厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-《完結》   作:アグニ会幹部

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サブタイの訳は「膠着、見えない突破口」です。

戦場が広く展開して各軍のネームドが各地で並んで戦っているので、描写的にはコロコロ場所が変わって、かなり分かりづらくなってしまいました。
どうにかしようと思ったんですが、文章という表現メディアじゃ無理だったよ……申し訳有りません。
誰かアニメ化してくれ、視覚的になら一発だから(


#84 Stalemate, an Invisible Breakthrough

 人類種の趨勢をかけ開戦した「四大天使」ガブリエル討伐作戦は、ガブリエルの潜む要塞「天使の花園(ヘブンズフィア)」を守護する「四大天使」ラファエルの特殊機能「万物修復」により、考え得る限り最悪の展開となった。

 

 幾度となく破壊されながら、即時修復により戦線復帰し続ける新型のモビルアーマー。

 敵要塞への進入路を塞ぐラファエルのビーム・バリアーは、まさしく鉄壁の防御力を誇り。

 その発生を可能としている「ビーム・バリアービット」を防衛するは、堅牢極まるナノラミネートコートでその身を覆う「直属機」ラジエル。

 

 戦況は完全な膠着状態。数百にもなる敵MAの数は一向に減る気配が無く、人類側は戦力を擦り減らされていくだけ。当初は溢れていた体力と気力も、数時間にも及ぶ持久戦で底が見えつつあり、士気は高いとは言えない状況にある。

 

「このまま減らされれば膠着状態も崩れて、戦況は敵側(むこう)に傾くぞ――どうする、パール!」

 

 地球軍の大艦隊、その一角を形成するアメリア合衆国軍宇宙艦隊。数百ものMS部隊の前線指揮を任された「ガンダム・サブナック」のパイロット、サイラス・セクストン大佐は、弾幕を張るコトで旗艦の直衛を行いつつ、作戦指揮官に通信する。

 一方、当のアメリア軍艦隊旗艦「ワシントン」に乗る作戦指揮官パール・マコーマック准将は、手袋越しに爪を噛みつつ、半ばヤケクソに言い返す。

 

『どうにか出来るなら、とっくにやってるわ! (エネミー)がちっとも減りやがらないんだから、攻勢(アタック)に出られる訳が無いじゃない! 下手すれば挟み撃ち(ピン)されるわよ!』

「だが、このままではジリ貧だぞ!」

『……今はとにかく前線を維持(ステイ)して、損耗(ロス)を防ぐしか手は無いわ。ただ、ヘイムダルや他国軍が仕掛ける時は、私たちもリスク覚悟で攻めに行(アタッ)くしかない』

 

 サイラスとパールは、同時に歯噛みする。ひとまずは現状の維持をしつつ、いつでも攻勢に出られるように準備だけはしておく――しかないのだが、不死身の機械兵団相手に、起死回生の一手を打つタイミングが有るかどうか。

 そして、それは他国軍も、ヘイムダルも全く同じコトだ。攻めあぐねているこの状況を打開せねば勝機は無いが、下手に攻めれば敵集団のド真ん中で孤立させられ、擦り潰されて終いである。

 

『全く! ゾンビ兵団というモノが、これほど厄介な存在だったとは!! これはゾンビ映画に対する認識を改めねばならないな!! これまで「ゾンビなんて人型だし大して怖くねぇだろ」とか思っていて、すまなかった!! ゾンビは怖いな!!!』

 

 ユーラシア連邦軍艦隊旗艦「モスコー」の艦橋(ブリッジ)では、参謀本部司令官アーイスト・スヴィエートがそう叫んだ。すると、直属部隊「スヴィエート部隊」のMS隊隊長であり、「ガンダム・ヴァレファール」のパイロットたるイゴール・レヴォーヴィチ・プーシキン大佐が、即座に抗議する。

 

「無駄口叩いてる暇が有んなら、打開策の一つも考えろよ司令!」

『残念だが、現状我々に出来るコトは前線の維持と戦力の温存しかないな! 戦況を我々の手で変えるコトは出来ん! ですな、ヴィンス殿下!?』

「何故こっちに振ってくるんだ……認めたくはないものの、その意見には遺憾ながら同意するしかないのも確かだが」

 

 唐突に話を振られたのは、イングランド統合連合国軍最高司令官にして「ガンダム・カイム」のパイロット、ヴィンス・ウォーロック第二王子。第一の騎士である遼真・ウェルティが乗る「ガンダム・ゼパル」と背中を守り合いつつ、アーイストの言葉に嘆息と共に同意する。

 各軍入り乱れる乱戦状況が構築されている中、そのやり取りを傍目にしていたアラビア王国軍最高司令官兼「ガンダム・ストラス」のパイロットであるラティーフ・ビン・ナーイフ第一王子は、改めて戦場を俯瞰して、彼らしからぬ舌打ちをした。

 

「チ――戦況はヘイムダルの動き次第だが、流石に入口付近は守りが堅い。苦戦しているか」

「敵が復活してくるとなれば、突破も困難を極めるでしょう。『四大天使』ラファエルが守護しているならば、尚更のコト」

 

 その側で大太刀を振るうは、アフリカン共和国軍MS部隊指揮官を務めるアーヴィング・リーコック中佐の駆る「ガンダム・アンドレアルフス」。アラビアとアフリカンの艦隊が隣同士だった為、倒しても倒しても蘇ってくるMA群に対して損害を抑えるべく、連携して戦闘に当たっているという訳だ。

 

「全機、突っ込み過ぎるなよ! 我々が今やるべきは、戦力を温存しつつ前線を維持するコトだ!」

「――死なねぇ敵相手にやらなきゃならないのが、少々無謀な所ではあるけどな」

 

 乗機「ガンダム・グレモリー」を盾として前線を維持しつつ、サンスクリット連邦共和国軍のMS部隊隊長イシュメル・ナディラ中将は、自軍に対してこまめに指示を出す。

 オセアニア連邦国軍のアイトル・ウォーレン大佐は茶々を入れつつも、「ガンダム・ウヴァル」で戦場を飛び交い、同じように前線の維持を行う。

 

 そんな中、サンスクリットとオセアニアが艦隊を展開する宙域に、新たなガンダム・フレームが飛び込んだ。

 

「――援護する!」

 

 真紅の太刀を振るい、一機のMAをいとも容易く両断した後、スラスターユニットを展開して加速。グレモリーの背後に迫っていたMAを、勢い良く蹴り飛ばした。

 グレモリーと背中を合わせる形になったのは、ヘイムダルに所属する機体――「ガンダム・アスタロト」である。

 

「ヘイムダルだと……!? 何故ここにいる!?」

「恐ろしいが、戦闘が長引きそうだからな。中央には最低限の戦力だけ残して、残りは各軍を援護しつつ、指示を待てって命令だ。そんで、その命令(いつ)をアンタらに伝達するように、ってな」

 

 イシュメルの問いに、アスタロトを操るカサンドラ・ミラージはそう返答した。その答えに込められたヘイムダルの意図を悟り、アイトルも「なるほどな」と頷く。

 同じ頃、ラテンアメリア連邦共和国軍とサハラ連邦共和国軍の艦隊の下には、ウィルフレッド・ランドルの駆る「ガンダム・バティン」が合流した。

 

「損耗を避けつつ、攻勢の用意を!」

「ヘイムダルか!」

「――勝機が有ると言うのか?」

「必ず。機はやって来ます」

 

 自らもマドナッグ・フレームのMS「ミシャンドラ」に乗って前線に出て、MS部隊を率いるラーペ・グラン少将と、「ガンダム・シトリー」を駆るラッセル・クリーズ大佐の問いに、ウィルフレッドは確信を持って断言してみせる。

 また、中華連盟共和国軍艦隊のもとには、ヘイムダルが有する二機のヴァルキュリア・フレーム――シグルズ・ヴァーヴィンの「ブリュンヒルデ」とヴァルミウス・ローケイズの「ヴァルトラウテ」が、支援に訪れた。

 

「今は耐える時だ。カロム達が、絶対に膠着を覆してくれる」

「……つまり、信じておけと?」

「ええ。無駄死にはなされぬよう――!」

 

 MS機甲師団団長にして「ガンダム・フォルネウス」のパイロットである李子轩(リ・ズーシュエン)少将と連携し、遅滞戦闘に努める。

 

 

 ――実のところ、ヘイムダルが言う「機」が一体何なのか、事前の作戦会議の場で、各軍の作戦指揮官たちはアグニカ・カイエルから聞かされている。

 

 

 その「機」が訪れるその時まで、如何に疲弊を避け、戦力を温存するか。各軍の指揮官らの手腕が、何時間にも渡って問われ続けるコトになる―――

 

 

   ◇

 

 

 敵要塞への唯一の進入路たる、「四大天使」ラファエルが守るハッチ周辺で、アグニカ・カイエルの駆る「ガンダム・バエルバーデンド」を始めとするヘイムダルのガンダム・フレームは、無限に復活する新型MAとの持久戦を繰り広げていた。

 スラスターウィングに内蔵されたロケットランチャーを撃ち放ちながら後退するバエルに対し、人型のMA「マスティマ」が一機、ビーム砲を内蔵する剣を構え、突撃をかけて来る。向かって来る弾頭を斬り払いながら、バエルに急接近をし、マスティマは剣を振りかぶった。

 

「チッ―――!」

 

 対するバエルは機体を右回りに回転させ、左足の脚部ブレードで剣を持つマスティマの右腕を切断。一回転する直前で急制動をかけながら、左足でマスティマの胴体へと蹴りを放ち、膝側面に接続されたブレード・ファンネルを射出して、マスティマの中枢コンピューター部を貫く。そのままマスティマは後方へと吹き飛ばされ、月面に縫い付けられた。

 ラファエルの特殊機能「万物修復」が、マスティマの右腕と武器をナノマシンによって再構成するも――ブレード・ファンネルが引き抜かれずに在り続ける為、中枢コンピューター部を完全に再生出来ない様子だ。

 

「流石にこれなら完全修復はされねぇ、が――コスパが悪すぎるな」

 

 行動不能になったマスティマに突き刺さったままのブレード・ファンネルを、「四大天使」ガブリエルの直属機であるMA「メタトロン」が鞭を振って弾き飛ばす。ブレード・ファンネルが引き抜かれるや否や、マスティマの中枢コンピューター部が修復され、またも戦線に復帰した。

 弾かれて舞ったブレード・ファンネルが、制御用のエイハブ・スラスターを吹かせて再び機動し、メタトロンの鞭をかいくぐって本体の中枢コンピューター部を貫いた後、バエルの下へ帰還する。バエルはマスティマの剣を右腕部のシールドで防ぎ、押し出して弾くと同時に右手のバエル・ソードを突き出して中枢コンピューター部を貫く。間髪入れず、修復されて向かって来たメタトロンが振るうヒート・ウィップを、剣で貫いたままのマスティマを向けるコトで防御した。

 盾としたマスティマは粉砕させられるが、バエルはなおも剣に突き刺さる胴体の残骸をメタトロンに向けて、右足で蹴り飛ばす。メタトロンがそれをヒート・ウィップで粉砕するコトでガードした瞬間、バエルは左手のバエル・ソードを投擲。機械であるが故の凄まじい反応速度と、全身の装甲を捨ててバーニアに変えたコトによる高機動性を活かしてメタトロンはそれを回避するも、剣を投げると同時に肉薄していたバエルが右手の剣を振ったコトで、メタトロンは胴体を両断された。

 バエルはそのまま飛行して投擲した剣を左手で回収し、急速に反転して、二つに分かれたメタトロンの残骸に十字斬りを叩き込む。メタトロンはこれにより粉砕させられ、細かな残骸が四方八方へと散らばって行く。

 

「フン。しばらく寝とけ」

 

 アグニカはあくまでも冷徹に、そう吐き捨てる。

 

 「四大天使」ラファエルの特殊機能「万物修復」は厄介なんてレベルではない、非常に凶悪な代物だが――修復対象の損傷が大きければ大きいほど、その修復には時間を要する。形成しなければならない部品(パーツ)が多いからだ。

 また、MAの動力源となるエイハブ・リアクターを中心として修復が行われる為、それぞれの破片が再生されて数が増える、などという現象は起こり得ない。リアクターの近くに破片が有ればそれを再利用しつつ修復されるし、中枢コンピューター部だけが破壊されたのであれば、その部分だけを修復すれば良いので、短時間での戦線復帰を可能とさせるが――リアクターしか残らないほど、還付無きまでに破壊された場合には、修復時間がかなり長くなる。

 

「――俺は一旦補給に戻る、前線は任せるぞ。

 ドワーム、敵は出来るだけ細かく砕くよう、全軍に通信を頼む」

「安ずるな、今やり終えた所だ」

「助かる」

 

 バエルは転進し、母艦たるラファイエット級汎用戦艦「サロモニス」の下へ、高速で飛翔する。艦艇部に迫っていたMAを通りすがりに両断しつつ、バエルは艦後部のハッチから着艦した。

 

『推進剤の補充と全身のスラスターの確認、急げ! ファンネルの方もチェックしろ、全部三分で終わらすぞ!』

 

 バエルが着艦した瞬間、整備長のヴィシュヴァ・カルマンの一声で、待ち構えていた整備班が補給作業を開始した。

 アグニカはヘルメットのバイザーを上げ、網膜投影を中断してコクピットのモニターで戦況を確認し始めた。そして、全体の戦況を大体把握した所で、思わず舌打ちをする。

 

 各軍はよくやっている。開戦から三時間は経つと言うのに、不死身の機械兵団を相手にしながら、ヘイムダルも含め、全軍の戦力の損耗率は十パーセントを下回っているのだ。

 ――だが、このまま続けては、ジワジワと擦り潰されるだけである。

 ガブリエルの討伐の為には、何としても要塞へ侵入しなければならないが、進入路は未だに開かれていない。「四大天使」ラファエルの特殊機能と思しき修復機能の限界、弱点は見えて来たが、出来るコトは戦線復帰までの時間を遅らせるコトだけ。数が減らない以上、突出し過ぎれば挟み撃ちに遭う。

 

「突破は出来そうですか?」

「生憎と。敵は俺たちの配置、戦力を計算した上で群を配置している。遅滞戦闘に努めた所で、突撃をかけられるほどの隙は見い出せはしない」

 

 コクピットを覗き込んで来た、ディヤウス・カイエルの助手であるヨウィス・ピトリの問いに、神妙な面持ちでアグニカは返答する。ヨウィスはアグニカにサンドイッチとジュースを手渡し、コクピット内のモニターを一通り眺め、異常が無いコトを確認した。

 

「―――今、何時だ?」

「え? もうすぐ、日付を越える頃と思いますが」

「もうそろそろ、だと思うんだが……」

 

 アグニカの呟きを、ヨウィスは怪訝に思って眉を顰めた。一体何のコトか、とヨウィスが聞こうとした瞬間――バエルのモニターが、警告音を発する。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「―――これは……!?」

()()()―――!」

 

 ヨウィスが驚愕する中、アグニカは目を細める。そして、それと同時に、補給作業が完了した。

 

「これが最後だ。――ヨウィスさん、ハッチを閉めるぞ」

「あ、ああ……お気をつけて!」

 

 アグニカはサンドイッチの残りを口に詰め込んで飲み物で奥へと流し込み、ヨウィスに渡す。ヨウィスが離れるや否や、バエルのコクピットハッチが閉じられ、エアロックが閉鎖される。

 ヘルメットのバイザーを下ろすと同時に網膜投影を再スタートさせて、アグニカは直角スティック型の操縦桿を握り直す。そして、補給が完了したバエルを、サロモニスの後部ハッチから飛び立たせた。

 

 件の新たなエイハブ・ウェーブを放つモノが、ヘイムダル艦隊の後方から、追い抜かす勢いで最大戦速で向かって来る。

 其は、五隻からなる艦隊。

 四機のガンダム・フレームを先頭とし、MS隊が一斉に出撃して、十国の軍からなる人類軍の前線へと向かって行く。

 

「待たせたな、アグニカ!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 和弘・アルトランドの「ガンダム・グシオン」とシプリアノ・ザルムフォート大尉の「ガンダム・ダンタリオン」が、アグニカのバエルと並ぶ。その後ろには、レグロ・サッチ中佐の「ガンダム・エリゴール」と、金元・カーゾンの「ガンダム・マルコシアス」がつく。

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 部下たちが困惑と共に報告する中、十国の軍の作戦指揮官たちは不敵に笑い、それぞれが全く同じ命令を下した。同時に、アグニカが全軍に向けて通信を開き、叫ぶ。

 

 

「―――今しかない! 全軍、攻勢をかけるぞ!」

 

 

 これが「機」だ。火星防衛軍と言う名の増援の到着――それに合わせて全軍が攻勢に転じ、一気に攻め落とす。

 戦力を温存する遅滞戦闘、何時間にも渡る戦いは今、この瞬間の為に。守るのはもう終わりだ。

 

 戦局が変化する。運命が大きく動く。

 地球と火星の軋轢を越え――同じ人類として一丸となり、我らは踵を並べて天使を討つのである。

 

 

 決戦の時、来たれり。

 今こそ「神を癒やす者(ラファエル)」を堕とし、「神の人(ガブリエル)」の元へと至らん―――!




Episode.84「Stalemate, an Invisible Breakthrough」をご覧頂き、ありがとうございました。

完全なタイトル詐欺ですが、こういう裏切り方なら赦されるに違いないと確信しております。
増援として現れるは、火星防衛軍艦隊。
最後の一文が表す通り、ここまでは前哨戦――壮大な前フリと言っても過言ではございません。
最終決戦はここからが本番なのさ!


《今回のまとめ》
・四章で出て来た方々を思い出して頂ければ
・火星防衛軍、増援として出現
・ 一 転 攻 勢 




次回「All-Out War」
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