厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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サブタイの意味は「もう取り戻せない」です。
遂にミカエル戦も佳境……!


#77 Never get it back

 ハワイ島沖合では、敵の攻撃により重力下で艦を飛行させる「エイハブ・クラフト」を展開出来なくなったラファイエット級汎用戦艦二番艦「サロモニス」が、墜落して海面に浮かんでいる。

 その艦橋(ブリッジ)で、艦長のフロレンシオ・レンフィールドは、ブリッジクルー達に艦の状況と戦況を報告させていた。

 

「艦は飛行不能、艦砲もここからでは有効打にはなり得ません」

「戦場の観測は出来るのだろう? 戦局はどうなっている?」

「ドローンを打ち上げたので、光学映像を撮れています。ライブ映像、正面モニターに出します」

 

 ブリッジの正面に、大きく映像が表示される。

 そこには、接近をかけたものの押し返され、攻めあぐねているガンダム・フレーム達の姿が映っていた。――既に撃破され、地面に転がる機体も。

 

「……何てコトだ」

 

 フロレンシオは思わず、そう呟いた。

 モビルアーマーを倒す為に造られたモビルスーツの中でも、ガンダム・フレームは今の人類が持てる最強の機体だ。それを十二分に操れるパイロット達が乗り込み、総勢三十機近くが束になってかかっていると言うのに、目標である「四大天使」ミカエルには大した損傷は見られない。翼の一枚、腕の一本すら破壊出来ていない。

 はっきり言って、絶望的な状況である。

 

「――? 艦長、ヴィーンゴールヴから衛星通信が届いています」

「ヴィーンゴールヴから? ……繋げ」

 

 フロレンシオがそう言うと、正面モニターに新たなウィンドウが開き、通信回線が繋がれる。そこに映ったのは、ヘイムダルの創設者――ディヤウス・カイエルだった。

 

『戦闘中にすまない、レンフィールド艦長。

 キミ達に、やってほしいコトがある』

「――と、いうと?」

『戦闘の模様を、全世界に中継したい。その映像を撮ってほしい』

 

 ディヤウスの言葉に、フロレンシオは困惑する。――その行為に、如何なる意味が有るのか。

 

『先のヨハネスブルグの一件から、世界は不安と恐怖に支配されたままだ。……ガンダム・フレームがモビルアーマーを打倒する様を見せつければ、それが収まるとともに、ヘイムダルの力を世界中に知らしめ、世界中から支持を得るコトが出来る』

「――しかし、戦局は相当不利です。敗北と撤退を余儀なくされては、逆効果になりかねないのでは」

()()()()()

 

 と。

 ディヤウスは、確信を持って断言した。

 

『そも、撤退などあり得ないし、敗北など決して赦されるコトではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。退路など、この世の何処にも存在しない。それは、戦う彼ら自身が一番よく理解している』

「―――なに、を言って……?」

『多くの人々が殺された。我々は多くの同胞を犠牲とし、多大なる対価を払い続け、その屍を踏み越えてこの場に立っている。――敗北などすれば、その全てが無駄となる。何もかもが、だ』

 

 だから、敗北など有り得ないと。

 既に犠牲を払ったアグニカ・カイエル達に、撤退などと言う選択肢は存在しないのだと、ディヤウスは言い切った。

 

「―――ディヤウスさん。まさか、貴方はそれを理解していながら、アグニカ・カイエルにヘイムダルの代表の座を……!?」

 

 フロレンシオは、全身が総毛立つ気分だった。

 もう、戻るコトなど出来ないと。これまで失ったモノの全てを背負って戦い、勝利するしか道は無いと理解していながら、ディヤウス・カイエルは実の息子たるアグニカ・カイエルを、英雄足り得る男として祭り上げたのである。

 

『全ては、人類の存亡とヘイムダルの勝利の為。その為にも、英雄が天使を討ち堕とす光景を、全人類の目に刻み付ける必要が有る。

 ――君にも分かるハズだ、レンフィールド艦長』

 

 ディヤウスは、表情を一切変化させず、感情を覆い隠して命令を告げる。――そして、フロレンシオにはそれを拒否する権利など無く、理由も無い。

 

「か、艦長……どう、しますか?」

「――指示に従え。全世界に、戦いの光景を中継させる。今撮っている光学映像を、そのまま世界中に流す」

 

 クルー達は、艦長の承認を得てそのように動く。

 ――映像には、アグニカ・カイエルの駆る「ガンダム・バエル」がミカエルのビームを斬り裂き、正面から相対する瞬間が映し出されていた。

 

 

   ◇

 

 

 ――妙な気持ちだった。

 (はらわた)は煮えくり返っているのに、頭は冷徹なほどに酷く落ち着いている。眼は澄んで、殺すべき――否、何としても殺さなければならない(モノ)を鮮明に見せてくれる。

 

 「四大天使」ミカエル。

 

 多くの悪魔をいとも容易く破壊し、数え切れぬほど多くの人々を、多くの仲間を殺した最大の脅威。常に進化し続ける、最強の熾天使。

 ―――それがどうした。

 奴が進化し続けると言うなら、俺は更にその上を行けばいい。凌駕して超越して、その果てにブチ殺してやる。俺がどうなろうと構わない。必ず殺す。

 

 ―――そうしなければ、何もかもが台無しだ。

 

 これまでの全てが無駄になる。俺がコイツを殺らなければ、殺れなければ、全部がお涙頂戴の茶番と成り果てる。

 それはダメだ。俺はアイツらの死を無価値にしない為に、無意味にしない為に、この命を使い捨てなければならない。俺が戦い、勝つコトで、アイツらの死が――アイツらのコトを、遺せるのなら。

 

「行くぞ、バエル―――!!!」

 

 俺が俺でなくなろうと、知ったコトか―――!

 

 

   ◇

 

 

 バエルが動く。

 ――瞬間、()()()()()()()()

 

 否、そうではない。

 「四大天使」ミカエルすら、()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 ミカエルは恐怖し、全身のビーム砲を一斉に発射した。頭部ビーム砲と腹部圧縮ビーム砲、翼部拡散ビーム砲。撒き散らされる無数のビーム。その全てがバエルのナノラミネートアーマーを溶解させる、バエルにとっては脅威となる砲撃。

 その間隙を潜り抜けて、バエルは青い光を残像として残して飛翔し、ミカエルに肉迫した。そして、両手に握る黄金の剣「バエル・ソード」で、ミカエルの頭部を貫いてみせた。

 

   ―――脅威。最優先排除対象、設定。

 

 ミカエルが巨大な翼を羽ばたかせ、跳躍する。特殊機能「自己進化」で十本のワイヤーブレードを再構成し、更に速度を増したワイヤーブレードと残り僅かとなったブレード・ビットが、バエルの四方から襲いかかる――が。

 

 

()()()

 

 

 その全てが、アグニカの眼には止まって見えた。

 

 全身を回転させ、四方八方に斬撃を繰り出し、飛びかかって来たブレードの全てを防御。あまつさえブレード・ビットの側面を蹴り、ワイヤーブレードのワイヤーに飛び乗って跳ぶなど、足場にさえして縦横無尽に飛び回る。

 ミカエルは右腕のヒート・クローをバエルに向けて振るが、バエルは上体を反らしてスレスレの所で回避すると同時、絡みつくように腕の周囲を飛んでひたすら斬りつけ、ミカエルのナノラミネートコートを斬り裂いて奥のフレームをすら切断。ミカエルの右腕は粉砕し、破片が四散した。

 続いてバエルはミカエルの懐に飛び込み、二本の剣を腹部圧縮ビーム砲に刺し込む。そこから斬り開いてビーム砲を無力化し、機体を回転させて全力で蹴りつけ、ミカエルの巨体を吹っ飛ばして地面に叩き落とす。

 

 しかし、ミカエルは地面に落ちる寸前、空中のバエルに向けて翼部の拡散ビーム砲を斉射。地面を転がりながらもワイヤーブレードを駆動させ、バエルを襲う。

 飛来するビームを剣で斬り捨てながら、バエルはワイヤーブレードをもいなし、ミカエルに再度の突撃をかける。

 

   ――開発完了。即時射出、迎撃。

 

 ミカエルはブレード・ビットを再生産し、先程より性能の向上した五十基の全てをバエルに差し向ける。バエルはブレード・ビットを剣で弾きつつ接近を続けるも、流石に二本の剣では五十基のブレードを全て弾くのは不可能。致命傷となり得る攻撃だけを防ぎつつ、本体への攻撃を優先するやり方に切り替えた。

 

「チッ――!」

 

 右肩の装甲が斬り飛ばされ、脚部に複数の斬撃を受ける。スラスターウィングと両腕さえ動けば、ミカエルを殺すには充分――だが、敵の攻撃の手が流石に多すぎる。

 防がねばまずい攻撃を防ぐ為、バエルの突撃する勢いはほぼ殺されてしまった。足を止められるのは非常にまずい展開だ、そうすればアレが来る――!

 

   ―――ダインスレイヴ、照準。

 

 ミカエルの翼に仕込まれる、特製の魔剣(ダインスレイヴ)。万が一にでも直撃を受ければ、文字通り粉砕される。ナノラミネートコート持ちの機体すらそうなるだろうと言うのに、ナノラミネートアーマーしか持たないバエルがどうなるか、など言うまでもない。

 しかし、ダインスレイヴが射出される直前――ミカエルは照準方向を変え、突如として地上に向けて撃ち放った。

 

「―――ッ!」

 

 そればかりか、バエルに群がっていたブレード・ビットの幾つかも、地上に向かって行く。

 ダインスレイヴが地面にクレーターを穿ち、ブレード・ビットが縦横無尽に駆け回る死地――だが、彼らは何の逡巡も無く、そこに飛び込んで来た。

 

「行けるぞ!!! 全機、死ぬ気でかかれ!!!」

 

 ヘイムダルのガンダム・フレームは、バエル一機ではない。アグニカ・カイエルは、一人で戦っているのではない。

 地上では、肩を並べる仲間達が、一斉にミカエルへと突撃を仕掛けていた。

 

   ―――確定、全機撃滅。

 

 ブレード・ビットが飛び交い、ダインスレイヴが更に放たれる。全機が「覚醒」しているとは言っても、その飽和攻撃をくぐり抜けるのはあまりに至難の業だ。

 ダインスレイヴの直撃を受けたエドゥアルダ・デヴリンの「ガンダム・ハルファス」が爆散し、ブレード・ビットを避けきれなかったレスリー・ホルブルックの「ガンダム・ナベリウス」は全身をバラバラにされ、コクピットを貫かれた。

 

「うおおッ!」

 

 しかし、一方でバエルが群がって来たブレード・ビットの全てを叩き落とし、ワイヤーブレードも避けてミカエルに接近して、先程貫いて破壊した頭部を斬り落とした。続けて切断面に剣を刺し込もうとするも、ワイヤーブレードの妨害で押し返される。跳ね返されながらの悔し紛れの電磁砲の射撃が、切断面に運良く当たり、内部を更に損傷させた。

 

「フンッ!」

「ぬああっ!」

 

 また、太刀を構えるカロム・イシューの「ガンダム・パイモン」と大剣を持つドワーム・エリオンの「ガンダム・ベリアル」がミカエルの背後に回り込み、それぞれ右と左から翼へと斬りかかる。一基ずつワイヤーブレードを差し向けられたが、パイモンは左肩を貫かれつつもブレードとワイヤーの接続部を切断し、ベリアルは大剣を打ち砕かれながらも、その内部に仕込まれた黄金の長剣を以てブレードを砕き返した。

 

「行けッ!」

「仇を!」

 

 その二機と入れ替わるように、フェンリス・ファリドの「ガンダム・アスモデウス」とクリウス・ボードウィンの「ガンダム・キマリストルーパー」がミカエルに飛びかかる。

 向かって来るワイヤーブレードに対し、それぞれ槍を投擲して相殺させられた。それでも、アスモデウスは両腕のカギ爪で、キマリスは左手に持つシールドの裏から引き抜いたサーベルで、ワイヤーブレードを破壊してみせる。

 

「くたばれ!」

「撃たせるか……!」

 

 ディアス・バクラザンの「ガンダム・ヴィネ」が四本の剣を、ミズガルズ・ファルクの「ガンダム・アモン」が巨大なハンマーを、それぞれミカエルの翼部拡散ビーム砲に叩き込んだ。

 

「裁きを受けろ!」

 

 そして、ケニング・クジャンの「ガンダム・プルソン」は、右手のナックルで思い切りミカエルの左腕を殴りつけた。右腕をバエルに輪切りにされ、左腕一本を支えとしていたミカエルは空中で回転し、態勢を崩される。

 バエルが参戦してからの攻防で、ミカエルは一気に頭部と腹部圧縮ビーム砲、右腕、翼部拡散ビーム砲にワイヤーブレードの四本を失った。そして、天地逆転状態にさせられたミカエルに、バエルはチャンスと見て接近して来ている。

 

   ―――最終手、実行。

 

 頭部を下側にされて空中に浮きながら、ミカエルは判断を下し――残されたダインスレイヴ弾頭の全てを、地面の一ヶ所に集中して撃ち放った。

 反動でミカエルは後方へと飛び、バエルの剣が空を斬る。地上に放たれたダインスレイヴは、複数が同じ箇所に突き刺さったコトも有って一際大きな衝撃と爆発を引き起こし、バリシア・オリファントの「ガンダム・ガミジン」が吹き上がった岩盤と衝撃波に呑まれて全身バラバラに吹っ飛ばされる。

 

 

 そして、更に次の瞬間。

 ダインスレイヴに穿たれたクレーターから、超高熱の赤いマグマが、勢い良く噴き出した。

 

 

 いや、その一ヶ所だけではない。

 連動するように、元から有った火口だけでなく、戦闘で出来た岩盤の割れ目などからも、次々とマグマが一斉に噴き出し始めたのである。

 

 そう。ハワイ島は、火山活動で出来た島。

 ミカエルが居座って戦場となったキラウエア火山は、毎日のように噴火活動が起こる、正真正銘の活火山だ。それだけでなく、ハワイ島の大半を形成するマウナロア火山も活火山。ダインスレイヴで大地にダメージを与えれば、それによりマグマも湧き出して来る。

 先制攻撃として行われた宇宙からのダインスレイヴによる砲撃と、ミカエルの超強力なダインスレイヴによって、ハワイ島の地形はメチャクチャになった。最早、どこから溶岩が湧いて来るか全く分からない状況になっている。

 

「―――ケニングッ!」

「何、うわっ!?」

 

 ミランダ・アリンガムの「ガンダム・マルバス」が、プルソンを蹴り飛ばし――直後、マルバスの足下が爆発し、溶岩が立ち昇った。溶岩に呑まれたマルバスは全身が溶解し、ブレード・ビットを受けて赤く茹だった海の中で倒れ込む。

 

「クソ、フザケた真似を!」

「逃がすか……!」

 

 ガンダム・フレーム達は、自身の足元から溶岩が噴き出さないコトを祈りながら、ミカエルを追撃する。ミカエルはダインスレイヴの反動で緊急回避を行った後、再び地面を転がり、元いたキラウエア火山のカルデラ湖まで舞い戻っていた。

 ミカエルも溶岩のシャワーを浴び、ナノラミネートコートに守られていない部分から溶け始めているが、それでも戦闘能力は残している。溶岩が噴き上がり、蓄えられた水から変わった湯気に覆われる巨大な火口を背にし、ミカエルはワイヤーブレードと残り少ないブレード・ビットを敵たる悪魔へと繰り出す。

 

「ミカエルの前方一キロ、溶岩が湧―――」

 

 自機の索敵能力で次なる溶岩の噴出場所を解析し、通信を飛ばしていた悠矢・スパークの「ガンダム・ヴァッサゴ」が、背後からのブレード・ビットにコクピットを貫かれる。その後、前方からもブレード・ビットを三基受け、ヴァッサゴは崩れ落ち――噴き出した溶岩に呑み込まれ、溶解した。

 

「やらせるか――!」

 

 トビー・メイの「ガンダム・アンドラス」が右腕を犠牲にワイヤーブレードを防ぎ、左手でワイヤーを掴んで捕縛し、ワイヤーの基部を握りつぶす。

 

「道を開けろ!」

 

 ブレード・ビットを双剣で弾き返し、ソロモン・カルネシエルの「ガンダム・オセ」は空中で四脚形態に変形。ワイヤーブレードにしがみついて四肢のネイルクローを突き立て、ブレード部分を破壊して道を開く。

 今、ミカエルを攻撃するコトが出来る機体は、大駕・コリンズの「ガンダム・グラシャラボラス」とアグニカ・カイエルの「ガンダム・バエル」のみ。

 

「ガあァアアアaaaarrrrrrrrr―――!!!』

 

 大駕は、完全に人間の言葉を失っていた。本能と直感のままに湧いて来る溶岩とブレード・ビットを避け、ミカエルの胴体に組み付いた。

 ミカエルはワイヤーブレードの三基を、グラシャラボラスに襲いかからせる。グラシャラボラスは両腕で胴体にしがみついている為、ブレードを防ぐコトが出来ず、全てをコクピットに受ける。

 

『rrrrraaaaaaaaa―――!!!』

 

 それでも、グラシャラボラスは止まらない。

 

 連続的な「覚醒」で、大駕は全身を悪魔に捧げ、一体化した。今更元の肉体が死した所で、大した問題ではない――今や、大駕・コリンズはグラシャラボラスそのものなのだ。

 狂気的な駆動音を鳴り響かせて、グラシャラボラスはミカエルの胴体装甲を引き剥がし、温存していたテイルブレードを装甲の隙間に刺し込む。そのブレードは、ミカエルを動かす中枢制御コンピューター部から一メートルも離れていない場所を横切り、深々と突き刺さった。

 

『garrrrrrrrrrrrrrr―――!!!』

 

 中身を掻き回せば、ミカエルは死ぬ。

 雄叫びを上げ、テイルブレードを動かそうとしたグラシャラボラスだったが――()()()()

 

 ミカエルの特殊機能「自己進化」。

 危機的状況に立たされながら、ミカエルはこの機能を応用し――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 ならば、と腕をテイルブレードを打ち込んだ装甲の隙間に刺し込むべく、グラシャラボラスは右手に手刀を作る。しかし、グラシャラボラスに突き立っていたワイヤーブレードの一基が動いて右腕を切断し、もう一基が左腕も同時に両断。グラシャラボラスはミカエルから引き剥がされ、残りの一基のワイヤーブレードに弾き飛ばされた。

 

「うおおおおおあああああああああ―――!!!」

 

 ミカエルがグラシャラボラスに対応する中、バエルはブレード・ビットによる被弾を無視し、ミカエルへと吶喊していた。

 ブレード・ビットはバエルの頭部を横側から貫き、スラスターウィングの右側を貫通し、腰部に突き刺さってシリンダーパイプと左脚の基部を破壊して、右脚の膝から下を千切り落としている。

 

   ―――残敵、一機。予測、攻撃……!

 

 グラシャラボラスを排除したミカエルは、残る四基のワイヤーブレードの全てをバエルの進路上に配置。バエルは左手の剣を水平に振って二本のワイヤーブレードを弾くが、残り二本はバエルの左胸に、深々と突き刺さる。コクピットブロックと胴体左側のエイハブ・リアクターの間に刺さったコトで、胴体の左半分と左腕、左側のスラスターウィングが、接続部を断ち切られて分断された。

 コクピットブロックの左側の壁が持って行かれ、パイロットであるアグニカも、左肘から先を引きちぎられた。――だが、元よりアグニカの左腕は、肩から義手に変わっている。大した問題ではない。

 

「ああああああああああああああああああ!!!」

 

 腰から上の左半身を無くしながらも、バエルの残りの右半身は全ての攻撃を突破し、ミカエルに突っ込む。そのアグニカの絶叫は、悲鳴のようでもあった。

 グラシャラボラスが、大駕・コリンズがその身を引き換えとして造った、胴体の損傷箇所――その一点を目掛けて、バエルは黄金の剣を突き刺した。

 

 

 ―――だが、それでも完全な破壊には至らない。

 

 

 寸前でミカエルは巨体を後ろへと反らせ、バエル・ソードの侵入角度を僅かにズラして、即死を回避したのである。ただ、突撃の勢いは殺せず、ミカエルの巨体は地面に叩きつけられたが――さしたる問題ではない。

 それでも中枢制御コンピューター部の半分は粉砕されたが、即死さえ避ければ充分だ。放った四基のワイヤーブレードで、バエルをバラバラに斬り裂くコトが出来る。コンピューターが半分逝こうと、それくらいの命令なら出すコトが可能だ。

 

   ―――人間。悪魔……脅威。

      否、破壊可能……実―――

 

 しかし、ミカエルがワイヤーブレードを制御しようとした瞬間―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ミカエルに敗因が有るとすれば――その巨体だ。

 バエルの突撃で、ミカエルは全身を背後の地面へと叩きつけた。溶岩で崩れやすくなっていた所に衝撃を受けて重さがかかったコトで、今まさに崩落したのである。

 

 ―――運が無かった、天に見放された……と評するのが、最も適しているだろうか。

 

 バエルは剣を引き抜き、ミカエルを蹴るとともに最後の推進剤を使って飛び上がり、離脱して行く。

 対して、ミカエルは噴き出す溶岩を浴びたコトで翼の裏のスラスターが変形し、飛行が出来なくなっていた。普段なら特殊機能でエイハブ・クラフトを習得するなり、スラスターを改修したりする所だが――重力に引かれ、溶岩を浴びながら火口へと落下するミカエルには、最早いずれも不可能だ。

 

 

 ミカエルが最期に認識したのは、空を覆っていくドス黒い雲と、それに隠される太陽の光だった―――

 

 

 

   ◇

 

 

 ミカエルが火口へと落下した直後、一際大きな噴火が発生し、溶岩と噴煙が空へと舞い上がった。空は噴煙と黒い雲に覆われ、火口の周辺では時折、雷が奔っている。

 ――その噴煙の中から、一機のMSが飛び出し、地面へと落下した。

 

「オイ、アレ……!」

 

 生き残ったパイロット達の注目は、その一点へと注がれる。――いや、彼らだけではない。今この瞬間、そこには全世界が注目していると言えよう。

 翼の片方と左腕、胴体から上の左半身を失った、純白の悪魔――それは地面に転がったまま、黄金の剣を握る右手を、高々と空へと掲げてみせた。

 あれだけの激戦を経てなお、折れるコトなく輝く黄金の剣が、溶岩の赤い光に照らされて天を突く。

 

 ――その威光は、悪魔の王が「四大天使」ミカエルを下したコトを証明していた。

 

 

『―――うおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 パイロット達が、勝鬨を上げる。歓声が世界中で響き渡り、大地を震わせた。

 

 勝った。

 ヘイムダルは、アグニカ・カイエルは、ガンダム・バエルは――「四大天使」ミカエルに、勝利したのだ。

 

 空を覆った黒雲から、ポツポツと雨が降り出し、そう時間の経たない間に土砂降りの雨へと変わる。雨は流れ出した溶岩に触れて蒸発し、戦場は白く霞がかって行く。

 暗い雨の下で、大破したバエルはゆっくりと、掲げていた剣を下ろす。

 

「……倒せた、んだな―――」

 

 仲間の声を、アグニカは霞む意識の中で聞いた。

 遠ざかって行く喧騒。歪み、閉じて行く視界。全身の感覚が薄れ、静寂の海へと沈む――いや、溶け込んで行くような。

 歪んだ装甲の合間から入って来る雨粒を受けながら、アグニカはぼんやりと、もう見るコトの無い笑顔を思い浮かべて―――

 

「なん、うわぁっ!?」

「どうした――何だってんだ!?」

 

 ―――狼狽した仲間の声で、自身を取り戻した。

 

 全身の痛み、特に擬似神経が接続されたまま切断された左腕の激痛が舞い戻る。アグニカは痛みに顔を歪めつつ、阿頼耶識を通じて周囲を見回す。

 

「止まれ、大駕! もう敵はいない! お前のおかげで倒せたんだ!」

「そうだよ、もう戦わなくて……ぐっ!?」

 

 ソロモンが制止し、トビーも続こうとするが、アンドラスは荒れ狂うテイルブレードに吹き飛ばされた。左腕が弾け飛び、アンドラスは地面に倒れる。

 その攻撃を行ったのは――大駕・コリンズが操縦していた、ガンダム・グラシャラボラスだ。

 

『rrrrrrrrrrraaaaaaaaaaaaaaa―――!!!』

 

 人のモノではない声が響き渡る。

 コクピットに「四大天使」ミカエルの攻撃を受けて、両腕も失われた漆黒の悪魔。とうに「覚醒」も終了し、動けなくなっているハズのグラシャラボラスは、今なお双眼を赤く輝かせ、テイルブレードを荒ぶらせながら駆け回っている。

 

「何が、起こってやがるんだ……!?」

「『覚醒』が終わらない――何故だ!?」

 

 凄まじい速度で空を切り、ガンダム・フレーム達に襲いかかるテイルブレードとグラシャラボラス。各機は満身創痍ながら辛くも防ぐが、パイロット達は困惑の方が大きい。

 そんな中、ソロモンが恐れを滲ませて呟いた。

 

 

「―――ガンダム・フレームの、()()だ」

 

 

 大駕・コリンズは既に死んでいる。コクピットを貫かれ、その肉体はもう残っていない。

 しかし、阿頼耶識は人機一体を実現させるシステムであり、大駕が死んだのは悪魔に何もかもを捧げて力を解放した後だった。その場合、肉体が死亡しパイロットの意識が消え失せても、機体が勝手に動く場合が有る。――正確には、機体に宿る「悪魔」が機体を動かし、戦闘を継続するのだ。

 

「……でも、大駕が敵と認識した敵はもういないのよ!? 止まらないとおかしいじゃない!」

「ああ、普通は止まるハズだ。――止まらないとしたら、それは『悪魔』の特性が問題なのだろう」

 

 グラシャラボラスは、殺戮の悪魔だ。

 元々パイロットへの負担が大きく、危険視されていた機体。殺戮に抵抗感の無い者、復讐者か快楽殺人者にしか使えないとまで言われていた。

 ――恐らく、目に入るモノの全てを殺し尽くすまで、グラシャラボラスが止まるコトは無いだろう。

 

「――大駕は死んだ。なら、破壊するしかない」

「でも、そんなコト……!」

 

 トビーの言葉は、仲間を殺すコトへの忌避感を表すだけでなく、もう一つ――「そんなコトが出来るのか」という意図も含まれている。

 ミカエルとの戦いを経て、五体満足な機体は一機も残されていない。「覚醒」中のガンダム・フレームの戦闘能力は極めて高く、万全の状態でも渡り合うコトは難しい。――グラシャラボラスも中破状態とは言え、止めるコトなど本当に出来るのか。

 

「……全員でかかれば、出来ないコトは無い」

「ああ――一機くらいは、あのテイルブレードにやられるかもしれないが、それは運だな」

「待って、破壊するなんて……!」

「――男なら覚悟を決めろ、トビー。大駕だって、オレ達を殺すコトは望んでないハズだ」

 

 全員がガタが来ている機体を動かして、武装を構えさせる。――もう武装が残っていない機体は、素手で行くしかないが。

 その時、グラシャラボラスが地面に倒れるバエルを視界に捉え、唸り声を上げながら飛びかかった。

 

『aaaaaaaaaarrrrrrrrrrrrrrrr――!』

「……まずい、バエルの方に向かって!」

「トビー!」

「―――ッ!」

 

 トビーも歯噛みし、アンドラスに長剣を構えさせる。そうして、一斉にガンダム・フレーム達が動き出そうとした――瞬間。

 

 

 寝転がったままのバエルが、右手に握っていた剣を突き上げ―――グラシャラボラスは、正面から胴体を貫かれた。

 

 

 コクピットを貫通し、テイルブレードの基部を的確に捉える一撃。

 これにより、グラシャラボラスの双眼の光は消滅し、荒れ狂っていたテイルブレードも停止し――その場で倒れ込み、グラシャラボラスは沈黙した。

 

「―――止まった、か……」

 

 それと同時に、バエルも停止する。

 アグニカもまた、急激に襲って来た眠気に逆らえずに意識を手放し、暗闇の中へと落ちて行く。

 

 

(俺は、一体……何の、為に―――)

 

 

 その一つの疑問を、胸に抱いたままで。




Episode.77「Never get it back」をご覧頂き、ありがとうございました。

……流れを踏まえて後書きを省いた前回、前々回も含めて色々言いたいコトは有るとお察ししますが、その辺りは感想として投げつけてくれれば、何かしらお返し出来ると思います(自然な誘導)
ともあれ、これで「四大天使」ミカエル戦は終結。
次回で第七章も終了になる予定です。


《新規機体》
ミカエル
・「四大天使」の中でも最強のモビルアーマー。
・特殊機能「自己進化」の他、本作初(どころか鉄血に無い)ビット兵器の持ち主。何もかもが反則で、作者も「コイツいつ死ぬんだ、いつまで戦うんだ」と思いながら書いていた。よく倒せたなコイツ……。

シェムハザ
・後期型のMA。
・所謂「利用型」であり、MA「アザザエル」が蒐集した人間の脳と脊髄を中枢制御システムに組み込んだ特殊な子機「アーラ」を製造する機体。これ考えた人はとんだド外道だと思います。イカ()てるぜ。


《今回のまとめ》
・「覚醒」するとバエルは最強という設定です
・最期は天に見放された熾天使ミカエル
・ガンダムはパイロットが死んでも動くコトが有る(これを「暴走」と言う)




次回「nothingness dream」
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