厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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三月になりました。
もう一年の六分の一が過ぎたとか、時の流れって速い…速くない?
さて、もうすぐ連載開始から一年(!?)経つ訳ですけど、まだ第四章(十分の三)――これはまずい事態です。非常にまずいですよこれは。
今年に入ってから、今回を含め六話しか更新してませんし…ちょっと頑張って行きたいですね。


#33 不可解な謎

 ダブリン直近で発生した爆発。

 それに巻き込まれた「ガンダム・アムドゥスキアス」は、地面を転がりながらも態勢を立て直し、立ち上がる。

 

「く――これは…!?」

 

 パイロットであるサミュエル・メイザース大尉は、周囲を見回しつつもセンサーを確認し、状況の把握を図る。

 主要戦力は海上に集結しているが、機体特性上、海上戦を期待出来ないアムドゥスキアスはダブリンの直衛として待機していた。エイハブ・リアクターが多い海上に戦力が集中するモノと思っていたが、どうにもアテが外れたらしい。

 

「敵は五機か――ッ!」

 

 エイハブ・ウェーブの反応を確認していたアムドゥスキアスに対し、ビームが地面を薙ぐように襲い掛かる。アムドゥスキアスは後ろへと飛び上がり、それを回避した。

 敵モビルアーマーは全高四十メートルも在る、人型の機体。サミュエルには知る由も無いが、つい先ほど海上艦隊を襲撃した新型MA「アサエル」だ。

 

「新型…!」

 

 アサエルの内の一機がビーム・サーベルを腕から形成し、飛び上がってアムドゥスキアスに襲い掛かる。その後ろでは、他の四機が追随して来ている。

 その図体で飛べるのか、と心の中でツッコミつつも、サミュエルはアムドゥスキアスを変形させ、飛び上がったアサエルの真下を突破した。

 

 ガンダム・アムドゥスキアス。

 六十七番目のガンダム・フレームたる機体、その最大の特性は「変形機構」に有ると言える。通常の人型形態から、戦車形態へと変形出来る。変形の際には、胸部装甲が上がるコトで頭部を覆い、肩部が背後に回り、腕部が腰と胸部装甲の間に入り込む。また、両足が前方へと突き出されて、背部のウィングが展開される仕組みとなっている。砂漠環境に対応する目的が大きいが、変形により地上での圧倒的な移動能力を獲得する。

 しかし、変形の為に各所の装甲は他のガンダム・フレームに比べて若干薄くなっており、武装も少なめになっている。基本的には武装を用いない格闘を主体とし、戦闘を行う。使いこなせば堅実な力を発揮するが、ピーキーな機体と言えるだろう。

 

 攻撃を一旦かわしこそしたが、残りの四機が立て続けに仕掛けて来る。アムドゥスキアスは神がかり的な方向転換を繰り返し、辛くも攻撃を避ける。

 そのアムドゥスキアスにとって、現在の状況は決して良いとは言えない。装甲が薄いアムドゥスキアスは、攻撃を出来るだけ避けねばならない。

 

『サミュエル大尉! ッ、があ!』

『うわああああ!』

 

 部下の悲鳴が通信で耳に届き、サミュエルは舌打ちする。元々受け持っていたモビルスーツ隊は中隊規模、十機程度。この新型にかかれば、撃滅など訳ないだろう。

 アムドゥスキアスは人型に戻り、一旦停止した。サミュエルは一度息を吐き――

 

 

「アムドゥスキアス。――()()()()()

 

 

 ――悪魔に、贄を捧げた。

 バイザーに覆われた双眼が輝き、リアクターが最大限にエネルギーを供給し始める。余剰となった分は、全身から蒼い光として放出される。

 

 次の瞬間――アムドゥスキアスは、眼前の一機の頭部を殴り飛ばしていた。

 

 続く蹴りもまた頭部を追撃し、アサエルの機体が回って地面へと打ち付けられる。しかし、地面に叩き付けられながらも、アサエルは右手のビーム・サーベルを薙いでアムドゥスキアスに打ち込む。アムドゥスキアスは左腕の装甲でそれを受け流し、数少ない武装の一つである肩部の迫撃砲を放つ。アサエルはこれに蹴りで応え、放たれた弾は落とされた。

 アムドゥスキアスは後ろに飛んで変形しつつ着地し、回り込もうとするも。

 

「ッ!」

 

 他の一機が一斉に放った頭部ビーム砲を避けきれず、吹き飛ばされる。

 

「コイツら、ガンダムの速度に対応を…!?」

 

 変形を空中で解除して着地に備えるも、残る三機と先ほど頭部を蹴り飛ばしてやった一機が両腕のビーム・サーベルを構えて突撃して来る。アムドゥスキアスはスラスターを全開にし、上昇してかわそうとするも――八本のビーム・サーベルが全て空振るコトは無く、アムドゥスキアスの動きを計算して動いた四本のビーム・サーベルを受け、彼方へと弾き飛ばされた。

 

「ク…!」

 

 ダブリンを守るシェルターの壁に背を叩き付けられ、アムドゥスキアスはスラスターを損傷した。それ以前の度重なる攻撃で、変形機構が不調を来しているばかりか、装甲もかなりガタ付いている。

 そんなアムドゥスキアスに、四機が一斉に胸部の拡散ビーム砲を放つ。雨のように降り注ぐビームを浴び、アムドゥスキアスは動きを封じられる。割れた装甲の間にビームが入り、フレームそのものが破壊され、各所が爆発する。

 

「ぐ、ああ――!」

 

 一機が飛び上がり、ビーム・サーベルを両腕で展開し、突き出しながらアムドゥスキアスに向かって落ちて来る。死を覚悟したサミュエルは、せめて一機だけでもと、右腕を突き出した――瞬間。

 

 

 眼前のアサエルが、後方へとすっ飛んだ。

 

 

 中枢コンピューターを貫かれ、地面に落ちたアサエルは、そのまま機能停止する。アサエルを殺した悪魔――ガンダム・バティンのコクピットで、ウィルフレッド・ランドルは叫ぶ。

 

「ディアス! 何でよりにもよって、俺が最初に突っ込まなきゃならないんだ! 死ぬわ!!」

『生きてるじゃねぇか。それに、お前のバティンじゃなきゃ間に合わなかったからだろ』

「これは――!?」

 

 サミュエルが驚く中、アムドゥスキアスの前に、真紅の機体が舞い降りる。ビーム・フラッグを展開した、その悪魔は――

 

「無事か、サミュエル。よく持ちこたえた」

「――ヴィンス様…!」

 

 ――ガンダム・カイム。

 数秒遅れて、その傍らには大鎖鎌を背負った蒼い機体、ガンダム・ヴィネも着地した。バティンと三機合わせて、ダブリンを飛び越えて来たようだ。

 

「…申し訳有りません」

「お前が恥じる必要は無い。MSが海上に集結している以上、こちらには精々一機で切り抜けられる程度しか来ない、とタカを括っていたんだが――これは俺の失態だな」

 

 さて、と言って、ヴィンス・ウォーロックは四機のアサエルに視線を向け。

 

「俺の部下に、随分やってくれたモノだ。生きて帰れると思うなよ?」

 

 カイムが剣を抜き、突撃する。

 同時にヴィネが動いて、鎖が敵に襲いかかった――

 

 

   ◇

 

 

 幾つかの謎を孕みながらも、ダブリン防衛作戦はひとまず落ち着いた。新型も現れたコトから、今後の攻勢が強まって行くコトは想像に難くない。

 

「――ヴィンス司令。少し良いか?」

 

 ダブリンを出立し、次なる任務地へ向かう前日、ディアスはヴィンスの下を訪れた。ヴィンスがいるのは艦隊旗艦「リチャード」内の執務室であり、ディアスはわざわざ乗り移って来た形になる。

 

「構わんが…どうした?」

「いえ――先の戦闘で、少しばかり不可解なモノを目にしまして。不確定要素が多いので、公式の報告書には挙げておりませんが…やはり、司令の耳には入れておくべきと思い」

「――あの時、突出した理由か?」

 

 ディアスはそれに頷く。端末を叩いていた手を止め、ヴィンスはディアスを見据えて、先を促す。

 

「オレが動いたのは、遠方の海に水しぶきが見えたからです。MAの増援かと思いましたが、エイハブ・ウェーブの反応は有りませんでした」

「――ユーラシアのスヴィエート部隊が会敵した『アザゼル』のような、隠密機というコトか?」

「オレもその可能性に思い至りました。だとすれば、敵は新型です。隊列を乱し、突出してでも視認くらいはせねばと」

 

 現在確認されている隠密型MA「アザゼル」は、水中行動が可能な機体ではない。水中でエイハブ・ウェーブを隠匿出来る機体としたら、必然的に確認されていないタイプというコトになる。

 しかし、とディアスは続ける。

 

「視認した限り、アレはMAではなく――M()S()()()()

「…MSだと? エイハブ・ウェーブを隠匿出来るような機体がか?」

 

 ヴィンスが知る限り、そんな機体は少なくともイングランドの物ではない。他国の機体だとしても、心当たりは無い。

 

「ヴィネの記録では、最後までエイハブ・ウェーブは観測されておらず、観測データにも何も残っていませんでした。攻撃を試みたものの、現れた新型に妨害され…」

「詳細は掴めず、か――分かった、情報提供に感謝する。こちらとしても集められるだけの情報は集めてみるが…何分、観測衛星は残らずMAに落とされているからな。期待はしないでくれ。何か分かったなら、ヘイムダルにも連絡を入れよう」

「はい、ありがとうございます。ヘイムダルの方でも、アリアドネを使って監視を強化します」

 

 新型MAの出現と、謎のMSの観測はほぼ同時。情報が少なすぎる為、現時点では何も分からないが――ディアスにもヴィンスにも、この二つが無関係だとは考え難かった。

 

「我々のいた艦隊の方ではなく、エイハブ・ウェーブの少ないサミュエルのいる方へ新型が多く投入されたコトと言い――どうにもきな臭いな」

「…これまでのMAのパターンとは外れる」

 

 MAは、人間の多い方へと集まるが――最近は、エイハブ・ウェーブの有る方にも集まるようになって来ている。これが単純に、ダブリン内の人類に吊られて来たのなら納得は出来るが。

 

「奴らの装備では、シェルターを破るコトは出来ない。ロサンゼルスの時のように、特別な攻撃が有るのかとも警戒していたが――そうでもなかった」

 

 人を殺す――単純な行動理念ではあるが、決してMAは学習をしないバカではない。それどころか、論理的思考をしてナンボの存在だ。自分達の性能ではシェルターを破れないというコトくらい、奴らも理解していたハズなのに、新型はダブリンを襲撃した。一切の無駄が無い機械としては、あまりにナンセンスなやり方と言える。

 その時――一つの可能性に気付いたディアスが、口を開いた。

 

「――奴らが、ガンダム・フレームを狙っていたのだとしたら?」

 

 それを聞いたヴィンスは、冷や汗が一筋、己が頬を伝うのを感じた。

 

「…そんな、まさか――」

「あの新型――『アサエル』は、MSを模した機体でした。奴らがMSに注目しているのは間違い無い事実かと」

 

 無論、ガンダム・フレームを狙ったのでは――というのは、ディアスの予測に過ぎない。しかし、それがもし事実なのだとしたら――今後は、ガンダム・フレームに対抗する為の機体なども、出て来るかも知れない。

 

「――ガンダム・フレームは、人類にとって希望となる存在。MAを破滅に導く死神とも言われる。もし、それが打ち破られたとしたら」

 

 無論、ガンダム・フレームと言えども、たかだか一機のMSでしかない。一機や二機撃破されたところで、戦況に大きな影響を及ぼす訳ではないが――

 

「…士気には間違い無く影響するな」

 

 当のサミュエルが、敵はガンダム・アムドゥスキアスの速度に追随して来た、と言っていたコトをヴィンスは思い出す。

 ダブリン防衛作戦。投入されるガンダム・フレームが多少多いだけの、通常作戦の域を出ない規模のモノでしかなかったが――幾つもの謎を突きつけて来る、そんな作戦だった。

 

 

   ◇

 

 

 一礼と共に、ディアスはヴィンスの執務室を後にした。廊下に出ると、そこでは副官のミズガルズ・ファルクが腕を組み、壁に背を預けていた。

 

「ミズガルズ? 何してるんだ、こんな所で」

「お前こそ、王子殿下の執務室へ何の用だ」

「少し気にかかるコトが有っただけだ」

 

 あの水しぶきのコトか? と、ミズガルズは問うた。そして、ディアスは無言で頷く。

 

「…アレは、結局何だったのだ?」

「さあな。だが、確実に何かが動いていやがった。それで、報告だけでも挙げておくべきと思ったまでだ」

「それはそうだが――今後はあのような単独行動は控えてくれ。遠距離は私の担当でもある。もしものコトが有っても困るからな」

「――ああ、肝に銘じておくさ」

 

 二人は己が母艦「フィアラル」に戻るべく、乗り移る際に使ったボートが繋がれている甲板へと歩き出す。廊下を進む中で、ディアスとミズガルズはとある人物に遭遇した。

 

「――ディアス殿」

「アンタは…サミュエル大尉、だったか?」

 

 ディアスの確認を、サミュエルは首肯する。左腕を肩から吊している彼は、ディアスに深々と礼をした。

 

「な、何を?」

「私を救って頂いたコト、感謝致します。この度はご迷惑をおかけ致しました」

「いや、気にしないでくれ。オレ達はただ、やるべきコトをやっただけだ」

 

 ディアスの言葉を受け、サミュエルは深く下げていた頭を挙げる。そして何故か、自嘲めいた笑みを浮かべて。

 

「――その想いは、どうか大切に」

「…? 何故、そのように」

 

 疑問符を浮かべるディアスとミズガルズに、サミュエルはもう一度一礼し、立ち去った。残された二人は目を見合わせて、揃って首を傾げるだけだ。

 

(…やるべきコト、か。私のやるべきコトとは――やりたいコトとは、一体何なのだろうか)

 

 自分と言うモノを持たない男は、答えを出すコトが出来ない。奪われた左腕を見て、サミュエルは愛機に宿る悪魔の言葉を思い出していた。

 

 ――お前には、与えがいが無いな。

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

「帰ったぜ」

 

 何処に有るとも知れない暗室に、男の声が響き渡る。一切の光が無い閉ざされた部屋の主は、机に肘を付いて顔の前で指を絡めたまま、一人の来訪者を出迎えた。

 

「ご苦労だった。結末は?」

()()()()()は滞りなく完了したぜ。――結果的に、全機とも健在だったみてェだが」

 

 狙いとは違う結末を聞いても、暗室の支配者は一切の感情を動かすコト無く、ただ「そうか」と頷いた。

 

「やはり、そう容易くは無いようだな。あの化け物どもも、御愁傷様というワケか」

「へェ。もっとお叱りを受けると思っていたンだがなァ」

「我々の仕事に、奴らを死に至らしめるコトは含まれない。我々は我々の成すべきコトを成した。その先にどうなろうが知ったコトではない。我々の仕事は、あの化け物どものように人類を滅亡させるコトでも、悪魔を滅するコトでもないのだからな」

 

 ほくそ笑む男を前に、来訪者たる男は報告をもう一つ挙げる。

 

「ヘイムダルにカンの良い奴がいた。オレ達の動きに気付いて、接近して来やがった」

「ほう。…それで?」

「マトモに情報を与える前に撤退はした。だが――何者かがいた、とは察されたかも知れねェ」

「成る程。――まあ良い」

 

 その報告を受けても、暗室の男は動揺一つ見せない。そしてそれに、来訪者の一人である男は「だろうな」と返して見せた。

 すると、部屋の主たる男は、手元の情報端末を点ける。端末から漏れる青い光が、暗い部屋の中を青く照らし出す。

 

「そいつは?」

「立て続けに悪いが、次の仕事(ミッション)だ。いつも通り、せいぜい上手くやって見せろ」

「ヘイヘイ、了解したぜボス」

 

 端末を受け取って、入って来た男は部屋を後にする。ただ一人残された男は、暗黒の中で呟いた。

 

 

「戦争に於いて最も重要なのは、勝利という事実ではない――()()()()()()

 

 

   ―interlude out―




第三十三話「不可解な謎」をご覧頂き、ありがとうございました。

今回でイングランド統合連合国編は終了し、次回からはオセアニア連邦国編になります。
ちょっとアメリア編、ユーラシア編とクソ長く+規模が大きくなりすぎたので、これからは一国三話くらいのペースでサクサク進めて行ければいいなと思っています(願望)
第四章たる十国編が終わりますと、ようやく第五章で火星編が描けますので…正直、十国編よりそっちの方が内容決まってたりする。
無論、十国編も重要なので、手は抜きませんが。


《新規機体》
ASW-G-67 ガンダム・アムドゥスキアス
・イングランド、サミュエル・メイザースの機体。
・戦車形態に変形可能なロマン機体――なのだが、今回はあまり良いとこ無かった気がする。敵が悪いよ敵が。ついでに相性。


《今回のまとめ》
・流石に新型相手で五対一はキツい
・謎が深まる世界
・なんか暗躍が始まってますね…ようやく章タイトルが回収出来そうな予感




次回「宇宙(そら)を裂く魔剣」
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