけだ。しかも、ディヤウスは最初これを断固として拒否していた。

 地球には、彼の息子がいる。彼の朋友と、その娘もいる。昔に別れた、かつての妻もいるハズだ。「コロニー落とし」を平然と行い、一億人以上を虐殺した火星独立軍に協力するくらいなら、今この場で舌でも噛み切って死んだ方がよっぽどマシだ。

 

 ニヤニヤと薄笑いを浮かべる火星独立軍第二艦隊司令官デイミアン・リスター少将の言葉を、ディヤウスはそうやって一蹴したのだが――今、ディヤウスが開発に携わっているのは、共に捕らえられたエイハブ・バーラエナに頼まれたからだ。

 

「私は奴らに協力するコトにした。だが、私だけでは奴らの願いには応えられない。ディヤウス君。私の個人的な贖罪に、どうか付き合ってくれんかね」――ディヤウスに対し、エイハブは土下座をしてまでそう頼み込んだ。

 自分が「エイハブ・リアクター」を造ったコトで、火星独立軍は動かざるを得なくなり、コロニー落としをするハメになった――デイミアンがエイハブに向けて言った、暴論にも近いその言葉を、エイハブはずっと気にかけていたのである。

 

 エイハブ・バーラエナは、そう言う人だ。利権と欲望で動くこの世界で生きるには、あまりにも純粋な――いささか純粋過ぎる、()()()()なのである。

 ディヤウスとエイハブとの付き合いは、もう三十年にもなる。エイハブが「エイハブ粒子」を発見した、ディヤウスがまだ若造だった時代から、ディヤウスとエイハブは知り合いだった。

 ディヤウスは常に、エイハブに羨望の眼差しを向け続けて来た。エイハブ・バーラエナと言う男は、ディヤウス・カイエルの憧れだった。そしてエイハブは、真っ直ぐ見ていられぬ程に眩しい「善人」だったのだ。

 

 そしてエイハブは、戦争を忌み嫌っていた。エイハブ粒子の発見は偶然性が大きいが、エイハブ・リアクターの開発は、エイハブの血のにじむような努力が成し遂げたモノだ。

 エネルギーに困らないように、と。その為に戦争をするコトが無いように、と。純粋に世界平和を願って、ただその為だけにエイハブは生きて来た。その為に、文字通り己が人生を賭して、エイハブ・リアクターを開発した。それを、ディヤウスは良く理解していた。

 そんなエイハブ・リアクターが、間接的とは言え戦争の原因になった。この事実が、如何にエイハブを苦しめているかは想像出来た。

 

 自分が最も忌避していた戦争が、自分の研究が原因で勃発した―――その事実は、エイハブ・バーラエナと言う男の全てを否定するコトと等しい。

 

 だからこそ、助手であるトリテミウス・カルネシエルはデイミアン・リスターと言う男に、彼としては珍しい激情を露わにした。トリテミウスはディヤウス以上に、エイハブ・バーラエナと言う人間を知っている。故にこそ、その存在の全てを否定したデイミアンを赦せなかったのだ。

 

 あの日、エイハブ・バーラエナは全てを否定され――それから「コロニー落とし」を目の当たりにさせられてから、エイハブは火星独立軍の為に新兵器を開発し始めた。

 ディヤウスがその行動の理由を問うた時、エイハブはこう言った。

 

 ――贖罪だ、と。

 

 このようなモノの開発が何故、何の贖罪となるのかが、ディヤウスには分からなかった。言葉を取り違えているのでは、と思えた。

 だが、エイハブの中では確かに筋が通っているようだった。それからエイハブに頭を下げて頼まれた時、ディヤウスは断る言葉を持たなかった。

 

(完全自律式の無人兵器――確かにこれなら、戦局も覆せるだろう。だが、これの何が贖罪になる?

 エイハブさん、貴方は何を考えているんだ…?)

 

 ディヤウスとて、世界有数の頭脳を持つ優秀な研究者だ。だが、それでもエイハブとの間には、埋めがたい開きが有る。ディヤウスには、エイハブの考えが分からなかった。

 その赤い瞳で何を見ているのか。その明晰かつ聡明極まりない頭脳の中で、何を巡らせているのか。

 助手であるトリテミウス・カルネシエルにすら分からないそれを、ディヤウス・カイエルが知るハズも無かった。

 

 

   ―interlude out―

 

 

 

 

 火星独立軍は、いよいよ追い詰められていた。月周辺宙域でも敗戦したコトで、地球軍は月面都市「ヴェルンヘル」の奪還作戦を視野に入れた。

 最重要拠点とも言える月面都市「ヴェルンヘル」を失えば、火星独立軍は問答無用で、火星への撤退を余儀無くさせられるだろう。

 

「全く――セレドニオさんが引き上げられた時に限って、攻勢を仕掛けて来るとは…」

 

 月面都市「ヴェルンヘル」の防衛を預かる火星独立軍第二艦隊司令官デイミアン・リスター少将は、例の兵器が開発されている軍事工場への道を車で行きながら、そう溜め息を吐いた。

 

 火星からの補給線を地球軍艦隊に切られるコトを恐れた火星独立軍総司令官セレドニオ・ピリーは、三十隻からなる火星独立軍最大規模の第一艦隊を率いて、火星へ帰還した。現在ヴェルンヘルに在るのは、デイミアン・リスター少将の第二艦隊と、エメリコ・ポスルスウェイト中将の第三艦隊。

 合わせても四十隻にすら届かない艦隊では、百隻以上を投入して来るであろう地球軍艦隊を相手にしたところで、必敗。二年もの長期に渡る戦争で、火星独立軍の弱みが露見した結果と言えるだろう。

 

「しかし、間に合って良かったです。()()が正しく完成しているのなら、我々には少なからず勝ち筋が有りますからね」

 

 月衛星軌道上で防衛任務についている第三艦隊司令官のエメリコは、アレにデイミアンほどの期待を抱いていない。セレドニオが増援の艦隊を率いて帰還するまでの一ヶ月、このまま耐え忍べば良いと考えている。そんな難題を成し遂げてしまえるだけの実力者だと、デイミアンはエメリコのコトを理解しており、信頼も置いている。

 だが、それでは足りない、とも。

 

「我々に求められるのは、この圧倒的劣勢を覆し得るだけの絶対的な破壊兵器。核すら上回る、自律した完全無人兵器」

 

 そしてそれは、つい先日完成した。今日はそれをデイミアンが見た後、起動実験を行う手筈になっている。

 軍事工場に到着したデイミアンは、その中に入って堂々と置かれた「それ」を見た。

 

「―――素晴らしい」

 

 一目見た印象は「天使」――二枚の巨大な翼を工場の敷地いっぱいに広げている、全長数百メートルにもなる大型の機体。横に細長い頭部と胴体に二枚の翼、二本の腕が接続されている。

 幻想的ながら各部に破壊兵器を仕込んだモノは、やはり美しく素晴らしい――としか、デイミアンには言いようが無かった。

 

 

 モビルアーマー。

 

 

 その兵器は、このように名付けられた。

 敵を狩る天使。無人兵器の究極とも言える存在。

 自分で認識し、判断し、戦闘をする。補給や修復すら全て単騎で行い、命令を成し遂げるまで戦い続ける、最新にして究極の完全自律式大型無人殺戮破壊兵器。

 これを地球に送れば、数年も掛からずに地球の人類を皆殺しに出来る。それだけの性能を、ポテンシャルをこの機体は秘めている。

 

 エイハブ・リアクターから発生する素粒子を利用した、新解釈の「ビーム兵器」。

 ワイヤーによって駆動する、最新素材の「高硬度レアアロイ」すら上回る硬度を持つ、「特殊超硬合金」製の近接格闘用ブレード。

 特殊金属を付着させ、エイハブ・ウェーブで振動させるコトで、攻撃のエネルギーを分散する効果を持った特殊装甲「ナノラミネートアーマー」。

 そして――新たなMA(モビルアーマー)を生み出す、規格外の開発、生産能力。

 

「スペックは、希望通りですか?」

 

 側にいた整備士の一人は、デイミアンのその質問に対し首を縦に振る。もう一人は、それすら上回るモノです、と述べた。

 

「結構。エイハブさんとディヤウスさんはどちらへおられるのですか?」

「エイハブ氏は現在、最終調整の為に第一観測所におられます。ディヤウス氏はエイハブ氏に頼まれ、火星独立軍の監視の下で月面都市『ヴェルンヘル』へ向かいました。エイハブ氏の助手であるトリテミウス氏も同様です。戻るまで、後一時間は掛かると思われますが」

「ふむ――まあ、ディヤウスさんが戻るのを待つ必要は無いでしょう。地球軍の連合艦隊が来るのも、そう遠いコトではありませんし。エイハブさんに、三十分後に起動実験を始めると伝えて下さい」

 

 整備士にそう言って、デイミアンはエイハブのいる第一観測所に向かった。第一観測所はMAの頭部よりも高い所に据えられており、大きな窓からMAの全景を見下ろすコトが出来る。

 無言でキーボードを打ち続けるエイハブに、デイミアンは近寄って挨拶をする。

 

「お疲れ様です、エイハブさん。早速で悪いのですが、三十分後に起動実験をしようかと思いまして」

 

 エイハブはプログラムを組み上げているようだったが、すぐにキーボードのEnterキーを叩いて、デイミアンの方を見て答えた。

 

「よかろう。準備は終わった」

「ええ、是非ともお願いしますよ。我々には時間が有りませんしね。それでは」

 

 デイミアンはそう言って、観測所を後にした。万が一のコトを考え、デイミアンは軍事工場の上空に第二艦隊の旗艦でもあるジェラルドフォード級宇宙戦艦「ブリストル」を持って行き、それに乗って起動実験を見届ける予定である。

 

「―――三十分。それだけで、世界は変わる」

 

 観測所に一人残されたエイハブは、そう独り言を漏らした。光を宿さぬ真紅の瞳で、窓の外に見えるMAを見下ろしながら。

 

 

   ◇

 

 

 デイミアンが訪れる、およそ十分前。

 完成したMAを前にして、エイハブはディヤウスにこう聞いた。

 

「――ディヤウス君。人類は、戦争をやめられると思うか?」

 

 唐突なその質問の持つ意味を、ディヤウスは測り損ねた。だが、聞かれたからには答えなければならない。真剣に考え、ディヤウスは口を開く。

 

「出来なくはないでしょう。ただ、その為には戦う意志の一切を排除するか、戦争をする相手がいなくなるかしなければならないと思いますが」

「―――そうか」

 

 その言葉を発した時のエイハブに、ディヤウスはどこか哀しげな雰囲気を感じた。ディヤウスがそれを追及するより前に、エイハブは次の質問を投げてきた。

 

「このMA――『ガブリエル』を止める術は、有ると思うか?」

 

 やはり、意図を汲み取れない質問だ。だが、今度もディヤウスは真剣に答える。意味も無く、エイハブがこんなコトを聞くハズは無いからだ。

 

「…そうですね――それも、出来なくはないでしょう。確かに、MAは人類に取って看過し難い脅威になり得る。だがそれでも、所詮は人の造ったモノ。

 人が造ったモノなら、必ず人の力で破壊出来る。どんなモノであろうとも、人が造ったモノなら、必ず人の助けにもなる。少なくとも、俺はそう考えていますが」

「―――そうか」

 

 今度は、哀しげな雰囲気を感じなかった。表情からは読み取れないが、どこか喜ばしく思っているようだ。

 

「――エイハブさん。一体何故、こんなコトを?」

「対した意味も無い、老人の感傷さ。――ディヤウス君。もしMAを止めなければならない時が来たなら、その役割を担う兵器には、悪魔の名前でも付けてみたらどうかね?」

「天使を狩る悪魔――と言うコトですか。それならマヴァットが詳しそうですな」

「はは、確かにな。ところでディヤウス君、キミに一つ頼みが有るんだ。聞いてくれたまえ」

 

 そう言って、エイハブはディヤウスに情報端末(タブレット)を渡した。そこには、物品のリストが映し出されていた。

 

「――これは?」

「トリテミウスと共に、ヴェルンヘルの私の家に行き、それらを持って帰って来て欲しい。トリテミウスはその部品の分野には疎いのでね、知識を与えてやってくれたまえ」

「はあ…まあ、構いませんが…」

 

 確かにそこには、専門的極まりない物品の名前がズラズラと並び立てられていた。ディヤウスですらうろ覚えな部品の名前すら存在している。

 

「間違い無く持って来てくれ。火星独立軍の素人共に行かせて触らせるのは論外、トリテミウスもそちらには弱いのだ。キミに頼みたい」

「――分かりました。行こう、トリテミウス」

「ああ。それではエイハブさん、また」

 

 ディヤウスはトリテミウスと共に、MAを建造している軍事工場を離れて、ヴェルンヘルの都市部へと向かった。




第六話「天使の生誕」をご覧頂き、ありがとうございました。

お待たせ! モビルアーマーが出来たよ!!
――出来ない方が、人類は平和に暮らせるんだよなぁ…何故造った、あんなモン。

今回はオリジナル設定も新規キャラクターも有りません。
ただ、ガブリエルはオリジナル機体です。
まだ詳細は語れません(まだどころか、最終決戦まで語れない)が、とりあえず「フィフス・リアクターシステム」採用機――同調させた大型のエイハブ・リアクターを五基積んでいる、とだけ。


《今回のまとめ》
・アウェーの地球で二年も頑張る火星独立軍凄い
・エイハブさん良い人過ぎる
・MA起動で世界が変わる(一切の比喩無し)




次回「厄祭戦、開幕」
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