厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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今回から、再びアグニカ達に焦点を当てます。
「ガンダム・フレームは厄祭戦末期に出現した」と言う公式設定の都合上、前回から数年飛ぶコトとなりますが、どうかお許し下さいm(__)m

「キング・クリムゾンッ! 既にッ!」(誤魔化そうとしている)

伏線投げっぱなしの十国や火星での動乱は、第四章、第五章で描いて行く予定です。
早く火星を描きたいのですが、かなり先になりそうで…orz。


#14 ガンダム・フレーム

 M.U.0049年、三月。

 ヘイムダルの拠点たる移動式海上メガフロート「ヴィーンゴールヴ」では、名だたる技術者達が五年にも渡る歳月を費やして開発していた新たなるモビルスーツ用インナー・フレームの建造が、佳境を迎えていた。

 そんな時、そのテストパイロットに任命された二人。アグニカ・カイエルとスヴァハ・リンレスは――

 

「――どれもこれもMAの襲撃じゃねぇか」

「そうだねー…」

 

 ――ベッドに横たわってうつ伏せになり、ニュースを眺めていた。

 無論、サボっているとかそういうコトではない。

 

 彼ら二人は遠くない先日、ヘイムダルが開発しているツインリアクターシステムを搭載したMS用インナー・フレームを操縦する為の「阿頼耶識」システムの使用に必要なナノマシンを脊髄に注入する、手術を受けた。そうして、念の為に安静を命じられているのである。

 

 施術を行ったのは、ヘイムダル医療チームのリーダー、ダスラ・アシュヴィン。世界で一、二を争う凄腕の医師である。彼にはナーサティヤと言う名の弟がいて、今は火星の独立軍に(いさせられて)いるとか。

 「阿頼耶識」は人体に重要かつ必要不可欠な脊髄に異物(ナノマシン)を埋め込むと言う性質上、手術の結果によっては被術者の命に関わる。馴染みやすいようにはなっているが、拒絶反応などが起きてしまうと目も当てられない。良くて一生寝た切り、下手をすれば即死する。

 事実として、厄祭戦終結後の圏外圏で行われるような阿頼耶識手術は、劣悪な環境の中で劣化したナノマシンを使う為、拒絶反応が出やすい。未成熟な子供にしか施術出来ず、それもかなりの確率で失敗するので、阿頼耶識手術が原因で人生を台無しにされる子供は数知れない。また、ナノマシンが純正ではない為、施術に成功してもその効果は弱くなる。

 

 しかし、少なくともこのヘイムダルに於いては、完璧な環境で非常に優れた医師が施術をする為、年齢お構いなしに成功させられる。また、使われるナノマシンも混じりっ気一切無しであり、その効果をフルに発揮させられる。

 よって、理論上は安静にする必要などないが、それでも世界で初めて阿頼耶識手術を受けた二人である。手術を担当したダスラは大事を取り、二人をこのようにさせている。

 

「まあ、最近は十国のMS部隊も整って来たしな。都市には核でもビームでも壊れないシェルターが付いてるし、被害はそんなに出ないか」

「それ以外の所では被害が出てるし、MS部隊だって応戦出来ても逃がすパターンが少なくないんじゃない?」

「さあ。こんな情報統制下のニュースじゃ何も分からないだろ…」

 

 二人は背骨の施術部が見えるような患者服を着させられ、並んだ二つのベッドにそれぞれうつ伏せになっている。阿頼耶識の施術後は接続端子が背骨から飛び出す形になるので、仰向けに寝るコトが出来ないのだ。アグニカは施術後、これを「阿頼耶識最大の欠点」と称している。

 

 そんな二人の下に、一人の老人がやってきた。

 

「ハイ、定期検診だよアグニカ君、スヴァハ君。私が言った通り、ちゃんと安静にしているかね? ああ、セッ●スはダメだぞ。アレは見た目通りに運動量が多いからな」

「する訳ないだろ」

 

 件の阿頼耶識手術担当者、ダスラ・アシュヴィンだ。ちなみにこのジーさん、若い男女の仲を突っついていじるのを人生の生きがいとしている、とんでもねぇ下世話野郎でもある。

 

「本当かね? 本当に本当かね?」

「あのなぁジーさん…俺らはそう言うのじゃないからな?」

「そうだろう、今は! しかし成長とは恐るべきモノ、そう思って女の子だと意識していなかったハズの幼なじみがいつの間にか女らしくなっていたが為に思わずその肢体に目を見張ってしまう日は、決して遠くないぞ少年ッ!!」

「ただのセクハラじゃねぇかよブン殴るぞテメェ。と言うか仕事しろ」

 

 こんな性格を除けば、優秀極まりない医者なのだが。

 

「ゴホン。では本題だ――今回の定期検診で異常が無ければ、退院出来るぞ。格納庫では例のフレームが完成間近らしいからな、様子を見に行くと良い」

 

 医者モードに切り替わったダスラは、一人ずつ透析機械の中に放り込んだ。その他、軽い面談と諸々の検査。二人合わせて三十分以内に終了し、異常無しと告げた上で、ダスラは。

 

「これを着ていきたまえ」

 

 二人にそれぞれ、新しい服を投げた。

 

「これは――」

「ヘイムダルの制服、ですか?」

「ああ。一昨日完成したらしい。それはキミ達専用の制服だ。一人三着しかないから、丁寧に扱ってやってくれ」

 

 その後、「退院おめでとう。――死ぬなよ」との言葉を残して、ダスラは退室した。二人はその後、自室に戻って着替えをし、MSデッキへ繋がるエレベーターの前に集合するコトになった。

 

 

 二十分後。

 思った以上に大仰だった制服を着たアグニカは、落ち着かないままスヴァハを待っていた。

 

 ヘイムダルの制服は、制服と言うよりも軍服に似た様子だった。そして、その視点から見ると、アグニカに渡された物はかなり階級が高い人物が着る物だろう。

 制服は白と紺色、黒を基調とした物だが、全身に金の装飾が施されている。裾は膝を超えるほどに長く、それよりも長い青いマントが左肩に掛かっている。腰には金と黒のベルトが巻かれ、短剣を吊り下げるようになっている。正直動き辛いので、アグニカは早くも嫌気が差していた。

 

「お待たせ、アグニカ」

 

 そんなアグニカの所へ、スヴァハがやって来る。そして、スヴァハを見たアグニカは。

 

「お…う?」

 

 固まった。

 

「――アグニカ? 私、変な所とか有る?」

 

 何故かと言えば、無論スヴァハの着ている制服のせいだ。色はアグニカとほぼ同じだが、肩掛けのマントが無く、全体的に身体のラインが見える。しかし、アグニカが固まった理由はそこではなく――

 

「スカートよりズボンの方が良かったかな…? 両方有ったんだけど」

 

 彼女が今履いている、丈の短いスカートにこそ有った。

 

「着替えてきなさい、今すぐにッ!!!」

「お父さんみたいなコト言ってる!?」

 

 

   ◇

 

 

 アグニカがスヴァハを部屋に突き返してから、およそ五分。スヴァハが、ズボンに履き替えて戻って来た。二人はエレベーターに乗り、MSデッキへと足を踏み入れた。

 

「――来たかアグニカ君、スヴァハ君」

「どうも、ソロモンさん」

 

 二人を出迎えたのは、主にエイハブ・リアクター関連で新フレーム開発に貢献した元エイハブ・バーラエナの助手、ソロモン・カルネシエル。ソロモンに案内され、アグニカとスヴァハは件の機体の前に立った。

 

「――これが、その…」

「新しい、モビルスーツ――」

 

 それは、純白と青藍の装甲を纏った、桃色の二つ目(デュアルアイ)を持つシャープな機体だった。

 

 頭から角のように左右に飛び出した大型のセンサーアンテナと、三角型に突き出した額が特徴的でありながら、洗練され尽くした頭部形状。

 黄色のダクトに挟まれたコクピットブロックは重厚な装甲に護られ、白一色で美しく染め上げられながらも、その奥に並んでいる二つのリアクターが独特な存在感を演出している。

 肩部は三角形に近い形となっており、青い装飾のような部分が飛び出し、それは姿勢制御用のエイハブ・スラスターによって挟まれている。

 肘から突き出た鋭利な装甲に反し、武骨な腕部装甲の先には、指先が尖って独特の美と力強さを感じさせるマニピュレーター。

 大きめに整形された鋭い装甲が集まり、青を交えずに真っ白に塗装された腰部には、その側面にバーニアが備えられている。

 引き締まった印象を与える白い装甲が集まった脚部は、所々に差し込まれた青い装甲によって、バランスが整えられている。

 そしてバックパックには、アグニカの希望で取り付けられた、大型のスラスターウィングユニット。

 

 その威容は、機体名とは相反する、天使のような美しさに包まれていた。

 

 

「形式番号『ASW-G-01』、個体名『バエル』。

 これがお前専用のMSであり、このフレームシリーズにとっては原初の機体になる」

 

 

 バエル。

 悪魔群「ソロモン七十二柱」に栄えある序列一位として名を連ね、カナン神話の最高神に端を発すると目されている、「憤怒」と「英傑」を司る戦争の悪魔である。

 

 天使を狩る兵器に悪魔の名を付けよう、と言ったのはエイハブ・バーラエナであるが、「阿頼耶識」システムを開発したマヴァット・リンレスが関わったコトによって、この名前はそれ以上の意味を持ちつつある。

 何せ、マヴァットは「魔術(オカルト)的事象を科学的に引き起こす」コトを人生の研究テーマとしてきた、未だかつて誰にも理解されていない正真正銘のマッドサイエンティストだ。オカルトの中でも一般に認知され、メジャーな存在と言える「悪魔」にあの男が目を付け、手を出さないハズが無い。奴が一体どんなモノをこの機体に仕込んだか、それはアグニカ達が知る所ではないが、ロクなモノでないコトだけは容易に想像出来た。

 

「あの、ソロモンさん。あのMSフレームは何ですか?」

「ん?」

 

 一方、スヴァハは装甲の組み付けられていない一つのフレームを指差して、ソロモンにそう質問している。今、MSデッキには多くのフレームが装甲を組み付けられない剥き出しの状態で並んでいるが、スヴァハが指差したそれは、確かに他の物とは違う形をしている。

 

「アレは技術部顧問のリシャールさんが開発した、整備性と生産性に重点を置いたMS用インナー・フレーム――通称『ヴァルキュリア・フレーム』。

 総合出力では新型フレームに及ばないが、総合性能ではそれに匹敵している高性能機体だ。エネルギー伝達効率が良く、簡素な設計で生産性と整備性が高く、コストは低い優秀なMS。十国との契約上、建造が後回しにされているがな」

「――ヴァルキュリア・フレームか…バエルに使われているフレームにも、名前は有るのか?」

 

 アグニカの質問に、ソロモンは頷き――満を持したかのように、その名を口にした。

 

 

「『ガンダム・フレーム』」

 

 

「――ガンダム・フレーム…」

「…ガンダム、と来たか」

「ああ。彼方の昔、歴史の節目には『ガンダム』の名を持つ兵器が必ず現れ、運命を覆して来たと言われている。我々は、このフレームMSもそのような活躍を見せてくれる、と期待しているんだ。

 人類殲滅を進めるモビルアーマー。その全てを打倒するコトで、滅び行く人類の運命を変えてくれるのではないかと」

 

 世界の希望たるMSの名前としては、これ以上無い名前だろう。

 

「…今、何機が出来てるんだ?」

「すぐにでも動かせるのは、このバエルとそっちのアガレス。他はリアクターに灯を入れる所から始めなきゃならない」

 

 ツインリアクターを建造する段階で一度起動しなければならないが、同調が確認出来てからはMAに探知されるのを避ける為、リアクターをスリープモードにしておくのが定石らしい。ガンダム・フレームは全てで七十二機。使われるリアクターの数は、計百四十四基にまでなるのだ。そんな数のリアクターが一カ所に集まっていれば、MAには確実に発見されてしまう。

 このヴィーンゴールヴの利点として、広大な海洋上に有る為、敵に見つかり辛いと言うモノが有る。百四十四基分のエイハブ・ウェーブをバラまけば、敵に位置を知らせるコトになるので、単なる自殺行為でしかない。通信阻害用のMAが全世界にエイハブ・ウェーブをバラまいている今、MAに取っても一基や二基そこらのリアクターから放たれるエイハブ・ウェーブで敵味方を判別するコトは、容易ではなくなっているからだ。

 

「武器は?」

「そこのハンガーに掛かってる」

 

 ソロモンが指差した先には、黄金の刀身を持つ西洋剣が二本と、銃身の下に黄金の刃が装備されたライフルが二丁有った。

 

「今の所、それぞれに一本ずつって想定だが」

「あー…バエルの方で剣二本、アガレスで銃二丁使う感じにしてもらえると――なあ、スヴァハ?」

「うん、そうだね…私は近接戦より銃撃戦の方が好きだし、アグニカはそもそも銃系からっきしだもんね」

「いや、あんなん当たるハズ無いだろ。当たる方がおかしいぞ。当たり判定十センチくらいしか無いじゃねぇか」

「アグニカは眼と銃口を合わせられてないだけ、っていつも言ってるじゃん」

 

 自動照準より正確に目視射撃しちまう人に言われても、とアグニカは肩をすくめた。なお、回避と近接戦に全力を注いでしまったあまり、寄れば確実に勝てるようになった自分のコトは棚に上げっぱなしである。

 

「バエルは二刀流、アガレスは二丁流っと――で、どうする? もう阿頼耶識手術は受けたんだろ?

 試しに動かしてくれると、こっちとしても運用データが取れて助かるんだが」

「ああ…スヴァハ、予定とか有るか?」

「ううん、何も」

「じゃあ――」

 

 やるか、とアグニカが言いかけた時。

 

 

『三時の方角より、エイハブ・ウェーブ接近! 数は四、全てMA! 水中に二機、海上に二機! 目標は本施設と思われたし!』

 

 

 けたたましいアラートが、施設になり響いた。観測所からの放送を受け、場は一気に(せわ)しくなる。

 

『MA接近! 繰り返す、MA接近! 数は四、三時の方角! 本施設到着まで、およそ五分三十二秒六四! 内一機は「天使長」ハシュマル!!』

「オイオイ…なんてタイミングだ。狙ってんじゃねぇだろうな?」

「そんなコト言ってる場合じゃないよ、アグニカ! 何とかしないと!」

 

 MAの襲撃。それは別に珍しいコトではない。事実、これまで幾度かMAの襲撃に見舞われたが、配備してあるMS部隊で撃破ないし撤退させている。

 だが、今回は面子がまずい。

 

 「天使長」ハシュマル。

 M.U.0045年時、十国会議の帰途に有ったサハラ連邦共和国の艦隊を襲撃、これを全滅させた機体の一機である。その性能は、そこらのMAとは比較にならない。

 ヴィーンゴールヴに有るMS部隊は、ヘキサ・フレームの「ジルダ」十三機(最初は二十機だったが、これまでの戦闘で減った)だけだ。それでは、他のMAは何とかなっても、ハシュマル相手ではほぼ間違い無く全滅だろう。

 

「アグニカ君、スヴァハ君。冷静に聞いてくれ」

 

 側にいたソロモンが、いつになく真剣に二人を見据える。

 

「相手は『天使長』、護衛部隊だけでは足りない。

 ――これからガンダムに乗って、迎撃してくれ」

「…何だと!? まだ、動かしてみたコトも無いのにか!?」

「操作系はシミュレーターと同じだ。それに、阿頼耶識に細かなOS調整は要らん。すぐに動かせる――そのハズだ。

 そこのロッカールームに、パイロットスーツが有る。三分で着替えて、ガンダムに乗ってくれ」

 

 ムチャだ、とアグニカは言う。だが、ソロモンにもそんなコトは分かっている。ムチャだとか無謀だとか、そんな言葉は聞き飽きている。MAに立ち向かおうとしている時点で、それはムチャな行いだし無謀な行為でもあるからだ。

 

「分かっているだろう。このヴィーンゴールヴの施設が破壊されれば、人類の希望は本当の意味で潰える。人類がMAを打倒する手段は無くなる。

 我々もギリギリまで粘って、起動の補助と最終調整をする。さあ、急いでくれ! 最早、迷う時間も躊躇う時間も無い!!」

「―――!」

 

 アグニカとスヴァハは、互いに目を合わせる。それは一秒にも満たない時間だったが、二人は同時に強く頷き――ロッカールームに向け、走り出した。

 その背中を見つめながら、ソロモンは自らに言い聞かせるかのように呟いた。

 

「――私はエイハブさんを止められなかった。その心中を、全く理解していなかった。だから私は、せめて…せめて、エイハブさんが遺してしまった間違いを壊す。そう誓ったんだ、あの時に」

 

 そして、ソロモンは二人に背を向け、その場に残った整備士達に退避を命令した。デッキを去っていく整備士達を傍目に見ながら、ソロモンは機体の最終調整を行うべく、コンソールを叩き出した。




第十四話「ガンダム・フレーム」をお読み頂き、ありがとうございました。

遂に完成したガンダム・フレーム、しかしそこに強敵が現れる。
ベタベタな展開ですけど許してくだせぇ(懇願)


《新規キャラクター》
ダスラ・アシュヴィン
・ヘイムダル医療チームのリーダー。
・凄腕の医者。弟がいる(五話で登場している)


《新規機体》
ASW-G-01 ガンダム・バエル
・ガンダム・フレーム一番機。
・「バエルだ! アグニカ・カイエルの魂!」

ASW-G-02 ガンダム・アガレス
・ガンダム・フレーム二番機。
・バエルの色違い。


《今回のまとめ》
・ガンダム・フレーム、完成
・ヴィーンゴールヴにハシュマル来襲
・アグニカとスヴァハ、初陣へ




次回「悪魔の初陣」

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