厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
な、
遅れまくって申し訳有りません。
今回からユーラシア連邦編をやろうと思っていたのですが、急遽行間的な回を挟むコトに致しました。
ご了承下さいませ。
ヘイムダルの本部たる、海上移動式メガフロート「ヴィーンゴールヴ」。
そこで、アメリア合衆国のロサンゼルスで行われた攻防戦についての事後報告を受けたディヤウス・カイエルは、大きな溜め息を漏らしていた。
「…ロサンゼルスの詳細報告ですか」
「ああ。ニュースで聞き及んではいたし、アメリアから通達も有ったが――予想以上の被害だった。住民はほぼ全滅、都市も壊滅だ」
ディヤウスの助手であるヨウィス・ピトリは、頭を抱えるディヤウスに対して、コーヒーを差し出した。それを受け取って口に含み、ディヤウスは続ける。
「だが、見つかっていなかったグラシャラボラスとアンドラスの適合者が、ロサンゼルスで発見されたらしい。アグニカのチームは強化された」
「――現地で発見したのですか? 組織の主要戦力を、そんな素性も知れぬ者に預けて良いと?」
「パイロットのいないグラシャラボラスとアンドラスをアグニカに預けるにあたって、そのパイロットの決定権はアグニカに一任した。私はアグニカの判断を尊重する。
それに、万一の事態を想定して、グラシャラボラスとアンドラスはバエルのコクピットから停止させるコトが出来るようになっている。いざとなればそうするだろうさ」
身内を優遇しているようにも思われるが、訓練での成績がトップであったアグニカ・カイエルに権限をある程度預けるのは当然のコトだ。
「ヨウィス。ガンダム・フレームの建造状況は?」
「はい。先日、フェンリス・ファリドのチームに『ASW-G-69 ガンダム・デカラビア』を補充し、『ASW-G-70 ガンダム・セーレ』も配備を完了致しました。
現在建造中の『ASW-G-71 ガンダム・ダンタリオン』も、本体は完成済みで運用試験もクリアしております。大型特殊武装となる『ハーフカウル』も建造は八割方終了。後はこれを装備しての運用試験を行い、配備先を決定し実戦に投入するのみです」
予定されているガンダム・フレームの建造予定数は、全部で七十二機。「ソロモン七十二柱」の悪魔の数とちょうど合致する。
「実質、残り一機か。バエルを造り始めた時は終わりの見えぬ話だと思っていたが、ここまで来れば案外呆気ないモノだ」
「『ASW-G-72 ガンダム・アンドロマリウス』についても、リアクターとインナー・フレームの建造は済んでいますからね。後は外装のみです」
何とか、十国との協定でもある「ガンダム・フレーム七十二機建造」は果たせそうである。中弛みしそうになったコトも有ったが、「ナノラミネートコート」の開発に成功したおかげで、その後の機体は大きく性能を上げるコトも出来た。
と、その時。
『十時の方角、十五キロ先にエイハブ・ウェーブを観測! 速度よりモビルアーマーと推定! 第一種警戒態勢! モビルスーツ部隊、出撃準備!』
施設内で、アラートが鳴り響いた。
「ッ、MAだと!?」
「ディヤウスさん、これは…!」
そしてそれは、ディヤウスとヨウィスの耳にも届いた。
現在ヴィーンゴールヴが航行しているのは、中華連盟共和国とサンスクリット連邦共和国の境に位置する、南シナ海の東部。MAの勢力圏から離れた海上を、光学迷彩を展開した状態で移動するヴィーンゴールヴに於いて、MAの襲撃は極めて稀である。その隠匿性は、アグニカの初陣となった「天使長」ハシュマルの襲撃以降、これまで一度も襲撃を受けていなかった程だ。
ディヤウスは間近の通信機を手に取り、ヴィーンゴールヴのブリッジに通信する。
「サンスクリットにMS部隊の派遣を要請してくれ」
「ディヤウスさん、私はMSデッキに向かいます! ガンダム・フレームを無くす訳には行きません!」
「ああ、頼むぞヨウィス」
通信機を置き、ディヤウスはブリッジに向かって走り出した。
ディヤウスがブリッジに着いた時、ヴィーンゴールヴが大きく揺れる。衝撃は施設全体に響き渡り、ディヤウスは思わずバランスを崩した。
「ぐ…何だ!? まだMAは、こちらを有効射程圏内に捉えていないハズだ!」
「空からの攻撃です! …ッ、第二波来ます!」
ヴィーンゴールヴのすぐ側に、ダインスレイヴが撃ち込まれる。海が割れ、発生した大波が巨大メガフロートであるヴィーンゴールヴを揺るがす。
「ダインスレイヴだと!?」
「高速の熱源接近! 直撃コースです、衝撃に備えて下さい!」
今度のダインスレイヴは、ヴィーンゴールヴに直撃した。ちょうどド真ん中に突き刺さり、真っ二つにヴィーンゴールヴが割れる。
「損傷甚大! このままでは…!」
「MA、急速接近! 戦闘に入りました!」
司令席に座るディヤウスは歯噛みする。
ここで死ぬ訳には行かない。ガンダム・フレームは造りきっていない。MAも殲滅しきっていない。死ねない、死んでたまるモノか。
『ディーヤウース!』
「マヴァット、MSデッキは!?」
『残ー念だが、被害ーがデーカい。急速ーに水没しー始めーているし、衝ー撃でアンードロマーリウスが吹きー飛ばされーて、海ーに沈んだ』
「何だと!?」
いつになく深刻な表情で、マヴァットはそう述べた。そしてそれを受け、ディヤウスは席の肘置きに拳を叩き付けた。
「クソったれが…!」
『ディヤーウス、これd――なぬ!?』
『ダンタリオンを出させて下さい!』
マヴァットを突き飛ばし、通信に割り込んで来たのは、シプリアノ・フォッシル――「ガンダム・ダンタリオン」のパイロットだ。
「…ダンタリオンは調整が済んでいないが」
『やります! やらなきゃ沈むんでしょう!? アンドロマリウスだけじゃなく、俺のダンタリオンまで無くすつもりですか!?』
再びヴィーンゴールヴの側にダインスレイヴが投下され、大波がヴィーンゴールヴを襲う。MSデッキの浸水被害が甚大であるコトは、ブリッジのオペレーターも叫んでいる。
「分かった、頼む。マヴァット、出撃準備中に少しでも調整を進めろ!」
『了ー解だ!』
◇
シプリアノ・フォッシルが「ガンダム・ダンタリオン」の下にいった時、ダンタリオンには既に「ハーフカウルT」が装着されていた。ハーフカウルは二種類有り、ハーフカウルTは背部大型ブースター、大型ギガンティック・アームの二形態を取るコトが出来る。
「ヨウィスさん…!」
「装備させて調整した! 任せたぞ!」
「はい!」
シプリアノはコクピットに飛び込み、阿頼耶識を接続して機体を起動する。アームの稼働状態を確認して、水没し始めたMSデッキを歩き出す。
MSデッキの外壁と床には穴が開いており、そこから海水が流れ込んでいるようだ。その穴はかなり大きい為、装甲を組み付けられる前の状態で鎮座していた「ガンダム・アンドロマリウス」が落ち、海底へと沈んで行ってしまった。アンドロマリウスのパイロットは決まっていなかった(適合者が見つかっていなかった)とは言え、かなりまずい事態だ。さっさとMAを撃退して、アンドロマリウスの引き揚げ作業にかからねばならない。
その時、外壁に開いた穴からMAが姿を現した。亀のように丸い、全方位にビーム砲を備えた「ラグエル」と呼ばれる機体だ。
「うおおおお!」
ビームを撃たれるより速く、ダンタリオンがギガンティック・アームでラグエルを殴り飛ばした。その強烈な一撃は、ラグエルの装甲を大きくヘコませて、その中枢コンピューターを圧壊させた。
「よし、これなら…!」
戦える。圧倒すら出来るかも知れない。
シプリアノはそう確信して、外壁に開いた穴から外へ出る。改めて外から見ると、ヴィーンゴールヴの被害の大きさが感じられた。
その時、ダインスレイヴが海に撃ち込まれた。しかし、着弾点は二キロほど離れている。
「見失ったのか…?」
『ヴィーンゴールヴの移動は止めていない。光学迷彩は生きている、宇宙からの観測でそうそう当てられるモノか』
『全ーく、MAのー癖にガーバガバAIM射撃とか恥ーずかーしくなーいのか!?』
『ガバってくれなければ困る』
とは言え、ガバガバ射撃も今の内だろう。海上のMAから位置情報が転送されれば、また正確な射撃をしてくるようになる。後二発も食らえば、ヴィーンゴールヴは海の藻屑となり果てるだろう。
「その前に、全部倒す…!」
操縦桿を押し込み、ダンタリオンが海へと身を躍らせる。とは言え潜水するのでは無く、海上をホバーで滑り出した。
『ザコMAはMS部隊に任せれば良い。ダンタリオンは「天使長」を相手にしてくれ』
「『天使長』…ッ!?」
ダンタリオンは急制動をかけ、後退する。その直後、ダンタリオンの眼前をビームが走り、海が蒸発して水煙が発生した。
「アイツか…!」
尻尾のようなワイヤーブレードを蠢かせる、「天使長」ハシュマル。以前ヴィーンゴールヴを襲撃した機体と同個体かは分からないが、バエルとアガレスが二機がかりで辛くも撤退に追い込んだ強敵だ。
今はダンタリオン一機で、相手取らなければならない。
『サンスクリットのMS部隊が、今こっちに向かっている。すまんが、到着までほんの少し耐えてくれ。ダンタリオンにはそれだけの能力が有るハズだ』
「了解…!」
ハシュマルが繰り出したワイヤーブレードを、ハーフカウルで弾く。分厚いナノラミネートアーマーで出来たハーフカウルは、「天使長」のワイヤーブレードだろうと破壊出来ない強度を誇っている。
「ぬあっ!」
ワイヤーブレードの二撃目を回避し、懐に飛び込んだダンタリオンは、ハシュマルを思い切り殴りつける。ハシュマルの胸部装甲がひしゃげるが、ハシュマルは腕を振り上げてダンタリオンを弾き返す。更にワイヤーブレードを駆動させ、ダンタリオンを派手に吹き飛ばした。
「ぐああッ!」
切り返しざま、ハーフカウルに覆われていないダンタリオンの胸部を狙おうとしたハシュマルだったが、横側からダインスレイヴを食らい、左側の翼が弾け飛ぶ。ハシュマルは速やかに残された右側の翼を畳んで高速移動形態へと変形し、ダインスレイヴの追撃を後目に、速やかに撤退して行った。
シプリアノがダインスレイヴが飛んで来た方角を見ると、そこにはMS部隊を載せた艦隊がいる。
「――サンスクリットの、MS部隊…!?」
『言っただろう、ほんの少し耐えてくれと。此処はサンスクリットの都市と基地が近いからな』
ハシュマルの撤退に合わせ、ヴィーンゴールヴのMS部隊と戦っていたMAも撤退していく。
何とか轟沈は回避したヴィーンゴールヴだが、損害は極めて甚大と言える。何より、建造中だった「ガンダム・アンドロマリウス」が沈没してしまった。
『ダンタリオンは帰還せよ。その後、アンドロマリウスの捜索及び引き揚げ作業を行う。ヴィーンゴールヴ修理班とアンドロマリウス捜索班に分かれろ』
◇
それから日が沈むまでの五時間、サンスクリット連邦共和国軍も協力しての必死の捜索が行われたが、アンドロマリウスは発見されなかった。
アンドロマリウスのエイハブ・リアクターがスリープ状態にされていたコトから、エイハブ・ウェーブで見つけるコトが出来なかった。また、ヴィーンゴールヴが攻撃を受けた海域には水深五千メートルにもなるマニラ海溝が存在している為、そこに落ちてしまったと思われる。そんな深度になると、例え見つけられたとしても、引き揚げるコトは困難だ。
悲しきかな。
これまで培って来たモノ全てを搭載され、最強のガンダム・フレームとなるハズであった最後の悪魔は、一度たりとも戦場に出るコト無く――永遠に失われてしまったのである。
「…何たーるコトーだ」
「――仕方が無い。我々は我々のやるべきコトをやるしかない」
ヴィーンゴールヴは現在、サンスクリット連邦共和国の地方都市「マニラ」に寄港し、修復中だ。巨大メガフロートのヴィーンゴールヴは、本来港に寄って良い大きさではないのだが、損傷が酷い為、サンスクリットには特別に許されている。
「こんなコトで、最後の機体を失うとはな…」
ディヤウスは、アンドロマリウスの沈んだ南シナ海をマニラの港から見据えて、目を細めた。
第二十三話「失われた悪魔」をご覧頂き、ありがとうございました。
【悲報】アンドロマリウス、水没
一機くらい戦わずして消える機体とかいても良いよなー、とか作者が思ってしまった結果、無事犠牲になったアンドロマリウスくん。
「最後のガンダム・フレーム、さぞかし特別なんだろうな強いんだろうな!」と期待して下さっていた皆様、大変申し訳ございませんでしたァッ!
私めは死してお詫びを(腹を切る音)
以下は新規機体、キャラ解説。
「ASW-G-69 ガンダム・デカラビア」は次回以降のユーラシア連邦編で本格登場するので、その際に解説を入れます。
《新規機体》
ASW-G-70 ガンダム・セーレ
・七十番目のガンダム・フレーム。
・「月鋼」で存在が仄めかされており、いつか公式で出そうなので設定を作ろうにも作れない機体。公式が出さない限り出るコトは無い、有る意味アンドロマリウスより可哀想な奴。
ASW-G-71 ガンダム・ダンタリオン
・シプリアノ・フォッシルの機体。
・初出は「ガンダムトライエイジ」だが、「月鋼」でも登場。ハーフカウルとかいう特殊装備を始めとして、武装をガン積みしており、非常に殺意が高い。
ASW-G-72 ガンダム・アンドロマリウス
・七十二番目にして、最後のガンダム・フレーム。
・本作トップの不遇機体。マジで可哀想。最後のガンダム・フレームなんて、普通はバエル並みに特別扱いされるべきなのにこの仕打ち。酷すぎる…。
《新規キャラクター》
シプリアノ・フォッシル
・ヘイムダルのパイロット。
・「月鋼」に登場するザディエル・ザルムフォートの祖先であり、ギャラルホルンの名家「ザルムフォート家」の初代当主。
・名字が「ザルムフォート」になるのは、火星での戦果を認められてからなので、現在は違う名字を名乗っている。
次回「ユーラシア連邦」