厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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恐らくは年内最後の更新。
皆様がアグニカみを感じてバエりながらも良いお年をお迎え下さいますよう、心よりお祈り致しております。

来年からもよろしくお願いします!


#27 精鋭部隊

 ユーラシア連邦、イングランド統合連合国、アラビア王国。

 領土を黒海に面する三国は合同で、モビルアーマーの拠点と化している黒海沿いの地方都市「オデッサ」の奪還作戦を遂行している。MAの殲滅を目的とする民間国際軍事組織「ヘイムダル」もこの作戦に参加しており、まさしく人類の威信を賭けて行われているのだ。

 陸路から進攻するユーラシア連邦軍地上艦隊は、今まさにMAとの接触を間近としていた。

 

「複数のエイハブ・ウェーブ観測! 前方、十二時の方角に敵群を視認!」

「全軍、このまま直進! 撃滅してオデッサへと進攻する!」

 

 ユーラシア連邦軍の最精鋭部隊たる「スヴィエート部隊」を擁する陸上艦隊と共に進軍するヘイムダルのチームも、所属するガンダム・フレーム五機をマッケレル級地上戦艦「リングヴィ」の甲板にズラリと並び、戦闘に備えている。

 対して、ユーラシア連邦軍はモビルスーツを展開していない。敵群を確認してなお、出撃させない。

 

「…フェンリス。なんでユーラシア連邦軍は、MSを出撃させないんだ?」

「分からない。だが、もうすぐ戦闘だ。気を引き締めろ」

 

 困惑するヘイムダルだったが、ただ見ている訳には行かない。

 

「クジナさん、狙撃して当てられないのかしら?」

「ああ? 見えてりゃ当てられるさ」

「なら頼む。先手を打とう」

 

 フェンリスチームの一員であるクジナ・ウーリーの、銃撃に重点を置いてチューニングされたガンダム・フレーム六十九番機「ガンダム・デカラビア」が動く。機体を立たせたまま、右手に保持するスナイパーライフルを持ち上げ、両手で構える。

 

 ガンダム・デカラビアは、中~遠距離攻撃に特化したモビルスーツである。この特性は、かつて射撃で世界大会に出場したコトも有るクジナの特技を反映した為だ。

 スナイパーライフルによる超遠距離狙撃、両肩のガトリング砲を用いた中距離制圧射撃に加え、ダインスレイヴを拡散型に調整した特殊兵装「レーヴァテイン」を背部に接続しており、これによる中、遠距離の殲滅攻撃を可能としている。

 なお、レーヴァテインの銃身は凄まじく太く、設計データを閲覧したアグニカ・カイエルは「土管かよ」と思わず呟いたと言う。その比喩通り土管のように巨大な射出口となっているが、これはダインスレイヴ専用弾頭とは比較にならないほど口径が大きいレアアロイ製フレシェット弾を運用する為に必要な構造だ。

 重装備から機動力が低下しているが、デカラビアは機動による回避、移動を必要としないだけの射程距離、殲滅力を持っている為、問題とならない。ガンダム・フレームの中でも最終番機に近いこの機体は、射撃機の頂点たるMSと言えるだろう。

 

「ロック――ファイアッ!」

 

 スナイパーライフルの引き金が引かれ、弾頭が高速回転しながらすっ飛んで行く。

 標的は移動しており、風の影響も有る中だが――その鏑矢とも呼べる一撃は、過たず敵群の中央に陣取っていたMAの頭部に直撃した。

 

「ガハハハハ! やるじゃねぇか!!」

『我々も負けてはいられんぞ!! オイ宇宙艦隊、ダインスレイヴをポイントL73からM31にドカーンと撃ち込め!!!』

『は!? し、しかしそのポイントは…! そちらの艦隊が被害を被るのでは!?』

『ネット・プロブレムッ!!!』

 

 ユーラシア連邦軍艦隊指揮官アーイスト・スヴィエートが、宇宙艦隊に無茶ぶりをかます。全地上艦隊に中継されていたその言葉を受けて、ヘイムダルの面々は思わず「フザケんな!!」と叫んだ。

 何故か――

 

「L73からM31、って…」

「俺らまで吹き飛んじまうぞ!? 何考えてんだオッサン! 宇宙から地上に撃つダインスレイヴの恐ろしさを知らねぇ訳じゃねぇだろ!!」

 

 指定ポイントが、艦隊と敵群のド真ん中だったからだ。

 宇宙から地上に向けて放たれるダインスレイヴの威力は、宇宙や地上で撃つダインスレイヴとは比較にならないモノだ。通常のダインスレイヴの超速度に重力による推進力が加わり、加速させられる。音を置き去りにする速度で高硬度レアアロイ製の弾頭が地上に突き刺されば、その余波は核爆発にも引けを取らないのである。マトモに受ければ、敵群も艦隊もただでは済まない。

 にも関わらず、アーイストは。

 

『それがどうした!!?』

 

 と、一言で切り捨てた。

 

「やっぱりアホだコイツ!!」

「ど、どうしますの!?」

「味方の攻撃で死ぬとか、最高に笑えませんね」

 

 今すぐにでも後方へ全力撤退する所だが、ヘイムダルの横と後ろに付いているユーラシア連邦軍艦隊にその素振りが一切見られないので、このまま進み続けるしか無い。止まったら後ろの艦がぶつかる。

 

『来るぞ!!』

 

 天を覆っていた暗雲が、射出された弾頭が通過した後、一瞬の間を置いて一気に消え失せる。そして――複数のダインスレイヴ弾頭が、指定された座標にキッチリ正確に突き刺さった。激突するや否や、地面が割れて岩盤が宙に舞い上がり、余波による爆風に乗った灰燼によって視界が閉ざされる。

 

『うわああああああ!!!』

 

 地上戦艦の甲板に立っていた五機のガンダムは、余波で吹き飛ばされないよう姿勢を低くし、艦にしがみつく。この時、ヘイムダルの面々は、ユーラシア連邦軍がMSを出撃させなかった理由を悟った。

 

 間違い無く、これをやる為だ。

 

 そしてこのやり方は、MAに大打撃を与えた。自軍に危険が及ぶ大規模攻撃をやるなど、予測していない。それ故に、この攻撃を想定していなかった。

 MA群の中のプルーマは一機残らず吹き飛び、MA本体も同様か、そうでなくとも少なからずダメージを受けている。

 

『さあ野郎ども、殲滅の時間だ! 一機残らず叩き潰せ!!』

『っしゃああああああああ!!!』

 

 ユーラシア連邦軍の地上艦隊は、立ち止まらずに煙幕を突破し、MAとの有視界戦闘距離へと漕ぎ着けた。艦隊から次々とMSが出撃し、怯んだMAにハイエナの如く襲い掛かる。

 そのただ中に在りながら、ヘイムダルは呆然としてしまっている。

 

「――狂っていますわ…」

「お気持ちは分かりますが、これが我々――『スヴィエート部隊』のやり方です」

 

 ヘイムダルの下に現れたのは、ユーラシア連邦軍に所属する「ガンダム・オロバス」。パイロットの雅斗(まさと)・コナー大尉は、ヘイムダルに同意しつつも、誇らしげにそう述べる。

 

「MAは合理で動く、最適化された無人兵器。下位の『天使』であっても、周囲の状況を把握、敵を分析した上で、ある程度動きを予測する。上位になれば、その上で群を動かすコトも有る。

 だが、合理的であるが故に――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アーイスト・スヴィエートと言う男は、それを誰よりもよく理解している。そして、MAの思考の裏を読み、指揮を取るのである。

 今回も、それが効いた。

 「自軍に被害が出る攻撃はして来ないだろう」――合理的だからこそ、この前提にMAは捕らわれたのだ。そして、まんまと一杯食わされた。

 

「ユーラシア連邦軍参謀本部の参謀長――戦争全体を見て軍全体を動かしてみせる彼が、自ら前線で指揮を取る。従うのは志気が高く、優秀な精鋭達。

 これが、スヴィエート部隊をユーラシア連邦軍の中でも『最強』たらしめているのです。アーイスト司令は、ただうるさい人ではないのですよ」

 

 自軍に損害を出さないのが常だが、ここぞと言う時にはそれをある程度許容した上で、それ以上の被害を敵に与える。これこそが、アーイスト・スヴィエートの戦いの真髄である。

 そして彼は、志気を上げるのが得意中の得意だ。もはや狂気とさえ呼べるほどの志気を持って、練度の高い精鋭部隊が突っ込んで来るのだから、最強でない訳が無い。

 

「雅斗、それとヘイムダルの小僧ども! いつまでダベってんだ、さっさと突っ込め!!」

 

 加えて、最前線に立つのはユーラシア連邦軍でも指折りのエースパイロットたるイゴール・プーシキン中佐の「ガンダム・ヴァレファール」。あらゆる要素が、スヴィエート部隊には揃っている。

 

「は! ――我々も行きましょう」

「…ああ。行くぞ!」

 

 双眼を真紅に輝かせ、高速で敵群に突撃するオロバスに続いて、ヘイムダルも戦闘に突入する。その先陣を切るのは、クリウス・ボードウィンの「ガンダム・キマリストルーパー」だ。

 

「うおおおお!」

 

 振られたデストロイヤー・ランスにより、ただでさえ混乱しているMAが打ち砕かれる。咄嗟に射出されたプルーマは、キマリスのすぐ後ろに控えるフェンリス・ファリドの「ガンダム・アスモデウス」によって粉砕された。

 

「行きます!」

 

 レタ・クィルターの操る「ガンダム・ベレト」が両手に近接武装を構え、MAの放つビームをもろともせずに懐に飛び込み、連続で殴りつける。鈍重な武装に殴られ続け、MAはあえなく沈黙した。

 

 ガンダム・フレームの十三番機「ガンダム・ベレト」は、比較的初期に開発されながら、多彩な武装と頑強な装甲を有する傑作機である。

 一番の特徴は他機に無い「リミッター装甲」を全身に装備しているコトで、これが防御力が増大する要因となった。とは言え、防御力の上昇はあくまで副次的な効果に過ぎない。装備の目的は、その名の通り機体にリミッターを施すコトだ。これは、機体に宿る悪魔「ベレト」が憤怒を司る存在であり、パイロットの意志に関係無くリミッターが外れる恐れが有るが故の処置となっている。

 武装は鋭利な刃と叩き潰す面が片側ずつに配されている複合装備「ジョワユーズ・メイス」と、杖状の打撃武器に着脱可能なハルバードの刃が付いた複合装備「ハル・シュトック」。背部には「ビッグアーム・ユニット」を背負い、外見が手のように見えるコトから「ブレード・フィンガー」と総称されている全六本のワイヤーブレードと、サブアームが接続されている。この他にもバルカン砲と多連装グレネードランチャーを有する、ガンダム・フレーム初期型の究極と呼べるMSに仕上がっている。

 以上の装備を以て、この機体は伝承に於いても「ソロモン七十二柱」の首魁たる地獄の大王と伝えられる悪魔「ベレト」の宿る機体として、相応しい戦闘能力を獲得した。

 

「ひれ伏しなさい!」

 

 高慢な台詞と共に、グラツィア・アンヴィルの駆る「ガンダム・ボルフリ」が、大盾を振りかぶってMAに叩き落とす。

 

 「ガンダム・ボルフリ」は、二十八番目のガンダム・フレームである。女騎士のようなやや細めの外見と裏腹に、多くの盾装備が用意されている。

 一番は中腹で分割可能な両手持ちの大盾「アイアス」。繋げれば堅牢な盾となる他、分割して両手に接続すれば、トンファーとして使用するコトが出来る。肩には角張ったシールドを装備し、その裏側には近接格闘用の「ボルフリ・ソード」が隠されており、手持ちの他に接続したまま運用するコトも可能となっている。また、腰にはマスケット・ライフルが六丁懸架されており、片手で運用出来る割にはある程度大きな口径を確保しているが、一発撃ち切り型なのが難点。

 武装の防御力が高い為、タンクとして最前線へ出るコトも出来る、心強い機体と言えるだろう。

 

「フォーマ46!」

了解(ダース)!』

 

 ユーラシア連邦軍のMS部隊も、ガンダム・フレームに続く。部隊は主にヘキサ・フレームの「ユーゴー」で構成されており、ヘキサ特有の脱出機構により、司令官の無茶ぶりにも対応出来るようになっている。

 ユーゴーは脚部逆関節が特徴的だが、幅広い環境で運用出来る傑作機だ。スヴィエート部隊で重宝される理由は脱出機構の他に、武装の巨大さが有る。主武装たる「円月刀」は三日月型の巨大な刀で、単騎でもMAを殺し得るほどのサイズだからだ。

 そんなユーゴー部隊は華麗に陸上を駆け、円月刀を両手に一本ずつ構えてMAを包囲。敵の攻撃をかいくぐり、ジワジワとダメージを与えて一機ずつ、確実に仕留めて行く。

 

 かくしてユーラシア連邦軍は、一時間も経たぬ間にMAの迎撃部隊を殲滅し、変わらずオデッサへの進路を取った。

 他の部隊もMAの防衛ラインを突破し、作戦通りオデッサへの進攻を継続していた。

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

 防衛線、瓦解。

 人類、依然侵攻中。

 

 ――状況。

 

 敵戦力、膨大。甚大。巨大。

 自戦力、考察。現状、撃滅不可能。

 打診、出撃許可要請。

 

 ――時期尚早。不許可。

 

 了。「三国一挙撃滅作戦(フロースホルトゥス)」廃棄。

 自軍、救援不可能。都市残留、防衛続行命令。

 再打診、新型出撃許可。

 

 ――許可。

 

 了。新型機「シマピシエル」十二機解放。

 都市防衛任務、着任確認。

 

 以上。

 

 

   ―interlude out―




第二十七話「精鋭部隊」をご覧頂き、ありがとうございました。

比較的短めですが、キリが良いので今回はここまでと言うコトで。
不穏な幕間を残しつつ、次回はいよいよ戦場がオデッサへ移ります(まだ辿り着いていない)


《新規機体》
ASW-G-13 ガンダム・ベレト
・ヘイムダル、レタ・クィルターの機体。
・ガンダム・フレームの中でもトップクラスの戦闘能力を持つかなりの化け物で、装備も盛りまくり。伝承からして「ソロモン七十二柱の首魁」とまで言われてるので、是非も無し。

ASW-G-28 ガンダム・ボルフリ
・ヘイムダル、グラツィア・アンヴィルの機体。
・一般的には「ベリト」と呼ばれるものの、ややこしい+絶対打ち間違えて「ベレト」になると確信出来る上に、ベレトと同じチームにブチ込まれた為、間違いがシャレにならず混乱も招くと判断されてこの呼び方になった。

ASW-G-69 ガンダム・デカラビア
・ヘイムダル、クジナ・ウーリーの機体。
・射撃、狙撃特化。本文で書きそびれたもののカラーは虹色なので、ものすごく目立つ。


《今回のまとめ》
・スヴィエート部隊は大分頭のネジがぶっ飛んでる
・ダインスレイヴやり返したぜ
・オデッサ奪還作戦、予定通り進行中




次回「降臨」
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