厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
年号がァ!! 年号が変わっている!!
(以上、CV:子安武人)
TwitterでノリだけでFate/SN×鉄血のクロスオーバー描いてたりしてたら、いつの間にか令和になってました。
何やってんだァ! コレを書けェ!!
書き貯めチャンスだろォがァ!!!
そんな訳で、令和初めての更新となります。
ディ・モールト愉快なサブタイトルしてますね…。
それではどうぞ。
倒れ込んでいたディヤウス・カイエルは、突如激痛に襲われ、閉ざされていた双眸を開いた。そして身体を起こそうとすると、自分の上に何かが覆い被さっているコトに気付く。
「――トリテミウス? トリテミウス! しっかりしろ!」
自身を襲う激痛を無視して、ディヤウスは自分を守るようにして覆い被さってくれていたトリテミウス・カルネシエルを揺さぶる。しかし、トリテミウスは息こそしているが意識を失っている為、返事が帰って来るコトは無い。
高熱の爆風に晒されたトリテミウスの背中は、着ていた白衣と下の服を焼かれ、焼けただれた素肌が晒されている。頭も強打しているらしく、赤い血が流れ出ていた。まだ、五体満足な分マシとさえ言える。
その時、再びディヤウスの身体に激痛が走った。
「ッ…!」
一体何だ、と思って、ディヤウスは激痛の発生源に視界を向ける。そこには、ディヤウスの右足と大きな瓦礫が転がっており――
――膝から下が、千切れて無くなっていた。
「――さて…」
常人なら発狂する所だが、右目と右腕を実験で失ってなお似たような実験をした、マヴァット・リンレスとか言うマッドサイエンティストを友に持つディヤウスは違う。
ひとまず「成る程」と納得して、傷の状況把握を始めた。
運悪く瓦礫が当たって右足が無くなったのは絶望的だが、高熱によって傷口が焼かれたコトで、自然に止血されている。少なくとも、失血死する心配は無いだろう。トリテミウスが庇ってくれたコトも有ってか、ディヤウスには右足以外に失った物は無さそうだ。
問題はそのトリテミウスだ。背中の大火傷より、頭を打っているのがマズい。非常にマズい。至急処置しなければ、命を落とす可能性も有る。
だが――
「この惨状で、処置に必要な物が揃うかどうか…」
近くに有る宇宙港にモビルアーマー「ガブリエル」がビームが撃ち込んだコトで、そこに集っていた人々は一瞬の内に蒸発するか、高熱を纏った爆風に吹き飛ばされるか、舞い上がった瓦礫に押し潰されるかし――ほぼ全員が死亡した。ディヤウスとトリテミウスは、宇宙港からある程度離れていた上に装甲車の陰にいたからこそ、奇跡的に助かっただけだ。
こんな世紀末的状況では、応急処置に必要な物など全て焼かれてチリとなっただろうし、そもそも右足を失ったディヤウスは遠くまで探したり取りに行ったりするコトが出来ない。共にいた火星独立軍の兵士に頼もうかとも思ったが、彼らは仲良く爆風に吹き飛ばされて悉く建物に叩きつけられ、この世からいなくなっている。
外壁の穴は塞がれたようだが、その前にガブリエルが解き放った子機「プルーマ」が一秒後にディヤウスとトリテミウスの前に現れ、二人を
と、まあこのように現状を整理した結果。
非常に絶望的で、どうしようもない状況だと言わざるを得なかった。
「どうするか――」
なまじ無駄に頭を働かせたせいで、自分ではどうしようも出来ない状況だと分かり、その上でディヤウスは行動を考える。
「とりあえず、絶叫するべきか?」
片足が千切れて無くなり、冷静になった途端に凄まじい痛みがディヤウスの全身を駆け巡り始めた。しかし絶叫とは、しようと思ってするモノではないだろう――と、軽く現実逃避を始めた時。
「いたぞ! 救護班!!」
だが、その時――宇宙港から捜索に来たらしい火星独立軍の士官が、倒れ込むディヤウスとトリテミウスを発見した。そして、救護班も一緒に来ているようではないか。
汗をかいて息を切らした火星独立軍士官が、ディヤウスの下に駆け寄って来た。
「ディヤウス・カイエル殿と、トリテミウス・カルネシエル殿ですね?」
「ああ――俺は良い、コイツを助けてくれ」
「すぐ手当てし、ヴェルンヘルを脱出しましょう。いつガブリエルが、虐殺を再開するとも分かりません」
何らかの理由で、今ガブリエルはヴェルンヘルから注意を離しているようだ。穿たれた穴を塞ぐコトが出来たのも、その隙をついてだろう。
「モビルワーカーが来ています」
火星独立軍士官が脱出を促すが、ディヤウスは手ぶらでここを離れるコトは出来ない。
「――すまん、あそこに転がっている装甲車から、情報端末を有りったけ持ってきてくれ」
エイハブ・バーラエナの自宅で回収した、エイハブ・リアクターについての情報は、必ず持ち帰らなければならない。建造方法が公開されても、実践出来る技術者の数は二桁に留まるほどのエイハブ・リアクター――その理論を完璧に表すデータは、あの端末の中にしか無い。
その情報が無ければ、ガブリエルの「フィフス・リアクター」の大出力に対抗する、複数のエイハブ・リアクターを同調させたシステムは造れないだろう。
「――オイ、分かったな?」
士官は何も聞かず、部下にディヤウスの言う通りにしろと命じる。生き残る算段と有用な情報を持って帰る算段が付いた瞬間、ディヤウスの全身から力が抜け――ディヤウスは、その場で意識を失った。
◇
「ディヤウス・カイエルとトリテミウス・カルネシエルを保護しました! 後十分ほどで、ヴェルンヘルを離脱する手筈です!」
月面クレーターに潜む火星独立軍第三艦隊旗艦「ハーヴェイ」のブリッジで、そう報告を受けたエメリコ・ポスルスウェイト中将は、全身の気負いから来る強張りが解けるのを感じた。だがすぐに気を引き締め直し、指示を出す。
「ヴェルンヘルのエンタープライズは出航し次第、我が艦隊と合流。そこで士官は全員がこの『ハーヴェイ』に乗り換え、ディヤウス・カイエルとトリテミウス・カルネシエルが残されたエンタープライズは、AIによる自動操縦で『ナスル』に向かわせろ。
我々はエンタープライズの出航を見届け次第、火星に向かい出発する」
「――あの二人を、みすみす地球軍に明け渡す、と?」
オペレーターの問いに対して、迷い無くエメリコは頷いた。
「そうだ。我々がディヤウス・カイエルとトリテミウス・カルネシエルを保護したのは、火星の利益の為ではない。
最早、地球が火星がと言っていられる事態でないのは、貴様らにも分かっているだろう?」
エメリコは右腕を持ち上げ、正面モニターを指差した。そこには、ガブリエルによって今なお蹂躙され続ける地球軍艦隊が映っている。
堅牢な「ナノラミネートアーマー」に守られたガブリエルを前にする地球軍に、反撃の手立ては無い。ただただビームの渦に飲み込まれ、撃ち落とされるのみだ。
「あのガブリエルは『マザーモビルアーマー』だ。相当数の資源さえ有ればプラントを造り上げ、そこでMAの設計、開発、生産をする。単騎でな。そして、その為に必要な資源とスペースは、全てがヴェルンヘルに在る。ヴェルンヘルを制圧し次第、ガブリエルは『個体増殖』を行い始めるだろう。
そうなれば、あんな物が人類の居住圏全てに解き放たれる。最新鋭兵器を結集させた地球軍艦隊ですらあのザマなのだから、人類に対抗する手段は存在しない。地球の都市シェルターまでは破られないだろうが、シェルターの無い都市、コロニーはその全てがMAに蹂躙される。それが続けば、シェルターが破られる日も遠くは無いだろうな。
既にこれは火星の労働環境がどうとかこうとか、だから我々は地球からああだこうだと言っていられる事態ではなくなっている」
かくしてエメリコは、脳内に描き出した最低最悪のシナリオを噛み締め、人類が置かれている最低最悪の状況を一言で言い表す。
「
思わず息を呑んだブリッジの士官達に、エメリコは更に諭す。
「分かるな? これは火星独立軍――火星の損得を考えての命令ではない。地球も含めた全てを総括した、人類と言う種族の存続を考えての命令だ。
そう考えた結果、あの二人は地球に預け、その拠点に戻ってもらうのが最良だと結論付けた。地球にはディヤウス・カイエルの研究所が有るからな」
ディヤウス・カイエルとトリテミウス・カルネシエルを火星に連れ帰った所で、MAへの対抗手段を造れる訳ではない。ホームグラウンドである研究所に向かわせた方が、行動選択の幅は広がるだろう。
「分かったら命令を遂行しろ。責任の全ては俺が取る、貴様らがセレドニオ司令の雷を食らうコトは無い。――早くしろ!!」
「ッ、は!!」
ブリッジの士官達はエメリコの一喝を受け、それぞれが作業に戻った。エメリコは艦長席に座りながら、今まさに全滅しかけている地球軍艦隊を見て、目を瞑った。
◇
ヴェルンヘルに残っていた「エンタープライズ級宇宙戦艦」が出航したのは、地球軍艦隊の最後の一隻が撃沈したのとほぼ同時だった。
それからガブリエルはヴェルンヘルに侵入し、生き残っていた人類をプルーマによって余さず掃討したようだが、人類にそれを確認する手段は無い。
「エンタープライズ、接触します」
「よし。人員の移動は五分以内に終了させろ。終了していなくても、五分後にはこちらのハッチを閉鎖する。エンタープライズは救難信号を発信させながら、ナスルへと向かわせる」
普段なら救難信号を出していようが、火星独立軍の艦であると言うだけで撃沈させられるだろうが――ヴェルンヘルでの異変は、地球側でも観測しているハズだ。地球軍は、ヴェルンヘルに向かわせた艦隊を壊滅させられてもいる。
流石にこの状況で、ヴェルンヘルの様子を知る為の手掛かりをみすみす失うような真似はしないだろう。
「更に念の為、ナスルには国際救難チャンネルからレーザー通信でメッセージを送っておけ。『これから向かう艦艇には、ディヤウス・カイエルとトリテミウス・カルネシエルが乗っている。絶対に撃墜するな』とな」
「は」
受け取られた所で、普段はすぐ読み飛ばされて棄却されるが、今回は読まれればそれで良いモノだ。ナスルの入港管理局は、それほどまでの無能ではない。
ウソでそんなコトを書くハズが無い、とナスル側には分かるだろう。そもそもナスルを制圧する気なら、エンタープライズ級一隻のみで向かわせる理由が無い。
それから四分後、全ての乗員の移乗が完了した。それを確認して、エメリコは指示する。
「これより『アバランチコロニー』に向かい、補給の後に火星へと出立する。前線拠点であった月面都市『ヴェルンヘル』は今時を以て完全に放棄し、艦隊への補給が済み次第、アバランチコロニーも放棄する。良いな!」
『は!』
エンタープライズ級のナスルへの出航を見届け、火星独立軍第三艦隊は月の周辺に位置する拠点である、アバランチコロニーへの進路を取った。
◇
「――ぐ…」
ディヤウス・カイエルが再び目を覚ました時、その視界には見知らぬ天井が映った。気絶する前の光景と、天井が窓を隔てて映っているコトから、ディヤウスは自分が治療用カプセルの中に寝かせられていると悟った。
カプセルの窓は、ディヤウスが目を覚ますと同時に横にスライドした。もう治療は完了しているらしい。その時、自分のいる場所が僅かに揺れ、自分自身が浮き上がっているとディヤウスは気付く。
(無重力――俺は今、シャトルにでも乗せられているのか?)
周囲を見渡すと、自分の入っていた物とは異なる治療用カプセルが一つ有り、そこにトリテミウス・カルネシエルが寝かせられていた。ディヤウスよりも重傷だったので、まだ治療が終わっていないようだ。
「お目覚めですか、ディヤウス・カイエル殿」
その時、知らない人物の声が、ディヤウスの鼓膜を震わせた。
声の発信源に、ディヤウスは視線を向ける。そこでは、三十代ほどと思わしき一人の男性が、敬礼をしていた。軍服のデザイン、敬礼の方式から、ディヤウスは「アメリアの軍人だな」と推測する。
「『アメリア合衆国』宇宙軍所属の、サイラス・セクストン小佐です。このシャトルで、貴方の護衛を担当しています」
「――小佐とは、これまた…しかし、シャトル? 何処に向かっている?」
「マヴァット・リンレス殿の要請により、貴方の研究所である『ヴィーンゴールヴ』に向かわせて頂いております」
それからディヤウスは、事の経緯をサイラスに聞いた。
MA「ガブリエル」によって、月面都市「ヴェルンヘル」は壊滅、制圧された。
ディヤウスとトリテミウスは、火星独立軍によってもう一つの月面都市「ナスル」に移動させられ、そこでアメリア宇宙軍に保護された。その報を受けたマヴァットの要請により、アメリアはシャトルを出し、ディヤウスとトリテミウスを乗せてディヤウスの海上研究所「ヴィーンゴールヴ」へ向かっている。
「――! そうだ、一緒に回収されたハズの端末はどうなった?」
「そちらに積まれています。ウィルスが入っていないコトを確認する為、一度全ての情報を精査させて頂きましたが」
サイラスが指差した方には、段ボール箱が積まれている。ディヤウスは早速そちらに向かい、端末の一つを取り出して電源を付けた。
「エイハブ・リアクターについての、貴重極まり無い情報だと推察致します。――しかし、私自身読んだ所、全く理解出来ませんでしたが」
「ああ、エイハブ・バーラエナの書斎から持ち出したモノだからな」
例え専門家であろうとも、資料の全ての内容を理解するには相当の時間が掛かるハズだ。ディヤウスでも、恐らくは理解までに数週間掛かる。
職業軍人であるサイラスにとっては、そもそも専門用語が多すぎる為、暗号でしかなかっただろう。
「――ディヤウス殿。ガブリエルとは…『モビルアーマー』とは、何ですか?」
「火星独立軍が俺とエイハブさんに造らせた、完全自律型無人殺戮破壊兵器だ。デイミアンのクソ野郎は、MAを火星独立軍逆転の切り札とするつもりだったらしいが――起動実験で暴走して、人を殺す為の兵器になった。
ガブリエルがヴェルンヘルを制圧したと言うコトは、充分な資材と領域を手に入れたと言うコト。これからMAはガブリエルに大量生産され、人類の生活圏を蹂躙し始めるだろう」
ディヤウス自身、話していてゾッとする。話を聞いていたサイラスの顔も、一気に蒼白になった。
「最早、ガブリエルを物理的に破壊するしか、人類が生き残る道は無い。その為に必要なのが、この資料だ。
――アレを造ってしまった者として、この責任は必ず取る」
そうとも。
何を犠牲にし、どんな手段に訴えてでも――必ずや、ガブリエルを破壊する。しなければならない。自分の行いに責任を持ち、失敗したなら埋め合わせをする――技術を持った大人として、人間として当然のコトだ。当然どころではない、義務とさえ言える。
「
そう口にするディヤウスの脳内では、既にこれからの
「すまないが、通信機を貸してくれ。地球のマヴァットと連絡を取りたい」
第九話「月面都市、壊滅」をご覧頂き、ありがとうございました。
サブタイ通り、ヴェルンヘル壊滅。
この時点で、五百万人くらい死んでるんですよね…モビルアーマー、怖ぁい。
今回で、火星独立軍は一旦退場です。
火星独立軍の戦線は本拠地の火星まで後退しましたが、まあこれ以降は火星独立がどうとか言ってられる状況ではなくなりますので…。
《新規キャラクター》
サイラス・セクストン
・アメリア合衆国宇宙軍の軍人で、現階級は小佐。
・実は今後、ガンダム・フレームに乗る予定が有る。
《今回のまとめ》
・足無くなっても何とも思わないディヤウスさん、鋼メンタル過ぎる
・人類、存亡の危機に立たされる
・ディヤウス、責任を取るべく動き出す
次回「ヘイムダル」