厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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最近、新劇場版を序からQまで見直した結果、数年ぶりにエヴァ熱が再熱しました。
おかげで普段の作業用BGMも侵食されまして、鷺巣節に聴き惚れながらノリにノッて書いたのが、ちょうどこの辺りからです。
「God's Message」は良いぞ…! ほぼナディアだけどな! 多分「バベルの光」って言った方が、通じる人には通じるけどな!

とまあ、それはともかく。
内容の関係で、参考資料としてラテンアメリアの体制についての簡略図を置いておきます。
これ無いと「は?」ってなると思うので…(そもそも本文で説明しきれてないのはどういうコトだ)

【挿絵表示】



#50 ラテンアメリア連邦共和国

 アフリカン共和国首都「ヨハネスブルグ」を出発した、ヘイムダルのラファイエット級汎用戦艦「ゲーティア」――アグニカ・カイエルが率いるチームが乗る艦は、ヘイムダル本部「ヴィーンゴールヴ」から次なる任務を請け負っていた。

 

「サンパウロに向かえ?」

『ああ、ラテンアメリアからの要請だ。…ラテンアメリアには今、ドワームのチームもいるんだが、お前達の方が近い。行ってくれ』

「…ここまで予測してたのか、あの爺さんは」

『――どういうコトだ?』

 

 ディヤウス・カイエルの言葉を受け、アグニカはそう呟いた。独り言だったそれを、マイクは見事に拾ったらしく、ディヤウスが言葉の意味を問う。

 それを受け、アグニカはヨハネスブルグで、アフリカン共和国大統領ベンディル・マンディラが言っていたコトを伝えた。

 

『――国が内部から切り崩されるコトで、「フヴェズルング」の背後関係が明らかになる、か。それで最後に、サンパウロに行けと』

「ああ。…多分、その国はラテンアメリアだ。しかも、そう遠くない内に何かが起こる――その為に、アフリカンはヘイムダルを利用するつもりらしい」

 

 ヘイムダルは不利益を被らない、とベンディルは言った。しかし、それを鵜呑みにして動くコトに、アグニカは直感的に抵抗を覚えていた。

 ベンディルの言葉が信用出来ない訳ではないが、今このタイミングでサンパウロに出向くコトは、ベンディルの手のひらの上で踊らされるコトだと、アグニカは思う。

 

『――アフリカンが何を企んでいようと、ラテンアメリアからの要請が有った以上、我々はそれに応えるしかない。小難しいコトはこちらでやる、お前達は目の前の戦いにだけ注力してほしい』

「…分かった。サンパウロに行けば良いんだな?」

『そうなる。任せたぞ』

 

 通信を切り、アグニカは息を吐いた。

 アフリカンのベンディル・マンディラが何を企んでいるのか、ラテンアメリアで一体何が起こるのか――アグニカには予測もつかない話だが、ヘイムダルが国の要請を受けて動く組織である以上、ひとまずは行ってみるしかないのも確かだ。

 

(――三国の調査に、結果として貢献する。フヴェズルングと会い、決着を付けられるかも知れない、ってコトだろうが…)

 

 あまりにも分からないコトが多く、不安は有る。

 ただ、それでもヘイムダルは前に進まねばならない。多くの犠牲の上に、彼らは成り立っている。立ち止まった瞬間、それらは無駄になるのだから。

 

 

   ◇

 

 

 M.U.0050年九月、ラテンアメリア連邦共和国。

 首都「サンパウロ」の行政府官邸で、現職大統領ビセンテ・マラドーナは、とある人物との秘匿回線による通信に応じていた。

 

『新たなモビルスーツ工場の手配、ありがとうございます――マラドーナ大統領』

「せいぜい上手く使いたまえ。…しかし、君たちの名は今や世界中に流布しているが?」

『…我々の存在が公になるのは、許容範囲内です。大統領との関係は暴かれない――その自信が有るから、我々に依頼して頂けたのでしょう?』

「当たり前だ。でなければ、始めから手を出さん」

 

 ラテンアメリアにおいて、連邦制はほぼ形骸化しており、中央集権化によって、実質的に大統領が全権限を握っている。就任から十年以上、そうする為に仕組みを整えて来たのだ。

 戦時特別法の制定による選挙の中止と、他党の排除による一党独裁体制の構築。任期の無期限化、情報部と諜報部、マスコミの掌握による言論統制、治安維持を担当する陸軍高官の買収。国務大臣には自身の息がかかった者を配置し、私腹を肥やさせ続けるコトで、確実に叛意を削ぎ落とした。

 権力と金を手にし、反抗運動は治安維持の名の下に弾圧するコトで、彼は最高権力者として、十年以上も大統領の椅子に座り続けている。

 

 だが、彼の欲望は、それだけに留まらなかった。

 

 戦争終結後の、戦後体制確立の主導。

 これを成功させ、世界国家元首として世界を統べた時、彼の欲望はようやく満たされるだろう。

 

 その為には、他国を疲弊させねばならない。

 現在は大西洋反対側の三国への攻撃を行っているが、それが終わり次第、攻撃対象を拡充する。モビルアーマーというステージギミックを活用すれば、ごく自然な流れでラテンアメリア以外の国力を失墜させるコトが可能となるのだ。

 自国の被害は最小限に、他国の被害は最大限に。

 ごく基本的な戦争の流れだが、世界は今、それを忘却している。それこそが、付け入る隙になる。

 

「以降はアメリア、ユーラシア、中連への煽動を開始してくれ。疑念を免れる為、我が国にもある程度し向けるように」

『分かっております。では』

 

 通信を切り、マラドーナはほくそ笑む。全ての計画は順調だ。イングランド統合連合国、サハラ連邦共和国、アフリカン共和国の三国が編成した調査団も、しばらくは何も出来ないだろう。

 利用しているMAが脅威であるコトは普遍的事実だが、MSを始めとした新兵器や、エイハブ・リアクターを生かした新技術、ガンダム・フレームの戦線投入により、戦局は人類側に傾きつつある。今、地球上にいるMAの数はかなり減って来ているのが事実であり、その残りを上手く煽動すれば、排除するついでに他国を疲弊させられる。

 まさしく一石二鳥、二兎を追って二兎を得る完璧な計画。最後にフヴェズルングを切り捨てれば、関与の証拠も全て抹消完了――というのが、マラドーナの描くシナリオだ。

 

(「四大天使」なる未知の機体が動いている、という噂だけが気にかかるが――出現した際は、ヘイムダルに頑張ってもらうとしよう。他ならぬディヤウス・カイエルが、最も多くの情報を持っているのだからな。

 しかし、最近では「積極的攻勢」を求めての市民運動が活発化して来ているのだったか。陸軍による弾圧を強化せねばなるまい)

 

 そのように陸軍大将に打診するか、とマラドーナが手元の端末を操作しようとした時――マラドーナ大統領がいる部屋の扉が、音を立てて蹴り開けられた。

 

「何事だ――ッ!?」

 

 アサルトライフルを持った、武装した特殊部隊が次々と部屋に入って来て、マラドーナに銃口を突き付けた。

 

「両手を挙げ、手を頭の後ろに回せ! 下手な動きをすれば、即座に発砲する!」

「………」

 

 状況を掴みきれずにいながらも、マラドーナはひとまずその言葉に従った。突入して来た部隊の後ろから、軍服に身を固めた一人の男が現れる。

 そして、それは彼の良く知る男でもあった。

 

「――どういうつもりだ、ジョルジェ・ベナセラフ軍務大臣」

 

 ジョルジェ・ベナセラフ。

 彼の腹心の部下の一人であり、軍務大臣として働いている男だ。マラドーナが突入して来た特殊部隊をよく見ると、宇宙軍所属の者達であるらしきコトが分かった。

 マラドーナに真意を問われたジョルジェは、懐から拳銃を取り出し、劇鉄を起こしてマラドーナへ銃口を突きつけた。

 

「お分かりになられないほど、貴方は愚かではないハズですが?」

 

 勿論、分からないから問うたのではない。

 これはクーデターだ。眼前の軍務大臣が、その首謀者だと見て間違い無い。

 

「――私を捕らえると言うコトがどういうコトか、分かっているのか? 今まで貴様に散々私腹を肥やさせてやったのは誰だと思う? 情報部と諜報部が誰の管轄か、忘れた訳でもあるまい?」

「脅しなら通用しませんよ。貴方が横流しして来ようとした金は、全て軍の補正予算として計上しました。私個人は、一アレルたりとも受け取っていません。

 情報部と諜報部は、既に内部のクーデター派が掌握しました。今頃は、言論統制の中で葬られた情報を洗い出し、公表する準備をしているでしょう。陸軍の高官達も、既に参謀本部と海空宇の主導で確保済みです」

 

 マラドーナの独裁体制は、国務大臣と情報部、情報部の完全掌握と治安維持担当の陸軍高官への収賄により成り立っていた。

 ――ただ、国務大臣の一人であるジョルジェ・ベナセラフ軍務大臣が離叛し、掌握したハズの情報部と諜報部が内部から食い破られ、陸軍高官達は参謀本部と海軍・空軍・宇宙軍の反乱で拘束されたコトで、体制は内側から破られた。恐らくは、他の国務大臣も全て、クーデター派により拘束されていると見て良いだろう。

 

(一体、何年前から手を回していた…!? 何故、私は奴らの動きに気付けなかった――いや、内側に潜んでいたと言うなら、そもそも知れる訳も無かったと言うコトか…!?)

 

 マラドーナは歯噛みする。この計画は、何年も前から周到に、極秘裏に進められていた。シロアリが如く、少しずつ少しずつ、着実にマラドーナが立つ土台を蝕んでいたのだ。

 そして、部屋に新たに入ってきたクーデター派士官の報告が、マラドーナを完璧な絶望の底へと叩き落とした。

 

「報告致します! グラン隊、陸軍のサントス極秘開発施設の制圧を開始しました!」

「――ッ!?」

 

 

   ◇

 

 

 同時刻、サンパウロに程近いサントス基地。

 ラテンアメリア連邦共和国の陸軍が管理するその基地は、深い影に包まれた夜、友軍からの爆撃に見舞われていた。

 

「モ、MSによる攻撃です! 所属は――宇宙軍のラーペ・グラン少将の部隊と思われます!」

「宇宙軍だと!? いや、そもそもこれは一体どういうコトだ!? 何故、この基地を…!?」

 

 司令塔では、基地司令が混乱の渦中にあった。

 意味が分からない。宇宙軍とは言え、友軍が攻撃して来る理由は何か――しかも、よりにもよって、この基地を攻撃するなど。

 

「サンパウロの陸軍本部との連絡は!?」

「LCS通信、繋がりません! 連絡不能です!」

 

 MS隊が続々と基地へ侵入して来るが、友軍である以上、モビルワーカー隊を出すのも躊躇われる。そもそも、MWではMSを止められないのだが。

 

「グラン隊より電文!」

「読み上げろ!」

「は! ――そんな、これは…!?」

「何でも良いから早くしろ!」

「わ、『我々は決起した。種の存続の危機を克服すべく、MAへの積極的攻勢と軍備増強を願う世論を弾圧するばかりか、汚職と収賄を常態化させ、独裁の中で私腹を肥やし続ける、ビセンテ・マラドーナを始めとする国賊を排除する為に。腐敗した国家を改革し、正義を以て協同し、巨悪を打ち払う為に。

 軍務大臣、ジョルジェ・ベナセラフ』」

 

 基地司令は、全身から冷や汗が吹き出るのを感じた。――これはクーデターなのだと、正しく理解したが故である。

 

「し、司令――如何致しますか!?」

 傍らに立つ副司令が、恐慌した声で問うて来る。しかし、基地司令は、自分にはどうしようもないと分かっていた。

 陸軍本部と通信が繋がらないのは、既にクーデター派が汚職にまみれた高官達を拘束しているから。そして、マラドーナにとって()()()()()()()()()()()()()()()()この基地に、それを奪いに来たのだ。

 

「げ、迎撃しますか!?」

「――無駄だ。この基地に有る戦力では、MS隊を押し返すなど出来はしない。そも彼らは友軍…それもMAと戦って来た、我が軍の最精鋭部隊だぞ?

 降伏を通達しろ。基地を明け渡す」

「し、しかし――」

「命令だ。…この国も、変わる時が来たんだろう」

 

 サントス基地から、信号弾が打ち上がる。無条件降伏の合図――基地を明け渡すコトを、宣言したのである。

 

「信号弾確認、基地に入ります。――少将、よろしいですね?」

 

 ヴァルキュリア・フレーム六番機「ヘルムヴィーゲ」のパイロットであり、MS隊副官を務めるパンサリー・キファラ中佐は、隊長であるラーペ・グラン少将に報告する。

 それに答えるは、ヘルムヴィーゲの隣に立つ白亜のMS――アルカナ・フレームの「ユニヴァース」を駆る男、ラーペ・グラン少将その人だ。

 

「無論だ。これより基地内を捜索、『マドナッグ・フレーム』を奪取し、『フヴェズルング』のボスを拘束する」

「了解。全隊、予定通り行動せよ!」

 

 

   ◇

 

 

「ふむ。何やら外が騒がしいな」

 

 明かりが一つも無い暗室の中で、世界に悪名を轟かせる傭兵組織「フヴェズルング」のボスは、他人事のようにそう呟いた。…いや、実際に他人事だ。彼がいるのは世界一安全な場所であり、誰にも発見されるハズの無い場所なのだから。

 しかし、ボスはだからと言って過信するコトはしない。万一のコトも有る、と考え、唯一の光源である端末の画面を叩き、通信を開く。

 

「――ロブ。しばらくは艦内で待機しておけ」

『あァ? どうしたってンだ?』

「ついでに、出撃準備も整えておけ。――何か分からんが、妙だ。空気が変わった」

 

 通信先のロブ・ダリモアは怪訝な表情を浮かべたが、一言「了解」と言って通信を切った。ボスは執務机の前の椅子に深く腰掛けたまま、端末の画面を切り替える。

 映し出されたのは、施設の各所に設置された監視カメラの映像。――否、映し出されるハズだった。

 

「成る程な」

 

 施設の通路を映すカメラの映像は、全て暗転していた。一つ二つ、外を映すカメラだけが生きているだけ。

 

「…ビセンテめ、しくじったか?」

 

 忌々しげにボスがそう呟いた直後、暗室に唯一設置されている鋼鉄の扉が外側から破壊された。

 煙が立ち込め、MSのマニピュレーターによって開かれたらしい穴から光が差し込み、アサルトライフルとシールドで武装した特殊部隊が部屋に侵入。二十秒足らずで特殊部隊はシールドを構えて陣形を組み、アサルトライフルをボスに向けた。

 

『こちらはラテンアメリア連邦共和国宇宙軍、MS部隊のパンサリー・キファラ中佐である!

 貴様は「フヴェズルング」ボス、コーネリアス・エイヴリングで間違いないな!?』

 

 青く分厚い装甲を纏ったMS、ヘルムヴィーゲが部屋に開いた穴から、中を覗き込んでいる。地下なのに頭部が部屋と同じ高さに有るが、これはヘルムヴィーゲが、ボス部屋に隣接するMS開発施設の中に立っているからだ。

 一方、ボス――コーネリアス・エイヴリングは、椅子に悠々と座ったまま、両足を持ち上げて机の上に投げ出した。

 

「如何にも。よくここに辿り着けたな、クーデター派」

 

 一瞬で状況を理解し、呑み込んだらしいコーネリアスは、微笑さえ浮かべて問いを肯定する。

 コーネリアス・エイヴリングが姿を隠していた暗室が在るのは、サントス基地の地下施設。クーデター派に制圧されたコトで、その所在は遂に明らかとなった。部屋に窓などは無く、何枚ものナノラミネートアーマーで守られていたが、MSの前では時間稼ぎにしかならなかったようだ。

 

「私の名前まで調べ上げようとは…成る程、大国の情報収集能力を駆使すれば、可能と言う訳だ。やはり、全ての情報を消し去るコトは難しいらしい」

『これより貴様を拘束させてもらう。貴様の依頼者とそのシンパは、既に我々が身柄を確保している。無駄な抵抗はするな!』

 

 コーネリアスは、チラリと手元の端末を見る。

 外に設置された監視カメラは、現在の施設の様子を映しているが――そこに、一機のMSの姿が映り込んでいた。

 

(――「ミシャンドラ」を奪われたか)

 

 

   ◇

 

 

 サンパウロに向けて航行していたヘイムダルのラファイエット級汎用戦艦「ゲーティア」は、海沿いのサントス基地の様子を観測していた。

 夜であるコトも相まって、立ち上っている火が鮮明に捉えられた。艦のブリッジに座る面々は、その異様な光景に呆気に取られている。

 

「――これは…!?」

「MAの攻撃、ではない…?」

 

 MAの姿は、空から観測する限り見られない。複数観測されているエイハブ・ウェーブも、固有周波数はラテンアメリア所属のMSのモノだ。

 

「ラテンアメリア軍が、ラテンアメリアの基地を制圧したってコト…?」

「仲間割れ――なんかじゃないよな。

 まさか、クーデターか…!?」

「クーデター、って…そんな、こんな時に!?」

 

 アグニカ・カイエルとスヴァハ・リンレスは、その異様な光景を前に、適当な推論を並び立てるコトしか出来ない。ここからでは何も分からないのだ。

 ただ、一つだけ分かるコトが有る。

 

「ねえ、アグニカ――マンディラ大統領が言ってたのって」

「『国が内側から切り崩される』…これのコトか」

 

 それ即ち、クーデターの発生による国家の変革。ラテンアメリア連邦共和国は今まさに、時代の節目に立っている。

 ヘイムダルは呆然と眺めるしか出来なかったが、その時、基地に変化が有った。飛行場の一角が、地下から撃ち抜かれるように爆発し、土煙が上がったのだ。

 

「飛行場が、下部から爆発――新たなエイハブ・ウェーブ。一機、MSが出て来たようです」

「MS?」

「光学映像、記録。正面モニターに出します」

 

 ブリッジの正面モニターに、そのMSの姿が映し出される。飛行場のライトに照らされた機体は、全く同じでないものの、以前見た機体に酷似していた。

 

「アレは、」

「『マドナッグ・フレーム』…!?」

 

 アグニカとスヴァハが、驚愕を露わにする。

 以前、交戦した「フヴェズルング」が運用していたMS「ベルゼビュート」――開発元不明とされた「マドナッグ・フレーム」が、何故ラテンアメリアの基地から出て来たのか。

 

「所属不明機から、国際チャンネルで通信!」

『私はラテンアメリア連邦共和国宇宙軍所属、MS部隊隊長ラーペ・グラン少将! 全世界に向けて報告する――これは「マドナッグ・フレーム」、「フヴェズルング」のみが運用していたフレームMSの一機である!

 この基地からこれが発見されるというコトは、マドナッグ・フレームはラテンアメリア大統領ビセンテ・マラドーナの下で陸軍が極秘裏に開発し、フヴェズルングへ譲渡していたコトの証左だ! この世界的な危機に対して力を尽くさないばかりか、自らの権益の為に、人類の足を引っ張る現行体制の腐敗の象徴! それがこのMSである!』

 

 その開発元こそ、ラテンアメリア連邦共和国。非公開の開発施設で極秘裏に開発され、フヴェズルングに戦力として譲渡されたのだ。

 

「マドナッグ・フレームを、ラテンアメリアが造っていた…!?」

「――フヴェズルングの独自開発だと思ってたが、そうだな。確かに、民間組織がMSの開発なんて、出来る訳が無い」

 

 フヴェズルングは確かに巨大な傭兵組織だが、だとしてもMSに関するノウハウは無いハズだ。有るのはおかしい、とすら言えるのが現状である。

 何せ、MSは近年開発されたばかりで、その技術はMAとの戦争の為に十国が独占している。民間には一切流れていないのだから、整備だけならまだしも、開発など民間組織には不可能だ。

 

『我々は断固、断罪すべきである! 世界を掻き乱すフヴェズルングを! 軍拡論を無視し、私服を肥やし続けたマラドーナ政権を!

 そして我々は今一度、対MAの戦時体制を築き直す! 世界が一眼となって、まだ見ぬ脅威に立ち向かう必要が有るのだ!』

 

 国際チャンネルで、国中――いや、世界中の軍に向けて流される放送。戦時の情報統制が徹底されている以上、民間人にまでは届かないだろうが、世界がラテンアメリアの政変と、フヴェズルングとの癒着を知った。

 クーデター派の行動により、フヴェズルングの背後にいた国こそがラテンアメリア連邦共和国であるという事実が、白日の下に晒し上げられたのだ。

 

「終わりです、ビセンテ・マラドーナ。貴方は十国により、フヴェズルングと共に裁かれるのです。

 我々がもう一度、この国を作り直す。新たな体制を構築し、今まさに失墜した信頼関係を、再び一から築き直してみせよう」

 

 サンパウロの行政府官邸で、拘束されたマラドーナに、ジョルジェ・ベナセラフ軍務大臣はそう宣告した。己が絶頂の終わりを悟ったマラドーナは、負け惜しみのようにジョルジェに告げる。

 

「分かっているのか、ジョルジェ・ベナセラフ。その道が如何に茨に満ち、困難なモノであるかを。そのような悠長なコトで、貴様らの言う対MA体制を築けるとでも思っているのか!?

 いずれ分かる、私こそが正しかったのだと実感する時が、必ず訪れる! その時に後悔しても、全ては貴様の責任だ! 貴様が全てを背負わされ、断頭台に立つ日は、そう遠くないのだ!!」

「ええ、そうかも知れません。確かに貴方の言う通り、私もまた反旗を翻され、裁かれる時が来るのかも知れない」

 

 ですが、とジョルジェは迷い無く続ける。

 

「私は、私の選択を後悔するコトは無い。どんな責任だろうと背負ってみせる。それで人類の未来が拓かれるのなら、どんな罪だろうと背負い込んで溺死してみせましょう」

 

 戦力の拡充、軍拡は世界平和に背を向ける行為と言える。だが、今だけは違う――軍備を拡大させ、世界中のMAを殲滅するコトこそが、世界平和へと繋がる唯一の道なのだ。

 MAの本当の脅威を、世界はまだ知らない。ビセンテ・マラドーナもまた、それを見誤っていると、ジョルジェには断言出来る。

 

 ガンダム・フレームすら、MAとの戦いで破壊されたのだ。

 

 ガンダム・フレームだけでは、今のままでは到底足りない。人類の全てを賭して戦わなければ、MAをこの世から排斥するコトなど叶わない。軍務大臣である彼は、それを良く分かっている。

 人類の未来の為なら、どんな悪名も罪罰も背負うと誓い、彼は軍内部の軍拡賛同派を率い、このクーデターを実行した。五年前から布石自体は打っていたが、実行に踏み切らせたのは、ヘイムダルのガンダム・フレームが撃破されたという事実だった。それまではジョルジェ自身も、ガンダム・フレーム有る限り、人類に勝利の時は来ると思っていたが――それすら、MAの前では崩れ去るのだと。

 その危機感は軍部の中で強く広がり、それをジョルジェも共有した。それこそが極端な保守を貫き、私腹を肥やす為だけに独裁を続けるマラドーナを、ジョルジェに見限らせたのである。

 

「フッ。フフフフフ、ハハハハハハハハハハハハ!

 いや見事だ、実に痛快だ。ビセンテめ、全く愚鈍で分不相応な、下らん欲を持っている男だった。面白いかと思って共犯したが、飼い犬の躾を怠り、土台からひっくり返されるとは何たる体たらくだ!」

 

 一方、後ろ盾も失って完全に追い詰められたハズのフヴェズルングのボス、コーネリアス・エイヴリングは、高らかに笑っていた。

 コーネリアスに銃を向ける特殊部隊が、身を強ばらせ――コーネリアスは、机の上に投げ出した足を使って、天板に用意されていたスイッチを押した。

 

『ッ、確保しろ!』

「は!」

 

 MSのカメラ越しでもそれを見逃さなかったパンサリー・キファラ中佐が、コーネリアスの前に展開する特殊部隊に命令する。瞬時に特殊部隊が駆け出し、コーネリアスを捕縛すべく襲いかかるが――

 

 ヘルムヴィーゲが開けた穴の反対側から、巨大な鞭のようなモノが走った。

 

 明らかに対MS用と思われるほどの鞭が、特殊部隊を砂埃を払うかのように吹き飛ばし、コーネリアスがいる部屋に隣接したMS開発施設から部屋を覗き込んでいたヘルムヴィーゲをすら弾き飛ばした。

 

『ぐっ――何だと!?』

『中佐、どうした?』

『コーネリアス・エイヴリングの抵抗です! 施設が下側から割れて――ッ!?』

 

 巨大な鞭のような極太のワイヤーが、凄まじい速度で振るわれ、ヘルムヴィーゲがいるMS開発施設が下側から破壊されていく。

 重量MSであるヘルムヴィーゲは、全身のスラスターを吹かせてゆっくりと飛び上がり、崩れる地下施設から脱出。ギリギリで地上へと這い出た。

 

「――まさか、本当にこれを使うコトになるとは。だがやむを得まい、ただで捕まってやるなど、あまりにつまらんからな」

 

 コーネリアスが座る椅子が、床ごと部屋の下へとスライドする。その緊急脱出用通路は、とある機体のコクピットに繋がっている。

 やがて、コクピットブロックに椅子が収まり、モニターに光が(とも)る。コーネリアスは邪悪に笑って、宣言した。

 

「さあ―――『戦争』を始めようか」

 

 無人機と相対する、茶番のような戦闘ではない。

 互いに己が命を天秤にかけ、生と死の狭間で醜くも美しく争う、本物の戦争をしよう――!




第五十話「ラテンアメリア連邦共和国」をご覧頂き、ありがとうございました。

みんな大好き(?)クーデター勃発、からのフヴェズルングが丸裸にされる急展開。
もうちょっと字数を要するかと思ったんですが、テンポ重視で書いた結果、案外アッサリ行けました。
その分、国家体制について本文中で充分説明しきれなかったのは本当にすまない…前書きに貼った図で許して下さい(懇願)


《新規機体》
V06-0526 ヘルムヴィーゲ
・ラテンアメリア、パンサリー・キファラ中佐の機体。
・原作に登場し、石動さんが乗った「V08-Re0526 ヘルムヴィーゲ・リンカー」のオリジナル。デザインも武装もほぼ同じだが、こっちの方がちょっぴり重たい。どうして地上で運用したし。

GWS-A-73 ミシャンドラ
・マドナッグ・フレームのMS。
・かなり武器名や設定を頑張って作ったのだが、今回はほぼ戦闘無し。後々ラーペ・グラン准将の乗機になる予定なので、今後の活躍に期待。


《新規キャラクター》
ジョルジェ・ベナセラフ
・ラテンアメリアの軍務大臣。
・クーデターの中心人物で、人類の未来とかを本気で考えている、割と善人極まってる人。

ラーペ・グラン
・ラテンアメリアの軍人で、階級は准将。
・宇宙軍所属のMS隊の隊長でもあり、クーデターの中心人物。これまでクソザコと評判のアルカナ・フレームに乗ってた辺り、かなり凄腕である。

パンサリー・キファラ
・ラテンアメリアの軍人で、階級は中佐。
・ラーペ率いるMS隊の副官であり、寡黙な性格。ヘルムヴィーゲに乗っているが、女性なのでCV:前野智昭ではないと思われる。みかこしで脳内再生しましょう(名案)

コーネリアス・エイヴリング
・フヴェズルングのボス。
・遂に名前が明かされ、全力の悪足掻きを開始したちょっと大人げない人。有る意味絶頂に在るが、別にキング・クリムゾンを出したりはしない。このキャラ紹介で唯一、二度紹介された。


《今回のまとめ》
・ラテンアメリアでクーデター勃発
・マドナッグ・フレームの出所はラテンアメリア、フヴェズルングとの関係発覚
・ボス、暴れ出す




次回「悪戯な神は裁きに堪えず」
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