厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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気づいたら2020年も十二月になってました。
もう終わりかけとかウッソだろお前……(ガクブル)

サブタイの意味は「混乱の中で」。


#72 in the Confusion

 アフリカン共和国の首都「ヨハネスブルグ」が炎上させられ、自爆する映像は、全世界を恐怖のドン底へと叩き落とした。十国が主張して来た都市シェルターの安全神話が完全に崩壊し、優位に進んでいるとの報道が誤りであったコトが、一般に露呈してしまったからだ。

 ――実際の所、モビルスーツとガンダム・フレームの登場で対モビルアーマー戦が優位に進められていたのは事実なのだが。十国の首都が陥落する映像にはガンダム・フレームが一蹴される光景も映っていたので、それも十国の情報統制による捏造だったと言うのが、世間一般では通説になってしまった。

 

『全く――たまったモノではない! この混乱、とても抑えきれん! どうすると言うのだ!?』

『冷静になりたまえ、オリバーくん。元を正せば、今回の騒動は「四大天使」ミカエルが原因だ』

『ああ。誰が悪い訳でもなく、この場で責任の所在を追及しても、得られるモノは無い』

 

 今回の騒ぎを受け、首脳陣は臨時の通信会談を開催していた。イングランド統合連合国のオリバー・ウィリアムズ首相の言葉を、サハラ連邦共和国のラシッド・スミス大統領とアラビア王国のムスタファ・ビン・ナーイフ王が諌めたが、ウィリアムズ首相は引き下がらない。

 

『いいや、責任の所在は明らかだ! ベンディル・マンディラ大統領、及びアフリカン共和国の異常な対応が、今回の混乱を招いている!』

『…そのマンディラ大統領は亡くなられ、アフリカンは今、議会が分断されての緊急大統領選挙で大荒れです。何せ、副大統領もヨハネスブルグと共に吹っ飛んだのですから。

 故マンディラ大統領の対応に問題が有ったのは確かでも、アフリカンの代表(トップ)は現状不在、この会議にも参加していない以上、今回の会議でその点について述べるのは時間の無駄かと』

『しかしッ…!』

『相手をお間違えなされるな、ウィリアムズ首相。我らの敵は「四大天使」ミカエルです。貴国のチャーリー・デイビス先代首相を謀殺した敵が、遂に表舞台に現れたのです。

 …本日は、その脅威をいち早く排除する為の論議が行われるモノだと、私は思っていましたが』

 

 ユーラシア連邦のアルテョム・ドミートリエヴナ・ユーリエフ大統領、オセアニア連邦国のソフィア・ナーゲン総督の言葉で、ようやくウィリアムズ首相は口を(つぐ)んだ。

 次に、中華連盟共和国の李徳賢(リー・デウシエン)国家主席が、今日の本題について切り出す。

 

『その「四大天使」ミカエル――現在は貴国領域内のハワイ諸島に駐留しているとのコトでしたか、フローレス大統領』

『ええ。住民を抹殺した上で、如何なる訳か島を丸ごと要塞化していると、軍からは報告が上がっています。…下手に手を出せないので、現状では野放し状態ではありますが』

『――「四大天使」と言えど、製造出来るのは子機(プルーマ)だけではないのですか? 島を要塞化、とは一体どのように?』

『それが分かれば苦労はしません。我が国の軍司令部も、頭を抱えている最中です』

 

 ラテンアメリア連邦共和国のジョルジェ・ベナセラフ大統領の質問に、アメリア合衆国のローガン・フローレス大統領は肩をすくめて見せた。

 そう。基本的にMAに関し、人類は情弱なのだ。

 

『何も分からなくとも、我々には対応が迫られる。――どうするかね? 宇宙からダインスレイヴの雨でも降らせてみるか?』

『水爆三発の直撃を受け、ケロリとしているような化け物にですか? 費用分の効果を見込めるとも思えませんな』

『環境度外視で宇宙からダインスレイヴを降らせれば、普通はそれでどうにかなるだろうが…ミカエル相手では、撃ち込んだ特殊KEP弾頭を再利用(リユース)されかねん』

 

 サンスクリット連邦共和国のアールシュ・パールシー大統領の提案は、ユーリエフ大統領とムスタファ王に反論され、却下された。パールシー大統領も「だろうな」とため息を吐いているので、真面目に提案したようではないらしい。

 …大気圏外からダインスレイヴを撃ち込めば、核兵器と同等の破壊力を得られる。それで討伐を望めないコトの方が明らかにおかしいのだが、先のヘイムダルによる「四大天使」ウリエル討伐作戦の報告を鑑みる限り、望みは非常に薄いと言える。

 

『例えミカエル自体の破壊は期待出来ずとも、敵の設備と雑魚を掃討するには充分ではないか? 宇宙からのダインスレイヴは、有効な策だと考えるが』

『スミス大統領の意見には賛成します。先のヨハネスブルグの襲撃時、ミカエルは何機かのMAを従えていました。ウリエルには見られなかった行動であり、ハワイ諸島を要塞化しているコトも考え、まず爆撃で付属品(オプション)を掃除すべきかと』

 

 これに対し、スミス大統領とベナセラフ大統領がダインスレイヴ攻撃に賛成の意を示した。

 そう。ベナセラフ大統領が指摘する通り、ミカエルはウリエルと違い、下位の「天使」と高性能な直属機を複数随伴させている。ウリエルが他のMAと行動を共にしなかったのは、万物を対象とする特殊機能「徹底破壊」を持っていたが故のコトだ。それを持たない、ミカエルを含む他の「四大天使」は、直属機を初めとする他のMAを従えている。

 

 ――つまり、ミカエルを倒すには、その前に配下のMAを殲滅しなければならない。

 

 引きつけて分断するにせよ、その為の兵を用意しなければならない為、結果的にミカエルにぶつけられる戦力が少なくなってしまう。

 その行動如何で、戦争全体の趨勢(すうせい)に影響を及ぼす「四大天使」は、孤立させたとしても強大無比な存在だ。事実、ウリエルは単騎で、火星防衛軍の二十隻以上の大艦隊の過半数を破壊した。

 こと「四大天使」戦に於いて、ザコに構っている余裕など無いのである。宇宙からのダインスレイヴでザコと余計な砲台などを一網打尽に出来るなら、やらない手は無い。――地図を少なからず書き直す必要は出てくるだろうが。

 

『…それで露払いは出来るにしても、ミカエル本体を倒す為に、有視界距離での戦闘を仕掛ける必要が有ります』

『敵はガンダム・フレームすら一蹴する化け物。しかも、正体不明の攻撃手段を有している。――あまりにも危険過ぎる、正真正銘の貧乏くじだ。一体、誰が引く?』

 

 李国家主席とウィリアムズ首相の問題提起。

 これに対し微笑を浮かべ、フローレス大統領はあたかも答え合わせをするかのように、こう言った。

 

『愚問ですね。――MAを倒すコトを目的として活動する、我々も援助する組織が有るでしょう?』

『…成る程。かの組織は精鋭揃い。全戦力を投入させれば、如何なミカエルと言えど――』

『ウリエル戦に投入されたガンダム・フレームは、全部で十四機と聞きます。彼らは今、それ以上の数のガンダム・フレームを有している。確かに、討伐には充分な戦力と言えますね』

 

 パールシー大統領とナーゲン総督が、これに賛成する。主に反論も見当たらないコトから、フローレス大統領は頷いた後、決定事項を確認する。

 

『領域内に陣取られた以上、宇宙からのダインスレイヴによる露払いは、我が軍が担おう。

 ――その後の「四大天使」ミカエルの討伐は、ヘイムダルに一任するコトとする。異存は?』

 

 口を開く者は、一人たりともいなかった。

 

 

   ◇

 

 

 全世界を混乱させる映像は、当然ながらヘイムダルにも届いていた。

 

「――アグニカ」

「ああ。…この時が、遂にやって来た」

 

 「四大天使」ミカエルの出現と、アフリカン共和国首都「ヨハネスブルグ」の壊滅。

 ヘイムダル本部「ヴィーンゴールヴ」の病室で、アグニカ・カイエルはその衝撃を受け止めた。傍らのスヴァハ・リンレスは、不安げにアグニカの横顔を見つめている。

 

「失礼。アグニカはいるか?」

 

 その病室に、アグニカの父でありヘイムダルの実質的な指導者――ディヤウス・カイエルが、姿を見せた。

 赤みがかった黒髪を持ち、白衣に袖を通して無精髭を生やす男。翠色の瞳の下に隈が現れているコトから、アグニカとスヴァハは彼がロクに寝ていないコトを察する。

 

「…何の用だ、クソ親父」

「言わなければ分からないか?」

「――いや」

 

 ディヤウスはアグニカが身体を預けるベッドの側に立ち、白衣のポケットから小型端末を取り出し、アグニカに手渡した。

 画面に表示された文に目を通し――アグニカは、自分の予想が当たっていたコトを確認した。

 

「ヘイムダル主導のミカエル討伐作戦、か」

「…!」

「ああ。臨時十国首脳通信会談による決定だ。

 ――ヘイムダルの全戦力を以て、ミカエルに挑む」

 

 アグニカが見せられたのは、ウリエルに次ぐ、二機目の「四大天使」――ミカエルの討伐作戦、その通達文書である。

 アメリア合衆国軍による、宇宙からのダインスレイヴ爆撃の後、ヘイムダルが攻め込んでミカエルを撃破する。大まかな流れは決まったが、作戦の詳細や遂行日の決定はヘイムダルに一任された。現場での裁量権が保障されている辺りに、十国首脳陣の賢明さが伺えるが――かと言って「一年後で」とは行かないので、可及的速やかに討伐作戦を実行しなければならない。

 

「通達を受け、全世界に散らばっている各チームには、ヴィーンゴールヴへの帰投命令を出した。どんなに遅くとも、一週間後には集結出来るハズだ」

「――ガンダム・フレームは、全部で何機になるんですか?」

「火星のチームを除いて、総数は二十六機。カロムチームのヴァルキュリア・フレーム、オーガ・フレームを合わせて、MSは三十四機。戦艦は――在るだけ投入するが、まあ役には立たんだろう」

 

 質は保証されている正真正銘の精鋭部隊だが、やはり数としては(いささ)か心もとない。…もっとも、数が有れば心もとなくないのかと言うと、そうでもないのだが。

 

「――私たちだけで討伐しろ、ってコトですか?」

「露払いはアメリア軍がするが、実質的にはそうなるな。カツカツの貴重な予算を割いてるんだから、その分我々の代わりに働け――と言うコトだろう」

 

 ヘイムダルが国際組織であり、十国が供出金を用意しているからこそ、ヘイムダルは活動出来ているのだ。言わば十国はスポンサーであり、おんぶに抱っこのヘイムダルは、意見を言えるにせよ、十国の決定に対する拒否権は無い。

 ――実際の所、以前ラテンアメリア連邦共和国のクーデターに(実質的に)加担したコトで、ヘイムダルは十国さえ覆し得る力を持った組織だと認識された。戦後の為にその力を削いでおきたい、という考えも有るには有るだろう。首脳陣の誰も、口には出さなかったが。

 

「だが――私としてはミカエルと共に、世界の混乱も鎮めたいと考えている。

 人々の中では今、十国への不信感が極めて高まっている。実際に暴動やデモが起きていて、クーデターにすら繋がるかも知れない。ガブリエルの討伐も視野に入れねばならない以上、人類同士で内輪もめをしている場合ではないからな」

「…それはそうだが、どうするってんだ? 内政干渉は御法度だろ?」

 

 アグニカの問いに対し、ディヤウスはいつになく真剣な表情で答える。

 

「全世界にヘイムダルの名を知らしめた上で、実際にミカエルを討伐してみせる。それで混乱は沈静化し、人々は我々を強く支持してくれるだろう。

 …そうすれば、ガブリエル討伐作戦の為に、十国に重い腰を上げさせるコトも出来るようになる」

 

 そして、アグニカを指差して、こう宣告した。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――()()()()()()()()()()()()

 

 

 言われたアグニカは、驚愕のあまり呆然と目を見開き――「は?」と発するコトしか出来なかった。

 一方、スヴァハはディヤウスにこのように叫ぶ。

 

「な――にを言ってるんですか、ディヤウスさん! どうして、アグニカにそんなコトを…!」

「私では不充分なんだ。後方で指示を出していた程度の私が、『MAは我々が倒すから安心しろ』などと述べた所で、人々に響くハズが無い。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。『四大天使』ウリエルと戦い、見事討ち果たしてみせたお前が言わなければ、人々を納得させるコトなど出来はしない」

 

 既に「四大天使」を撃破しているアグニカ・カイエルが、数多のガンダム・フレームを有するヘイムダルを率いて戦う。その姿こそが、人々の希望となり得る。

 この残酷な、絶望に満ち溢れた世界だからこそ――絶対的な天使に抗い、最強の悪魔を従える英雄が必要なのだ。

 

「でも…! アグニカはこんなに傷付いて、もうボロボロの身体なのに…!」

「――ありがとう、スヴァハ。でも、どうせ…俺に『やらない』なんて選択肢は無いんだろ?」

「…そうだ。お前がやらなければならない、お前にしか出来ないコトだ。でなければ、これまで払って来た犠牲が、全て無駄となる」

 

 準備は整っている、とディヤウスは言った。

 惑星間LCSレーザー通信網「アリアドネ」はヘイムダルが建造、構築、管理しているモノだ。各国のマスコミに直接、映像を生で流させる用意は既に終了した。

 ヘイムダルの全隊がヴィーンゴールヴに集結し、出撃準備を整え終えた時こそ、アグニカ・カイエルが歴史の表舞台に登場すべき時だ。

 

「一週間の猶予が有る。その時までに、演説の内容を考えておけ」

 

 ディヤウスは(きびす)を返し、アグニカのいる病室を後にした。その背中を忌々しそうに見送って、アグニカはため息を吐いた。

 そんなアグニカの、義手となった漆黒の左腕に、スヴァハは左手を被せる。そこには体温が無く、金属の冷たく硬い感触が有るだけだった。

 

 

   ◇

 

 

 病室を出て、ディヤウスは己が研究室への道を歩む。――自分の不甲斐なさ、無力さに歯噛みしながら。

 

(…いつもコレだ。私はただ、誰かに背負わせるコトしか出来ない)

 

 本当に嫌気が差す。アグニカとスヴァハにパイロットの役を押し付けたあの時から、何一つとして変わっていない。変われていない。

 だが、それ故に、変わるべきでないモノが変わるコトも無い。エイハブ・バーラエナが死に、右足を失ってもなお、おめおめと生き延びたあの時から、ディヤウス・カイエルの意志は一切変わらない。

 

(だとしても。如何なる犠牲を払おうとも、私はMAを殲滅してみせる。絶対に、殲滅しなければならないのだ――!)

 

 そんな彼を笑いながら、支えてくれた朋友が――もう、この世にいないのだとしても。




Episode.72「in the Confusion」をご覧頂き、ありがとうございました。

前回のアレで世界は案の定大混乱、十国首脳陣も頭を抱えております。
しかし、それでいてキッチリ討伐作戦の大まかな概要を決定し、ヘイムダルに通達。足下を脅かされてる政治家とは思えないほど有能過ぎる。
有能過ぎて決めるべきコトがスッと決まるせいで、十国会議の字数は毎回長くならずにコンパクトになるって言う。今回も2,000字ちょっとでしたし。

後半はアグニカに対する、ディヤウスの決定。
タイトル回収が見えて来た感じがします。


《今回のまとめ》
・ミカエルはハワイでバカンス中
・ヘイムダルがミカエル討伐の中心に
・「英雄」への道はクソ親父により舗装されました




次回「Heroic Declaration」
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