厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
遂に木星帝国産MSがキット化される時代に…(感涙)
ウィンダムと言いバウンド・ドックと言いデスアーミーと言い、今年のバンダイは何かが違う…!
基地から出撃したディアス・バクラザン率いるヘイムダルのガンダム・フレーム五機は、遠方のモビルアーマー群を有視界距離に捉えた。
そんな五機に続き、サハラ連邦共和国軍のモビルスーツ部隊が、ダカール基地から出撃を開始した。
「ほう、ヘイムダルは既に出撃した後か。この俺様が後塵を拝するとは、やはり随分と手慣れているようだ」
サハラ連邦共和国軍MS部隊の先陣を切るのは、その指揮官たるラッセル・クリーズ大佐自らが駆る豹柄の機体――「ガンダム・シトリー」である。
「面倒臭いんでそういうのいいです。さっさと仕事して下さい、大佐」
「そうか。では、給料分程度は働かねばなるまい。適当に付いて来い、少佐」
シトリーに続くのは、ヘヴォネン・ヴァルコイネン少佐が操るヴァルキュリア・フレームの九番機、「ロスヴァイセ」。
加速したシトリーに合わせ、ロスヴァイセも特徴的な四脚を展開し、華麗に海面を滑って行く。
「サハラの軍は、ほぼ全てロディ・フレームか」
「何の変哲も無いスピナ・ロディばかりね」
現在、サハラに最も足りないのは「人材」だ。
優秀な兵士にはガンダム・フレームやヴァルキュリア・フレームを回し、残りは阿頼耶識で間に合わせつつ、装甲の厚いロディ・フレームを使わせて体裁を整えているのが実情である。
『ダインスレイヴ隊、全機照準! 目標、MA群! 牽制程度で構わん――第一射、放て!』
基地にはダインスレイヴを搭載したヘキサ・フレームのMS「クォレル」が並び、一斉に砲撃を開始した。
クォレルは脚部のワイヤーアンカーにより機体を固定出来る為、地上でダインスレイヴを運用する際には用いられるコトが多い。無論、宇宙でも運用は可能だが、そちらではより安価のロディ・フレームのダインスレイヴ搭載型MS「ボルト・ロディ」が使われるコトがほとんどと言えよう。
「全員、当たるなよ」
「言われなくても…!」
「心配すんなミズガルズ。味方の攻撃で死ぬような アホは、ガンダム乗りにはいねぇからな」
射出された弾頭は、地上特有の風等の影響を多少なり受けつつも、音速越えの速度で飛ぶ。やがてMA群周辺の海に着弾し、白い潮が水柱が如く次々と吹き上がる。
「全機、突撃態勢! 水でビームが拡散する間に、敵群を全滅させるぞ! 俺様に続け!」
『ダインスレイヴ隊は装填の後、待機! 上空、隠密型への警戒を怠るなよ!』
海水が霧のように舞い上がっているエリアへ、ヘイムダルを含めたサハラのMS部隊が、勢い良く突っ込んで行く。キッチリ隊列を組み、近接武装を突き出しての突撃で、プルーマ諸共にMA群が吹き飛ばされる。
正面から突破する「剛」を体現したサハラのMS部隊の一方、ヘイムダルのガンダム・フレーム部隊は「柔」を体現するかのように、それぞれが自由に展開してMA群へ侵入し、かき乱す。
その戦いを、後方から俯瞰する者がいる。
「――人材不足と言う割には、なかなかどうして訓練された動きね?」
『まあ、いくら人材不足つっても、使ってンのは脳みその引っ付いた人間だからな。あれくれェの単純な戦術を仕込むくらい、ワケねェだろうよ』
「でもロブ、どうするの? このままじゃ、
『バカ言ってンじゃねェよクソガキ。そうさせねェのが俺達の仕事だろォがよ。つーワケで、ちっとばかし働いて来い。何の為に俺達がこンな所にまで出張って来たと思ってンだァ?』
そして、彼ら――「ディアス・バクラザンがダブリン沖で視認した影」を見逃さない為に、遥か衛星軌道上から目を光らせている者達がいる。
「艦長、どうですか?」
『今の所、不審なモノは何も見当たらないよ』
「分かりました。引き続き、監視を頼みます。レーダー、エイハブ・ウェーブ、肉眼も全てで。範囲も出来るだけ広く、アリアドネからの観測結果もリアルタイムで拾って下さい」
『ああ、今やっているとも』
『…僕達は、本当に出なくて良いの? 仲間が戦ってるんでしょ?』
「――気持ちは分かるが、今回のクソ親父の命令内容はディアス達の手助けじゃない。それに、戦力的にはディアス達だけで問題無いしな。ここはアイツらを信じて、俺達は俺達の成すべきコトを成そう」
ダカール沖で行われる、ヘイムダル&サハラ連邦共和国軍とMA群の戦い。これに対し、何らかのアクションを加えんとする者と、それを見張る者。
役者は整い、既に幕は開かれている。
その線が交わる瞬間は、遠くない内に訪れた。
「全軍、フォーメーションを崩すな! このまま全機殲滅を――」
「大佐、新たなエイハブ・ウェーブの反応が…!」
「――何!?」
四十機からなるサハラ連邦共和国軍のMS部隊が敷いていた突撃陣形「蜂矢の陣」――その片隅を構成していた二機が、どこからか砲撃を受けた。
『うわああああ!!』
今まで蹴散らしていたMA群、プルーマの砲撃とは全く訳が違う砲撃は、直撃を受けた機体の上半身を吹き飛ばしてしまった。
しかも、その砲撃には異様な点が有る。
「何だ、アレは…!?」
「機体が、
砲撃を受けた機体の装甲が、ドロドロと溶解しているのである。フレームにまでは影響していないようだが、砲撃の純粋な威力だけでなく、その効果は間違い無く未確認。
新型のMAによる砲撃だと言うコトは、確定的に明らかだった。
「全機、散開せよ! 砲撃を纏めて受ければ、目も当てられんぞ!」
「大佐、これは…!」
「新型だな――付いて来い、中佐!」
部隊を率いていたラッセル・クリーズ大佐の「ガンダム・シトリー」が、砲撃の射点に向けて突撃を開始した。
ガンダム・シトリーは、十二番目の悪魔だ。
背部に巨大な翼のようなスラスターユニットを持ち、機動性と汎用性に優れた機体である。主武装となる大型の鉈たる「ビトル・チョッパー」に加え、大弓のような形を取り、弦に弾頭をつがえて発射するタイプの「試作型ダインスレイヴ」を装備し、遠近を問わぬ活躍が期待出来る。また、防御面に於いては「ガントレット」なる手甲を両腕に配し、接近戦に於いても大鉈を阻害するコト無く、確かな効果を発揮可能となっている。
「大佐、単独では――ああもう、何で私が露払いしなきゃならないんだ面倒臭いな全く!」
それに追随するは、ヘヴォネン・ヴァルコイネン中佐の「ロスヴァイセ」である。
前述通り、腰部後方のバックパックから二本の足を展開出来る他、ヴァルキュリア・ランスによる打突攻撃に加え、ランスに内蔵されているヴァルキュリア・インターソードによる攻撃も可能な万能近接機となっている。
「どんな奴だか知らないが、俺様の部隊にけしかけるとは良い度胸だな!」
相対するは、新型MA「バタルヤル」。
巨大な二枚の翼に火器を集約させた機体で、ビーム砲は持たぬものの、ナノラミネート装甲に対抗すべく強力な武装を多数備えている。中でも「特殊バズーカ」により放たれるは腐蝕剤などが含まれた特殊弾頭であり、対人は勿論、MS戦に於いても凶悪な効果を発揮する特別製だ。
「ディアス。サハラのガンダムが、新型と交戦中らしい」
「また新型か――ッ、こっちもか!」
ディアス・バクラザンの「ガンダム・ヴィネ」も応援に行こうとしたが、機体が新たなエイハブ・ウェーブを捉えた。同時にマシンガンの弾とミサイルが飛来し、ヴィネはバックパックの電磁砲とビームバルカンでそれを捌きつつ、僅かに後退する。
確かに遠方では、翼を広げた新型と思しきMAが複数展開しているようだ。
(二段攻撃――「天使長」も無しによくやる…!)
「ディアス…どうする?」
「どうするも何も無い。――ブッた斬るぞ!」
ヴィネが新型の群に向けて突撃をかけた時、戦場の直上の宇宙で監視の目を光らせていたヘイムダルの部隊は、とある決定的瞬間を観測していた。
『戦場の十キロ後方で、不審な波が立っている。恐らく――
「それだ! 全員、そこに降下するぞ! ゲーティアも俺たちに続いて降下だ!」
一方、宇宙から見張られているコトを知らない、暗躍する「影」達は、仕事を終えた後に合流を図っていた。
しかし、端から見ればそこには何も無い。
エイハブ・ウェーブの隠匿と光学迷彩により、レーダーからも視界からも姿を消しているのだ。
「キッチリ果たして来たわよ」
「ええ! 我ながら
『バカ言ってねェでさっさと戻って来やがれ。幾ら光学迷彩を張ってるっつっても、波まではごまかしきれねェンだからな』
浮上しているのは、エイハブ・ウェーブの遮断機能と光学迷彩機能を併せ持ち、隠密性に極めて優れたグレイバック級ステルス潜水艦――艦名「パルミュラ」。
今まさに帰還しようとしているのは、エイハブ・ウェーブすら遮断出来る二機の隠密型MSだ。
「『ヨッド・ハーミット』と『ダアト』の到着まで一分、帰還作業の終了まで五分弱です」
「急げよ。俺達『フヴェズルング』はコソコソしてナンボだからな。ヘイムダルにでもバレようモンなら、ボスに何言われっか分かンねェぞ」
とは言え、光学迷彩で視認するコトは愚か、エイハブ・ウェーブも出ていないので観測は不可能だ。戦場では
(いや――ヘイムダルは侮れねェか。良い勘をしやがってる野郎もいるようだしなァ)
何にせよ、彼らは「
しかし――彼らが最も恐れる事態は、この後すぐに現実となるのだった。
「…エ、エイハブ・ウェーブの反応です! 本艦の真上に、複数のエイハブ・ウェーブが感知されました!」
「――何? 真上に、だァ?」
「ま、真っ直ぐに本艦へ向かって降下して来ています! このままでは、本艦と衝突しかねません!」
ブリッジクルーは信じられない、と言いたげに、艦長でもある「フヴェズルング」のリーダーに報告する。当の本人も、怪訝な表情を浮かべている。
そして、クルーにこう命令した。
「その降りて来やがる奴らを撮れるか?」
「は、はい――まだ遠距離なので、CGで合成したモノになりますが」
「構わねェ。さっさと映しやがれ」
リーダーの男の命令で、ブリッジのモニターに降下して来るモノの画像が映し出されたが――それを見て、男もクルーも目を剥いた。
大気圏突入用のボードに乗った、MSが六機。
その全てが、角と双眼を持つ機体――ヘイムダルが開発した、「ガンダム・フレーム」だった。
「―――ッ!!?」
六機ものガンダム・フレームが、降下して来ている――それほどの数の
その目的地が艦の直上となれば、奴らが何を目指しているかなど、言うまでもないだろう。
(まさか――見つかった、ってのか…! 奴ら、俺達を見つける為だけに、二つものチームを動かし…宇宙から、大西洋を見張らせてやがった!?)
「リーダー、指示を!」
「チッ…クソッタレどもがァ! 帰還中のアマーリアとピラールに状況を伝えろ! 俺の機体もリアクターを起動させとけ! 艦は即出航、この海域から離脱するぞ!」
そして、絶賛降下中のヘイムダルの部隊――アグニカ・カイエルが率いるチームは、大気圏突入用のボードを放棄し、自由落下に移行した。
「ソロモン、目標は捉えているな!?」
「当然だ!」
「良し――このまま降下するぞ! せっかく掴んだ手掛かりだ、見失うなよ!」
雲海を突き破り、眼下には大海原が広がる。
六機のガンダム・フレームは、落下しつつもその瞳を輝かせ、微かな異変をも捉えんとしている。
「目標の視認は難しそうだな…どうするアグニカ」
「――スヴァハ、トビー。何発か撃ち込んでくれ。敵の光学迷彩を見破る」
「良いけど――姿が見えなくてエイハブ・ウェーブも捉えられないとなると、マトモに当てるのは難しいよ?」
「…何とか当ててくれ」
無茶言うなぁ、と苦笑しつつも、スヴァハ・リンレスは乗機たる「ガンダム・アガレス」にライフルを構えさせる。その傍らでは、同じようにトビー・メイの「ガンダム・アンドラス」がライフルを構えた。
「スヴァハ、どうするの?」
トビーがスヴァハに問う。
ただでさえ大気圏を突破した直後で自由落下中、敵の姿もハッキリとは見えず、エイハブ・ウェーブも観測されていないので、レーダーにも頼れない。目標が有るのは広大な海原の上で、真下辺りにいると思われるが、移動している可能性も有る。
普通に考えて、当てるのは不可能に近いが――
「トビーは私の狙った所の周りを広く撃って。
―――そこ!」
照準用スコープを覗き込んでいたスヴァハは、確信と共にアガレスに引き金を引かせた。
両腕で構えられたライフルから放たれた百三十ミリ弾は、真下からは少しズレた場所へと向かい――
「ナイスだスヴァハ!」
「あそこか…!」
トビーのアンドラスもライフルを連射。放たれた弾はスヴァハが放った弾と同様に、海にいる何かに当たっている。
狙われているグレイバック級ステルス潜水艦「パルミュラ」では、オペレーターが驚愕と共にリーダーたる男へと報告を上げた。
『甲板に被弾!』
「奴ら、当てて来やがってンのか…! 姿は見えてねェハズだぞ、イカレてやがンのかクソが!」
艦のブリッジから愛機のコクピットに移動したリーダーの男は、毒づきつつも報告を続けさせる。
「アマーリアとピラールはどうしたァ!?」
『間もなく合流します! ですが、この状況では収容は難しいかと…!』
「そンな当たり前のコト、いちいち言われなくても分かってンだよ! 艦を出せ、ダカール方面だ!」
『は…!? しかし、それではサハラの軍とMAに鉢合わせるコトになりますが…!』
「奴らがMAに気を取られてる隙にズラかろうってンのが分かンねェのかアホが! 良いからさっさと艦を出せ! 俺の機体も出すンだよ早くしろ!」
苛立ちのままに男が通信を切ると、艦はその通りに動き出し、MSデッキへの進水と共に、艦底部のハッチが開かれた。
「アグニカ、海面が動いたぞ!」
「潜行して逃げるつもりか――させるか!」
アグニカは「ガンダム・バエル」のスラスターウィングを吹かせ、急降下を開始する。せっかく掴んだ尻尾を、みすみす切らせる訳には行かない。
「アグニカ!?」
「オレ達も行くしかないよ」
「ったく、しょうがねぇな…!」
バエルに続いて、アマディス・クアークの「ガンダム・フォカロル」と大駕・コリンズの「ガンダム・グラシャラボラス」、ソロモン・カルネシエルの「ガンダム・オセ」が急降下を始めた。近接攻撃型ではないアガレスとアンドラスは、後方で母艦たるラファイエット級汎用戦艦「ゲーティア」が大気圏突入を開始した様子を見つつ、自由落下を継続している。
「逃がすか…!」
真っ先に降下するバエルは、腰から二振りの黄金の剣――「バエル・ソード」を抜き、目標がいると思しき場所へ向かって、右の剣を突き出した。
高速で突き進むバエルの突撃を受ければ、如何にナノラミネートアーマーに守られた艦と言えど、ただでは済まない。重力の分も加速したバエルが突き出す剣が、潜水艦の甲板を貫かんとした――直前。
「させねェよ」
潜水艦の右舷の海から浮上した謎の機体が、バエルの剣の側面に己が剣を叩き込み、弾き逸らした。
「何だと…!?」
「オラァッ!」
突如として現れた機体は、間髪入れずにメイスを振り上げ、バエルを打たんとする。バエルは態勢を瞬時に立て直して後退しつつ、背部のスラスターウィングに内蔵された電磁砲を斉射するが、放たれた弾の全ては、敵がサブアームで操るビーム・サーベルに弾かれてしまった。
アグニカは一旦距離を取りつつ、現れた機体を観察し、エイハブ・ウェーブなどを観測する。
(コイツは、エイハブ・ウェーブを隠していない…いや、そもそもステルス機ではない――?)
バエルの前に現れた機体は、アグニカが見たコトの無いインナー・フレームを採用したMSらしかった。
――いや、見たコトが無いというのは、適切ではないかもしれない。正確に述べるならば、
(――ガンダム・フレーム…では、ないのか?)
その機体は、ガンダム・フレームのようであり、ガンダム・フレームではなかった。
構造からして、エイハブ・リアクターを二機搭載しているようだが、バエルのデータベースに登録された七十二機のガンダム・フレームのエイハブ・ウェーブとは当てはまらない――同調されていないリアクターを二機搭載したそれは、「ツイン・リアクターシステム」ならぬ「ダブル・リアクターシステム」と呼ぶべきか。
「全く、面倒くせェ真似しやがって。おかげで俺達の涙ぐましい努力が全部パーだ。どうしてくれるってンだよ、あァ?」
その機体は、左手に剣、右手にメイスを持ち、右のサブアームにビーム・サーベル、左のサブアームに円形のシールドを保持している。
この四つの武器はそれぞれが「四大天使」に対応するようになっており、剣は「ホド・ソード」と名付けられ、左のラファエルに。「ティファレト・メイス」は右のミカエル、「イェソド・サーベル」は後のガブリエル、「ゲブラー・シールド」は前のウリエル――と言った具合である。
其は、
「ガンダム・フレーム」に生の希望を見出した人類が生み出した、悪魔ならざる紛い物。
――その名は、「マドナッグ・フレーム」。
そして、悪魔の一番機たる「ガンダム・バエル」の前に今立つは、贋作の一番機たる存在。
カナンの最高神バアルと同一視されながらも、地獄を統べる魔王の一柱として君臨する「蠅の王」。
即ち――「ベルゼビュート」に他ならない。
「…努力、だと? 貴様達、一体何者だ?」
「さァて、一体何者なンでしょォかねェ? 素直に答える気なンて無ェし、そもそも答える義理なんざ無ェなァ」
「――だったら、腕ずくでも吐いてもらう!」
ベルゼビュートに向け、再び斬りかからんとするバエルだったが――突如として、周囲は桃色の煙幕に包まれた。
その煙幕を撒き散らした犯人は、任務を終えて母艦へ帰還して来たアルカナ・フレーム九番機の改造機――「ヨッド・ハーミット」だ。
「ロブ! ピラールがMAを煽動して来るわ、さっさと離脱するわよ!」
「ああ、そうするとすっかァ。既に『パルミュラ』は潜行させて離脱させた、後はMAをコイツらに押し付けて離脱って
広域に舞い上がった煙幕の中、ベルゼビュートとヨッド・ハーミットは後退する。だが――ヘイムダルも、ただ黙って逃亡を許すほど甘くはない。
「行くぞアマディス、大駕、ソロモン!」
「おうよ!」
「逃がさない…!」
「この程度の目くらましで!」
バエルに続き、フォカロル、グラシャラボラス、オセの三機が煙幕を突破し、ベルゼビュートとヨッド・ハーミットに肉薄する。
しかし、迫り来るMAの放ったビームが四機の眼前の海面を炙り、舞い上がった海水が再び視界を塞ぐ。
「我ながら、
「ズラかるぞォ」
ベルゼビュートとヨッド・ハーミットの二機の下に、ヘキサ・フレームに特殊装備をさせたステルス機「ダアト」が合流した。
MAを誘導し、ヘイムダルにぶつけたのである。
「悪いが、MAは任せるぞ! ――スヴァハ!」
「了解、っと!」
フォカロル、グラシャラボラス、オセの三機は、接近して来るMA群への迎撃を開始。唯一バエルだけは逃亡する三機の追撃を続け、空中のアガレスが三機の速度を落とさせるべく、正確な射撃で三機に直撃を浴びせる。
MSがナノラミネートアーマーを持つ以上、遠距離からの攻撃では致命傷を望めないが、アガレスの射撃は関節部を間違い無く捉え続けている。
「
「上ね…くッ!」
「クソが、何キロ離れてやがると思ってンだ…!」
そして、アガレスの役目は僅かでも気を引き付けるコトだった。逃亡する三機を、バエルは既に攻撃範囲内に捉えている。
「良いぞスヴァハ! この後は、トビーと一緒にアマディス達の援護を頼む!」
「って、
バエルの左の剣による斬撃が、ダアトの左腕部を肘から斬り落とした。
「コイツ…!」
ヨッド・ハーミットによる攻撃を避けるべく飛び上がりつつも回転するバエルの剣が、ヨッド・ハーミットの頭部と背部バックパックを切断する。
その背中を右足で蹴飛ばしたバエルは、ダアトが繰り出した攻撃を、空中で重力を感じさせない回転を披露して回避した。バエルは頭が海面、足が空に向いた状態で全身を回転させながら剣を振って、一撃の下にダアトの片足を奪った。
「キャアアアアア!」
「何て、奴…!」
全身のバーニアで姿勢制御しながら、逆立ち状態から復帰したバエルに、ベルゼビュートが左手に握った剣を振り下ろした。バエルはこれを、二本の剣を交差させて受け止める。
「テメェ、仕事を増やしやがって…!」
「貴様らこそ、よくも俺らの仕事を増やしてくれたな――何が目的で、何の為にMAを誘導する!?」
「ほォ…俺達のやってるコトが何なのか、もう気付きやがったのか。気持ち悪ィ野郎だな」
バエルは交差させた剣を外側に向けて振りきり、ベルゼビュートの剣を弾き飛ばす。即座に電磁砲を放つバエルだったが、ベルゼビュートは右腕で振り上げたメイスで、放たれた弾を打ち上げた。続けてバエルはベルゼビュートの右側に移動しつつ、右の剣を突き出すが、ベルゼビュートの右のサブアームが操るビーム・サーベルと接触し、火花を散らす。剣はやがてビームの刀身を貫通するも、ベルゼビュートは身体をひねりつつ後退し、突き出された剣を回避せしめた。
こうしてバエルの攻撃を凌ぎつつも、ベルゼビュートのパイロットは部下に通信する。
「チッ――分かってンだろうなテメェら、さっさと海中から離脱しとけ! …アマーリア、テメェは何もたついてやがンだァ!?」
「分かってるわよロブ! ただ、さっきの攻撃でステルス機能がやられて…!」
「しくってンじゃねェぞザコが! 分かった、テメェはさっさと俺と合流しろ!」
アマーリアと呼ばれたパイロットが操るヨッド・ハーミットが、ベルゼビュートの下に向かう。ベルゼビュートのパイロットは傍目にその機影を捉え、機体を移動させて合流の為に動くが――それを、アグニカが黙って見ている訳は無い。
「行かせるか!」
「チッ――しつけェ、なァ!」
バエルが右の剣で斬りかかり、対するベルゼビュートは左のサブアームに持つ盾で防ぐ。続いて左に構える剣を振ったベルゼビュートの一撃に、バエルは左の剣で応じる。
一方、ヨッド・ハーミットは先ほどバックパックをバエルに斬られたコトで移動力が落ちている為、ベルゼビュートとの合流が遅れている。
「よし、捉えたぞ…!」
その間に、MAの攻撃をかいくぐって来たフォカロルが、ヨッド・ハーミットに向けてティザーアンカーを撃ち放った。放たれたアンカーがヨッド・ハーミットを捉え、ワイヤーがその全身に巻き付く。
「――しまった!? がッ、ああああ!」
巻き付いたワイヤーから電流を流し込まれた機体は、強制的にシステムダウンさせられ、パイロットは気絶した。
「よくやった、アマディス!」
「チッ、ヘタこきやがって! …仕方ねェ」
ベルゼビュートがバエルの剣を押し出すように弾き返したコトで、バエルは僅かに後退させられる。その隙を突いて、ベルゼビュートはバエルから離れ、戦闘海域を速やかに離脱して行った。
「待て!!! ――ッ!」
追撃をかけようとしたバエルだったが、そこにMAのミサイルが降り注いだ。続いて特殊弾頭が飛来したので、バエルは左手の剣で腐蝕剤の詰まった弾を弾き飛ばし、海面を滑ってひとまず後退する。
アグニカは舌打ちしつつも、ベルゼビュートのエイハブ・ウェーブを追おうとするが、既にその反応は消失している。もう一機のステルス機――ダアトも同様に、レーダー上から姿を消していた。
「クソ、逃がしたか…!」
恐らく、奴らは母艦であるグレイバック級ステルス潜水艦に戻り、逃げ去ったのだろう。今すぐ追撃したい所だが、こうも近くにMAがいてはそうも行かない。…上手くMAを利用された形だ。
「追撃は不可能――じゃあ、後はコイツらか」
あのガンダム・フレームに似た機体と、その目的についてはひとまず頭の片隅に追いやり、アグニカは眼前の二機のMA――「バタルヤル」に意識を向けた。
敵は二機とも新型であり、その攻撃はどうやらナノラミネートアーマーすら溶かすらしい。MSを捕獲したフォカロルを捕捉させないようにしつつも、腐蝕剤による攻撃をかいくぐりながら速やかに処理せしめなければならない。
突撃を始めるべく、アグニカがペダルを踏み込もうとした、その時――
「飛べ、アグニカ!」
――という通信が入った。誰だ、と思うより先にアグニカは操縦桿を引き、バエルを高く飛び上がらせる。
すると、バエルの足下を、鉄球を先端に付けた鎖が通過し、二機いるバタルヤルの内の一機に直撃した。鉄球の直撃を受けたバタルヤルは、横へと吹き飛ばされる。
「これは…!」
鎖が引き戻され、代わりに一機のMS――ディアス・バクラザンの「ガンダム・ヴィネ」がバタルヤルに突撃をかけ、大鎌を振りかぶる。対するバタルヤルも特殊バズーカを放とうとするが、次の瞬間。
「させる訳にはいかんな」
バズーカの発射口はミズガルズ・ファルクの「ガンダム・アモン」に撃ち抜かれ、暴発した。
その隙に懐に飛び込んだヴィネは、大鎌の刃をバタルヤルの中枢コンピューター部にブチ込み、その機能を完全に停止させた。
「後、一機!」
残りの一機に意識を向けるディアスだったが、そちらのバタルヤルには、既にサハラ連邦共和国軍のラッセル・クリーズ大佐が駆る「ガンダム・シトリー」が肉迫していた。
シトリーは二本の大鉈を振り下ろし、バタルヤルの二枚の翼を根元から斬り落とした。シトリーの反対側にはヘヴォネン・ヴァルコイネン中佐の「ロスヴァイセ」が回り込んでおり、十五メートルものランスを突き出し、コンピューター部を貫いた。
「久し振りだなディアス、ミズガルズ。――リーダー格の男は取り逃がした、すまん」
「構わねぇよ。充分に観測は出来たし、アマディスが鹵獲した機体とパイロットから、情報を得られるだろうからな」
「だが――奴らは一体、何を狙っているんだ…?」
「…話はそこまでにしてくれ、ヘイムダル。後の処理を手伝え」
それから残敵が残らず掃討されたコトで、ダカール防衛戦は終息を見た。
第三十九話「謎の正体」をご覧頂き、ありがとうございました。
情報量が多かったですね…。
ひとまずは「謎の影=MAの誘導を行う者達(組織名はフヴェズルング)」と判明した訳ですが、何故彼らがそれをやるのかなど、まだまだ謎は色々残っております。
ただ、これ以上新事実乗せると(主に作者の)混乱を招くので、戦後処理はまた次回にというコトで。
新規設定も今回は多いです。
ただ「フヴェズルング」の方々につきましては、MSと戦艦のみの紹介とさせて頂きます。キャラクターはまた次回以降、というコトで。
《新規設定》
マドナッグ・フレーム
・「ガンダム・フレーム」を真似て造られた、MS用インナー・フレーム。
・同調こそしていないものの、二基のエイハブ・リアクターを搭載しており、出力と性能は高い。
《新規機体》
ASW-G-12 ガンダム・シトリー
・サハラ、ラッセル・クリーズ大佐の機体。
・二本の大鉈と試作型ダインスレイヴが主武装の、割と平均的に纏められたMS。ガントレットはバルバトス第一形態の奴と同じです。
V09-0330 ロスヴァイセ
・サハラ、ヘヴォネン・ヴァルコイネン中佐の機体。
・バックパックから二本の脚を展開して、四脚になるのが特徴。戦闘スタイルはキマリストルーパーに近いものの、ランスだけは中に
バタルヤル
・新型MA。
・溶解液とか腐蝕剤がたっぷり詰まった弾を撃って来る、えげつない行為をいとも容易く行うタイプの機体。タチが悪い。
GWS-A-01 ベルゼビュート
・「マドナッグ・フレーム」の機体。
・四つの武器を四本の腕で同時かつ巧みに操れる者だけが乗るコトを許される、玄人向けMS。武器名は名付けるのに数時間を費やした、無駄に気合いの入った代物である。
PNJ-229 ヨッド・ハーミット
・「アルカナ・フレーム」の九番機「ハーミット」を改造した機体。
・基礎フレームからの性能向上と偵察用ドローン、ステルス機能の追加装備が行われている。名前は割と凝った方だと思っている。
IPP-00010 ダアト
・「ヘキサ・フレーム」の機体。
・ステルス機能を備える他、武装は近接武器主体となっている。こっちも名前は凝った方だと思う。
《新規キャラクター》
ラッセル・クリーズ
・サハラ連邦共和国軍MS部隊の指揮官にして、「ガンダム・シトリー」のパイロット。階級は大佐。
・一人称が「俺様」な以外は、至って普通でマトモな職業軍人。普通に強くて普通に有能(雑)
ヘヴォネン・ヴァルコイネン
・サハラ連邦共和国軍MS部隊の副官にして、「ロスヴァイセ」のパイロット。階級は中佐。
・こちらも真っ当な軍人。ラッセルの忠実な部下であり、仕事はそつなくきっかりこなす。有能(雑)
《新規戦艦》
グレイバック級ステルス潜水艦
・百メートル級の潜水艦。
・光学迷彩とエイハブ・ウェーブの遮断機能など、ありとあらゆるステルス機能を備え付けている。その分だけ建造コストがかかる上に、MSを三機しか乗せられない為、建造数は少ない。
《今回のまとめ》
・サハラの軍は阿頼耶識でごまかしながら状態
・親方! 空からアグニカチームが!
・「マドナッグ・フレーム」登場
・口が悪い上に仲間を切り捨てる判断が出来るリーダー(ロブさん)怖い
・謎の組織「フヴェズルング」とは?
次回「フヴェズルング」