厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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「どう書くべきか迷っている間に一ヶ月近くが経過していた」
な ()()()()()()()()()()()()()()()()(ry

お待たせして申し訳ありませんでした。
今回より、遂に(ようやく?)第七章に突入致します。
章タイトルの訳は「失われた宝石」、サブタイの訳は「神の右の天使」です。
不穏なんてレベルじゃねぇぞ…(戦慄)

⚠今回登場するMAはかなりエグい⚠


第七章 壊滅 -Lost Jewelry-
#71 God's Right Angel


 M.U.0051年、四月二十七日――「四大天使」ウリエル討伐の為、火星に遠征していたアグニカ・カイエル率いる遠征部隊が、地球圏へと帰還した。

 彼らが乗って来たハーフビーク級宇宙戦艦は、地球衛星軌道上の宇宙港「ユトランド2」に入港し、機体とパイロットは地上に降ろされた。そして、レキシントン級大型輸送機で移動し、ヘイムダル本部「ヴィーンゴールヴ」に舞い戻ったのである。

 

「…帰って来たんだね、私たち」

「――ああ」

 

 全長三百二十メートル、全幅五百三十メートルにもなるレキシントン級大型輸送機が、ヴィーンゴールヴの滑走路に着陸する。

 その窓から青い海と、白い施設を眺めて、スヴァハ・リンレスとアグニカは感慨深く思う。――帰って来た。ただし、あまりに多くのモノを失って。

 

「ようアグニカ、何とか帰って来れたみてぇだな」

「アグニカ! 無事だったかアグニカ!」

「…スヴァハもアグニカも、おかえり」

 

 貨物の運び出しが始まる中、アグニカとスヴァハが滑走路に降り立つと、チームメンバー達が駆け寄って来た。アマディス・クアークにソロモン・カルネシエル、トビー・メイ。懐かしいとさえ思える顔ぶれに、アグニカとスヴァハも表情を緩める。

 すると、もう一人のメンバーである少年、大駕・コリンズが、アグニカの左腕を指差して言った。

 

「――腕と目…どうしたの?」

 

 問いかけと同時に、海風が一際強く吹き、アグニカの制服が煽られてはためく。アグニカは長い紺青のマントを左側に掛けており、左腕は見えなくなっていたのだが――風でマントが舞い上がり、通されていない左袖も一緒に、風に乗った。

 他の三人がハッとし、アグニカの右横に立つスヴァハは、左側に顔を背けて俯く。鋭い目線で見上げて来る大駕に、アグニカは何でもないように言う。

 

「ああ――ちょっと、バエルに()られた」

「…『覚醒』でか」

 

 アマディスの確認に、アグニカは頷く。

 目を細めたトビーと大駕は、スヴァハの右腕が動いていないコトと、アグニカとスヴァハに続いて輸送機から降りて来たパイロット達が、それぞれ場所や程度こそ違えど、身体の何処かに包帯を巻いているコトを見抜いていた。

 

「――厳しい戦いだった、ようだな」

 

 輸送機の後部から積み降ろされる機体も、多かれ少なかれ損傷し、傷だらけになっていた。ナノラミネート塗装は宇宙戦艦内でやり直され、修復もある程度行われたが、全ての機体にガタが来ている。

 遠目からソロモンはそれを見抜き、同時に技術者の不足――特に整備長としての同伴を買って出たマヴァット・リンレスの行方を察した。

 

「ドワームが、クソ親父に報告をしたと言ってた。お前らには行ってねぇのか?」

「生憎、ディヤウスさんからは何も。…あの機体状況とアグニカ達の様子を見れば、大体察せる。これはまた、過労死覚悟でやらねばな」

「…ギリギリの、戦いだったから――」

「スヴァハ」

 

 俯いたままのスヴァハの左肩を叩いて、アグニカは歩き出す。アグニカはこれから、腐って失われた部分を補う為、義手を装着しなければならない。

 腕を無くしてバランス感覚が狂ったアグニカを支えつつ、スヴァハも歩き出した。二人の背中を見送った四人は、強い海風に当てられて、一斉に制服の裾が巻き上げられる。

 

 西側の空は暗雲に包まれ、遠雷が耳に届く。

 積み下ろし作業を行っている班が、もうじき雨が降り出すから急げ、と叫んでいる。四人には、その声が遠いモノのように聞こえた――

 

 

   ◇

 

 

 七月十二日。

 空が鈍色の雲に覆われた、不気味なほど暗い夜――()()は、遂に姿を現した。

 

「湾岸に、エイハブ・ウェーブを観測!」

「更に複数! カメラでの望遠、開始します!」

「固有周波数特定、いずれも該当無し! モビルアーマーです!」

 

 場所はアフリカン共和国首都、ヨハネスブルグ。

 隣接する基地にて、新たなるエイハブ・ウェーブを確認したコトから、その最低最悪の悲劇は幕を開けるコトになった。

 

「望遠映像、出ます!」

 

 基地の指令室、その正面モニターに映し出されたのは、一機の巨大なモビルアーマーの姿だった。

 

 推定される全長は、何と四百メートル近く。

 二枚の翼を広げ、二本の腕を海面に滑らせる、威厳に満ち満ちた機体。一目見ただけで、そのMAが他のMAと一線を画す存在であるコトは伺い知れよう。

 純白と群青の装甲を翼に纏い、赤き法衣のような胴体には、金の神々しい装飾が施されている。

 

 

 「四大天使」ミカエル。

 

 

 二機目にして最強の「四大天使」が、上陸して両腕の巨大な爪を地面に突き立て、鎌首を(もた)げて頭部装甲を展開させ、ビーム砲を外気に晒す。

 

「――『四大天使』と思われる機体が、現れただと…!?」

 

 ミカエル出現の情報は、首都ヨハネスブルグの大統領府にいたアフリカン共和国大統領、ベンディル・マンディラの下にも届いた。

 そして、その数瞬後――首都を守るシェルターに向けて、ミカエルは頭部ビーム砲を撃ち放った。

 

 桃色に輝く一条の閃光が、青空を分断する。

 直下に有る森林や大地を余波で焼却、溶解させながら、ナノラミネート塗料を塗布されたシェルターの外壁に真正面から突き刺さり―――二秒ほどの拮抗を経て、ビームは見事に外壁を貫いた。

 光熱の奔流が首都の空を引き裂き、ビル群を粉砕しながら、ブチ抜いた外壁の反対側に到達。ミカエルが頭部を持ち上げると、ビームはさながら(サーベル)であるかのように、シェルターの屋根を裏側から切断して行く。半分までを斬り裂いた所で、ビームの照射は終了されたが、屋根は自重(じじゅう)を支えきれずに切断面から中央へ折り畳まれるように崩れ、下の街がたちまち押し潰される。倒れた外壁は更に崩壊し、火災を誘発しながら、被害は際限無く拡大する。

 

 半世紀前、核の破壊から身を守る為に人類が築き上げ、天使をすら寄せ付けなかった最高の防壁。それが今、魔剣(ダインスレイヴ)ですらなく最大出力でもない、ただのビーム一発のみで破られた。

 そして、人々を守るハズの防壁は、質量攻撃となって街に降り注いでいる。

 

「だ、大統領! 避難を――」

 

 辛うじて崩壊を免れた大統領府も、大混乱に陥っていた。市井の人々の悲鳴が聞こえる中、大統領の執務室に駆け込んだSPの言葉に対し、ベンディルはこう返す。

 

「衛星中継の準備をしろ! 全世界のメディアに、このヨハネスブルグの模様を中継する手筈を! 民間経由だ、ヘイムダルにも協力を仰げ!」

「は!? し、しかし…」

「急げ!!!」

 

 SPを強引に動かして、ベンディルは隣接する基地に連絡を取るべく、執務机に備えられた受話器を手に取った。

 

「核弾頭、発射準備を整えておけ!」

『な、この状況で核などを使っては…!』

「いいからやれ! 迎撃部隊は何をしている!?」

『今、出撃して敵に…何!? 上空に、新たなエイハブ・ウェーブだと!?』

 

 当然、基地も大混乱だ。ヨハネスブルグ全体が阿鼻叫喚の渦に呑まれる中でも、ミカエルと随伴するMAは確実にヨハネスブルグへ接近しており――そして今まさに、上空からとある()()()のMAが複数、ヨハネスブルグに向けて投下された。

 

 天使の名は、アザザエル。

 

 それらは地面に着陸し、幾つもの羽のようなユニットが折り重なる、孔雀が如き巨大な翼を広げた。それと同時に、特殊な能力を有した、新たなる子機「ディート」を無数に放出し、防壁を失って炎に包まれるヨハネスブルグの街へと送り込む。

 ディートの形状は、基本的にプルーマと同一だ。漆黒の装甲を持ち、サイズはモビルワーカー程度。二本のアームで地を這いずり回り、胴体正面のセンサー下部に小型のレールガンを備え、後方には尻尾のようなドリルを持つ。このように、外見的には全く変化は無いが――プルーマと違い、ディートの胴体部には、とある装置が装備されている。

 

「きゃあああああああ!」

「いや、いやいやいやいや…来ないでえッ!」

 

 行き場も無く逃げ惑う一般市民の四肢を、ディートは二本のアームで引き裂く。血が凄まじい勢いで吹き出し、移動出来なくなった人間は重力に引かれて、地面に落ちる。すると、ディートはその人間に覆い被さり、胴体の底面ハッチを開く。中からは三本のサブアームが飛び出し、一本が頭を掴み、もう二本は肩を固定する。

 

 そして――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 胴体の内部には生命維持装置が有り、それに繋ぐコトで脳と脊髄を生かしておく。同時に三人分を収納するコトが可能で、満杯になったら母機であるアザザエルの下に戻る。ディートが持ち帰った脳と脊髄は、アザザエルの翼を構成する羽に一つずつ収納され、空にされたディートはまた、新たな人間の脳と脊髄を採集しに行く。

 

 これが、特殊な子機「ディート」の機能。

 アザザエルとは即ち、捕獲型のMAなのである。

 

 しかし、この捕獲作業は、ただ殺戮するよりも時間と手間がかかる。子機を使い、アザザエル自体が戦闘能力の高い機体ではないので、MS戦においてはほぼ役立たずのMAでしかない。

 アザザエルが役目を果たせるのは、対象が秩序を失って大混乱に陥り、なおかつMSに対応出来る別の機体がいる時のみ。条件としては非常に揃え辛いが、今は全てが揃っている。

 

 「四大天使」ミカエルの前では、例えガンダム・フレームだろうと、ただの的でしかないのだから。

 

 そんなミカエルに対し、隣接するアフリカン共和国軍の基地から出撃した、ヘキサ・フレームからなるモビルスーツ隊が接近する。

 

「全機、一斉攻撃を仕掛けるぞ! これ以上の被害は、何としても食い止め――」

「オーオー、せいぜい頑張んな。俺はバックレさせてもらうぜ」

「――何だと!?」

 

 数は五十機ほど。しかし、その内の一機である「ガンダム・シャックス」は、隊列から離れた。これに対し、部隊の総隊長が怒鳴るが、パイロットのサンディ・ロー大尉は聞く耳持たずである。

 

「命令に従え、ロー大尉! 貴様に共和国の軍人としての誇りは無いのか!? 一般市民を守るコトこそ、我ら軍人の本懐だろうが!」

「ザコが何匹死のうが知ったこっちゃねぇな。俺はまだ死にたかねぇんでな、死にたきゃ勝手にしろ」

「貴様…!!」

 

 その時――MS隊に向け、ミカエルが翼の片方から拡散ビーム砲を撃ち放った。

 

「散開ッ!」

 

 咄嗟にバラけるMS隊だが、十五機ほどが拡散ビームの直撃を受け、その場で爆散した。味方が瞬く間に粉砕されたコトに、パイロット達は戦慄する。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ビームの威力が強すぎて、塗布されたナノラミネート塗料が一瞬で蒸発し、装甲を打ち砕いた。しかも、一発の威力は然程でもないハズの、拡散ビーム砲でこの威力だ。頭部ビーム砲などを食らってしまえば、一体どうなるか――それは、ヨハネスブルグのシェルターが示してくれている。

 

「た、隊長…!」

「――退けん。退く訳には行かん! 今まさに、我が国の首都と、市民達が蹂躙されているのだ! せめてザコだけでも片付けなければ…!」

「だ、第二射来ます!」

 

 勇猛果敢に挑んでいき、拡散ビーム砲のみで蹴散らされるMS隊を、サンディはシャックスのコクピットから憐れみを持って眺める。

 

「死んだら元も子もねぇってのによ。んなコトも分からねぇほど頭が悪いなんて、マジに可哀想だよなァ。泣けてくるぜオイ」

『……らは、――ヨハネス、……在の――』

「――あァ?」

 

 その時、サンディの視界の片隅に、国際チャンネルでの映像が開かれた。ヘイムダルが敷設したLCSレーザー通信網「アリアドネ」を利用し、緊急的に全世界に映像が中継され始めたらしい。

 サンディは一旦網膜投影を切り、コクピットの正面操作パネルを叩いて、その映像を表示させた。

 

『現在、ヨハネスブルグは「四大天使」の襲撃を受けています! 防壁は破られ、街は火に包まれました! 今、多くの市民の命が奪われ、その尊厳が踏みにじられています!』

 

 火の海になった都市の中で、アナウンサーが絶叫するように情報を伝えている。かくいう自分たちも命の危機に晒されていると言うのに、それを顧みるコト無く報道し続けているのは、マスコミとしての矜持が成せる技なのだろうか。

 しかし、これは実に妙で、異常な事態である。

 街が襲われ、数多の市民が命を落としているコトもそうだが――何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…オイオイ、誰の差し金だこりゃあァ。こんな無修正映像を垂れ流すなんざ正気かよ?」

 

 その異常さは、サンディが真面目にそう呟くレベルである。

 これまで、十国は完璧な情報統制の下、全世界の国民を制御して来た。それにより、市民達は安全なシェルターの内側で、安寧を享受して来たのだ。

 こんな映像を垂れ流せば、その安寧は不安と恐怖により打ち砕かれる。国民に真実を伝えて、それで十国が得するコトなど何も無いハズなのだ。

 

 シェルターがある限り、自分達に危険は無い。

 MSの開発によって、MAは着実に淘汰されつつある。

 

 国民はそう信じ込み、変わらない日常を送って来た。各国の軍人とヘイムダル以外の人間にとって、MAは基本的に、自分達には関係の無いコトだ。時には、その存在すら疑われるコトも有る。

 無論、出現当初には家族をMAに奪われ、自身も死にかけた人間は少なくなかった。退役軍人が、実際の戦場がどうなっているか語るコトも。編集されてこそいるが、時には映像も公開される。

 だからこそ、実際に見ていない人が大半でも、実在は広く信じられている。中には全部が捏造で、実際は政治家や官僚、軍人が私腹を肥やしてるだけだと言う陰謀論を主張する人間もいるが。

 

 何であれ、MAは大半の国民にとって、あまり身近な問題ではない。

 

 そんな中で、こんなショッキングな映像が流されたらどうなるか――自らが危険だと知った国民は、間違い無く大混乱に陥る。情報統制のしようがなくなり、国への不信なども一気に積もるだろう。十国のお偉いさん方は、焼かれる都市の生中継など、絶対に許すハズがない。

 にも関わらず、それが行われている。

 各国はすぐに切断するだろうが、一瞬でも映ってしまった以上、国民への説明責任は必ず生じる。録画をしている者もいるだろうし、普段は国から卸される情報しか垂れ流せない為に鬱憤が溜まっているマスコミも、大喜びで連日連夜報道するだろう。

 この映像一つで、十国が丹念に築き上げて来たモノは崩壊しかねない――いや、崩壊する。

 

『こ、ここで緊急声明です! マンディラ大統領がこれより、声明を発表するとのコトです!』

『アフリカン共和国大統領、ベンディル・マンディラです。共和国の――いえ、全世界の皆様に届いていると信じ、大統領府からお届けしています』

 

 画面が切り替わり、ベンディルが映った。

 その時、警戒音が鳴り響いたコトで、サンディは網膜投影を再開し、シャックスの両手にジャベリンを構える。

 

『ご覧頂いている通り、ヨハネスブルグはMAによる襲撃を受けています。今も駐留部隊が戦ってくれていますが、「四大天使」と呼ばれる敵の力はあまりに絶大で、恐らくは敗北するでしょう』

 

 接近するは二機のMA。同型機である。

 二枚の翼と二本の腕を持つ、ミカエルを小型化したような機体。翼には拡散ビーム砲を内蔵し、頭部の他、胴体にもビーム砲を備えているようだ。

 

「見たコトねぇタイプだが――手間取らせんなよ」

 

 シャックスには、有線端子を取り付かせて機体を操る「ジャック・システム」が有る。このシステムは両腕に備えられ、他のMSは勿論、MAさえも操り人形(マリオネット)とするコトが出来る。その分、武装はジャベリン二本というシンプルさだが。

 ちょうど敵は二機。端子を打ち込んで操り、より安全にこの場から離脱するコトとしよう。

 

『シェルターは破られ、都市は蹂躙されています。市民達はMAの子機に、脳を奪われてさえいる。国民を守る義務を持ちながら、それを果たせなかったコトを謝罪致します』

 

 近寄って来た二機の内、一機が頭部ビーム砲を撃ち放つ。シャックスはジャンプして回避するも、もう一機がそれに合わせて跳び、シャックスに両腕のクローを振り下ろして来る。

 シャックスは二本のジャベリンを交差させて敵の攻撃を受け止め、同時に左腕から微細な有線端子をMAの全身に伸ばし、接続させる。

 

『私も、もうじきに殺されるでしょう。全世界へ敵の脅威を伝えるべく、こうして放送をしようと思い当たりました。混乱を招くコトは重々承知していますが、何よりも皆様が事実を正しく認識するコトこそ、最も必要なコトと考えたが故です』

 

 サンディは歯を見せて笑い、ジャックしたMAをもう一機に向かわせるべく、阿頼耶識を通じて操作しようとした――が。

 

 組み付いたMAが、胴体のビーム砲を放った。

 

 直撃を受けたシャックスは、空中でバランスを崩す。接続した端子もコードを引き千切られ、空中で敵機が回転し、腕部クローでシャックスを殴る。

 

「な、ん――がッ!?」

 

 シャックスは吹き飛ばされ、真っ逆さまに落下。地面に叩きつけられ――る前に、もう一機の機体に背中を殴られて、再び空中に打ち上げられた。

 そして、未だ滞空していた機体に更に高々と跳ね上げられ――シャックスは、ミカエルの眼前に押し出されてしまった。

 

「やっb」

 

 ミカエルの超硬大型ワイヤーブレードの一本が動き、シャックスを軽々と弾き飛ばす。

 咄嗟に交差させ、奇跡的にワイヤーブレードを受けたジャベリンは、二本とも呆気なくへし折れた。先程の攻防で背部スラスターを損傷したシャックスは、態勢を立て直すコトも出来ないまま、防壁に囲まれたヨハネスブルグ中央の大統領府に落着する。

 

『今こそ、MAという人類の脅威に向き合っ――うおあっ!?』

 

 この衝撃で通信機器が壊れ、ベンディルの声明は打ち切りになった。大統領府は降って来たシャックスにより押し潰され、大統領の執務室もシャックスの右腕に天井を破られ、来客用のテーブルとソファーが下敷きになった。

 これで、子機の侵入は少しくらい防げるか…と、ベンディルは他人事のように思う。そして、執務机に設置された受話器を手に取り、基地に最後の通信をする。

 

「核ミサイルの発射準備、完了したか?」

『は、は! しかし、何故このような――』

「ならば良い。君たちも基地を放棄し、離脱してくれたまえ。――これから、()()()()()()()()()()()()

『な、なんですt』

 

 受話器を定位置に戻し、ベンディルは執務机の上に銀色のスーツケースを置き、開いて内部のコンソールにパスワードを打ち込み、起動する。

 

 核ミサイルの発射スイッチ。

 

 悪用すれば世界すら滅ぼすコトが出来る、アフリカン共和国において、大統領に与えられる最高の権限。基地の発射台にセットさえされれば、目標の設定から発射まで、このコンソールで遠隔操作するコトが可能だ。

 設定する目標地点は、ヨハネスブルグ。

 ベンディルは都市もろとも、「四大天使」ミカエルを破壊せんとしているのである。

 

(――国民ごと自爆か。最低のやり口だ)

 

 勿論、核ミサイルで「四大天使」ミカエルを破壊出来るかなど分からない。可能性は低いだろう。

 だが――市民達は脳を引きずり出され、MAに捕らわれたという。何の為かは定かではないが、尊厳もクソも無く、MAの良いように扱われるくらいなら、この自爆こそがせめてもの救い。人間としての尊厳を、守り通すコトになるのではないだろうか。

 分かっている。ただの偽善だと。自己満足でしかなく、責任を取った気になるのも筋違いだ。

 

「フザケんじゃねぇぞ、耄碌ジジイ」

 

 そんな彼に、銃を突きつける者がいる。

 ベンディルは目標設定をし終わり、スイッチを一度押すだけの状態にしてから、座っている椅子を回転させて、その男――サンディ・ローを見上げた。

 

「死にてぇならテメェ一人で死に腐っとけ。俺まで巻き込もうとしてんじゃねぇ」

「――この状況下で、生き残れるとでも?」

「ッたりめぇだろ。スラスターがやられようが、シャックスの四肢はまだ動くからな。

 だが、テメェにその権限(ちから)は相応しくねぇ。だからさ――そいつを、俺に寄越せよ!」

 

 引き金に指をかけて、シャックスの上からサンディは言う。あろうことか、この絶望的な状況で笑みまで浮かべながら。

 一方、ベンディルは全く動じず、スイッチに指を掛けながら、冷静に言葉を投げ返した。

 

「成る程。報告で聞いてはいたが、君は本当に世界を欲しがっているらしい。しかし、まさかこの()に及んで、そんなコトを言えるとはね」

「そうかよ。――だったら、奪い取るだけだ」

「奪ってどうする? こんな(モノ)は、誰も幸せにしない力だ。半世紀前に何が起きたか、知らない訳でもないだろう」

 

 大統領府にも、火の手は回り始めている。火の海と化した街の真ん中で、二人の男が赤い光に照らされる。――その対峙は、アフリカン共和国最大の都市を壊滅させた「四大天使」ミカエルも、捉える所だった。

 そのミカエルの下に、先程シャックスを弄んだ二機のMA――()()()、サンダルフォンが帰還する。

 

「それが有れば、俺は幸せになれる。世界がブッ壊された先で、俺が頂点に立つために必要な力だ。

 ――テメェだってそうだろうが。この煉獄を全人類に見せつけたのは、クソつまんねぇ十国制度をブチ壊す為だろう? テメェのおかげでこれから世界は大混乱、人類丸ごと大パニックだろうよ」

 

 ミカエルはアザザエルに命令を下し、サンダルフォンと共に撤退を開始させた。ベンディルの手元に有るモノが、核のスイッチだと見抜いたのだ。

 しかし、何故か――ミカエルは、ベンディルとサンディのいる大統領府に、ビームを撃ち込まない。如何に「四大天使」とて、MAである以上、人類殺戮を最優先事項としてプログラムされているハズだと言うのに。

 

「――これで、私に打てる布石は全て打った。後はヘイムダルと、人類一人一人に選択は委ねられる」

「…あァ?」

「『四大天使』――まさか、これほどまでの戦闘能力を有しているとはな。流石は『神の如き者(ミカエル)』と言う訳だ。だが、人類が真に一つとなれば、必ずや打ち勝てると私は信じる」

 

 国民の命を預かる大統領として、今回のヨハネスブルグでの殺戮を赦してしまったコトは、まさしく失態だ。――だが、その光景を世界全体に共有するコトで、皆が一丸になってかからねば勝てない相手であると、ベンディルは全人類に示してみせた。

 後は本当に、最後の仕上げ。

 

「テメェ、何を抜かしてやがる? ゴチャゴチャ言ってねぇで、さっさとそのケースを寄越せ」

「―――君に、(これ)を渡すコトは出来んな」

 

 感づいたサンディが、引き金を引く直前――ベンディルは拳を握り、スイッチに叩きつけた。

 サンディの持つ拳銃から放たれた弾丸が、ベンディルの心臓を撃ち抜いた時。スイッチは既に押されており、基地から核ミサイルは放たれていた。

 

「クソジジイが、フザケやがって…!」

 

 サンディは事切れて椅子に沈み込んだベンディルの死体を睨みつけるが、もう後の祭りだ。役目を終え、スイッチも既に役立たずとなっているだろう。

 舌打ちしてからシャックスのコクピットに戻ったサンディは、背中の阿頼耶識を接続し直してシャックスを再起動させ、起き上がらせる。

 

「この俺が、こんな所で死ぬ訳がねぇ――死んでたまるか…!」

 

 彼は孤児だった。ゴミ溜めで生き残るには強くなるしかなく、そこで人間の醜悪さを散々見せつけられ、信じるコトが出来るのは自分の力だけだと思い知らされた。

 軍に入ったのも、何よりも自分が強くなる為だ。そしてそこでも、決闘と言うルールの陰で無人機による紛争(ゲーム)に興じる人間の姿を見て、如何にご立派なシステムを作り上げようと、人間は戦いをやめるコトなど出来はしないコトを。闘争本能こそが人間の本質であるコトを知った。

 

 偽善に塗り固められた、退屈で詭弁に満ちた世界が、彼は大嫌いだった。

 

 MAとの戦争が始まり、ガンダム・フレームを預けられ、簒奪の悪魔(シャックス)と繋がった時――サンディは、自分がとんでもない兵器を得たと感じた。この力が有れば、得られないモノは無く、奪われるモノも奪えないモノも無いと。

 そんな(ガンダム)を生み出し、多数を所有しておきながら、あろうことか理想論を並び立てるヘイムダルなどは、彼に取って理解し難かった。唾棄すべき存在であり、吐き気がするほど気色悪い存在だった。

 

 彼は、人類最高の悪魔(ちから)を手にした。

 

 ここからだ。まだ終わる訳には行かない。この力で、頂点まで成り上がってみせなければ。全てを奪い、この世のあらゆるモノを手中にしなければ、彼が満たされるコトは無い。

 

 

 だが――そんな彼の眼前には今、神の如き者(ミカエル)がいる。

 

 

 核の使用を察した時点で、ミカエルは配下の天使を全て撤退させた。そして、接近して来る核弾頭も察知している。撃ち落とすコトも容易い。

 しかし、ミカエルはそれをしない。理由はただ一つ――()()()()()()()()()()

 

 熾天使の座に在る、最強の天使。

 唯一、神の右側に座るコトを赦された天使。

 地獄の魔王、サタンをすら凌ぐ力を持つ、神に匹敵する天使。

 

「…ケッ。マトモに戦うわきゃねぇだろ」

 

 毒づいて、シャックスはミカエルに背を向け、全力で逃走を開始する。背部スラスターをやられている為、ホバー走行で炎に満ちた街を行き、ミカエルの反対側に逃げ去るのみ。

 ミカエルに、ビーム砲を放つ様子は無い。放たれたとしても、ガンダム・フレームなら避けられる。例え、背部スラスターを破壊されていたとしても。

 

「ワイヤーブレードは射程外…『四大天使』だか何だか知らねぇが、俺は何としても逃げ延び――」

 

 

 

 次の瞬間―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「――て、やr」

 

 シャックスがバランスを崩し、後方へ倒れる――より早く、()()()()()()()()()()()()()()()

 正確にはコクピット。ミカエルから何かしらの攻撃を受け、機体に貫通孔が空き、それによってサンディは身体の胸から下を失った。

 一体何をされたのか、全く分からないままにサンディは絶命し、両足とパイロットを失ったシャックスが地面に崩れ落ちた。

 

 直後、三発の核弾頭が、ヨハネスブルグに着弾し――起爆した。

 

 白い光に包まれた街は一瞬で灰燼と化し、超高熱と爆煙がミカエルを覆い隠す。轟音が世界に鳴り響き、キノコ雲が夜空を丹念に包み、昼であると間違えるほどの閃光が周囲を支配し、衝撃波が大地を震わせる。

 先程まで炎に包まれていた街は、一転して残骸一つ残らない更地に変貌した。この地を初めて訪れた者は、最早そこに街が有ったコトすら分からないと断言出来る、まさに終末の光景が広がっている。

 

 あらゆる生命が生きながら得ぬ死の空間には、たった一機――悠然と君臨する、暴虐の天使の姿だけが残されていた。




Episode.71「God's Right Angel」をご覧頂き、ありがとうございました。

【悲報】ミカエル、ウリエル以上の化け物
とりあえず、今回ミカエルがやらかしたコトを並べてみるとしましょう。

・ビーム砲一発で十国首都のシェルターを破壊
・ワイヤーブレードでシャックスを一蹴
・謎の攻撃でシャックスを瞬殺
・核ミサイル(水爆)三発の爆心地にいたのに健在

アレ? 案外少ない気がするぞ?(白目)
まあ今回はミカエル本体より、遂に現れ始めた後期型のMAの方がヤバいわよ! な感じがしますね。
ミカエルの本領はアグニカ達と戦う時にこそ発揮されると思うので、以下の機体紹介では今回新たに出たヤバいですね☆ な後期型の諸君にご注目頂ければと。


《新規設定》
直属機
・「四大天使」のMAに随伴する、高性能のMA。
・ウリエルは特殊機能「徹底破壊」との兼ね合いから、直属機を随伴していなかった。この為、直属機として開発されたMAは三機で、「四大天使」と合わせて「七大天使」となるよう命名されている。


《新規機体》
アザザエル
・後期型のMA。
・名前の通り、孔雀のような翼を持つ。捕獲型のMAであり、捕獲機能を有する特殊な子機「ディート」を運用する。頭と脊髄だけ引っこ抜いていく辺り、相当エゲツない。克明に想像するとかなりグロいので、おすすめはしません。

サンダルフォン
・後期型のMA。
・「四大天使」ミカエルの直属機で、外見と武装はミカエルをそのまま小さくした感じ。機動力に優れており、ガンダム・フレームの速度にも追随する。


《今回のまとめ》
・アグニカ達が地球に帰還
・「四大天使」ミカエルによりヨハネスブルグ壊滅、市民の一部は捕獲される
・「ガンダム・シャックス」敗北




次回「in the Confusion」
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