厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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また半月くらい開いてしまいました…。
誠に申し訳無い…だが私は謝る、すみません。
本当にすまないと思っている。

今回で第三章はラストになります。
人々の希望を背負い、遂に悪魔の王が飛翔する――


#15 悪魔の初陣

「クソ、撃て! 撃てぇッ!」

 

 ヴィーンゴールヴ防衛の為に出撃したモビルスーツ部隊は、海上を滑るように機動して近付いてくるモビルアーマーに対し、射撃戦を繰り広げていた。しかし、迫る機体の中で一番巨大なMA「ハシュマル」には、まるで効いていない。速度を緩めるそぶりなどなく、一直線に突撃して来ている。

 

「隊長、奴ら止まりません!」

「良いから撃て! 坊ちゃんどもが新しい奴を出して来るまで、何としても耐えるんだ! ヴィーンゴールヴ、対空監視忘れんなよ!」

 

 世界の制空権は、今MAに有る。空から核の一つ降って来ないとも限らないのだ。落とされたとしても上空で迎撃すれば、施設丸ごと海の藻屑、なんて最低最悪の結末は避けられる。

 

「ハシュマルは無視しろ! 一機ずつ、ザコから落とせば良い!」

 

 まず、海上に姿を見せているMA、ラグエルに集中放火。強力な曲面装甲を持つが、ハシュマルの装甲に比べればまだ薄い、MSによる間髪入れぬ攻撃に耐えられるほどの強度ではない。

 やがて装甲の一部がひび割れ、内部に侵入した弾丸が火花を上げ、それが内蔵されたミサイルの火薬に着火。暴発し、ラグエルは内部から弾け飛んだ。

 

「やった!」

「マグレだ、気を抜くな! 次目標、水中MAサキエル!」

「ヴィーンゴールヴ、魚雷発射!」

「浮上した所を仕留める! 全機、予測照準!」

 

 海面が持ち上がり、純白の水しぶきが舞う。ヴィーンゴールヴから放たれた魚雷が、水中のサキエルにヒットしたのだ。続けてもう三度、水柱が立つ。

 

「――目標、深度を下げています!」

「何…?」

「百、二百、三百…まだ下がって行きます!」

 

 ヴィーンゴールヴに備えられた魚雷は、決して小型ではない。むしろ、マンリー級強襲揚陸艦に装備されている魚雷よりも大きい。流石のナノラミネートアーマーでも、四発も直撃すれば無傷では済まない代物だ。そんな状態で深度を下げれば、水圧に殺されるだけではないか。

 

「海中のもう一機も、深度を下げました!」

「何をする気だ…!?」

「隊長、ハシュマルがすぐそこに!」

「ハシュマル、ビーム砲を展開!」

「…ッ、ミサイル放て!!」

 

 ヴィーンゴールヴのミサイル発射管が一斉に煙を吐き、ミサイルが真っ直ぐにハシュマルに向けて放たれる。ハシュマルは後退しつつビームを放ち、これを迎撃。

 爆発が発生し煙が充満するが、ハシュマルのビームは止まらない。ヴィーンゴールヴの施設にサーベルが如く振り下ろされるビームを、MS隊の一機がパイロットの脱出と共にビームをその身で受け、海へと落下した。

 

「…!? 敵水中MA、急速浮上! これは、ヴィーンゴールヴに突っ込んで来ます!!」

「何だt――ぐわぁッ!!」

 

 どうやら、減速しなかったらしい。MAは施設の底部に激突し、施設全体を震わす衝撃が伝播する。

 そしてその直後、敵はあろうことか、自爆を敢行した。

 

『クソ…被害状況を上げろ!』

『施設下部に水漏れ発生! D3ブロックを中心に、浸水が急速に進行しています!』

『D9からC6までの隔壁を閉鎖しろ! MSデッキへの水の侵入を防げ!』

「こっちの援護は出来なさそうだな…!」

「ハシュマル、来ます!!」

「総員へ、近接戦だ! 構えろ!!」

 

 一際高く飛び上がったハシュマルは、頭部ビームを放ちながら、ヴィーンゴールヴの滑走路に飛び乗った。滑走路が真っ二つに割れ、その下の施設が崩壊して行く。

 

「うおおああああああああ!!!」

 

 MS部隊がソードクラブを構え、ハシュマルに突撃する。しかし、その陰から湧いてきた子機(プルーマ)に押され、本体へその牙を届かせるコトが出来ない。

 

「邪魔しやがってこの野郎!!」

「落ち着け、プルーマはすぐ壊せる! 本体の動きを警戒し―――」

 

 そう言う防衛隊隊長の機体は、ハシュマルのワイヤーブレードを認識出来ないまま、空へと弾き飛ばされた。

 

「隊長ォォォ!!!」

 

 コクピットの存在する頭部がひしゃげ、その隙間から赤い液体が吹き出ている。ワイヤーブレードが再び空を裂き、隊長の機体はそれに接触。守るべき滑走路に当たった瞬間、スーパーボールが如く天へと跳ね飛ばされ、水しぶきを上げて大海へと放り出された。

 

「そんな、隊長が! 隊長があああ!!」

「パニクるんじゃねぇ、此処が沈んだら人類は終わりなんだぞ!? せめてプルーマだけでも掃j」

 

 ガキィン!! と高く鈍い金属音を立て、更に一機が海へと弾かれる。ハシュマルの上陸から一分足らずの内に、二機のMSが無力化され、海へと投げ捨てられた。悪い冗談か悪夢としか、パイロット達には思えなかった。

 四年もの間、防衛隊を率いてヴィーンゴールヴを大した損傷もさせず守り抜いた隊長が、一瞬で海の底へと沈められた。隊長に全幅の信頼を寄せていた隊員達が、どうしようも無いほどに絶望を感じるには、あまりにも充分過ぎる事実だった。

 

「終わりだ…!」

「どうしようもねぇ――」

「みんな、死ぬんだよ…!」

 

 戦意を喪失してしまった防衛用MSを差し置き、ハシュマルは滑走路に爪を立てながら移動し、ヴィーンゴールヴにビーム砲を撃ち込んだ。

 ナノラミネート加工を施された外壁に傷一つ付かぬコトを悟ったハシュマルは、今一度飛び上がって全重量をその二本の腕に預け、落下。ヴィーンゴールヴの天井が砕け散り、広大なMSデッキの一部が白昼の下に晒された。

 

「来たか――!」

 

 ハシュマルはMSデッキに並んだフレームが剥き出しのガンダムを認識すると共に、足元にいたソロモン・カルネシエルを認識。殺戮対象たる人間と判断し、ビーム砲を露わにした。

 

「まだか…!? ク、こんな所でビームなんて撃たれたら、本当に何もかもオジャンだぞ…!!」

 

 覚悟はしていた。

 自分はエイハブ・バーラエナを止められなかったばかりか、マザーMA「ガブリエル」の建造に手を貸しもした。その罪は測りようも無く、その命を以てして償えるほど軽いモノでもない。

 だが――此処で、人類の希望(ガンダム)と共に潰えるなど出来ない。有って良いハズが無い。

 

 ソロモンは逃げも隠れもせず、己が功罪の化身たるハシュマルを見上げる。ハシュマルはビーム砲を臨界させ、赤い光熱の粒子を撃ち放つ―――

 

 

「!!!」

 

 

 寸前。

 ハシュマルの懐に飛び込んだMSが、その顎を叩き上げた。

 

 ハシュマルのビームは天に向けて放たれ、その照準が下へと補正されるよりも速く、それはハシュマルを蹴り飛ばしていた。

 

「――――――――――――」

 

 ソロモンは唖然とし、ただその機体を見つめるコトしか出来なかった。自らも開発に携わっていたハズなのに、いざ飛翔したその機体は、悪魔と呼ぶには相応しくないと感じるほどに――あまりにも、美しかった。

 両手に黄金の剣を構え、大きな翼を広げた白き機体。それはその双瞳を輝かせ、蹴り飛ばしたハシュマルを真っ直ぐ見据えている。

 

 

 

 ガンダム・バエル。

 

 

 

 地獄の王たる悪魔(バエル)を宿す、純白の機体――人類を救う英雄(ガンダム)が、遂にその産声を高らかに歌い上げた。

 

 

   ◇

 

 

 轟音が、そう遠くない所から響いて来ている。壁一枚隔てた所で、スタッフ達が恐怖のあまり逃げ出し、すぐそこにMAが迫っていると感じさせる。

 急がなくては。自分達は今、此処を守る為に戦おうとしているのだから。

 

 用意されたパイロットスーツの袖に腕を通し、正面のジッパーを引き上げる。本来なら悠長にパイロットスーツなど着ている場合ではないのだが、ヘイムダル制服の構造上、パイロットスーツを除けば上半身全裸になる以外に「阿頼耶識」を接続する術が無いのに加え、機体の重力制御の調整が完璧ではない。阿頼耶識を操縦系に採用しているガンダム・フレームを動かせるパイロットが少ない今、コクピットで頭を打ってサヨウナラ、は笑えない。

 

「――よし! 俺は先に行く!」

「うん、私もすぐに行くからね!」

 

 一列向こうで着替えているスヴァハに伝言を残して、俺はロッカールームを飛び出し、ガンダム・バエルの下へと走る。機体までは十メートル弱、身長百七十越えの俺の脚なら数秒有れば充分だ。

 

「アグニカ、準備は出来てる! 早く乗れ!!」

「って、クソ親父!? テメェ何してんだこんな時に!?」

 

 コクピットまで上昇出来るクレーンの近くに、クソ親父ことディヤウス・カイエルが立っている。スタッフ達と共にとっくに避難したと思っていたが、まさか残っていたとは。

 

「そんなコトはどうでもいい、早くしろ! そこにハシュマルが来ているんだ、もう猶予は無い!!」

「アグニカごめん、遅れ―――お父さん!?」

「来ーたかスヴァーハ!! 今バエール共々、最ー終調ー整が終わーった所だ!」

 

 スヴァハが走って向かうガンダム・アガレスの足下には、スヴァハの父たるマッドサイエンティストことマヴァット・リンレスもいる。子供二人が驚いて一瞬止まった中、クソ親父が叫ぶ。

 

「システムは立ち上げてある、後は乗れば動く! さあ行け!!」

「う、うん! でも何で――」

「「子供(ガキ)残して親が真っ先に逃げれる訳有るかァッ!!!」」

 

 親父二人組はそれぞれ子供の襟を掴み、クレーンに放り投げ、上昇スイッチを押した。そして、二人はそそくさとその場を立ち去って行く。

 

「…ッ!」

 

 俺はクレーンの上昇速度をもどかしく感じ、ある程度上がった所で機体に飛び移った。

 

「アグニカ!?」

 

 スヴァハの声を尻目にハッチの開いたコクピットへと飛び込み、シートに背中を預ける。すると「阿頼耶識」の接続端子がシートから伸び、背中の「ピアス」とドッキングした。目の前のタッチパネルに悪魔(バエル)のシジルが表示され、周囲のモニターに光が点る。

 ゴオオオオ、と言う音が機体から響き、機体状況がダイレクトに脳髄へと送り込まれて来る。その情報の奔流で脳に鈍い痛みが走るが、そんなモノに構っている暇は無い。二本の垂直型スティックを握りしめ、情報を精査する。

 

「ッ―――システム、オールグリーン。

 網膜投影、開始(スタート)

 

 網膜に、頭部カメラが捉えた映像が表示される。同時にMSデッキの外壁が破られ、MA――「天使長」ハシュマルがその姿を見せた。その威容を囲うように、映像の中にサークルが映し出される。

 

「ガンダム・バエル、起動!」

 

 機体のデュアルアイ・センサーが一際強く輝き、原初のガンダム・フレーム――「バエル」は、鋼鉄の身体を動かし始めた。機体を拘束していたアームが次々と外され、その巨体を解放する。

 しかしその時には、既にハシュマルが頭部ビーム砲を露出させていた。

 

「させるか…!!」

 

 スティックを勢い良く押し込んでペダルを思い切り踏み込むと、背中のスラスターウィングユニットが持ち上がり、スラスターを全開にした。バエルが飛び上がり、ハシュマルに向かって突撃する。

 一秒と掛からずハシュマルの懐に飛び込むと、両手に持っていた黄金の剣「バエル・ソード」を振り上げ、その顎とも呼ぶべき所を全速で斬り上げた。

 

「うらあッ!」

 

 更に右足を振りかぶり、全力でハシュマルを蹴りつける。ガカァン! と音を立て、ハシュマルは横側へと勢いづいてブッ飛ばされた。

 

「よし…!」

 

 対抗出来ている。膂力では決して負けていない。これなら――

 

「―――、うおッ!?」

 

 ハシュマルの陰から迫って来たワイヤーブレードを認識するや、脊髄反射的に後退、ギリギリ回避。敵は更にワイヤーブレードを機動させるので、それを左手の剣で弾いて防御する。しかし、その隙を突いてプルーマが仕掛けて来た。

 

「チ…ッ!?」

 

 飛びかかって来るプルーマを、横からの銃撃が粉砕した。視線を向けると、そこではスヴァハの「ガンダム・アガレス」が、二丁の「アガレス・ライフル」を構えている。

 

『絶対にプルーマは近付かせない! アグニカはハシュマルを!』

「了、解ッ!」

 

 スラスターを再び吹かせ、剣を構えてハシュマルに吶喊する。対してプルーマが飛びかかって来るものの、全てがスヴァハの正確無比な射撃によって破壊されて行く。

 ギュルルル、と音を鳴らすワイヤーブレードを、今度は剣で弾かず横にズレて回避。スラスターの噴射は決して止めず、本体への距離を縮めながらもワイヤーに剣を擦りつけ、切断を図る。

 

「ぐ、うううッ…!」

 

 やはり、重力制御は完璧ではない。強烈なGが身体にかかり、血反吐を吐きそうになる。それでもペダルは踏み込んだまま、スティックも絶対に離さない。

 剣で擦られたワイヤーは火花を上げるが、切断されるほどのダメージは入っていない。やはり、バエル・ソードと同じ特殊超硬合金で錬成され、しなやかさと強度を同時に得ているワイヤーを斬るコトは出来ないようだ。

 ハシュマルが右腕を振り上げ、先端の格闘クローで破壊しようとする。ワイヤーの切断は諦め、ワイヤーから離れるコトで振り下ろされる一撃を間一髪の所で回避。再び懐に飛び込むと、右手の剣を全力でハシュマルの頭へと叩き込んだ。火花が上がり、ハシュマルが揺らぐ。

 

「オラあああッ!!」

 

 好機だ。逃す手など無い。

 右の剣を振り切った勢いが死なぬ内に機体を回転させ、左の剣も全く同じ箇所にブチ込む――!

 

「もう一撃ィッ!!!」

 

 間違い無くクリーンヒット。

 確かな手応えの通り、ハシュマルの頭部は半ばから折れ、宙を舞い爆散した。

 

 明らかに動揺したハシュマルは、呻き声かのような駆動音を立てて後方の海へと飛び、方向転換の後に高速で去って行った。

 

「ッ――はァー、はぁ…やっ、た…?」

『――やった…やったんだよ、アグニカ!』

 

 息が苦しい。血の味がする。全身が痛い。

 だが――終わった。生き残った。あの「天使長」ハシュマルに一矢を報い、撤退に追い込んだのだ。

 実感はちっとも湧いて来ないが…俺は、ガンダム・フレームは、MAに勝ったのだ―――

 

 

   ◇

 

 

 たった二機、初めての実戦で「天使長」ハシュマルを相手取り、これを退却させた。これまで無敵を誇っていた「天使長」クラスのMAに、人類が一矢報いた――初陣だったガンダム・フレームと、パイロットだった若者が。

 このニュースは、瞬く間に全世界を駆け巡り、各地に衝撃を与えるコトになった。

 

 ガンダム・バエルとアグニカ・カイエルの活躍により、MS操縦系としての「阿頼耶識」システムの有用性と、ガンダム・フレームの性能の高さが同時に証明された。

 十国はその全てがガンダム・フレームの即時採用を決定し、建造後順に分配されるコトが決定。「阿頼耶識」システムはそれまで存在していたロディ・フレームやヘキサ・フレームなどにも操縦システムとして採用され、MSパイロットの補充速度と操縦技術の格段上昇へと繋がった。

 

 

 守るだけの時代は終わりを告げた。

 この瞬間から正真正銘、人類の「反撃」が始まったのである―――




第十五話「悪魔の初陣」をご覧頂き、ありがとうございました。
そして、今回を持ちまして第三章「反撃 -Stand up to Despair-」は終結となります。

実に十五話目、厄祭戦終結四年前になってようやく動いたガンダム・フレーム一番機「ガンダム・バエル」――そして、そのパイロットたるアグニカ・カイエルは、この時から「伝説の英雄」としての道を歩き出します。
最後の文通り、まさしく「反撃開始」。
しかし、MA側とてこのまま黙ってやられるハズも無く――これから先、厄祭戦は激化の一途を辿って行くコトとなって行きます。
やがて「『天使長』? あんなザコに毛が生えた程度の奴が何だって?」と思えるようになると思いますので、これからもお付き合い下さるととても嬉しいです(不穏過ぎる一言)

さて、次の第四章では地球――もとい十国につきまして、一国ずつ触れて行こうと思っております。
時代は回想を除けば、M.U.0049~M.U.0051の間。
各国軍のガンダム・フレームを始めとするMS部隊と、それに協力するヘイムダルのガンダム・フレーム部隊とそのパイロット達。
ガンダム・フレームの出現に伴い、グレードアップされて行くMAの皆様。
加えて各国の事情なども描ければと考えています。
これまでのように五話には到底収まらない、史上最長のカオスな章になると予想されますが、どうかこれからもよろしくお願い致しますm(__)m


《今回のまとめ》
・バエルはかっこいい
・アグニカは主人公
・人類、反撃開始




次章「十国 -Secret Maneuvers-」
次回「ミーティング」
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