厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
ささやかなクリスマスプレゼント、というコトでお付き合い下さい。
そして今回もご覧頂き、ありがとうございます。
サブタイの意味は「翼と躊躇い」。
「翼」を表す「ALA」はスペイン語(ラテン語)なので、前半と後半で言語が違いますが、アルファベットなら実質同じ言語だよね(支離滅裂)
ハワイ島を要塞化し、マウナケア火山の
アグニカ・カイエルが率いるヘイムダル、そのほぼ全戦力にあたるガンダム・フレーム二十六機を擁する全三十四機のモビルスーツ部隊は、一直線にミカエルのいる山頂へと駆け上がって行く。
だが、その道には幾多のモビルアーマーが立ちはだかり、悪魔の行く手を阻んでいる。
二枚の翼と二本の腕を持ち、頭部と腹部、翼部にビーム砲を内蔵する、ミカエルを小さくしたような機体――「直属機」たるサンダルフォンが十機、ガンダム・フレームにも追随する速度を以て、ヘイムダルに襲いかかる。
「ッ、邪魔するんじゃねぇ!」
ヘイムダルの先頭を行く「ガンダム・バエル」が黄金の双剣「バエル・ソード」を引き抜き、十機の内一機の両腕のクローによる攻撃を、外側へ斬り払うコトで凌ぐ。同時に背部のスラスターウィングを軽く吹かせて飛び上がり、サンダルフォンの背部スラスターを足蹴にして踏み越え、前進する。
バエルによって地面に叩きつけられたサンダルフォンは、起き上がるより先に胴体部に長槍を突き刺され、刺突穴にライフルの集中攻撃を受けて沈黙した。長槍はアマディス・クアークの「ガンダム・フォカロル」による攻撃で、その後のライフルはトビー・メイの「ガンダム・アンドラス」。いずれもアグニカチームのメンバーであり、バエルのすぐ後ろを駆ける機体達だ。
「ここは私たちが請け負うわ! 皆は先に!」
各地で散発的にサンダルフォンとの戦闘が始まる中、そう名乗りを上げたのは「ガンダム・パイモン」を操るカロム・イシュー。カロムは黄金の刀で眼前のサンダルフォンの砲撃を斬り裂きつつ、自分のチームメンバーに指揮を出す。
「全機、密集隊形! 追撃させないように牽制しつつ、一機ずつ確実に仕留めるわよ!」
「お前のチームだけで、全部やるつもりか!?」
「まごついてないで行きなさい、クリウス! こんな場所でガンダム・フレームを減らす訳には行かないでしょう!?」
サンダルフォンの妨害を突破し、「ガンダム・キマリストルーパー」を駆るクリウス・ボードウィンが振り向くが、カロムはピシャリと言い放つ。
カロム・イシューのチームは、全十一機中ガンダム・フレームは三機のみ、残りは二機がヴァルキュリア・フレーム、六機がオーガ・フレームで構成されているのが特徴だ。現在ではヘイムダルの中で唯一、ガンダム・フレームでないMSを運用する部隊であり、極めて高い練度と緻密な連携によるチーム戦を得意とする。
――しかし、ガンダム・フレームの「覚醒」による大怪獣決戦になるであろう対ミカエル戦では、他のフレーム機がその速度に付いて行けず、チームの本分を活かしきれない可能性が高い。高機動を誇るヴァルキュリア・フレームはともかく、オーガ・フレームでは、パイロットの腕が良くても補い難い差が出るだろう。
だからこそ、ここでザコ敵(と一概には言えない敵だが)の足止めに徹する。この戦場でカロムチームが存分に働けるのは、対ミカエル戦ではなく、この場所なのである。
「時間はかけられない――さっさと片付けるわよ!
我ら、
『南西北伐、鉤心闘角!!』
「さあ、捻り潰してあげるわ!」
直属機サンダルフォンの相手をカロム・イシューのチームに任せ、残りの全機は変わらず山の斜面を駆け上がる。先のダインスレイヴによる砲撃で、あらかじめ仕掛けられていた砲台や罠は無力化出来ているらしく、何の妨害も受けるコト無く、順調に距離を詰めて行く。
だが、忘れてはならない。
接近するというコトは、ミカエルの攻撃対象になるというコトに他ならないのだと。
――目標接近。攻撃開始。
続いてミカエルは頭部ビーム砲を放ち、空中に飛んだ敵を排除しようとするも、射点とタイミングが筒抜けな攻撃など、数多の戦場を駆け抜けて来た阿頼耶識使いの操る高機動のガンダム・フレームには通用しない。空中で自在に方向と体勢を変化させ、時に武装を使って弾き返すコトで、このビームすらも凌いでみせた。
「――歯ごたえが無い…手を抜くか、それとも私を侮辱するか!」
「な、待て不用意に―――」
レオナルド・マクティアの操る「ガンダム・イポス」が、巨大なハルバード「アルマーズ」を構え、飛び上がる。両腕を振り上げ、ミカエルの頭部に向けてハルバードを叩きつけんとするが――直前。
イポスの両腕が、二の腕から両断された。
「…なんと!?」
レオナルドが狼狽えて隙を見せてしまった直後、イポスはコクピットに風穴を開けられ、沈黙。いともあっさりと、レオナルド・マクティアはその命を落とさせられたのである。
「――ッ!」
その光景を目前とし、飛び上がったバエルは回転しながら四方へ斬撃を放ち、空中で
直後、バエルは後方へと大きく飛び、一気に距離を離す。すると、先程までバエルがいた場所に向けて、多方向から複数のビームが飛び交った。
「コイツは――!?」
体勢を立て直しつつ、アグニカは先程の攻防で弾かれ、地面に突き刺さった物を目視する。
一言で表現するならば、ワイヤーの付いていないワイヤーブレード。
後部にワイヤー代わりのスラスターが付き、無線誘導で操られる、小型攻撃端末と目される代物だ。多方向からのビーム攻撃を行っているのは、ブレードではなくビーム砲を搭載した、漏斗のような形状の無線誘導式小型攻撃端末である。
ビット兵器。
英語で「小さな欠片」を意味し、多方向からの同時攻撃――即ち、オールレンジ攻撃を実現する「四大天使」ミカエルの兵装の一つ。斬撃用のビットは「ブレード・ビット」、対して射撃用のビットは「ビーム・ビット」と呼称されている。
「迂闊に飛び上がるな、飽和攻撃されるぞ!」
「……アグニカ、ミカエルの側に別のMAが!」
「何!?」
ジグザグに下がりながらビットに対応するアグニカの耳に、スヴァハの声が飛び込んで来る。それを受けてアグニカがミカエルの方に視線をやると、その近くには異形のMAが複数佇んでいた。
一本のみの腕が胴体の前方から突き出し、地面に爪を突き立てている。頭部にはビーム砲を備えているらしく、胴体の後方は横に大きくなっており、四基の運動エネルギー弾発射装置を備える機体。
―――そして、その巨大な胴体からは、純白の子機が次々と放出されている。
形状自体はプルーマと同じだが、大型化し武装も強力になっているように見受けられる。エイハブ・リアクターこそ搭載していないようだが、アレでは最早小型のMAと言ってもいい。機体前方のモノアイを緑色に輝かせるその子機は、合計で既に二百機以上が放出され、山の斜面を滑り降りてヘイムダルのMS部隊に迫り始めた。
「新しい、子機――プルーマじゃない…!」
「……ナノラミネートアーマーを持たない子機がいくら強化されようと、弾の一発で落とせる! 怯むな、撃破して進むぞ!」
ドワーム・エリオンの「ガンダム・ベリアル」を先頭に、フェンリス・ファリドの「ガンダム・アスモデウス」やディアス・バクラザンの「ガンダム・ヴィネ」など、格闘武装の豊富な機体が、白き集団に向けて突撃して行く。
一方、スヴァハの「ガンダム・アガレス」やトビーの「ガンダム・アンドラス」を始めとする射撃武装持ちの機体が、前衛組の援護の為にライフルを構えた――瞬間。
『殺サナイデ』
頭に響く機械的な音声が、パイロット達の耳朶を打った。
「―――!?」
「これは……何だ!?」
僚機との通信回線を通じて、パイロット達に届けられているらしき声は、次々と押し寄せる。キリキリと心を締め上げ、必死に訴えかけてくるかのような、気色悪い電子音声――されど、決して無視出来ないよう、脳に
『ヤメテ』
『イタイ』
『タスケテ』
『シニタクナイ』
『ウタナイデ』
『ドコナノ』
『ナニ』
『ナンナノ』
『ドウナッテ』
『オレハ』
『ワタシハ』
『ボクハ』
『イヤダ』
『ダシテクレ』
『バケモノ』
『ヤメロ』
『ナニスルンダ』
『ニンゲン』
『ソウジャナイノカ』
『チガッテル』
『モウ』
『ナnデダ』
『oンナmニ』
『バkモobカiダ』
『tガu』
『aケモoi8』
『オrethチa』
『7ッタnd』
『beモn』
『バemノ』
『バkモo』
『baケoo』
『bkoノ!』
『koス』
『コロsナキy』
『kワサnkャ』
『コrseル』
『oワsaレu』
『コaス』
『kロs』
『コワu』
『orス』
『kwス』
『コrs』
『oワu』
『コoス』
『kas』
『コロス』
一転し、その子機はモノアイを紅蓮に灯して、機敏な動きで襲いかかって来る。
そして、壊れた音声に打たれて頭を押さえたスヴァハは、その目でとあるモノを見てしまった。吐き気を抑え込みながら、スヴァハは声を震わせて、仲間達に確認を取る。取ってしまう。
「―――ねぇ、アレって……」
「……まさ、か」
「そんな、バカげたコトが―――」
色以外の形状はプルーマと同じだが、新たな子機にはもう一つ、違っている点が有る。
新型子機の上面装甲、その一部は透明になっており――そこから、
子機の名は「アーラ」。
――なお、あくまでも試作品である為か、内蔵されている脳が「自身が機械化されている」コトに気付くと発狂・暴走し、無差別な殺戮行為を始めてしまう、という弊害が存在している。こうなると、生産者たるシェムハザや「四大天使」にすら止めるコトが出来なくなり、エネルギー切れを待つか、もしくは破壊するしか止める術が無くなる。
「人間を、利用してるってのか……!?」
「そんな必要、そもそもこんな声がどうして――」
そして、悪趣味なコトにアーラには通信機能が搭載されており、敵の通信回線に割り込んで「声」を垂れ流すコトが出来る。全く意味の無い機能であるハズだが、シェムハザは「四大天使」ミカエルの命で、この機能をアーラに搭載させた。
そうするコトで、ヘイムダルのパイロット達がどのような影響を受けるか、ミカエルは正しく理解しているのであろう。
「―――フザケるなァッ!!!」
そう吼えた大駕・コリンズの駆る「ガンダム・グラシャラボラス」が、テイルブレードを射出した上で地面を蹴り、アーラの集団へと突撃して行く。
それを見て、少しずつ他のパイロット達も我に返り、怒りを叫びながら攻撃を再開する。
「これ以上、命を弄ばせてたまるか……!」
「進め! あのクソをブチ壊してやれ!」
「ミカエルの攻撃にも警戒しろ!」
再起する者達がいる一方、そう出来ない者達もいる。スヴァハや「ガンダム・ボルフリ」のグラツィア・アンヴィルなどは攻撃するコト無く、ただ呆然と機体を立ち尽くさせていた。
「動け、殺されるぞ!」
「クリウス――ですが、こんな……こんなのって」
「ッ、やらせるか!」
ボルフリの眼前に迫ったアーラをマシンガンで撃ち落とし、クリウスのキマリストルーパーはボルフリを左手で掴んで回避行動を取らせる。
対して、スヴァハのアガレスは迫るアーラに向けて二丁のライフルを構えるが――引き金にかけられたスヴァハの指は震えて、動いてくれない。
「アレには、人間が……人が、乗って―――」
動悸が激しくなり、過呼吸になる。血走った目はアーラに照準を合わせているが、指は凍り付いたかのように動かず、全身から汗が吹き出し、寒気がして全身が震え出す。
撃たないで、と。
殺さないでと、彼らは訴えていた。
彼らは自我を保っている。生きてもいる。
それなら、彼らは人間だ。ただの機械じゃない。
引き金を引けば、彼らを殺すコトになる。人間を殺すコトになる。人殺しだ。怖くて恐ろしい。
――これこそが、ミカエルがアーラに通信機能を持たせた理由である。
敵が訓練を受けた軍人なら、ミカエルはそんなコトはさせなかった。無駄になるからだ。軍人は誰であれ、訓練を通じて人殺しの覚悟を決め、戦場に立っている。こんな声で「殺すな」と訴えかけ、脳髄を見せつけた所で、引き金を迷い無く引くだろう。引かなければ死ぬ、と心底から理解しているから。
だが、ヘイムダルは違う。
MAと戦う覚悟をしていても、人殺しの覚悟はしていない。降って湧いた高いハードル。乗り越える者もいるが、反対に乗り越えられない者もいる。
引かねば死ぬと分かっていても、人殺しの為では引き金を引けない――ヘイムダルにはそういう人間もいるのではないか、とミカエルは推察し、事実としてその予想は的中した。
「スヴァハ、後退し――ッ、クソッ!」
「………!」
アグニカはスヴァハの下に飛ぼうとしたが、ミカエルがワイヤーブレード三本とブレード・ビットをけしかけたコトで、その迎撃に意識を割かれた。全てが音速以上の速度で行われる、一撃でも食らえば絶死の攻撃だ。行く手を阻む攻撃を剣で捌きつつ、それでも少しずつバエルはアガレスに近付く。
アグニカの声を聞き、眼前にアーラが迫っているコトに気付いたスヴァハは、反射的にアガレスを飛び上がらせ、その攻撃を回避した。
―――しかし。
スヴァハが意識の大半をアーラに割かれ、隙だらけになったまま飛び上がったアガレスを、ミカエルは見逃さない。
無数のビットが、迂闊に飛び上がったアガレスに四方から襲いかかる。
「……ッ!」
迫るビットに気付き、スヴァハはライフルを撃ち放つ。アガレスは二基のビーム・ビットを同時に落としたものの、三基のビーム・ビットがビームを吐き出し、アガレスのデュアルアイの左側と両翼のスラスター部分を破壊した。
「スヴァハ!!!」
ワイヤーブレードの射程圏内から離脱し、追って来るブレード・ビットを弾き返しながら、バエルはアガレスのカバーに入るべく全速で飛翔する。他の機体はアーラとビットの対応で手一杯であり、この役目を果たせるのはアグニカしかいない。
後、二百メートル。しかし、ブレード・ビットの一基がアガレスの右手に接触し、ライフルを取りこぼさせた。
「そんな―――!?」
落下しながらも、アガレスは左手のライフルに接続されたジュッテを振って、一基のブレード・ビットを防いだ。しかし、別のブレード・ビットがアガレスの胴体を目指し、上空から重力に乗って進む。
「やらせるかッ!」
それを見るよりも速く、バエルは右手に握っていたバエル・ソードを投擲。空中のブレード・ビットを捉え、弾き飛ばす。
後、五十メートル。バエルの機動性が有れば、空中に放り出されたバエル・ソードを回収し、そのままアガレスを守りに行ける。この距離なら、二秒とかからないだろう。
剣を掴む為、バエルが右手を前方へと突き出した―――瞬間。
三基のブレード・ビットが、アガレスのコクピットを貫いた。
次回「I loved your smile」