厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》 作:アグニ会幹部
サブタイの訳は「作戦会議」となります。
M.U.0051年、十二月二十五日――クリスマス。
地球衛星軌道上に集結を完了した、十国全軍とヘイムダルの合同艦隊は、その翌日に月を目指して出発した。
当然、一つの基地に全軍を集めるコトは出来ない。あまりにも数が多すぎるからだ。
然るに、地球衛星軌道上に存在する二基の元民間宇宙港「ユトランド」と、三基のサテライトベース「グラズヘイム」――五つの軍団に分かれて集結を済ませ、そこからそれぞれ出発して行く道で合流、全軍を戦場へと投入するコトになった。
かくして、真に作戦に参加する全軍が集結した時には、日付は二十九日の午前零時を回っていた。数ヶ月前の臨時十国会議で世界に宣言された「年内の作戦実行」はかなりギリギリとなったが、三十一日を超えるまではセーフである。
「―――さて」
ヘイムダルのリーダー、アグニカ・カイエルは、自らが母艦とし、本作戦の旗艦にもなるラファイエット級汎用戦艦「サロモニス」内のブリーフィングルームで、そう呟いた。
その一室には、アグニカの他にも複数の人間が集っている。これから始まる作戦会議の参加者達だ。
「揃ったのかしら? なら、
アメリア合衆国軍准将兼作戦時艦隊指揮官、パール・マコーマック。
「良いだろう! 始めたまえ!!」
ユーラシア連邦軍参謀本部長兼参謀本部直属「スヴィエート部隊」司令官、アーイスト・スヴィエート。
「相変わらずの声量だな、スヴィエート司令」
イングランド統合連合国第二王子兼連合国軍最高司令官、兼「ガンダム・カイム」専属パイロット、ヴィンス・ウォーロック。
「―――クソみてぇな噂通り、クソほどうるせぇですなァ……」
オセアニア連邦国軍総司令官、ヘーゼル・ブラッグ。
「そういうブラッグ司令こそ、荒い口調だという噂がまさか本当だったとは」
サハラ連邦共和国軍最高司令官、アミルカル・ジョップ。
「声のデカさも口の悪さも、些細な問題だろう。要は能力が全てだ」
アラビア王国第一王子兼王国軍最高司令官、兼「ガンダム・ストラス」専属パイロット、ラティーフ・ビン・ナーイフ。
「器がお広いですなぁ。流石は将来の国王」
中華連盟共和国軍参謀総長、
「全く――どこの人間も個性が豊かだな、はは!」
サンスクリット連邦共和国軍参謀長兼特務大将、アシミー・メヘラ。
「……それを貴女が言いますか?」
アフリカン共和国軍統合旅団長、ポーラ・アドキンズ。
「貴公ら、いい加減に本題に入るべきだろう?
我々は全人類の命運を懸けて戦わねばならない」
ラテンアメリア連邦共和国参謀本部司令官、トバイアス・ティンバーレイク。
「話を進めますが、よろしいですか?」
各軍の全権を預かる司令官達を前にし、アグニカは咳払いをしつつ確認を取る。何を当たり前のコトを聞いている、とでも言いたげな視線を全員が向けて来たコトを了承と受け止め、アグニカはブリーフィングルームの床面の液晶画面を点灯させる。
その画面に映し出されたのは、艦隊の現在位置と――目的地たる旧月面都市「ヴェルンヘル」の配置図だ。
「今回の作戦の目的は、言うまでもない。
マザーモビルアーマーたる『四大天使』ガブリエルの討伐―――だが、ガブリエルはヴェルンヘルを要塞化し、その最奥に立て籠もっている」
「で、他のMAがヴェルンヘルを防衛していると」
敵の数は不明だが――当然、数えるのもバカバカしいほどの数が待ち構えているだろう。
「ええ。ガブリエルを倒す為にはこの防衛網を突破し、要塞の中心部に乗り込む必要が有る。作戦の成否は、如何に敵の防衛網を打ち崩すか――この一点にのみかかっている、と言える」
アグニカはそう述べ、他の全員も頷く。
そして、ヴィンスがアグニカに質問を投げる。
「それで、ガブリエル自身も『四大天使』に相応しい戦闘力を備えているのだろ?」
「クソ親j――ディヤウス・カイエルの話では、建造当時は『天使長』より少し強い、程度の戦闘力だったそうだが……現在のガブリエルの装備がどんなモノかは不明だ。
まあ、あの要塞はガブリエルにとって庭のようなモノだろうから、幾重にもトラップや迎撃武装を用意しているであろうコトは予想がつくが」
何にせよ、ガブリエルは「フィフス・リアクターシステム」によって稼働しており、その最大出力はガンダム・フレームの数倍――下手すれば数十倍にもなる。戦闘が本分となる機体ではないが、決して油断出来ないというコトに間違いは無いだろう。
また、ガブリエル自身に加えて、懸案事項はいくつも存在している。
「ミカエルは新型のMAを何機も引き連れ、直属の機体も備えていたと聞く。今回もそれが出る可能性は有る、と考えるべきだ」
ラティーフの意見にも、全員が賛同する。
懸案事項、一つは「直属機」の存在。
「四大天使」は高性能な機体を引き連れており、ガブリエルも同じように、対ガンダム・フレームを想定した「直属機」を側に控えさせている可能性が高い。
そして、もう一つは新型の存在。
ミカエルは新型の捕獲型MA「アザザエル」と、利用型MA「シェムハザ」の二種を指揮し、戦場に投入して来た。同じように、未確認の新型機が姿を現す場合も想定しておかねばならない。
「して、現在のヴェルンヘルの構造はどうなっているのだ!?」
「アリアドネによる観測、解析の結果を元にして、こちらで組み上げたCGを出そう」
足元の図が変わり、CG画像が表示される。
旧ヴェルンヘルの中心部には、直径二百メートルほどの入口が造られており、普段は分厚いハッチに覆われている。その先に何が待つかは一切不明、侵入する為にはこのハッチをブチ破るコトが必要だ。
「ハッチの
「都市シェルターと同じだ。デタラメに分厚いが」
「ナノラミネートコートでないだけマシ、と言うコトですね」
パールの質問にアグニカが答え、ポーラが要約する。
ナノラミネートコートではないなら、破壊自体は難しくない。いや、難しいコトは難しいのだが、ナノラミネートコートだったらもれなく絶望だったので、ポーラの言う通り「まだマシ」と言う表現が的確だ。
「クソほど有るダインスレイヴを一斉射すれば、クソ硬ぇハッチくらいはクソみてぇに吹き飛ばせるだろうさ」
「それが当たれば、だが――まあ、絶対に当てさせてはくれないだろうな、はは!」
「左様。そう簡単に突破して乗り込めるほど、甘くはありますまい」
「もしそうなら、これだけの戦力を揃えた意味が無いからな。そうなるのが理想だが――勿論、奴らは全力で妨害してくるだろう」
ヘーゼル、アシミー、
何せ敵の本拠地だ。ガブリエルが撃破されれば全てが終わる以上、向こうも全戦力で待ち構えているハズである。防衛戦は敵の戦力の五分の一が有れば安牌だと言われるが、その程度の戦力が余裕で用意されていても不思議は無い。例え数で勝ろうとも、質が違う。ダインスレイヴや核などの戦略兵器で掃除出来なければ、人類側は不利に立たされる。
特に、持久戦になるのが最悪のパターンだ。理想は
「核とダインスレイヴの即ブッパ! かーらーの、ガンダム・フレーム一斉突入が理想だな! そうは思わないかね!?」
「――言い方は大いに気に入りませんが、確かにそれが理想でしょう。長引けば長引くほど、我々の勝機は薄くなり、犠牲を増やすコトになる」
「全体方針に異論は無いが――問題は、その即ブッパからの即突入、即撃破、即撤退をどう実現するかだな……」
ポーラが代表したように、アーイストの結論に異を唱える者はいないが――ラティーフの述べた通り、その理想を実現する為の最適解を、この場でひねり出さねばならない。
「最優先事項はガブリエル撃破。この一点に間違いは無いだろう。例え全機の殲滅が叶わずとも、ガブリエルさえ撃破してしまえば、後は終わりの見えた残党狩りだ」
「しかし、ガブリエルの
「――まあ、欲張るならそうなるな。作戦後に各地で軍を展開するだけの戦力が残る保証も無い」
トバイアスの言葉に対してパールが意見を語り、それにヴィンスが同意した。
実際の所、各国が全軍を動員したこの作戦には、相当な金と労力がかかっている。二度目は絶対に有り得ないし、敗退が赦されないこの作戦での戦力の損失度合いによっては、全世界的な軍の展開が不可能となる可能性は少なからず有る。
「撃破するまで撤退は赦されない――そして、人類が今後、これを上回る戦力を用意するコトは出来ない」
アグニカの言葉が、他の十人にも突き刺さる。
そう――「失敗」など有ってはならない。人類が持てる全ての戦力を投入する作戦である以上、これより条件が良くなるコトは有り得ない。
どれだけの損害を受け、壊滅状態に陥ったとしても――ガブリエルを撃破するまで、戦いは終わらないのである。
「ヘイムダル。お前達には、敵要塞内部に突入してのガブリエル撃破を担当してもらいたい。その為の道は、十国の合同艦隊が何としても切り開く。
――お前達が、この戦いに決着をつけて見せろ」
「……望む所だ。ヘイムダルは、その為に存在する組織なのだからな」
ラティーフが言い渡した言葉に、アグニカは決意を胸に返答する。口を挟まない以上、他の九人にも反対意見は無いようだ。
「しかし、困りましたな――李国家主席からは、戦後に世界を主導する為にも、ガブリエル撃破の手柄は我が国が得よ、と命令されたモノですが」
「――で、そのクソみてぇな命令は、クソ律儀に守らなくて良いのか?」
ヘーゼルの追及に対し、
「いやはや、戦場でそんなバカげたコトを言ってはおられますまい。何よりも優先されるべきは作戦の成功。兵たちの命も懸かっております。それに、中立のヘイムダルがやれば、十国間の関係に悪い影響は出ぬでしょう。
―――そういう皆様も、どうせ
最後の一言だけは、声のトーンがグッと低くなった。一転し、聞く者を強張らせる迫力を持った言葉――を受けながら、他の九人はほぼ同時に肩を竦めて、ため息を吐いていた。
「作戦の性質上、数の多い十国がザコの掃除にあたるのが最適解だからな。自国の手柄に拘るあまり、国民でもある部下達を無駄死にさせるなど出来ん」
「全く同意見だ。生死が問われる戦場に、政治の都合を押し付けられては困る。そんなコトではやってられんよ。それで万が一にでもしくじったなら、まさしく本末転倒。犠牲となった者たちも報われぬ」
ヴィンスとラティーフの言葉に対し、うんうん、と全員が強く頷く。
本国でぬくぬくしている
王国であるアラビアを除き、十国では民主主義を採用した近代国家として、軍には文民統制が採用されている。それは別に構わないが、実際に作戦を立てて実行するのは軍だ。作戦内容にまで口を出されてはたまったモノではない。何せ、現場の軍人達は皆等しく、命を懸けて戦うのだから。
十国の間には色々有るが、こうして合同艦隊を組んだ以上、背中を預け合わなければ、作戦の成功は有り得ない。余裕が有る訳でもないので、一番可能性の高い最良のやり方で挑む他に無い。
「―――作戦を詰める前に一つ、周知しておきたいコトが有ります」
その様子を見て、アグニカは口を開く。
そして、それまでは伝えるかどうか迷っていた、作戦に関わる
◇
お昼休み休憩を挟んでの作戦会議は、開始から約十時間を経て決着した。サロモニスに集っていた作戦指揮官達は、それぞれがランチで各国軍の旗艦へと戻って行った。
結局、作戦は電撃戦をメインプランとした。しかし、敵の戦力が未知数である以上、どれだけのイレギュラーが襲いかかって来るか分からない。あらゆる可能性を検討した結果、何十もの作戦プランを組み立てる羽目になったのである。
「ドワーム、いるか?」
作戦会議終了後、アグニカは艦のモビルスーツデッキに姿を見せるや否や、ドワーム・エリオンを呼びつけた。
「いるが――アグニカ、会議は終わったのか?」
ドワームはカロム・イシュー、フェンリス・ファリドの二人と何やら話していたらしい。アグニカに気付いたドワームが声をかけると、アグニカは三人の下に降りる。
「終わった。――だが、俺だけじゃなく、お前も出るべきだったかもしれねぇな」
「で、どうなったのよ?」
カロムの問いを受け、アグニカは手にしていた情報端末をドワームに向けて放り投げた。ドワームがそれをキャッチし、カロムとフェンリスと一緒に画面を覗き込む。
そして――ドワームは「なるほど」と呟いた。
「ここまで想定して、これだけのプランを半日で組み上げるとは――やはり、十国の軍を率いる者たちは侮れんと言うコトか」
「ドワーム。悪いが、ヘイムダルの指揮はお前に任せたい。俺はガブリエルの腹の中に突っ込まなきゃならねぇからな。その内容を把握して、状況を見ながら隊を動かしてほしい。多分、俺たちの中ではお前が適任だ」
「―――そう言うと思って、ベリアルの装備に通信機器を盛ったからな。無駄にならなかったようで何よりだ」
不敵な笑みを浮かべて、ドワームは頷いた。
「お前らもそれで良いか?」とアグニカはカロムとフェンリスに問おうとしたが、二人の様子から問うまでもないと判断し、口を開かずに終える。
「おやっさん、整備は終わったか?」
「バッッチリに決まってんだろうが! なァに、五徹もすればお安い御用ってな!」
アグニカに聞かれて答えたのは、ヘイムダルの整備チームのリーダーを務める男、ヴィシュヴァ・カルマンだ。
作業着を身に着け、だらしなく髭を生やす男の目元には、深い隈が刻まれている。五徹と言う言葉に嘘偽りは無いようである。
「―――元気だな、ヴィシュヴァ。俺はダメだ、もうジジイって訳だ……
「それはテメーの鍛え方が足りんからだぞ、ディヤウス! ワシとテメーに大した年齢差は無い!」
「いや、流石にお前がおかしいだろう……」
一方、ディヤウス・カイエルは改修を終えた「ガンダム・バエル」の足下で力無く漂っている。寝ていないせいかテンションがおかしくなっているヴィシュヴァとは相反して、もう二秒後には落ちていそうなノリである。MSデッキに重力がかかっていて、床に寝転がっていたなら、間違い無く寝ているだろう。死んだイカのようにMSデッキを漂う父親には目もくれず、アグニカは改修が終了したコトで僅かにシルエットが変化した愛機を見上げた。
「随分と時間がかかったな」
「アガレスの予備も合わせて、修理自体はそう手間じゃなかったんだが――追加武装が軒並み
バエルに関しては、パイロットであるアグニカの多忙も相まって、新システム周りの調整が大いに遅れた。追加武装の開発者であるディヤウスにしか最終調整が出来ないコトが、こうしてディヤウスが前線に出張っている理由だ。
なお、地球上のヴィーンゴールヴは、技術チームのリーダーであるリシャール・ワグネと、医療チームのリーダーであるダスラ・アシュヴィンに任されている。後顧の憂い無く、戦いに挑めるだろう。
「俺たちの方も抜かりはない!」
「ああ。露払いは任せてくれ、アグニカ」
ケニング・クジャンとクリウス・ボードウィンが意気込み、他の仲間たちも頷く。アグニカはそれに頷き返し、その場の者たちに向けて告げる。
「―――全員、休息は充分に取ってくれ。
今回の戦いは間違い無く、今までのどんな作戦よりも厳しいモノになる」
作戦開始はグリニッジ標準時の十二月三十一日、午後六時。理想的な作戦時間は三時間だが、持久戦になれば半日を越えるコトも覚悟しなければならない。失敗の赦されない作戦だ。
「だが、必ず我々は勝利しなければならない。それがヘイムダルの使命であり、存在意義だからだ。
勝って―――全員で、地球へ凱旋しよう。それが俺の、俺自身の個人的な願いだ。勝手に死んだら赦さん。誰も死なず、誰も死なせず……血を流し、流させるのも、これで最後にする。その為に、皆の力を貸してくれ」
『……おう!!!』
仲間の為に。人類の為に。未来の為に。
それぞれの決意と覚悟が、運命の針を回転させる―――
Episode.81「Strategy Meeting」をご覧頂き、ありがとうございました。
今回も準備回、と言うか前フリと言うべきか。
まさか最終決戦目前にもなって、新キャラがこんなに出るとは夢にも思ってなかった……。
《新規キャラクター》
ヘーゼル・ブラッグ
・オセアニア連邦国軍の総司令官。
・口が悪く、隙あらば「クソ」と言うのに、敬語を使ってない訳ではねぇ素敵なオバ様。ヘーゼルナッツが好きとか、多分そういうコトはない。
潘浩然(パン・ハオラン)
・中華連盟共和国軍の参謀総長。
・柔和な糸目のおじいちゃんだが、実際にはあらゆる武術と体術を極めた超人だったりもする。モチーフは「ワールドトリガー」のヴィザ翁。
アシミー・メヘラ
・サンスクリット連邦共和国軍の参謀長。
・常にふてぶてしく笑っており、語尾に必ず笑い声が付く。女性なのに、作者の脳内では男の声で喋っている。声が低いのかもしれない。
ポーラ・アドキンズ
・アフリカン共和国軍の統合旅団長。
・常に冷静で、感情の一切を表に出さない不気味さを持つ女性。口調は「Fate」シリーズのライダー(メドゥーサ)さんを意識しています。
トバイアス・ティンバーレイク
・ラテンアメリア連邦共和国軍の参謀本部司令官。
・声は間違い無く重低音だと思われる男。口調は「Fate」シリーズのセイバー(アルトリア)意識で、タメ口の時はセイバーオルタ。今回の新キャラの中では一番名前がカッコいい、と個人的には思う。
ヴィシュヴァ・カルマン
・ヘイムダル、整備チームのリーダー。
・前々から出そう出そうと思っていたものの機会が無く、八十一話目にしてようやく登場した、酷使されてる過労死枠のおやっさん。五徹くらいは余裕。
《今回のまとめ》
・十国のヤバい人たちが一同に介する異常事態
・アグニカはヤバい人たちに何を伝えたのか?
・バエルくんも最終決戦仕様に……!?
次回「Battle for the Future」