厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
我らアグニ会は、ガンダム・バエルとアグニカ・カイエルを愛する方を、六十秒六十分二十四時間三百六十五日歓迎致しております。
入会された方には、その場で三百アグニカポイントを進呈させて頂きます。
気高い理想を抱く同志達よ、バエルの下へ集え!
とか言いながら、今回はアグニカ出ないんですがね!
↑オルガ「アンタ正気か?」
それぞれ母艦から出撃した、ヘイムダルはフェンリス・ファリドのチームに属するガンダム・フレームのパイロット達は、暗礁宙域の中をセンサー頼りに進んでいた。
そして、それに追随する形で、サンスクリット連邦共和国軍のモビルスーツ部隊が随時、母艦から出撃している。
「――今更だが、ダインスレイヴ隊は? アレで一掃ってのは出来ないのか?」
「敵が来た方角、その先には地球が有る。外れた弾頭が地上に激突でもすれば、自滅になりかねんよ」
ダインスレイヴは強力無比な兵器だが、目標となるモビルアーマーに直撃しなかった弾頭は、小惑星や他のスペースデブリと接触しない限り、高速で宇宙を進み続ける。地球や火星など、惑星の重力に引かれ落下軌道に乗った場合、地上に甚大な被害を及ぼす恐れが有る為、敵がいる方向によっては使用出来なくなってしまう。
そして今回はまさにその典型例――MAが襲来して来た方角には、地球が有る。
「つまり、MSによる白兵戦で仕留めるしかないってコトですね」
「そうだ。――クリウス、分かっていると思うが、この暗礁宙域内でキマリスの特性は生かし辛い。デブリとぶつかって爆散などするなよ」
「ああ。間違ってお前にぶつかっても文句は言うなよ、フェンリス」
「…ハハハハ、お前にしては笑える冗談だな」
「言っておくが、俺は本気だぞ?」
「これまた酷いなクリウス、せっかく心配して忠告してやったと言うのに」
「――まあ、忠告は受け取っておくよ!」
敵群の一機がビームを放った瞬間、ヘイムダルの五機のガンダム・フレームは四方八方へと散開。それぞれコロニーの残骸に身を隠しつつ、しかして迅速に敵機への距離を詰めて行く。
それは、後に続くサンスクリット軍のMS隊も同様だ。母艦の直衛として何割かは艦隊の下に残っているが、残りは隊長イシュメル・ナディラ中将が駆る「ガンダム・グレモリー」を先頭に、敵群へ接近をかけている。
「…見慣れない機体ですね」
「アレは、宇宙用の『グレイブ・ロディ』か。圏外圏で運用されていると聞いていたが――サンスクリット軍でも使われていたとはな」
「ガンダム・ベレト」に乗るレタ・クィルターの言葉に、「ガンダム・アスモデウス」を操るフェンリス・ファリドがそう返した。
ロディ・フレームを用いた宇宙戦用の量産型MS、「グレイブ・ロディ」――薙刀やマシンガンなどの多彩な武装を内部に収納出来る「コフィン・シールド」の他、本体も重装甲化されているが、その分だけ重量が増した為、地上では運用に難が有るとされている。重装甲によるパイロットの生存性が高く、圏外圏を中心として、宇宙で多数が運用される。
「しかし、デブリが本当に多いですね…細かいモノまで有ると、ベレト様のブレード・フィンガーも迂闊に使えません」
レタがそう言って嘆く。ベレトの強みの一つは、背部の複合武装「ビッグアーム・ユニット」に装備される六本ものワイヤーブレードだ。ワイヤーには特殊超硬合金が用いられているので断線は有り得ないが、デブリが引っかかったり、絡まったりする可能性は大いに有る。
それを聞いたフェンリスも、怪訝な表情で返す。
「クジナも射線を通しにくいだろうし、キマリスの機動性も生かしにくい。――こちらのガンダム・フレームの特性を殺す戦場だ。意図的に誘い込まれた可能性も有る、か…?」
クジナ・ウーリーの「ガンダム・デカラビア」が持つスナイパーライフルはほぼ役立たずと言って差し支えなく、馬上槍を構えての高速突撃を戦闘スタイルとするクリウス・ボードウィンの「ガンダム・キマリス」も、その特性を発揮し辛い。
長槍とカギ爪など近接戦闘を主体とするフェンリスのアスモデウス、盾を多数持つグラツィア・アンヴィルの「ガンダム・ボルフリ」は問題無いが。
「こちらクリウス、敵機を視認した。――円盤型の敵と、翼が六枚の機体。どっちも、既存のデータに該当してない。数は十機ずつ」
「両方とも新型か…念入りなコトだ」
「どうするの、フェンリス?」
「どうするも何も無いだろう。――撃破する」
フェンリスが断言した直後、六枚の翼を持つ機体――MA「サマエル」の全てが、一斉に六枚中二枚の翼を前方へ向け、ビーム砲を発射した。暗礁宙域を駆け抜け、射線上のデブリを粉砕しながら、ビームが悪魔達に迫る。
それを容易くかわした五機のガンダムは、一直線に敵機へと接近をかける。暗礁宙域の中で一部の武装の特性を殺されていようと、やりようなどいくらでもある。例え、相手が新型であろうとも。
「行けッ!」
クジナのデカラビアが散弾型ダインスレイヴこと「レーヴァテイン」を放ち、敵群から放出されたプルーマを吹き飛ばし、本体に迫った――が、サマエル自身はスラスターを吹かせて散開し、これをかわした。
「避けましたわよ!?」
「グラツィア、もう片方も来る!」
今度は円盤型の新型MA「オファニエル」が、周囲三百六十度に幾つものビームを放った。グラツィアのボルフリは回避運動をしつつ、避けきれない分は背部にアームを通じて連結した二枚の盾を前方に構え、このビームを防いだ。
「ビームの本数が多すぎますわね…!」
一方、サマエルは六枚中二枚の翼を前方へと展開し、今度はレールガンを放つ。弾丸をアスモデウスの長槍で打ち払いつつ、フェンリスは敵機を観察、分析する。
クリウスはキマリスに馬上槍「グングニール」を構えさせ、脚部スラスターを展開してオファニエルに突撃。サマエルほどの機動力を持っていないらしいオファニエルは、この攻撃を避けきれず、上部に直撃を食らった――のだが。
「ッ、何…!?」
巧みにオファニエルが体勢を変えたコトで、槍の穂先は装甲の曲面に沿って滑り、かすり傷を負わせるだけに終わった。立ちはだかるプルーマを肩部から放つスラッシュディスクで破壊しつつ、キマリスは旋回して距離を取る。
縦横無尽に駆け回り、六枚の翼を自在に駆動させて攻撃して来るサマエルと、陣取って殲滅攻撃を仕掛けて来るオファニエル。加えて、戦場はデブリだらけの暗礁宙域。なかなかに面倒な相手だ。
『何を手こずっている!』
「ッ、サンスクリット軍が来たか!」
戦場に、サンスクリット軍のMS部隊が乱入する。その軍を牽引するはイシュメル・ナディラ中将の「ガンダム・グレモリー」だ。
五十六番機たるガンダム・グレモリーは、錨型の刃を持つ長柄の近接格闘武装「バトルアンカー」を主武装とし、上半身が「ナノラミネートコート」に覆われた、防御に重点を置いた機体である。
ナノラミネートコートは、通常のナノラミネートアーマーの上位互換とも言える装備で、ナノラミネート反応を形成する特殊金属塗料の原料である特殊金属を、装甲の錬成時に装甲内部へ混ぜ込み、更にその上にナノラミネートアーマーと同じく特殊金属塗料を蒸着させている。重量が増して機動力が下がると同時に、製造コストも高くつくが、ナノラミネート装甲の弱点である物理格闘攻撃をすら容易く弾き返してしまう。
グレモリーの戦闘スタイルは、その高い防御力を生かして味方を庇いつつも、被弾を恐れず敵に接近し、近接戦を行うというモノだ。
『戦い方を教えてやる!』
『行くぞセグラ!』
MS隊副隊長セグラ・ジジン大佐の「オルトリンデ」は、左手に持つダインスレイヴ発射器に、左肩のバインダーの裏に装備された特殊KEP弾頭を装填し、軽量であるが故の高速機動でMAの群へと突撃をかけた。
オルトリンデ――ヴァルキュリア・フレーム三番機であり、優美な白緑の装甲と左右非対称のデザインが特徴である。ダインスレイヴを利用しての一撃離脱戦法を基本としつつも、発射器は近接武器「ヴァルキュリア・ダブルブレード」としても使用可能となっている。左右のバランスが悪く、玄人向けの機体と言えるが、セグラの優れた操縦技術は、その性能を遺憾なく発揮させる。
『外しはせぬよ…!』
オルトリンデが放ったダインスレイヴは、プルーマにぶつかって軌道を変えられつつも、見事オファニエルに直撃した。…セグラは初めからそれを想定し、計算づくで狙いを定めたのだ。
六枚中四枚の翼を前に向け、サマエルがビーム砲とレールガンを交互に放つ。グレモリーはそれを気に止めず突撃し、全てが直撃するが、ナノラミネートコートは揺るがない。自身の武装では破壊し得ないコトを悟ったのか、サマエルは残り二枚の翼に仕込まれたスラスターを吹かせて距離を取ろうとするも、既にグレモリーはその懐に入り込んでいる。
『こういう得物には慣れている!』
バトルアンカーが大振りに振るわれ、その質量に遠心力も加わり、サマエルの胴体に叩き込まれる。重厚な一撃に、ナノラミネートアーマーが砕け散り――サマエルの中枢コンピューター部が崩された。
「二枚ずつ区切って、効率的に運用しているな。二枚はビーム砲、もう二枚はレールガン、残りにはスラスターを配して機動力も確保したか。
――だが、MSへの対抗策が二丁のレールガンだけではな…!」
敵機を分析していたフェンリスが、アスモデウスを動かす。長槍「ヴァナルガンド」を両手で構え、手近なサマエルに向け接近をかける。オファニエルが放出するプルーマの群れが立ちはだかるも、アスモデウスはその間隙をかいくぐり、サマエルを間合いの内に捉える。
サマエルが放ったレールガンを機体を捻らせて避け、ヴァナルガンドを横薙ぎに振って、レールガンを持つ翼の片方を根元から引き裂く。後退しかけたサマエルに、尻尾の先にブレードが付いた接近武器「ドローミ」を刺して捕まえ、左手のカギ爪「アームスヴァルトニル」を展開し、一気にコンピューター部を破壊した。
「
それとほぼ同時に、キマリスの槍が今度こそオファニエルを貫き、ベレトのソードメイスがサマエルを粉砕した。MS隊やデカラビアがによる射撃でプルーマを排除し、敵が放つ拡散ビームが周辺のデブリを打ち砕いているコトで、戦場はかなり広々として来た。
――が、敵の攻勢は今迎撃している群だけではないようだ。
「遠方にエイハブ・ウェーブ…増援か!」
「第二波――持久戦に持ち込み、疲弊させようとしているのか…?」
『何を言う、戦力の分散投入など愚将の謀するコt――がっ!?』
グレモリーが、背中から突如攻撃を受けた。側に控えていたオルトリンデが、その背後の空間に向けてダインスレイヴを放つと、何かに激突したかのように火花と破片が散り――突如として、MA「レリエル」の姿が露わになる。
『これは、隠密型――!?』
『よりにもよって、新しい方だな!』
「新隠密型、ドワームが言っていたアレか!?」
「前を見て下さい、クリウス!」
「ッ、うおおっ!?」
無数のビームが、増援のMA群から放たれた。まだ距離が有るので、ビームを避けるコト自体は容易いものの、観測されたエイハブ・ウェーブの発振源の数は百を越えている。
「流石に多すぎねぇか!?」
「――これ以上、好きにはさせません!」
レタ・クィルターのガンダム・ベレトが、最大戦速で敵群に向けて突撃を開始した。流石に速い。
「レタ、何を…!?」
「敵は暗礁宙域の外にいます、突っ込んでベレト様の力で薙ぎ払います! …皆を、フェンリスをやらせはしない!」
『成る程――あの機体の装備なら可能か』
暗礁宙域の外でなら、六本のワイヤーブレードをデタラメに振り回して暴れても、デブリにぶつかったりするコトは無い。デブリ帯の中で乱戦になるよりは良いだろう。
「どうするんだ、フェンリス?」
「…レタは『覚醒』を使う気だ。一定の距離を置いて追随し、討ち漏らしをこちらで処理する」
流石に、数に差が有りすぎる。それを覆す為のガンダム・フレーム、その為の「覚醒」――リミッター解除だ。ベレトは特に強力な機体であり、近くで暴れられては味方も危険になる。
敵群の中心に突撃したベレトが暴虐の限りを尽くし、他機は援護と残党狩りに徹するのが無難だ。
「…それで良いのか、フェンリス。ベレトは強力だが、その分リスクも大きい。オデッサの時も――」
「良いも悪いも無い。私達はガンダム・フレームのパイロットで、ヘイムダルだ。私達がやるべきは、MAの殲滅。手段は選ぶべきじゃない」
フェンリスはクリウスの言葉を遮るように述べ、アスモデウスを前進させた。キマリスやボルフリ、デカラビアも続いて、サンスクリット軍も連動して動き出す。
そして、ビームの雨をかいくぐって、先行したベレトは機体に宿る悪魔を抑え込む為のリミッター装甲を全身からパージし、その眼を赤く滾らせる。
「ぐうッ…!! ――お好きに、お使い下さい!」
ベレトの全身から余剰エネルギーが蒼い炎として吹き出すと共に、六本のワイヤーブレードが解き放たれ、主武装のハルバード「ハル・シュトック」と「ジョワユーズ・メイス」を構え、MAの群れへとその身を投げ出した。
音よりも速く、光にも迫る速度で蹂躙を開始する
襲われる側のMAは、攻撃は愚か捉えるコトすら出来ていないようだ。この光景だけを見れば、MAが人類を脅かし続けているなどとは思えない。むしろ、その逆とすら取られるだろう。
『――これが、ヘイムダルのガンダム・フレーム』
『恐ろしいモノだな…いや、流石はソロモン七十二柱の頂点、と言うべきか』
ガンダム・ベレト。
この機体に宿る悪魔ベレトは、ベリアル、アスモデウス、ガープに並ぶ地獄の大王であり、ソロモン七十二柱の首領であるとすら言われる。他の機体と異なり、リミッター装甲を追加して二重のリミッターを掛けねば抑え込めぬほどの、圧倒的な存在。
憤怒の化身は、数多なりし天上の天使を、地獄の業火へと誘う―――
―interlude―
目標決定、捕捉――捕捉完了。
特殊KEP弾頭装填。行動予測、成功。照準固定。
――「花園」了解。
特殊機能、一撃限定発動許可。
了。「流水階段」構築。
破壊対象、第十三悪魔「ベレト」。
―interlude out―
次の瞬間――
「―――え?」
それは、誰の声だったのか。
その場に居合わせ、その光景を目撃した誰もが、その事実を認識するのには、時を要した。いや、認識してなお――受け入れられず、理解が出来ず、思考を止めてしまったのだ。
何が起きたかを述べれば、至極簡単なコトだ。
どこからか放たれたダインスレイヴの一射が、目にも止まらぬ速度で縦横無尽に機動していたガンダム・ベレトを直撃し、破壊した。
どれほどの威力が秘められた一撃だったのか。直撃を受けたベレトは一瞬で文字通り粉砕させられ、ミリ単位にまで細かくなった破片が、四方へと高速で撒き散らされた。
唯一原形を留めるのは、エイハブ・リアクターだが――ツイン・リアクターシステムとして直結されていた二基のリアクターは分断され、それぞれが他の破片と同様に、別々の方向へと吹き飛ばされた。一基は宇宙の彼方へと姿を消し、もう一基はラグランジュ1の暗礁宙域方面――フェンリスチーム、サンスクリット軍がいる方角へと飛来する。
そのリアクターがガンダム・アスモデウスの右肩にぶつかったコトで、そのパイロットであるフェンリス・ファリドは、ようやく状況を理解し――
「―――レタァァァァァッ!!!」
――ガンダム・ベレトのパイロットだった少女の名を、絶叫した。
◇
「こんな手じゃ気味悪がられます。お嫁に行けなくなってしまいました」
そう言って、彼女は視線を落としていた。
ガンダム・フレームに宿る悪魔の力を引き出した代償――贄として捧げられた彼女の右手は、真っ白に変色した。夕日を浴びても色は変わらず、影すら出来ない身体。不気味とも言える様相。
「――そんなコトは無い。綺麗な手だ」
彼はそれを、不気味とは感じなかった。
その手は彼女が勇気を振り絞って、全力で戦った証――勲章と言えるモノだと伝えた。本心だ。
それを聞いて、俯いていた少女は顔を上げ。
「この戦争が終わって、嫁の貰い手が見つからなかったら――嫁に貰ってくれませんか?」
などと、冗談でもなく言って、笑っていた。
その花が綻ぶような笑顔を前に、少年は呆れながらも、同じ笑みを返したのだった。
◇
戦いは終わった。
ガンダム・ベレトによって敵群は壊滅させられ、僅かに残った機体も他のガンダム・フレームや、サンスクリット軍のMS部隊の活躍で殲滅された。
――が、その代償は、あまりに大きかった。
「ウソ…こんなのウソ! 絶対どこかにいるわ! 探してあげないと、レタを!」
「――そうだ、そうだよ! きっと脱出して、アタシらの助けを待ってるんだ! 見つけなきゃな!」
「ああ、そうしよう…そうしよう!」
ガンダム・ベレトの撃墜。
そのパイロット、レタ・クィルターの死亡。
最強格のガンダム・フレームの力が失われた――だけではない。ヘイムダルは、フェンリスチームの面々は、大切な仲間を失ったのだ。
その生存を信じて、グラツィアとクジナ、クリウスがレタの捜索を開始した。脱出しているハズだ。まだ近くにいて、助けを待っているハズだと。
『―――イシュメル様』
『言うな! …何も言うな、セグラ』
サンスクリット軍のイシュメル・ナディラ中将やセグラ・ジジン大佐には、その行為が無駄で、無意味な行為と分かる。
頑強なナノラミネートアーマー、高硬度レアアロイ製のフレームが言葉通りの意味で粉砕されるほどの破壊。その中で、人間が生きていられるハズが無い。それどころか、原形を留めるコトすら出来ないだろう。奇跡的に破壊を逃れ、脱出していたとしても、此処は宇宙だ。ヘルメットのバイザーが割れただけでも、人間は呼吸が出来なくなり、死に至る。捜索活動など、全く無駄なコトだ。肉片の一つすら見つけられずに終わるのは、目に見えている。
だが、二人に彼らを制止するコトなど出来ない。彼らはたった今、仲間を失った。友を失った。その哀しみを、怒りを、絶望を二人は知っている。これまでも散々、その中に叩き落とされて来たから。
「クリウス。グラツィア。クジナ。
――『ヴォルフウールヴ』に帰投し、破壊されたコクーンを収容し、撤収するぞ。この宙域に、もう用は無い」
悲嘆の中、針の先ほどの可能性すら無い中で捜索する三人に、チームリーダーのフェンリス・ファリドはそう告げた。フェンリスの言葉に激昂したクリウス・ボードウィンが、機体越しにフェンリスに掴みかかる。
「フェンリス、お前! お前、何を言ってるのか分かってるのか!! レタを、レタを見捨てて帰るってのか!!!」
「――撤収する。今しか無い。またいつ敵が襲って来るか、攻撃して来るか分からない」
「ふざけるな!!! レタは、レタはお前を…お前のコトが――」
「撤収だ!!!」
悲鳴のようなフェンリスの絶叫を聞き、クリウスは押し黙った。アスモデウスの首を掴み上げていたキマリスの手が、ゆっくりと離れる。
クリウスには分かる。グラツィアとクジナにも。
一番辛いのはフェンリスだ。
自分の感情を押し殺し、リーダーとして、自分の任務を全うしようとしている。
レタ・クィルターは死んだ。死んだのだ。
仲間を想い、仲間の為に悪魔にその小さな身体を捧げた、恋に恋する少女は死んだ。勇敢に戦って、その果てに死んだ。
受け入れなければならない。仲間の死を。嘆き哀しむ時間も、彼らには満足に与えられない。
乗り越えて、ただ前へ進むしか無い。
これを最後にする為に。
大切な人が唐突に、意味も分からぬまま、ただ理不尽に殺される――このクソったれな戦いを終わらせる為に、彼らは戦い続けなければならない。
『――全軍、母艦に帰投するぞ。敵がまだ潜んでいる可能性も有る、事後処理は無しだ』
イシュメルの命令で、サンスクリット軍が動き出す。フェンリスチームの四機もまた、MAの残骸が漂う戦闘宙域に背を向け、母艦が隠れる暗礁宙域へと戻って行った。
第四十六話「激戦の果てに」をご覧頂き、ありがとうございました。
遂に? ようやく? ガンダム・フレームにも犠牲が出てしまいました。
命を懸けて戦っていて、敵は強大な力を持つ化け物なので、これから先も犠牲無しとは行きませんが――彼らには、その亡骸を踏み越えながら、激戦の果てに未来を掴み取ってほしいと思います。
…なお、下手人については、現状「『四大天使』のどれかだ」とだけ。
今回でサンスクリット編は終了で、次回からはアフリカン編になります。
《新規機体》
UGY-R35 グレイブ・ロディ
・「ロディ・フレーム」のMS。
・棺桶型の巨大なシールドを装備し、その内部に多彩な武装を搭載する、陸戦型ガンダムとガンダム試作2号機と新宿のアーチャーをハイブリッドした機体。武装がデカいので、地上での運用はちょっと厳しい。
サマエル
・中期型のMA。
・六枚の翼を持ち、二枚にはビーム砲、二枚にはレールガン、残りにはスラスターが配された機体。…翼をファンネルとかにしないと、ガンダム・フレームの相手はちょっと辛いんじゃない?
オファニエル
・中期型のMA。
・本文には円盤型と書いたけど、ぶっちゃけメジャーなUFOみたいな形をしてる。全方位へのビームはビグ・ザムやデストロイガンダムを想像して頂ければ。
《今回のまとめ》
・そろそろ中期型の限界が見えてきた
・「ガンダム・ベレト」が粉砕され、パイロットのレタ・クィルターが死亡
・ダインスレイヴを放った天使とは、一体…?
次回「戦いの意味」