厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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気付いたら二月も中旬に差し掛かろうとしてました。
時の流れほど恐ろしいモノは無い、と強く思うようになってきた今日この頃です。

今回から、イングランド統合連合国編になります。
アメリア編、ユーラシア編ほど長くなる予定は有りません。今後は一国につき三~五話以内に収めて、スマートに進めて行きたいと思う次第です。
今回はMAについて、かなり重要なコトがディヤウスさんの口から語られていたり。

なお、会議シーンでは十国首脳が話してるんですが、その中の誰が話してるかまでは分からなくても、読み進めるのに問題は無い――と判断したので、そこは余計な情報として削ぎ落としています。
誰が言ってるかという情報が必要な所は、地の文で言及しておりますので、そんな感じでお願いします。


#31 イングランド統合連合国

 イングランド統合連合国首相チャーリー・デイビスが、モビルアーマーによって爆殺された。この事実はたちまち世界中に駆け巡り、大きな衝撃を与えた。

 十国の首脳がMAに殺されるのは、初めてのコトではない。M.U.0045年時、オセアニア連邦首都「アデレード」で行われた「十国会議」の帰路にて、当時サハラ連邦共和国の大統領であったアブデルカデル・ディアロが、護衛艦隊諸共「天使長」に殺されている。

 だが、今回は状況が違う。ディアロ大統領はシェルター外で虐殺されたが、デイビス首相はシェルター内。しかも、イングランド統合連合国の首都「ロンドン」のド真ん中でだ。

 如何なる手段を使ったかは定かではないが、これで世界に安全な場所などどこにも無いコトが改めて証明された。MAを根絶せぬ限り、人類に安息の時は決して訪れない。

 

 イングランドは新たに首相を選び、対応策を打ち出さねばならない。

 しかし、突如として政治的トップ、それも人望と信頼が厚かったデイビス首相が消えたコトで、国内は絶賛大混乱中。そしてそれは、イングランド連合議会に縮図として現れていた。

 

「一体どうするのだ!?」

「それを話し合うのがこの場だろうが!」

「保守党党首であったデイビス首相が殺された今、まずはそれを選び直すべきだろう!」

「しかし、党首選挙の日時はまだ…!」

「保守党には後釜はいないのか!? 一体何をやっていた!?」

「ただ今、三名が名乗りを上げており――」

「政党内で権力闘争などしている場合か!?」

「ならば我々労働党で臨時政権を構築する!」

「国民の意見も聞かねばならない!」

「だが、都市同士の交流が断絶されている今、選挙の実施には長期間の準備が必要だ! 今から始めた所で、選挙日はいつになるか…!」

 

 混乱し、誰もが言いたいコトを叫んでいるだけ。落ち着いた議論など遙か彼方だが、それほどまでに「首相暗殺」のインパクトは大きい。皆うろたえ、気が動転しているのである。

 怒号の飛び交う議事堂、ウェストミンスター宮殿であったが、そこに一人の女の声が響き渡った。

 

 

「やかましい!!!」

 

 

 まさに鶴の一声。

 その一喝で、議会は静寂に支配され――集いし議員の全員が椅子から立ち上がり、深々と礼をする。

 

 一言で場を収めてみせた妙齢の美しい女性は、議事堂の中心に設置された演説台に立ち、手に持つ切っ先の無い儀礼剣「カーテナ」を床に突き立てた。

 

「十国最長の歴史を持つ連合議会が、何と言うザマだ。貴様ら、それでも国民の意を双肩に負う連合議員か? 貴様らはキャンキャン騒ぐコトしか出来ない猿では無く、論理的思考を以て議論するコトの出来る人間のハズだろう」

「―――は。失礼致しました、女王陛下」

 

 女の名は、エミリアナ・ウォーロック。

 イングランド統合連合国の女王を務める、国の象徴的存在である。普段は権限を議会と首相に委譲しており、政治を行うコトは無いが――議会の混乱を嘆き、王権の象徴たる「慈悲の剣(カーテナ)」まで持ち出し、こうして激励に来たと言う訳だ。権力を持ってはいないが、混乱し秩序を失った議会を一気に立ち直させるには、女王が出向くのが一番と判断しての行動である。

 

「流石でございます、母上」

「祝え! 全国民の力を受け継ぎ、時空を越え、過去と未来をしろしめす国の女王――その名もエミリアナ・ウォーロック! まさにその姿を見せた瞬間である!」

「ヴィンス、口上が遅いわよ」

「いやいや姉上、まさか母上が年甲斐も無く叫ばれるとは思わず、タイミングを見失ったのです」

「何だとこの野郎」

 

 女王の後ろには、三人の男女。

 イングランド統合連合国第一王子、ローランド・ウォーロック。

 イングランド統合連合国第一王女、グウィネス・ウォーロック。

 イングランド統合連合国第二王子、ヴィンス・ウォーロック。

 女王エミリアナが産み育てた、彼女が何よりも愛する三人の実子である。

 

「実の息子に『この野郎』呼ばわりとは…いささか淑女(レディ)としt――いえ、母上はそんな年ではありませんでしたか」

「何だ、喧嘩を売っているのか貴様。そんなに血をこのカーテナに吸われたいか?」

「母上、カーテナは『慈悲の剣』なんです。息子殺す為のモノじゃないです」

「と言うか、その剣じゃ殺せませんよ?」

「死ぬまで殴ってやろう」

「誠に申し訳有りませんでした女王陛下」

「分かれば良い」

 

 さて、と言って、エミリアナは正面に向き直る。

 それから右手を上げて指を鳴らすと、ローランドが手元の端末を操作。すると、議場を囲むように十もの通信映像が開かれ、そこには他の九国の首脳とヘイムダルのディヤウス・カイエルが映った。

 

『これより、臨時十国通信会談を行う』

『このような形で行うのは初めてとなるか』

『やむを得ません。行政の代表である者が暗殺されたのですから』

『ああ――まさか、チャーリー君がな』

 

 イングランド統合連合国で執政を取る首相が殺された今、政治的決定権を持つ最高機関は連合議会。そして、権力を委譲している者として、女王が参列しているのだ。

 

「知っての通り、チャーリー・デイビス首相が殺された。そしてそれは、未確認のMAの陰謀によるモノだ。そうだな、ヴィンス?」

「はい。私はデイビス首相が死ぬ瞬間まで、通信を開いていました。襲撃者の姿を見るコトは叶いませんでしたが、爆殺される寸前、デイビス首相は一言叫びました」

 

 ヴィンスは一拍置いて、その言葉を舌に乗せる。

 

 

「――『ミカエル』と」

 

 

 議会がざわつき始める。その名は、議員になるほどの人間であれば、一般教養として知っている名である。通信先の首脳陣は、目を細めて表情を険しくさせた。

 

「『ミカエル』――全ての天使を統べる大天使。最も偉大にして重要な天使。かの『光を齎す者(ルシフェル)』をも討ち滅ぼした、『最強』の天使か」

 

 ローランドの言葉に、ヴィンスは頷く。

 その名の意味からして「神の如き者」――唯一、神と並び立てられるほどの絶対的存在。まさしく最強最大、最高の天使だ。

 

『――「四大天使」が出るとは…些か尚早だ』

 

 顎に手を当て、ディヤウスがそう呟いた。それから、四大天使について解説を始める。

 

 四大天使。

 其は「天使長」を遥かに上回る力を持つ、強大極まりないMA。

 

 「大天使」ガブリエル。

 「智天使」ウリエル。

 「座天使」ラファエル。

 「熾天使」ミカエル。

 

 この四体を総称し「四大天使」――最高の位階に位置する、最強の天使とヘイムダルは位置付けた。ミカエルはこの中でも、更に別格と言える。

 

『それほどのMAを生み出せるのなら、何故ガブリエルは量産をしないのだ? そうすれば、人類など鎧袖一触だろう』

『理由は二つ推測されます。

 一つは、動力源の製造が極めて困難、かつ製造時にはかなり多くの時間がかかります。ガブリエルの技術を以てしても、一機につき最低二年はかかるでしょう』

「動力源だと? エイハブ・リアクターではないのか?」

 

 ヴィンスの質問に、ディヤウスはこう答える。

 

『単なるエイハブ・リアクターではありません。

 私とエイハブ・バーラエナがかつて製造したガブリエルには、「フィフス・リアクターシステム」が採用されています』

『フィフス…まさか、五つのリアクターを!?』

 

 ディヤウスは、頷きでその推測を肯定した。

 

『はい。五つのリアクターを同調させ、通常の五乗にもなるエネルギーを生み出しています。

 エイハブ・リアクターを発明したエイハブ・バーラエナの技術力を以て建造された、完全なるオーバーテクノロジー。エイハブ・バーラエナと、それと同等の技術を持つガブリエル以外の誰にも造るコトは出来ません。ガンダム・フレームを建造する際、我々ヘイムダルもリアクターの同調を研究しましたが――二基を同調させるのが限界でした。

 「四大天使」は、そのガブリエルに並び立つ。恐らくは、フィフス・リアクターシステムを採用している。その建造は容易ではなく、ガブリエルだろうとかなりの時間を費やさざるを得ないかと』

 

 五倍ではなく、五乗。

 「ツイン・リアクターシステム」を採用するガンダム・フレームの性能が、他のフレームMSと比較にならないほどだと知っている首脳陣は、その凄まじさを想像して息を飲んだ。

 

『一つの理由はまずそれか。では、二つ目は?』

『私とエイハブ・バーラエナは、ガブリエルを建造する際に制約を課しました。それは「自分より強い機体を四機以上造ってはならない」「それも自軍の敗北が予測出来た場合のみ建造する」と言うモノでした』

 

 ガブリエルは、自分以上の性能を持つ機体を造るコトが出来る。だが、そんなモノが量産されれば、地球人類は愚か全人類が存続を脅かされる事態に発展しかねない。

 だから、火星独立軍には分からないよう、そんな制約を掛けたのだ。ディヤウスはエイハブにそれを提案され、その通りにしたのである。

 

『しかし、ガブリエルは我々の予測を外れ、暴走した。この制約が今なお生きているか、疑念を抱くのも事実ではありますが』

「何にせよ、ガブリエルがフィフス・リアクターを大量生産出来ないのは事実なのだろう?」

 

 ヴィンスの言葉を、ディヤウスは首肯する。

 

『それは間違い無いかと。私が知り得る限りのガブリエルの情報から立てた推論ですが』

『キミ以上にガブリエルについて情報を持つ者は、この世にいないだろう。エイハブ・バーラエナは死んだのだからな』

 

 だが、この制約が今なお有ると仮定した場合、四大天使の名が現れたと言うコトは。

 

「逆に言えば、ガブリエルは『自軍が敗北する』予測を立てたのだろう? だから『四大天使』を造った。つまり、我々人類がこの戦争に勝利する可能性が有ると言うコトだ」

 

 物量、技術、継戦能力。

 全てにおいて人類の上を行くMAだが、決して倒し得ない存在ではないと、MA自身が証明したと言うコトになる――と、エミリアナ女王は述べた。

 

『…成る程。その視点は無かったな』

『しかし「四大天使」は、その事態を回避する為に造られるのだろう?』

『今現在、ミカエルを確認した者は誰もいない。今その戦略的価値について論じても仕方有るまいよ』

 

 現状としては「ミカエル」と言う名前が飛び出しただけであり、誰にも観測されていない以上、実在自体が怪しいモノである。

 

『何故、わざわざそれをデイビス首相に伝えた?』

「我々への牽制だろうさ。共同戦線によるオデッサ奪還作戦が成功したコトで、国を越えた協力がMAに対抗する為に必要なコトは、皆様にもご理解頂けているハズだ。

 例え『四大天使』が相手であれ、臆するコトは無い。奴らの悉くを打ち砕き、この世界に平穏と安寧を取り戻す。それが我々にとっての急務であり、この戦争の勝利条件である。その為にも、十国の協力体制を強めて行かねばならない」

 

 女王が導き出した結論には、他国の首脳陣も賛同した。結局の所、MAという脅威に対しては、人類総出で相対せねばならない。

 

『それは我らとて同意見だ。このまま滅亡を受け入れるほど、我ら人類は諦めの良い生物ではない』

『ええ。全てはMAの根絶の為。ヘイムダルもこれまで以上に、その使命を全うすべく尽力する所存であります』

 

 

   ◇

 

 

 数時間の議論を経て、臨時十国首脳電話会談は終了した。

 火星の現状など、MAに関するコト以外に懸念すべきコトは有るが、それは火星へ出向いた者達からの何かしらの報告を期待する形になる。また、ヘイムダル主導の下で構築されつつあるLCSレーザー通信網「アリアドネ」の圏外圏への拡大、コロニー群への支援などについても議論が行われ、有意義な時間となった。

 

「…行くのか、ヴィンス」

 

 戦場へ戻るべく、ウェストミンスター宮殿を後にしようとしたヴィンス・ウォーロックに、エミリアナ女王が話しかける。

 

「はい。これよりベルファストに出向き、ヘイムダルのチームと共に、都市を包囲するMAを殲滅する作戦を実行致します」

 

 ベルファストは、アイルランドの北側に位置する地方都市である。近辺にはダブリンもあり、住んでいる人も決して少なくはない。

 

「――死ぬなよ」

「まさか。これまで通り、ウォーロック王家の名に恥じぬ戦いを心掛けます。それでは」

 

 軍の装甲車に乗り込み、ヴィンスは去った。女王は見えなくなるまで、走り去る車を見つめていた。

 その背中に向けて、第一王女のグウィネス・ウォーロックが問いを投げる。

 

「…よろしかったのですか、母上?」

「良いも悪いも無い。ヴィンスは私が育てた男で、お前の弟だ。優秀な人間の能力を有効に使うのは、国として当然のコト。アイツは私の誇りだよ」

 

 そう述べるエミリアナ女王は唇を噛み締め、拳を堅く握り締めていた。グウィネスは目を細めて、シェルターに覆われた灰色の空を見上げる。

 元々ロンドンの空は、晴れ間の無い日がほとんどだったが――鉄の空はそれよりも遥かに暗く、重く感じられた。

 

 

   ◇

 

 

 イングランドのデイビス首相爆殺事件に、「四大天使」ミカエルが関与している。その情報は世界中で報道され、当然ヘイムダルで戦うガンダム・フレームのパイロット達の耳にも届いていた。

 

「こりゃまた、ひでぇ話だな」

「全文同意する」

 

 件のイングランド統合連合国に向かうナーワル級空母「フィアラル」のブリッジでは、二人の男がそう話していた。

 

 ディアス・バクラザンと、ミズガルズ・ファルク。

 

 ディアスはチームリーダーを任されている男であり、ミズガルズはディアスの友人であるとともに、サブリーダーとしてサポートを行っている。

 

「だが致し方ない。この状況で、人類に良いニュースが入ると思うか?」

「思わねぇな。だから、他ならぬオレ達が良いニュースを呼び込む幸運の鶏になるんだろ?」

「どうせなら飛べ。コウノトリになれ」

「コウノトリはユーラシアの司令と被るから嫌だ」

 

 なお、ユーラシアの司令とはうるさいコトで有名なアーイスト・スヴィエートのコトであり、「アーイスト」はユーラシア語で「(こう)の鳥」という意味だそうだ。何を思ってアーイストの親がそう名付けたかは知らないが、フェンリスチームへの無茶ぶりについて聞く限り、幸せを運んではいなさそうである。

 

「何はともあれ、首相を失ったばっかの国に行くんだ。今回はいつも以上に期待を入れねぇとな。これ以上、殺される奴を増やさない為にもな」

「―――ああ」

 

 イングランドの都市「ベルファスト」にディアスチームが到着するのは、この三時間後になった。




第三十一話「イングランド統合連合国」をご覧頂き、ありがとうございました。

十分の三ヶ国目、イングランド編はチャーリー・デイビス首相爆殺に関する十国首脳通信会談から。
惜しい人を亡くした…。
いや本当に惜しい人を亡くした。
てか爆殺て。張作霖じゃねぇんだから…。

そして、遂に本編中でも「四大天使」と言う単語が登場致しました。
コイツらは今後の展開にとてもすごく大きく大きく関わってくる、非常に極めて重要な存在です。
文字通り、全部で四機。コイツら次第で厄祭戦全体の戦況が変わる、と言っても過言ではないどころか紛れもない事実。それくらいの影響力が有ります。

「神の人」ガブリエル。
「神の炎」ウリエル。
「神を癒やす者」ラファエル。
「神の如き者」ミカエル。

どれもどこかで聞いたコト有る名前だと思います。
今後、名前などが出て来た場合は説明を入れはしますが、覚えておくとよりスムーズに読めるかと。

最後にセブンスターズの二人がチラリと顔見せ。
小出しにしていくスタイルェ…。


《新規キャラクター》
エミリアナ・ウォーロック
・イングランド統合連合国の女王。

ローランド・ウォーロック
・イングランド統合連合国の第一王子。

グウィネス・ウォーロック
・イングランド統合連合国の第一王女。

ディアス・バクラザン
・ヘイムダル、ディアスチームのリーダー。
・後のセブンスターズ第六席「バクラザン家」初代当主で、ネモ・バクラザンの先祖。

ミズガルズ・ファルク
・ヘイムダル、ディアスチームのサブリーダー。
・後のセブンスターズ第七席「ファルク家」初代当主で、エレク・ファルクの先祖。


《新規艦船》
ナーワル級航空母艦
・MS運用を想定して開発された空母。


《今回のまとめ》
・十国が意志を再確認
・「四大天使」はヤバいらしい(というかヤバい)
・バクラザン、ファルク登場




次回「暗躍せし者達」
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