厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

58 / 110
夏アニメが豊作で嬉しい。


#52 光の集いに立つ時は来ない

 ヘイムダルとフヴェズルング。

 その決戦の場に、最後の参加者が楔を打ち込む。

 

「来たか、モビルアーマー!」

 

 悪戯な神(フヴェズルング)は、天使の気まぐれを歓迎し。

 

「――こんな時に、上から来やがった…!?」

 

 世界の光(ヘイムダル)は、天使の気まぐれに辟易した。

 

「MAの、爆撃だと――!?」

「よそ見たァ、随分と余裕じゃねェか!」

 

 ヘイムダルのアグニカ・カイエルが駆る「ガンダム・バエル」は、以前としてフヴェズルングのロブ・ダリモアが操る「ベルゼビュート」と打ち合っていた。

 MAが現れた以上、ヘイムダルは何よりもMAの撃破を優先しなければならない。だが、フヴェズルングと刃を交えている今、そう思い通りには出来ないだろう。実際、バエルはベルゼビュートにかかりきりで、戦場から少し離れてしまっている。

 

(クソ――頼むぞ、みんな…!)

 

 アグニカは、戦場の渦中に在る仲間を信じ、眼前の機体に意識を戻した。一刻も早く敵を倒し、MAを相手にせねばならないのだから――!

 

「MA、降下して来るぞ! 見た所、初期型の爆撃機だけだが――」

「タイミングが酷すぎるな…フザケてるのか…!」

 

 「ガンダム・フォカロル」のアマディス・クアーク、「ガンダム・オセ」のソロモン・カルネシエルと「ガンダム・アンドラス」のトビー・メイ、「ガンダム・グラシャラボラス」の大駕・コリンズ。

 ヘイムダルのアグニカチームに属する四人は、眼前のフヴェズルングのボスが駆る異形のモビルスーツに気を配りつつ、星一つ無い暗黒の夜空を呆然と見上げる。

 すると、MAが第二射を放ったコトを察知したので、四機は一斉に飛び去って回避した。

 

「さて、どうするよ? ものの見事に三つ巴の戦場が完成したってワケだが」

 

 うつ伏せにしたオーガ・フレームに、幾つものエイハブ・リアクターと装甲を盛り付け、長大極太のワイヤーを機体上部に接続したMS「酒呑」のコクピットで、フヴェズルングのボス――コーネリアス・エイヴリングは、心底楽しそうに問い掛けた。

 無論、通信など繋がってはいないが――この状況で、こう問わずにいられる人間がいようか。

 

「せめて最期は戦場で死にたい、なんて下らないプライドの為に始めた『戦争』だったが――まさか、ここまで愉快になってくれるとはな!

 全く、これだから戦争は止められない…!」

 

 彼は戦争を愛する。

 人と人の殺し合いを、生死を天秤にかけた仁義無き闘争こそが彼の大好物であり、それこそが死んでやるに値する戦場だ。無人機との殴り合いなど全く退屈なモノだと、彼は断言して来たが――ここまで気が利くポンコツなら、少しは見直してやろう。

 

「賽は投げられ、今ここに役者は全て集った! さあ諸君、散々おままごとに勤しんで来た人類よ!

 ――三度の飯にも勝る、クソほど楽しい恒例行事を! 『戦争』をしようじゃないか!!」

 

 このように宣言し、コーネリアスはコクピットで高笑いする。

 これに対して、ヘイムダルは今一度、作戦を考える。MAの介入は思わぬ事態だが、利用すればコーネリアスの酒呑を討ち破れるかも知れない。

 

「空中のMAは、私がやる。みんなはラテンアメリアの人達と協力して、フヴェズルングを」

「――スヴァハ? まさか、一人で全機を殲滅する気か…?」

「無茶だ! 敵は二十機以上いる、今のアガレスの装備じゃ――!」

 

 スヴァハ・リンレスの「ガンダム・アガレス」が四人に合流し、一方的にそう告げた。それに、ソロモンとアマディスが反対する。

 敵が空中にいる以上、確かにスラスターウィングによって高機動力を確保しているアガレスかバエルが倒しに行くのは正道だ。バエルがベルゼビュートとの一騎打ちに臨んでいる現状、空中の敵にはアガレスが対応するしかない。

 しかし、アガレスはライフルとナイフを一本ずつ失っている。戦闘も補給無しで長時間続いており、推進剤にも余裕は無いだろう。

 

「四の五の言ってる状況じゃないよ。サブリーダーとして、アグニカの代わりの命令。

 ――私も、たまには命を懸けないとね」

 

 そう言い残して、スヴァハはアガレスを上昇させた。残りの四人は歯噛みするも、眼前の酒呑に視線を戻し――一斉に、突撃を開始した。

 

「…何だ? 苦し紛れの玉砕か? もう少しデキると思っていたんだが――ガッカリにも程が有るぞ、ヘイムダル」

 

 コーネリアスは落胆したように言いつつも、酒呑に容赦無く、全速で鞭を機動させる――!

 

 

   ◇

 

 

 空中に現れたMAは、初期爆撃型「ザフィエル」による二十機編隊と、初期輸送型「サハクィエル」が一機――加えて、サハクィエルの五枚の翼の下に、MAが一機ずつ配置されている。

 いずれも中期型。レールガン、ビーム砲、パイルバンカー、ミサイルポッドを持つ「カマエル」と、四肢がチェーンソーとなった「アルメルス」が二機ずつ、加えてビッグシザースとハンマーを装備した「シマピシエル」の一機。

 マトモな防御力を持たないザフィエルとサハクィエルはともかく、中期型の三タイプは厄介だ。

 

(予備カートリッジ一本、残弾は四十七発。

 推進剤も残り少ない――空中戦の限界時間は、三百秒!)

 

 その間に、二十六機ものMAを殲滅する。如何にガンダム・フレームとは言え、ギリギリの戦いになるだろうが――それでも、やらなければならない。

 上空のザフィエル達が、接近して来るアガレスに気付いたようだ。円を描くように編隊を組み、旋回する傘の底が火を吐き、無数のミサイルを射出。その全てが、アガレスめがけて落下する。

 

「――行くよ、アガレス!」

 

 頭に鋭い痛みが走ると共に、感覚が拡張する。時間の流れが停滞し、接近するミサイルが遅くなり、その軌道が手に取るように探知出来る。本当に翼が背中に生えたかのように、機体と肉体が完全にリンクする。

 ガンダム・アガレスの双眸が血の赤を排出し、ミサイル群を前にして、あろうことか一気に加速。全身の姿勢制御用エイハブ・スラスターを巧みに噴出させ、急加速と急制動を繰り返しながら、神懸かり的な回避運動で、アガレスはミサイルの全弾を凌ぎきった。

 しかし、これほどの機動をすれば、リアクターの重力制御など到底間に合わない。全身を衝撃に打ち付けられるが、スヴァハは歯を食いしばって耐え、更にペダルを深々と踏み込む。

 

「ヅ――ッ!」

 

 そのまま上昇を続けたアガレスは、ザフィエルの編隊を突破し、一転して傘を見下ろす。飛び越えざまにアガレスがライフルを振ったコトで、ザフィエルの一機が傘を斬り裂かれ、落下していく。

 アガレスは右手に持ったライフルを構え、連続発射。途中でカートリッジを交換しながら、二十機中十七機を一息に撃ち落とした。

 

「熱源…!」

 

 しかし、黙ってやられるほど、MAはお行儀が良い訳でもない。更に上空のサハクィエルが従える二機のカマエルが、ビーム砲とレールガンを撃つと同時、ザフィエルの残り三機も機体を回転させてミサイルポッドからミサイルを放つ。

 挟み撃ちの形だが、アガレスはまずビームとレールガンを避けた。下に向けて放たれたビームとレールガンは、ザフィエルが放ったミサイルの幾つかに直撃し、爆発。二本のビームがザフィエルの一機に突き刺さり、同士討ちになる。

 それでも向かって来るミサイルを、アガレスはライフルの銃身下部のジュッテで斬り裂き、左手に構えたナイフを振って爆発させた。

 

「後、百二十五秒!」

 

 一転して夜空にライフルを向け、二発を発砲。

 重力に逆らっての砲撃、かつ高度も高く実弾は直進などしないが――その程度の照準誤差修正など、阿頼耶識なら感覚でやってのけられる。

 一発は外れたが、二発目は五翼の天使サハクィエル、その中心に直撃。軽量化したが故に薄くなった装甲を百三十ミリ弾が貫き、中枢コンピューター部を破壊した。サハクィエルの落下が始まる中、その五翼の下にいた五機の天使は、サハクィエルから離れて自身の翼を広げ、アガレスに空中戦を挑む。

 

「自由落下しか出来ない敵に――!」

 

 カマエルが翼に装備するレールガンは、風圧と気流、姿勢制御とスラスターを全開にしているコトから、最早マトモに照準は出来ない。二機のカマエルから頭部のビーム砲が放たれるが、アガレスは片方を左腕、もう片方を右足のナノラミネートアーマーで受け流す。

 同時に右手のライフルを一機に向け、四発ほど発射。翼と胴体を繋ぐフレームに三発が直撃し、片翼をもがれたカマエルは、バランスを崩されて錐揉み回転しながら落下して行く。アガレスは速やかに左手のナイフと右手のライフルを持ち替え、もう一機のカマエルにも同じようにライフルを斉射。こちらも翼を奪われ、落下する。

 

「後、五機…!」

 

 四肢のチェーンソーを振るうアルメルスが、二機同時にアガレスに襲いかかる。アガレスはスラスターウィングを方向転換させ、二機からの攻撃を避けるついでに、一機の背後に回り込んだ。

 

「せーのっ!」

 

 そして背中からアルメルスを思い切り蹴飛ばし、二機を衝突させた。二機のアルメルスが互いにチェーンソーで傷付け合い、火花を散らす中、アガレスはライフルを撃つ。スラスターを破壊されたアルメルスは、組み合ったままこちらも落下し、ザフィエルを一機巻き込みながら墜ちる。

 残り一機となったザフィエルが放ったミサイルを回避しながら、アガレスが最後の強敵、シマピシエルが振り下ろして来たハンマーをライフルで受け止めると、ライフルはへし折れて爆発。得意武器を奪われたアガレスを仕留めるべく、シマピシエルは頭部のビッグシザースを開き、アガレスに組み付かんとする。

 

「このッ…!」

 

 アガレスがナイフを突き出し、シマピシエルの胴体が貫かれる。しかし、浅い。コンピューター部には届いていなかったが、シマピシエルが一瞬怯んだ隙にアガレスは拳をビッグシザースの側面に打ち込み、地面へと殴り飛ばした。

 いくら接近戦を想定していようと、シマピシエルの機動力で滞空し続けるコトは不可能。砲撃装備を持たない分、距離を離してしまえば―――

 

「――な!?」

 

 ――スヴァハのその見立ては、破られた。

 シマピシエルの下に最後の一機となったザフィエルが滑り込み、シマピシエルはそれを土台としてジャンプしたのだ。

 ハンマーを振りかぶり、突撃して来るシマピシエル。だが、スヴァハにはその動きがハッキリと見えている。回避は易い、とアガレスはスラスターウィングで機動しようとしたが。

 

 アガレスの推進剤は、無慈悲にも底をついた。

 

「うわっ…!」

 

 ガクン、と重力に引っ張られる。落下を始めたアガレスの上に到達したシマピシエルは、スラスターを吹かせてアガレスに組み付いた。

 このまま落下すれば、アガレスはシマピシエルの下敷きになる。胴体に突き刺さったままのナイフを押し込むコトが出来れば、シマピシエルを殺せるかも知れないが、シマピシエルは停止時、増幅したエイハブ・ウェーブを放出する機能を備える。組み付かれた状態でそれを食らえば、人間の脳は電子レンジにかけられるが如くシェイクされ、破壊される。

 

「そんな、私はまだ死にたく…死ねないのに――」

 

 アガレスは全身の姿勢制御用スラスターを全力運転させるが、元々エイハブ・スラスターは、燃料切れが無いものの熱相転移スラスターに比べて出力が弱く、メインスラスターとしては採用されなかった代物だ。そんな物をいくら吹かそうと、重力には太刀打ち出来ない。

 加えて、今はシマピシエルに組み付かれている。地面に叩きつけられて下敷きになれば、ナノラミネートアーマーだろうと保たない。破壊して下敷きだけは免れようとしても、増幅されたエイハブ・ウェーブに脳みそを焼き切られて廃人ルートだ。

 

 死ぬのが怖いか。怖いに決まっている。

 死にたくないから、戦っているのに。死なせたくないから、銃を取ると決めたのに。

 こんな所で、死ねる訳がない。死ぬ訳には、行かないのに―――

 

(―――ゴメンね、アグニカ)

 

 アガレスとシマピシエルが、地上に激突する――直前。

 

 

 シマピシエルが、横から蹴り飛ばされた。

 

 

 そして、アガレスの左腕を何者かが掴み、持ち上げて落下の勢いを殺した。蹴り飛ばされたシマピシエルは地上に叩き付けられ、その衝撃でアガレスに突き立てられたナイフが深々と胴体に食い込んだコトで、あっさりとその機能を停止させる。

 「覚醒」が終わり、平常時の水色の瞳に戻ったアガレスが、左腕を掴み上げる機体を見上げた。

 

 純白の装甲を持ち、戦闘機が如き翼を広げるガンダム・フレーム。

 大剣の一本を携えるのみでありながら、最強の悪魔の一柱として地獄を統べる、王たる機体の一機。そのパイロットは、スヴァハも良く知る人物だ。

 

「――ギリギリだったな。無事か、スヴァハ」

「…ドワーム!」

 

 その悪魔の名は、ガンダム・ベリアル。

 パイロットはドワーム・エリオン――ヘイムダルの一チームを預かる、最優の指揮官である。

 

 

   ◇

 

 

 戦場に、更なる悪魔が降臨する。

 空を裂き、大地を割る「酒呑」の鞭が、空中で弾き返される。しなってすかさず反撃に入るも、対応される。繰り返すコトに四度、いずれも防がれた。

 

「ッ、何だ――新たなエイハブ・ウェーブ…!?」

 

 酒呑のコクピットで、フヴェズルングのボス――コーネリアス・エイヴリングは、怪訝な表情を浮かべる。しかし、それはすぐに焦燥へと変わる。

 彼が見据えるモニターが、赤い光と共に警告を発する。正面の操作パネルに無数の文字が走り、謎のプログラムがシステムを書き換えて行く。

 

「な、これは一体――ウイルスだと!?」

 

 コーネリアスはパネルを叩き、乗っ取られかけたメインシステムを全削除し、サブシステムへの切り替えを行った。ただ、コーネリアスがシステム制御に注力した一瞬、絶えず振るわれていた鞭は停止した為、何機ものガンダム・フレームは酒呑の懐に飛び込んでいた。

 グラシャラボラスが装甲を引き剥がし、オセが双剣を突き立て、アンドラスが剣を差し込んだ装甲の隙間に銃口を突っ込んで引き金を引き、フォカロルは槍で貫くと同時に電撃を帯びたワイヤーアンカーを固定させる。

 

「クソ、小癪な真似を…何者だ!?」

 

 増援として現れ、酒呑に攻撃を加えるは、三機のガンダム・フレームだ。

 コンピューターウイルスをバラまく機能を有するオーウェン・フレッチャーの「ガンダム・ブエル」と、四肢を大剣とするバリー・モンクトンの「ガンダム・ヴァプラ」、飛行ユニットによって大気圏内での高機動を実現するカサンドラ・ミラージの「ガンダム・アスタロト」――ラファイエット級汎用戦艦二番艦「サロモニス」を母艦とする、ドワーム・エリオンのチームに属する機体である。

 酒呑は取り付いた四機を排除すべく、鞭を振るおうとするが、空中でヴァプラとアスタロトに阻まれてしまい、思うように出来ない。

 

「ドワーム、どうしてここに…?」

「改革派のクーデターでラテンアメリアの大統領が拘束されたコトで、依頼者(クライアント)を失ったフヴェズルングが暴れ出し、それとアグニカのチームが交戦し始めた――と、ディヤウスさんから聞いた。何とか、間に合ったようだな」

 

 スヴァハの問いに、ドワームはそう答えた。アグニカチームがイマイチ把握しきれていなかったラテンアメリアの動きも、上手く伝えるように。

 ドワームは乗機たる「ガンダム・ベリアル」にアガレスを優しく地上に誘導させ、大剣「グラム」を構え直させた。ラテンアメリアの「ガンダム・ガープ」も合わせれば、これで十一機ものガンダム・フレームが、戦場に集ったコトになる。

 

「スヴァハ。アレにフヴェズルングのボスが乗ってるんだな?」

「う、うん。ただ、生かして捕まえないと…」

「分かっている。オーウェン、コクピットの位置は特定出来たか?」

「ああ。さっきウイルスをブチ込んだ時、機体データは奪えた。全機に転送する」

 

 これで、酒呑は丸裸にされたも同然だ。

 武装もコクピットの位置も完全にバレて、既に四機ものガンダム・フレームに取り付かれて分解され始めている。もう、そう時間は掛からないだろう。

 

「――自爆はすると思うか?」

「安心しろ。さっきの電子戦で、自爆シークエンスのデータは全消去しておいた」

「良い仕事だ、オーウェン。…さあ、最後の仕上げだ! ボスとやらを引きずり出すぞ!!」

 

 ベリアルが飛び上がり、上空からコクピットめがけて飛翔する。コーネリアスもヤケクソなのか、駄々をこねるかのように鞭が振るわれるが、ベリアルはそれをあっさりと打ち払って進む。

 しなって背後から舞い戻った鞭は、アスタロトのスレッジハンマーが弾き飛ばした。そればかりか、酒呑は四機のガンダムによって解体され、既に三基のエイハブ・リアクターを引き剥がされたコトで、鞭自体の出力も半分以下にまで落ちている。

 

「おのれ――本物の戦争すら知らぬ小童どもに、この酒呑が…この私が、破れる訳が無い!

 私はコーネリアス・エイヴリングだぞ、フヴェズルングのボスなのだぞ! 私に敗北は有り得ない! 私は、私こそが勝利に向かうハズなのだッ!!」

「――世界をかき乱した裁きは、受けてもらう!」

「勝ったような口を利いてんじゃあないぞッ!!! まだ終わっていない、終わってなるモノか!!!

 戦争はまだまだこれから――」

 

 コクピットを守る装甲を、ベリアルの大剣が跳ね上げる。同時に、剥き出しになったコクピットの真上で、ベリアルが頭部から放った閃光弾が炸裂。至近距離でマトモに見てしまったコーネリアスは、目を押さえて絶叫した。

 

「――があああああああああ!!!」

 

 ドワームはベリアルのコクピットから飛び降り、視界を奪われたコーネリアスの襟を掴んでコクピットから引きずり出し、全力で殴り飛ばした。

 

「ごばァッ…!」

 

 酒呑の上部装甲の上に投げ出されたコーネリアスは、その場で意識を失った。ドワームは息を吐き、未だに一騎打ちが続いているらしい、夜明けを控えて明るくなって来た東に目を向けた。

 

「――最後の仕上げは任せるぞ、アグニカ」

 

 

   ◇

 

 

 雲に覆われていた空が晴れ渡ると共に、星は西へと沈んで行く。東の空は漆黒から一転して桃色に染まり、鋼鉄の兵器に光という名の恵みを降り注がせ始めた。

 

「クソ、しぶてェンだよ…!」

 

 マドナッグ・フレームのMS、名を「ベルゼビュート」――そのコクピットに座すロブ・ダリモアは、汗を掻きながらも操縦桿を引く。

 

「――もう終わりだ、機体を捨てて投降しろ!」

 

 これに相対するは、ガンダム・フレーム一番機「ガンダム・バエル」――アグニカ・カイエルは、地面を滑りながら敵の攻撃を黄金の剣で捌く。

 交戦開始から、既に一時間以上。互いに限界が近づいている。機体も、パイロットも。

 

「聞き飽きてンだよ…! 投降はしねェ、生きるか死ぬかしか無ェのが戦場だろうが! そンなコトも分かンねェのか、だとすりゃ随分とか弱いオツムしてンなァオイ!!」

 

 右手にメイス、左手に剣、背中から生やすサブアームにはビーム・サーベルとシールド。魔界の支配者、蠅の王(ベルゼビュート)――その名を名乗りながら、生命の樹(セフィロト)四大天使(セフィラ)を象徴する武装を操る機体が、メイスを振って敵を打ち砕かんとする。

 

「…お前たちのボスは、既に俺たちが無力化して拘束した! これ以上戦う理由は何だ、お前は何故まだ戦うんだ!? 何の意味が有る!?」

 

 それを、悪魔の王(バエル)は両手に握る二振りの剣「バエル・ソード」で一蹴した。白青の装甲を纏い、スラスターウィングを背負う機体は、黄金の剣を交差させて突撃を仕掛け、ベルゼビュートが左手に握る剣と激突した。

 

「くっだらねェコト聞いてンなよクソガキが!

 戦いに意味なンて有るかよ! オレらはただ、戦いてェから戦ってンだ! 人間ってのァ、そうやって生きて来た動物だろうが! 戦って生き、戦いの中で死ぬ! それがオレらの望みだ!」

 

 火花を散らせ、バエルの双剣とベルゼビュートの棍剣が斬り結び、ぶつかり合う。互いに残りわずかとなった推進剤を吹かせ、一歩も引かずに敵を見据える――!

 

「お前たちは、戦場を混乱させるだけだ! それでどれだけの人を苦しめた…!?」

「だから何だってんだァ!? テメェらにだけは言われたかねェなァ! つまらねェ大義を掲げて、全世界に破壊兵器(オモチャ)をバラまいて、見るに堪えねェ茶番劇に興じていやがる! ピーピー喚いてハシャいでンじゃねェぞ!!」

 

 最早、二人の間で会話など通用しない。

 身勝手で道理の通らない理論を振りかざすロブ・ダリモアという男と分かり合うコトなど、永久に不可能だとアグニカは理解した。主義も思想も、交わる点が一点たりとも存在しない。

 大切な人を守る為に剣を取ったアグニカ・カイエルと、自分が楽しむ為に力を振るうロブ・ダリモア――北欧の光神(ヘイムダル)と、北欧の神敵(フヴェズルング)

 その名の通り、まさしく互いは仇敵と言えよう。

 

 ならば、残された手はただ一つ。

 暴力を以て、相手をねじ伏せるしかない――!

 

「消え失せろ、クソガキ!!」

 

 ベルゼビュートが、左のサブアームに装備された盾を突き出す。バエルが繰り出した斬撃は弾き返され、アグニカは舌打ちと共に機体を後退させ、スラスターウィングに内蔵されたレールガンを牽制として撃ち放つ。これをビーム・サーベルの一閃で引き裂いたベルゼビュートが大きく前進し、左手の剣を横に振るうと共に、右手のメイスを突き出した。

 ベルゼビュートの剣を右の剣で受け流し、メイスに左の剣の柄を打ち付けたバエルだったが――ベルゼビュートがメイスを振り上げたコトで、バエルは左手の剣を取りこぼした。

 

「何だと――!?」

 

 アグニカは狼狽しつつ、バエルの左足で即座にベルゼビュートの右手を蹴り上げ、メイスを取りこぼさせる。しかし、この左足をベルゼビュートが右手で掴み、グッと引っ張ったコトで、バエルは接地していた右足から滑らさせられ、体勢を崩された。

 バエルは残った右の剣を振るも、ベルゼビュートのサブアームが装備するシールドで防がれた。そして、その隙を見逃すロブではない。

 

「くたばれ!!!」

 

 ベルゼビュートが左手の剣を持ち上げ、バエルに向けて振り下ろす。一秒も経たぬ間に、ベルゼビュートの剣はバエルのコクピットを斬り裂く。

 ロブが勝利を確信した、その時――バエルが、この完璧な一撃に反応を見せた。

 

 左手に握っていた剣を手放し。

 右手と左手で、ベルゼビュートが振り下ろして来る剣の刀身を挟み込み。

 

 

 ベルゼビュートの剣を、叩き折った――!

 

 

「な、ン…白刃取りを――!?」

 

 同時にスラスターウィングを吹かせ、たちまちバエルは浮き上がり、空中で勢い良く回転。左足の脛部分で、ベルゼビュートの頭部に蹴りを入れ、ベルゼビュートは全身を回転させられ――思い切り、地面へと叩きつけられた。

 

「ぐあァアッ!!」

 

 放り出した二本の剣を拾い、バエルは地に落ちたベルゼビュートに肉薄。ベルゼビュートがメチャクチャに振り回す二本のサブアームを一撃の下に纏めて切断せしめ、両手の剣を逆手に持ち替えて振り上げ、ベルゼビュートの胴体を貫いた。

 コクピットブロックを挟み込むように突き立ったバエル・ソードは、ベルゼビュートを地に縫い止めて固定し、動きを封じる。バエルの右手がベルゼビュートのコクピットハッチを引き剥がし、左手の握り締めた拳で胴体を殴りつける。衝撃がダイレクトに伝わったコトで、軽く頭を打ったロブは、そのまま失神した。

 

「――お前が死ぬ場所は戦場じゃない。法廷だ」

 

 推進剤の枯渇を告げる警告音を聞きながら、アグニカは一言、そう告げた。




第五十二話「光の集いに立つ時は来ない」をご覧頂き、ありがとうございました。

二話丸々使うとは思ってませんでしたが、ともかくこれでフヴェズルングとの戦いは終了。
そして、(多分)今作最後のMS対MSの戦いでした。
最近ちょっと本筋から離れてましたけど、厄祭戦の敵はあくまでMAであって、人間であってはならないハズですからね。


《今回のまとめ》
・スヴァハちゃん強くない?
・ドワームチーム参戦の伏線は50話冒頭を参照
・ヘイムダルの皆様、マジで強い模様




次回「暗躍の終わり」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。