厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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前回更新から一週間強が経ちました。
ゴールデンウイークが終わりました。
クソがァッ!!!
――失敬、取り乱しました。
HELLSINGとChalotteを見ながら過ごす長期休暇が快適極まってまして、未だ現実を受け入れられておりません。

GWって書かれた時、「ゴールデンウイーク」でなく「ガンダムウイング」と読んでしまうのは私だけではないと信じて疑っておりません。


実は今回で、第二章が終了となります。
それではどうぞ。


#10 ヘイムダル

 技術者の家系である「カイエル家」が所有する海上移動式技術研究所――正式名「ヴィーンゴールヴ」。

 数百人もの研究者が所属している此処は、兵器を中心とした様々な分野の研究開発を行っており、界隈では一大機関とされている。現在は大西洋を航海しており、研究施設の他にも滑走路やヘリポートなどが存在するなど、一組織として独立しているとさえ言われている。

 実際、この研究所は地球上に有るどの国にも属していない、国際中立組織として認知されている。また、様々な物の売買によって、十国から利益を得ている国際企業でもある。その利益で施設と職員を運用し、孤児達を引き取るような事業も行っている。

 

 そこに、月へと出向していた所有者(ボス)である世界有数の技術者、ディヤウス・カイエルが二年ぶりに帰還した。右足を失い、松葉杖を付きながら――と付け加えるべきだが。

 その姿を見て驚愕し、ディヤウスを問い詰めるはディヤウスの助手、ヨウィス・ピトリである。

 

「ディヤウスさん、その怪我は――」

「後で説明する。それより」

 

 説明する時間すら惜しいとばかりに、ディヤウスは鋭い眼差しでヨウィスを見据え、用件を言う。

 

「至急、全員を集めてくれ。話さねばならない要件が有る」

「――!」

 

 ヨウィスは何も聞かず、ディヤウスの言葉を遂行すべく、館内へと駆けて行った。優秀な助手に心の中で感謝しながらも――その翠の瞳は、底の見えない冷徹な光を孕んでいた。

 

 

   ◇

 

 

 ディヤウスの帰着から、およそ十分後。

 ヴィーンゴールヴ内の大会議室に、施設にいる全ての職員が集った。

 大会議室は、三十メートル×十五メートルの広大な部屋だが、千人近い職員の全てが入った今は狭く感じられる。部屋自体は飾り気の無い簡素な作りになっており、普段中央に置かれている巨大な木製の机は折り畳まれて外に出され、部屋の奥に大きなスクリーンが一つ有る。

 

「ディヤウスさん、これで全員です」

 

 スクリーンの前に松葉杖を付いて立つディヤウスに、ヨウィスはそう報告した。ディヤウスは頷きを返し、部屋全体を見回してから、一度咳払いをして口を開く。

 

「二年の留守の後にノコノコ唐突に帰還しただけでなく、いきなり呼び立てたりしてすまなかった。だが、どうか許してくれ。そして、これから俺の言うコトを良く聞き、良く考えて欲しい。

 まず、この後の話は、この海上研究所(ヴィーンゴールヴ)の行く末は愚か、人類の未来――存亡にすら関わって来る話だと理解してくれ」

 

 息を飲む音、唾を下す音が僅かに響く。それにディヤウスは構わず、息を一度吐いて本題に入る。

 

「お前達は、月面都市『ヴェルンヘル』が壊滅した――と言うニュースを、知っているだろう?」

 

 月面に有る、火星独立軍の支配下に有った国際都市「ヴェルンヘル」の壊滅は、現在世界中で大ニュースとして大々的に報道されている。

 十国による情報統制を経ての報道ではあるが、死傷者は実に五百万人に一切の通信途絶――と、原因が調査中だとされたコト以外は、概ね事実がそのまま伝えられている。火星独立軍の「コロニー落とし」以降、敏感になっていた世界は大混乱に陥り、まさしく阿鼻叫喚である。

 原因を公開しなかった十国の判断は、正しかったと評価すべきだ。もし「人類を殺戮するようプログラムされた、現行の兵器では対抗出来ない最新鋭兵器が都市を壊滅させた」などと報道すれば、世界はパニックとなり、秩序を失っていただろう。やがて隠し通せなくはなるだろうが、それまでに対抗策を生み出せば、世界の混乱は肥大化、暴走せず済むハズである。

 そして、そうする為に十国は、奇跡的にヴェルンヘルから生還したディヤウス・カイエルにこう要求した。

 

 「世界にヴェルンヘル壊滅の原因が露見するより前に、モビルアーマーに対抗する兵器を造れ」と。

 

 MAを造ってしまったディヤウスは、もとよりそのつもりだった。そのような契約を十国と結んだディヤウスは、未だ意識を取り戻さないエイハブ・バーラエナの助手だったトリテミウス・カルネシエルと共に、ヴィーンゴールヴに帰還したのである。

 

 ディヤウス・カイエルは、責任感の強い男だ。そしてそれは、エイハブに頼まれてMAの建造に協力したコトが、良く表している。

 一度請け負ったなら、全力でその仕事をするのがディヤウスの流儀であり、信念だ。今回もまた、そのような責任感が彼を突き動かしている。

 自分が造ったMAが暴走し、人類の存続を脅かす無人殺戮兵器となった。

 

 なら――MAを滅ぼし得る、有人兵器を造ってしまえば良い。

 

「『火星独立軍に命令され、エイハブさんに頼まれて造っただけだ。俺に責任は無い』などと、逃れるつもりは毛頭無い。如何なるバックボーンが有ろうとも、MAを造ったのは俺だからな。アレを止める術が無いと言うのなら、俺はアレを破壊する。それが、人類を存続させる唯一の手段だからだ。だが、俺一人ではこの命題は達成出来ない。

 そこで――お前達の力を、俺に貸して欲しい。

 此処には、人類最先端の智慧が存在している。俺は胸を張り、そう断言出来る。心からそれを誇りに出来る。それが有れば、必ずや俺達はMAすら上回る兵器を造るコトが出来る」

 

 松葉杖を持たない左手の拳を強く握り締め、確信を持ってディヤウスはそう述べる。だが――

 

「無論、危険は有る。ヴェルンヘルを壊滅させたマザーMA『ガブリエル』には、高度なAIが搭載されている。この施設が優先的にMAに狙われる可能性は、かなり高いと言えるだろう。当然として、命は常に危険に晒されるコトとなる。そして、満足な対価も報酬も、俺には与えるコトも出来ない。嫌だと言うのなら、この研究所を去ってくれて構わない。

 十五分だ。十五分間、俺は待とう。充分に考えてから、決断を下して欲しい。降りる者は、此処から退室してくれ」

 

 問答無用で付き合わせる訳には行かない。キチンと選択の場面を与え、考える猶予を与え、悔いの無い選択をして貰わねばならない。

 残る者はゼロ人かも知れない。ゼロでなくても、かなり少なくなるだろう。それでも、ディヤウス・カイエルはやり遂げねばならないのである。

 

 しかし――ディヤウスの予想は、大きく外れるコトとなった。

 

「―――なぁ、お前ら…」

 

 キッチリとストップウォッチを使って測っていたので、間違い無い。十五分が経過した。

 此処に残るコトの危険は伝えた。対価が無く、正当な報酬が無いコトも伝えた。にも、関わらず――

 

 

「何で、誰一人として退室しねぇの?」

 

 

 此処を去る決断をした者は、一人もいなかった。

 困惑が滲み出たディヤウスの疑問に、親友のマヴァットが笑いながら答える。

 

「ハハーハハハ! 人類全ー体が存亡ーの危ー機に晒ーされーていーるなーら、何ー処で何ーをしーようと同ーじだーろう。おー前にしては珍ーしく的ー外れーな指ー摘だな、ディーヤウス。

 糖分はー足りーてるかね? 足ーと一緒に論ー理的思ー考すら失ーったーのかーね?」

「おま、対価も報酬も払えねぇって言ってるんだ。危険の伴うタダ働きなんて、どうしてやろうと思うんだよ。お前らは有給の日に原発で仕事する、正真正銘の社畜か?」

 

 ディヤウスの困惑は深まるばかりだが、一方でマヴァットを始めとする職員達は爆笑し始めた。

 

「ハーッハハハハハハーハハーハハハハ! お前ーこそ何ーを勘ー違ーいしーていーる? 対ー価もー報酬ーも、既ーに貰ーっていーるだーろーうが!」

「そうですよ、ディヤウスさん!」

「対価は此処で好き勝手研究出来るコトで、報酬は衣食住が保証された生活! 自分で生活しなくても生活出来る! これ以上に生き甲斐の有る場所が、他に有るんですかね!? いや無いッ!!」

「アンタは俺らのような、トチ狂ったマッドサイエンティストすら許容してくれやがった! ようやく恩返し出来そうな機会(チャンス)が回って来たんだ、生かさねぇ選択なんざ有るわけねぇだろ!」

「私の研究を認めてくれる国なんざ無いからな! 理解もしてくれない! 此処出たりしたら、私ゃ飢え死にしちまうよハハハハ!」

 

 一部笑えない、哀しい言葉が混じっていたりするが、誰もがこんな感じである。

 この研究所は、大国からの圧力も無く自由に好き勝手研究出来る、研究者に取ってはパラダイスのような場所だ。十国との商売で得た利益が直接研究者達に入るコトは無いが、そんなモノよりも研究出来ればそれで良いのが、この施設の研究者達の特徴であったりする。

 そんな所から離れるなど、彼らには考えられなかった。

 

「おー前達! 我ー々の質ー実ー剛健ーなりーし人道ー的極まりーない研ー究が、遂ーに身をー結ーぶ時ーが来たーぞ! 我々ーの美しーい研究ー成ー果ーによっーて、ディヤウースの造ーったMーAを超ーえてやろうーではないーか!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 マヴァットの先導で、職員達は全力で叫ぶ。

 それを受け、ディヤウスは深々と頭を下げた。

 

「皆、すまん…!! だが――ありがとう、バカども!!」

「ではー、名ー前はどーうすーる?」

「名前?」

 

 解せないような表情を見せるディヤウスに、マヴァットは少し呆れたように(かぶり)を振る。そして、当然だと言わんばかりにこう答える。

 

「組ー織の名前ーだ。せっかーくこれかーら人ー類の英雄になーろうと言うのーだ、まずはー形ーから入るーべきーではなーいかね?」

「…確かにな。名前、名前か――」

 

 ディヤウスは顎に右手を当て、五秒ほど考えて。

 

 

「―――『ヘイムダル』」

 

 

 と、一つの名詞を紡ぎ出した。

 

 ヘイムダル。

 「白いアース」とも呼ばれる、北欧神話に登場する光の神の名である。ヒミンビョルグなる場所に住まい、北欧神話の最終決戦である「神々の黄昏(ラグナロク)」の始まりを、角笛「ギャラルホルン」を吹くコトによって世界に知らせるとされている。

 

「我々はこれより『世界の光(ヘイムダル)』となり――全てのMAを、絶滅させるコトを最終目的として活動していくモノとする!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 

 ――この瞬間(とき)、人類の戦いは、本当の意味で始まった。

 敵は機械で象られた天使。人類の絶滅を行動理念とする、正真正銘の怪物。

 奴らの前では権力者であろうと、一般人であろうと、富豪であろうと、貧民であろうと――皆、平等に殺戮される他に無い。

 その滅びに抗い、最期の最後まで抵抗し続ける、と誓った者達がいた。

 

 「ヘイムダル」――後に「ギャラルホルン」と呼ばれるようになる組織が、天使に反旗を翻すと決まった時。

 滅ぼされるしかなかった人類は、まさしく光明を得たのである。

 

「ディヤウスさん。実際に対抗すると言っても、どのように? 有人破壊兵器とは、一体…?」

「それはもう、ある程度なら考えた。まだ構想段階だ、と言わざるを得ないモノになるがな」

 

 ディヤウスが手元のタブレットを操作し、大会議室のスクリーンに、一枚の画像を映し出した。

 

 そこには、人の形を取ったメカ――ロボットの簡単な設計図が描かれていた。

 

「デーィヤウス、こーれはー…何だ?」

「MAに対抗する為の兵器、その簡単過ぎる素案――と言うべきモノだ」

 

 決まっているのは、四肢と胴体と頭を持つ二足歩行の人型機動兵器で、エネルギー源をエイハブ・リアクターにする――というコトだけだが。

 

「俺はこれを『モビルスーツ』と名付けよう、と思っている。

 MAの『ナノラミネートアーマー』を破壊するには、有視界距離での物理的な近距離攻撃戦が最も効果的だ。このMS(モビルスーツ)と呼ばれる兵器に実体武装を持たせて接近戦をし、近距離で直接殴り殺す」

 

 まずはこの対抗案を十国に提示する、とディヤウスは言った。

 各国でも軍事開発は積極的に行われているので、提示すればそこでも、開発が行われるようになる。より早いMSの戦線投入を望め、データ採取も行いやすくなるだろう――と言うのが、ディヤウスの目論見だ。

 

「俺は『ツインリアクターシステム』を搭載したMSを建造し、量産するコトを最終目的としたい。大変な作業になると思うが、残ると決断したからには付き合ってもらうぞ? もう逃がさねぇし、逃げられねぇからな」

『よっしゃああああああああああ!!!』

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

 月周辺の「ラグランジュ・ポイント」に建造された、「アバランチコロニー」。

 総数十基からなるコロニー群で、月の裏側に存在する故に地球を捉えるコトは滅多に無いが、月面の二大都市「ヴェルンヘル」と「ナスル」の中間に位置する重要度の高い場所である。

 

 そのコロニー群を、月面都市「ヴェルンヘル」でスコープの中に収めるモノが在った。

 

 ――照準。目標、アバランチ第三コロニー。

 

 ()()は、非常に特殊かつ奇怪な形状をしていた。

 細長く、中央にスコープが設置された小型の頭部を持ち、エイハブ・リアクターを積む胴体からは三つの物が生えている。胴体を挟み込むように配置された、姿勢制御を主目的とする二枚の翼と――頭部に沿うように垂直に接続され、機体前方に突き出される、長大な一基の「ビームランチャー」。

 

 「天使」ザフキエル。

 「コロニー破壊用MA」としてマザーMA「ガブリエルに生み出された、長距離狙撃用のMAである。

 

 エイハブ・リアクターの出力を主武装にして唯一の武装であるビームランチャーに注ぎ込みながら、ザフキエルは機械特有の精密さによって数百キロメートルも離れているアバランチコロニー、その第三コロニーに照準を合わせた。

 そして――

 

 ――充填完了。砲撃実行。

 

 一切の躊躇い無く、桃色のビームを撃ち出した。

 ビームは暗黒の宇宙を切り裂き、狙い通りにアバランチ第三コロニーの宇宙港に直撃し――瞬く間に溶解、爆発、消滅させた。コロニーに大穴が空き、内部の空気が吸い出され、生身のまま人々が宇宙空間へと放り出されて行く。

 

 ――目標達成。砲身冷却、再充填開始。

 ――照準。第二目標、アバランチ第八コロニー。

 

 それから、アバランチコロニーの全てが破壊されるまで、一時間とかからなかったと言う。

 

 

 このアバランチコロニーの破壊以降、宇宙のあらゆるコロニーが、次々とMAによって破壊されて行くコトとなった。

 また、マザーMA「ガブリエル」が拠点とした 月面都市「ヴェルンヘル」の反対側に在るもう一つの月面都市「ナスル」も、程なくしてMAに蹂躙された。

 

 天使による、人間の殺戮。

 この瞬間より、人類史上最低最悪の宇宙戦争とされる「厄祭戦」の様相は、火星独立戦争から人間対機械(てんし)の構図を取った。

 そして人類は、これを以て絶望の淵へと叩き落とされるコトになる。

 

 天使を殺戮する、地獄の悪魔。

 「ガンダム・フレーム」が、現れるまでは――

 

 

   ―interlude out―

 

 




第十話「ヘイムダル」をご覧頂き、ありがとうございました。
ギャラルホルンの前身組織はここから始まり、これから物語の中心とも言えるほど発展して行きます。
マークは下の画像の通り。
真改零式さんよりご提案頂いた物を、私の方で仕上げたモノとなります。

【挿絵表示】


今回で第二章「誕生 -Broken Pointer-」は終了となります。
ここで、MAの誕生によって戦争の様子がどう変化したかを、改めて記しておきます。

MA誕生前:地球VS火星(火星独立戦争)
MA誕生後:人類VS天使(モビルアーマー)

現在、人類の兵器は戦闘機(モビルプレーン)、戦車(モビルワーカー)と戦艦。
散々描写した通り、絶望的過ぎる戦力差。
ですが、モビルスーツもこれから少しずつ出て来ますので、ようやくガンダムの二次創作作品らしくなって来るかと思います(らしさって何だ…?)


《オリジナル設定》
ヘイムダル
・ギャラルホルンの前身組織。
・前身組織が有った、というのは公式設定です。


《オリジナル機体》
ザフキエル
・「天使」の位階に属する、コロニー破壊用MA。
・位階は強さの指針みたいなモノと思って下さいませ。


《今回のまとめ》
・ヘイムダル結成、ガンダム・フレームを造る為に行動開始
・「モビルスーツ」と言う対抗案が提示される
・モビルアーマーが暴れ出した




次章「反撃 -Stand up to Despair-」
次回「もつれる想い」
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