厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
相変わらずの不定期兼亀更新、申し訳有りません。
今回から第三章「反撃 -Stand up to Despair-」。
その題の通り、遂にアグニカ・カイエルを始めとする人類が「反撃」を開始します。
「Stand up to Despair」は「絶望に立ち向かう」と言う意味で。
VガンダムのOP1「Stand up to the Victory」が頭を過るのは、きっと私だけでは無いハズ。
アグニカを主人公に出来る時が近付いている…!
いや、遂に来た――!!
#11 もつれる想い
M.U.0043年、アメリア合衆国。
地方都市の一つであるオタワ郊外にて、とある新型兵器の部隊が展開された。
『ブラボーよりチャーリー。モビルアーマーを視認しました』
『敵MA、推定数は二機。型番、名称不明』
展開しているのは、ほんの三ヶ月前に結成されたばかりの、アメリア合衆国軍のMS部隊。「MAに対抗する為の兵器」として、国際組織「ヘイムダル」が十国に開発を提案したMSを運用する為の、試験的な部隊である。
配備されているMSは、自国の軍事企業「アルカーヌム社」が開発した世界初の実戦用MS――「PNJ-000 フール」。低コストと生産性のみがウリのMS用インナー・フレーム、「アルカナ・フレーム」を使用した試作機だ。低コストを突き詰めた結果として、装甲と素体の耐久性は最低限に留められ、ナノラミネート塗料の中でも最安価な白色によって染め上げられている。
都市オタワを覆うシェルターの脇に外接されている軍事基地の司令塔では、部隊の指揮官であるパール・マコーマック大佐がLCSレーザー通信機のマイクを握った。ボーイッシュで荒っぽい性格でありながら、素晴らしく魅惑的なダイナマイトボディを持つ彼女は、足を持ち上げてヒールを目の前のモニターに叩き付ける。
「さて野郎ども。部隊編成から三ヶ月の仮想訓練、まずはご苦労だったと言っておこう。よくぞあの狭っ苦しいクソ小せぇシミュレーターの中で、三ヶ月も耐え抜いた。そんなド
今日はお待ちかねの、楽しい楽しい
分かったな? それじゃあ――」
パールはマイクを持たない左手を天に掲げ――
「
バチィン、と勢い良く指を鳴らす。
それを合図として、彼女の指揮下に有る二十機ものMSが、MAに向かって突撃し始める。
『
『っしゃあああああ!!
独特の凄まじいテンションで、彼らは自由自在にMSを操りながら、どんどんMAとの距離を詰めて行く。アルカナ・フレームはMAを圧倒的に上回るような性能を有している訳では無いが、三ヶ月の仮想訓練を積み重ねて来た彼らに取って、地上での縦横無尽な機動など朝飯前である。
純白の機体が、平原をスキーのようにホバークラフトによって滑って行く。
『指揮はセクストン少佐に任せる。必ず仕留めて見せろよ?』
「請け負った。全機、密集隊形! F23で行く!」
『おうさ!』
パールから指揮権を与えられたサイラス・セクストン少佐の指示で二十機が集結し、「∧」と言う陣形(蜂矢の陣)を取った。距離が後十キロにまで迫った所で、目標としている地上のMAが動いた。
目標とされているのは「天使」の位階に位置するMAの一種、カシエル。四つの翼と四つの頭、一本の腕を持つ異形の機体だ。
カシエルは腕に内蔵されているビーム砲を露わにし、突撃して来るMS部隊に向けて撃ち放った。
「散開!」
MS部隊がカシエルを取り囲むようにバラける。ビームは中央を先行していたサイラスの機体を間違い無く捉え、接触した。しかし、カシエルのビームは機体のナノラミネートアーマーによって拡散させられる――が。
「ク…!」
拡散したビームは周囲の木々を焼き払うと共に、機体のフレームを構成するナノラミネートアーマーを無力化した。溶け落ちた装甲により、サイラスの機体はバランスを崩し、その場で倒れ込んだ。
『セクストン少佐ァ!』
『防ぎきれねぇのかよ、話が違うじゃねぇか!』
『クッソ、安モンめ!』
「私に構うな、作戦続行! 次を撃たせるなよ!」
機体を無力化されながらも、サイラスは指令を出す。その効果も有ってか、他の十九機はカシエルを射程距離に捉えた。
『ひゃっほー!!』
全方位からライフルが発砲され、カシエルを攻撃する。そしてそれだけでは飽き足らず、十九機中八機が近接戦闘武装のソードやランスを構えて吶喊。四方からカシエルをタコ殴りにし始めた。
高硬度レアアロイ製の武装がナノラミネートアーマーの防御を削り、壊し、砕いて行く。カシエルの翼がもがれ、腕が打ち砕かれる。
「ほう――思った以上にやれているな。生き残った者には、後でキスでもしてやろう」
戦場から十五キロは離れた司令塔で、パールは戦況を眺めながらほくそ笑む。だが、同時に心の奥には不安感、違和感を覚えていた。
(しかし妙だな――これだけで終わるとも思えん)
パールは再びマイクを手に取り、MS部隊に通達する。
「一機倒したからと言って、油断するなよ!」
『
彼女が抱いた不安をかき消すより前に、司令所のオペレーターが報告する。
「! 戦闘区域上空に、新たなエイハブ・ウェーブを観測!」
「…何だと!?」
「何かが投下されました! 着弾まで三秒!!」
「全機に通達! すぐに退避を――」
その時――視界が、真っ白に染まった。
続いて超巨大な爆発が発生し、戦闘区域を瞬く間に飲み込んだ。十五キロ先から発生した衝撃波は司令塔にも届き、爆煙が周囲を覆い尽くして行く。
それから数分して、赤いハザードランプに照らされる司令塔で、衝撃によって席から放り出されたパールが叫ぶ。
「――ぐ…ッ! 状況は!?」
「分かりません…! 全ての観測機が吹き飛ばされて、電波障害も発生しています…!」
「モニター、回復します! 映像出ます!」
ようやく回復し、モニターが基地周辺の光景を映し出す。映し出した、が――
「…これは――」
――そこには、巨大なキノコ雲が映されていた。
森林の全てが焼き払われて炭と化し、舞い上がった土煙が視界を茶色に染め上げる。大地は燃え盛る終末の様相を呈し、乾燥しきってヒビ割れていた。
「放射能数値、肥大化しています…敵MAは、恐らく――」
「『
パール達は知る由も無いコトだが、水爆を投下したのはMA「アラエル」。巨大なブースターと胴体が直結され、翼にスラスターが敷き詰められた超高機動型MAにして、超高高度からの核爆弾投下による一撃離脱作戦を想定した機体である。
無論、今頃は遥か彼方へと飛び去っているが。
「MS隊への、連絡は…?」
「ッ…全機、途ぜt――いえ、一機のみ健在! これは、サイラス少佐の機体です!」
「LCSで通信しろ、セクストン少佐は無事か?」
爆心地から十キロ離れていた為、ギリギリ生存したサイラス・セクストン少佐は、本部からの通信を受けた。敵MAのビームを受けて、行動不能になったコトが功を奏した形になる。
『セクストン少佐、状況は!?』
「私は無事です。ですが――戦闘を行っていた他の機体は、全て破壊された模様…」
苦々しく、サイラスは報告する。
圧倒的な強度を持つエイハブ・リアクターはそのまま残っているが、機体は原型を留めないモノがほとんどのようである。パイロットは、まず間違い無く生きてはいないだろう。
「有視界距離に於ける近接戦闘で、MAを撃破するコトは叶いました。ですが――核から逃れるだけの機動性が、この機体には無かった。ビーム一発も耐えれぬ、防御力にも問題が有ります」
『MAに対して、MSが有効なのは間違い無いようだが――機動性、防御力、反応速度か…。
セクストン少佐、帰投は出来そうか?』
「いえ――爆発で、スラスターがやられました。申し訳無いが」
『了解。回収部隊を向かわせる』
かくして、MSとMAの初となる戦闘は終了した。MSがMAに対抗出来る手段であるコトは確認されたが、様々な課題と、MAはそう易々と揺るがないという事実が浮き彫りとなった形である。
出撃したMS二十機の内、帰投出来た機体は一機も無く、生存したパイロットはただ一人のみ。
あまりにも苦い結果が、人類に突き付けられた――
◇
ヘイムダルの本拠地、ヴィーンゴールヴ。ここではモビルアーマーに対抗する新兵器、モビルスーツを開発する為、皆揃って
そんな中、新設されたMSデッキ。技術者達の戦場の片隅に、四角い機械が設置されていた。高さは三メートル、横四メートルの正方形をし、その箱は揺れるようになっている。グオングオンと揺れる大きな箱は、MS操縦訓練に使われるシミュレーターである。
「だあッ! またかよ!」
横一列に並べられているそれの内の一つがハッチを解放し、中から十三歳ほどの少年が飛び出して来た。先ほどシミュレーターでこっぴどくやられたようで、頭を抱えている。その直後、彼が飛び出したシミュレーターの隣のシミュレーターから、勝者たる同年代の少年が顔を出した。
「クソゥ! 覚えてろ、次こそギッタンギッタンにしてやるからなァー!!」
敗者に口無し。「テメェ強すぎんだよいい加減にしろ」などとケチをつけるコト無く、敗北者は脱兎の如く一目散に帰って行った。
「…お、おう?」
その捨て台詞と素早い動きに困惑する勝利者。勝ったのに驕る暇すら与えられなかった彼に、シミュレーターの側面に付いたモニターで訓練の様子を見ていた一人のピンク髪で金色の目の少女が、スッとボトルを差し出した。
「お疲れ様、アグニカ」
「お…ありがとな、スヴァハ」
アグニカと呼ばれた赤髪蒼目の少年は、それを受け取って水を喉に流し込み、ふうと息を吐いた。あんな三流の捨て台詞を吐いて走り去って行った彼だが、実はかなり惜しい所まで行っていた。
「いや、危なかった。後一秒反応が遅れてたらやられてたな…」
「うん――でも、最終的に勝ったんだし」
「そりゃそうだが…常日頃遠距離から安定して削りに来るお前に言われると、どうも盤石に勝たなきゃいけないような気がしてな」
「MS訓練一位になってるんだから我慢しなさい」
「ハイハイ」
ハイは一回、と言う小言を聞き流して、アグニカはシミュレーターから出る。これで交代という約束だ。
しかしこのタイミングで、二人の下に一人の男がやってきた。
「スヴァーハ、それーとアグニカ君。少ーしいーいか?」
「ダメだな」
「ダメだね」
「ええーえええ!?」
子供二人に軽くあしらわれ、ショックを受ける白衣で顔半分機械の怪しい長身の男、マヴァット・リンレス。地面に四肢で倒れ込み、「遂ーにスヴァハにも反ー抗期が…いーや落ち込ーむな私、これーはスヴーァハが着実ーに大ー人に向かっーてー成長していーる証なーのだ…大人ーになる…結婚!? 嫁入ーり!? そんな、そんーなバカな…!!」などとブツブツ呟いている。
ここで流石に悪いと思ったのか、スヴァハが助け舟を出す。
「まあ、それは置いといて…何、お父さん?」
「ありーがとうスヴァハーァ! ――っと、そーうではない。ディヤーウスが、おー前達に話ーが有ーるそうだ。付いてーきてくれ」
「…人体実験でもするつもりなのか?」
アグニカの言葉に、スヴァハも頷く。幼さが残る彼らだが、それぞれの父親のマッドサイエンティストぶりは充分に理解している。同時に、マッドサイエンティストであろうとも人体実験をするタイプでないコトも。
よって、今回も「そんなハズ有るか」と返されるコトを想定していたのだが――
「―――行ーくぞ」
マヴァットは一瞬の沈黙の後、目を合わせないまま歩き出した。アグニカとスヴァハは顔を見合わせたが、マヴァットの後ろについて行く。
マヴァットに続くまま、アグニカにとっては父となるディヤウス・カイエルの研究室に入った。
「わざわざ呼び立ててすまなかったな」
端末に何かを入力していたディヤウスは、扉が開く音を聞いて顔を上げ、アグニカとスヴァハにそう言った。それからディヤウスは、二人を部屋の片隅に有るソファーに誘導し、助手のヨウィス・ピトリに茶を出すよう言い、自らは二人の対面に座った。
やけにかしこまったその様子に、アグニカとスヴァハは違和感を覚える。
「…何の用だよ、親父」
「――そうだな。用件はさっさと済ませた方が良い…無用な気遣いだったか」
やはり、今日の父親は何かがおかしい――アグニカはそう確信した。そんなアグニカの内面はつゆ知らず、ディヤウスは本題を切り出した。
「アグニカ、そしてスヴァハちゃん。お前達は、今世界がどういう状況かを理解しているか?」
「世界、って…」
いきなり始まったスケールの大きな話に、二人は困惑する。その困惑を察し、ディヤウスは話を続ける。
「『モビルアーマー』――無人兵器の究極たる存在により、人類が絶滅の危機に瀕している。そして、我々『ヘイムダル』はその状況を憂い、打開する為の策として自律機動兵器『モビルスーツ』を世界に提案した。
同時に、世界中から身寄りの無い孤児達を引き取り、将来的にMSのパイロットにするコトを目的とした教育も行い始めた。お前達にも、その為の訓練を受けてもらっている所だ」
その中でトップクラスの成績を収めてくれているのは嬉しい限りだが、とディヤウスは言う。ただしそこに、通常浮かべられるハズの喜びの表情は存在しない。
「だが――現実として、MSを単純に戦場へ投入するだけでは足りないコトが分かった。
先のアメリア合衆国、オタワ郊外での防衛戦で、アルカーヌム社の『アルカナ・フレーム』が戦線投入された。世界的に見ても、初めてMSとMAが交戦した戦闘だ」
「――待って下さい。それは、人類が勝ったんじゃないんですか?」
スヴァハの疑問に、アグニカも頷く。ニュースによる報道には、初めてのMAに対するMSの攻撃は成功し、MAを殲滅したと有った。その結果から、MSだけではMAの殲滅には足りないとの結論に達するのはおかしい。
「正確に言うなら、勝った訳ではない。MSによる有視界距離での近接戦闘は、確かにMAに対する有効な攻撃手段だ。
あの戦闘で、それは証明された。事実として、オタワ郊外に迫っていたMAは、MSによって殲滅されたのだから」
「なら、どうして――」
「MAは殲滅されたさ――
アグニカとスヴァハが、驚愕で目を見開く。そしてニュースを思い返し、確かにMS側の被害については全く言及していなかったコトに気付いた。
「奴らは、核を使った。MS部隊はその爆発から身を守れず、全機が破壊された。機動性、防御力などの機体の性能不足だけではなく、
現状のMS戦闘の課題点が、一斉に浮き彫りとなった戦闘だった――と、ディヤウスは評した。技術スタッフとしては有意義な戦闘結果だったが、人類存亡の面から見れば、最低に近い結果だ。
「そこで、だ――我々は、かねてより検討していたシステムの開発加速を決定した。MSの性能上昇は当然だが、それと並行してパイロットの
それを、二人は鼻に付いた言い方だと思った。まるで、パイロットを機体のパーツとしか見ていないような――
「そのシステムってのが、これだ」
ディヤウスがそう言った後、横からマヴァットが端末の画面を見せて来た。そこには、件の「パイロットの性能を上げる為のシステム」の図案が映し出されていた。
「――これって…」
「まさか…!?」
その図案を見て、アグニカとスヴァハは本日二度目の驚愕を露わにする。世界でも最高峰の技術者であるディヤウスとマヴァットの子供として、そちら方面の知識も持つ二人には、その図案の持つ意味を理解するコトが出来るが――それ故に、驚愕した。
「『
阿頼耶識とは、仏教用語の一つだ。
第七感の更に奥、無意識の内に在るとされる第八感――自覚出来ないながらも意識より深い部分に在り、意識よりも遥かに強い力で人々を動かすモノにして、果てしない遠い過去から永遠の未来に向かって流れて行く、人々の永遠の生命を指す。
「人の脊髄にナノマシンを注入し、接続端子を形成――機体と直接接続し、自らの身体を動かすかのように機体を操れるようになる。問題である反応速度の飛躍的な向上に加えて、長きに渡る訓練期間の削減、操縦に求められる教養の大幅な低下を期待出来る。
これからMAを討伐しきる為には、相応の年月とMSと人員が必要となってくるだろう。この『阿頼耶識』は、それを見据えての物だ」
――つまり、「阿頼耶識」とは。
人をMSの
「機械化文明の結晶たるMAを否定し脅威としながら、人をMSの一部にするようなシステムを開発する。矛盾しているコトは百も承知だが、あの化け物どもに勝つには、こうする他に手が無い。これ以上の有効な策は無いのだ」
「――なんで、こんな話を俺達にした?」
アグニカは、眼前のディヤウスにそう問う。
やがてMSに乗る為、日々訓練しているのがアグニカ達だ。身体にナノマシンを埋め込む、などと聞いてしまっては、それに反発する可能性も有る。ディヤウスとマヴァットはそのリスクが分からないほどバカではないので、何か意味が存在するハズだ。
「有ーり体に言ーうなーら、『インフォームド・コンセント』とー言ーう奴さー。なーあ、ディーヤウス?」
「…今日、お前達にこんな話をしたのは他でもない――お前達に、この『阿頼耶識』の安全性を、仲間達にPRしてほしいと考えたからだ。
単刀直入に言う――
「「――はい?」」
今、何と言いやがったのかこの親どもは。
開発段階の、人体にナノマシンを埋め込むシステムの施術者になれだと?
それはつまり――
「
「言ー葉を選ばーぬならーば、そーう言うコトーだな」
「別に今すぐ、って訳ではない。実際に施術を行うのは、これから実験を重ねて、充分な安全性を確保してからだ。技術的には可能だが、これまで実践した人間は当然ながら一人もいない。
何であれ、物事には『前例』と言うモノが必要になる。前例が無ければ、頭の固い老人どもを動かすコトは出来ない。その前例に、お前達がなってほs」
「やめろ!!!」
アグニカが身を乗り出して机に足を乗せ、まだ短い腕を伸ばしてディヤウスの襟首を掴んだ。そしてそのまま持ち上げ、ディヤウスをソファーから立たせる。その表情は、憤怒か悲哀かの強烈な感情で歪んでいる。
「――やめろ。俺はどうなろうが構わないが、スヴァハを…
「アグニカ…?」
一方のディヤウスは、表情一つ変えずに淡々と話を続ける。そこに親愛や個人の情などは、一切入り込む隙が無い。
「我々は、お前達に強制はしない。頼んでいるだけで、強いている訳ではないからな。お前達が拒むなら、それでも良い。他の誰かに頼むまでのコトだ。
現在開発しているツインリアクター搭載型MS用インナー・フレームの操縦系統には、阿頼耶識を採用するつもりでいる。このシステムを使わず、ツインリアクターのMSに乗る訳には行かん」
「フザケんなクソ親父!! テメェらの好き勝手に身体を弄くり回されて、名前も決まってない、リアクターくらいしか出来てない機体と直接繋がって戦えってか!!? そんなフザケたコトを、スヴァハに協力しろってか!!?」
「ああ、そうだ」
「――ッ…!!!」
「やめて、アグニカ…!」
感情のままにアグニカが振り上げた拳を、側のスヴァハが両手でしがみつくようにして止める。アグニカは拳を下ろして、突き放すようにディヤウスを解放した。
「今ここで決断しろとは言わん。答えは一週間後、この時間この場所で聞かせてもらう」
ディヤウスには、それ以上話す気が無いようだった。アグニカとスヴァハは、そのまま無言で研究室を後にした。
その足取りは、鉄塊でもくくりつけられたかのように重たかった。
◇
アグニカとスヴァハが退室し、部屋は機械の駆動音が聞き取れるほどの静寂に包まれた。
「ハァ…」
その中で、ディヤウスは大きく溜め息を吐き、背後のソファーに倒れ込んだ。脱力するディヤウスに向けて、ツインリアクターシステムの理論見直しをしながらも言い合いに耳を傾けていた一人の男が、口を開いた。
「随分と厚い仮面を被ったな、ディヤウス」
「言うな、トリテミウ――ソロモン。俺だって、本当はあんなコトさせたくねぇんだからよ」
男の名は、ソロモン・カルネシエル。
本名をトリテミウス・カルネシエルと言い、かつてはエイハブ・リアクターの生みの親であるエイハブ・バーラエナの助手をしていた者だ。MA「ガブリエル」が暴走した際に重傷を負って記憶喪失となってしまい、それ以降はソロモンと名乗るようになった。
「だが――これは、アイツらにしか出来ない。俺達には成し遂げられないコトだ」
「だから、自分の息子すら利用する。どれほど嫌われようが、そのコトで彼らの人生が大きく狂おうとも――か。難儀だな」
親達の負債は、子供達が払わされる。忌むべき負の連鎖だが、ディヤウスにこれを断ち切るコトは出来ない。
ディヤウスは技術者であり、ツインリアクターシステムを搭載したMSを開発し生産しきるコトを、当面の目標としている。そしてそのMSは、信頼出来る誰かが使わねばならない。眼前の利益の為に巨大な脅威を放置しかねないような者に、人類の未来を左右し得るモノを託す訳には行かない。
どれほど恨まれ、嫌われ、憎まれようとも――全てはMAを倒し、この世界から抹消しきる為に必要なコトだ。その為には、どんな手でも使うとディヤウスは誓った。自分の息子、親友の娘を実験台兼プロパガンダとし、研究成果たるシステムの端子を身体に植え付けさせ、死地へ赴かせようとも。
――例えそこで、彼らが命を落とすとしても。
それだけではなく、何千人何万人をMAと戦わせ、その命を散らせるコトになるのだとしても。
「この世から、MAを根絶する――根絶、しなければならないのだ…!」
◇
ディヤウスとマヴァットから「阿頼耶識」システムの概略を聞かされた俺とスヴァハは、一言も交わすコト無く廊下を歩いていた。どこに行くでもなく歩く俺に、スヴァハは無言で付いて来ている。
「お前はどうするんだ」と聞く気も起きず、微妙な沈黙が二人の間に流れるままだ。一言で言うと、非常に気まずい。
「―――ねぇ、アグニカ」
実際には数分でありながら、俺には永遠に感じられた沈黙は、スヴァハによって破られた。普段より少し上擦ったスヴァハの声に、俺は振り向いた。視界に入ったスヴァハは、全身が強張っているように見える。スヴァハにしては珍しく俯いており、それにも違和感が有る。
スヴァハは俺と目を合わせないまま、少しの逡巡の後に口を開いた。
「さっき、アグニカがディヤウスさんに怒ったのって――」
「ん? あ、えっと…」
――待てよ。よくよく思うと、結構恥ずかしいコトを言っていた気が…? 俺は良いけどスヴァハまで巻き込むなー、とか叫んでたような。
思い出しながらうーん、と唸る俺を見て、スヴァハは破顔し。
「ふふっ――ありがとう、アグニカ」
重苦しい空気を吹き飛ばすかのような笑顔で、そう言った。
第十一話「もつれる想い」をご覧頂き、ありがとうございました。
序盤から量産機による戦闘が有りましたが、核で一網打尽とかひでぇ結末ですね…。
後半はアグニカ達に選択肢が突き付けられます。
これまたひでぇマッドサイエンティストどもだ…。
モビルアーマーの設定集については、もう少し種類が増えてからと言うコトで(1000字超えないと投稿出来ないので)
《オリジナル設定》
アルカナ・フレーム
・アメリア合衆国の「アルカーヌム社」が、世界で初めて開発、生産したMS用インナー・フレーム。
・生産性の高さ、コストの低さを売りとするが、性能は後発の量産型のフレームMSにかなり劣る。
《オリジナルキャラクター》
パール・マコーマック
・アメリア合衆国軍MS部隊の指揮官。
・ドS美女。グラマラスボディの持ち主。エロいが実は処女。
《オリジナル機体》
PNJ-000 フール
・「アルカナ・フレーム」の零番機。
・最初機のMS、なおかつ低コストを追求している為、性能はかなり低い。
カシエル
・四つの翼と四つの頭、一本の腕を持つモビルアーマー。
・初期の人間を殺す為だけの機体であり、MS戦には不向き。
アラエル
・超高高度を超高速飛行し、水爆を投下して飛び去るモビルアーマー。
・本体の防御力は低いが、スピードとタチの悪さは一流。
《今回のまとめ》
・MSを造るだけではまだ足りない
・「阿頼耶識」についての概略
・クソ選択肢を突き付けられたアグニカ達の決断や如何に
次回「選択」