厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
サブタイの訳は――今回は載せずにおこうかと。
右腕を突き出して飛翔する「ガンダム・バエル」――アグニカ・カイエルの眼前で、スヴァハ・リンレスの「ガンダム・アガレス」は、そのコクピットを三基のブレード・ビットによって貫かれた。
二基は背中側から、一基はバエルの反対側から。いずれも、絶対にバエルからは視認出来ない方角から飛来した。三基のブレード・ビットの刃はコクピットで交錯しており、その攻撃でアガレスは制御を失い、重力に引かれて落下する。
「―――スヴァハ!!!!!」
空中で先程投擲したバエル・ソードを右手に回収し、両手の剣を腰背部のブレードホルダーに収納して、アガレスより高度を下げたバエルは、空いた両腕でアガレスを受け止めた。
そんなバエルに、「四大天使」ミカエルが放ったブレード・ビットが四方から五基ほど迫るが――トビー・メイの「ガンダム・アンドラス」と、ソロモン・カルネシエルの「ガンダム・オセ」がカバーに入って、その全てを弾き返す。
「一時離脱しろ、アグニカ!」
「艦隊、艦砲射撃を! 敵を吹っ飛ばせ!」
仲間達の声を朧気に聞いて、アグニカはバエルを飛行させ、一旦前線から離れた。
海岸線まで後退したバエルは、コクピットに三基のブレード・ビットが突き刺さったままのアガレスを地面に下ろし、膝を付いて着陸。バエルにアガレスの歪んだ胸部正面装甲を引き剥がさせて、アグニカは阿頼耶識を外す時間さえ惜しんでコクピットを飛び出し、アガレスのコクピットを覗く。
「スヴァハ!! ―――ッ」
コクピットの内部の様子を見て、アグニカは息を詰まらせた。
特殊超硬合金の刃は、スヴァハの全身を斬り裂いている。アガレスの背後から刺さった二基のブレード・ビットは、一基がスヴァハの左脇腹を抉り、もう一基はスヴァハの両足を切断していた。頭部側から突き刺さったブレードは、右腕を肩口から落とすとともに、右頬の肉を削ぎ落としている。
コクピットはスヴァハの赤い血で染まり、黄金のブレードを赤く汚している。――医療に明るくないアグニカでも、一瞬で即死だと悟れる凄惨な傷。
「―――あ、あ……」
しかし。スヴァハは僅かに、うめき声を発した。
アグニカは酷く顔を歪めながら、懇願するように悲痛な声を上げて、スヴァハに呼びかける。
「スヴァハ――スヴァハ! スヴァハ……!」
その声は、確かにスヴァハの耳に届いた。
ショック死するハズの傷を負いながら、スヴァハは目蓋を少し上げ、とうに光を失い、ピントの定まらない瞳をアグニカに向ける。血が流れ込んでいるコトも有り、スヴァハの目は既にその機能を果たしていないだろうが――スヴァハは確かに、アグニカの姿を見た。
「……ア、グ――そこ、に」
「ああ、ああ……俺はここにいる、いるから――」
血の海に沈んだスヴァハの左腕が、ほんの僅かに震える。持ち上げようとしている、と気付いたアグニカは、スヴァハの左脇下に通るブレードを避けてスヴァハの左手を握った。
そうしてスヴァハの左腕を持ち上げさせ、アグニカは自身の右頬に、スヴァハの左手を触れさせる。
「ごめん……ごめんな、スヴァハ。俺は、お前を……お前を、守れなかった―――!」
守れなかった。
絶対に守ると、そう誓ったのに。
こんなコトになるなら、縛り上げてでも、スヴァハを置いてくるべきだった。戦わせるべきじゃないって、分かっていたのに。どんなに嫌われても、スヴァハを止めなきゃならなかったんだ。
死んだらどうにもならないなんて、分かりきってたハズなのに―――!
アグニカの右目から、とめどなく涙が溢れ出している。アグニカは俯いて嗚咽し、懺悔するように、血溜まりに沈むスヴァハに謝り続ける。
その時――スヴァハの左手の親指が、僅かに動いてアグニカの目尻を拭った。
「……!」
アグニカは顔を上げ、スヴァハを見る。
そして、スヴァハは―――花が綻ぶかのように、ほんの少しだけ。今のスヴァハにとっては、本当に必死に表情を動かして、笑顔を浮かべた。
「スヴァ、ハ―――」
「―――…、……」
最期に言葉を紡ごうと、スヴァハは唇を震わせ、動かそうとする。――しかし、もう。声を出すコトすら、スヴァハには出来ない。
声にならない言葉を、スヴァハは言って―――最後の一文字を零すとともに、事切れた。
「―――ス、ヴァ……」
スヴァハの左手が、アグニカの右頬から離れる。
重力に引かれて落ちた左腕は、ブレードに接触して半ばから断たれ――赤い血が、アグニカに降りかかった。
「………あ」
呆然と、アグニカはスヴァハを眺め――幽鬼のように右手を伸ばして、血塗られたスヴァハの左頬に触れる。
何も、反応は無い。全身から勢い良く吹き出していた赤い血も、一転して緩やかな流れに変わった。
「ああ、あ―――!」
アグニカは、その場で崩れ落ちた。
涙が落ち、赤い血に混ざって消えて行く。
「―――、――――――!!!」
スヴァハだったモノの前で、アグニカは声ですらない慟哭を上げた。
◇
バエルの一時離脱と同時に、海上艦隊からの艦砲射撃が開始された。
続々と飛来する大型榴弾がミカエルの足下に降り注ぎ、白き子機「アーラ」を薙ぎ払っていく。
「待って、こんな……こんなやり方――!」
「――だが、どうしようも無いだろ…!」
人の脳髄を生きたまま制御システムに組み込んだアーラを破壊するコトは、罪無き人を殺すコトにもなる。クリウス・ボードウィンの「ガンダム・キマリストルーパー」に抱えられている「ガンダム・ボルフリ」のパイロット、グラツィア・アンヴィルなどは涙まで流して「間違ってる」と言うが、アーラに組み込まれた人に、マトモな自我など残されていない。
自身が機械にさせられたと知った時点で、アーラは発狂し暴走、破壊されるかエネルギーが切れるまで殺戮を続ける。元に戻すコトなど出来ないのだから、破壊してでも止めてやるコトだけが、せめてもの救いになる。――そうするコトでしか、ヘイムダルには彼らを救うコトが出来ない。
「四大天使」ミカエルが、長大な二枚の翼を展開させる。一枚に付き十基装備されている、巨大なダインスレイヴが一斉に火を吹き、海上艦隊に襲いかかった。
「回避ーッ!!!」
「ダメです、間に合わ―――」
放たれたのは十二発。開戦時に宇宙のアメリア軍艦隊に向けて撃った六発と合わせ、残弾を撃ち尽くしたコトになるが――代わりに、ヘイムダルの海上艦隊は全艦が直撃を受け、轟沈した。
唯一撃沈を免れたのは、ラファイエット級汎用戦艦二番艦「サロモニス」だが、右舷に直撃を受け、飛行能力を失って着水させられる。
「艦隊が……!」
「――やってくれる…!」
続いてミカエルは、特殊機能「自己進化」によって何かしらの追加装備を即座に製造し、自身の胴体の後方へと接続した。直方体のユニットの上面が展開して、新たなる小型端末が空へと打ち出される。
円筒形の小型端末は、半ばから装甲を展開して回転を開始。プロペラのようになって滞空し、戦場の全域へと広がっていく。
「今度は何だ!?」
「また、遠隔操作型の奴か!?」
ミカエルの翼部に搭載された拡散ビーム砲が、空に向けて撃たれる。ビームは空中の小型端末に接触すると、
ヘイムダルはそれぞれが回避行動を取るが、無数のビームが折り重なって飽和攻撃となり、アーラなどが巻き込まれて次々と爆散した。
「あの野郎、見境無しかよ!」
「――ッ、コケにしやがって…!」
リフレクター・ビット。
拡散ビームを反射板によって屈折させ、広範囲攻撃を可能とする兵装である。――また、屈折させられるのは拡散ビームだけではない。
ミカエルが腹部の集束ビーム砲を放つと、複数のリフレクター・ビットが集結して極太のビームを偏向させる。そして、曲げられたビームは、ミカエルに迫るヘイムダルに背中から襲いかかる。
「しくっ――」
回避しきれなかったのは、火力特化型の「ガンダム・デカラビア」。十基のエイハブ・リアクターの出力が集中したビームは、ナノラミネートアーマーをいとも容易く溶解させ――デカラビアの胴体を、一撃で消滅させる。
二基のリアクターと四肢のみを残し、デカラビアはその場に崩れ落ち、弾薬を暴発させた。当然、パイロットだったクジナ・ウーリーも、一瞬で消し飛ばされたコトになる。
「そんな―――クジナさん!!!」
「クソッ…!!」
「―――!」
同じフェンリス・ファリドのチームであったグラツィアが絶叫し、クリウスとフェンリスは歯噛みする。……その死は、あまりにも呆気なさ過ぎた。
だが――ミカエルのリフレクター・ビットを使った攻撃でアーラは一掃され、群はまばらになった。アーラがもうその役割をほぼ終えたからか、ミカエルの攻撃に容赦は無く、だからこそ道は開かれた。
「行くぞッ!!!」
出し惜しむ必要は無く、そうする余裕など無い。人の命を玩び、蹂躙し、仲間を奪ったミカエルにかけるべき慈悲など一片も無い。
全員が怒りと憎悪を滲ませて、それぞれが乗機の双眼を赤く輝かせ、一斉にミカエルへと飛びかかって行く。彼らの口から漏れるは、悲鳴にも似た雄叫び。
『うおあああああああ!!!』
ミカエルのブレード・ビットが空を走り、ガンダム・フレーム達に襲いかかる。全機がそれを打ち払い、ミカエルに肉迫するが――ミカエルの翼の裏から、十基のワイヤーブレードが鎌首をもたげる。
その内の四基は、グラツィアの「ガンダム・ボルフリ」に一斉に襲いかかる。盾を多く装備し、防御力に優れるボルフリは、分割させて両腕に装備させた盾「アイアス」を前面に展開するも――二基が正面からぶつかったコトで盾が逸らされ、前面に隙を作られた所に残り二基のワイヤーブレードが刺し込まれて、胴体が二方向から両断された。
「そん、な―――」
コクピット内のグラツィアは、これで上半身と下半身が分かたれた。ボルフリは胴体を横に真っ二つにされ、上側と下側がそれぞれ一基のワイヤーブレードに弾かれ、軽々と吹き飛ばされる。
――眼前で、クリウスはその光景を見届けた。
「グラツィアッ!!!」
瞬く間に「覚醒」中のガンダム・フレームを一機撃破したミカエルは、拡散ビーム砲を放ってリフレクター・ビットに反応させて牽制としつつ、残りのワイヤーブレードで他機を迎撃する。大剣を振るドワーム・エリオンの「ガンダム・ベリアル」や長槍を回転させたフェンリス・ファリドの「ガンダム・アスモデウス」が、上手くこれをいなしてミカエルの翼部に取り付く一方で、バリー・モンクトンの「ガンダム・ヴァプラ」はリフレクター・ビットによって歪曲したビームに接触したコトで態勢を崩され、ワイヤーブレードに弾き飛ばされた。
大剣となった四肢でこれを辛くも防ぎ、空中で姿勢制御スラスターを吹かせて態勢を立て直そうとしたヴァプラだったが、その四方からブレード・ビットが飛来した。
「ヒョッ――」
四肢を四基のブレード・ビットによって切断され、達磨となったヴァプラのコクピットに、リフレクター・ビットが屈折させた十二本ものビームが集束した。コクピットハッチが溶解して歪み、地面に落下したヴァプラには、三基のビーム・ビットが突撃して来る。
ビームを放つコト無く、ヴァプラのコクピットブロックに突っ込んだビーム・ビットは、三基全てが自爆。パイロットの身体を消滅させた。
「バリー!!! ……クソったれ!」
カサンドラ・ミラージの「ガンダム・アスタロト」が、両肩のブレードシールドを展開して飛行形態に移行し、縦横無尽の高速機動でリフレクター・ビットの拡散ビームとビーム・ビットの弾幕を曲芸的な技術ですり抜ける。腰からγナノラミネートソードを引き抜き、ミカエルが放った頭部ビーム砲も回避して、胴体部に紅蓮の刀を突き刺した。
「よし――うわっ!」
しかし、次の瞬間にはワイヤーブレードに弾き返され、追撃を受ける。これを右手に握るγナノラミネートソードで防御するも、その剣は打ち砕かれ、かわしたハズの頭部ビーム砲がリフレクター・ビットに屈折させられてアスタロトの正面から再び襲ってきた。両肩の可変型ブレードシールドで致命傷こそ避けたものの、圧倒的な出力によって後方へと押し出され、アスタロトは地面に落ち、山の斜面を転がり落ちて行く。
「大人しく、しやがれッ!」
ディアス・バクラザンはそう叫びつつ、「ガンダム・ヴィネ」の大鎖鎌「エインヘリヤル」の鎖でワイヤーブレードの一基を絡め取る。そして、大鎌をミカエルの翼に突き立てて固定し、ワイヤーブレードの動きを封じて見せた。これで武装を一つ犠牲にしたが、ヴィネは背部の剣「ヴェズルフェルニル」を引き抜き、二本のサブアームと合わせて四本を構え、飛び交うビットの迎撃に移った。
格闘戦特化の「ガンダム・プルソン」はハンマーを両手に構え、四方から迫るブレード・ビットとビームを叩き落としつつ、両足のナックルを展開してミカエルの左腕を二度蹴りつける。
「どうだ、正義の一撃!」
「ビームだ、避けろ!」
プルソンを駆るケニング・クジャンに注意を促したのは、「ガンダム・アモン」に乗るミズガルズ・ファルク。忠告の直後、ミカエルは頭部ビーム砲を撃ち放ち、プルソンは横に飛んでこれを回避。アモンはスナイパーライフルを投げつけてビットをいなし、巨大なハンマーを両手に持ち、ミカエルの頭部を上からブン殴った。
それでも、ミカエルの頭部装甲には僅かな傷しか入らず、跳ね返されて宙に浮いたアモンに、ワイヤーブレードが襲いかかる。
「かわしてくれっ!」
そのワイヤーブレードは、高速で飛び込んで来たウィルフレッド・ランドルの「ガンダム・バティン」が振るった剣によって弾かれる。重装甲と高機動を両立した機体が、アモンのすぐ横を掠めてミカエルを飛び越え、ビーム・ビットの攻撃を装甲で弾きながら飛び回る――が、ブレード・ビットに関節部を狙われ、剣を持つ右腕が肘から切断された。続いてスラスターにビーム・ビットが突撃して爆発させられ、バティンはワイヤーブレードに跳ね飛ばされて戦線を離脱させられた。
「がぁっ……!」
一方ではアモンが着地し、追撃を開始。近くではベリアルが大剣、アスモデウスが長槍、キマリストルーパーが馬上槍を振り、ビットとワイヤーブレードをギリギリで迎撃している。
「コイツで!」
「ガンダム・フォカロル」が両腕部からティザーアンカーを放ち、ワイヤーブレードのワイヤーに絡める。電撃を流し込みつつ、スラスターを全力で駆動させて引っ張るコトで損傷させるも、直後にフォカロルの両腕が、それぞれ二基のブレード・ビットに貫かれた。
パイロットのアマディス・クアークは舌打ちし、アンカーをパージして後退するコトで追撃のビーム・ビットによる射撃を回避したものの、攻撃の手段を失ってしまったコトになる。
「武装を無くしたなら下がりなさい!」
「行きますわよ、エドゥ!」
「はいっ!」
フォカロルと入れ替わるように、カロム・イシューの「ガンダム・パイモン」とナトリア・デヴリンの「ガンダム・フェニクス」、エドゥアルダ・デヴリンの「ガンダム・ハルファス」が最前線に突入して来た。
カロムチームはミカエルから少し離れた山の中腹部で、直属機「サンダルフォン」を相手取っていたのだが、そちらを殲滅して追いついて来た形だ。
「やってくれましたわね!」
変形して飛行形態を取っていたフェニクスは、上に乗っていたハルファスが飛び上がった直後、ブレード・ビットを避けつつ空中変形し、両肩のレールガンを撃ち放つ。一方、ハルファスは背部から四本ものテイルブレードを射出し、リフレクター・ビットを打ち落とすと共に、ミカエルのワイヤーブレードとの斬り合いを開始した。
「グガァッ!」
同時に、大駕・コリンズの「ガンダム・グラシャラボラス」もテイルブレードを打ち出し、ワイヤーブレード一基を足止めしつつ、ミカエルの翼に爪を突き立てる。歪んだ装甲に食らいつき、上体を反らして引き剥がす。
これにはミカエルも反応し、五基のブレード・ビットを一斉にグラシャラボラスへと差し向けるが、ソロモン・カルネシエルの「ガンダム・オセ」が二基、トビー・メイの「ガンダム・アンドラス」が剣一本と引き換えに一基を弾き返した。残り二基のブレード・ビットを、グラシャラボラスは機体を捻らせて回避し、両腕を使って空中で掴み取る。
「ギシャアッ!」
大駕は獣のような声を上げ、装甲の剥がれた部分にブレード・ビットを思い切り突き刺した。ほんの少しミカエルの態勢が崩れたこの隙に、他の機体もミカエルへと肉迫する。
パイモンとアスモデウス、キマリス、ベリアル、プルソン、ヴィネ、アモン、グラシャラボラス、アンドラス、オセ、フェニクス、ハルファスは、それぞれが接近戦を仕掛け、ミカエルの全身の装甲を引き剥がし、着実に削って行く。
コンピューターウィルスをバラまく「アガリアレプト」を搭載する半面、武装が少ない「ガンダム・ブエル」や、射撃特化の為にナノラミネートコートへのダメージを期待出来ない「ガンダム・ヴァッサゴ」と「ガンダム・ガミジン」、「ガンダム・マルバス」「ガンダム・ナベリウス」はアーラを生産するMA「シェムハザ」を仕留める役だ。
ミカエルの周囲で応戦していたシェムハザは、アーラの生産機構がメインである為、単機での戦闘能力的には「覚醒」中のガンダム・フレームの脅威にはなり得ない。次々と撃破され、殲滅されるまでにそう時間はかからなかった。
シェムハザが殲滅され、戦場に在るMAがミカエルのみになった時――ミカエルの周囲から、稲妻が発生した。
「…がっ!?」
「何ですの――!?」
地面から無数の稲妻が走り、群がっていたガンダム・フレーム達を襲う。回避した機体もいる一方、直撃を受けてショートさせられた機体も有る。
ワイヤーブレードとブレード・ビットが一斉に空を掛け、全ての機体に襲いかかる。スパークを回避した機体は迎撃を行えたが、ショートした機体は迎撃行動を取れず―――その全てが、コクピットにブレードの直撃を受けた。
「姉様!!!」
「オーウェン!!」
スパーク・フィールド。
自らの周囲に発生装置を配し、一定範囲内に電撃を発生させる、ミカエルの兵装の一つである。あらかじめ仕掛けておかなければ使用出来ないが、電撃を食らったMSは操縦系をショートさせられ、操作不可能状態に追い込まれる。効果はそう長くは続かないものの、ワイヤーブレードとブレード・ビットを扱うミカエルの前では、一瞬の隙が致命となる。
事実、一瞬の攻防で二機――ナトリア・デヴリンの「ガンダム・フェニクス」とオーウェン・フレッチャーの「ガンダム・ブエル」が、コクピットへの直撃を受けて沈黙した。
「クソ、いい加減に――」
「拡散ビーム、避けろッ!」
そして、ミカエルは拡散ビーム砲を撃ち放ち、リフレクター・ビットに反射させて広範囲攻撃をし、ガンダム・フレームを寄せ付けさせない。
更に、ミカエルの真下の地面から、細長い筒状の物がせり出した。それは言うまでもなく、ダインスレイヴ用の特殊KEP弾頭であり、ミカエルの翼に装備されながら弾切れとなっていたダインスレイヴ発射器に装填されて行く。
「ダインスレイヴを、
それだけではない。
ミカエルの特殊機能「自己進化」により製造された曲面装甲が、装甲を剥がされて損傷した部分を覆い隠している。――傷を癒やすだけでなく、より強力な存在へと自らを進化させているのだ。
「ッ、化け物め!」
「―――あんなモン、どう倒せってんだ……?」
距離を取ったガンダム・フレーム達は、開戦時よりも強化された「四大天使」ミカエルに相対する。――ワイヤーブレードの一部は動きを制限されたままだとは言え、今まで与えた傷が無くなるばかりでなく、更に強くなっているのだ。
攻略の為には、自己進化が間に合わないほどの速度で、ナノラミネートコートに守られた中枢制御コンピューター部を破壊しなければならないが――既に六機ものガンダム・フレームが撃墜され、三機が戦線離脱を余儀なくされている。残る機体も一度は「覚醒」を使用しており、パイロットへの負担が大きい。
何より、未だに大した損傷を与えられていない。
六機を犠牲にしてなお、ミカエルはピンピンしている。一度全員でかかってこのザマでは、繰り返した所でジワジワと戦力を削られ、全滅する未来しか無いだろう。
絶望感がパイロット達の心中に広がる中――一機のガンダム・フレームが、ミカエルに突撃した。
「アア゛ァアッ!!!」
ガンダム・グラシャラボラス。
なおも双眸を赤く輝かせる殺戮の悪魔は、腕と足で地面を駆け、正面からミカエルへと突っ込んで行く。テイルブレードを先行させてブレード・ビットを弾きつつ、頭部の口のような装甲を開き、パイロットの大駕も機体と同じように唸る。
「大駕!?」
「――大駕に続け!! やるしかない!!!」
触発されたソロモンが呼びかけ、オセを動かす。これにより、再びガンダム・フレーム達は突撃を開始した。
一方、背中のスラスターを全開にして飛び上がったグラシャラボラスに、三基のワイヤーブレードが迫る。その内の一基はグラシャラボラスのテイルブレードが打ち落とすも、残りの二基がグラシャラボラスを正面と上から、それぞれ超高速で襲う。
「ガァッ!」
正面から来たワイヤーブレードを、グラシャラボラスは頭部の口のような格闘兵装「マウスファング」で受け止める。しかし、ブレードの勢いを殺しきれずに頭部が後方へと押し出され、身体は頭部に引っ張られるように反った。一転して背中が下側になり、コクピットが前面へと向いた――所で、空からはもう一基のワイヤーブレードが降下している。
「――ッ!」
コクピットブロックの真上から、ワイヤーブレードが降って来る。後方から追って来るオセや、他のガンダム・フレームの援護は間に合わない。
一秒と経たぬ間に、グラシャラボラスのコクピットが、ワイヤーブレードによって貫かれ―――
―――る、寸前。
他のガンダム・フレーム達の更に後方から投擲された黄金の剣が、その群を一瞬の内に追い抜き、グラシャラボラスを仕留めんとしていたワイヤーブレードに直撃した。
ブレードが打ち砕かれ、破片が四散する。
グラシャラボラスが口で受けたブレードを噛み砕くのと同時に、一機の悪魔がグラシャラボラスを後方から抜き去った。
投擲された後に滞空していた黄金の剣を空中で掴み取り、青い閃光は音を置き去りにするほどの速度で、ミカエルの懐に飛び込む。
ミカエルはその直前で
腕部装甲をズタズタに引き裂かれながらも、ミカエルは頭部ビーム砲と腹部集束ビーム砲を同時に放つ。ナノラミネート装甲すら数秒で溶解させる出力を誇るビームを、その機体は右手に握る黄金の剣を振り下ろすコトで、あろうことか両断してみせた。
「―――ビームを、斬り裂いた……!?」
「アレは、まさか―――!」
パイロット達の注目は、ミカエルの前に立つ一機のガンダム・フレームに集中する。
白と青の流麗な装甲を持ち、二本の黄金の剣を握る機体。背中にはスラスターウィングを備えたその悪魔は、全身から青い炎を吹き出させ、双眼を真紅に光り輝かせている。
―――ガンダム・バエル。
アグニカ・カイエルが駆る最強の悪魔が今、最強の天使の前に立ちはだかった。
恐れを
次回「Never get it back」