厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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サブタイの意味は「楽園への階段」です。
絶対そうはなりませんけど、これも「Iron-Blood Cascade」と同じような固有名詞なので、そこはご了承下さい。


#74 Scala-add Floshortus

 地球衛星軌道上、ハワイ諸島上空。

 現在では「四大天使」ミカエルの居城と成り果てた島の真上には、アメリア合衆国軍の一個艦隊が展開していた。

 

「全艦、所定の位置につきました」

「了解した。各機は随時出撃(リフトオフ)し、ダインスレイヴの発射準備を整えるよう」

 

 艦隊を指揮するのは、パール・マコーマック准将――長年モビルスーツ部隊の指揮官を務める、見事な身体を露出度高めの軍服で包んだブロンド美女である。旗艦の艦橋(ブリッジ)で司令席に座って指揮を取る彼女の傍らには、直属のMS部隊の隊長にして「ガンダム・サブナック」のパイロット、サイラス・セクストン大佐が立つ。

 

「――このように艦隊とダインスレイヴ隊を展開させながら、MS部隊への降下命令が下りないとは。上層部(うえ)はどういうつもりなんだ?」

「この(チャンス)に、ヘイムダルの力を削ぐつもりなのよ。先の『セテンブロの政変(クーデター)』で、ヘイムダルは曲がりなりにも、十国の支配体制を覆し得る戦力(パワー)を有しているコトが露見してしまったんだから」

 

 何処の国にも属さない国際組織であり、その運営が十国の支援により成り立っているとは言え、ヘイムダルの力は十国の脅威になる。十国同士が対等な力関係で拮抗していたからこそ、改元後の平和が有った――ヘイムダルは、場合によってその均衡を崩し得る。

 自由で行動の予測が難しい以上、強制的に抑え込めるまでに、ヘイムダルの力を削いでおきたいというのが十国の本音だ。その為に「四大天使」ミカエル討伐を押し付けた。当然、ヘイムダルは嫌とは言えない。自軍の戦力を減らさず、脅威となるヘイムダルとモビルアーマーが潰し合ってくれる――十国にとっては、まさしく一石二鳥の状況である。

 

「…全く、自国の領土が侵攻され、国民が蹂躙されていると言うのに、そんな下らんコトを考えているとはな」

(マウス)は慎みなさい、サイラス。――何であれ、私たちは(オン)の決定に従うしかない。だからせめて、露払いくらいは完全(パーフェクト)に果たそうってコトよ」

 

 パールもサイラスも、今回の国の決定には納得していない。自国が被害を受けていると言うコトも有るが、万が一ヘイムダルが負けたなら、その時は十国が部隊を出さなければならなくなるからだ。

 どうせそうなるなら、初めからヘイムダルと協力して一気に戦力を投入した方が、勝算は高くなる。戦力の順次投入など愚策中の愚策、何故なら各個撃破されて終わりだからだ。彼我によほどの数差が無い限り、基本的に戦力を出し渋った方が負ける。

 

「ダインスレイヴ隊、展開を完了しました」

「地上でヘイムダルの準備が整うまで、現状を維持して待機(ステイ)。まかり間違っても墜ちたり(フォール)するな、と伝えておきなさい。

 (アンド)、第一種警戒態勢は地上だけじゃなく、頭上(スペース)にもやっておくように」

 

 パールが艦隊とダインスレイヴ隊に命令する傍らで、サイラスは「さて」と呟いて。

 

「今の我々には、健闘を祈るしか出来んが――真に世界の光(ヘイムダル)たらしめるのか、新リーダーのお手並み拝見だな。

 そうだろ、我らが女王様(クィーン)?」

「ええ、不本意だけどそうなるわね。

 ――悲劇(ロス)の二の舞にならないコトを祈りましょ」

 

 

   ◇

 

 

 ヴィーンゴールヴより出発したヘイムダルの艦隊は、ハワイ諸島を索敵可能圏内に捉えた。

 本作戦の旗艦であるラファイエット級汎用戦艦「サロモニス」内のMSデッキで、出撃準備を終えて「ガンダム・バエル」のコクピットに座るアグニカ・カイエルは、艦橋(ブリッジ)のクルーに質問する。

 

「全域の把握はどうだ?」

『ミカエルのエイハブ・ウェーブは、ハワイ島のマウナケア火山から発振されているようです。オアフ島の都市「ホノルル」は壊滅した模様』

『ハワイ島からは、ミカエル以外のエイハブ・ウェーブも観測されています』

 

 成る程、とアグニカは頷く。

 今回の討伐対象である「四大天使」ミカエルがハワイ島にいる以上、そこが敵の拠点になっていると考えて差し支えは無いだろう。

 

「衛星軌道上のアメリア軍艦隊は?」

『展開完了との報が入って来ています。こちらから一度通信を飛ばせば、即座に爆撃を実行すると』

「流石はマコーマック准将、仕事が早い」

 

 現在、ヘイムダルの艦隊はオアフ島の東側に位置している。ここから南下し、ハワイ島の南で転進、キラウエア火山を全隊で駆け上がって「四大天使」ミカエルを仕留めに行く。

 

「ハワイ島を射程距離内に捉え次第、アメリア軍に爆撃の依頼を出してくれ。混戦になった時点で宇宙からの砲撃は不可能になる、有るだけ撃ち尽くすよう要請しよう」

『了解しました』

 

 そもそも、ハワイ諸島はアメリア合衆国の領土である。そこに陣取った「四大天使」ミカエルを倒そうと言うのだ、アメリア軍には最大限働いてもらわねば話にならない。アメリア軍の宇宙艦隊が何発分の特殊KEP弾頭を用意したかは定かでないが、パール・マコーマック准将の指揮下なら、相当な数を準備しているであろうとアグニカは踏んでいた。

 

「…アグニカって、大分あの人を信頼してるよね」

「ロサンゼルスの時に共闘したしな。国のお偉いさんが何を考えてるかは知らんが、現場監督は信頼出来るだろ。出来なきゃやってられねぇよ」

「――ロサンゼルス…」

 

 同じ艦で同じように「ガンダム・アガレス」のコクピットで待機するスヴァハ・リンレスの言葉に、アグニカはそう返す。

 一方、「ガンダム・グラシャラボラス」のコクピットに座る大駕・コリンズは、アグニカが口に出した都市の名を反復した。彼にとって、ロサンゼルスは生まれ育った場所であり、全てを失ってからヘイムダルと出会った場所でもあった。

 

「全員へ。アメリア軍艦隊の爆撃が終わり次第、全機出撃して、総出で『四大天使』ミカエルを仕留める。なお、基本は現場の判断に任せたいので、俺から特別に指示は出さない。自分のチームリーダーの命令にも拘り過ぎず、臨機応変に行こう。

 敵はあの島をどういう訳か要塞化し、無数の配下を配置してる。爆撃である程度は無力化出来るだろうが、有視界距離での観測がされない砲撃だ、あまりアテにはするな。天気も悪いから、必ずトラップや砲台、ザコ敵の撃ち漏らしは有ると思って行動してくれ」

 

 アグニカは全艦に通信を開き、これまで共に戦って来た戦友たちに呼びかける。――また再び、全員が揃って笑える瞬間が訪れるコトを信じて。

 

「言うまでもないが、敵は強い。だが、俺たちの力でなら、決して倒し得ない敵ではないと信じる。

 もう一度言う――()()()()()()

 

 アグニカが通信を切ると同時、地球衛星軌道上に展開するアメリア軍の宇宙艦隊も、ヘイムダルからの支援要請を受け取った。

 

「ヘイムダルより支援要請! ハワイ島の全域へ、全弾を撃ち尽くしてくれとのコトです!」

「…開幕から全弾撃ち尽くせ、とは。成る程な」

「乱戦になったら、どの道宇宙からの砲撃(シェリング)なんて出来ないんだから、妥当な判断ね。天気(ウェザー)曇り(クラウディ)正確(エクセレント)な射撃も望めない以上、範囲をハワイ島全域にしたのもありがたい話ではあるわ。

 ――ダインスレイヴ隊、全機に通達! 絨毯爆撃(カーペットボミング)よ、全弾をハワイ島全域に撃ち込みなさい! 弾切れ(レッド)まで終われないわよ!」

 

 パール・マコーマック艦隊司令の命令で、十五機ほどが並んだダインスレイヴ隊が、一斉に魔剣の引き金を引いた。無数の火線が青い星に降り注ぎ、積み重なる白い雲を引き裂いて、ハワイ島の大地に次々と突き刺さって行く。

 しかも、一度ではない。電磁を帯びた弩弓が水蒸気を噴射して排熱すると同時、新たな弾頭が補給担当のMSにより装填され、また射出される。

 

「――恐ろしい光景だ。地上作戦でやられたら、怒りと共にコントローラーをブン投げるな」

「これで撃破(デフィート)を見込めないミカエルの方がよっぽど恐ろしいから安心なさい、サイラス。本当に捨てゲーしたいのはヘイムダルよ」

「全くだ。…ところでパール、特殊KEP弾頭は何発持って来たんだ? 上層部に色目まで使っておねだりしてたようだが」

 

 傍らでダインスレイヴ隊の連続発射を見守るMS部隊隊長サイラス・セクストン大佐の質問に、司令席に座すパールは、ストッキングに覆われた足を組み替えながら答えた。

 

失礼(エクスキューズ)ね、色目(ハニートラップ)なんて使ってないわよ。痴女(ビッチ)じゃないんだから、なりふり構わず籠絡しにかかりはしないわ。頑張ってしつこくウザ――粘り強い説得(パースエーション)をしたってのに、参謀本部(ジジイズ)は六十三発しか出してくれなかったわ」

「…充分過ぎるだろう。むしろやり過ぎだ。島を海に沈めるつもりか? そもそも火山島だぞ?」

「ダインスレイヴを使う時点で、少なからず地図(マップ)を書き直さないといけないのよ? 再測量(リメジュメント)するより、丸ごと消す方が楽でしょう?」

「ハハハ、面白い冗談(ジョーク)だなパール。

 ―――冗談(ジョーク)だよな?」

 

 一方、地上にはダインスレイヴの連続攻撃で、轟音と衝撃波が伝播していた。一撃一撃が大地を抉って削り打ち砕き、地形を変化させ、敵陣をメチャクチャに蹂躙していく。空を覆っていた雲が吹き飛ばされ、青空の上で太陽が輝いている。

 衝撃は海を波立たせ、高波がヘイムダルの艦隊を上下させる。だが、未だにダインスレイヴの雨は止まない。

 

「オイこれ、いつまで続くんだよ!?」

「…やり過ぎだね、明らかに」

「――言うなアマディス、トビー」

 

 たっぷり六十三発がハワイ島に撃ち込まれた後には、ハワイ島の全域がクレーターとなり、舞い上がった土煙が全面を覆い隠していた。

 

『アメリア軍より通信! 健闘を祈る、とのコトです!』

「行くぞ! MS全機、出撃だ!」

 

 ここからは、ヘイムダルのターンである。バエルを始め、各艦から一斉にMSが出撃し、海面に降りてホバークラフトでハワイ島に接近をかける。

 また、ヘイムダルにも、全戦力を「四大天使」ミカエルに集中させる為に用意した策が有る。

 

「レキシントン級を先行させる! 一気に吹っ飛ばしてやれ!」

 

 レキシントン級大型輸送機による、広範囲爆撃である。爆薬をこれでもかと積み込んだレキシントン級を無人で誘導し、ミカエルの周辺に叩き落とす。――レキシントン級を一機使い捨てる、ヘイムダルにとっては身を切るような攻撃だが、これでザコや敵のトラップ、砲台が一つでも減ってくれるなら御の字だ。

 かくして、一機のレキシントン級が土煙に覆われたハワイ島、マウナケアに向けて飛行するが――土煙を引き裂いて、桃色の光が飛び出し、件のレキシントン級の機首から尾翼までをいとも容易く貫いた。

 

『レキシントン級、攻撃を受け――爆散します!』

 

 積み込んだ爆弾もろとも、レキシントン級は内側から大爆発を引き起こし、破片を散乱させる。煙はたちまち湾を覆い尽くすが、その中にガンダム・フレーム達は恐れるコト無く、逆に姿を隠す。

 

「ッ――全機散開! レキシントン級の爆煙に紛れて、一気に島に上陸するぞ!」

「いくら装甲が薄いとはいえ、ナノラミネート装甲に守られた空母を一撃とはな…!」

「関係ない――オレは殺すだけだ」

 

 レキシントン級撃沈後、島を覆う土煙が再び裂けた。今度は水平方向ではなく()()に吹き飛ばされ、オレンジ色の火線が空に向けて六本、放たれる。

 空に向けて放たれたダインスレイヴは、大気圏を突き抜けて宇宙空間に達し――()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な、何だと――!?」

状況(シチュ)は!?」

 

 爆発が複数発生し、旗艦も揺らぐ。その艦橋(ブリッジ)でパールが叫び、オペレーターは声を震わせながら報告する。

 

「――『ラ・フンタ』、『デンバー』撃沈…!?」

「どこからの攻撃だ!?」

「…ち、地上――ハワイ島から、と推測…!」

 

 この瞬間、その場にいた全員が震え上がった。

 間違い無い――「四大天使」ミカエルは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

「全艦、最大戦速(ハイスピード)で現宙域を離脱! 二撃目が来る前に、急ぎなさい! 早く(ハリー)!!」

「―――何て、コトだ…有り得ない…!」

 

 パールが叫声混じりに命令し、サイラスは呆然とするしかなかった。

 下から上に、重力を振り切って大気圏を突破し、衛星軌道上に攻撃してくるなど、いくらダインスレイヴでも不可能なハズだ。しかも命中させるなど、数十キロ先のリンゴをライフルで撃ち抜くような芸当。それでいて、分厚いナノラミネートアーマーに守られた宇宙戦艦を、一撃のみを以て撃墜してみせる威力さえも保持している。

 射程、正確性、威力――その全てがずば抜けた、通常のダインスレイヴとは一線を画する、特別製のダインスレイヴ。まさしく、最強の「四大天使」と呼ぶに相応しい武装である。

 

 

 そして。

 このダインスレイヴすら、「四大天使」ミカエルの力の片鱗に過ぎない。

 

 

「…複数のエイハブ・ウェーブ反応、動いてる!」

「クソ、アレでも削りきれなかったってのかよ――!」

「――だが、やるしかない…攻めるぞ!」

 

 ハワイ島を覆っていた土煙が晴れ、切れた雲の合間から差し込む太陽の黄金の光によって、巨大な天使の姿がヘイムダルの前に晒された。

 

 マウナケア火山の火口に陣取るそれは、二枚の翼を広げる、白と青、金と赤のナノラミネートコートに身を包んだ熾天使。二本の腕で地面を掴み、頭部と腹部、翼部にビーム砲を備えている。幾多の超硬大型ワイヤーブレードを持ち、翼に計二十門ものダインスレイヴを有する。それだけでなく、他にもまだ見ぬ武装を隠し持っているコトだろう。

 そして、熾天使の下には配下の天使が集う。直属機たるサンダルフォンの他にも、未確認と思しき機体が複数。如何なる特性を持っているのか。

 

 また、注意すべきはそれだけではない。この島は既に全域が要塞化され、ミカエルの支配下に有る。

 マザーMAたる「四大天使」ガブリエル以外は、子機の生産能力しか持たない。同じ「四大天使」とは言え、ミカエルもその例に漏れないが――ことミカエルは、ミカエルのみが持つ「特殊機能」を応用するコトで、子機以外の物でも自在に生産し、操るコトが出来るのである。

 

 

 自己進化。

 

 

 それこそが、ミカエルに与えられた特殊機能。ミカエルは常に自身を進化させ、より強力になっていくコトが出来る。この機能がミカエルを「最強の四大天使」たらしめ、また応用も利く。

 

 ミカエルは「()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これにより、ミカエルはハワイ島を要塞化した。

 また、ミカエルの自己進化は、新たなパーツを生み出して現行のパーツと組み替えたり、増設したりする方式で行われる。結果、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかも、元通りに戻すだけでなく、より強力にする形での修復だ。

 そして、それは今やハワイ島全域が対象。今は破壊されているが、時が経てば状況はミカエル優位に傾いて行くだろう。現在のハワイ島は、最早「四大天使」ミカエルそのものと言える。

 

 「楽園への階段(スカラ・アド・フロースホルトゥス)」。

 

 ミカエルが特殊機能の対象とした場所の総称。時が経てば経つほど無限に進化し続ける、最強の「四大天使」が住まうに相応しい聖域。

 

 

 人類は果たして、楽園への階段を駆け上がるコトが出来るか。

 今、血戦が開始された―――




Episode.74「Scala-add Floshorutus」をご覧頂き、ありがとうございました。

読者の皆様は「こんなん勝てる訳ねぇだろ!」と、思っておられるかと察します。私もそう思います。
これどうすんだよマジで…盛り過ぎにも程があんだろ…(なお、ミカエルはまだヤバい武装を隠していますし、何なら特殊機能的にどんどん増えていく模様。何だコイツ)
直属機や新型もヤバい奴らなので、結果的にヤバい奴しかいなくて草が枯れる。勝てんのかこれ?


《今回のまとめ》
・ダインスレイヴを地上から宇宙に撃ち返すなバカ
・ミカエルの特殊機能は「自己進化」
・ヘイムダル対ミカエル戦、スタート




次回「ALA and hesitation」
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