厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
使いこなしたら楽しそうなので使いこなしたい。
ラテンアメリア連邦共和国、サントス基地。
極太の鞭が、超速で振るわれる。
ナノラミネートアーマーすら容易く打ち砕き、施設を内側から崩壊させていく。地盤沈下でもするように沈んだサントス基地が地下から吹き飛ばされ、土煙の中から異形の機械が姿を現す。
「さあ―――『戦争』を始めようか」
そのコクピットで、傭兵組織「フヴェズルング」のボス、コーネリアス・エイヴリングは最高の笑顔を浮かべて、そう宣言した。
続いて、こうなった時の為に母艦で待機させていたロブ・ダリモアと、その他全ての部下への通信回線を開く。
「残念だが、フヴェズルングはここまでだ」
『――何だと?』
「
クーデターにより全てを暴かれ、職を追われるラテンアメリアの大統領ビセンテ・マラドーナと、フヴェズルングの関与は決定的なモノとなった。これからフヴェズルングのメンバーは各地で残らず確保され、十国の名の下で、マラドーナ政権と共に裁かれるだろう。
『オイオイ、マジで詰みじゃねェか。これはアンタの失態ってコトで良いのか?』
「構わんが、君達にももう何処にも逃げ場は無いぞ? 今や、世界中が我々の敵だ。隠れ蓑も無くなった、汚い仕事を続けて来たツケをお支払いする時が来たって訳だな」
『テメ、フザケンじゃねェぞクソが!』
思わず毒舌を吐くロブだったが、それもそうだ。どうせ全員しょっぴかれるなら、ボスが相手だろうと最早関係無い。
しかし、コーネリアスは笑いながら続けた。
「だが、私には大人しく捕まる気など微塵も無い。我々は傭兵だ。戦いを金づるとし、戦場を渡り歩いて生き延びて来たクズだ。我々が死ぬべき場所は、暗い独房ではなく、民草に見守られる処刑台でもないハズだ。
――戦争だ。人と人が殺し合う戦争の中こそ、我々がくたばるに相応しい死に場所だ。違うか?」
傭兵は、戦う為の存在だ。どんなに汚い命令だろうと依頼であれば実行し、罪の無い無垢なる人々が相手だろうと、依頼一つで虐殺する。
そんなロクデナシ集団が迎えるべき死は、
「最後の命令だ。
ここで潔く死のうぜ、ハイエナども! どうせ死ぬんなら、戦って死ね!!」
世界意志の統一、その礎として全ての罪を被って死ぬなど、まっぴら御免である。
『――勝手なコト抜かしやがって、テメェのミスだろうがよ』
コーネリアスの命令に、ロブはそう吐き捨てながらも――同じように邪悪に笑って、言った。
『だがまあ、もうしょうがねェな――良いぜ、乗ってやンよクソボス。依頼でもねェのにコソコソ逃げ回るくらいなら、死ンだ方がよっぽどマシだ。
だったら最期の最後まで、とびっきりの悪党を演じた方が面白ェよなァ!』
◇
ヘイムダル、ラファイエット級汎用戦艦「ゲーティア」でも、サントス基地の崩壊と異形の兵器の出現は観測していた。
「モビルアーマー…!? 何で、基地の下から!」
「地中を進むタイプは記憶が無い――こんな時に新型が出て来たのか…!? ジュリーさん、データ取れるか!?」
アグニカに言われ、通信を担当するオペレーターがデータ解析をする。――すると、驚くべき結果が表示された。
「主モニターに解析結果を出します。――この機体には、
「インナー・フレーム、って…あの見た目で、MSなんですか!?」
スヴァハが驚きと共に問うが、オペレーターは首を縦に振った。あまりに異形すぎて、一見するとMAだが、それは確かにMSであるらしい。
「可能ではあるんだろうが――正気じゃないな…」
その機体は、フレームがうつ伏せになった状態で、全身にエイハブ・リアクターとナノラミネートアーマーが組み付けられている。リアクターは実に七基も使用されており、その出力のほぼ全ては、背中に当たる部分に接続された極太の鞭に注がれ、故にこそ圧倒的な速度、威力、範囲、距離を有する。
オーガ・フレームを利用した異形のMS、その名を「酒呑」――伝説の鬼の名を持つ、攻撃に特化した化け物と呼ぶに相応しい機体である。
「ど、どうしようアグニカ…」
「――あんな実質MAみたいな化け物を、黙って見過ごす訳にも行かないだろ…! アレに『フヴェズルング』のボスが乗ってるなら、引きずり出して然るべき場所に連行するしかない!」
いくらMAのような異形とは言え、相手はMSであり、ラテンアメリアとの関与が発覚した組織。下手に関わるのは危険だ、とアグニカにも分かってはいるが――あんな破壊兵器を野放しにしておけば、どうなるか分かったものではない。
結局はアフリカンの予測通り、と言う訳だが、傍観しておける状況ではなくなっている。
「海岸から、複数のエイハブ・ウェーブ反応――固有周波数、『ベルゼビュート』のモノです! その他にも、複数のエイハブ・ウェーブを観測! 全て『フヴェズルング』所属機の模様!」
「往生際の悪い――行くぞ、スヴァハ!」
「うん…! 今度こそ、終わりにしないと!」
◇
「酒呑」のコクピットで、コーネリアスは周囲の状況を観測する。
敵はラテンアメリアのMS部隊と、空中にはヘイムダルの艦がいるようだ。ヘイムダルが突っかかってくるかは不明瞭だが、来た方が面白い――と、コーネリアスは思う。
「さて――まず目標は、サンパウロにしようか」
都市は堅牢なシェルターに守られているが、この酒呑の背部に装備された極太の鞭は、七基のエイハブ・リアクターの出力を一極集中させた超強力な格闘武装である。ガンダム・フレームのようにリアクターの同調はしていないが、それでも一点に攻撃を続ければ、都市シェルターだろうと破るコトは不可能ではない。
せっかく死がそこに来ているのだ。道連れは多い方が、ド派手で楽しいだろう。
『敵、移動を開始――サンパウロへ進路を取っている模様です!』
『…何をする気かは知らんが、市民に危害を加えようと言うなら、殺してでも食い止めねばなるまい。
全軍、戦闘を始めるぞ! 敵はフヴェズルング、世界最大の傭兵組織だが――MAとマトモに戦ったコトすら無い者達だ、恐れるな! 残存戦力も全て投入、サンパウロに近付けさせるなよ!』
ラテンアメリアのMS部隊が、混乱状態から即座に立て直し、戦闘態勢を整える。また、母艦に待機していた予備戦力のMSも全て発進。その中には、ガンダム・フレームすら含まれている。
「ほう、向かって来るか。民を守る為に戦う、随分とご立派なコトだが――」
酒呑の背中に装備される鞭が、瞬時に加速して振り回され始める。MS部隊を構成するアルカナ・フレーム、オーガ・フレームの機体が数機、空中に打ち上げられて分解させられた。
「――初期量産型のガラクタどもで、この『酒呑』の道を阻もうとはな!」
ラテンアメリアのMS部隊は、安価な初期のMSであるアルカナ・フレーム、オーガ・フレームが大半を占めている。ロディ・フレーム、ヘキサ・フレームの導入は遅れており、全体的に機体性能が低い。
無論、ヴァルキュリア・フレームやガンダム・フレームも存在しているし、つい先ほど高性能なマドナッグ・フレームのMS「ミシャンドラ」を強奪しているが――たかが数機の高性能機で、この戦力差は覆らない。
『ハズウェル小隊、ハーシェル小隊壊滅!』
『チ――中佐、一旦後退するぞ! 貴官の機体は、地上での作戦行動には向いていなかろう!』
『り、了解…!』
『マレット准佐、悪いが前線指揮を一度預ける!』
『引き受けました!!』
重量級MSであり、地上では巨大なバスターソードを扱いきれないパンサリー・キファラ中佐の「ヘルムヴィーゲ」と、強奪しただけで武装が不明、阿頼耶識システムにも対応していないラーペ・グラン准将の「ミシャンドラ」が後退。
入れ替わるように、メルヴィン・マレット准佐の「ガンダム・ガープ」が前に出て、双剣を振るって神速の鞭を弾き返した。
『うっ、とおしい!』
ガンダム・ガープ。
三十三番目のガンダム・フレームにして、その中でも最強格の戦闘能力を有する、強力な機体だ。武装は双剣、長剣、大鋏の三種の形態を使い分けるコトが出来る「ツインセイバー・シザース」、脚部のつま先と踵、腕部に接続された近接戦闘用の小型の刃「ハンターエッジ」と、ダインスレイヴを二本備えている。
高機動高出力と追従性をフルに生かした近接戦を本領とする、まさしくガンダム・フレームの面目躍如と称するに相応しいMSである。
「弾くとは――成る程、これがガンダム・フレームか。しかァし、この速度ならばどうかな!?」
酒呑が振るう鞭の速度が、急激に上昇する。二、三撃ほどを弾き返したガープだったが、捌ききれないと判断して飛び上がった瞬間、空中で連撃を浴びて叩き落とされる。
『ぐうあ――がッ!?』
七基のリアクター出力を全て注ぎ込み、振るわれる巨大で極太な一本の鞭。シンプルなコトこの上無いが、それ故に強力だ。事実、ガープは致命傷こそ避けたものの、空中で攻撃を受けたコトで右肩の装甲を粉砕されていた。
『メルヴィン准佐!』
『全機、一時距離を取れ! 奴の攻撃範囲に、不用意に侵入するな!』
近付いて来た部下の機体、アルカナ・フレームのMSを抱えて後ろに飛び上がるガープに、敵の鞭が追随。ガープは空中で機体を捻って避けるも、抱えられていた部下の機体は、一撃で腰を真っ二つに引き裂かれていた。
『MSのフレームを、こうも簡単に…!』
「ハハハハハ、どうしたガンダムとやら! 下がってばかりで私を止められる訳も無かろう!」
ガープは両腰のダインスレイヴを撃ち放つが、放たれた特殊KEP弾頭は鞭によって空中で切断され、彼方の方角へと吹き飛んで行ってしまう。
猛威を振るう酒呑の後方には、フヴェズルングのMS部隊が、三十機ほど追随している。最後の足掻きとしてサンパウロへの侵攻を開始した部隊に、上空から攻撃を開始した者達がいる。
「出来るだけ、殺さず無力化するぞ」
「殺さず、っつっても――出来んのか…? そもそも、あの化け物のコクピットはどこだよ?」
ヘイムダル、アグニカ・カイエルのチーム。
六機ものガンダム・フレームが、戦場に参戦すべく母艦から出撃し、降下しているが――パイロットは殺さず無力化し、捕らえる。この困難極まる命令に、「ガンダム・フォカロル」を駆るアマディス・クアークは困惑した。
「つべこべ言うな、アグニカに従えアマディス。それに、アレはああ見えてもMSだ。フレームが中に有る以上、コクピットの位置は同じ」
「そこだけ残して、
それに「ガンダム・オセ」のソロモン・カルネシエルと、「ガンダム・グラシャラボラス」の大駕・コリンズが答える。しかし、言うは易しという奴である。
「――そうだけど、攻撃って効くのかな…?」
「とにかく、撃ってみるしかない」
スヴァハ・リンレスの「ガンダム・アガレス」とトビー・メイの「ガンダム・アンドラス」がそれぞれライフルを構え、酒呑に向けて発砲する。
何発か放たれた口径百ミリ越えの弾丸は、重力も有って減速せず突き進み、酒呑に直撃したが――その装甲板は、ビクともしていない。
「…うん、この距離じゃ無理だね。近付いても、ライフルの威力で破れるかどうか――」
「鞭を避けて近付けるなら、直接組み付いて装甲を引き剥がした方が早いでしょ」
「大駕の言う通りだな。もしくはアグニカか私が、剣で直接解体するか」
「とにかく、あの鞭をかいくぐって懐に飛び込むしかない。――ッ、散開!」
アグニカが方針を決定したのと同時、六機のガンダム・フレームは敵の射程距離内に入ったらしく、鞭が目にも止まらぬ速度で飛来した。
六機はそれぞれ回避運動を取り、鞭を回避。俊敏にしなって追撃をかけて来る鞭に対し、アグニカ・カイエルの「ガンダム・バエル」は腰背部のホルダーから二振りの黄金の剣「バエル・ソード」を引き抜き、機体を縦回転させながらの連撃で弾き返す。
「速度は落としていないハズだが、対応して来た――成る程、アレが『ガンダム・バエル』か。ヘイムダルのガンダムは特別という訳だ。
ロブ、直衛は任せるぞ。アレを寄らせたら、私の機体などマグロのように解体されてお終いだよ」
酒呑の上に飛び乗っているマドナッグ・フレームのMS「ベルゼビュート」のコクピットで、ロブ・ダリモアは命令を受けて毒づいた。
「…オレに死ねってのかァ? 阿頼耶識が無ェ以上、あの反応速度に対応すンのはキチィんだがよ」
「身体に異物を埋め込むなンざまッぴらだ、と言ったのは君だろう? 諦めたまえ。
ああ、私の鞭が当たっても文句は言うなよ」
「ザケンじゃねェ、百万回目の来世でもブン殴ってほしいってのかァ? なら素直にそう言いやがれ、今すぐ月まで殴り飛ばしてやっからよォ」
「所詮、反応速度と出力に頼っている相手だ。お得意の腕っぷしで補ってみせたまえ」
ロブもコーネリアスも、阿頼耶識システムの施術は受けていない。それは、彼らが自身の腕に、絶対の自信を持っているからに他ならない。
複雑な制御システムを自在に操り、コーネリアスは酒呑の鞭を機動させる。その最高速度はダインスレイヴをすら上回り、威力は「天使長」のワイヤーブレード以上。マトモに食らえばフレームごと破壊される攻撃を、六機のガンダム・フレームは俊敏にかいくぐり、着実に酒呑へと接近する。
「こんな雑な攻撃で――!」
縦横無尽に振るわれる鞭をかわしつつ、バエルが上空から酒呑へと突撃して来る。鞭による迎撃さえ間に合わないほどの速度だが、その一撃はロブのベルゼビュートに弾かれた。続く鞭の攻撃をバエルは巧みに避け、右手にメイス、左手にソードを構えて襲い掛かって来たベルゼビュートの攻撃を、バエルは二本の剣を交差させて受け止める。
バエルは酒呑の上に着地し、ベルゼビュートと額をぶつけ合う。
「投降しろ、フヴェズルング! お前達の企みは、全て暴かれた! これ以上の抵抗は無駄だ!」
「うるせェンだよ偽善者どもがァ! オレ達ァ傭兵だ、法で裁かれるなンざお断りだ! 傭兵は傭兵として、戦場で死ぬ! 罪人として、法廷なンぞで死ンでたまるかッてンだよ!」
ベルゼビュートが一歩踏み込み、メイスとソードを外側へと振り切って、バエルの剣を弾き返す。しかし、バエルはその反動を利用して左足で回すように蹴り、ベルゼビュートの右手に握られたメイスを上空へと放り出させた。
「チッ…!」
ロブは舌打ちしつつも、背中のサブアームが握るビーム・サーベルを発振させ、バエルの左足の膝裏に突き立てる。ナノラミネートアーマーに守られていない関節部が焼かれたが、バエルはスラスターウィングを吹かせてベルゼビュートとの距離を取る。
すかさず襲って来た酒呑の鞭を、バエルは空中で機体を回転させて振ったバエル・ソードで弾く。その隙に、空中に放り出されてから落下して来たメイスをキャッチしたベルゼビュートは、メイスの先をバエルに向けた。
「決着を付けようじゃねェか、
「――やるしか、ないのか…!」
七十二柱の悪魔「バエル」と、魔界の支配者「ベルゼビュート」。
名の起源を同じくする鋼鉄の人形が、今まさに、雌雄を決すべく激突する―――!
◇
酒呑が振るう鞭の猛攻は続く。また、酒呑に随伴するフヴェズルングのMSによる攻撃も。
その大半がオーガ・フレームの隠密型MS「源熊」であり、ヘイムダルに対して散弾銃を放ち、棍棒を以て接近戦を仕掛けて来る。元々直接戦闘を想定しておらず、MA戦の為に在るガンダム・フレームに敵う訳も無いと言うのに。
「――どうして、まだ…!」
地上スレスレを滑るように移動する「ガンダム・アガレス」は、それらを見事な回避運動で凌ぎ、アガレス・ライフルの射撃や銃身下部のジュッテで関節部、メインカメラを破壊して回っていた。少しでも意識を逸らすと、酒呑の鞭による攻撃に晒されるが、阿頼耶識の反応速度を以てすれば避けられないレベルではない。
ふとスヴァハが酒呑の方に視線を向けると、その巨大な機体の上で、バエルとベルゼビュートが火花を散らして接近戦を行っているのが見えた。
「アグニカ…!」
援護射撃をしようと、アガレスは二本の銃口をベルゼビュートに向ける。近接戦中である以上、普通は味方に当たるコトを恐れて援護などしないが、射撃を得意とするスヴァハに限っては別だ。
照準を合わせ、いざ引き金を引こうとした時――一機のMSがアガレスに接近し、バスターソードを振り下ろした。
「ロブの
「…!?」
アガレスは咄嗟に機体をひねり、右手に持つライフルの銃身下部に装備されたジュッテで、その攻撃を受け止めた。攻撃を行ったのは、ロブ・ダリモアのチームメンバーの一人、ピラール・ハーディングが操るヘキサ・フレームの隠密機「ダアト」だ。
ダアトはバスターソードを振り切り、アガレスを押し返す。距離が離れた瞬間、アガレスは二本のライフルを構え、一斉射。ダアトの全身の関節部に弾を撃ち込み、右手に握られたバスターソードの柄も正確に撃ち抜いた。ダアトは剣を取りこぼしたが、怯むコト無くアガレスに接近をかける。
「うわあああああ―――!」
左手で腰背部に持っていたもう一本のバスターソードを引き抜き、アガレスに斬りかかる。それを、アガレスは再びジュッテで防ぐ。
鍔迫り合いが始まり、バスターソードとジュッテの刃が火花を散らす。重量の差から押され始めた為、アガレスはもう片方のジュッテを交差させ、防御に徹する形を取る。
「ロブはやらせない! これ以上、何も
「――女、の子…!? そんな、どうしてフヴェズルングに…!」
「アンタ達は、
ダアトが右足で蹴りを放ち、アガレスはそれを胸部に受けた。衝撃で全身を打ち付けられながら、咄嗟の判断でアガレスは飛び上がったが――その時、酒呑の鞭が走り、アガレスに襲いかかった。
「ッ…!」
アガレスは間一髪で直撃を避けたが、右手に握っていたライフルが、鞭により半ばから切断された。ジャンプしてバスターソードを振って来るダアトに対し、アガレスは暴発寸前のライフルの残骸を投げつける。
「ああッ!」
ダアトに接触した瞬間、弾薬が暴発。ピラールが怯んだ瞬間、アガレスはスラスターウィングを吹かせ、圧倒的な機動力を発揮してダアトの背後に回り込んだ。
右膝側面のナイフを右手で引き抜き、ダアトの背中に突き立て、スラスターを破壊。空中で推進力を失ったダアトは自由落下し、地上へと叩き付けられた。
「
ピラールが絶叫するが、滞空するアガレスには届かない。そのコクピットで、スヴァハはほんの一瞬だけ目を伏せ――残敵の掃討の為、飛翔した。
◇
隠密機で構成されたフヴェズルングのMS隊は、ほぼ掃討されつつあった。
ヘイムダルのチームの中でも、特に戦闘能力に特化した機体が集まっているのが、アグニカ・カイエルが率いるチームだ。フヴェズルングは確かに練度の高い傭兵が集まる組織だが、ヘイムダルもまた、何年もの訓練を積んだ上で、前線でMAなる化け物と戦い続けて来た。
戦闘経験、操縦技術において大差が無い以上、機体の性能差と阿頼耶識の有無による反応速度の差――この二点が、戦力の絶対的差となったのだ。
「大駕、殺してないよね!?」
「…胴体と頭には攻撃してない。人が乗ってるんだろ、アレ」
グラシャラボラスのテイルブレードが、フヴェズルングのMSの四肢を奪い、次々と無力化する。その駆動速度の前に、歴戦の傭兵達が手をこまねいている間に、アンドラスやフォカロル、オセの攻撃が面白いほどに敵の戦闘能力だけを奪い去って行く。
また、一時後退していたラテンアメリアのMS隊も戦線に復帰して来た。数においても、フヴェズルングは劣勢に立たされている形だ。
「――こちらはほぼ全滅、全く酷い有り様だ。核の一つや二つくらい、用意しとくべきだったか?」
戦場の中心部にいる、うつ伏せにしたオーガ・フレームに七基のエイハブ・リアクターと装甲を組み付けまくり、機体上部に極太かつ長大な鞭を取り付けた異形のMS――「酒呑」のコクピットで、フヴェズルングのボス、コーネリアス・エイヴリングは、鞭を縦横無尽に機動させつつも舌打ちした。
七基のリアクター出力を集中させた鞭の攻撃を休み無く続けるコトで、流石のヘイムダルとラテンアメリアの精鋭部隊にも防戦を強いているが――本当に首都「サンパウロ」が攻撃圏内に迫れば、なりふり構わない手段を取って来るだろう。
いくら強力な武装を持っていると言えども、ダインスレイヴなり何なりを無数に撃ち込まれては、対処しきれなくなる。
「元々、死に場所を求めての負け戦だ。どうなろうと知ったコトではないが――」
このまますり潰されると言うのも、些か面白くないようにコーネリアスは思う。もうちょっと派手な武器を付けとくんだった、とも。
一方、攻め
「ただ、肝心のボスがこの様子じゃあな」
「スピードが速すぎるよね…一機が止めて残りで突っ込もうにも、すぐに戻って来るから意味無いし」
「…何とか千切れないのか?」
「難しいだろうな。アレはグラシャラボラスのテイルブレードと同じ、特殊超硬合金のワイヤーで造られている。恐らく、アグニカの剣でも――」
まさにシンプル・イズ・ザ・ベストな武装だ。
ワイヤーブレードと違って、先端にブレードが付いていないだけまだマシだが、あれほどの速度で振るわれる以上、全面が凶器と化している。しがみついて押さえ込むコトも出来ない。
ドン詰まりであるコトを悟り、ヘイムダルの面々が唸り出した頃―――戦局が、大きく変わった。
「――!? 上空に、新たなエイハブ・ウェーブの反応です!」
「高度、一万二千――数、二十を超えています!」
「何だと…!?」
その兆候を最初に捉えたのは、戦場の上空で待機していたヘイムダルのラファイエット級汎用戦艦「ゲーティア」だった。
光学映像で、そのエイハブ・ウェーブの発生源を観測したゲーティアでは――誰もが、恐怖で目を見開いた。
「――上空に、エイハブ・ウェーブだと!?」
それは、地上のヘイムダルもラテンアメリア軍も――フヴェズルングにとっても、驚愕を覚える事態だった。そして、変化はそれだけに留まらない。
『准将、上空から何かが降って――ッ、ミサイルです!!』
『な、まさか…奴ら、このタイミングで!?』
無数のミサイルが、戦場に降り注いだ。
ヘイムダルもラテンアメリア軍もフヴェズルングもお構い無しに破壊を広げる、ミサイルの雨。全員が一様に回避、防御運動を取った。
「――ああ、面白くなって来たな。期待通りと言えば期待通り、予想外と言えば予想外だ」
鞭でミサイルを迎撃しながら、コーネリアスはまた、凶悪に笑う。心底から歓喜を感じながら、コーネリアスは神託を受けた信者が如く、新たなる参加者を歓迎する――!
「来たか、モビルアーマー!」
第五十一話「悪戯な神は裁きに堪えず」をご覧頂き、ありがとうございました。
ちなみに今回のサブタイは、次回のサブタイとも繋がる感じになっております。
これまでのサブタイを目次で見返してみて、「もうちょっとオサレにしてぇなー」と思った結果、たまには凝ってみたつもりです。センスが欲しい。
一応元ネタが有りまして、旧約聖書の詩篇1:5「それ故、悪しき者は裁きに耐えない。罪人は正しい者の集いに立つことが出来ない」(訳し方によって細かい表現は変わりますけど)をもじってます。
《新規機体》
YFK-99S 酒呑
・フヴェズルングのボス、コーネリアス・エイヴリングの機体。
・見た目はMAだが、オーガ・フレームが素体なので一応MS扱い。七基もリアクターを積んでいるくせに、やれるコトと言ったら鞭をブンブンするコトだけである。造った奴は頭がおかしい(誉め言葉)
ASW-G-33 ガンダム・ガープ
・ラテンアメリア、メルヴィン・マレット准佐の機体。
・面白い武器を持っている上、元ネタ的にはソロモンの悪魔の中でも最強格なのだが、あまり活躍が無かった…。いつか大暴れさせたいと思います。
《今回のまとめ》
・酒呑さん、案を頂いたは良いがゲテモノ過ぎてどこに出すか迷った結果、こうなりました
・一応ヘイムダルは不殺してます
・MAの皆様、飛び入り参加
次回「光の集いに立つ時は来ない」