厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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五日も空いてしまい、申し訳ございません。
リアルの事情でどうしようも無く…。
せめて、ガンダム・フレーム起動まではあんまり時間を経たせたくないんですけどね…。

そんな感じで、サブタイがヤバい今回。
後世から見ると「厄祭戦」は火星独立軍が地球に宣戦布告した瞬間から始まっているのですが、やはりモビルアーマー起動の時にこそ、このタイトルは持ってくるべきかと思いましたので。


それでは―――悪夢をお愉しみあれ。


#07 厄祭戦、開幕

 全ての準備は整った。

 火星独立軍が戦局をひっくり返す為に開発させていた新兵器「モビルアーマー」が完成し、起動実験の為の艦隊配備も完了し――いよいよ、起動実験が開始されようとしていた。

 

「MAが完成致しました。これより私の監督の下、起動実験を行います。それに伴って『ガブリエル』の『フィフス・リアクター』に火が入れられる為、しばらくはヴェルンヘルとの通信が途絶えますコト、ご了承下さい」

 

 MAを建造し、現在もMAが置かれている軍事工場の直上に配備された、火星独立軍第二艦隊旗艦のジェラルドフォード級宇宙戦艦「ブリストル」――その艦橋(ブリッジ)で、デイミアン・リスター少将は火星への帰途についている火星独立軍総司令官セレドニオ・ピリーに、通信で報告を入れていた。

 

『見事な手際だ、デイミアン。お前にヴェルンヘルの制圧とMAの手配を頼んだコトは、間違いでは無かった』

「お褒めに預かり、光栄です」

 

 デイミアンの吉報に対し、セレドニオは満足げに一度頷く。

 

『通信再開の折には、実験が成功したとの報告を期待する』

「ええ、楽しみにお待ち下さい」

 

 通信が切れた直後、ブリッジのオペレーターがデイミアンに観測による結果を伝える。

 

「敵軍がヴェルンヘル防衛艦隊に接近中。エメリコ中将が迎撃準備を始めたようです」

「おや――地球種は遂に、ヴェルンヘルの奪還作戦に打って出たようですね。まあ、少々遅かったようですが」

 

 今更地球軍が何をした所で、MAの起動の方が早い。今回はとりあえず起動するだけの予定だったのだが、デイミアンは急遽予定を変更した。

 

「せっかくです。実戦に投入して、MAの性能を測るコトとしましょう。ではエイハブさんに、実験開始の合図を送って下さい」

「了解しました」

 

 オペレーターがコンソールを操作し、月面の軍事工場にいるエイハブに通達する。

 その直後、グオオオオ――と言う音と共に、艦のレーダーがブラックアウトした。エイハブがMAの「フィフス・リアクターシステム」を稼働させたコトで、エイハブ・ウェーブが散布され始めたのである。

 

「エイハブ・リアクター、規定出力数値を突破。機体、システム共に異常無し。六十秒後、MA『ガブリエル』の中枢コンピューターが起動します」

 

 デイミアンは、オペレーターの報告を受けてほくそ笑んだ。

 ここまでは全くの順調――このまま行けば、MAは火星独立軍の劣勢を覆す切り札足り得る。それだけのスペックを秘めているコトは設計図を見た時から知っていたし、実際に見た時、デイミアンはそう確信した。

 

「中枢コンピューター起動まで、残り三十秒」

「システムオールグリーン。一切問題有りません」

 

 MA「ガブリエル」の頭部頭上に位置する第一観測所には、エイハブ・バーラエナの他にもMA開発に関わる数十人もの研究者が集まっていた。今ここにいないのは、基礎設計と建造を行ったディヤウス・カイエルと、エイハブ・リアクターの製造に携わったトリテミウス・カルネシエルのみだ。

 

「中枢コンピューター起動まで、残り二十秒」

「もうすぐですな、エイハブ殿」

 

 側にいた研究者の一人が、エイハブにそう話し掛ける。しかし、当のエイハブは無言のまま「ガブリエル」を見据えるのみ。

 

「中枢コンピューター起動まで、残り十秒」

「―――目覚めの時だ、ガブリエル」

 

 そして――MA「ガブリエル」の中枢コンピューターが、起動した。

 

 

 ―――目標検知。()()()()

 

 

「――!? ガブリエル、攻撃態勢に突入!」

「…何ですと?」

 

 軍事工場上空の火星独立軍第二艦隊旗艦であるジェラルドフォード級宇宙戦艦「ブリストル」で、デイミアンはその報告に疑問を抱いた。

 

(攻撃態勢? バカな、指令はまだ何も――)

「『頭部ビーム砲』、展開!! エネルギー反応、急速に増大!! ガブリエル内部で、素粒子の圧縮が開始されています!!」

「ッ、実験中止! 電源を落として下さい!」

 

 珍しくデイミアンは叫んだが、その言葉はすぐにオペレーターの叫声にかき消された。

 

「命令を受け付けません!! 起動と同時に、何らかのプログラムが開始された模様!! ガブリエル、停止しません!!」

「ガブリエルの頭部ビーム砲、エネルギー臨界まで十七秒!!」

「―――、!」

 

 一体どういうコトですか、とデイミアンは考えを巡らせる。

 中枢コンピューターの設計は、ディヤウス・カイエルの仕事だった。何か、怪しげなプログラムを打ち込んだような素振りは無かった。火星独立軍の研究者達にも、組み上げられたプログラムはキッチリとチェックさせた。決して、下手なコトは出来なかったハズだ。

 

 と、その時――デイミアンの脳裏に、とある光景が浮かんだ。それは、ほんの三十分前のコト。

 

「まさか――」

「ビーム砲、臨界まで十秒――止められません!」

 

 ガブリエルは頭部を持ち上げて、内蔵されるビーム砲をエイハブのいる第一観測所に向け――圧縮されたビームを、一気に放出した。

 

『うわああああああああ――!!!』

 

 

「―――未来(じんるい)を任せたぞ、ディヤウス君」

 

 

 高熱を帯びて発光するビームが、逃げ惑う研究者達の身体を、一瞬で焼き払った。

 当然ビームは止まらずに進み続け、軍事工場の外壁を溶解させ――ビームの輝きが、月の銀色の大地を引き裂いた。桃色の光が宇宙に飛び出し、ガブリエルが首を持ち上げるのに合わせて、大地に対し垂直になるまで浮き上がって行く。

 

「ガブリエル、起動―――中枢コンピューター、暴走状態です!」

「ッ――モニター途絶! モニター出来ません!」

(まずいですね――あのような性能を持つ最新鋭兵器に刃向かわれては、止める術が無い…!)

 

 デイミアンの全身から、冷や汗が吹き出る。その焦りなど関知するコト無く、ガブリエルはビームを吐き出し続ける。

 否、ただ吐き出し続けるだけではない――首を振り、デイミアンが乗る直上のジェラルドフォード級宇宙戦艦「ブリストル」を撃ち落とすべく、ビームを移動させている。あれでは最早、ビームの(サーベル)とさえ言えるだろう。

 

「レーザー通信で、エメリコさんに連絡を! 過程は必要有りません、結果を! MAが暴走し、制御不能となったコトだけでも伝えて下さい!」

「り、了解致しました! 少将、ビームはどう致しますか!?」

「回避行動と共に、全武装を以てガブリエルを攻撃しなさい!!」

 

 ブリストルが回避行動に移ると同時に、全砲門からの砲撃をガブリエルに撃ち込む。しかし、ただでさえ工場の壁に隔てられている上、ジェラルドフォード級戦艦の主砲たるビーム砲では、MAの外装を構成する「ナノラミネートアーマー」を破るコトなど出来ない。

 

「ダメです、間に合いません! 直撃します!!」

「やめろ、来るなぁぁあああああああああああああああ!!!」

 

 席を立って逃げ出したオペレーター達の断末魔など、所詮は機械に過ぎないガブリエルが汲み取るハズも無い。

 ブリストルの艦首に、ビームが接触。包丁で豆腐を斬るかの如く、あまりにも容易く、最新鋭の宇宙戦艦が真っ二つにされて行く。

 

「こんな――こんなコト…!! 私は、私はただ―――ハは、ハハハはハ、」

 

 ガブリエルのビームが、ブリッジに届く。先ほどまで生きていたオペレーター達がビームに呑まれ、あまりにも呆気なく蒸発する。ビームは止まるコト無く、デイミアンの命を狩り取る為に迫って来る。

 その、絶望的と言う言葉では表現仕切れないほどに絶望的な光景を見て、デイミアンは恐怖し――(つい)に発狂した。

 

 

「ハハはハハハハはハはハはハハ、あヒゃハハはははハハはハははハハハはハはハハハはハハは――!!!」

 

 

 直後。

 デイミアン・リスターの身体はビームに触れた途端に気化し、その意識と哄笑がかき消えた。

 

 ビームはジェラルドフォード級宇宙戦艦「ブリストル」を真っ二つにし終わる前に消滅したが、艦はたちまち誘爆し、ビームの消滅から間を置かず爆散した。

 

 

 ――目標撃破。認識。

 ――認識。新目標、月面都市「ヴェルンヘル」。

 ――文明破壊。人類殺戮。行動開始。

 

 

   ◇

 

 

 MA「ガブリエル」の暴走と、軍事工場の壊滅。

 エイハブ・バーラエナと、火星独立軍第二艦隊司令官デイミアン・リスター少将の死亡。

 これら絶望的な報告を四つ同時に受けた火星独立軍第三艦隊司令官エメリコ・ポスルスウェイト中将は、危うく意識が遠のきかけた。

 

「ハァ――全く、こんな失態をどうセレドニオ総司令に報告しろと言うのだ、デイミアンめ…!」

 

 既に難題が積み上がっている状況で、更なる難題が降りかかって来た。

 もう勘弁してくれ、と心からエメリコは思ったものの、現状月にいる火星独立軍唯一の司令官になってしまった以上は対応せねばならない。

 

「ガブリエルは現在、ヴェルンヘルに侵攻中。到達まで六分弱と予想されます」

「成る程、ヴェルンヘルに―――何? ヴェルンヘルに、向かっているだと!?」

 

 エメリコの頬に、一筋の冷や汗が伝う。

 ヴェルンヘルには今、ディヤウス・カイエルと、エイハブの助手であるトリテミウス・カルネシエルがいる。それだけではなく、五百万人もの一般人が住んでいるのだ。

 そんな所に、軍事工場を粉砕したMA――ガブリエルが到達すればどうなるかなど、誰であれ容易に想像出来る。

 

「クソ、フザケた状況だな――ただでさえ、ヴェルンヘル奪還作戦の為に地球軍が侵攻して来ていると言うのに…!」

「いかが致しますか、ポスルスウェイト司令…?」

 

 いかが致すもクソも無い。今、この状況で最も優先すべきモノなど、一つしかないのだから。

 

「ヴェルンヘルに駐留する艦隊にレーザー通信。一隻はディヤウス・カイエル、トリテミウス・カルネシエル両名を保護し、脱出しろとな」

「了解しました」

 

 火星独立軍が今やるべきは、ディヤウス・カイエルとトリテミウス・カルネシエルの安全確保だ。エイハブ・バーラエナが死に、MAが暴走状態となった今、MAを止められるのは基礎設計と開発をしたディヤウス・カイエルのみだろう。

 そして、ディヤウス・カイエルを守るだけの戦力を有しており、ガブリエル到達前に彼を保護出来るのは火星独立軍だけだ。

 

「しかし、それではヴェルンヘルの住民が――」

「遺憾だが、見捨てる他に無い。五分で五百万人の一般人を移動させるコトなど出来ない。させようとすれば間違い無く混乱が起こるし、そうなればディヤウス・カイエルとトリテミウス・カルネシエル両名の保護すら出来なくなる可能性が有る」

 

 人間が誰しも一度は求められるモノが、取捨選択と言うモノだ。この場合、取捨選択すべきは人命。

 五百万人の全てを救うコトは出来ない。だから、救うべき命から救うしかない。

 

「――了解致しました。そのように」

 

 部下は納得出来ないようだが、それはエメリコも同じだ。ただただ理論を並べて、感情を押し殺しているに過ぎない。

 

 五百万人の全てが救うべき命であるコトは分かっているが、この場合は救うべき命の定義を「MAを止める手段を持つか、作り出せるか出来る命」に限定する。そう考えれば、優先的にディヤウスとトリテミウスを救う選択になる。

 エメリコ自身、心は納得などしていないが。

 

「急げ。ディヤウス・カイエルの命が失われれば、人類は対抗手段を得られず、ただ殺されるだけになる。…MAと言う、殺戮の天使にな―――」

 

 

   ◇

 

 

 MA「ガブリエル」が暴走し、工場もろともにエイハブ・バーラエナは死亡した。

 エイハブの自宅を捜索していた時、そんな報告を監視役の火星独立軍兵士から聞かされたディヤウスは壁を殴りつけ、トリテミウスは後ろに流された金髪を掻き乱した。

 

「…エイハブさんッ――!」

「クソ…! よりにもよって、俺達が出払っている時にか…!」

 

 デイミアン・リスターが死んだ、と聞いた時は特に何とも思わなかったが、現在の最新鋭戦艦であるジェラルドフォード級宇宙戦艦がMAに掠り傷も与えられず轟沈した――と考えれば、全く笑えない。

 ただでさえ、エイハブ・ウェーブの影響下では、現状の戦艦、MPは制御不能の棺桶となり果てる。これらの影響を考慮せず、全力で戦える状態だとしても、MAには敵わない。

 

「お二人にはこれから、ヴェルンヘルより避難して頂きます。MAは現在、ヴェルンヘルに向けて侵攻中ですので」

「…一般人はどうなる?」

「エメリコ司令官は、五分で五百万人を避難させるコトは不可能だと判断しています」

 

 ヴェルンヘルの住民達は避難させず、人類最高峰の頭脳と技術を持つ二人だけでも生き残らせるべきだと、エメリコは判断したと言うコトだ。

 

「――成る程。正しい判断だ…正しすぎるな」

「では、これより宇宙港へと案内致します」

「待て」

 

 ディヤウスが、監視役の兵士を制止する。これに対し、兵士は少し焦ったように反論する。

 

「待てませんし、待ちません。MAの到達まで、四分も有りません」

「トリテミウス。ここがエイハブさんの家だってんなら、エイハブ・リアクターについての資料も有るハズだ。場所は分かるか?」

「――分かるが、何故?」

「それを持ってから逃げるぞ。早くしてくれ」

 

 トリテミウスはそれ以上追及せず、エイハブの書斎にその姿を消した。急かす兵士に、ディヤウスは落ち着き払って言う。

 

「MAに対抗出来る兵器を造るには、エイハブ・リアクターを載せる必要が有る。それも、同調したリアクターシステムをな。

 だが、エイハブ・リアクターには分からないコトがあまりにも多すぎる」

 

 「フィフス・リアクターシステム」――同調した五つのエイハブ・リアクターを搭載するコトで、ガブリエルは規格外の出力を得た。

 しかし、フィフス・リアクターシステムの開発はエイハブ・バーラエナの主導で行われた為、ディヤウス・カイエルはその仕組みについて理解していない。それは、エイハブの助手だったトリテミウス・カルネシエルも同様なのだ。

 

 助手にさえ分からないような理論、技術が、エイハブ・リアクターには少なからず内包されている。人類が得るには早急すぎるほど、エイハブ・リアクターは優れ過ぎているのだ。

 特に複数のエイハブ・リアクターを同調させる理論は、相転移炉に関わる研究の頂点に達すると言えるほどだ。頂点とは限界。同調させたエイハブ・リアクター以上の相転移炉を、今後人類が生み出すコトは無いだろう。

 エイハブ・リアクターを超える動力機関を生み出したいなら、それこそ「縮退炉(DHGCP)」にでも手を出さねばならなくなるだろう――少なくともディヤウスには、そう断言出来る。

 

「ディヤウス、有ったぞ」

「良し」

 

 トリテミウスが、エイハブの書斎から出て来た。その背中には、情報端末が詰め込まれた箱を背負っている。一体どれほどの情報がそこに有るか、トリテミウスにも予想は付かない。

 それから二人は、エイハブの自宅を出た。

 

「こちらの装甲車です。モビルワーカー二台に先導させつつ、最高速度で宇宙港へ向かいます」

 

 ディヤウスとトリテミウスは用意された火星独立軍の装甲車に乗り込み、主人を失ったエイハブの自宅を後にした。

 

 

 ―――月面都市「ヴェルンヘル」到達まで、後三分二十二秒。




第七話「厄祭戦、開幕」をご覧頂き、ありがとうございました。

あーあ、起動&暴走しちまったよ…「四大天使」ガブリエルが…(後書きで設定を暴露する作者)
ガブリエルさん、一話にしてネームドキャラを二人昇天させる。
強すぎて笑えねぇ…まあ、ガブリエルなんてクソ有名な天使の名前してる時点で…ねぇ?

今回も前回に引き続き、オリジナル設定や機体、キャラは有りません。
ガブリエルについてはまたいずれ。
アグニカ達が戦う時にでも書きます(いつだよ)


《今回のまとめ》
・マザーMAことガブリエル、起動
・エイハブさん&デイミアンさん死亡
・ガブリエル、ヴェルンヘルへの侵攻開始




次回「殺戮の大天使」
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