厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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私にしては間が空かず投稿出来たと思うんですが、どうだろうか(誰に裁定を求めているのか)
それはそうと、今回で第五章は最後になります。


#60 光は止まれない

 今回の火星防衛戦は、開戦から四時間強を経て、ようやく終結した。

 総数五百三機の航空特化型モビルアーマー「イオフィエル」は辛くも殲滅され、指揮を執っていた「天使長」ザドキエルも、同時に破壊された。物量作戦を展開して来た敵の狙いを、ヘイムダルと火星防衛軍は、見事に打ち砕いた形となる。

 これだけの大攻勢を行い、「天使長」の位階に属するMAを二機投入し、何の成果も得られぬまま殲滅されたのだ。火星に対するMAの攻勢は、しばらく弱まると推察される。

 

 しかし、地上で同時に展開された「天使長」ハシュマルによる火星の都市「クリュセ」への侵攻へ対応する為、ヘイムダルの「ガンダム・フラウロス」はハシュマル共々、地に埋もれてしまった。

 パイロットであったゴドフレド・タスカー、メイベル・タスカー両名の生死は不明。共に埋まったハシュマルを刺激する可能性が有る為、掘り起こして救出するコトは不可能である。

 

 また一機、人類は貴重な戦力たる悪魔を失った。

 ヘイムダルの者達にとっては、掛け替えのない仲間を、一気に二人。

 

「――パリス」

 

 戦闘が終了し、補給等も済ませたヘイムダルのバラクーダ級強襲装甲艦「サタナキア」は、再び火星衛星軌道上の周回軌道に乗っていた。

 深夜、その艦内の食堂で、一人だけで飯を食うチームリーダーにして艦長であるパリス・イツカに対し、旧友にして「ガンダム・バルバトス」のパイロットを務めるクレイグ・オーガスが話しかける。

 

「…分かってる。だが、俺たちは止まる訳には行かねぇ。進み続けなきゃならねぇんだ」

 

 対するパリスは、眼前のプレートに盛られた冷め切った飯を口に運ぶコト無く、そう言った。

 

 その決意は、地球のアグニカ・カイエルのモノと奇しくも同じだった。結局、ヘイムダルを名乗る以上はそうしなければならないし、そうでなくてはならない。

 仲間が死んだからと言って、怖じ気付いて降りるなんてコトは絶対に出来ない。本当に仲間を想っているのなら、それだけはしてはならない。

 彼らの仲間は、MAを倒し、人々を守る為にその命を投げ出した。残された者がその責務を放り出すコトは、仲間の死を無意味なモノとし、踏みにじる行為そのものなのだ。

 

 だから、彼らは止まらない。止まれない。

 進み続けた先でMAを殲滅し尽くすコトだけが、死んだ仲間に対して生きる者が出来る、最大の弔いなのだから。

 

「…クソ。初めてでもねぇってのに、ちっとも慣れねぇな――慣れちまえば、いくらか楽だろうによ」

「そうだね――でもきっと、俺たちはこの痛みに慣れちゃいけないんだ。慣れたら多分、逃げたくなって、いずれ本当に逃げ出す」

「―――ああ」

 

 パリスが座る席の前に、クレイグが立つ。

 先の戦闘で「覚醒」を使ったクレイグは、左目を()()()()()()()。光を失った目で、クレイグはパリスを見据える。

 

「…ねぇ、パリス。俺たちは、正しい方向に進んでるのかな?」

「さぁな。俺には、俺たちには分からねぇよ。

 正しいか間違ってるか分かんなくとも、自分で信じた道を突き進んでれば、後悔はしねぇハズだ」

 

 今を生きる者の選択が、正しいか正しくないかなど、その時代に判明するコトではない。何十年かが経ち、あらゆる事実と結果が出揃ってから初めて分かるコトだ。少なくとも、当人達はとっくにくたばった後の話にしかならない。

 だから、自分が信じた道をひたすら突き進む。

 そうすれば、後世の評価がどうなるかはさておいて、後悔せずに死ぬコトが出来るだろう。

 

 彼らにとって――ヘイムダルにとって、それは苛烈な戦場を渡り歩き、MAなる無人殺戮破壊兵器をこの世から淘汰し、人類の脅威たり得るモノを取り除くコトだ。

 それが正しいコトだと信じるから、彼らは命を投げ出したし、これからも投げ出すのである。

 

「でなきゃ、あの世でアイツらに会わせる顔がねぇしな。やれるだけやって、死ぬのはそれからだ」

「ああ。MAは全部、俺たちがブッ潰す。

 だろ、パリス」

 

 そう言って、二人はどちらからと申し合わせるでもなく、拳をぶつけ合った。

 

「――それはそうと、しっかり食べなきゃ倒れちゃうよ。ホラ」

 

 右手をポケットに突っ込んで何かを取り出し、クレイグはパリスの前に置かれた料理の上に、木の実らしきモノを振りかけた。そして、それはパリスの見覚えが無い謎の木の実である。

 

「って、レイお前…何だこりゃ?」

「火星ヤシ。安くてまあまあ美味かったから、この前降りた時に買って来た。でも、たまにハズレが有るんだ」

「ハズレって、まさかそんな――ヴッ!?」

 

 半信半疑で火星ヤシごと飯をスプーンですくい上げて口に運び、パリスは顔を青くして悶絶した。…どうやら、ハズレが当たったらしい。

 

「あ、ハズレだね。運が良いじゃん」

「――ハイリスク過ぎねぇか、この木の実…」

 

 

   ◇

 

 

 地球、ヘイムダル本拠地「ヴィーンゴールヴ」。

 火星からの定期報告を受領した、ヘイムダルの実質的指導者であるディヤウス・カイエルは、その報告内容に面食らっていた。

 

「火ー星かーらの定期ー報告ーか。どーうだー?」

 

 端末の画面を眺めて頭を抱えるディヤウスに、友人である研究者のマヴァット・リンレスが問う。ディヤウスはため息と共に、定期報告の内容について、自分自身で確認するかのように説明する。

 

「どうもこうも――聞いて驚け、十国会議案件だ。

 セレドニオ・ピリーが死亡し、火星独立軍はレヒニータ・悠那・バーンスタインの下で火星防衛軍として再編。間髪入れず五百機以上のMAがザドキエルの指揮下で侵攻、同時にハシュマルも地上からクリュセに侵攻。大群とザドキエルは無事殲滅したものの、ハシュマルはフラウロス共々、生き埋めで活動停止だそうだ」

 

 どこから突っ込めば良いんだ、とディヤウスは頭を抱えていたのである。

 セレドニオの死と火星独立軍の崩壊、レヒニータ主導の火星防衛軍の発足は十国に挙げねばならず、それ以外にもフラウロスの損失なども今後の作戦検討に含めねばならない。またしばらく、激務に追われる日々が訪れそうだ。

 

「ハハーハハハ、こーれはまた傑ー作だナー。素ー晴らーしい動乱ーぶーりだ」

「ああ全くだ。ラテンアメリアとフヴェズルングの事後処理も終わってない、それ以前にベレトを撃墜したMAについての検討も有るってのに…!」

 

 鬼気迫る表情で毒づくディヤウス。

 「四大天使」の陰が見え隠れし、人類の内輪もめも有る今、対MA戦を主導すると共に、中立の国際組織として難しい立場にも置かれているヘイムダルは、様々な問題に対応せねばならない。

 

「諦めーるコトだ。現場ーの若ー者たーちが、後顧の憂ーい無く戦えるーよう、後ー方のー老人が全力をー尽ーくす。たーだでさーえ、責務ーを押ーし付けーている身だー。せめーて、それくーらいの粉ー骨砕ー身の気ー概は見ーせねーばなるまーい」

「――その通りだが…ああ、そうだ。来年度分の予算が入って来たら、本格的に現行のガンダム・フレームの強化案も纏めねばな。

 マヴァット、()()()()()()は実用化出来そうか?」

「悪いーが、来年ー中は厳ーしくなーるやもしーれん。来年はー何人か被ー験者を拉t――協ー力しての実証ー実験から始ーめたいからーな」

 

 ディヤウスの問いに、マヴァットは白衣のポケットから小型の端末を取り出し、何かしらを閲覧しながらそのように返した。

 聞き捨てならない言い間違いに気付きつつ、きっと気のせいだと思いながら、ディヤウスは一応眼前のマッドサイエンティストに釘を刺す。

 

「…非合法な手段は取ってくれるなよ? 頼むからその辺り、マジなマッドサイエンティストにはなるなよ?」

「何ーを言うディヤーウス。どーの国にーも属さー ない我々ーが侵しーてしまーう法なーどない」

「オイバカやめろ、道徳的に行け道徳的に」

 

 ハッ、とマヴァットは笑い、普段は甲高い声のトーンを若干落とし、いやらしくこう返した。

 

「パイローットを機ー体のパーツーに仕立ーて上げるーシーステムを推奨ーした我ー々が、道徳ーを語れるーのかーね?」

 

 ハハハハ、と笑い声を上げながら、マヴァットはディヤウスがいる研究室を去って行く。

 

「―――今更、か。もう、後戻りなど出来ない」

 

 ディヤウスは溜め息を一つ吐いてから、事務を始めとした面倒で厄介な仕事に、意識を戻すのだった。

 

 

   ◇

 

 

 火星の人口密集地「クリュセ」。

 火星防衛軍の発足に携わった「革命の乙女」レヒニータ・悠那・バーンスタインは今、この街に滞在していた。

 

 現在、レヒニータは火星の各地を周り、その街の代表者と火星防衛軍関連のコトについて話し合うと共に、戦後の独立の為に運動家達と会談を重ねている。

 火星独立軍から再編した火星防衛軍への理解を求める為の会談は非常に骨が折れるし、一癖も二癖も有る革命家達と足並みを揃えるコトも同様だ。課題は累積しているし、やらなければならないコトが多すぎる為、レヒニータは多忙な日々を送っていた。

 

「――報告、ありがとうございます」

 

 そんな中、僅かな余暇の間に、レヒニータは火星防衛軍本拠地「大舟」と通信していた。

 内容は勿論、MAによる大攻勢についての事後報告についてである。クリュセにまで敵が迫っていたコトを知らなかったレヒニータは、クリュセを守る為にヘイムダルのガンダム・フレームが犠牲になったと聞き、大きなショックを受けた。

 

『ヘイムダルはよくやってくれました。サッチ中佐とザルムフォート大尉を始めとする、防衛軍の兵士達も』

 

 報告を行っているのは、火星防衛軍最高司令官に就任したエメリコ・ポスルスウェイトである。

 火星独立軍総司令官セレドニオ・ピリーに手を下し、その後防衛軍を再編するにあたって、彼はその敏腕ぶりを遺憾なく発揮した。元独立軍の艦隊司令官であり、十年前の火星独立戦争においてはコロニー落とし作戦に関わったコトもあって、軍内には排斥すべきという意見も有った。しかし、彼の指導力が無ければここまで早く軍を再編するコトが出来なかったのもまた事実であり、その功績を以て彼の罪状はチャラにされた。

 なお、彼自身はMAがいなくなった時点で、最高司令官からの退職と共に、罪を償う覚悟でいるが。

 

「…死者の皆さんに、哀悼の意を表します。また、火星の各地への発表については、ありのままを伝えて下さい」

『承知致しました。分かっておられるでしょうが、火星防衛軍と貴女を良く思わない者はまだいます。くれぐれもお気をつけ下さい』

「ええ――分かっています」

 

 通信を切り、レヒニータは部屋の天井に吊るされたシャンデリアを見上げた。それから目を閉じ、俯いてからおよそ一分に渡り、黙祷を捧げた。

 せめて、皆の魂が安らぎますようにと。

 あなた達の想いは、私達が受け継ぐからと。

 

「…私は戦い続けます。私のやり方で、火星の人たちの為に」

 

 か弱い小娘に過ぎず、MAとの戦場に立つコトが叶わないレヒニータに出来るコトなど、そのくらいしか無いのだから。

 

 

   ◇

 

 

 懸命に奔走する彼女の姿は、無慈悲な赤い大地に傅いて絶望するしかなかった人たちに、確かな希望を見い出させた。

 その高潔な有り様を例えるならば、彼女はまさしく民衆を導く自由の女神(La Liberté guidant le peuple)であった。

 

 レヒニータ・悠那・バーンスタインが、真に「革命の乙女」として名を馳せた時分は、火星独立戦争前ではなく――厄祭戦のただ中に有った、この暗黒の時代であると言えるだろう。

 

 

  (ウィルフレッド・ランドル著「忘れられし革命の乙女」より抜粋)

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

 火星近傍、会戦報告。

 中期群体型航空特化機体「イオフィエル」、「天使長」ザドキエル麾下総数五百三機投入。

 開戦後四時間、被殲滅。火星降下数、零。

 

 同時刻。

 火星人口密集地、通称「クリュセ」対象設定済、「天使長」ハシュマル侵攻。

 敵「六十四番機(フラウロス)」共々、埋没。侵攻失敗、連絡途絶。状況推測結果、活動停止状態。

 

 ―――段階(ステージ)引き上げ。

    「鉄血の流水階段(アイロンブラッド・カスケード)」解放の後、火星侵攻開始。

 

 了。次段階移行、第五段階(フェーズ)実行。

 通達。対象「四大天使」ウリエル。

 

  ―――通達、受領体制。内容通達、申請。

 

 特殊機能、無制限完全解放。

 目標、火星。

 

  ―――了。「四大天使」ウリエル、通達受領。

     特殊機能「徹底破壊」、無制限完全解放。

     以降、暴走状態突入。通信不可。

 

     目標設定、火星。侵攻、開始。

 

 

   ―interlude out―

 

 




第六十話「光は止まれない」をご覧頂き、ありがとうございました。
そして、最終話は少し短めとなりましたが、今回で第五章「火星 -Maiden of Revolution-」は終結を迎えるコトになります。

第四章の時から何度も何度もしつこいくらい繰り返していますが、ヘイムダルはただひたすら進み続けなければなりません。
如何なる犠牲を払おうとも戦い続け、MAを殲滅するまで戦いは終わらない。終われない。それが「世界の光(ヘイムダル)」である、というコトでありますので。
この辺り、今後の物語の中で響いて来ますので、頭の片隅に留め置いて頂けるとありがたいです。

最後の幕間は――かなり分かりやすい伏線です。
いよいよ次章から、あの化け物どもが動き出す…!


《今回のまとめ》
・ヘイムダルは止まらないし止まれない
・レヒニータも火星の為に戦い続ける
・遂に、奴らが本格的に攻撃を開始――!?




次章「暴力 -Can Not Coexist-」
次回「Four Archangels」
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