厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
絶対そうはなりませんけど、これも「Iron-Blood Cascade」と同じような固有名詞なので、そこはご了承下さい。
地球衛星軌道上、ハワイ諸島上空。
現在では「四大天使」ミカエルの居城と成り果てた島の真上には、アメリア合衆国軍の一個艦隊が展開していた。
「全艦、所定の位置につきました」
「了解した。各機は随時
艦隊を指揮するのは、パール・マコーマック准将――長年モビルスーツ部隊の指揮官を務める、見事な身体を露出度高めの軍服で包んだブロンド美女である。旗艦の
「――このように艦隊とダインスレイヴ隊を展開させながら、MS部隊への降下命令が下りないとは。
「この
何処の国にも属さない国際組織であり、その運営が十国の支援により成り立っているとは言え、ヘイムダルの力は十国の脅威になる。十国同士が対等な力関係で拮抗していたからこそ、改元後の平和が有った――ヘイムダルは、場合によってその均衡を崩し得る。
自由で行動の予測が難しい以上、強制的に抑え込めるまでに、ヘイムダルの力を削いでおきたいというのが十国の本音だ。その為に「四大天使」ミカエル討伐を押し付けた。当然、ヘイムダルは嫌とは言えない。自軍の戦力を減らさず、脅威となるヘイムダルとモビルアーマーが潰し合ってくれる――十国にとっては、まさしく一石二鳥の状況である。
「…全く、自国の領土が侵攻され、国民が蹂躙されていると言うのに、そんな下らんコトを考えているとはな」
「
パールもサイラスも、今回の国の決定には納得していない。自国が被害を受けていると言うコトも有るが、万が一ヘイムダルが負けたなら、その時は十国が部隊を出さなければならなくなるからだ。
どうせそうなるなら、初めからヘイムダルと協力して一気に戦力を投入した方が、勝算は高くなる。戦力の順次投入など愚策中の愚策、何故なら各個撃破されて終わりだからだ。彼我によほどの数差が無い限り、基本的に戦力を出し渋った方が負ける。
「ダインスレイヴ隊、展開を完了しました」
「地上でヘイムダルの準備が整うまで、現状を維持して
パールが艦隊とダインスレイヴ隊に命令する傍らで、サイラスは「さて」と呟いて。
「今の我々には、健闘を祈るしか出来んが――真に
そうだろ、我らが
「ええ、不本意だけどそうなるわね。
――
◇
ヴィーンゴールヴより出発したヘイムダルの艦隊は、ハワイ諸島を索敵可能圏内に捉えた。
本作戦の旗艦であるラファイエット級汎用戦艦「サロモニス」内のMSデッキで、出撃準備を終えて「ガンダム・バエル」のコクピットに座るアグニカ・カイエルは、
「全域の把握はどうだ?」
『ミカエルのエイハブ・ウェーブは、ハワイ島のマウナケア火山から発振されているようです。オアフ島の都市「ホノルル」は壊滅した模様』
『ハワイ島からは、ミカエル以外のエイハブ・ウェーブも観測されています』
成る程、とアグニカは頷く。
今回の討伐対象である「四大天使」ミカエルがハワイ島にいる以上、そこが敵の拠点になっていると考えて差し支えは無いだろう。
「衛星軌道上のアメリア軍艦隊は?」
『展開完了との報が入って来ています。こちらから一度通信を飛ばせば、即座に爆撃を実行すると』
「流石はマコーマック准将、仕事が早い」
現在、ヘイムダルの艦隊はオアフ島の東側に位置している。ここから南下し、ハワイ島の南で転進、キラウエア火山を全隊で駆け上がって「四大天使」ミカエルを仕留めに行く。
「ハワイ島を射程距離内に捉え次第、アメリア軍に爆撃の依頼を出してくれ。混戦になった時点で宇宙からの砲撃は不可能になる、有るだけ撃ち尽くすよう要請しよう」
『了解しました』
そもそも、ハワイ諸島はアメリア合衆国の領土である。そこに陣取った「四大天使」ミカエルを倒そうと言うのだ、アメリア軍には最大限働いてもらわねば話にならない。アメリア軍の宇宙艦隊が何発分の特殊KEP弾頭を用意したかは定かでないが、パール・マコーマック准将の指揮下なら、相当な数を準備しているであろうとアグニカは踏んでいた。
「…アグニカって、大分あの人を信頼してるよね」
「ロサンゼルスの時に共闘したしな。国のお偉いさんが何を考えてるかは知らんが、現場監督は信頼出来るだろ。出来なきゃやってられねぇよ」
「――ロサンゼルス…」
同じ艦で同じように「ガンダム・アガレス」のコクピットで待機するスヴァハ・リンレスの言葉に、アグニカはそう返す。
一方、「ガンダム・グラシャラボラス」のコクピットに座る大駕・コリンズは、アグニカが口に出した都市の名を反復した。彼にとって、ロサンゼルスは生まれ育った場所であり、全てを失ってからヘイムダルと出会った場所でもあった。
「全員へ。アメリア軍艦隊の爆撃が終わり次第、全機出撃して、総出で『四大天使』ミカエルを仕留める。なお、基本は現場の判断に任せたいので、俺から特別に指示は出さない。自分のチームリーダーの命令にも拘り過ぎず、臨機応変に行こう。
敵はあの島をどういう訳か要塞化し、無数の配下を配置してる。爆撃である程度は無力化出来るだろうが、有視界距離での観測がされない砲撃だ、あまりアテにはするな。天気も悪いから、必ずトラップや砲台、ザコ敵の撃ち漏らしは有ると思って行動してくれ」
アグニカは全艦に通信を開き、これまで共に戦って来た戦友たちに呼びかける。――また再び、全員が揃って笑える瞬間が訪れるコトを信じて。
「言うまでもないが、敵は強い。だが、俺たちの力でなら、決して倒し得ない敵ではないと信じる。
もう一度言う――
アグニカが通信を切ると同時、地球衛星軌道上に展開するアメリア軍の宇宙艦隊も、ヘイムダルからの支援要請を受け取った。
「ヘイムダルより支援要請! ハワイ島の全域へ、全弾を撃ち尽くしてくれとのコトです!」
「…開幕から全弾撃ち尽くせ、とは。成る程な」
「乱戦になったら、どの道宇宙からの
――ダインスレイヴ隊、全機に通達!
パール・マコーマック艦隊司令の命令で、十五機ほどが並んだダインスレイヴ隊が、一斉に魔剣の引き金を引いた。無数の火線が青い星に降り注ぎ、積み重なる白い雲を引き裂いて、ハワイ島の大地に次々と突き刺さって行く。
しかも、一度ではない。電磁を帯びた弩弓が水蒸気を噴射して排熱すると同時、新たな弾頭が補給担当のMSにより装填され、また射出される。
「――恐ろしい光景だ。地上作戦でやられたら、怒りと共にコントローラーをブン投げるな」
「これで
「全くだ。…ところでパール、特殊KEP弾頭は何発持って来たんだ? 上層部に色目まで使っておねだりしてたようだが」
傍らでダインスレイヴ隊の連続発射を見守るMS部隊隊長サイラス・セクストン大佐の質問に、司令席に座すパールは、ストッキングに覆われた足を組み替えながら答えた。
「
「…充分過ぎるだろう。むしろやり過ぎだ。島を海に沈めるつもりか? そもそも火山島だぞ?」
「ダインスレイヴを使う時点で、少なからず
「ハハハ、面白い
―――
一方、地上にはダインスレイヴの連続攻撃で、轟音と衝撃波が伝播していた。一撃一撃が大地を抉って削り打ち砕き、地形を変化させ、敵陣をメチャクチャに蹂躙していく。空を覆っていた雲が吹き飛ばされ、青空の上で太陽が輝いている。
衝撃は海を波立たせ、高波がヘイムダルの艦隊を上下させる。だが、未だにダインスレイヴの雨は止まない。
「オイこれ、いつまで続くんだよ!?」
「…やり過ぎだね、明らかに」
「――言うなアマディス、トビー」
たっぷり六十三発がハワイ島に撃ち込まれた後には、ハワイ島の全域がクレーターとなり、舞い上がった土煙が全面を覆い隠していた。
『アメリア軍より通信! 健闘を祈る、とのコトです!』
「行くぞ! MS全機、出撃だ!」
ここからは、ヘイムダルのターンである。バエルを始め、各艦から一斉にMSが出撃し、海面に降りてホバークラフトでハワイ島に接近をかける。
また、ヘイムダルにも、全戦力を「四大天使」ミカエルに集中させる為に用意した策が有る。
「レキシントン級を先行させる! 一気に吹っ飛ばしてやれ!」
レキシントン級大型輸送機による、広範囲爆撃である。爆薬をこれでもかと積み込んだレキシントン級を無人で誘導し、ミカエルの周辺に叩き落とす。――レキシントン級を一機使い捨てる、ヘイムダルにとっては身を切るような攻撃だが、これでザコや敵のトラップ、砲台が一つでも減ってくれるなら御の字だ。
かくして、一機のレキシントン級が土煙に覆われたハワイ島、マウナケアに向けて飛行するが――土煙を引き裂いて、桃色の光が飛び出し、件のレキシントン級の機首から尾翼までをいとも容易く貫いた。
『レキシントン級、攻撃を受け――爆散します!』
積み込んだ爆弾もろとも、レキシントン級は内側から大爆発を引き起こし、破片を散乱させる。煙はたちまち湾を覆い尽くすが、その中にガンダム・フレーム達は恐れるコト無く、逆に姿を隠す。
「ッ――全機散開! レキシントン級の爆煙に紛れて、一気に島に上陸するぞ!」
「いくら装甲が薄いとはいえ、ナノラミネート装甲に守られた空母を一撃とはな…!」
「関係ない――オレは殺すだけだ」
レキシントン級撃沈後、島を覆う土煙が再び裂けた。今度は水平方向ではなく
空に向けて放たれたダインスレイヴは、大気圏を突き抜けて宇宙空間に達し――
「な、何だと――!?」
「
爆発が複数発生し、旗艦も揺らぐ。その
「――『ラ・フンタ』、『デンバー』撃沈…!?」
「どこからの攻撃だ!?」
「…ち、地上――ハワイ島から、と推測…!」
この瞬間、その場にいた全員が震え上がった。
間違い無い――「四大天使」ミカエルは、
「全艦、
「―――何て、コトだ…有り得ない…!」
パールが叫声混じりに命令し、サイラスは呆然とするしかなかった。
下から上に、重力を振り切って大気圏を突破し、衛星軌道上に攻撃してくるなど、いくらダインスレイヴでも不可能なハズだ。しかも命中させるなど、数十キロ先のリンゴをライフルで撃ち抜くような芸当。それでいて、分厚いナノラミネートアーマーに守られた宇宙戦艦を、一撃のみを以て撃墜してみせる威力さえも保持している。
射程、正確性、威力――その全てがずば抜けた、通常のダインスレイヴとは一線を画する、特別製のダインスレイヴ。まさしく、最強の「四大天使」と呼ぶに相応しい武装である。
そして。
このダインスレイヴすら、「四大天使」ミカエルの力の片鱗に過ぎない。
「…複数のエイハブ・ウェーブ反応、動いてる!」
「クソ、アレでも削りきれなかったってのかよ――!」
「――だが、やるしかない…攻めるぞ!」
ハワイ島を覆っていた土煙が晴れ、切れた雲の合間から差し込む太陽の黄金の光によって、巨大な天使の姿がヘイムダルの前に晒された。
マウナケア火山の火口に陣取るそれは、二枚の翼を広げる、白と青、金と赤のナノラミネートコートに身を包んだ熾天使。二本の腕で地面を掴み、頭部と腹部、翼部にビーム砲を備えている。幾多の超硬大型ワイヤーブレードを持ち、翼に計二十門ものダインスレイヴを有する。それだけでなく、他にもまだ見ぬ武装を隠し持っているコトだろう。
そして、熾天使の下には配下の天使が集う。直属機たるサンダルフォンの他にも、未確認と思しき機体が複数。如何なる特性を持っているのか。
また、注意すべきはそれだけではない。この島は既に全域が要塞化され、ミカエルの支配下に有る。
マザーMAたる「四大天使」ガブリエル以外は、子機の生産能力しか持たない。同じ「四大天使」とは言え、ミカエルもその例に漏れないが――ことミカエルは、ミカエルのみが持つ「特殊機能」を応用するコトで、子機以外の物でも自在に生産し、操るコトが出来るのである。
自己進化。
それこそが、ミカエルに与えられた特殊機能。ミカエルは常に自身を進化させ、より強力になっていくコトが出来る。この機能がミカエルを「最強の四大天使」たらしめ、また応用も利く。
ミカエルは「
これにより、ミカエルはハワイ島を要塞化した。
また、ミカエルの自己進化は、新たなパーツを生み出して現行のパーツと組み替えたり、増設したりする方式で行われる。結果、
そして、それは今やハワイ島全域が対象。今は破壊されているが、時が経てば状況はミカエル優位に傾いて行くだろう。現在のハワイ島は、最早「四大天使」ミカエルそのものと言える。
「
ミカエルが特殊機能の対象とした場所の総称。時が経てば経つほど無限に進化し続ける、最強の「四大天使」が住まうに相応しい聖域。
人類は果たして、楽園への階段を駆け上がるコトが出来るか。
今、血戦が開始された―――
Episode.74「Scala-add Floshorutus」をご覧頂き、ありがとうございました。
読者の皆様は「こんなん勝てる訳ねぇだろ!」と、思っておられるかと察します。私もそう思います。
これどうすんだよマジで…盛り過ぎにも程があんだろ…(なお、ミカエルはまだヤバい武装を隠していますし、何なら特殊機能的にどんどん増えていく模様。何だコイツ)
直属機や新型もヤバい奴らなので、結果的にヤバい奴しかいなくて草が枯れる。勝てんのかこれ?
《今回のまとめ》
・ダインスレイヴを地上から宇宙に撃ち返すなバカ
・ミカエルの特殊機能は「自己進化」
・ヘイムダル対ミカエル戦、スタート
次回「ALA and hesitation」