厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
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そして、今回からしばらくアグニカが出る。
出ずっぱり。やったぜ。(そもそも主人公が出ない時が有るのがおかしいとか言ってはいけない)
ラファイエット級汎用戦艦一番艦「ゲーティア」――ヘイムダルの最強チームとも言われる、アグニカ・カイエルのチームが運用する艦には、一つの訃報が舞い込んでいた。
「…アグニカ、どうしたの?」
ヘイムダル本部「ヴィーンゴールヴ」のディヤウス・カイエルとの通信を終えたアグニカは、消沈した様子で自室から出た。その扉の前で待機していたスヴァハ・リンレスが、何が有ったか問うと、アグニカは重々しく答える。
「ベレトが、墜とされたらしい」
「――墜とされた、って…レタちゃんは…?」
消え入るような声で発されたスヴァハの言葉に、アグニカは無言で
フェンリス・ファリドのチームで運用されていた「ガンダム・ベレト」が撃墜され、パイロットであったレタ・クィルターも、愛機と運命を共にした。
驚いた訳ではない。常にそういう可能性は有ると分かっていたし、仲間や自分が、数時間後には死ぬかも知れない。犠牲者ゼロでこの戦いを終わらせられるなど、誰一人として思っていない。
――だが、実際にはあまりにも呆気ない。
こうも簡単に人は、仲間は、自分は死ぬのだと突きつけられたような気分だった。
「…どんなモビルアーマーにやられたかは分からない。遠距離から、ダインスレイヴの一撃だったそうだ。クソ親父は『四大天使』だろうと言ってたが」
「覚醒」したガンダム・フレームを捕捉し、尚且つ遠方から撃って命中させたと言うコトは、敵は数秒――距離によっては数十秒も先の動きを、正確に予測し演算した。加えて、いくらダインスレイヴとは言え、たった一撃でガンダム・フレームを文字通り粉砕せしめる破壊力を兼ね備えている。
そんな規格外の性能を有する敵など、ディヤウスの言う通り、「四大天使」の位階に位置するMAの他に有り得ないだろう。
「『四大天使』――近い内に、相手にしないといけなくなるだろうな…」
人類は未だ、その全貌を知るどころか、その姿を観測してすらいない。それでも、奴らはこの世界のどこかに存在し、事実としてガンダム・フレームを一機葬ったのだ。
「――勝てるのかな、本当に」
「…今は、そんなコトを考えても仕方無いだろ。勝てるかどうかなんて、戦うコトになったら考えるしかない。
それよりも、クソ親父が次の任務を言い渡して来やがった。次はアフリカン共和国に向かえってさ」
具体的には、アフリカン共和国軍の一大拠点「キリマンジャロ・ベース」にだ。
アフリカ大陸最高峰「キリマンジャロ」に建造されたこの基地は、アメリア合衆国の「キャリフォルニア・ベース」、イングランド統合連合国の「アーティ・ジブラルタル」に並んで世界三大基地の一つとされ、その中でも最大規模を誇る。
「キリマンジャロ・ベース――って、山一つ丸ごと基地にしちゃったって言う?」
「ああ。しかもアフリカ大陸で一番デカい山をな」
かなりとんでもないデタラメな基地らしく、その建設で地元民などと一悶着有ったと噂されたりもしているが、相当な重要拠点であり、かなりの戦力が常駐しているのは間違い無い。
ヘイムダルの力など無くても、その維持と敵の撃退に苦労などしないだろうに、何故ディヤウスはそこに行けと言ったのだろうか。
「まあ、行けば分かるでしょ」
「ああ。艦長に進路変更を伝えに行くか」
◇
数日後、ゲーティアはアフリカン共和国の領空、キリマンジャロ・ベースまで二十キロという地点に差し掛かっていた。
汎用戦艦たるラファイエット級は、宇宙も空中も水上も水中も航行可能という反則的な高スペックを誇っており、現在も高度六千メートルを航行中である。…MAが跋扈している今、エイハブ・ウェーブを隠匿出来ないラファイエット級にとって、水中行動などは自殺行為でしかないので、そのスペックがフルに発揮されるコトは無いのだが。
「到着まで、残り十分ほどだ。キリマンジャロ・ベースからも着艦許可が下りている」
「ゲーティア」の艦長であるディリゲント・バンクスが、ブリッジに姿を見せたアグニカ・カイエルとスヴァハ・リンレスに軽く説明した。
アグニカは頷き、艦長席の左側に設置された司令席に座す。そして、スヴァハはその左側に立つ。
「アレが、キリマンジャロ・ベース」
「当たり前だがデカいな…あの山一つが丸ごと基地だとかウソだろ。まさに難攻不落って奴か」
山の周りには幾つかの基地が有り、前線基地として機能している。斜面には無数の砲台を備え、標高四千メートル付近には輸送機の発着口が用意されている。頂上には真下まで俯角を取れる五基のビーム砲台が円形にズラリと並べられており、そのビーム砲台の出力はナノラミネートアーマーにすら通用するほどで、大気中で減衰するにも関わらず、その有効射程は三百キロメートルを確保している。
また、基地内部にはモビルスーツ、戦艦の製造工場から食料生産施設まで存在しているとされ、雨や氷河の雪解け水、地下水や周辺の湖なども有って水にも困らない。
隣接するサハラ連邦共和国とアラビア王国を改元前から牽制、威圧し続ける国境の絶対的守護神であり、まさしく難攻不落と呼ぶに相応しい要塞。世界最大規模の軍事基地、それこそがアフリカン共和国の誇る「キリマンジャロ・ベース」なのである。
「あんなの、どうやって造ったんだろうね…」
「しかも、改元前にな」
遠い目をしながら、スヴァハとアグニカは言う。これまでもキリマンジャロと並ぶ世界三大基地に行ったコトが有るが、ここは別格だ。規模が違い過ぎて比較にならない。
「最近はリアクターを新たなエネルギー源として導入したらしい。アップデートも抜かりないようだ」
ディリゲント艦長がさり気なく新情報を述べる。
かねてより原子力を動力源とし、内部に幾つもの核融合炉を備えていたが、それらは全てエイハブ・リアクターに変更された。理由としては安全性と維持の簡単さだ。原子炉は一秒たりとも目を離せないが、リアクターは半永久機関である上に決して壊れないので、時々調整をすればそれで済む。
頂上の五基のビーム砲台には、それぞれ一基の大型リアクターが直結され、基地内部にも複数のリアクターが設置されたらしい。…その全てが、本来ならスペースコロニーの動力源にされるサイズのリアクターであるらしいので、やはり規格外過ぎる。
「…って、改元前から在る基地なんでしょ? エイハブ・ウェーブとかは影響無いのかな?」
「動力室をハーフメタルで覆ったりしてるんじゃないのか? 最近は火星からも流れて来るようになったらしいし、十国なら確保も出来るだろ」
リアクターから放たれる磁気嵐「エイハブ・ウェーブ」は、主に火星で採れる希少金属「ハーフメタル」で防ぐコトが可能だ。
「アリアドネ」の完成で地球・火星間の航路が確立され、最近では行商ルートも復活しつつある為、ハーフメタルの取引も僅かだが行われ始めた。…最も、MAに襲われて撃沈させられる場合も有り、そもそも地球を敵視する火星独立軍の目をかいくぐらねばならないので、常に足りていない資源なのは確かである。
「予定通り、四番へ入港します」
「ガイドビーコン確認、相対速度合わせ」
「高度四千三百、四千二百――」
「船体、百八十度回頭開始。エイハブ・クラフトシステムは規定値を維持」
「距離、百メートル。九十、八十、七十…」
ブリッジのオペレーター達が、忙しくも平静に着艦作業を進めて行く。やがて、艦が基地の中に収まり、ハッチが閉じると共に、アームで船体が固定される。
「固定アーム、接続完了」
「エイハブ・クラフトシステム停止。続いて、ボーディング・ブリッジの接続が開始されます」
「ブリッジ、接続完了。入港作業、終了です」
その報告を最後に、ブリッジのスタッフ達が一斉に一息吐いた。ひとまず、無事にキリマンジャロ・ベースへ入港出来たのだ。
「私達は基地内に移動して、作戦担当の人から話を聞くんだよね」
「ああ。今回、アイツらは連れてかない」
「じゃあ、このまま直行するの?」
入港を見届けた後、アグニカとスヴァハはキリマンジャロ・ベースに移る為、艦内を歩いていた。向かうは基地とボーディング・ブリッジで接続した、艦の外壁に付けられた扉である。
普段は他のパイロットも連れて行くのだが、今回はチームリーダーであるアグニカと、サブリーダーのスヴァハのみにしてほしいとの通告が来ている。
「道中も何度か襲撃されたからな。整備の手も必要だから、どっちみちソロモンは来れなかっただろうし――この基地はアフリカンの最重要拠点だから、機密保持の為にも人数は減らしてほしいそうだ」
ここ数日、ゲーティアは高度六千メートルを航行していたが、それでも敵の襲撃は有る。とは言え、空中で仕掛けて来るMAは、MS戦を想定していない初期型がほとんどだ。大気圏内でも飛行可能なガンダム・フレームの敵ではない。
エアロックが解除され、遂にキリマンジャロ・ベースへの門戸が開かれる。軽いボディチェックを受けた後、基地内を少し進むと、通路には立ちはだかるように、佐官と思しき人物が立っていた。
「お待ちしておりました。アフリカン共和国軍MS部隊隊長の、アーヴィング・リーコック中佐です」
「ヘイムダル第一チームのリーダー、アグニカ・カイエルです。こっちはサブリーダーのスヴァハ・リンレス」
アーヴィングが差し出した手を握り返しつつ、アグニカはスヴァハのも兼ねて自己紹介する。スヴァハはアグニカの隣で、右手を胸に当てて一礼した。
それに敬礼を返し、アーヴィングが「作戦室にお連れします」と告げ、踵を返して歩き出そうとした時――アグニカとスヴァハの後ろから、声を掛けて来る者がいた。
「テメェらがヘイムダルって奴らか? シケてんなあオイ、こんな奴らが役に立つのかよ?」
「――サンディ、言葉を慎め」
「んな睨むなよ隊長サン。事実だろうがよ」
アーヴィングの言葉に肩を竦めながらも、その男の口振りには全くの反省が見られない。アグニカとスヴァハも振り返り、その声の主――顔に刺青の入った男を見据える。
「お前は?」
「あぁ? 人に名前を聞く時には、まず自分が名乗るって誠意を見せろよ。聞いちゃいたが、本当に社会のルールすら知らねえお坊ちゃまかよ、つっまらねぇな」
「ちょっと――アグニカ?」
眉を顰めて何かを言おうとしたスヴァハを、アグニカは制止する。スヴァハを下がらせて、その男に相対した。
「お? 何なんだその面はよ。やろうってか?」
「いや、別に。お前に言う気がないなら、教えてくれそうな奴に聞くさ――中佐、あの男は一体?」
「サンディ・ロー大尉。アレでも『ガンダム・シャックス』のパイロットです。年齢四十二歳、誕生日は十月六日、出生体重は三千二百七十三グラ」
「オイオイ何ゲロってんだテメェ。エリート様の分際で、プライバシーって言葉も知らねぇのかよ」
「おやおやこれはこれは、初対面の相手に暴言を吐く男が、プライバシーなんて細かいコトを気にしておられるとは思いませんでした。失礼」
煽り散らすサンディと、煽り返すアーヴィング。一瞬睨み合った二人だったが、サンディは舌打ちして、アグニカとスヴァハに視線を切り替える。
「スッ込んでろクソエリート。
わざわざコイツらの面を拝みに来てやったってのに、余計な時間を取らせんじゃねぇ」
「おや。貴方のような粗暴で野蛮な御方が、どうして彼らを?」
「決まってんだろ。後のコトを考えねぇで、脳死でMAとバトってる良い子チャンが、どれくらい下らねぇアホ面を晒してるか気になったんだよ」
一言に悪態と罵倒を詰め込みつつ、無神経で無遠慮な視線でサンディはアグニカとスヴァハを眺めている。アグニカはスヴァハを庇うように背中に隠しつつ、サンディの言葉に応じた。
「随分な言い様だな。俺は人類の未来を考えた時、MAがそれを脅かす存在で、だからこそ戦うべき相手だと思っているんだが」
「で?
「――終戦後のコトか?」
「当ったり前だろうが。それ以外に何が有る? 人類一丸となってMAに対抗する、ご立派なこった。
じゃあ終わった後はどうだ? そのまんま人類が纏まったまま、戦いが終わって平和になるとでも思ってんなら、テメェらの頭はとんだお花畑だぜ?」
バカにするように、自分のこめかみを右手の人差し指で指して言うサンディ。そしてそのまま、アグニカの答えを待たずに続ける。
「終わる訳ねぇよなぁ!? そしたらすぐに戦争、戦争だよなぁ! この十年ですっかり弱体化した十国が、民族戦線や独立運動を押し止められる訳ねぇもんなぁ! 世界中で楽しい楽しい大戦争さ!
分かったか? 人類が戦いをやめるコトはねぇ。テメェらの涙ぐましい努力は全部無駄なんだよ。ただ、テメェらはそれを分かっちゃいねぇ。ヘイムダルを仕切ってるディヤウスとかいうオッサンもな。
どうせやめられねぇなら、管理出来るくらいの数まで減ってくれてりゃあ楽になるってのに、健気にも増えすぎた人間を守る為に、せっかくの人間お掃除機をプチプチプチプチ潰して回ってんだ。アホみてぇだろ?」
「――だが、お前も戦っているんだろう? お前もお前の言う人間お掃除機を、健気にプチプチ潰している訳だ。アホみたいだな?」
サンディの言葉を、アグニカはそっくりそのまま返す。その背中を見るスヴァハは、らしくない煽り合いを見守りつつ、少しの不安を覚えた。
「お坊ちゃまの分際で、よくもほざきやがる」
「そこまでにしておきなさい、サンディ。貴方がどれだけヘイムダルを気に入らなかろうと、作戦を実行する以上は協力しなければならないのです。余計な問題を増やさないで下さい」
更に何かを言い返そうとしたサンディを、アーヴィングが制止する。殺意すら宿ったアーヴィングの視線を受け、サンディは唾を吐き捨てて去った。
アーヴィングはため息を吐いて、アグニカとスヴァハに言う。
「すみません。あの男には、少々問題行動が多いのです。平時ならばブタ箱に放り込んで然るべきなのですが、優秀なパイロットであり、ガンダム・フレームを十全に操れる男なので、そうも行かず」
「いえ――あの男の言葉も、事実でしょうから」
「――!」
MAを倒したとて、戦争が終わるとは限らない。
サンディの言葉は暴論でこそあるが、この一点においては正しいモノだと言えるだろう。
「改めて、これから作戦室へご案内します。
――それから、この基地の中には軍事機密も多いですので、作戦以外の見聞きしたモノは、基本的に他言無用というコトで」
アーヴィングの先導で、アグニカとスヴァハは再び基地内を歩み出す。――ただ、スヴァハの頭の中には、サンディの言葉が幾度も反芻していた。
◇
ラファイエット級汎用戦艦「ゲーティア」内、MSデッキ。六機ものガンダム・フレームが立ち並ぶ場所の片隅に設置されたコーヒーメーカーの側で、壁にもたれかかったソロモン・カルネシエルは、コーヒーを味わいながら一息吐いた。
彼は「ガンダム・オセ」のパイロットであると同時に、ヘイムダルの中心人物であるディヤウス・カイエルとマヴァット・リンレスの友人にして、かのエイハブ・バーラエナの助手を務めていたほどの優秀な研究者である。月面でのMA起動に際しての事故で記憶を失ってこそいるが、その技術や知識に変わりはない。
アグニカに助けられた経験から、若干――いや、かなり彼を贔屓する所が有るが。
「――お前も飲むか、トビー」
ソロモンのその言葉に、ビクッ、とMSハンガーの陰にいた人物が反応する。やがて、緑髪で黒縁の眼鏡をかけた少年――「ガンダム・アンドラス」のパイロット、トビー・メイが姿を現した。
「カフェオレかカフェラテ…いや、カフェモカかカプチーノか?」
「…ブラック。子どもじゃないから」
「ほほう」
その発想こそ子どもだろう、と思いつつ、ソロモンは言わずにカップをセットし、コーヒーメーカーのボタンを押す。出て来るのは勿論、ご要望通りのブラックコーヒーだ。
ソロモンと同じように壁にもたれかかったトビーは、ソロモンからブラックコーヒー入りをカップを受け取り、口に含んだが。
「――苦っ!」
一口で、たまらず舌を出した。その予想通り、期待通りの反応に、危うくソロモンはコーヒーを吹き出しかけた。
ギリギリ耐えたソロモンを、トビーは上目遣いで睨んだが――突っかかるとからかわれそうだと思ったらしく、めげずにコーヒーを啜る。
「…お前、何であんな所に隠れてたんだ? かくれんぼにハマってるのか?」
「だから子どもじゃないって! ――昔の癖なんだから仕方無いだろ。暗い所の方が居心地良いんだ」
「まあ、咎めようとは思わないが…危ないから、近付く奴にナイフを向けたりするなよ?」
「しないよ、もう持ってすらいないから…って、だから子ども扱いするな! 僕はもう十四なんだ!」
「二十歳以上も上の私からすれば、四歳も十四歳も大差無い。何せ私は、正真正銘の大人だからな」
トビーの抗議を、ソロモンは聞き流す。背丈においてトビーはソロモンに敵わないので、どれだけ抗議してもイマイチ迫力に欠ける。
「だから、ちょっと覗いてみるだけだって言ってんだろ? な? だからオレを解放してくれよ
「ダメだ。アグニカが『艦内にいろ』って言ってたの忘れた?」
「忘れてる訳ねぇだろ。忘れてねぇけど――気になるじゃねぇか、あんな格好良くてドデカい基地がすぐそこに有るんだぜ!?」
その時、ソロモンとトビーがいる場所から十メートルほどの位置に有る扉から、二人の人間がMSデッキに入って来た。
一人は「ガンダム・フォカロル」のパイロット、アマディス・クアーク。それを制止しているもう一人は、大駕・コリンズ――「ガンダム・グラシャラボラス」のパイロットだ。
「バカなコトを言うな、アマディス。ヘイムダルの信用を地に叩き落とすつもりか?」
「ゲッ、ソロモン! …な、何のコトだ?」
「お前のコトだからな。どうせ、キリマンジャロ・ベースに乗り込もうとでもしていたんだろう。そして、それを大駕に止められていたと」
「――年上として、恥ずかしくないんですか?」
トビーの追及に、アマディスは痛いところを突かれたように呻いた。年下からのマジレスは、幾つになろうと辛いモノである。
「もっと言ってやろう、トビー。もうちょっと落ち着いて行動しろって」
「大駕の言う通りだよ、アマディス」
「ああ。アグニカに恥をかかせるつもりか?」
「わ、分かった――悪かった、悪かったからそんな目で見ないでくれ頼むから」
年下×2とアグニカチーム最年長のソロモンに畳み掛けられ、アマディスはうなだれる。全く、とため息を吐いた後、ソロモンはコーヒーを飲み干しつつ、思った。
(コイツらの未来を、私達は奪ってしまうのかもしれない。…レタ・クィルターのように)
キリマンジャロ・ベースに発つ前に、アマディスとソロモンは、レタ・クィルターの戦死と「ガンダム・ベレト」の喪失を知らされていた。面識が無いトビーと大駕は、不安にさせる必要も無いというアグニカの判断もあり、ヘイムダルのガンダム・フレームが撃墜されたコトを知らない。
ほんの一時とは言え、平穏の中で言葉を交わし、笑い合う年端も行かぬ少年達。その小さな双肩が負わされている使命はあまりにも重く、世界は――運命は、彼らに何を齎すのか。
(――エイハブさん。貴方は何故、MAなど)
今のソロモンに、エイハブ・バーラエナとの記憶は無い。彼がどのような人間で、何を思ってディヤウス・カイエルにMAを造らせたか、ソロモンは知らない。その真意は愚か、老いた博士の顔すら、ソロモンには思い出すコトが出来ない。
それでも、そう問わずにはいられなかった。
答えを知る者は既に亡く、考えて分かるコトではない。トリテミウス・カルネシエルになら、あるいは分かったのかもしれないが――今の彼は、ソロモン・カルネシエルでしかないのだから。
「――どうしたの、ソロモン?」
「いや。…それより、そろそろ補給物資の積み込み作業が始まる頃だ。アマディス、手伝え。トビーと大駕は休んでいてくれ」
「オイ待て、何でオレだけなんだよ」
「バカなコトを抜かしているからだ。ここは一つ自戒を込めて、私と共にこき使われるが良い」
◇
作戦会議が終了し、アグニカとスヴァハはキリマンジャロ・ベースを後にし、母艦たるゲーティアに帰って来ていた。
明日には作戦開始となる。ブリッジからの艦内放送でスタッフ全員にその旨を伝えた後、アグニカは自室の前まで戻ったが。
「――スヴァハ?」
その扉の前には、またもやスヴァハがいた。数日前にも同じようなコトが有った気がする、と思いつつ、アグニカが「どうした」と問うと。
「…さっき言われたコトでね。
もし、あの人の言う通り、MAがいなくなっても戦争が終わらないとしたら――私達の戦いには、みんなの犠牲には…何の意味が有るんだろうって」
スヴァハの消え入るような言葉に、アグニカは思わず息を飲んだ。
ヘイムダルが戦う目的は、MAを倒して戦争を終わらせる為だ。その為にヘイムダルだけでなく、世界中の人々が死地に赴き、MAの脅威に正面から立ち向かっている。
――だが、忘れてはならない。人間は元々、人間と戦っていた。MAですら、その戦いの中で偶発的に生まれたモノに過ぎないのだと。
「そう思ったら、ちょっと怖くなっちゃった。…ダメだよね、こんなのじゃ。そもそも戦争を終わらせられるのか、本当にこのままMAを倒せるかも分からないのに――」
確かに、今考えても仕方の無いコトだ。だがいずれ、いつか直面するかもしれないコトでもある。
アグニカはスヴァハに一歩近付き、言う。
「――確かに、アイツの言う通りかもしれない。戦争は終わらないかもしれない。
けど、それで俺達の戦いが、犠牲が無駄になんてなるハズが無い。MAを倒せば、それで皆が助かるのはきっと、本当のコトだ。その後で人間同士の戦争が起こるんだとしても、俺達はそれで、MAとの戦いは終わらせられる」
未来がどう転ぶかは、誰にも分からない。
知ったような口で言ったサンディにも。君臨する十国の首脳達にも。ディヤウス・カイエルにも、未来は分からない。文字通り、世界を一変させたエイハブ・バーラエナにさえ、分からなかった。
「だから今は、その為に戦っていかなきゃいけないんだ。…そもそも、スヴァハを犠牲になんてさせないしな。トビーや大駕だって――誰一人として、犠牲にさせてたまるか」
本当に、そう出来るかは分からない。何せ、敵は「覚醒」したガンダム・フレームすら屠る化け物、正真正銘の怪物なのだから。
それでも――そういう気概で臨まなければ、出来るコトも出来なくなる。
「――そうだね。そうしなくっちゃね」
「ああ」
顔を上げたスヴァハに、アグニカは歯を見せて不敵に笑った。
バカみたいに希望を抱いて、ひたすら前に進む。
第四十七話「戦いの意味」をご覧頂き、ありがとうございました。
久々にアグニカチームのターンが回って来た(要所要所で出てましたが、メイン張るのはアメリア編以来)ので、改めて「戦いの意味」とは何たるかに踏み込んでみました。
後、サラッと火星について述べたりもしつつ。
《オリジナル設定》
キリマンジャロ・ベース
・アフリカ大陸最高峰「キリマンジャロ」を丸ごと基地に改造した、アフリカン共和国が誇る世界最大規模の基地。
・同名の基地が「機動戦士
エイハブ・クラフトシステム
・エイハブ粒子を利用した、大気圏内で浮遊する為のシステム。
・原理は異なるが、効果としては「ミノフスキー・クラフト」と同じ。浮くだけなので推進力は無く、現状ではラファイエット級汎用戦艦にしか採用されていない。
《新規キャラクター》
アーヴィング・リーコック
・アフリカン共和国の軍人で、階級は中佐。
・MS部隊隊長で、本文では書けなかったが「ガンダム・アンドレアルフス」のパイロットである。敬語なのに、煽るべき時はちゃんと煽れる。
サンディ・ロー
・アフリカン共和国の軍人で、階級は大尉。
・「ガンダム・シャックス」のパイロット。顔に刺青を入れてる時点でヤバいし、色々言ってるが個人的には「そんなの政治家が考えるコトで、一軍人の言うコトじゃないだろ」の一言に尽きると思う。今後も大暴れしてくれる狂人。
《今回のまとめ》
・キリマンジャロ・ベースについては、書きながら自分で「いやこれ造るの無理だろ」と思ってた
・ソロモン、戦いの狭間で何を想う?
・MAが消えても戦争は続く、彼らが戦う意味は?
次回「マリオネット」