厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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年末が近づいてきたコトに戦々恐々としつつ、粛々と更新していくスタイル。
ちなみに「機動戦士ガンダムNT」が地上波初放送されるコトが決定したようなので、ゾルタン様素材確保の為にも録画していきたいと思います。

サブタイの意味は「英雄宣言」。
作品タイトルに関係有るっぽい…ぽくない?


#73 Heroic Declaration

 M.U.0051年、七月二十一日。

 ヘイムダル本部「ヴィーンゴールヴ」――光学迷彩を作動させて地球上の海を航行する巨大メガフロートには、世界中に散らばっていた悪魔達(ガンダムチーム)が集結しつつあった。

 

 目的は一つ。

 「四大天使」ミカエル討伐作戦に参加する為だ。

 

 今、ヴィーンゴールヴにはナーワル級航空母艦とマンリー級強襲揚陸艦が何隻も接舷しており、飛行場にもレキシントン級大型輸送機が三機待機している。モビルスーツの積載はほぼ完了し、後は物資や弾薬を載せて出発するのみである。

 

「――まさか、こうも早く再集結するコトになるたァな」

「全くだ。お前たちの雁首が揃ってる絵面なんて、後五年は真っ平だと思っていたのだがな」

「何だとドワーム貴様! …それならば、オレだってお前の顔はしばらく見ずに済んで、清々すると思っていたぞ!」

「ケニング、何で張り合うんだよ」

「相変わらず騒々しいわね。…でもまあ、前のウリエル戦で散々な目に会ったくせに、逃げ出さなかったコトだけは褒めてあげるわ」

「ほう? お前が我々を褒めるとは、らしくないなカロム」

「緊張しているのだろう。笑ってやるなよ」

 

 数ヶ月前の「四大天使」ウリエル討伐部隊に参加した七人も、ヴィーンゴールヴに再集結していた。七人はヴィーンゴールヴの飛行場に立ち、潮風に煽られながら、「四大天使」ミカエルが陣取るハワイ諸島への出撃の時を待っているのだ。

 なお、発言の順番でディアス・バクラザン、ドワーム・エリオン、ケニング・クジャン、クリウス・ボードウィン、カロム・イシュー、フェンリス・ファリド、ミズガルズ・ファルクである。

 

「良い度胸ね、フェンリスにミズガルズ。斬られたいのなら素直にそう言えば良いじゃない、首の皮一枚残して血の一滴も零さず斬り捨ててあげるわ」

「――カロムちゃん、そんな物騒なコト言っちゃダメだよ」

 

 フェンリスとミズガルズの発言を受け、カロムが腰の刀に手をかけた時、もう一人のウリエル討伐部隊参加者が現れた。

 

「スヴァハちゃん? …アグニカはどうしたの?」

「何と、珍しいコトも有るのだな。スヴァハとアグニカが別行動とは」

「私たち、なんでセットで扱われてるの?

 ――アグニカは今回、重要な役割が有るからね」

 

 スヴァハ・リンレスは、仲間たちからの問いに、ほんの少し目を伏せてそう答えた。その様子から七人は、スヴァハがアグニカ・カイエルの「重要な役割」とやらを良く思っていないようだ、と察する。

 それが一体何なのか、七人がスヴァハに問おうとした時――「ガンダム・バエル」が、ヴィーンゴールヴに接舷するナーワル級航空母艦の一隻、その甲板から飛び上がった。そして、大きく分けて二つの区画で構成されるヴィーンゴールヴの中央部、青い旗が幾本か立つ白い屋根の中央に降り立つ。

 

「…バエル? アグニカか?」

「スヴァハ、アグニカはどうして――」

「――色々有ってね。すぐに分かると思うよ」

 

 スヴァハは如何にも不本意そうな表情で、飛行場から白と青に彩られた原初のガンダム・フレームを見上げた。それに合わせ、七人も同じようにバエルへと視線を移す。

 腰背部のブレードホルダーに二本の黄金の剣「バエル・ソード」を装備し、背部に大気圏内飛行を可能とするスラスターウィングを持つ機体は、屋根に立ったまま両手を広げる。その状態でコクピットハッチが開かれ、シートが上昇して、パイロットスーツに身を包んだアグニカが姿を見せた。

 アグニカは立ち上がり、右足をハッチの上に掛けて正面を向き、息を深く吸って口を開いた。

 

『全世界へ、これより宣言をさせてもらう。

 俺の名はアグニカ・カイエル。MSの建造を十国に提案し、ガンダム・フレームを開発した国際組織「ヘイムダル」の指導者だ』

 

 バエルの周囲には、カメラを搭載したドローンが飛んでおり、アグニカとバエルの姿を映している。アグニカの声は阿頼耶識を通じて機体のシステムに記録され、LCSレーザー通信網「アリアドネ」を介し、リアルタイムで世界中に発信されている。

 混乱のただ中に有る全世界の人類は、この唐突な放送に驚くと共に、注目し始めていた。十国が対モビルアーマー戦の戦況好転の理由と説明していたMSとガンダム・フレーム、それを提案・開発した組織のリーダーと名乗る青年――彼が何の為に現れ、一体何を伝えようとしているのかに。

 

「ヘイムダルの、指導者…!?」

「それって、ディヤウスさんだったんじゃ…!?」

「――一週間くらい前にね。ディヤウスさんはいきなり、アグニカにヘイムダルの指導者の立場を移譲したんだ」

「…スヴァハ、それは本当なのか!?」

「うん」

 

 一方、同じヘイムダルであるハズの七人も、驚愕していた。

 ヘイムダルの指導者が、ディヤウス・カイエルからアグニカ・カイエルに代わったコトは、今この瞬間まで一部の人間にしか伝えられていなかった。大半のヘイムダル構成員にとっては寝耳に水だ。七人の他にも、施設のあちこちがザワつくと共に、全員がアグニカ・カイエルの言葉に耳を傾ける。

 

『これまで十国は、この対MA戦争が人類優位で進んでいると説明していた。それは事実だったが、先日ヨハネスブルグに「ミカエル」と呼ばれる強力無比なMAが出現したコトで、状況は一変した。ミカエル――「四大天使」とされるMAは、たった一機でこの戦争の戦局を覆し得る、絶対的な戦闘能力を誇る機体だ。この十年間、姿を見せなかった奴が本腰を入れて動き出したコトで、人類の優位は脆くも崩れ去ってしまった。

 ――ヨハネスブルグで犠牲となった方々には、謹んで哀悼の意を申し上げる。また、全世界の皆は不安を感じ、毎日を恐怖と共に過ごしているだろう』

 

 アグニカは一度目を伏せるも、力強く見開くと共に、右手を握り締めて胸元まで持ち上げて言う。

 

 

『だが、その必要は無い! 何故か!?

 我々ヘイムダルが、その「四大天使」ミカエルを討伐するからだ!!!』

 

 

 こう断言した上で、更にアグニカは続ける。

 

『我々にはそうするだけの戦力が有り、既にその実績が有る! 先日、火星にもミカエルと同じ「四大天使」ウリエルが出現したが、我々はこれを受けて火星に赴き、実際にウリエルを討伐するコトに成功している!』

 

 この言葉に合わせ、世界には証拠として、バエルに記録された「四大天使」ウリエルとの戦闘映像の一部が配信されている。普段から十国の情報統制に踊らされ、抑圧されているマスコミなら、喜んで連日連夜垂れ流すコトだろう。

 

『ガンダム・フレームは、MAを破壊する為だけに造られており、ウリエル討伐作戦には十四機が投入された。今回のミカエル討伐作戦には、更に多い計二十六機のガンダム・フレームを投入する! 天使狩りの悪魔を以て、必ずや「四大天使」ミカエルを討ち果たす! 全てのMAの殲滅こそが、我々ヘイムダルの使命であるが故に!』

 

 そして、アグニカは乗機(バエル)と同じように両腕を広げて、宣言した。

 

 

『我々は此処に宣言する!!

 「四大天使」ミカエルは勿論、月面に陣取って新たなMAを建造し続けている「四大天使」ガブリエル、未だ姿を見せぬ「四大天使」ラファエルや他のMAを含め―――()()()M()A()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!』

 

 

 ―――アグニカ・カイエルによる「英雄宣言」。

 この時こそが、数多ある国際組織の一つでしかなかったヘイムダルが全人類に周知されるとともに、アグニカ・カイエルとガンダム・バエルの名が、世界に知らしめられた時だとされている。

 

 全世界への宣言は、これで終わった。

 しかし、彼の演説はここまでが全てではない。

 

『ヘイムダルの全員へ。聞いての通り、俺は先日、クソ親父…ディヤウス・カイエルから、ヘイムダルの全権を託された。正直フザケんじゃねぇと思ったが、世界を納得させるには実際にMAと戦い、ウリエルを討伐した奴がやらなきゃならねぇ――とのコトだったからな。そう言うコトだから、俺が指導者になったコトについては、それで納得してくれると助かる。

 先程宣言した通り、俺たちの目的は変わらない。全てのMAを撃破するコトで、戦争を終わらせる――それがヘイムダルの存在意義であり、最終目標だ。その為にこれからも、皆の力を貸して欲しい』

 

 彼は全人類ではなく、ヘイムダルに所属する者たちへの言葉を残していた。全世界への中継は既に切れたが、今なおアグニカの言葉は、ヘイムダルの全員に届いている。

 

『もう嫌と言うほど分かってると思うが、ミカエルは正真正銘の化け物だ。今回の作戦には、ヘイムダルが現在有する全てのガンダム・フレームを投入するが、それでも安全マージンを取って撃破出来るとは到底思えねぇ。まず間違い無く、ギリギリの戦いになると思う。――そうはならないと思いたいが、また犠牲者が出るかも知れない。

 だが――例え犠牲を払っても、俺たちはやり遂げなきゃならねぇ。そうしないと、これまで死んで行っちまった仲間たちの命が、無意味なモノになっちまう。俺は、それだけはしたくない』

 

 もう既に、多くの犠牲を払った。

 しかし、これ以上の犠牲は真っ平御免だ。どんなに現実的でなくとも、アグニカはもう、誰かを犠牲にするなどクソ喰らえだ。

 

『だけど、俺は犠牲になってほしい訳じゃない。無茶苦茶だって分かってるが、敢えて言わせてくれ。

 ―――勝とう。俺たち、全員揃ってな』

 

 懇願にすら聞こえる、その言葉。

 アグニカは「ブーイングでも来るか?」と思ったが、言葉が全員に伝わった直後、ヴィーンゴールヴの全域から(とき)の声が上がった。

 

「…アグニカ」

 

 歓声の中で、スヴァハはアグニカを見上げる。

 ヘイムダルのリーダーとして言葉を発するその姿は、スヴァハの左目に燦然(さんぜん)と映し出されるが――その姿は、何処か自分から遠いモノになってしまったと、スヴァハには感じられた。

 

 

   ◇

 

 

「――全員揃って勝つ。アグニカらしいね」

「全くだ。やはりアグニカこそ、この時代で光となり得る英雄――素晴らしい! アグニカ万歳!!」

「…ソロモン。お前、いつからそんなキャラになった? もうちょっと重いタイプじゃなかったか?」

「何を言うかアマディス。私はバエルに心奪われ、アグニカに夢想する者だぞ? 将来的には、アグニカのファンクラブを立ち上げるのが夢だ」

 

 ナーワル級航空母艦の一隻、その艦橋(ブリッジ)から演説を聞き届けたアグニカチームのメンバーは、口元を緩めた。トビー・メイはその言葉を噛み締め、ソロモン・カルネシエルはアグニカを称賛し、アマディス・クアークはそんなソロモンに軽くツッコミを入れる。

 死闘を前にしても、いつもと変わらない光景。――しかし、その三人の輪から離れ、モニターに映し出されるバエルの姿に背を向けた少年がいた。

 

「…大駕? どうしたの?」

 

 大駕・コリンズ。三人やスヴァハと同じ、アグニカチームの一員であり、「ガンダム・グラシャラボラス」のパイロットを務める少年だ。

 彼の行動に気付いたトビーが、声を掛ける。それでも大駕は足を止めず、ブリッジを後にした。

 

「――何だ? 変なコトしたか、トビー」

「そんなコトは無い、と思うけど…どうだろう。最近の大駕は、ちょっと様子がおかしいんだ」

「…アグニカは、それを知っているのか?」

 

 ソロモンの質問に、トビーは(かぶり)を振った。そもそも、アグニカは最近、ヘイムダルのリーダーになったコトで多忙を極めていて、同じチームであるトビーやアマディス、ソロモンにさえ、会う機会がほとんど無い。そして、それは大駕も同じコトだろう。

 

「アグニカに会えず、拗ねているのではないか?」

「…あのなソロモン。大駕がそんなタイプか?」

「――何も、無いと良いんだけど」

 

 

 三人がいる艦橋(ブリッジ)を去った大駕は、右拳を握りしめ、壁に叩き付けた。

 

「ヅッ…アァ、ハァ――グゥ、ウゥウ…!」

 

 ヒビが入るほどに歯を食いしばり、目を血走らせている。義手になった左腕で顔を押さえ、鉄の指が顔面に食い込み、血が滲み出る。息は荒く、飢えた獣のような声が喉から発された。

 …彼が()()()()()のは、そう最近のコトではない。兆候はずっと前、アフリカン共和国のザンジバル島で戦った後くらいから現れていた。

 

 復讐以外のコトを考えると、頭が熱くなる。

 脳みそがグチャグチャにかき回されて、破壊衝動に襲われて、ひたすらに喉が渇いて腹が減る。

 

「コロ、す…オレが、どウ、なッテも――!」

 

 殺す。殺さなければならない。

 ナニを? 聞かれるまでもない。

 天使を。家族をコロした鉄クズどもを、この手で必ず、何とシテも殺サなくっちゃイけないンだ。

 

 怒れ。コロせ。殺す。殺せ。コロせ――!

 

 脳裏に、悪魔の声が響く。

 血に飢え、殺戮を求める悪魔の声が。

 

(これは何だ。なニを、ダれが言っている…!?

 オレが、悪魔(グラシャラボラス)が…いや、悪魔(オレ)が――!?)

 

 分かる。分かっている。正気を失くしてる。

 これは悪魔(オレ)であって、大駕(オレ)でなく、でも間違い無く大駕(オレ)だ。大駕(オレ)の心が、願いが、執念が大駕(オレ)悪魔(オレ)にした。

 

「殺、す―――コロ、せ…!」

 

 誰がどうなろうと、関係無い。天使(クズ)を、天使(ヤツ)さえ殺せるなら、どんな犠牲を払おうが知ったコトか。

 英雄? 世界の光? 全員揃って? クソ下らねェ世迷言だ。そんなモンで、オレの復讐を果たせるとでも思ってるのか。

 

 殺す。絶対に殺す。

 何を犠牲にし、オレ自身がどうなろうとも。

 

「ハ。ハハ、ハハハハハ――!」

 

 やっと。やっとだ。やっとクズどもの親玉とやり合える。オレから何もかもを奪ったゴミを殺せる。オレをこんな風にした、オレをこんな目に合わせたカスをブチ壊せる。どうしてやろうか。羽根を一枚一枚剥ぎ取って、パイプを一本一本引き抜いて、全身をバラバラに引き裂いて打ち砕いて蹴り飛ばして殴り壊して噛み千切ってやりたい。壊して殺して壊して殺して壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す壊す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロすコロすこロスころスこロすコろすコロスころす殺す―――

 

「あギャは。ギャハ、ハヒハハハヒフハハ!!!」

 

 

   ◇

 

 

 同日、ヘイムダルの全戦力は、「四大天使」ミカエル討伐部隊として、敵の待つハワイ諸島へと出発した。

 

「――お前たちの戦いは、世界中の人々が刮目するモノになる。頼んだぞ」

 

 ディヤウス・カイエルは外に立ち、海風に白衣を(なび)かせて、その艦隊を見送る。…また、彼は見送るだけ。前と同じで、何も出来やしない。

 前もこうして見送って、マヴァット・リンレスは帰って来なかった。アグニカの言う通り、全員揃って勝利し、凱旋してくれるコトを祈るが――現実には、向かった内の何人が、このヴィーンゴールヴに帰って来るのだろうか。

 

「ディヤウスさん。システムの調整を」

「…分かった。今行く」

 

 スタッフの一人に呼ばれ、ディヤウスは白衣を翻し、艦隊に背を向けて施設の中に姿を消して行く。

 

 青かった空は、いつしか鈍色に染まり。

 高くなった波が、施設の白い外壁に打ち付けられ、飛沫(しぶき)を上げた。




Episode.73「Heroic Declaration」をご覧頂き、ありがとうございました。

何か不穏な空気が漂い始めましたね…。
作者的には「うん、厄祭戦はこうでなくっちゃあ」という感想が浮かびますが、この雰囲気を皆様は、どうお感じになっているのでしょうか。


《今回のまとめ》
・アグニカが世界的有名人になりました
・そんなアグニカにスヴァハはちょっと複雑
・大駕くん大分ヤバそうじゃね?




次回「Scala-add Floshortus」
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