厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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今回はピッタリ一週間で投稿出来ましたか…。
イイゾイイゾ!! 
普段からこれくらいでやりたいんですがね…なかなかそうは行かなくてですね…。


「十国(アメリア)編」!
前回までの三つの出来事!
一つ! アメリア大統領、人間爆弾を危険視し、十国首脳とのテレビ通話開始!
二つ! ヘイムダル&アメリア合衆国軍、決死のロサンゼルス防衛戦で奮戦中!
三つ! ダインスレイヴの最も凶悪な使い方で、アグニカとロサンゼルスがピンチに!


#21 ロス・ナイトメア

 宇宙(てん)から降り注いだ光――ダインスレイヴが、ガンダム・バエルと飛行型モビルアーマー「サリエル」を襲った。

 

「―――アグニカ!? アグニカ!」

 

 バエルに蹴り飛ばされたコトで窮地を逃れたガンダム・アガレスのコクピットで、スヴァハ・リンレスはその名前を叫ぶ。

 

(私のせいで、アグニカが…!)

 

 サリエルは味方が放ったダインスレイヴの直撃を受け、木っ端微塵に粉砕した。爆発の煙が蔓延し、スヴァハの視界は閉ざされる。代えの効く下っ端とは言え、味方ごと撃つなど、相変わらずMAには容赦が無さ過ぎる。

 しかし――それ故に、MAは人類を上回るのだ。

 

「アグニカ!!」

 

 煙はすぐに晴れ、その中から――

 

「クッソ、ドジった…!」

 

 ――アグニカ・カイエルの駆る、ガンダム・バエルが現れた。

 だが、如何にガンダム・フレームの機動性と「阿頼耶識」システムの反応速度を以てしても、不意に視覚外から放たれたダインスレイヴは回避しきれなかったらしい。バエルの右腕は、肩から先が失われている。

 

「アグニカ…!」

「無事か、スヴァハ!」

「う、うん――でも、何で私を…」

「守る、って言っただろうが」

 

 スヴァハのアガレスが無傷であるコトを確認して安堵しつつ、アグニカは網膜投影を一旦切り、モニターを叩いて機体状況を詳しく確認する。

 

「…右腕が欠損、後は機体各部に負荷が掛かったか――まあ、戦闘は出来るだろ」

 

 アグニカは網膜投影を再開し、ダインスレイヴが降って来た上空を見上げる。しかし、そこに実行犯(モビルアーマー)の姿は無く、ただ深淵なる宇宙が広がっているだけだ。エイハブ・ウェーブの反応も感知していない。

 それから、アグニカは下…もとい、ダインスレイヴが直撃した地上を見下ろし―――

 

 

「……()()()()()()

 

 

 ―――戦慄した。

 地上は土煙に包まれ、状況の全てを上空からの目視で把握するコトは出来ないが――俯瞰しているからこそ、アグニカはハッキリとその光景を捉えた。

 

 

 ロサンゼルスの存在する場所に、クレーターが出来ており――都市シェルターの上部が崩落し、中の都市が見えてしまっているではないか。

 

 

「ロサンゼルスが――壊滅、してる…!?」

「――行くぞスヴァハ! 早急にMAを殲滅しないと、ロサンゼルスの住民は皆殺しだ!」

 

 一機でもMAが都市に侵入すれば、どれだけの死者が出るか知れたモノではない。否――子機(プルーマ)の一機すら、都市に入れてはならない。

 バエルとアガレスは、すぐさま全速力での急降下を開始した。

 

 

   ◇

 

 

 ロサンゼルスに隣接するアメリア合衆国軍の巨大要塞基地「キャリフォルニア・ベース」、その指令室では、ダインスレイヴによる攻撃でブラックアウトしたモニターが回復しつつあった。

 そしてその中で、作戦指揮官を務めるアメリア合衆国軍第一MS部隊のパール・マコーマック少将が、悲鳴とも思える叫びを上げた。

 

「ッ、状況を報告しなさい!!!」

 

 その表情に、常の微笑は無い。冷や汗を流し、歯は食いしばられ、両拳は堅く握られている。万力のような力を込められたコトで、両手に持つ鞭が半ばから折れた。

 

「――ロ、ロサンゼルスの都市シェルターが破られました! 敵による、衛星軌道上からの攻撃と推定されます!!」

「防衛艦隊、三隻が衝撃波により大破! MSは十一機が大破、小中破は二十機を超える模様です!」

「敵MA群、一斉に前進を開始しました! 全部がロサンゼルスに開いた穴に向かっています!」

 

 考えるまでもなく、状況は最低最悪だ。だが、指揮を預かった以上、最良の指揮をせねばならない。

 

「残存艦をかき集め、R42からS35に防衛線を再構築せよ! 本基地の直衛も全て回せ!」

「パール君、それでは基地が落とs――」

「基地司令殿。貴官は数千万の民と本基地、どちらが大切だとお考えか?」

 

 基地司令官の提言を一蹴しつつも、パールは脳内で作戦を組み立て直し始める。

 

 ラスベガスで都市シェルターを破った攻撃、それが実行される可能性は視野に入れていた。故に衛星軌道上に艦隊を展開させ、宇宙からの攻撃を未然に防ぐ腹積もりだった訳だが――よもや、その艦隊が数分で粉砕させられるとは思っていなかった。

 エイハブ・ウェーブの観測と艦隊の壊滅から攻撃の実行まで、時間は三分と経っていないハズだ。その間に敵は戦艦十二隻、MS五十機からなるアメリア合衆国軍第七宇宙艦隊を撃滅し、ダインスレイヴによる攻撃を実行したコトになる。当然、MAもかなりの数が投入されて然るべきだ。

 しかし、現実に観測されたのはたった一機。一機のMAが艦隊一つを丸ごと数分で全滅させ、更にダインスレイヴによる決定打を行うなど、現実には考えられない。有り得るハズが無い。いや、有り得てたまるモノか。それ以前に、一つ気にかかる。

 

 ―――そんなMAがいるなら、何故直接此処に出向いて来ないのだ?

 

 そのブッ壊れチートMAが本当にいるなら、初めから直接ロサンゼルスを自分で攻めれば良いではないか。初めからと言わず、今からでもそいつが攻めて来たら、ロサンゼルスもキャリフォルニア・ベースも落とされる可能性が有る。

 何故、そうしない?

 

「やはり、何かが有る――これだけのコトを成し遂げるだけの絡繰り(マジック)が。そうとしか考えられん」

『あー、作戦指揮官パール・マコーマック少将殿。長考中大変失礼するが、更に悪い知らせだ――うおっ!?』

「――サイラス!? どうした!?」

 

 MS部隊隊長でガンダム・サブナックに乗るサイラス・セクストン大佐からの通信を受けて、パールは思考をひとまず打ち切る。

 

『「天使長」ハシュマルを確認! たった今、戦闘に入っt、危ねぇな!?』

「『天使長』だと!? 一体どうなっている!?」

『私に聞くな! とにかく、私とモンターク少佐、それとコルケット大尉でコイツの相手をする! 悪いが、しばらく指揮は任せるぞ!』

 

 「天使長」ハシュマルを前にしては、流石のサイラスも部隊指揮をしている余裕が無い。悪いとは思いつつパールに仕事を丸投げし、サイラスのサブナックが隣のファビアン・モンターク少佐が駆る、グリムゲルデに合図する。

 

「了解。気を付けなさい」

 

 それを受け、グリムゲルデが両腕に接続されたヴァルキュリア・シールドからヴァルキュリア・ブレードを展開し、ハシュマルに吶喊した。

 ハシュマルもこれに反応し、超硬ワイヤーブレードでグリムゲルデを弾き殺さんとする。

 

「おっと!」

 

 サブナックがライフルを撃ち、高速機動するワイヤーブレードに直撃させる。グリムゲルデは機動の鈍ったワイヤーブレードを左のブレードで弾き返しつつ、飛び上がって空中で機体を回転させ、ハシュマルの頭部に上段から斬り付けた。

 

「浅いか…!」

 

 ハシュマルがホバークラフトでグリムゲルデの右側に移動し、右腕を振り上げて空中のグリムゲルデをクローで吹き飛ばす。更にワイヤーブレードで追撃を掛けようとした時、マリベル・コルケット大尉の操るガンダム・ボティスが、ワイヤーブレードを叩き返した。

 同時にサブナックが全身からミサイルを放ち、それらがハシュマルに襲い掛かる。ハシュマルはプルーマを二十機ほど自らの周囲に飛び上がらせ、ミサイルの全弾直撃を回避。後退しつつ、頭部のビーム砲を三機に向けて放った。

 

「逃がさん、ここで仕留める!」

 

 サブナックがビームをかいくぐってハシュマルに急速接近をかけ、ワイヤーをハシュマルに向けて撃つ。それがハシュマルの左羽に巻き付いたコトを確認し、サブナックは襲ってくるプルーマをミサイルで吹き飛ばしながら、ハシュマルの周りを一回転。ワイヤーを全身に絡ませると、そのワイヤーを分離させて距離を取った。

 そうするとワイヤーが光り、一気に爆発した。

 

「爆導索…!」

「大尉、やれ!」

 

 爆導索でハシュマルが怯んだ所で、ボティスが二本のテイルブレードを射出し、ブレードを構えて突撃。ハシュマルがヤケクソに振り回すワイヤーブレードをテイルブレードの一本で絡め取り、もう一本をハシュマルの頭部ビーム砲に突き刺し、爆発させる。

 ハシュマルが左腕を振り上げ、クローがボティスの胸部装甲を弾き飛ばす。

 

 だが、致命傷ではない。攻撃も届く――!

 

「はあああああ!!」

 

 ボティス・ブレードが、ハシュマルの中枢コンピューター部を間違い無く貫いた。

 ハシュマルは沈黙し、その場で崩れ落ちた。

 

「良し――ロサンゼルス防衛戦を継続する!」

「「了解!」」

 

 ボティスとグリムゲルデが、防衛線の中央へ向かって飛んで行く。サブナックは全身の火器の弾倉をサブアームで交換してから、二機を追った。

 

「行かせるかよ!」

「一機も突破させん…!」

 

 壊しても壊しても湧いてくるプルーマの群を、アマディス・クアークのガンダム・フォカロルと、ソロモン・カルネシエルのガンダム・オセが迎撃していた。

 プルーマを造り出すMA本体を叩かねば意味が無いとは分かってはいるが、都市に向かうプルーマを無視する訳にも行かない。ジリ貧なプルーマの迎撃を始めて何分か、既に何機破壊したかなど、数えている余裕は無かった。

 

「クッソ、キリが無ぇ! コイツらはアレか、ゴキブリか!?」

「空を飛ばない分、こっちの方がマシだろう…!」

 

 その時、プルーマの群の中から、円盤状のモノがフォカロルに向かって飛び出した。それはフォカロルの槍を回避し、ワイヤーを射出してフォカロルの全身を巻き取る。

 そして――高圧電流を、たっぷりとフォカロルに流し込む。

 

「ッ、ぐあああああッ!!」

 

 MA「アズライル」の兵装、プラズマ・リーダー――プルーマの大群に紛れて、気付かれないようフォカロルに接近していたのである。

 

「アマディス!」

 

 すぐにカバーに入ろうとしたオセだったが、一機のMAがそれを妨害しに来た。四肢に仕込まれたチェーンソーを回転させながら斬りかかって来た為、オセは双剣で迎撃。双剣とチェーンソーが接触し、火花が散る。

 

「何だ、コイツは…!?」

 

 ガンダム・フレームのパワーで、敵を押し返す。すると、そのMAは空中で身体を(よじ)り、立て続けに攻撃を仕掛けて来る。

 オセはそれを全て防ぎながらも、たたらを踏んで後退した。

 

 MA「アルメルス」――四肢のチェーンソーによって、ガンダム・フレームとも戦える近接戦闘能力を獲得しながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 尤も、現段階ではそのコトを人類が知る由も無いのだが。

 

「足止めか――たかが一機にかまけてる場合ではないと言うのに…!」

 

 ソロモンが毒づいた時、上空から一本の剣がアルメルスに投擲され、その胴体に突き刺さった。

 アルメルスは爆煙を機体の各所から上げ、倒れ込む。――撃破されたのである。

 

「バエル・ソード――アグニカ!」

「どういう状況だ!?」

 

 一方その頃、フォカロルを束縛していたプラズマ・リーダーは、アガレスによって撃ち落とされていた。電流から解放され、アマディスはフォカロルの状況を確認した。

 

「スヴァハか…!」

「アマディス、無事!?」

 

 上空のMAを撃破しに行っていたガンダム・バエルとガンダム・アガレスが、戻って来た。――バエルは、その右腕を失っていたが。

 

「状況は見ての通りだが――アグニカ、その腕はどうした!?」

「さっきのダインスレイヴにやられた。ロサンゼルスはまだ、襲われていないか!?」

 

 その言葉を受け、全員がクレーターが出来、剥き出しとなったロサンゼルスの方を見ると――

 

 

 ――()()()()()()()()M()A()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「クッソ、やられた…!!」

「何たる失態だ…!!」

 

 アマディスとソロモンが、それぞれコクピットのモニターをブッ叩いた。フォカロルとオセの二機が足止めされた僅かの時間に、その横をMAが通り抜けて行ったらしい。

 アメリア軍の地上艦隊も防衛線の再構築を大至急行っているようだが、まさか戦艦を都市内に入れる訳には行かないだろう。アメリア軍は恐らく、これからロサンゼルスに向かって来るMAの迎撃で手一杯だ。

 

「アグニカ、どうする!?」

「どうするも何も、俺たちが都市に入って、MAを迎撃するしかないだろ…! 虐殺なんてさせてたまるか!」

 

 バエル、アガレス、フォカロル、オセの四機が、ロサンゼルスに全速力で向かった。その光景を見たサイラスは、サブナックをアメリア軍艦隊の中央で停止させ、同じようにグリムゲルデとボティスも止めさせた。

 

「何故ですか、大佐!」

「大佐、ロサンゼルスは――」

「向こうはヘイムダルに託そう。我々は此処でこれから来るMAを迎撃し、これ以上MAをロサンゼルスに近付かせないコトに全力を注ぐ。

 ――それで構わんな、パール」

『ええ――勿論よ、サイラス』

 

 無論、サイラスにも自分がロサンゼルスを救いに行きたい気持ちは有る。だが、サブナックの装備は市街地での防衛戦には向いていない。

 グリムゲルデとボティスは問題無いが、既にヘイムダルのガンダムが四機向かった以上、これ以上ガンダム・フレームをロサンゼルスに回す必要は無いとサイラスは判断した。

 

「パール、例の部隊を出せ!」

『分かったわ。――ダインスレイヴ隊、敵群へ発射せよ!』

 

 サイラスの要請を受けたパールの指示で、キャリフォルニア・ベースに待機していたアルカナ・フレームのMS「アート」からなるダインスレイヴ隊が、その巨大なりし弩を構え――敵MA群に向かって、特殊弾頭が放たれる。

 その攻撃はプルーマを一気に吹き飛ばし、下級MAにも被害を与えながら、地面に次々とクレーターを作り出し――爆煙を引き起こした。

 それを受け、パールは全艦隊に命令を下す。

 

『全軍、効力射開始! 掃討戦に移行する(スウィーパップ・スタート)! 一機たりとも、ロサンゼルスに近寄らせるなよ!!』

言われずとも(イェッサー)!!!』

 

 

   ◇

 

 

 ロサンゼルスの中は、まさしく地獄だった。

 

 シェルターの天井だった分厚い装甲板と岩盤が崩落し、守るハズの都市を押し潰している。

 都市のあちこちに通常とは一線を画すサイズのダインスレイヴ専用弾頭が突き刺さっており、爆心地一帯のモノは全て吹き飛ばされ、クレーターと化している。

 各地で火が起き、黒い煙が立ち上っている。

 

 そして――先程まで命だったモノが、都市中に転がっていた。

 

「――なんて、酷い…」

「クソ、敵は――」

 

 エイハブ・ウェーブの反応を探る。どうやら、都市の中にはかなりのMAが侵入してしまっているらしい。現在も、各所で爆発が起こっている。

 ――ダインスレイヴだけで何百万人が死んだか、知れたモノではないと言うのに。

 

「散開して速やかに排除する! 絶対に生かして返させねぇぞ!」

 

 アグニカの指示で、四機が一斉に散開した。

 

『ぎゃああああああ!』

 

 逃げ惑う人々が頭から鮮血を撒き散らし、倒れて行く。超音波を撒き散らすMA「イスラフィル」による攻撃である。

 オセが四脚獣形態となって大通りを駆け、イスラフィルに接近する。

 

「やらせん…!」

 

 イスラフィルが放出したプルーマの群を一足飛びに越えたオセは、空中で変形して双剣を構え、イスラフィルに振り下ろす。イスラフィルは三つに分けられ、爆発を起こしてその機能を停止した。

 

「オラァッ!」

 

 火炎放射器で人も建物も燃やし尽くしているMA「イゼゼエル」に、フォカロルがティザーアンカーを撃ち、捕縛する。電撃を流し込まれたイゼゼエルは機体の各所で爆発を起こし、フォカロルはそのままワイヤーを振り上げ、イゼゼエルをビルに叩き付けた。

 

「そこ…!」

 

 八脚を持つ陸戦型MA「スイエル」が放ったビームは、ビルの間を飛行するアガレスを掠め、その背後のビル群を薙ぎ倒して行く。アガレスはビームの照射が終わり、ビーム砲が露わになった瞬間を狙って、ライフル弾を撃ち込んだ。

 ビーム砲を爆発させられ、隙を見せたスイエルに急接近をかけたアガレスは、銃身下部に接続されたジュッテでスイエルの前脚二本を切断。ライフル弾をビーム砲にもう二発ブチ込み、内部から爆発させた。

 

「チ…!」

 

 ミサイルをバラまき続け、周囲を焦土へと変えて行くMA「ゼルエル」に、片腕を失ったバエルは近付けずにいた。普段なら二本の剣でミサイルを叩き落とす所だが、片腕ではそうも行かない。それに加えて、相手は二機もいる。

 バエルは電磁砲を放ってミサイルを迎撃するが、あくまで予備装備でしかない電磁砲だけでは、濃密なゼルエル二機の弾幕を突破出来ない。

 

「当たるだけマシってモンか――」

 

 ちなみに、どんだけデタラメに撃っても当たるくらいミサイルが飛んで来ていると言うだけである。

 バエルは機体を回転させながらミサイルを間一髪でかわし続け、ビルの陰に隠れて凌ぐ――凌いだ、つもりだったのだが。

 

 機体を隠していたビルが、拡散ビーム砲によって基部を溶かされ、バエルの方へ倒れて来ていた。

 

「オイオイ、マジかよ!?」

 

 飛び上がり、ビルの下敷きになるコトは避けた。しかしそうすると、今度はミサイルの雨に晒されるコトになった。バエルの四方八方から、何百発ものミサイルが飛来する。

 

「チ、やるしかねぇか…!」

 

 アグニカは舌打ちの後、覚悟を決め、二機のゼルエルに対して全速突撃を敢行する。

 ミサイルの雨を機動力でかいくぐりながら、対応しきれない分は剣で迎撃するが、それでも手が足りない。バエルの白亜の装甲にミサイルが直撃し、機体が揺らぐ。それが三発続き、流石のナノラミネートアーマーにも限界が迫っていた。

 元々ダインスレイヴを受けて、機体のあちこちに負荷が掛かっていた所に、更にミサイルを受ければこうもなろう。

 バエルとアグニカは、「阿頼耶識」システムで繋がっている。バエルの限界が近付いているコトは、アグニカが一番分かっている。

 

「クソ――!」

 

 バエルとゼルエルの距離は、約百メートル。

 MSにとっては目と鼻の先と言える距離だが――それが、アグニカには途方も無い距離に見えた。

 

 二機のゼルエルがトドメと言わんばかりにミサイルを放とうとした、その時―――

 

 

「うおおおおおあああああああ!!」

 

 

 ゼルエルに、悪魔(ガンダム)が襲い掛かった。

 

 それは上空から現れ、右手に握った剣で一機を斬りつけ、もう片方を思い切り踏みつけていた。その斬撃はゼルエルのミサイルポッドを切断しており、暴発させた。

 踏まれた方は拡散ビームを放とうとしたが、バエルが投擲した黄金の剣に機体の中枢を間違い無く貫かれ、煙を上げながら後方へと倒れ込んだ。

 

「やああああああ!!」

 

 降下して来たガンダムは、剣を腰に吊してライフルとピストルをそれぞれ両手で構え、狙いを付けるでも無くゼルエルに撃ち放った。ゼロ距離から連射されれば、流石のナノラミネートアーマーでも防ぎきれない。

 ゼルエルの装甲がひび割れ、砕け――中枢コンピューターが、ズタズタに引き裂かれた。

 

「はぁ、はあ、はあ――」

 

 ゼルエルが沈黙した後も連射は続いたが、やがて弾切れを迎えたコトで終了した。

 アグニカは降下して来たその悪魔(ガンダム)を見て、その名を舌に乗せる。

 

 

「―――『ガンダム・アンドラス』」

 

 

 ASW-G-63 ガンダム・アンドラス。

 アグニカのチームが母艦とするラファイエット級汎用戦艦「ゲーティア」の格納庫に、契約者(パイロット)無きままに鎮座していた、六十三番目のガンダム・フレームである。

 そして、そのパイロットは――

 

「トビー。お前、アンドラスに適合したのか…?」

 

 トビー・メイ。

 先日、アグニカとスヴァハがロサンゼルスで保護した緑髪の少年だ。

 だが早すぎる。いくらアンドラスと適合したとは言え、まだ「阿頼耶識」の施術を受けて間もない。彼に戦闘センスが有り、そもそも「阿頼耶識」自体が感覚でMSを動かす為のシステムだとしても、訓練もしていないだろうに――

 

「僕も戦う。黙って見てなんていられない。

 ――此処は、僕の暮らした街なんだから」

 

 鼻血を手で拭いながら、トビーはアグニカにそう言い放った。その瞳に、迷いは無い。

 

「――分かった。右側は任せるぞ、トビー」

 

 男の覚悟を無碍にするほどアグニカは無粋ではなかったし、トビーに助けられたのも事実だった。

 

「…任せて」

 

 ガンダム・バエルとガンダム・アンドラス。

 二機の悪魔は背中を預け合い――都市を蹂躙する天使を狩るべくして、一斉に飛びかかった。

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

 姉さんに手を引かれて、焼ける街を走っていた。

 行くアテは無い。ボク達を育ててくれていた神父様は、ボクと姉さんを家から出して、崩れた教会に押し潰された。

 

 ――頑張れ、■■!

   必ず姉さんが、助けるから…!

 

 ボクの手を引く姉さんの声は、震えていた。

 きっと、何処に行けば良いかなど、姉さんにも分からないのだろう。

 

 街が燃えている。

 赤い炎が、視界を埋め尽くす。

 そしてその中には――街を壊し続ける、化け物。

 

 神父様が言ってた。

 今、街の外には人を殺す悪い化け物がいるって。

 その化け物はとっても強くて、とっても怖いけど――街の外に出なければ、大丈夫だって。

 強い人たちが、化け物を倒す為に頑張っているって。

 

 じゃあ――なんで、こんなコトになってるんだろう?

 

 みんなが倒れてる。

 みんなが燃えてる。

 みんなが死んでる。

 みんな、みんな――化け物に殺されたんだ。

 

 ――■■!!

 

 姉さんがボクを突き飛ばす。

 ボクは地面に転がって、起き上がってすぐに姉さんの方を見ると――

 

 

 姉さんは、大きな瓦礫に押し潰された。

 

 

 ビルが崩れて、降って来た破片だろう。

 それが、姉さんを潰して――見えなくしてしまった。

 

 化け物に、巨人が襲いかかっている。

 きっと、化け物を倒せる強い人たちなんだろう。

 

 遅すぎる。何をやってるんだ。何をしてたんだ。

 姉さんは死んだ。今死んだ。ボクの目の前で。化け物に、殺されたんだ。

 

 化け物を殺せるんだろ。

 だったらさっさと殺してくれないと困る。

 モタモタしてる内に、姉さんが死んじゃったじゃないか――

 

 また、建物が崩れた。

 瓦礫が降って来る。悲鳴が途絶える。

 ――また、誰かが死んだ。

 

 フザケるな

 フザケるな、

 フザケるな。

 フザケるな!

 フザケるな!!

 フザケるな!!!

 

 何で姉さんが、死ななきゃならないんだ?

 何でみんなが、殺されなくちゃならないんだ!?

 ボクが――オレたちが、一体何をした!!?

 何でオレたちが、こんな目に遭わなきゃならないんだ!!!?

 

 喉が痛い。息が苦しい。腸が煮えくり返る。

 恨んでやる。怨んでやる。殴ってやる。叩いてやる。蹴ってやる。潰してやる。砕いてやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺しテやる。殺しテやル。殺シテやル。殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル。殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル――!!!

 

 殺ス。全部、何もかも。

 みんなを、姉さんを殺したヤツを全部―――ブチ殺シテヤル。

 

 

   ―interlude out―

 

 

 

 

 ロサンゼルス防衛艦隊と、MA群体が衝突する。

 単純な数では人類が上回っている為、指揮官パール・マコーマック少将の言葉通り、物量による殲滅戦が開始されていた。

 

『各小隊、密集体形! 数で叩き潰せ!』

 

 MSは小隊ごとに固まり、必ず複数で敵に対処する。通常の量産機はガンダム・フレームやヴァルキュリア・フレームと言ったワンオフ機ほどの性能を持たず、一騎当千とは行かないので、集団で一機を袋叩きにするのがセオリーである。

 こう書くと人道に背くような酷いやり方だが、被害を抑えて敵を葬るには確実な戦術だ。相手は人類を殺すだけの機械に過ぎないので、罪悪感も無い。

 

『隊長! 六時方向より敵機接近です!』

『接近戦に備えつつ、銃撃開始!』

 

 隊長機としても運用されている貴重極まりないアルカナ・フレーム最終番機「ユニヴァース」がライフルとグレネードランチャーを放ち、ヘキサ・フレームの「ジルダ」「ユーゴー」、ロディ・フレームの「スピナ・ロディ」「ガルム・ロディ」がライフルで射撃する。

 射撃でMA本体を護るプルーマを削り、他対一の近接戦で本体を仕留める。各隊が死ぬほど繰り返して来た、MA戦の基本戦術である。

 

 歴戦の兵士は、何もガンダム・フレームのパイロットだけではない。量産機を操り、駒の一つとして堅実に戦ってきた彼らもまた、誇り有る歴戦の兵士だと言える。

 

『敵機、来ます!』

『全機近接戦用意! 吶喊!!』

 

 量産機が戦場を駆ける。

 歴史書の一ページを飾るような活躍はしていなくとも――彼らもまた、一つしか無い命を懸けて、必死に戦っていたのである。




第二十一話「ロス・ナイトメア」をご覧頂き、ありがとうございました。
もうちょっと先まで行く予定だったんですが、長くなったので一旦此処で区切ります。
字数は増えるモノ。仕方無いネ(白目)

アメリア編は次回で最終回となる予定です。
今回より長いぜ…何が起きたのやら…。


《新規機体》
PNJ-013 アート
・アルカナ・フレームのMS。
・ダインスレイヴの運用に特化している。フレームの脆弱性から、数発撃つと機体が分解してしまう。

ASW-G-63 ガンダム・アンドラス
・ヘイムダル、トビー・メイの機体。
・奇をてらった武装は無く、安定感が有る。


《今回のまとめ》
・ロサンゼルス、壊滅
・人類決死の防衛戦
・とある少年がMAに強烈な憎悪と殺意を抱く




次回「悪夢に沈む空の下で」
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